(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射を行って当該学習用噴射による前記内燃機関の回転数の変動量及び前記内燃機関の回転数に基づいて前記インジェクタの補正量を求める学習制御を所定のタイミングで実行する、内燃機関の燃料噴射量学習方法であって、
前記学習制御の実行タイミングにおいて前記学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップと、
前記学習条件判定ステップにて前記実行条件を満足すると判定した場合に前記学習制御を実行する学習実行ステップと、
前記学習制御の実行頻度を判定する学習頻度判定ステップと、
前記学習頻度判定ステップにて判定した前記実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合は前記学習制御の実行頻度を強制的に増加させる学習頻度増加ステップと、を有し、
更に、前記インジェクタの新品状態からの累積期間が所定期間以内である初期期間内であるか否かを判定する初期期間判定ステップを有し、
前記学習頻度増加ステップは、前記初期期間判定ステップにて初期期間内であると判定されており且つ前記学習頻度判定ステップにて判定した前記実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合は、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件を満足するか否かを判定するための閾値を、前記実行条件が緩和されるように変更し、
前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件の判定には、少なくとも前記内燃機関の冷却水の温度の判定と大気圧の判定とが含まれており、
前記学習頻度増加ステップは、前記学習条件判定ステップにおける冷却水の温度の判定の閾値と大気圧の判定の閾値とを変更する、
内燃機関の燃料噴射量学習方法。
内燃機関の無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射を行って当該学習用噴射による前記内燃機関の回転数の変動量及び前記内燃機関の回転数に基づいて前記インジェクタの補正量を求める学習制御を所定のタイミングで実行する、内燃機関の燃料噴射量学習方法であって、
前記学習制御の実行タイミングにおいて前記学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップと、
前記学習条件判定ステップにて前記実行条件を満足すると判定した場合に前記学習制御を実行する学習実行ステップと、
前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件を満足するか否かを判定するための閾値を前記インジェクタからの燃料噴射圧力に応じて変更する学習頻度増加ステップと、を有し、
前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件の判定には、少なくとも前記内燃機関の冷却水の温度の判定と大気圧の判定とが含まれており、
前記学習頻度増加ステップは、前記学習条件判定ステップにおける冷却水の温度の判定の閾値と大気圧の判定の閾値とを変更する、
内燃機関の燃料噴射量学習方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼル機関(内燃機関)では、インジェクタから高圧の燃料をシリンダ内に噴射しているが、燃焼騒音の低減やNOxの抑制を目的として、メインとなる燃料噴射に先立って、微少量の燃料を噴射するいわゆるパイロット噴射を実施している。このパイロット噴射による燃焼騒音の低減やNOxの抑制の充分な効果を得るためには、パイロット噴射による噴射量の精度が要求される。
ところが、インジェクタから噴射される実際の噴射量(燃料量)は、指令した噴射量に対して、噴射量のずれ(ずれ量)が存在する。しかも、ずれ量は
図2に示すように一定ではなく、累積期間に応じて変化しており、且つインジェクタ毎に個体差もある。
このため、適切なタイミングで燃料噴射量の学習制御を行って、その時点でのずれ量を推定し、インジェクタの補正量を求めている。
【0003】
そこで、特許文献1に記載された従来技術には、学習制御において、内燃機関の指令噴射量がゼロ以下となる無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射(単発噴射)を実行し、学習用噴射によって上昇した内燃機関の回転数の変動量と内燃機関の回転数とに基づいて発生トルクを算出し、算出した発生トルクから実際の噴射量を推定し、推定した実際の噴射量と学習用噴射の指令噴射量との差からずれ量を求めて補正量を算出する、ディーゼル機関の噴射量制御装置が記載されている。
なお、特許文献1に記載されている方法では、内燃機関の回転数の変動量を用いるため、学習制御の実行時における内燃機関の環境条件が一定でなければ正確な補正量を求めることができない可能性がある。
そこで、特許文献2に記載された従来技術には、内燃機関の動作環境条件の変化に応じた環境補正量を算出して、当該環境補正量を用いて学習制御において推定する実際の噴射量を補正し、より正確なインジェクタの補正量を求めることができる、内燃機関の燃料噴射量学習方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載の従来技術では、内燃機関の回転数の充分な変動量を得られない環境条件下では、学習精度(補正量の精度)が悪化するため、学習制御の実行条件を満足しない場合には学習制御を実行しないようにしている。例えば内燃機関の冷却水温度が所定温度よりも低い場合(暖機中)では、学習制御を実行しないようにしている。
ところが、ユーザの中には、内燃機関を始動した後、暖機運転が完了する前に内燃機関を停止してしまうような近距離の運転を繰り返すようなユーザもいる。この場合、内燃機関を始動してから停止するまでの期間で、冷却水温度が所定温度以上にならず、学習制御が実行されない可能性がある。学習制御が実行されない場合、インジェクタの適切な補正量を求めることができず、またインジェクタの噴射量のずれ量も
図2に示すように変動するので、パイロット噴射を行っても、期待する燃焼騒音の低減やNOxの抑制の効果を得られない可能性がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、近距離運転が繰り返された場合等、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる、内燃機関の燃料噴射量学習方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の燃料噴射量学習方法は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、内燃機関の無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射を行って当該学習用噴射による前記内燃機関の回転数の変動量及び前記内燃機関の回転数に基づいて前記インジェクタの補正量を求める学習制御を所定のタイミングで実行する、内燃機関の燃料噴射量学習方法であって、前記学習制御の実行タイミングにおいて前記学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップと、前記学習条件判定ステップにて前記実行条件を満足すると判定した場合に前記学習制御を実行する学習実行ステップと、前記学習制御の実行頻度を判定する学習頻度判定ステップと、前記学習頻度判定ステップにて判定した前記実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合は前記学習制御の実行頻度を強制的に増加させる学習頻度増加ステップと、を
有する。
そして、前記インジェクタの新品状態からの累積期間が所定期間以内である初期期間内であるか否かを判定する初期期間判定ステップを有し、前記学習頻度増加ステップは、前記初期期間判定ステップにて初期期間内であると判定されており且つ前記学習頻度判定ステップにて判定した前記実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合は、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件を満足するか否かを判定するための閾値を、前記実行条件が緩和されるように変更する。
また、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件の判定には、少なくとも前記内燃機関の冷却水の温度の判定と大気圧の判定とが含まれており、前記学習頻度増加ステップは、前記学習条件判定ステップにおける冷却水の温度の判定の閾値と大気圧の判定の閾値とを変更する、内燃機関の燃料噴射量学習方法である。
また、本発明の第2の発明は、内燃機関の無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射を行って当該学習用噴射による前記内燃機関の回転数の変動量及び前記内燃機関の回転数に基づいて前記インジェクタの補正量を求める学習制御を所定のタイミングで実行する、内燃機関の燃料噴射量学習方法であって、前記学習制御の実行タイミングにおいて前記学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップと、前記学習条件判定ステップにて前記実行条件を満足すると判定した場合に前記学習制御を実行する学習実行ステップと、前記学習制御の実行頻度を判定する学習頻度判定ステップと、前記学習頻度判定ステップにて判定した前記実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合は前記学習制御の実行頻度を強制的に増加させる学習頻度増加ステップと、を有する。
そして、前記インジェクタの新品状態からの累積期間が所定期間以内である初期期間内であるか否かを判定する初期期間判定ステップを有し、前記学習頻度増加ステップは、前記初期期間判定ステップにて初期期間内であると判定されており且つ前記学習頻度判定ステップにて判定した前記実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合は、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件を満足するか否かを判定するための閾値を、前記実行条件が緩和されるように変更する。
また、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件の判定には、少なくとも、前記内燃機関の冷却水の温度の判定と、大気圧の判定と、前記内燃機関の吸入空気の温度の判定と、燃料の温度の判定と、が含まれており、前記学習頻度増加ステップは、前記学習条件判定ステップにおいて、冷却水の温度の判定の閾値と、大気圧の判定の閾値と、吸入空気の温度の判定の閾値と、燃料の温度の判定の閾値と、における少なくとも1つの閾値を変更する、内燃機関の燃料噴射量学習方法である。
【0007】
第1の発明または第2の発明によれば、学習制御の実行頻度が所定頻度に達していないと判定した場合に学習制御の実行頻度を強制的に増加させることで、学習制御が実行されないことを防止する。
これにより、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
【0009】
第1の発明または第2の発明によれば、インジェクタの噴射量のずれ量の変化が特に大きい初期期間において、実行頻度が所定頻度に達していない場合は、学習制御の実行条件を判定するための閾値を、実行条件が緩和されるように変更する。
これにより、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、内燃機関の無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射を行って当該学習用噴射による前記内燃機関の回転数の変動量及び前記内燃機関の回転数に基づいて前記インジェクタの補正量を求める学習制御を所定のタイミングで実行する、内燃機関の燃料噴射量学習方法であって、前記学習制御の実行タイミングにおいて前記学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップと、前記学習条件判定ステップにて前記実行条件を満足すると判定した場合に前記学習制御を実行する学習実行ステップと、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件を満足するか否かを判定するための閾値を前記インジェクタからの燃料噴射圧力に応じて変更する学習頻度増加ステップと、を
有する。
また、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件の判定には、少なくとも前記内燃機関の冷却水の温度の判定と大気圧の判定とが含まれており、前記学習頻度増加ステップは、前記学習条件判定ステップにおける冷却水の温度の判定の閾値と大気圧の判定の閾値とを変更する、内燃機関の燃料噴射量学習方法である。
また、本発明の第4の発明は、内燃機関の無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射を行って当該学習用噴射による前記内燃機関の回転数の変動量及び前記内燃機関の回転数に基づいて前記インジェクタの補正量を求める学習制御を所定のタイミングで実行する、内燃機関の燃料噴射量学習方法であって、前記学習制御の実行タイミングにおいて前記学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップと、前記学習条件判定ステップにて前記実行条件を満足すると判定した場合に前記学習制御を実行する学習実行ステップと、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件を満足するか否かを判定するための閾値を前記インジェクタからの燃料噴射圧力に応じて変更する学習頻度増加ステップと、を有する。
また、前記学習条件判定ステップにおける前記実行条件の判定には、少なくとも、前記内燃機関の冷却水の温度の判定と、大気圧の判定と、前記内燃機関の吸入空気の温度の判定と、燃料の温度の判定と、が含まれており、前記学習頻度増加ステップは、前記学習条件判定ステップにおいて、冷却水の温度の判定の閾値と、大気圧の判定の閾値と、吸入空気の温度の判定の閾値と、燃料の温度の判定の閾値と、における少なくとも1つの閾値を変更する、内燃機関の燃料噴射量学習方法である。
【0011】
第3の発明または第4の発明によれば、学習制御の実行条件を判定する閾値を、燃料噴射圧力に応じて変更する。
これにより、学習制御の実行条件を適切に広げることが可能であり、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
【0013】
第1の発明または第3の発明によれば、冷却水の温度の判定の閾値と、大気圧の判定の閾値と、を変更することで、例えば近距離運転が繰り返された場合であっても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
【0015】
第2の発明または第4の発明によれば、冷却水の温度の判定の閾値と、大気圧の判定の閾値と、吸入空気の温度の判定の閾値と、燃料の温度の判定の閾値と、の少なくとも1つの閾値を変更する。
これにより、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
●[制御対象の内燃機関の概略構成(
図1)]
まず
図1を用いて、制御対象の内燃機関の概略構成について説明する。本実施の形態の説明では、内燃機関の例として、エンジン10(例えばディーゼルエンジン)を用いて説明する。
エンジン10には、エンジン10の各気筒45A〜45Dへの吸入空気を導入する吸気管11が接続されている。またエンジン10には、各気筒45A〜45Dからの排気が吐出される排気管12が接続されている。
吸気管11には吸気温検出手段24が設けられており、制御手段30は、吸気温検出手段24からの検出信号に基づいて吸入空気の温度を検出可能である。
またエンジン10には、内燃機関の回転数(例えばクランク軸の回転数)や回転角度(例えば各気筒の圧縮上死点タイミング)等を検出可能な回転検出手段26が設けられており、制御手段30は、回転検出手段26からの検出信号に基づいてエンジン10の回転数や回転角度等を検出することが可能である。
またエンジン10には、冷却水温検出手段22が設けられており、制御手段30は、冷却水温検出手段22からの検出信号に基づいて、エンジン10の冷却水の温度を検出することが可能である。
また制御手段30は、自身等に設けられた大気圧検出手段23からの検出信号に基づいて大気圧を検出することが可能である。
【0018】
コモンレール41には燃料タンク(図示省略)から燃料が供給され、コモンレール41内の燃料は高圧に維持されて燃料配管42A〜42Dを介してインジェクタ43A〜43Dのそれぞれに供給されている。
コモンレール41には、燃料圧力検出手段21と燃料温度検出手段25が設けられており、制御手段30は、燃料圧力検出手段21からの検出信号に基づいてコモンレール41内の燃料の圧力を検出可能であり、燃料温度検出手段25からの検出信号に基づいてコモンレール41内の燃料の温度を検出可能である。
インジェクタ43A〜43Dは、各気筒45A〜45Dに対応させて設けられており、制御手段30からの制御信号によって各気筒内に所定のタイミングで所定量の燃料を噴射する。
そして制御手段30は、各種の検出手段等からの検出信号を取り込み、エンジン10の運転状態を検出し、インジェクタ43A〜43Dを駆動する制御信号を出力する。
【0019】
●[インジェクタからの噴射量のずれ(
図2)と学習の効果(
図3)]
図2は、インジェクタ43A〜43Dにおける、累積期間に対する、噴射量のずれ量を示すグラフである。なお、噴射量のずれ量とは、制御手段30から指令された噴射量(以下、指令噴射量と記載する)に対して、実際に噴射された噴射量(以下、実噴射量と記載する)の、ずれ量(誤差)の例を示している。
図2に示すように、一般的に、初期期間内においては、噴射量のずれ量の変化が比較的大きく、初期期間を経過した後は、初期期間内よりもずれ量が小さくなる。
なお、初期期間とは、インジェクタの使用が開始されてからの累積期間が所定期間内である期間であり、新品状態からの累積期間が所定期間内の期間である。
初期期間の具体的な判定方法の例としては、内燃機関の運転時のインジェクタのノズルの被熱温度を推定し、運転継続時間に応じて被熱温度に対応する加算値を累積していき、累積値が所定値以下の場合を初期期間と判定する。
【0020】
図3は、走行距離に応じて、インジェクタからの噴射量のずれ量が変化する様子と、学習制御の効果を説明するグラフである。
制御手段30は、
図3に示すように、例えば走行距離が所定距離に達する毎に学習タイミングに達したと判定し、当該学習タイミングにて学習制御を実行する。
学習制御では、例えば内燃機関の指令噴射量がゼロ以下となる無噴射運転時にインジェクタから学習用噴射(単発噴射)を実行する。そして、学習用噴射によって上昇した内燃機関の回転数の変動量と内燃機関の回転数とに基づいて発生トルクを算出し、算出した発生トルクから実噴射量を推定する。そして、推定した実噴射量と学習用噴射の指令噴射量との差からずれ量を求めて補正量を算出する。
図3のグラフにおいて、グラフα1は、インジェクタの噴射量の学習制御による補正を行わなかった場合のずれ量を示しており、
図2に示すずれ量とほぼ一致している。
また
図3のグラフにおいて、グラフβ1は、学習タイミングにて上記の学習制御を行って、インジェクタの噴射量のずれ量を補正した場合のずれ量を示しており、学習制御を行う毎に、ずれ量はG1まで減少している。なお、G1は学習制御にて求めた補正量の誤差等に相当する。
【0021】
学習制御が確実に実行されれば、
図3のグラフβ1に示すように、適切にインジェクタの噴射量のずれ量を補正することが可能であるが、学習タイミングに達した場合であっても、学習制御が実行されるとは限らない。
従来の学習制御において制御手段は、学習タイミングに達したと判定して学習制御を実行する前に、学習制御を実行してもよいか否かを判定する実行条件の判定を行い、実行条件を満足しない場合(噴射された燃料の燃焼が安定しない環境の場合)は学習制御を実行しないようにプログラムされているからである。
学習制御は、インジェクタの噴射量のずれ量を補正する非常に有効な手段であるが、万が一、誤った学習制御を行ってしまうと、次の学習タイミングまで、有効な補正を行うことができなくなるので、やや厳しい実行条件の判定を行っている。
このため、例えば暖機運転が完了しないような近距離の運転を繰り返すユーザの場合、冷却水の温度等が実行条件を満足しない可能性があり、学習タイミングに達しても学習制御が実行されない状態が継続する可能性がある。
以下に説明する本発明の内燃機関の燃料噴射量学習方法は、従来の学習方法では実行条件を満足できずに学習タイミングに達しても学習制御が実行されない状態が継続するような場合であっても、適切に実行条件を満足して学習制御を実行できるようにしている。
【0022】
●[第1の実施の形態の処理手順(
図4)と効果(
図5)]
次に
図4を用いて、本発明の内燃機関の燃料噴射量学習方法の第1の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態は、特にインジェクタの噴射量のずれ量が大きい初期期間(
図2参照)において、学習制御が実行されないことを回避し、許容範囲内であれば補正量の精度が多少悪化することを許容し、とにかく学習制御を実行させようとするものである。
例えば制御手段30は、所定タイミング毎(例えば数ms〜数100ms毎)に、
図4に示すフローチャートの処理を実行する。
【0023】
ステップS10にて、制御手段30は、学習タイミングであるか否かを判定する。燃料噴射量の学習タイミングである場合(Yes)はステップS11に進み、学習タイミングでない場合(No)は処理を終了する。制御手段30は、例えば前回の学習タイミングからの走行距離が所定距離となった場合に学習タイミングであると判定する。
ステップS11に進んだ場合、制御手段30は、初期期間内であるか否かを判定する。初期期間内であると判定した場合(Yes)はステップS12に進み、初期期間内でないと判定した場合はステップS14Aに進む。
このステップS11が、インジェクタの新品状態からの累積期間が所定期間以内である初期期間内であるか否かを判定する初期期間判定ステップに相当する。
ステップS12に進んだ場合、制御手段30は、学習制御の実行頻度が所定頻度に達しているか否かを判定する。所定頻度に達していると判定した場合(Yes)はステップS14Aに進み、所定頻度に達していないと判定した場合(No)はステップS14Bに進む。
なお、所定頻度に達しているか否かの判定は、例えば前回の学習タイミングで学習を実行した場合は所定頻度に達していると判定する。あるいは、学習タイミングに達したが実行条件が満足されずに学習制御を実行しなかった状態がN回(Nは整数)連続した場合に、所定頻度に達していないと判定する。学習制御の実行頻度が所定頻度に達しているか否かの判定は、このように種々の方法で判定することができる。
なお、ステップS12が学習頻度判定ステップに相当する。
【0024】
ステップS14Aに進んだ場合、制御手段30は、従来からの実行条件の判定と同等の閾値を用意する。制御手段30は、冷却水の温度の判定に用いる水温閾値Swに、従来と同等の閾値W1を代入し、大気圧の判定に用いる大気圧閾値Spに、従来と同等の閾値P1を代入し、吸入空気の温度の判定に用いる吸気温閾値Saに、従来と同等の閾値A1を代入し、燃料の温度の判定に用いる燃料温閾値Sfに、従来と同等の閾値F1を代入し、ステップS22に進む。
ステップS14Bに進んだ場合、制御手段30は、従来の実行条件の判定の閾値に対して、実行条件が緩和されるような閾値に変更する。制御手段30は、冷却水の温度の判定に用いる水温閾値Swに、従来よりも緩和した閾値W2を代入し、大気圧の判定に用いる大気圧閾値Spに、従来よりも緩和した閾値P2を代入し、吸入空気の温度の判定に用いる吸気温閾値Saに、従来よりも緩和した閾値A2を代入し、燃料の温度の判定に用いる燃料温閾値Sfに、従来よりも緩和した閾値F2を代入し、ステップS22に進む。例えば水温閾値Swに代入する従来の閾値W1が80℃相当である場合、緩和した閾値W2は60℃相当等である。
なお、ステップS14Bが学習制御の実行頻度を強制的に増加させる学習頻度増加ステップに相当する。
【0025】
ステップS22〜ステップS28は、学習制御の実行タイミングにおいて学習制御の実行条件を満足するか否かを判定する学習条件判定ステップに相当している。
ステップS22にて、制御手段30は、冷却水温検出手段22からの検出信号に基づいて検出した冷却水の温度が水温閾値Sw以上であるか否かを判定する。冷却水の温度が水温閾値Sw以上である場合(Yes)はステップS24に進み、冷却水の温度が水温閾値Sw未満である場合(No)は処理を終了する。
ステップS24に進んだ場合、制御手段30は、大気圧検出手段23からの検出信号に基づいて検出した大気圧が大気圧閾値Sp以上であるか否かを判定する。大気圧が大気圧閾値Sp以上である場合(Yes)はステップS26に進み、大気圧が大気圧閾値Sp未満である場合(No)は処理を終了する。
ステップS26に進んだ場合、制御手段30は、吸気温検出手段24からの検出信号に基づいて検出した吸入空気の温度が吸気温閾値Sa以上であるか否かを判定する。吸入空気の温度が吸気温閾値Sa以上である場合(Yes)はステップS28に進み、吸入空気の温度が吸気温閾値Sa未満である場合(No)は処理を終了する。
ステップS28に進んだ場合、制御手段30は、燃料温度検出手段25からの検出信号に基づいて検出した燃料の温度が燃料温閾値Sf以上であるか否かを判定する。燃料の温度が燃料温閾値Sf以上である場合(Yes)はステップS30に進み、燃料の温度が燃料温閾値Sf未満である場合(No)は処理を終了する。
【0026】
ステップS30に進んだ場合、制御手段30は、インジェクタの噴射量の学習制御を実行し、ずれ量を補正する補正量を求めて処理を終了する。なお、学習制御の内容については既に説明しているので説明を省略する。
このステップS30が、実行条件(ステップS22〜S28)を満足すると判定した場合に学習制御を実行する学習実行ステップに相当する。
【0027】
以上に説明したように、第1の実施の形態では、初期期間内において、学習制御の実行頻度が所定頻度に達していない場合、ステップS22〜S28にて判定する実行条件の閾値を、実行条件の判定が緩和されるように強制的に変更する。
これにより、近距離運転が繰り返された場合等、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
なお
図5に、走行距離に応じて、インジェクタからの噴射量のずれ量が変化する様子と、学習制御の効果を説明するグラフを示す。
図5に示すグラフα1はインジェクタの噴射量の学習制御による補正を行わなかった場合のずれ量を示している。またグラフβ1はステップS14Aの各閾値を用いて学習制御を行った際のずれ量が補正される様子を示しており、グラフβ2はステップS14Bの各閾値を用いて学習制御を行った際のずれ量が補正される様子を示している。グラフβ1では、学習制御を実行する毎にずれ量がG1まで低減され、グラフβ2では、学習制御を実行する毎にずれ量がG2(G2>G1)まで低減されていることがわかる。なお、グラフβ2ではグラフβ1よりも実行条件の閾値を緩和しているので、G2>G1となっており、学習結果の補正量の精度が落ちていることを示している(もちろんG2であっても許容範囲内である)。
ステップS14Bにて各閾値を緩和するように変更した場合、
図5のグラフβ1(ステップS14Aの閾値を用いた場合)ほどのずれ量の低減効果を得ることは困難であるが、グラフβ2に示すように、グラフα1よりも大きな低減効果(ずれ量の低減効果)を得ることができる。
【0028】
●[第2の実施の形態の考え方(
図6)と処理手順(
図7)]
次に
図6、
図7を用いて、内燃機関の燃料噴射量学習方法の第2の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態は、学習頻度が所定頻度に達していない場合に、実行条件の判定に用いる閾値を強制的に緩和して、学習結果の補正量の精度を多少落としてでも(許容範囲内で精度を落とす)学習制御を実行するものである。
これに対して第2の実施の形態は、学習結果の補正量の精度を落とすことなく、学習の実行条件の判定を、適切に広げて学習頻度の増加を狙うものである。
【0029】
図6において、横軸はインジェクタからの燃料の噴射圧力を示しており、縦軸は冷却水温や大気圧等の学習制御の実行条件の各閾値の高さをイメージ的に示している。
内燃機関では、運転状態に応じて燃料の噴射圧力を変更する場合があり、噴射圧力を高くするほど、学習制御の実行条件の各閾値の高さを高くする必要がある。
図6における境界線Lは、燃料噴射圧力に応じた閾値の限界許容位置を示している。例えば燃料噴射圧力が圧力Phの場合、閾値はTh以上であればよいことを示している。
例えば圧力Pgまでの燃料噴射圧力が学習可能噴射圧力である場合、従来の学習制御の実行条件では、学習可能噴射圧力内のいかなる圧力であっても学習制御の実行条件の判定が適切となるように(例えば燃料噴射圧力が圧力Phである場合、Thを閾値とすることなく、Tgを閾値として)、
図6における領域R1内にて学習制御を実行していた。
つまり、本来の学習制御の実行許可領域は、領域R1+領域R2であるにもかかわらず、従来では学習制御の実行条件の閾値が最適設定されておらず、領域R1のみで学習制御の実行条件が判定されていた。
そこで、第2の実施の形態では、燃料の噴射圧力に応じて学習制御の実行条件の判定に使用する各閾値を最適に設定することで、学習許可領域を「領域R1のみ」から「領域R1+領域R2」へと拡大することで、学習頻度を増加させる。
【0030】
次に
図7に示すフローチャートを用いて、第2の実施の形態の処理手順について説明する。なお、
図4に示す第1の実施の形態のフローチャートとは、ステップS22〜ステップS30は同じであるので、第1の実施の形態との相違点であるステップS10〜ステップS18を主に説明する。
【0031】
ステップS10にて、制御手段30は、学習タイミングであるか否かを判定する。燃料噴射量の学習タイミングである場合(Yes)はステップS16に進み、学習タイミングでない場合(No)は処理を終了する。制御手段30は、例えば第1の実施の形態と同様、前回の学習タイミングからの走行距離が所定距離となった場合に学習タイミングであると判定する。
ステップS16に進んだ場合、制御手段30は、制御手段30で判断した学習を実施する燃料圧力を検出し、ステップS18に進む。
ステップS18にて、制御手段30は、検出した燃料圧力に応じた冷却水の温度の判定用の閾値Wnをマップ等から求め、求めた閾値Wnを、水温閾値Swに代入し、検出した燃料圧力に応じた大気圧の判定用の閾値Pnをマップ等から求め、求めた閾値Pnを、大気圧閾値Spに代入する。また、制御手段30は、検出した燃料圧力に応じた吸入空気の温度の判定用の閾値Anをマップ等から求め、求めた閾値Anを、吸気温閾値Saに代入し、検出した燃料圧力に応じた燃料の温度の判定用の閾値Fnをマップ等から求め、求めた閾値Fnを、燃料温閾値Sfに代入し、ステップS22に進む。このように、
図6に示す境界線Lに相当する各閾値を設定する。
なお、ステップS16及びステップS18が、学習頻度増加ステップに相当する。
また、ステップS22以降の処理は、第1の実施の形態と同じであるので説明を省略する。
【0032】
以上に説明したように、第2の実施の形態では、燃料の噴射圧力に応じて適切に各閾値を変更することで、従来では学習制御の実行条件が満足される領域が
図6の領域R1のみであったところを、
図6の領域R1+領域R2へと拡大する。これにより、学習制御によるインジェクタの補正量の精度を従来と同等に確保しつつ、学習制御の頻度を従来よりも増加することができる。
従って、近距離運転が繰り返された場合等、学習制御が実行されにくいような運転が繰り返されても、適切に学習制御を行ってインジェクタの適切な補正量を求めることができる。
【0033】
●[第3の実施の形態]
第3の実施の形態は、上記の第1の実施の形態と第2の実施の形態を組み合わせたものである。
第3の実施の形態の処理手順としては、
図4に示す第1の実施の形態のフローチャートの処理手順に対して、ステップS14Aの処理と、ステップS14Bの処理を変更する。第3の実施の形態では、
図4に示すステップS14Aの代わりに、
図7に示すステップS16及びステップS18の処理を実行して
図6に示す境界線Lに相当する各閾値を設定する。また、
図4に示すステップS14Bの代わりに、
図6に示す境界線Lをやや下回るように(実行条件の判定が緩和されるように)各閾値を設定する。
これにより、第1の実施の形態の効果と、第2の実施の形態の効果との、双方の効果を得ることができる。
【0034】
本発明の内燃機関の燃料噴射量学習方法は、本実施の形態で説明した処理、動作等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本発明の内燃機関の燃料噴射量学習方法を適用する対象制御システムは、
図1の例に示すものに限定されず、インジェクタから燃料を噴射する、種々の内燃機関に適用することが可能である。
また本実施の形態の説明では、学習制御の実行条件の冷却水の温度、大気圧、吸入空気の温度、燃料の温度、の全ての閾値を変更したが、冷却水の温度と大気圧の2つの閾値のみを変更するようにしてもよい。あるいは、冷却水の温度、大気圧、吸入空気の温度、燃料の温度、の少なくとも1つの閾値を変更するようにしてもよい。
また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。