【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関の制御装置は、上記課題を解決するために、内燃機関及び電動機を動力源として備える車両に搭載され、前記内燃機関の回転角を検出する回転角検出手段と、前記検出された回転角に基づいて、前記内燃機関の燃焼状態を推定する燃焼状態推定手段と、前記回転角検出手段に角度ずれが生じていることを検出する角度ずれ検出手段と、前記角度ずれが検出された場合に、前記内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、前記回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び前記推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御を実行する制御実行手段とを備え
、前記角度ずれ検出手段は、前記内燃機関の角加速度を用いて前記内燃機関が有する複数の気筒のトルクを気筒別に推定するトルク推定手段と、前記電動機の角加速度を検出する電動機角加速度検出手段と、前記内燃機関における複数の気筒間でのトルクばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きく、且つ前記電動機の角加速度のばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第1角度ずれ判定手段とを備える。
【0009】
本発明の内燃機関の制御装置が搭載される車両は、内燃機関及び電動機を動力源として備えたハイブリッド車両である。内燃機関は、例えば複数の気筒を有するガソリンエンジンとして構成されるが、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等については特に限定されない。また、電動機は、例えばモータ・ジェネレータとして構成され、遊星歯車機構等の各種ギヤを介して内燃機関の出力軸に連結されている。
【0010】
本発明の内燃機関の制御装置の動作時には、例えばクランク角センサ等を含んで構成される回転角検出手段によって、内燃機関の回転角が検出される。内燃機関の回転角が検出されると、燃焼状態推定手段によって、内燃機関の燃焼状態が推定される。燃焼状態推定手段は、例えば内燃機関における失火を判定するための閾値を記憶しており、検出された回転角と閾値とを比較することで、内燃機関が失火しているか否かを判定する。なお、燃焼状態の推定に用いられるパラメータは、内燃機関の回転角そのものであってもよいし、内燃機関の回転角から算出されるパラメータ(例えば、回転数の変動や所定角度の回転に要する時間等)であってもよい。
【0011】
ここで本発明では特に、上述した内燃機関の回転角の検出時には、角度ずれ検出手段によって、回転角検出手段における角度ずれの発生が監視されている。なお、ここでの「角度ずれ」とは、回転角検出手段において検出される回転角の値と実際の回転角の値との間に許容できない差が生じている状態を指しており、このような差は、例えば回転角検出手段に含まれるセンサを一時的に取り外したことによるクリアランスの変化等に起因して生じ得る。角度ずれ検出手段は、例えば回転角検出手段から出力される信号から直接的に角度ずれを検出してもよいし、内燃機関の回転数に依存している他のパラメータから間接的に角度ずれを検出してもよい。
【0012】
回転角検出手段における角度ずれが検出されると、制御実行手段によって、内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される。なお、ここでの「内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御」とは、燃焼状態推定手段による燃焼状態の推定を少なくとも一時的に停止させる制御である。また、「回転角検出手段の学習値のリセット制御」とは、回転角検出手段の検出値に対して適用される学習値(言い換えれば、補正値)を初期値にリセットする制御である。更に、「推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御」とは、燃焼状態推定手段によって推定された燃焼状態に基づく内燃機関における各種動作制御(例えば、燃料噴射制御等)を少なくとも一時的に停止させる制御である。
【0013】
ここで仮に、上述した各制御が実行されないとすると、回転角検出手段により検出された回転角の値が正確でないことに起因して、様々な不具合が発生してしまうおそれがある。例えば、誤った回転角が検出され続けるため、燃焼状態推定手段によって内燃機関の燃焼状態を正確に推定することができなくなる。更には、燃焼状態が正確に推定されないため、燃焼状態に基づく各種制御も適切に実行できなくなる。
【0014】
しかるに本発明では、上述したように、制御実行手段によって、内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御、回転角検出手段の学習値のリセット制御、及び推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御のうち、少なくとも1つの制御が実行される。これにより、上述した不具合の発生を好適に防止できる。具体的には、「内燃機関の燃焼状態の推定禁止制御」を実行することで、内燃機関の燃焼状態が誤ったものとして推定されてしまうことを防止できる。また、「回転角検出手段の学習値のリセット制御」を行うことで、正確でない回転数が検出され続けることを防止できる。なお、この場合には、再度学習が実行される(即ち、適切な学習値が新たに算出される)ことが好ましい。更には、「推定された燃焼状態を用いた制御の禁止制御」が実行されることで、誤った燃焼状態が推定された場合であっても、燃焼状態に基づく不適切な制御が実行されてしまうことを防止できる。
【0015】
以上説明したように、本発明の内燃機関の制御装置によれば、回転角検出手段において検出される内燃機関の回転角に角度ずれが生じた場合であっても、不適切な制御が実行されてしまうことを防止可能である。
【0016】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記角度ずれ検出手段は、前記内燃機関の角加速度を用いて前記内燃機関が有する複数の気筒のトルクを気筒別に推定するトルク推定手段と、前記電動機の角加速度を検出する電動機角加速度検出手段と、前記内燃機関における複数の気筒間でのトルクばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きく、且つ前記電動機の角加速度のばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第1角度ずれ判定手段とを備える。
【0017】
この態様によれば、角度ずれ検出手段による角度ずれの検出動作時に、先ずトルク推定手段によって、内燃機関が有する複数の気筒のトルクが気筒別に推定される。気筒別のトルクは、内燃機関の角加速度を用いて推定される。一方、電動機角加速度検出手段では、電動機の角加速度が検出される。そして、第1角度ずれ判定手段では、検出された内燃機関のトルク及び電動機の角加速度を用いて、回転角検出手段に角度ずれが生じているか否かの判定が行われる。以下では、第1角度ずれ判定手段による角度ずれの判定について詳細に説明する。
【0018】
気筒別に検出されたトルクは、そのばらつき幅が所定の第1閾値よりも大きいか否かが判定される。なお、ここでの「第1閾値」とは、回転角検出手段において角度ずれが発生しているか否かを判定するための一指標として設定されるものであり、推定されたトルクのばらつき幅が第1閾値より大きい場合には、回転角検出手段における角度ずれが発生している可能性があると判定される。
【0019】
より具体的には、回転角検出手段で検出される回転角に角度ずれが生じると、内燃機関の角加速度にもずれが生じ、その結果、内燃機関の角加速度を用いて推定されるトルクのばらつき幅も大きくなる。よって、トルクのばらつき幅が第1閾値より大きい場合には、回転角検出手段において角度ずれが生じている可能性がある。ただし、実際に気筒毎にトルクがばらついている可能性もあるため、内燃機関の推定トルクだけで確実に角度ずれが生じているとは言えない。
【0020】
他方で、検出された電動機の角加速度は、そのばらつき幅が所定の第2閾値よりも小さいか否かが判定される。なお、ここでの「第2閾値」とは、気筒毎の推定トルクのばらつきが、回転角検出手段の角度ずれに起因するものであるか否かを判定するための閾値であり、電動機の角加速度のばらつき幅が第2閾値より小さい場合には、推定トルクのばらつきが角度ずれに起因しているものであると判定される。
【0021】
より具体的には、実際に内燃機関のトルクが気筒毎に大きくばらついたとすると、そのトルク変動が電動機にも伝達されるため、電動機の角加速度も大きくばらつく。よって、電動機の角加速度のばらつきが第2閾値よりも小さい場合、実際の内燃機関のトルクはばらついていない状態であると判定できる。そして、内燃機関のトルクのばらつきが第1閾値よりも大きく、且つ電動機の角加速度が第2閾値よりも小さい場合は、内燃機関のトルクは実際にばらついていないにもかかわらず、推定されるトルクが大きくばらついている状態であると言える。このため、推定されるトルクのばらつきは、実際のトルクのばらつきではなく、誤った回転角の検出に起因している(即ち、回転角検出手段において角度ずれが発生している)と判定できる。
【0022】
本態様では、上述したように、内燃機関の気筒毎のトルクのばらつき及び電動機の角加速度のばらつきに基づいて角度ずれの発生を検出できる。このため本態様では、内燃機関が燃焼している状態(即ち、ファイヤリング状態)であっても好適に角度ずれが検出できる。そして特に、ファイヤリング状態では、例えばモータリング状態と比較して内燃機関が高回転となるため、クランクシャフトの捩れ等に起因した角度ずれも発生し得る。よって、ファイヤリング状態であっても角度ずれが検出できる本態様は極めて有益であると言える。
【0023】
上述した角度ずれ検出手段が第1角度ずれ判定手段を備える態様では、前記第1角度ずれ判定手段により前記角度ずれが生じていると判定された場合に、前記複数の気筒のうち最もトルクが大きい気筒のトルクを算出した際の前記検出された回転角から所定の補正量を減算すると共に、前記複数の気筒のうち最もトルクが小さい気筒のトルクを算出した際の前記検出された回転角に前記所定の補正量を加算する回転角補正手段を備えるように構成してもよい。
【0024】
この場合、回転角検出手段において角度ずれが発生していると判定されると、複数の気筒のうち最もトルクが大きい気筒のトルクを算出した際の回転角から所定の補正量が減算される。また、複数の気筒のうち最もトルクが小さい気筒のトルクを算出した際の回転角に所定の補正量が加算される。なお、ここでの「補正量」は、回転角を微調整するのに適切な値として予め設定されている。
【0025】
ここで特に、気筒毎の推定トルクが大きく推定されるのは、内燃機関の角加速度が大きく算出されているからであり、検出される内燃機関の回転角が大きい方へとずれていることを示す。一方、気筒毎の推定トルクが小さく推定されるのは、内燃機関の角加速度が小さく算出されているからであり、検出される内燃機関の回転角が小さい方へとずれていることを示す。
【0026】
よって、上述したように、推定トルクが最も大きく算出された際の回転角から補正量を減算すると共に、推定トルクが最も小さく算出された際の回転角に補正量を加算すれば、複数の気筒間での推定トルクのばらつき幅は小さくなる。言い換えれば、回転角検出手段における角度ずれが小さくなる。従って、回転角検出手段で検出される値を正確な値に近づけることが可能となる。
【0027】
上述した補正量の減算及び加算を行う態様では、前記回転角補正手段は、前記補正量の減算及び加算を行ったにもかかわらず前記第1角度ずれ判定手段により前記角度ずれが生じていると判定された場合に、前記補正量を所定値だけ大きくして再び前記補正量の減算及び加算を行うように構成してもよい。
【0028】
このように構成すれば、回転角に対する減算及び加算に用いられる補正量は、角度ずれが解消したと判定されるまで、所定値ずつ段階的に大きくされる。なお、ここでの「所定値」は、補正量を適切な値へと段階的に近づけていくための値として予め設定されている。
【0029】
補正量を段階的に大きくしていくことで、一度の減算及び加算では角度ずれが解消されなかった場合(即ち、補正量が小さく十分に角度ずれを解消できない場合)であっても、二度、三度の処理によって確実に角度ずれを小さくしていくことができる。よって、このような処理を繰り返せば、最終的には確実に角度ずれを解消することができる。
【0030】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記角度ずれ検出手段は、前記回転角検出手段のパルス信号の極大値又は極小値の包絡線を決定する包絡線決定手段と、前回計測時の前記包絡線と今回計測時の前記包絡線とを互いに比較して差分を算出する包絡線比較手段と、前記包絡線の差分が所定の第3閾値よりも大きい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第2角度ずれ判定手段とを備える。
【0031】
この態様によれば、角度ずれ検出手段による角度ずれの検出動作時に、先ず包絡線決定手段によって、回転角検出手段のパルス信号の極大値又は極小値の包絡線が決定される。なお、ここでの「包絡線」とは、パルス信号の極大値又は極小値だけを結んでいくことで描かれる曲線である。決定された包絡線は、後述する比較の際に用いるため、一時的にメモリ等の記憶手段に記憶される。
【0032】
包絡線が決定されると、包絡線比較手段によって、前回計測時の包絡線と今回計測時の包絡線とが互いに比較され、その差分(即ち、前回計測時の包絡線と今回計測時の包絡線とのずれ幅)が算出される。なお、包絡線の差分は、位相差として算出されてもよいし、振幅の差として算出されてもよい。
【0033】
包絡線の差分が算出されると、第2角度ずれ判定手段によって、差分が所定の第3閾値よりも大きいか否かが判定される。ここでの「第3閾値」は、包絡線の差分から回転角検出手段の角度ずれを判定するために設定される値であり、包絡線の差分が第3閾値より大きい場合に角度ずれが発生していると判定される。
【0034】
本願発明者の研究するところによれば、回転角検出手段において角度ずれが発生すると、回転角検出手段のパルス信号における極大値及び極小値が大なり小なり変化することが判明している。よって、これら極大値及び極小値を結ぶ包絡線を前回計測時のものと比較することで、極大値及び極小値の変化を好適に検出し、角度ずれが発生しているか否かを判定できる。
【0035】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記角度ずれ検出手段は、前記検出された回転角を用いて、前記回転角が所定角度変化するのに要した所要期間を算出する所要期間算出手段と、前回計測時の前記所要期間と今回計測時の前記
所要期間とを互いに比較して差分を算出する所要期間比較手段と、前記所要期間の差分が所定の第4閾値よりも大きい場合に、前記角度ずれが生じていると判定する第3角度ずれ判定手段とを備える。
【0036】
この態様によれば、角度ずれ検出手段による角度ずれの検出動作時に、先ず所要期間算出手段によって、内燃機関の回転角が所定角度変化するのに要した所要期間を算出する。なお、ここでの「所定角度」は、所要期間を算出するために適切な値として予め設定されている。算出された所要期間は、後述する比較の際に用いるため、一時的にメモリ等の記憶手段に記憶される。
【0037】
所要期間が算出されると、所要期間比較手段によって、前回計測時の所要期間と今回計測時の所要期間とが互いに比較され、その差分(即ち、前回計測時の所要期間と今回計測時の所要期間とのずれ幅)が算出される。
【0038】
所要期間の差分が算出されると、第3角度ずれ判定手段によって、差分が所定の第4閾値よりも大きいか否かが判定される。ここでの「第4閾値」は、所要期間の差分から回転角検出手段の角度ずれを判定するために設定される値であり、所要期間の差分が第4閾値より大きい場合に角度ずれが発生していると判定される。
【0039】
本願発明者の研究するところによれば、回転角検出手段において角度ずれが発生すると、回転角が所定角度変化するのに要する所要期間が少なくとも部分的に変化することが判明している。よって、これら所要期間を前回計測時のものと比較することで、好適に角度ずれが発生しているか否かを判定できる。
【0040】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。