特許第5912948号(P5912948)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912948
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20160414BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20160414BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   F02D45/00 362P
   F02D45/00 362B
   F02D45/00 340H
   F02D29/02 DZHV
   F02D45/00 364B
   B60L11/14
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-156662(P2012-156662)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-20215(P2014-20215A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】武並 進
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠二
(72)【発明者】
【氏名】前川 仁之
(72)【発明者】
【氏名】渥美 善明
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−159389(JP,A)
【文献】 特開2005−351138(JP,A)
【文献】 特開2005−343458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 43/00−45/00
F02D 29/00−29/06
F02D 13/00−28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及び電動機を動力源として備える車両に搭載され、
前記内燃機関の回転角を検出する回転角検出手段と、
前記検出された回転角に基づいて、前記内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定手段と、
前記回転角検出手段に角度ずれが生じていることを検出する角度ずれ検出手段と、
前記角度ずれが検出された場合に、前記内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、前記回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び前記推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御を実行する制御実行手段と
を備え
前記角度ずれ検出手段は、
前記内燃機関の角加速度を用いて前記内燃機関が有する複数の気筒のトルクを気筒別に推定するトルク推定手段と、
前記電動機の角加速度を検出する電動機角加速度検出手段と、
前記内燃機関における複数の気筒間でのトルクばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きく、且つ前記電動機の角加速度のばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第1角度ずれ判定手段と
を備える
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第1角度ずれ判定手段により前記角度ずれが生じていると判定された場合に、前記複数の気筒のうち最もトルクが大きい気筒のトルクを算出した際の前記検出された回転角から所定の補正量を減算すると共に、前記複数の気筒のうち最もトルクが小さい気筒のトルクを算出した際の前記検出された回転角に前記所定の補正量を加算する回転角補正手段を備えることを特徴とする請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記回転角補正手段は、前記補正量の減算及び加算を行ったにもかかわらず前記第1角度ずれ判定手段により前記角度ずれが生じていると判定された場合に、前記補正量を所定値だけ大きくして再び前記補正量の減算及び加算を行うことを特徴とする請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記角度ずれ検出手段は、
前記回転角検出手段のパルス信号の極大値又は極小値の包絡線を決定する包絡線決定手段と、
前回計測時の前記包絡線と今回計測時の前記包絡線とを互いに比較して差分を算出する包絡線比較手段と、
前記包絡線の差分が所定の第3閾値よりも大きい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第2角度ずれ判定手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記角度ずれ検出手段は、
前記検出された回転角を用いて、前記回転角が所定角度変化するのに要した所要期間を算出する所要期間算出手段と、
前回計測時の前記所要期間と今回計測時の前記所要期間とを互いに比較して差分を算出する所要期間比較手段と、
前記所要期間の差分が所定の第4閾値よりも大きい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第3角度ずれ判定手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッド自動車等の車両に搭載される内燃機関を制御する内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関には、内燃機関のクランク軸の回転角を検出する回転角センサが設けられることがある。そして、回転角センサによる検出値の精度を高めるための方法として、検出値のずれ(即ち、検出値と実際の値との差)を補正する技術が知られている。例えば特許文献1では、回転角センサ信号の誤差を、モータリングが一定回転である場合に学習する装置が提案されている。
【0003】
回転角センサで検出された内燃機関の回転角は、例えば内燃機関の燃焼状態(具体的には失火等)を判定するために用いられる。内燃機関の燃焼状態を判定する際には、より正確な判定結果を得るために、様々な手法が用いられる。例えば特許文献2では、回転角センサの出力に基づいて失火を判定する装置において、ダンパの滑りが検出された際に失火の判定を無効とする技術が提案されている。また特許文献3では、複数の気筒間における機械的ばらつき及び燃焼ばらつきを夫々学習してから失火診断を行うという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−351138号公報
【特許文献2】特開2009−281189号公報
【特許文献3】特開平08−261130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者の研究するところによれば、回転角センサの一時的な取り外し、再組み付けを行った場合、センサ中心とセンサロータ中心とがずれてクリアランスが変化すること等に起因して、回転角の検出値にずれが生じ得ることが判明している。即ち、回転角センサは、取り外し前には正確な値を検出できる状態であったとしても、取り外し後(即ち、再び取付けた後)には正確な値を検出できない状態になってしまうおそれがある。
【0006】
しかしながら、特許文献1から3では、上述した取り外しに起因する検出値のずれについては何ら言及されていない。このため、特許文献1から3に記載の技術では、回転角センサを取り外すことで検出値にずれが生じたとしても、ずれが発生したことを検出することができない。或いは、仮にずれの発生を検出できたとしても、適切にずれを補正することができない。この結果、内燃機関の燃焼状態を正確に判定できなくなる等、回転角センサの検出値に基づく内燃機関の各種制御を適切に実行できなくなるという技術的問題点が生ずる。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、回転数センサの取り外しに起因して検出値にずれが生じた場合であっても、不適切な制御が実行されてしまうことを防止可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関の制御装置は、上記課題を解決するために、内燃機関及び電動機を動力源として備える車両に搭載され、前記内燃機関の回転角を検出する回転角検出手段と、前記検出された回転角に基づいて、前記内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定手段と、前記回転角検出手段に角度ずれが生じていることを検出する角度ずれ検出手段と、前記角度ずれが検出された場合に、前記内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、前記回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び前記推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御を実行する制御実行手段とを備え、前記角度ずれ検出手段は、前記内燃機関の角加速度を用いて前記内燃機関が有する複数の気筒のトルクを気筒別に推定するトルク推定手段と、前記電動機の角加速度を検出する電動機角加速度検出手段と、前記内燃機関における複数の気筒間でのトルクばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きく、且つ前記電動機の角加速度のばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第1角度ずれ判定手段とを備える
【0009】
本発明の内燃機関の制御装置が搭載される車両は、内燃機関及び電動機を動力源として備えたハイブリッド車両である。内燃機関は、例えば複数の気筒を有するガソリンエンジンとして構成されるが、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等については特に限定されない。また、電動機は、例えばモータ・ジェネレータとして構成され、遊星歯車機構等の各種ギヤを介して内燃機関の出力軸に連結されている。
【0010】
本発明の内燃機関の制御装置の動作時には、例えばクランク角センサ等を含んで構成される回転角検出手段によって、内燃機関の回転角が検出される。内燃機関の回転角が検出されると、燃焼状態推定手段によって、内燃機関の燃焼状態が推定される。燃焼状態推定手段は、例えば内燃機関における失火を判定するための閾値を記憶しており、検出された回転角と閾値とを比較することで、内燃機関が失火しているか否かを判定する。なお、燃焼状態の推定に用いられるパラメータは、内燃機関の回転角そのものであってもよいし、内燃機関の回転角から算出されるパラメータ(例えば、回転数の変動や所定角度の回転に要する時間等)であってもよい。
【0011】
ここで本発明では特に、上述した内燃機関の回転角の検出時には、角度ずれ検出手段によって、回転角検出手段における角度ずれの発生が監視されている。なお、ここでの「角度ずれ」とは、回転角検出手段において検出される回転角の値と実際の回転角の値との間に許容できない差が生じている状態を指しており、このような差は、例えば回転角検出手段に含まれるセンサを一時的に取り外したことによるクリアランスの変化等に起因して生じ得る。角度ずれ検出手段は、例えば回転角検出手段から出力される信号から直接的に角度ずれを検出してもよいし、内燃機関の回転数に依存している他のパラメータから間接的に角度ずれを検出してもよい。
【0012】
回転角検出手段における角度ずれが検出されると、制御実行手段によって、内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される。なお、ここでの「内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御」とは、燃焼状態推定手段による燃焼状態の推定を少なくとも一時的に停止させる制御である。また、「回転角検出手段の学習値のリセット制御」とは、回転角検出手段の検出値に対して適用される学習値(言い換えれば、補正値)を初期値にリセットする制御である。更に、「推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御」とは、燃焼状態推定手段によって推定された燃焼状態に基づく内燃機関における各種動作制御(例えば、燃料噴射制御等)を少なくとも一時的に停止させる制御である。
【0013】
ここで仮に、上述した各制御が実行されないとすると、回転角検出手段により検出された回転角の値が正確でないことに起因して、様々な不具合が発生してしまうおそれがある。例えば、誤った回転角が検出され続けるため、燃焼状態推定手段によって内燃機関の燃焼状態を正確に推定することができなくなる。更には、燃焼状態が正確に推定されないため、燃焼状態に基づく各種制御も適切に実行できなくなる。
【0014】
しかるに本発明では、上述したように、制御実行手段によって、内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される。これにより、上述した不具合の発生を好適に防止できる。具体的には、「内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御」を実行することで、内燃機関の燃焼状態が誤ったものとして推定されてしまうことを防止できる。また、「回転角検出手段の学習値のリセット制御」を行うことで、正確でない回転数が検出され続けることを防止できる。なお、この場合には、再度学習が実行される(即ち、適切な学習値が新たに算出される)ことが好ましい。更には、「推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御」が実行されることで、誤った燃焼状態が推定された場合であっても、燃焼状態に基づく不適切な制御が実行されてしまうことを防止できる。
【0015】
以上説明したように、本発明の内燃機関の制御装置によれば、回転角検出手段において検出される内燃機関の回転角に角度ずれが生じた場合であっても、不適切な制御が実行されてしまうことを防止可能である。
【0016】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記角度ずれ検出手段は、前記内燃機関の角加速度を用いて前記内燃機関が有する複数の気筒のトルクを気筒別に推定するトルク推定手段と、前記電動機の角加速度を検出する電動機角加速度検出手段と、前記内燃機関における複数の気筒間でのトルクばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きく、且つ前記電動機の角加速度のばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第1角度ずれ判定手段とを備える。
【0017】
この態様によれば、角度ずれ検出手段による角度ずれの検出動作時に、先ずトルク推定手段によって、内燃機関が有する複数の気筒のトルクが気筒別に推定される。気筒別のトルクは、内燃機関の角加速度を用いて推定される。一方、電動機角加速度検出手段では、電動機の角加速度が検出される。そして、第1角度ずれ判定手段では、検出された内燃機関のトルク及び電動機の角加速度を用いて、回転角検出手段に角度ずれが生じているか否かの判定が行われる。以下では、第1角度ずれ判定手段による角度ずれの判定について詳細に説明する。
【0018】
気筒別に検出されたトルクは、そのばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きいか否かが判定される。なお、ここでの「第1閾値」とは、回転角検出手段において角度ずれが発生しているか否かを判定するための一指標として設定されるものであり、推定されたトルクのばらつき幅が第1閾値より大きい場合には、回転角検出手段における角度ずれが発生している可能性があると判定される。
【0019】
より具体的には、回転角検出手段で検出される回転角に角度ずれが生じると、内燃機関の角加速度にもずれが生じ、その結果、内燃機関の角加速度を用いて推定されるトルクのばらつき幅も大きくなる。よって、トルクのばらつき幅が第1閾値より大きい場合には、回転角検出手段において角度ずれが生じている可能性がある。ただし、実際に気筒毎にトルクがばらついている可能性もあるため、内燃機関の推定トルクだけで確実に角度ずれが生じているとは言えない。
【0020】
他方で、検出された電動機の角加速度は、そのばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さいか否かが判定される。なお、ここでの「第2閾値」とは、気筒毎の推定トルクのばらつきが、回転角検出手段の角度ずれに起因するものであるか否かを判定するための閾値であり、電動機の角加速度のばらつき幅が第2閾値より小さい場合には、推定トルクのばらつきが角度ずれに起因しているものであると判定される。
【0021】
より具体的には、実際に内燃機関のトルクが気筒毎に大きくばらついたとすると、そのトルク変動が電動機にも伝達されるため、電動機の角加速度も大きくばらつく。よって、電動機の角加速度のばらつきが第2閾値よりも小さい場合、実際の内燃機関のトルクはばらついていない状態であると判定できる。そして、内燃機関のトルクのばらつきが第1閾値よりも大きく、且つ電動機の角加速度が第2閾値よりも小さい場合は、内燃機関のトルクは実際にばらついていないにもかかわらず、推定されるトルクが大きくばらついている状態であると言える。このため、推定されるトルクのばらつきは、実際のトルクのばらつきではなく、誤った回転角の検出に起因している(即ち、回転角検出手段において角度ずれが発生している)と判定できる。
【0022】
本態様では、上述したように、内燃機関の気筒毎のトルクのばらつき及び電動機の角加速度のばらつきに基づいて角度ずれの発生を検出できる。このため本態様では、内燃機関が燃焼している状態(即ち、ファイヤリング状態)であっても好適に角度ずれが検出できる。そして特に、ファイヤリング状態では、例えばモータリング状態と比較して内燃機関が高回転となるため、クランクシャフトの捩れ等に起因した角度ずれも発生し得る。よって、ファイヤリング状態であっても角度ずれが検出できる本態様は極めて有益であると言える。
【0023】
上述した角度ずれ検出手段が第1角度ずれ判定手段を備える態様では、前記第1角度ずれ判定手段により前記角度ずれが生じていると判定された場合に、前記複数の気筒のうち最もトルクが大きい気筒のトルクを算出した際の前記検出された回転角から所定の補正量を減算すると共に、前記複数の気筒のうち最もトルクが小さい気筒のトルクを算出した際の前記検出された回転角に前記所定の補正量を加算する回転角補正手段を備えるように構成してもよい。
【0024】
この場合、回転角検出手段において角度ずれが発生していると判定されると、複数の気筒のうち最もトルクが大きい気筒のトルクを算出した際の回転角から所定の補正量が減算される。また、複数の気筒のうち最もトルクが小さい気筒のトルクを算出した際の回転角に所定の補正量が加算される。なお、ここでの「補正量」は、回転角を微調整するのに適切な値として予め設定されている。
【0025】
ここで特に、気筒毎の推定トルクが大きく推定されるのは、内燃機関の角加速度が大きく算出されているからであり、検出される内燃機関の回転角が大きい方へとずれていることを示す。一方、気筒毎の推定トルクが小さく推定されるのは、内燃機関の角加速度が小さく算出されているからであり、検出される内燃機関の回転角が小さい方へとずれていることを示す。
【0026】
よって、上述したように、推定トルクが最も大きく算出された際の回転角から補正量を減算すると共に、推定トルクが最も小さく算出された際の回転角に補正量を加算すれば、複数の気筒間での推定トルクのばらつき幅は小さくなる。言い換えれば、回転角検出手段における角度ずれが小さくなる。従って、回転角検出手段で検出される値を正確な値に近づけることが可能となる。
【0027】
上述した補正量の減算及び加算を行う態様では、前記回転角補正手段は、前記補正量の減算及び加算を行ったにもかかわらず前記第1角度ずれ判定手段により前記角度ずれが生じていると判定された場合に、前記補正量を所定値だけ大きくして再び前記補正量の減算及び加算を行うように構成してもよい。
【0028】
このように構成すれば、回転角に対する減算及び加算に用いられる補正量は、角度ずれが解消したと判定されるまで、所定値ずつ段階的に大きくされる。なお、ここでの「所定値」は、補正量を適切な値へと段階的に近づけていくための値として予め設定されている。
【0029】
補正量を段階的に大きくしていくことで、一度の減算及び加算では角度ずれが解消されなかった場合(即ち、補正量が小さく十分に角度ずれを解消できない場合)であっても、二度、三度の処理によって確実に角度ずれを小さくしていくことができる。よって、このような処理を繰り返せば、最終的には確実に角度ずれを解消することができる。
【0030】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記角度ずれ検出手段は、前記回転角検出手段のパルス信号の極大値又は極小値の包絡線を決定する包絡線決定手段と、前回計測時の前記包絡線と今回計測時の前記包絡線とを互いに比較して差分を算出する包絡線比較手段と、前記包絡線の差分が所定の第3閾値よりも大きい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第2角度ずれ判定手段とを備える。
【0031】
この態様によれば、角度ずれ検出手段による角度ずれの検出動作時に、先ず包絡線決定手段によって、回転角検出手段のパルス信号の極大値又は極小値の包絡線が決定される。なお、ここでの「包絡線」とは、パルス信号の極大値又は極小値だけを結んでいくことで描かれる曲線である。決定された包絡線は、後述する比較の際に用いるため、一時的にメモリ等の記憶手段に記憶される。
【0032】
包絡線が決定されると、包絡線比較手段によって、前回計測時の包絡線と今回計測時の包絡線とが互いに比較され、その差分(即ち、前回計測時の包絡線と今回計測時の包絡線とのずれ幅)が算出される。なお、包絡線の差分は、位相差として算出されてもよいし、振幅の差として算出されてもよい。
【0033】
包絡線の差分が算出されると、第2角度ずれ判定手段によって、差分が所定の第3閾値よりも大きいか否かが判定される。ここでの「第3閾値」は、包絡線の差分から回転角検出手段の角度ずれを判定するために設定される値であり、包絡線の差分が第3閾値より大きい場合に角度ずれが発生していると判定される。
【0034】
本願発明者の研究するところによれば、回転角検出手段において角度ずれが発生すると、回転角検出手段のパルス信号における極大値及び極小値が大なり小なり変化することが判明している。よって、これら極大値及び極小値を結ぶ包絡線を前回計測時のものと比較することで、極大値及び極小値の変化を好適に検出し、角度ずれが発生しているか否かを判定できる。
【0035】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記角度ずれ検出手段は、前記検出された回転角を用いて、前記回転角が所定角度変化するのに要した所要期間を算出する所要期間算出手段と、前回計測時の前記所要期間と今回計測時の前記所要期間とを互いに比較して差分を算出する所要期間比較手段と、前記所要期間の差分が所定の第4閾値よりも大きい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第3角度ずれ判定手段とを備える。
【0036】
この態様によれば、角度ずれ検出手段による角度ずれの検出動作時に、先ず所要期間算出手段によって、内燃機関の回転角が所定角度変化するのに要した所要期間を算出する。なお、ここでの「所定角度」は、所要期間を算出するために適切な値として予め設定されている。算出された所要期間は、後述する比較の際に用いるため、一時的にメモリ等の記憶手段に記憶される。
【0037】
所要期間が算出されると、所要期間比較手段によって、前回計測時の所要期間と今回計測時の所要期間とが互いに比較され、その差分(即ち、前回計測時の所要期間と今回計測時の所要期間とのずれ幅)が算出される。
【0038】
所要期間の差分が算出されると、第3角度ずれ判定手段によって、差分が所定の第4閾値よりも大きいか否かが判定される。ここでの「第4閾値」は、所要期間の差分から回転角検出手段の角度ずれを判定するために設定される値であり、所要期間の差分が第4閾値より大きい場合に角度ずれが発生していると判定される。
【0039】
本願発明者の研究するところによれば、回転角検出手段において角度ずれが発生すると、回転角が所定角度変化するのに要する所要期間が少なくとも部分的に変化することが判明している。よって、これら所要期間を前回計測時のものと比較することで、好適に角度ずれが発生しているか否かを判定できる。
【0040】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施形態に係る車両の構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係るクランク角センサの構成を概略的に示した構成図である。
図3】クランク角センサ信号及びカム角センサ信号の一例である。
図4】第1実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図5】エンジン推定トルクの気筒別のばらつきを示す概念図である。
図6】エンジン推定トルクの気筒別のばらつき最大値及びMG1の角加速度のばらつきを示す概念図である。
図7】第1実施形態に係る内燃機関の制御装置による回転角の補正制御を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図9】クランク角センサ信号とその極大値の包絡線を示すグラフである。
図10】クランク角センサの取り外しに伴う包絡線の変動を示すグラフである。
図11】第3実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図12】クランク角センサの取り外しに伴う角度変化所要期間の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の内燃機関の制御装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0043】
<車両の構成>
先ず、本実施形態に係る制御装置100が搭載される車両1について、図1を参照して説明する。ここに、図1は、実施形態に係る車両の構成を示すブロック図である。尚、図1では、説明の便宜上、車両の詳細な構成部材については適宜省略し、直接関連のある構成部材のみを示している。
【0044】
図1において、車両1は、エンジン10、第1モータ・ジェネレータ(MG1)11、第2モータ・ジェネレータ(MG2)12、遊星歯車機構を有する動力分配機構13及びトーショナルダンパ14を備えて構成されている。尚、エンジン10は、本発明に係る「内燃機関」の一例であり、第1モータ・ジェネレータ11は、本発明に係る「電動機」の一例である。
【0045】
ちなみに、本実施形態に係るエンジン10は、図に示すように4つの気筒を有する4気筒エンジンであるが、該4気筒エンジンに限らず、例えば6気筒、8気筒、12気筒、16気筒等の各種エンジンであって構わない。
【0046】
エンジン10のクランクシャフト101は、トーショナルダンパ14を介して、動力分配機構13の複数のピニオンギヤ133を自転可能且つ公転可能に支持するキャリア134の回転軸としてのインプットシャフト131に接続されている。エンジン10には、該エンジン10のクランク角を検出するクランク角センサ31と、該エンジン10のカム角を検出するカム角センサ32とが設けられている。尚、クランク角センサ31は、本発明に係る「回転角検出手段」の一例である。
【0047】
ここで、クランク角センサ31の具体的な構成について、図2及び図3を参照して説明する。ここに、図2は、実施形態に係るクランク角センサの構成を概略的に示した構成図であり、図3は、クランク角センサ信号の一例である。
【0048】
図2において、クランクシャフト101には、図中の矢印方向に回転されるクランクロータ102が取り付けられている。クランクロータ102の外周には、クランク角検出用として、例えば10度CA毎の等しい角度間隔で形成された歯部102aと、2歯分連続して欠歯された欠歯部102bとが設けられている。
【0049】
クランク角センサ31は、各歯部102aに対向し、該歯部102aによりクランクシャフト101の回転角度を検出するセンサ部311と、該センサ部311からの出力信号を処理する信号処理部312とを備えて構成されている。センサ部311から出力されるクランク角センサ信号は、クランクシャフト101の回転位置が予め設定された特定位置でないときには、所定のクランク角(例えば10度CA)回転する期間を1周期としたパルス信号となり、クランクシャフト101が特定位置に来たときには、クランクシャフト101が、例えば30度CA回転する期間を1周期とした欠歯信号となる。該欠歯信号は、クランクシャフト101が1回転する毎(即ち、360度CA毎)に発生する。
【0050】
信号処理部312は、センサ部311からの出力信号(図3のクランク角センサ信号参照)を受信すると、クランク角センサ信号中における欠歯信号の検出動作を開始する。そして、信号処理部312は、クランク角センサ信号が欠歯信号になったことを最初に検出すると、以降、クランク角センサ信号を分周して、クランクシャフト101が30度回転する期間を1周期とした(即ち、クランクシャフト101が30度回転する毎に立ち上がる)パルス信号としての30度CA信号NE(図1参照)を生成し出力する。
【0051】
また、信号処理部312は、欠歯信号を検出してから30度CA信号NEの所定周期期間分の判定期間に、エンジン10のカム軸の回転に応じて、カム角センサ32から出力される気筒判別用信号(図3のカムセンサ信号参照)の立ち上がりが検出されると、判定期間の終了タイミングに基準位置信号Gを出力する。従って、該基準位置信号Gは、クランクシャフト101の回転位置が欠歯信号の発生する特定位置から所定周期分進んだ位置に来たときに立ち上がる。ENG−ECU22は、30度CA信号NE及び基準位置信号G等に基づいて、エンジン10の気筒の判別を行い、エンジン10を制御する。
【0052】
尚、本実施形態に係る基準位置信号Gは、カムシャフトが720度回転する期間を1周期とするパルス信号(即ち、720度CA信号)である。
【0053】
再び図1に戻り、動力分配機構13のサンギヤ132の回転軸は、第1モータ・ジェネレータ11に接続されている。動力分配機構13のリングギヤ135の回転軸は、第2モータ・ジェネレータ12に接続されている。動力分配機構13の動力出力ギヤ136は、チェーンベルト137を介して、動力伝達ギヤ(図示せず)に動力を伝達する。動力伝達ギヤに伝達された動力は、駆動軸及びデファレンシャルギヤ(図示せず)を介して、車両1の駆動輪(図示せず)に伝達される。
【0054】
第1モータ・ジェネレータ11には、該第1モータ・ジェネレータ11の回転数を検出するレゾルバ33が設けられている。第2モータ・ジェネレータ12には、該第2モータ・ジェネレータ12の回転数を検出するレゾルバ34が設けられている。
【0055】
車両1は、更に、エンジン10を統括制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)22(以下、適宜“ENG−ECU”と称する)、第1及び第2モータ・ジェネレータに係る各種制御を行うモータ・ジェネレータECU(以下、適宜“MG−ECU”)23、並びに、ENG−ECU22及びMG−ECU23に係る各種制御を行うハイブリッドECU21(以下、適宜“HV−ECU”と称する)を備えて構成されている。
【0056】
本実施形態では、ENG−ECU22及びMG−ECU23に、クランク角センサ31から出力される30度CA信号NE等が入力されることによって、ENG−ECU22及びMG−ECU23の同期性が確保されている。
【0057】
上述の如く構成された車両1では、例えばクランク角センサ31の一時的な取り外しによるクリアランスの変化やクランクシャフト101の捩れ等に起因して、クランク角センサ31で検出される回転角の値にずれが生ずる。本実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、このようなクランク角センサ31における角度ずれが発生した場合であっても、好適にエンジン10の制御を実行することができる。
【0058】
<制御装置の動作>
以下では、本実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作及び技術的効果について、3つの実施形態を挙げて説明する。
【0059】
<第1実施形態>
先ず、第1実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作について、図4から図6を参照して説明する。ここに図4は、第1実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。また図5は、エンジン推定トルクの気筒別のばらつきを示す概念図であり、図6は、エンジン推定トルクの気筒別のばらつき最大値及びMG1の角加速度のばらつきを示す概念図である。
【0060】
図4において、本実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作時には、先ずクランク角センサ31によりエンジン10の回転角が検出される(ステップS101)。なお、ここでの説明は省略するが、検出されたエンジン10の回転角は、エンジン10の燃焼状態(例えば、失火等)の判定及び判定された燃焼状態に基づく各種制御等に用いられる。
【0061】
本実施形態に係る内燃機関の制御装置では更に、レゾルバ33により第1モータ・ジェネレータ11の回転数が検出され、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度が検出される(ステップS102)。
【0062】
エンジン10の回転角及び第1モータ・ジェネレータ11の角加速度が検出されると、制御装置100により、エンジン10のトルクが気筒別に推定される(ステップS103)。エンジン10のトルクは、例えば以下の数式(1)を用いて算出できる。
【0063】
【数1】
エンジン10のトルクが気筒別に推定されると、推定トルクの気筒間でのばらつきの最大値が所定の第1閾値以上であるか否かが判定される(ステップS104)。なお、気筒間でのばらつきの最大値は、推定トルクが最大である気筒のトルク値と、推定トルクが最小である気筒のトルク値との差分として算出できる。
【0064】
図5において、例えば気筒#1〜#4の各々について図に示すようなトルクが推定されているとする。この場合には、推定トルクが最大である気筒#2のトルクと、推定トルクが最小である気筒#4のトルクとの差分が気筒間ばらつきの最大値となる。
【0065】
ここで特に、クランク角センサ31で検出される回転角に角度ずれが生じると、エンジン10の角加速度にもずれが生じ、その結果、エンジン10の角加速度を用いて推定されるトルクのばらつき幅も大きくなる。よって、推定トルクのばらつき幅が第1閾値より大きい場合には、クランク角センサ31において角度ずれが生じている可能性がある。ただし、実際に気筒毎にトルクがばらついている可能性もあるため、推定トルクだけで確実に角度ずれが生じているとは言えない。
【0066】
図4に戻り、推定トルクの気筒間ばらつきの最大値が第1閾値以上である場合(ステップS104:YES)、更に、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度のばらつきが所定の第2閾値以下であるか否かが判定される。
【0067】
ここで、実際にエンジン10のトルクが気筒毎に大きくばらついたとすると、そのトルク変動が第1モータ・ジェネレータ11にも伝達されるため、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度も大きくばらつく。よって、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度のばらつきが第2閾値よりも小さい場合、実際のエンジン10のトルクはばらついていない状態であると判定できる。そして、エンジン10のトルクのばらつきが第1閾値よりも大きく、且つ第1モータ・ジェネレータ11の角加速度が第2閾値よりも小さい場合は、エンジン10のトルクは実際にばらついていないにもかかわらず、推定されるトルクが大きくばらついている状態であると言える。このため、推定されるトルクのばらつきは、実際のトルクのばらつきではなく、誤った回転角の検出に起因している(即ち、角度ずれが発生している)と判定できる。
【0068】
図5において、エンジン10の推定トルクにばらつきが生じているとする。なお、エンジン10の推定トルクのばらつき最大値は、エンジン10の回転数が高くなるほど大きくなる傾向にある。このような場合、エンジン10のトルクが実際にばらついている場合と、実際にはばらついていない場合(即ち、推定トルクだけがばらついている場合)とでは、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度に明らかな違いが生ずる。具体的には、エンジン10のトルクが実際にばらついていない場合、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度は、エンジン10の回転数に関係なく極めて小さい値で推移する。一方で、エンジン10のトルクが実際にばらついている場合、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度は、エンジン10の回転数に関係なく比較的大きい値となる。よって、エンジン10のトルクが実際にばらついている場合の第1モータ・ジェネレータ11の角加速度と、実際にはばらついていない場合の第1モータ・ジェネレータ11の角加速度との間の値を第2閾値として設定すれば、好適にエンジン10のトルクが実際にばらついているか否かを判定できる。
【0069】
再び図4において、上述したように、第1モータ・ジェネレータ11の角加速度が第2閾値以下である場合(ステップS105:YES)、クランク角センサ31において角度ずれが発生していると判定され、燃焼状態推定禁止制御、クランク角センサ学習値リセット、及び推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される(ステップS106)。なお、推定トルクの気筒間ばらつきの最大値が第1閾値以上でない場合(ステップS104:NO)、或いは第1モータ・ジェネレータ11の角加速度が第2閾値以下でない場合(ステップS105:NO)は、クランク角センサ31において角度ずれが発生していないと判定され、上述した各制御は実行されない。
【0070】
ちなみに、燃焼状態の推定禁止制御によれば、正確でない回転角が検出されていることに起因して、エンジン10の燃焼状態が誤ったものとして推定されてしまうことを防止できる。また、クランク角センサ学習値をリセットすれば、正確でない回転数が検出され続けることを防止できる。更には、推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御によれば、誤った燃焼状態が推定された場合であっても、燃焼状態に基づく不適切な制御が実行されてしまうことを防止できる。
【0071】
上述した角制御が実行されると、続いてクランク角センサ31の補正制御が実行される(ステップS107)。以下では、この補正制御について、図7を参照して詳細に説明する。ここに図7は、第1実施形態に係る内燃機関の制御装置による回転角の補正制御を示すフローチャートである。
【0072】
図7において、クランク角センサ31の補正制御が開始されると、先ず気筒別の推定トルクが最大となった気筒(例えば、図5における気筒#2)のトルク算出期間における回転角から、所定の補正値kが減算される(ステップS201)。また、気筒別の推定トルクが最小となった気筒(例えば、図5における気筒#4)のトルク算出期間における回転角に、所定の補正値kが加算される(ステップS202)。
【0073】
ここで特に、気筒毎の推定トルクが大きく推定されるのは、エンジン10の角加速度が大きく算出されているからであり、検出されるエンジン10の回転角が大きい方へとずれていることを示す。一方、気筒毎の推定トルクが小さく推定されるのは、エンジン10の角加速度が小さく算出されているからであり、検出されるエンジン10の回転角が小さい方へとずれていることを示す。
【0074】
よって、上述したように、推定トルクが最も大きく算出された際の回転角から補正量kを減算すると共に、推定トルクが最も小さく算出された際の回転角に補正量kを加算すれば、複数の気筒間での推定トルクのばらつき幅は小さくなる。言い換えれば、クランク角センサ31における角度ずれが小さくなる。従って、クランク角センサ31で検出される値を正確な値に近づけることが可能となる。
【0075】
回転角に補正を行った後には、エンジン10のトルクが再び気筒別に推定される(ステップS203)。そして、推定されたトルクのばらつき最大値が、再度第1閾値以上であるか否かが判定される(ステップS204)。なお、ステップS203で推定されたトルクのばらつき最大値は、上述した補正により多少なりとも小さくされているが、補正が十分でない場合(即ち、補正値kが小さ過ぎる場合)、第1閾値以上となることもあり得る。
【0076】
推定されたトルクのばらつき最大値が、再度第1閾値以上である場合(ステップS204:YES)、クランク角センサ31の角度ずれが十分に補正されていないと判断され、補正値kに所定値Δkが加算される(ステップS205)。即ち、補正値kがΔkだけ大きくされる。そして、補正値kが変更されると、再びステップS201から処理が開始される。このように処理を繰り返していくことで、推定されたトルクのばらつき最大値は徐々に小さくなり、最終的には第1閾値未満となる。推定されたトルクのばらつき最大値が第1閾値未満となると(ステップS204:NO)、補正制御は終了する。
【0077】
図4に戻り、クランク角センサ31の補正制御が終了すると、ステップS106で禁止されていた燃焼状態の推定禁止制御及び推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御が解除される(ステップS108)。これにより、補正制御後のクランク角センサ31の検出値を用いて、エンジン10の各種制御が再開される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、クランク角センサ31において検出される回転角に角度ずれが生じた場合であっても、エンジン10を好適に制御することが可能である。本実施形態では特に、エンジン10がファイヤリング状態(言い換えれば、クランクシャフトの捩れ等に起因して角度ずれが発生しやすい状態)において回転角のずれを検出できるため、極めて好適に内燃機関の制御を実行できる。
【0079】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る内燃機関の制御装置について、図8から図10を参照して説明する。ここに図8は、第2実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。また図9は、クランク角センサ信号とその極大値の包絡線を示すグラフであり、図10は、クランク角センサの取り外しに伴う包絡線の変動を示すグラフである。
【0080】
なお、第2実施形態は、上述した第1実施形態と比べて一部の動作が異なるのみであり、その他の部分については概ね同様である。このため、以下では第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、重複する部分については適宜説明を省略するものとする。
【0081】
図8において、第2実施形態に係る内燃機関の制御装置は、上述した第1実施形態のようにファイヤリング状態であっても動作するものとは異なり、モータリング状態(即ち、エンジンが燃焼していない状態)で動作する。第2実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作時には、先ずモータリングの回転が一定であるか否かが判定される(ステップS301)。なお、モータリングが一定回転でない場合は(ステップS301:NO)、後述する学習処理等が適切に行えないため、以降のステップには進まない。
【0082】
モータリングが一定回転であると判定されると(ステップS301:YES)、新規にクランク角センサ信号(図3参照)が取得される(ステップS302)。また、前回計測時に取得されたクランク角センサ信号がメモリ等の記憶手段から読み出される(ステップS303)。これら新規に取得されたクランク角センサ信号と、前回計測時のクランク角センサ信号とは互いに比較され、差分が算出される(ステップS304)。本実施形態では特に、クランク角センサ信号の差分を、信号の極大値又は極小値の包絡線を用いて算出する。
【0083】
図9において、図に示すようなクランク角センサ信号が取得されたとする。この場合、クランク角センサ信号の極大値を結ぶ包絡線は、図中の太い実線で表される。包絡線は、クランクロータ102の欠歯部102b(図2参照)を境目として周期的に波打つような形状となる。ここで特に、本願発明者の研究するところによれば、クランク角センサ31における角度ずれが発生しない限り、包絡線の形状は殆ど変化しないことが判明している。言い換えれば、クランク角センサ31における角度ずれが発生すると、包絡線の形状は変化する。
【0084】
図10において、今回新規に取得されたクランク角センサ信号の包絡線と、前回計測時のクランク角センサ信号の包絡線とが図に示すような形状であったとする。この場合、今回計測時の包絡線と前回計測時の包絡線とでは、位相ずれが発生していることが分かる。よって、前回計測時と今回計測時との間にクランク角センサ31の取り外し等が行われ、結果的にクランク角センサ31において角度ずれが発生していると判定できる。
【0085】
なお、包絡線のずれは、位相差としてだけではなく、振幅の差として生じる場合もある。また、ここでは、クランク角センサ信号の極大値の包絡線を用いて説明しているが、クランク角センサ信号の極小値の包絡線を用いても構わない。
【0086】
図8に戻り、角度ずれの発生は、具体的には包絡線の差分が所定の第3閾値以上であるか否かによって判定される(ステップS305)。ここで、包絡線の差分が第3閾値以上である場合には(ステップS305:YES)、角度ずれが発生していると判定され、第1実施形態と同様に、燃焼状態推定禁止制御、クランク角センサ学習値リセット、及び推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される(ステップS306)。
【0087】
上述した各制御が実行されると、クランク角センサ31の再学習が実行される(ステップS307)。即ち、角度ずれが発生している現在の状況に応じた適切な学習値が学習される。なお、学習方法については、公知の方法を適宜利用することができるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0088】
クランク角センサ31の再学習が実行されると、再びステップS304以降の処理が開始される。即ち、再学習が実行された状態で再び包絡線の差分が算出され、差分が第3閾値以上であるか否かが判定される。このように処理が繰り返されることで、クランク角センサ31の角度ずれは確実に解消されていく。
【0089】
そして、包絡線の差分が第3閾値未満となると(ステップS305:NO)、ステップS306で禁止されていた燃焼状態の推定禁止制御及び推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御が解除される(ステップS308)。これにより、学習後のクランク角センサ31の検出値を用いて、エンジン10の各種制御が再開される。
【0090】
以上説明したように、第2実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、上述した第1実施形態と同様に、クランク角センサ31において検出される回転角に角度ずれが生じた場合であっても、エンジン10を好適に制御することが可能である。第2実施形態では特に、エンジン10がモータリング状態において回転角のずれが検出されるため、回転角のずれを高精度で補正することが可能である。
【0091】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る内燃機関の制御装置について、図11及び図12を参照して説明する。ここに図11は、第3実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作を示すフローチャートである。また図12は、クランク角センサの取り外しに伴う角度変化所要期間の変動を示すグラフである。
【0092】
なお、第3実施形態は、上述した第1及び第2実施形態と比べて一部の動作が異なるのみであり、その他の部分については概ね同様である。このため、以下では第1及び第2実施形態と異なる部分について詳細に説明し、重複する部分については適宜説明を省略するものとする。
【0093】
図11において、第2実施形態に係る内燃機関の制御装置の動作時には、先ずモータリングの回転が一定であるか否かが判定される(ステップS401)。なお、モータリングが一定回転でない場合は(ステップS401:NO)、後述する学習処理等が適切に行えないため、以降のステップには進まない。
【0094】
モータリングが一定回転であると判定されると(ステップS401:YES)、所定角度だけ回転角が変化するのに要する期間(以下、単に「所要期間」と称する)が新規に算出される(ステップS402)。また、前回計測時の所要期間がメモリ等の記憶手段から読み出される(ステップS403)。これら新規に算出された所要期間と、前回計測時の所要期間とは互いに比較され、差分が算出される(ステップS404)。
【0095】
図12において、今回新規に算出された30度CA所要期間と、前回計測時の30度CA所要期間とが図に示すような形状であったとする。今回計測時の所要期間と前回計測時の所要期間は概ね一致しているが、図中の破線で囲む領域においては、わずかにずれが生じている。そして、本願発明者の研究するところによれば、クランク角センサ31における角度ずれが発生しない限り、所要期間は殆ど変化しないことが判明している。よって、図に示す状況では、前回計測時と今回計測時との間にクランク角センサ31の取り外し等が行われ、結果的にクランク角センサ31において角度ずれが発生していると判定できる。
【0096】
図11に戻り、角度ずれの発生は、具体的には所要期間の差分(即ち、図12におけるずれ幅)が所定の第4閾値以上であるか否かによって判定される(ステップS405)。ここで、所要期間の差分が第4閾値以上である場合には(ステップS405:YES)、角度ずれが発生していると判定され、第1及び第2実施形態と同様に、燃焼状態推定禁止制御、クランク角センサ学習値リセット、及び推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される(ステップS406)。
【0097】
上述した各制御が実行されると、クランク角センサ31の再学習が実行される(ステップS407)。即ち、角度ずれが発生している現在の状況に応じた適切な学習値が学習される。クランク角センサ31の再学習が実行されると、再びステップS404以降の処理が開始される。即ち、再学習が実行された状態で再び所要期間の差分が算出され、差分が第4閾値以上であるか否かが判定される。このように処理が繰り返されることで、クランク角センサ31の角度ずれは確実に解消されていく。
【0098】
そして、所要期間の差分が第4閾値未満となると(ステップS405:NO)、ステップS406で禁止されていた燃焼状態の推定禁止制御及び推定燃焼状態を用いたエンジン制御の禁止制御が解除される(ステップS408)。これにより、学習後のクランク角センサ31の検出値を用いて、エンジン10の各種制御が再開される。
【0099】
以上説明したように、第3実施形態に係る内燃機関の制御装置によれば、上述した第1及び第2実施形態と同様に、クランク角センサ31において検出される回転角に角度ずれが生じた場合であっても、エンジン10を好適に制御することが可能である。第3実施形態では特に、エンジン10がモータリング状態において回転角のずれが検出される、回転角のずれを高精度で補正することが可能である。
【0100】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0101】
1…車両、10…エンジン、11…第1モータ・ジェネレータ、12…第2モータ・ジェネレータ、13…動力分配機構、14…トーショナルダンパ、21…HV−ECU、22…ENG−ECU、23…MG−ECU、31…クランク角センサ、32…カム角センサ、33、34…レゾルバ、100…制御装置、101…クランクシャフト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12