特許第5912922号(P5912922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912922
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20160414BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   C08J5/04CFB
   C08J5/24CFC
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-146419(P2012-146419)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-9280(P2014-9280A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】福田 欣弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆之
(72)【発明者】
【氏名】南 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】関根 尚之
(72)【発明者】
【氏名】中島 正憲
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−016121(JP,A)
【文献】 特開2006−233188(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/018674(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/122032(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/122033(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/122034(WO,A1)
【文献】 特表2010−513057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08−15/14
C08J 5/04−5/10,5/24
B32B 1/00−43/00
B29C 39/18
B29C 43/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグを複数積層して硬化させた、複数の強化繊維含有層と、各強化繊維含有層の層間領域に樹脂層とを備えた繊維強化複合材料であって、
前記樹脂層は、(A)分子中に式(1)で表されるベンゾオキサジン環を有する化合物と、
【化1】
(1)
(式中、R1は、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基を示す。また、式中の芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素原子が結合している。)
(B)エポキシ樹脂と、(C)硬化剤と、(D)靭性向上剤と、(E)ポリエーテルスルフォン粒子とを含む、樹脂組成物の硬化物からなり、
前記(A)成分と(B)成分の合計量を100質量%とした場合、(A)成分が70〜78質量%、(B)成分が22〜30質量%であり、
繊維強化複合材料の、モードI層間破壊靭性値GICが330J/m2以上、モードII層間破壊靭性値GIICが1100J/m2以上、衝撃後圧縮強度(CAI)が250MPa以上、且つ層間せん断強度(ILSS)が50MPa以上である繊維強化複合材料。
【請求項2】
(B)エポキシ樹脂が、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、芳香族系グリシジルエステル型エポキシ樹脂、芳香族系アミン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、又は脂環式エポキシ樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種のエポキシ樹脂である請求項1記載の繊維強化複合材料。
【請求項3】
(C)硬化剤が、芳香族アミン、単官能フェノール、多官能フェノール化合物、又はポリフェノール化合物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
(D)靭性向上剤が、無機微粒子、有機微粒子、あるいは無機微粒子及び/又は有機微粒子を液状樹脂あるいは樹脂モノマー中に分散させたものからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用途、鉄道車両用途、航空機用途、船舶用途、スポーツ用途、風車等の建築部材、その他一般産業用途に好適で、モードI層間破壊靭性値GIC及びモードII層間破壊靭性値GIICを同時に高次元で改善でき、しかも各種機械的強度も高次元で優れたものとすることが可能な、更なる軽量化が期待できる繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
各種繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、その優れた力学物性から、自動車、鉄道車両、航空機、船舶、スポーツ用品やその他一般産業用途などに広く使われている。
近年、その使用実績を積むに従い、繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がっている。
このような繊維強化複合材料として、ベンゾオキサジン環を有する化合物を利用したものが、例えば、特許文献1及び2に提案されている。該ベンゾオキサジン環を有する化合物は、優れた耐湿性及び耐熱性を有するが、靱性に劣る問題があり、エポキシ樹脂や各種樹脂微粒子等を配合してその欠点を補う工夫がなされている。
ところで、自動車、鉄道、航空機、船舶用途、スポーツ用途、風車等の建築部材、その他一般産業用途で必要とされる力学特性の中でも衝撃後圧縮強度(以下CAIと略す)、高温高湿時における層間剪断強度(以下ILSSと略す)及び層間破壊靱性等を高次元で同時に達成させることで、主要構造等に適用される繊維強化複合材料の更なる軽量化が望まれている。加えて、モードI層間破壊靭性値GIC及びモードII層間破壊靭性値GIICを同時に高レベル化する必要がある。しかし、上記特許文献に具体的に記載された例では、必ずしもこれらが高次元で同時に達成できるとは言えない。
上記力学特性を向上させる技術として、例えば、特許文献3には、CAIを向上させる目的で、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂にポリアミド12微粒子を配合する技術が開示されている。
このような技術を利用した繊維強化複合材料は、CAIをある程度高く維持することは可能であるが、高温高湿時におけるILSSを両立させるには至っていない。
特許文献4には、CAI及びILSSを高レベルで両立させることが可能な炭素繊維複合材料として、特定のポリアミド微粒子を含む樹脂層と炭素繊維含有層とが交互に積層した積層体構造を有する複合材料が記載されている。
しかし、この文献では、ベンゾオキサジン環を有する化合物を用いた積層体構造を有する複合材料については具体的に記載されておらず、ベンゾオキサジン環を有する化合物の優れた特性が得られ難い。
また、移動体用途においては、走行中における衝突や、整備等における工具の落下衝撃に起因する、繊維強化複合材料における層間剥離が生じ易いため、上記モードI層間破壊靭性値GIC及びモードII層間破壊靭性値GIICの両者を同時に高レベルで改善しうる材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−16121号公報
【特許文献2】特開2010−13636号公報
【特許文献3】特開2009−286895号公報
【特許文献4】特開2009−221460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、CAI及びILSS等の力学的特性を高レベルで備え、しかもモードI層間破壊靭性値GIC及びモードII層間破壊靭性値GIICの両者を同時に高レベルで改善しうる繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、複数の強化繊維含有層と、特定のベンゾオキサジン環を有する化合物を含む組成物により形成される樹脂層とが積層した積層体構造を有する複合材料の製造を試みた。その結果、該組成物の原材料として、特定のベンゾオキサジン環を有する化合物とエポキシ樹脂とナイロン12粒子とを用いた場合、所望の積層体構造が得られ難く、目的とする層間破壊靱性値や機械的強度等の更なる改善への期待が少ないことがわかった。そこで、添加する熱可塑性粒子につき種々検討することで、積層体構造を得ることができ、所望の効果が達成しうることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明によれば、プリプレグを複数積層して硬化させた、複数の強化繊維含有層と、各強化繊維含有層の層間領域に樹脂層とを備えた繊維強化複合材料であって、
前記樹脂層は、(A)分子中に式(1)で表されるベンゾオキサジン環を有する化合物と、
【化1】
(式中、R1は、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基を示す。また、式中の芳香環の酸素原子が結合している炭素原子のオルト位とパラ位の少なくとも一方の炭素原子には水素原子が結合している。)
(B)エポキシ樹脂と、(C)硬化剤と、(D)靭性向上剤と、(E)ポリエーテルスルフォン粒子とを含む、樹脂組成物の硬化物からなり、前記(A)成分と(B)成分の合計量を100質量%とした場合、(A)成分が70〜78質量%、(B)成分が22〜30質量%であり、繊維強化複合材料の、モードI層間破壊靭性値GICが330J/m2以上、モードII層間破壊靭性値GIICが1100J/m2以上、衝撃後圧縮強度(CAI)が250MPa以上、且つ層間せん断強度(ILSS)が50MPa以上である繊維強化複合材料が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維含有層と、上記樹脂組成物の硬化物からなる樹脂層とが積層体構造を有するので、CAI及びILSS等の力学的特性を高レベルで備え、しかもモードI層間破壊靭性値GIC及びモードII層間破壊靭性値GIICの両者を同時に高レベルで改善しうる。従って、本発明の繊維強化複合材料は、自動車用途、鉄道車両用途、航空機用途、船舶用途、スポーツ用途、風車等の建築部材、その他一般産業用途に好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の繊維強化複合材料(以下、本発明の複合材料と略すことがある)は、プリプレグを複数積層して硬化させた、複数の強化繊維含有層と、各強化繊維含有層の層間領域に特定樹脂組成物を硬化させた樹脂層とを備え、モードI層間破壊靭性値GIC及びモードII層間破壊靭性値GIICが特定値以上を示すことを特徴とする。
本発明の複合材料において、上記GICは、330J/m2以上、好ましくは450J/m2以上、特に好ましくは550J/m2以上である。その上限値は特に限定されないが800J/m2程度である。また、上記GIICは1100J/m2以上、好ましくは1250J/m2以上、特に好ましくは1500J/m2以上である。その上限値は特に限定されないが3000J/m2程度である。上記GIC及び上記GIICの一方でも上記下限値に満たない場合には、高レベルにおける層間剥離抑制効果が得られず、複合材料の軽量化等が困難になる恐れがある。このような層間破壊靱性値は、本発明の複合材料が、積層体構造により構成され、且つ樹脂層が特定の樹脂組成物の硬化物により構成されていることに起因するものと推測される。
【0009】
本発明において、前記強化繊維含有層と樹脂層とを有する積層構造の確認は、デジタルマイクロスコープにより積層体の断面写真を撮影することにより行うことができる。
本発明の複合材料において、前記各強化繊維含有層の厚さは、通常90〜140μm、好ましくは95〜135μmであり、前記各樹脂層の厚さは、通常10〜60μm、好ましくは15〜55μmである。ここで樹脂層の厚さは、強化繊維が存在していない領域の厚さであって、樹脂層の両側の強化繊維含有層内における強化繊維のうち、最も樹脂層に近い側に存在する強化繊維の外表面同士の間隔とした。
【0010】
本発明の複合材料は、例えば、特定の樹脂組成物と強化繊維とを含む原材料を用いて、公知の方法によりプリプレグを調製し、該プリプレグを積層して、後述する条件等により硬化させる方法等により製造することができる。
本発明の複合材料に用いる上記特定の樹脂組成物は、(A)分子中に上記式(1)で表されるベンゾオキサジン環を有する化合物、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤、(D)靭性向上剤及び(E)ポリエーテルスルフォン粒子を含む。
【0011】
前記樹脂組成物に用いる(A)成分は、上記式(1)で表されるベンゾオキサジン環を有する化合物である。
式(1)において、R1は、炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、フェニル基、又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基を示す。
炭素数1〜12の鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
炭素数3〜8の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
炭素数1〜12の鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたフェニル基としては、例えば、フェニル基、o−メチルフェニル基、m−メチルフェニル基、p−メチルフェニル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、o−t−ブチルフェニル基、m−t−ブチルフェニル基、p−t−ブチルフェニル基、o−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基が挙げられる。
1としては、上記例示の中でも、良好な取り扱い性を与えることから、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、o−メチルフェニル基が好ましい。
【0012】
(A)成分のベンゾオキサジン樹脂としては、例えば、以下の式で表されるモノマー、該モノマーが数分子重合したオリゴマー、これらモノマーとは異なる構造を有するベンゾオキサジン環を有する化合物とこれらモノマーの少なくとも1種との反応物が好ましく挙げられる。
【0013】
【化2】
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
【0016】
(A)成分は、ベンゾオキサジン環が開環重合することにより、フェノール樹脂と同様の骨格をつくるために、難燃性に優れる。また、その緻密な構造から、低吸水率や、高弾性率といった優れた機械特性が得られる。
【0017】
前記樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂である(B)成分は、組成物の粘度をコントロールし、また、組成物の硬化性を高める成分である。
(B)成分としては、例えば、アミン類、フェノール類、カルボン酸、分子内不飽和炭素等の化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。
【0018】
アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、キシレンジアミンのグリシジル化合物、トリグリシジルアミノフェノールや、グリシジルアニリンのそれぞれの位置異性体やアルキル基やハロゲンでの置換体が挙げられる。
以下、市販品を例示する場合、液状のものには、後述の動的粘弾性測定装置により得られる25℃における複素粘弾性率η*を粘度として記載している。
【0019】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、例えば、「スミエポキシ」(登録商標。以下同じ)ELM434(住友化学(株)製)、「アラルダイト」(登録商標、以下同じ)MY720、「アラルダイト」MY721、「アラルダイト」MY9512、「アラルダイト」MY9612、「アラルダイト」MY9634、「アラルダイト」MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、「jER」(登録商標、以下同じ)604(三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0020】
トリグリシジルアミノフェノールの市販品としては、例えば、「jER」630(粘度:750mPa・s)(三菱化学(株)製)、「アラルダイト」MY0500(粘度:3500mPa・s)、MY0510(粘度:600mPa・s)(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、ELM100(粘度:16000mPa・s)(住友化学製)が挙げられる。
グリシジルアニリン類の市販品としては、例えば、GAN(粘度:120mPa・s)、GOT(粘度:60mPa・s)(以上日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0021】
フェノールを前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂やそれぞれの各種異性体やアルキル基、ハロゲン置換体が挙げられる。
また、フェノールを前駆体とするエポキシ樹脂をウレタンやイソシアネートで変性したエポキシ樹脂も、このタイプに含まれる。
【0022】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」825(粘度:5000mPa・s)、「jER」826(粘度:8000mPa・s)、「jER」827(粘度:10000mPa・s)、「jER」828(粘度:13000mPa・s)、(以上三菱化学(株)製)、「エピクロン」(登録商標、以下同じ)850(粘度:13000mPa・s)(DIS(株)製)、「エポトート」(登録商標、以下同じ)YD−128(粘度:13000mPa・s)(新日鐵化学(株)製)、DER−331(粘度:13000mPa・s)、DER−332(粘度:5000mPa・s)(ダウケミカル社製)が挙げられる。
固形もしくは半固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」834、「jER」1001、「jER」1002、「jER」1003、「jER」1004、「jER」1004AF、「jER」1007、「jER」1009(以上三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0023】
液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」806(粘度:2000mPa・s)、「jER」807(粘度:3500mPa・s)、「jER」1750(粘度:1300mPa・s)、「jER」(以上三菱化学(株)製)、「エピクロン」830(粘度:3500mPa・s)(DIC(株)製)、「エポトート」YD−170(粘度:3500mPa・s)、「エポトート」YD−175(粘度:3500mPa・s)、(以上、新日鐵化学(株)製)が挙げられる。
固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、4004P、「jER」4007P、「jER」4009P(以上三菱化学(株)製)、「エポトート」YDF2001、「エポトート」YDF2004(以上新日鐵化学(株)製)が挙げられる。
【0024】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、例えば、EXA−1515(DIC(株)製)が挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」YX4000H、「jER」YX4000、「jER」YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0025】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」152、「jER」154(以上三菱化学(株)製)、「エピクロン」N−740、「エピクロン」N−770、「エピクロン」N−775(以上、DIC(株)製)が挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「エピクロン」N−660、「エピクロン」N−665、「エピクロン」N−670、「エピクロン」N−673、「エピクロン」N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0026】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「デナコール」(登録商標、以下同じ)EX−201(粘度:250mPa・s)(ナガセケムテックス(株)製)が挙げられる。
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「エピクロン」HP4032(DIC(株)製)、NC−7000、NC−7300(以上、日本化薬(株)製)が挙げられる。
トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、TMH−574(住友化学(株)製)が挙げられる。
【0027】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「エピクロン」HP7200、「エピクロン」HP7200L、「エピクロン」HP7200H(以上、DIC(株)製)、「Tactix」(登録商標)558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)が挙げられる。
ウレタンおよびイソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、オキサゾリドン環を有するAER4152(旭化成イーマテリアルズ(株)製)が挙げられる。
【0028】
カルボン酸を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸のグリシジル化合物や、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸のグリシジル化合物やそれぞれの各種異性体が挙げられる。
【0029】
フタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、例えば、「エポミック」(登録商標、以下同じ)R508(粘度:4000mPa・s)(三井化学(株)製)、「デナコール」EX−721(粘度:980mPa・s)(ナガセケムテックス(株)製)が挙げられる。
ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、例えば、「エポミック」R540(粘度:350mPa・s)(三井化学(株)製)、AK−601(粘度:300mPa・s)(日本化薬(株)製)が挙げられる。
ダイマー酸ジグリシジルエステルの市販品としては、例えば、「jER」871(粘度:650mPa・s)(三菱化学(株)製)、「エポトート」YD−171(粘度:650mPa・s)(新日鐵化学(株)製)が挙げられる。
【0030】
分子内不飽和炭素を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。
具体的には、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの市販品としては、例えば、「セロキサイド」(登録商標、以下同じ)2021P(粘度:250mPa・s)(ダイセル化学工業(株)製)、CY179(粘度:400mPa・s)(ハンツマン・アドバンスドマテリアルズ社製)、(3',4'−エポキシシクロヘキサン)オクチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの市販品としては、例えば、「セロキサイド」2081(粘度:100mPa・s)(ダイセル化学工業(株)製)、1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンの市販品としては、例えば、「セロキサイド」3000(粘度:20mPa・s)(ダイセル化学工業(株)製)が挙げられる。
【0031】
25℃で液状のエポキシ樹脂の25℃における粘度は、低ければ低いほどタックやドレープ性の観点から好ましく、エポキシ樹脂の市販品として得られる下限である5mPa・s以上20000mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上15000mPa・s以下がより好ましい。20000mPa・sを超えると、タックやドレープ性が低下することがある。
25℃で固形のエポキシ樹脂としては、芳香族含有量の高いエポキシ樹脂が難燃性を高めるために好ましく、例えば、ビフェニル骨格をもつエポキシ樹脂や、ナフタレン骨格をもつエポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0032】
前記樹脂組成物において、(A)成分及び(B)成分の好ましい含有割合は、これらの合計が100質量%となるように、通常(A)成分65〜78質量%、特に好ましくは70〜75質量%、及び通常(B)成分22〜35質量%、特に好ましくは25〜30質量%である。(A)成分の含有割合が65質量%未満、即ち、(B)成分の含有割合が35質量%を超える場合には、得られる強化繊維複合体のILSSが低下するおそれがあり、また樹脂硬化物のガラス転移温度が低下するおそれがある。
【0033】
前記樹脂組成物において(C)成分の硬化剤としては、例えば、ジエチルトルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシレンジアミン、これらの各種誘導体等の芳香族アミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等の脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等のカルボン酸無水物、アジピン酸ヒドラジド等のカルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、単官能フェノールやビスフェノールAのような多官能フェノール化合物、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ポリフェノール化合物、ポリメルカプタン、カルボン酸塩、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等のルイス酸錯体等の単独あるいは2以上の混合物が使用でき、なかでも芳香族アミン、スルホン酸エステル、単官能フェノールやビスフェノールAのような多官能フェノール化合物、ポリフェノール化合物の単独あるいは2以上の混合物が好ましい。
これら硬化剤は(A)成分のベンゾオキサジン環を有する化合物や(B)成分のエポキシ樹脂と反応することで、耐熱・耐湿性に優れる繊維強化複合材料を得ることができる。
【0034】
前記樹脂組成物において(C)成分の含有割合は、(A)成分+(B)成分100質量部に対して、通常5〜20質量部、好ましくは7〜15質量部である。5質量部未満では、硬化反応が遅いために、樹脂組成物全体の硬化度を上げるために、高温、長時間を要する。20質量部を超えると、硬化物のガラス転移温度等の機械物性が低下するおそれがある。
【0035】
前記樹脂組成物に用いる(D)靭性向上剤は、樹脂組成物に溶解する成分であって、有機微粒子、または有機微粒子を液状樹脂あるいは樹脂モノマー中に溶解させたものからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
ここで溶解とは、(D)成分の微粒子が組成物中に分散し、当該微粒子と組成物を構成する物質とが相互に親和性を有し、均一または混和した状態となっていることを意味する。
前記液状樹脂あるいは樹脂モノマーとしては、例えば、反応性エラストマー、ハイカーCTBN変性エポキシ樹脂、ハイカーCTB変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ニトリルゴム添加エポキシ樹脂、架橋アクリルゴム微粒子添加エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、熱可塑性エラストマー添加エポキシ樹脂が使用できる。
【0036】
前記有機微粒子としては、例えば、熱硬化性樹脂微粒子、熱可塑性樹脂微粒子またはこれらの混合物を用いることができる。
熱硬化性樹脂微粒子としては、例えば、エポキシ樹脂微粒子、フェノール樹脂微粒子、メラミン樹脂微粒子、ウレア樹脂微粒子、シリコーン樹脂微粒子、ウレタン樹脂微粒子またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0037】
熱可塑性樹脂微粒子としては、例えば、共重合ポリエステル樹脂微粒子、フェノキシ樹脂微粒子、ポリイミド樹脂微粒子、ポリアミド樹脂微粒子、アクリル系微粒子、ブタジエン−アクリロニトリル樹脂微粒子、スチレン系微粒子、オレフィン系微粒子、ナイロン系微粒子、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体またはこれらの混合物が挙げられる。
またアクリル系微粒子としては、メタクリル酸メチル・ブチルアクリレート・メタクリル酸メチルからなる共重合体として市販されている、Nanostrength M22(商品名、アルケマ社製)を利用することもできる。
コア/シェル型微粒子の市販されているものとして、スタフィロイドAC3355(商品名、ガンツ化成(株)製)、MX120(商品名、カネカ社製)等も利用することができる。
【0038】
アクリル系微粒子の製法としては、(1)モノマーの重合、(2)ポリマーの化学処理法、(3)ポリマーの機械的粉砕法などがあるが、(3)の方法では微細なものが得られず、形状が不定形なため好ましくない。
重合法としては、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、分散重合、シード重合、懸濁重合またはこれらを互いに併用した方法があり、粒径が微細で、一部架橋構造、コア/シェル構造、中空構造、極性構造(エポキシ基、カルボキシル基、水酸基など)を有する微粒子が得られる、乳化重合、シード重合が用いられる。
コア/シェル型微粒子の市販されているものとして、スタフィロイドAC3355(商品名、ガンツ化成(株)製)、F351(商品名、日本ゼオン社製)、クレハパラロイドEXL−2655(商品名、呉羽化学工業社製)、MX120(商品名、カネカ社製)等が挙げられる。
【0039】
前記樹脂組成物において(D)成分の含有割合は、好ましくは(A)成分+(B)成分100質量部に対して、3〜20質量部、特に好ましくは5〜15質量部である。3質量部未満では、樹脂組成物の靭性の改善効果が得られない恐れがあり、樹脂組成物硬化中にクラックが発生するおそれがある。20質量部を超える場合には、樹脂組成物の耐熱性が低下するおそれがある。
【0040】
前記樹脂組成物に用いる(E)成分のポリエーテルスルフォン粒子は、組成物中において粉末状態を維持しうる、好ましくはガラス転移温度が200℃以上のものが好ましく、特に、220〜250℃のものが望ましい。ここで、ガラス転移温度は示差熱量計(DSC)を用いて、JIS K7121に基づいて求めた中間点温度である。
(D)成分のポリエーテルスルフォン粒子としては、平均粒径1μm以上15μm未満、好ましくは5μm以上15μm未満であるポリエーテルスルフォン粒子(E1)、若しくは平均粒径15μm以上60μm以下、好ましくは15μm以上30μm以下であるポリエーテルスルフォン粒子(E2)とを分けて使用することが好ましい。このように、平均粒径により(E1)成分と(E2)成分とを分けている理由は、後述するこれら成分の含有割合を異なるように制御することで、本発明の所望の効果が得られ易くなるからである。
ここで、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて200〜500倍に拡大した粒子の任意に選択した100個の粒子について測定した、各粒子の長径の長さの平均値を意味する。
【0041】
(E)成分としては、市販品を用いることができ、例えば、「スミカエクセルPES5003P」(住友化学(株)製)、「Ultrason E 2020 P SR micro」(BASF製)が挙げられる。
(E)成分は、樹脂組成物の流動特性を低下させない点から球状粒子が好ましいが、非球状粒子でもよい。
【0042】
(E)成分として(E1)成分を用いる場合の該(E1)成分の含有割合は、好ましくは(A)成分+(B)成分100質量部に対して、20〜30質量部、特に好ましくは20〜25質量部である。20質量部未満では、CAIが低下する恐れがあり、30質量部を超える場合には、ILSSが低下するおそれがある。
(E)成分として(E2)成分を用いる場合の該(E2)成分の含有割合は、好ましくは(A)成分+(B)成分100質量部に対して、5質量部以上20質量部未満、好ましくは7〜18質量部である。5質量部未満では、CAIおよび靱性が低下する恐れがあり、20質量部以上ではILSSが低下するおそれがある。
【0043】
本発明の組成物には、その物性を損なわない範囲で、例えば、ナノカーボンや難燃剤、離型剤等を配合することができる。
ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレンやそれぞれの誘導体が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、赤燐、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホルフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ホウ酸エステルが挙げられる。
離型剤としては、例えば、シリコンオイル、ステアリン酸エステル、カルナウバワックスが挙げられる。
【0044】
前記樹脂組成物の混練方法は、特に限定されない。例えば、ニーダーやプラネタリーミキサー、2軸押出機などが用いられる。また、粒子成分の分散性の点から、予めホモミキサー、3本ロール、ボールミル、ビーズミルおよび超音波などで、粒子をベンゾオキサジン樹脂組成物中に配合する液状樹脂成分に拡散させておくことが好ましい。更に、マトリックス樹脂との混合時や、粒子の予備拡散時等には、必要に応じて加熱・冷却、加圧・減圧しても良い。保存安定性の観点から、混練後は、速やかに冷蔵・冷凍庫で保管することが好ましい。
【0045】
前記樹脂組成物の粘度は、タックやドレープ性の観点から、50℃において、10〜3000Pa・sが好ましい。より好ましくは10〜2500Pa・s、最も好ましくは100〜2000Pa・sである。10Pa・s未満では、樹脂組成物の沈み込みによるタックの経時変化が大きくなることがある。また、3000Pa・sを超えると、タックが弱くなり、また、ドレープ性も低下することがある。
【0046】
本発明の複合材料の製造に用いる強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維が好ましく挙げられる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わないが、より軽量で、より耐久性の高い成形品を得るために、炭素繊維や黒鉛繊維を用いるのが好ましい。
本発明においては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、耐衝撃性に優れ、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、強化繊維のストランド引張試験における引張弾性率は、150〜650GPaが好ましく、より好ましくは200〜550GPaであり、さらに好ましくは230〜500GPaである。
なお、ストランド引張試験とは、束状の強化繊維に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃の温度で35分間硬化させた後、JIS R7601(1986)に基づいて行う試験をいう。
【0047】
前記強化繊維の形態は特に限定されるものではなく、例えば、一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物、マット、ニット、組み紐、10mm未満の長さにチョップした短繊維等が挙げられる。
ここで、長繊維とは実質的に10mm以上連続な単繊維もしくは繊維束である。短繊維とは10mm未満の長さに切断された繊維束である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には強化繊維束が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
【0048】
本発明の複合材料を調製するためのプリプレグは、前記樹脂組成物を前記強化繊維に含浸させたものである。
含浸方法としては、例えば、前記樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)を挙げることができる。
ウェット法は、強化繊維を樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法であり、ホットメルト法は、加熱により低粘度化した樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、又は一旦樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側又は片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
ホットメルト法においては、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい。
【0049】
得られるプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量が70〜3000g/m2であることが好ましい。強化繊維量が70g/m2未満では、本発明の複合材料を成形する際に所定の厚みを得るため積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となる恐れがある。一方、強化繊維量が3000g/m2を超えると、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向にある。なお、プリプレグが平面もしくは単純な局面であれば、強化繊維量は3000g/m2を超えても良い。また、強化繊維の重量含有率は、好ましくは30〜90質量%であり、より好ましくは35〜85質量%であり、更に好ましくは40〜80質量%である。強化繊維の重量含有率が30質量%未満では、樹脂の量が多すぎて、比強度と比弾性率に優れる複合材料の利点が得られず、複合材料を成形する際、硬化時の発熱量が大きくなりすぎることがある。強化繊維の重量含有率が90質量%を超えると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料はボイドの多いものとなる恐れがある。
【0050】
前記プリプレグは、積層後、積層物に圧力を付与しながら樹脂を特定条件で加熱硬化させる方法等により、本発明の複合材料とすることができる。
前記加熱硬化条件は、例えば、180℃程度の温度で1〜5時間保持する条件で行うことができる。
【0051】
前記熱及び圧力を付与する方法には、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法が挙げられる。
ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、複合材料製の管状体を成形する方法であり、ゴルフシャフト、釣り竿等の棒状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定及び圧力付与のため、プリプレグの外側に熱可塑性フィルムからなるラッピングテープを捲回し、オーブン中で樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き取って管状体を得る方法である。
【0052】
内圧成型法は、熱可塑性樹脂製のチューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、成形する方法である。この方法は、ゴルフシャフト、バッド、テニスやバドミントン等のラケットの如き複雑な形状物を成形する際に好ましく用いられる。
【0053】
本発明の複合材料は、強化繊維の基材に直接、樹脂組成物を含浸させ硬化させることによっても得られる。例えば、強化繊維の基材および前記樹脂組成物からなるフィルムを積層し、該積層体を加熱・加圧する方法によっても製造できる。
前記樹脂組成物からなるフィルムとは、予め離型紙や離型フィルム上に所定量の樹脂組成物を均一な厚みで塗布したものを指す。ここで強化繊維の基材としては、一方向に引き揃えた長繊維、二方向織物、不織布、マット、ニット、組み紐等が挙げられる。
積層とは、単に強化繊維の基材を重ね合わせる場合のみならず、各種型やコア材に貼り付けてプリフォームする場合も含む。
コア材としては、フォームコアやハニカムコア等が好ましく用いられる。フォームコアとしては、ウレタンやポリイミドが好ましく用いられる。ハニカムコアとしては、アルミコアやガラスコア、アラミドコア等が好ましく用いられる。
【0054】
本発明の複合材料は、後述する実施例における条件で測定した、衝撃後圧縮強度(CAI)が、通常250MPa以上、好ましくは300MPa以上、層間せん断強度(ILSS)が、通常50MPa以上、好ましくは60MPa以上、モードI層間破壊靭性値GICが、通常330J/m2以上、好ましくは450J/m2以上、モードII層間破壊靭性値GII
Cが、通常1100J/m2以上、好ましくは1600J/m2以上である。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。各種物性の測定は次の方法によった。結果を表1及び表2に示す。
実施例1〜3、比較例1〜3
各実施例、比較例について、表1及び表2に示す割合で原料を混合し、樹脂組成物を得た。
なお、ここで用いた原料は以下に示す通りである。
(A)成分:ベンゾオキサジン樹脂
F−a(ビスフェノールF−アニリン型、四国化成(株)製)
P−a(フェノール−アニリン型、四国化成(株)製)
(B)成分:エポキシ樹脂
「セロキサイド」(登録商標)2021P(ダイセル化学工業(株)製)
ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(YD−128、新日鐵化学(株)製)
(C)成分:硬化剤
ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(東京化成(株)製)
(D)成分:靭性向上剤
Nanostrength (M22、アルケマ社製)
(E)成分:ポリエーテルスルフォン粒子
スミカエクセルPES5003P(住友化学(株)製)
Ultrason E 2020 P SR micro(BASF製)
ポリアミド12粒子
「VESTOSINT」(登録商標)2158(平均粒径20μmのポリアミド12、ダイセル・エボニック株式会社製)
「VESTOSINT」(登録商標)2159(平均粒径10μmのポリアミド12、ダイセル・エボニック株式会社製)
【0056】
<プリプレグタック性試験>
得られた樹脂組成物を用いて離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを得た。該樹脂フィルムを、一方向に引き揃えた炭素繊維の上下から供給して含浸し、プリプレグを作製した。このプリプレグの単位面積当たりの炭素繊維量は150g/m2、マトリックス樹脂量は67g/m2であった。
得られたプリプレグのタックを触感法で判定した。プリプレグ表面から離型紙を引き剥がした直後に指でプリプレグを押さえタックの程よいものを○、やや強すぎるもしくはやや弱いものを△、タックが強すぎて指から剥がれないものや全くタックがなく指につかないものを×とした。
【0057】
<CAIの測定>
得られたプリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]4s構成で、擬似等方的に32プライ積層し、オートクレーブにて、温度180℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、CFRPを得た。このCFRPについて、SACMA SRM 2R−94に従い、縦150mm×横100mmのサンプルを切り出し、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた
【0058】
<ILSSの測定>
得られたプリプレグを、0度方向に12層積層し、オートクレーブにて、温度180℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、CFRPを得た。このCFRPについて、ASTM D2402−07に従い、0度方向が13mm、幅方向が6.35mmの長方形に切り出し、ASTM D2402−07に従って、71℃の温水中に2週間浸漬し、充分に吸水させた後、82℃の環境下で層間剪断強度を測定した。
【0059】
<強化繊維含有層及び樹脂層の確認>
得られたプリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]4s構成で、擬似等方的に32プライ積層し、オートクレーブにて、温度180℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、CFRPを得た。このCFRPを切断し、切断面を研磨した。この切断面をマイクロスコープ((株)キーエンス社製)により、写真撮影した。写真より強化繊維含有層及び樹脂層を確認した。
【0060】
<層間破壊靱性GIC及びGIICの測定>
得られたプリプレグを、0度方向に26層積層し、オートクレーブにて、温度180℃、圧力0.6MPaで2時間加熱硬化し、CFRPを得た。このCFRPについて、JIS K7086に従い、0度方向が250mm、幅方向が25mmの長方形に切り出し、それぞれ測定した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1、表2より、ポリアミド12粒子を添加した場合に比べ、ポリエーテルスルフォン粒子を添加した方がCAI、ILSS、GICおよびGIICが高いことが分かった。