(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係る薄膜形成装置の一例を示す概略図である。
図2は、原料ガス噴出口と発熱体との位置関係の一例を示す斜視図である。本実施形態に係る薄膜形成装置1は、
図1に示すように、原料ガス供給管23と、原料ガス供給管23を支持する天面壁2、天面壁2に対向する底面壁3、及び、天面壁2及び底面壁3を接続する側面壁4を有するチャンバ6内に設けられた薄膜形成空間12と、原料ガス供給管23に支持された発熱体18と、を有する発熱体CVD法による薄膜形成装置において、原料ガス供給管23は、薄膜形成空間12に向かって原料ガスを噴出する原料ガス噴出口11を有し、原料ガス噴出口11の一部又は全部は、
図2に示すように、発熱体18に原料ガスを直接的に吹き付けない非吹き付け噴出口であり、非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量が、原料ガスの全供給量の50質量%以上である。
【0017】
チャンバ6は、天面壁2、底面壁3及び側面壁4を有する。チャンバ6の内部には、被蒸着物7を収容して、被蒸着物7の表面に薄膜を形成する反応室となる薄膜形成空間12が設けられている。チャンバ6は、例えば下部チャンバ13と下部チャンバ13の上部に着脱自在に取り付けられて下部チャンバ13の内部をOリング14を介して密封可能とする上部チャンバ15とを有し、上部チャンバ15を図示しない上下駆動機構で上下させて、被蒸着物7の搬入・搬出を行う。天面壁2には、真空バルブ8を介して排気管22を取り付け、薄膜形成空間12内の空気は、図示しない排気ポンプによって排気される。
図1では、チャンバ6を、天面壁2が上方、底面壁3が下方となるよう配置した形態を示したが、天面壁2が下方、底面壁3が上方となるように配置してもよい。
【0018】
被蒸着物7は、
図1に示すように、プラスチック容器であることが好ましい。プラスチック容器は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有する剛性容器と剛性を有さないシート材によって形成されたフレキシブル容器とを含む。プラスチック容器の材質は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマー樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂である。これらは、1種を単層で、又は2種以上を積層して用いることができるが、生産性の点で、単層であることが好ましい。また、樹脂の種類は、PETであることがより好ましい。
【0019】
原料ガス供給管23は、天面壁2に設けたガス供給口16に接続されて、天面壁2に支持され、薄膜形成空間12内に配置される。原料ガス供給管23は、原料ガス流路17と、原料ガス流路17に通じる原料ガス噴出口11とを有する。原料ガス供給管23の材質は、導電体でも絶縁体でもよいが、発熱体18を通電加熱する場合には、適切な導電経路、絶縁手段を用いて発熱体18に通電する回路からの漏電が生じないようにする必要がある。特に、発熱体18を加熱時の変形による漏電を防止するために、発熱体18を支持する支持部品を絶縁体部品とする必要がある場合がある。
【0020】
原料ガス噴出口11は、底面壁3に向かって原料ガスを噴出する底面側ガス噴出口11x又は薄膜形成空間12の側面壁4に向けて原料ガスを噴出する側面側ガス噴出口11yの少なくともいずれか一方であることが好ましい。本実施形態に係る薄膜形成装置1では、原料ガス噴出口11として少なくとも底面側ガス噴出口11xを有することが好ましい。より好ましくは、
図1に示すように、原料ガス噴出口11として底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yの両方を有する。
【0021】
底面側ガス噴出口11xの直径は、0.5〜15.0mmであることが好ましく、2.0〜4.0mmであることがより好ましい。0.5mm未満では噴出口に原料ガスの成分が付着して原料ガスの噴出が妨げられる場合がある。15.0mmを超えると均一なガス供給が困難な場合がある。
【0022】
底面側ガス噴出口11xは、被蒸着物7からの距離L1が5〜100mmとなる位置に配置されることが好ましい。より好ましくは、15〜50mmとなる位置である。距離L1が5mm未満では、膜厚分布が不均一となる場合がある。また、原料ガスが噴出しにくくなる場合がある。距離L1が100mmを超えると、被蒸着物7が例えばプラスチック容器であるとき、容器の底面の膜厚が他の部分と比べて薄くなる場合がある。また、全体的に成膜速度が低下する場合がある。
【0023】
側面側ガス噴出口11yの直径は、0.4mmを超え2.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。0.4mm以下では、噴出口に原料ガスの成分が付着して原料ガスの噴出が妨げられる場合がある。2.0mmを超えると、原料ガスを均一に供給することが困難となる場合がある。側面側ガス噴出口11yの直径は、底面側ガス噴出口11xの直径よりも小さいことが好ましい。
【0024】
側面側ガス噴出口11yの個数は、1〜40個であることが好ましく、2〜12個であることがより好ましく、4〜8個であることが特に好ましい。
図2では、一例として側面側ガス噴出口11yを、原料ガス供給管23の同一横断面上に4個設けたものを2段設けた、合計8個である形態を示したが、本発明は個数及び配置に限定されない。例えば、原料ガス供給管23の同一横断面上に2個、3個又は5個以上設けてもよい。また、原料ガス供給管23の中心軸O方向に沿って一直線状に配置するか、又はずらして配置してもよい。側面側ガス噴出口11yの個数が40個を超えると、各噴出口の孔径を小さくせざるを得なくなるため、原料ガスの成分が付着して原料ガスの噴出が妨げられる場合がある。また、噴出口の加工コストが高くなる。
【0025】
側面側ガス噴出口11yのうち、原料ガス供給管23の底面側ガス噴出口11xを設ける側の先端23aに最も近い側面側ガス噴出口は、該先端23aからの距離L2が10〜100mmとなる位置に配置されることが好ましい。より好ましくは、10〜80mmとなる位置である。さらに好ましくは、30〜60mmとなる位置である。距離L2が10mm未満では、膜厚分布が不均一となる場合がある。また、原料ガスが噴出しにくくなる場合がある。距離L2が100mmを超えると、被蒸着物7がプラスチック容器であるとき、容器の底面近傍箇所の膜厚が他の部分と比べて薄くなる場合がある。
【0026】
原料ガス供給管23の中心軸O方向に隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の距離L3aは、5〜60mmであることが好ましく、20〜40mmであることがより好ましい。距離L3aが5mm未満では、側面側ガス噴出口11yの近傍とそれ以外の領域との間で膜厚分布が不均一となる場合がある。また、原料ガス供給管の加工費用が増加する場合がある。距離L3aが60mmを超えると、膜厚分布が不均一となる場合がある。
【0027】
図3は、
図2のA−A破断面図である。側面側ガス噴出口11yは、
図3に示すように、原料ガス供給管23の中心軸Oに対し回転対称に配置、かつ、原料ガスの噴出し方向Fが、原料ガス供給管23の周方向に傾いていることが好ましい。原料ガスの噴出し方向Fは、原料ガス供給管23の周方向、かつ、天面壁2の方向に傾いていることがより好ましい。原料ガスが、薄膜形成空間中に螺旋状に供給されて、より均一に成膜することができる。
【0028】
原料ガス供給管23が、原料ガス噴出口11として底面側ガス噴出口11xと側面側ガス噴出口11yとを有する場合、側面側ガス噴出口11yの合計面積が、底面側ガス噴出口11xの合計面積以下であることが好ましい。より好ましくは、側面側ガス噴出口11yの合計面積が、底面側ガス噴出口11xの50%以下である。側面側ガス噴出口11yの合計面積が底面側ガス噴出口11xの合計面積を超えると、薄膜形成空間内に、原料ガスを短時間で充満させることができず、効率的な成膜ができない場合がある。
【0029】
発熱体18は、線状の部材であることが好ましい。本明細書では、線状とは、外形が細長い形状をいう。発熱体18の本数は特に制限はなく、
図2では一例として2本である形態を示した。
【0030】
発熱体18は、原料ガス供給管23に支持される。発熱体18の支持方法は、特に制限はないが、例えば、
図1及び
図2に示すように、原料ガス供給管23の側壁の外周面に支持部品35を取り付け、この支持部品35に設けたガイド孔35aに発熱体18を通して支持することが好ましい。
図2では、支持部品35の一例として、原料ガス供給管23に外嵌する中心孔35bと中心孔35bの周りに設けられた複数個のガイド孔35aとを有する蓮根型部材を示したが、本発明はこれに限定されない。
【0031】
発熱体18は、原料ガスとの接触機会を増やすために、例えば、コイルバネ形状、波線形状又はジグザグ線形状に加工した部分(不図示)を設けてもよい。また、
図2では、発熱体18を原料ガス供給管23の側壁の外周面と平行に配置した形態を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、発熱体18を原料ガス供給管23の側壁の外周面に螺旋状に配置してもよい。
【0032】
発熱体18の材料は、特に制限はないが、例えば、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Hf(ハフニウム)、Pt(プラチナ)、Rh(ロジウム)、Fe(鉄)、Ti(チタン)の群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料である。より好ましくは、Mo,W,Zr,Taの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料である。
【0033】
発熱体18は、
図1に示すように、ヒータ電源20に接続された配線19に、接続部26a,26bで接続することが好ましい。これによって、発熱体18を、通電によって発熱させることができる。
【0034】
次に、
図2を参照して、原料ガス供給管23と発熱体18との位置関係を説明する。
【0035】
原料ガス噴出口11の一部又は全部は、発熱体18に原料ガスを直接的に吹き付けない非吹き付け噴出口である。ここで、「原料ガスを直接的に吹き付けない」とは、発熱体18を避けて原料ガスを噴き出すことをいい、より具体的には、
図2に示すように、原料ガス噴出口11を原料ガス噴出口11の開口部の法線方向に投影した投影空間P1,P2内に発熱体18が配置されないことをいう。以降、非吹き付け噴出口の対義語として、原料ガスを直接的に吹き付ける原料ガス噴出口を、直接吹き付け噴出口という。発熱体18に原料ガスを直接的に吹き付けないことで、ガスバリア性の高い薄膜をより効率的に成膜することができる。
【0036】
原料ガス供給管23が有する原料ガス噴出口11の種類別に、好ましい形態例を説明する。なお、次に示す形態は例示であって本発明はこれらのみに限定されない。第一に、原料ガス噴出口11として底面側ガス噴出口11xだけを有する場合、該底面側ガス噴出口11xを非吹き付け噴出口とする。第二に、原料ガス噴出口11として側面側ガス噴出口11yだけを有する場合、側面側ガス噴出口11yの一部又は全部を非吹き付け噴出口とする。第三に、原料ガス噴出口11として底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yの両方を有する場合、(1)底面側ガス噴出口11を直接吹き付け噴出口とし、側面側ガス噴出口の一部又は全部を非吹き付け噴出口とする、(2)底面側ガス噴出口11xを非吹き付け噴出口とし、側面側ガス噴出口11yの一部又は全部を直接吹き付け噴出口とする、又は(3)底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yの全部を非吹き付け噴出口とする。このうち、側面側ガス噴出口11yの全部を非吹き付け噴出口とすることが好ましく、底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yの全部を非吹き付け噴出口とすることがより好ましい。
【0037】
非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量は、原料ガスの全供給量の50質量%以上である。より好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量が原料ガスの全供給量の50質量%未満では、原料ガスの使用量を削減しつつ、高いガスバリア性を有する薄膜を形成することができない。
【0038】
本実施形態に係る薄膜形成装置1では、
図2に示すように、原料ガス供給管23は、原料ガス噴出口11として底面側ガス噴出口11xを有し、薄膜形成空間12に供給される原料ガスの主要部分が、底面側ガス噴出口11xから供給され、かつ、
図1に示すように、発熱体18の表面積の70%以上が、薄膜形成空間12のうち底面側ガス噴出口11xよりも天面壁側の空間12a内に配置されることが好ましい。より好ましくは、発熱体18の表面積の90%以上が、薄膜形成空間12のうち底面側ガス噴出口11xよりも天面壁側の空間12a内に配置される。薄膜形成空間12のうち底面側ガス噴出口11xよりも天面壁側の空間12a内に配置される発熱体18の表面積が70質量%未満では、原料ガスの使用量を削減したとき、均一に成膜できない場合がある。また、底面側ガス噴出口11xから供給される原料ガスの供給量は原料ガスの全供給量の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。このように、原料ガスの主要部分を薄膜形成空間12の底面壁3側に供給しつつ、発熱体18の大部分を薄膜形成空間12の天面壁2側に配置することで、原料ガスが発熱体18の全体にわたってより均一に接触するため、成膜がより均一となり、ガスバリア性の高い薄膜を形成することができる。
【0039】
図4は、
図2のB−B断面図である。底面側ガス噴出口11xを非吹き付け噴出口とする場合、例えば、
図2及び
図4に示すように、発熱体18が原料ガス供給管23の側壁の外周面に沿って配置され、底面側ガス噴出口11xの近傍で原料ガス供給管23の中心軸とは反対方向に反り、かつ、底面側ガス噴出口11xよりも底面壁3側に返し部18aを有する形態とすることが好ましい。被蒸着物7がプラスチック容器である場合、返し部18aを含む幅L4は、口部の内径よりも小さくする。プラスチック容器の口部から挿入する時の位置ずれを考慮すると、(口部の内径−4)mm以下であることがより好ましい。口部の内径は、例えば21.7〜39.8mmである。
【0040】
図5は、
図2のB−B断面図の変形例である。発熱体18は、
図5に示すように、底面側ガス噴出口11xよりも底面壁3側で、原料ガス供給管23の周方向に沿って湾曲した配置としてもよい。このように配置することで、発熱体18の表面積が拡大するため、より効率的に成膜できる。また、図示しないが、底面ガス噴出口11xを非吹き付け噴出口とする場合の別の形態として、発熱体18が底面側ガス噴出口11xよりも天面壁2側に返し部を有する形態としてもよい。
【0041】
発熱体18は、
図1及び
図2に示すように、原料ガス供給管23に設置された支持部品35を介して、原料ガス供給管23の外側に支持され、
図4に示すように、底面側ガス噴出口11xの半径をrxとしたとき、底面側ガス噴出口11xと同心で、かつ、半径が3rxである円R1の外側の領域の上方空間に配置されることが好ましい。より好ましくは、底面側ガス噴出口11xと同心で、かつ、半径が10rxである円(不図示)の外側の領域の上方空間に配置される。発熱体18が円R1の内側の上方空間に配置されると、噴出口から広がりながら噴出した原料ガスに発熱体18が接触して、均一に成膜できない場合がある。また、発熱体18は、底面側ガス噴出口11xと同心で、かつ、半径が100rxである円(不図示)の内側の上方空間に配置することが好ましい。発熱体18が底面側ガス噴出口11xと同心で、かつ、半径が100rxである円(不図示)の外側の上方空間に配置されると、効率的に成膜できない場合がある。また、発熱体18が原料ガス供給管23の側壁の外表面から離れすぎて、被蒸着物7がプラスチック容器である場合、口部21から挿入できない場合がある。
【0042】
図6は、
図2のC部分の正面図である。側面側ガス噴出口11yを非吹き付け噴出口とする場合、
図2及び
図6に示すように、発熱体18は、側面側ガス噴出口11yを側面側ガス噴出口11yの開口部の法線方向に投影した投影空間P2を迂回して配置する。
【0043】
発熱体18は、
図1及び
図2に示すように、原料ガス供給管23に設置された支持部品35を介して、原料ガス供給管23の外側に支持され、
図6に示すように、側面側ガス噴出口11yの半径をryとしたとき、側面側ガス噴出口11yと同心で、かつ、半径が3ryである円R2の外側の領域の上方空間に配置されることが好ましい。より好ましくは、側面側ガス噴出口11yと同心で、かつ、半径が10rxである円(不図示)の外側の領域の上方空間に配置される。発熱体18が円R2の内側の上方空間に配置されると、噴出口から広がりながら噴出した原料ガスに発熱体18が接触して、均一に成膜できない場合がある。また、発熱体18上での反応を効率的に使用できない結果、ガスバリア性の高い緻密な薄膜を形成できない場合がある。また、発熱体18は、側面側ガス噴出口11yと同心で、かつ、半径が100ryである円(不図示)の内側の上方空間に配置することが好ましい。発熱体18が底面側ガス噴出口11xと同心で、かつ、半径が100rxである円(不図示)の外側の上方空間に配置されると、効率的に成膜できない場合がある。
【0044】
側面側ガス噴出口11yが複数個である場合、隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の平均間隔をD1とし、側面側ガス噴出口11yの中心と発熱体18との平均距離をD2としたとき、(数1)の関係があることが好ましい。
(数1)1≦D1/D2≦8
【0045】
すなわち、隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の平均間隔D1が、側面側ガス噴出口11yの中心と発熱体18との平均距離D2の1〜8倍であることが好ましい。より好ましくは、隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の平均間隔D1は、側面側ガス噴出口11yの中心と発熱体18との平均距離D2の2〜5倍である。隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の平均間隔D1が側面側ガス噴出口11yの中心と発熱体18との平均距離D2の1倍未満では、均一に成膜されない場合がある。隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の平均間隔D1が側面側ガス噴出口11yの中心と発熱体18との平均距離D2の8倍を超えると、効率良く成膜できない場合がある。ここで、隣り合うとは、原料ガス供給管23の中心軸O方向に隣り合う関係、原料ガス供給管23の周方向に隣り合う関係及び斜め方向に隣り合う関係を含む。隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間の距離L3a,L3bは、隣り合う側面側ガス噴出口11yの中心間を、原料ガス供給管23の側壁の外周面に沿って結んだ距離である。また、側面側ガス噴出口11yの中心と発熱体18との平均距離をD2とは、側面側ガス噴出口11yごとに、その中心から発熱体18までの最短距離を測定し、その平均を算出したものをいう。
【0046】
原料ガスは、目的とする薄膜の種類によって適宜選択されるものであり、本発明では特に制限はない。薄膜が、例えばSiCO系の薄膜である場合、原料ガス、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物であることが好ましい。具体的には、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物は、例えば、ビニルシラン(H
3SiC
2H
3)、ジシラブタン(H
3SiC
2H
4SiH
3)、ジシリルアセチレン(H
3SiC
2SiH
3)、2‐アミノエチルシラン(H
3SiC
2H
4NH
2)である。この中で、ビニルシラン、ジシラブタン又はジシリルアセチレンであることが好ましい。
(化1)H
3Si‐Cn‐X
化1において、nは2又は3であり、XはSiH
3,H又はNH
2である。
【0047】
原料ガスには、必要に応じてキャリアガスを混合してもよい。キャリアガスは、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスである。
【0048】
次に、本実施形態に係る薄膜形成装置1を用いた薄膜の形成方法を、
図1を参照して、被蒸着物7としてプラスチック容器の内表面に薄膜を形成する方法を例にとって説明する。
【0049】
まず、チャンバ6の上部チャンバ15を上昇させて、下部チャンバ13内にプラスチック容器を収容する。その後、上部チャンバ15を降下させ、原料ガス供給管23及び発熱体18をプラスチック容器の口部21からプラスチック容器内に挿入し、チャンバ6を密閉する。次いで、ベント(不図示)を閉じ、排気ポンプ(不図示)を作動させ、真空バルブ8を開とすることで薄膜形成空間12内の空気を排気する。次いで、発熱体18を例えば通電することで発熱させる。この後、原料ガスを、ガス流量調整器24a,24bで流量制御した状態で、原料ガス供給管23の原料ガス噴出口11から薄膜形成空間12内に噴出する。原料ガスが発熱体18に接触すると化学種34が生成する。この化学種34がプラスチック容器の内壁に到達することで、薄膜が堆積する。薄膜が所定の厚さに達したところで、原料ガスの供給を止め、薄膜形成空間12内を排気し、図示していないリークガスを導入して薄膜形成空間12を大気圧にする。この後、上部チャンバ15を上昇させて、プラスチック容器を取り出す。
【0050】
得られたプラスチック容器は、(数2)で求める、バリア性改良率(Barrier Improvement Factor,以降、BIFという。)が10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。
(数2)BIF=[薄膜未形成のプラスチック容器の酸素透過度]/[薄膜を形成したプラスチック容器の酸素透過度]
【実施例】
【0051】
次に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
図1において、原料ガス供給管23は、外径6mm、内径4mm、長さ270mmのステンレス製の管であって、原料ガス噴出口として底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yを有するものを用いた。底面側ガス噴出口11xは先端を開放して形成した。また側面側ガス噴出口11yは、底面側ガス噴出口11x側の先端23aからの距離L2が50mm、及び、80mmの位置の同一横断面上に、原料ガス供給管23の中心軸Oに対して回転対称に4個ずつ、合計8個形成した。各側面側ガス噴出口11yの直径は1mmとした。発熱体18は、タンタルワイヤ(直径0.05mm、長さ40mm,45mm)を2本用いた。原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置は、
図2に示す配置とし、当該位置での支持は蓮根状の絶縁体部品を用いて行った。すなわち、底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yの全部が非吹き付け噴出口であり、非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量が、全供給量の100質量%となるようにした。さらに、原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置を、発熱体18の表面積の70%が、薄膜形成空間12のうち底面側ガス噴出口11xよりも天面壁側の空間12a内に配置されるようにした。この装置を実施例1の薄膜形成装置とした。
【0053】
(実施例2)
実施例1において、原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置を、底面側ガス噴出口11xを直接吹き付け噴出口となるように変更した以外は、実施例1と同様とした。すなわち、側面側ガス噴出口11yが非吹き付け噴出口であり、非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量が、全供給量の50質量%となるようにした。
【0054】
(実施例3)
実施例1において、原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置を、発熱体18の表面積の90%が、薄膜形成空間12のうち底面側ガス噴出口11xよりも天面壁側の空間12a内に配置されるようにした以外は、実施例1と同様とした。
【0055】
(実施例4)
実施例1において、原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置を、発熱体18の表面積の60%が、薄膜形成空間12のうち底面側ガス噴出口11xよりも天面壁側の空間12a内に配置されるようにした以外は、実施例1と同様とした。
【0056】
(実施例5)
実施例1において、各側面側ガス噴出口11yの直径は1.5mmとした以外は、実施例1と同様とした。
【0057】
(比較例1)
実施例1において、原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置を、底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yを直接吹き付け噴出口となるように変更した以外は、実施例1と同様とした。すなわち、非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量が、全供給量の0質量%となるようにした。
【0058】
(比較例2)
実施例1において、原料ガス供給管23を、外径6mm、内径4mm、長さ270mmのステンレス製の管であって、底面側ガス噴出口11xは管の先端に直径0.4mmの孔を形成し、また側面側ガス噴出口11yは、底面側ガス噴出口11y側の先端23aからの距離L2が10,20,30,40,50,60,70,80,90,100mmの位置の同一横断面上に、原料ガス供給管23の中心軸Oに対して回転対称に4個ずつ、合計41個形成したものを用い、原料ガス供給管23に対する発熱体18の配置を、底面側ガス噴出口11x及び側面側ガス噴出口11yを直接吹き付け噴出口となるように変更した以外は、実施例1と同様とした。すなわち、非吹き付け噴出口から噴き出される原料ガスの供給量が、全供給量の0質量%となるようにした。
【0059】
(成膜)
実施例及び比較例の薄膜形成装置を用いて、被蒸着物7としてプラスチック容器の内表面にSiOC薄膜を形成した。プラスチック容器は、内容量500ml、PET製、高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29gのものを用いた。プラスチック容器をチャンバ6内に収容し、1.0Paに到達するまで減圧した。次いで、発熱体18を2本用い、発熱体18に直流電流を24V印加し、2000℃に発熱させた。次いで、ガス流量調整器24aから原料ガスとしてビニルシランを供給し、プラスチック容器の内表面にガスバリア薄膜を堆積させた。原料ガスの供給量は、30sccm、50sccmの各条件とした。その後、原料ガスの供給を止め、薄膜形成空間12内を排気した後、リークガスを導入して、薄膜形成空間12内を大気圧にし、上部チャンバ15を開けてプラスチック容器を取り出した。膜厚は、20nmであった。なお、膜厚は、触針式段差計(型式:α‐ステップ、ケーエルエーテン社製)を用いて測定した値である。ここで、成膜時の圧力を5.0Paとした。また、成膜時間は、3秒間、6秒間の各条件とした。
【0060】
(BIF)
BIFは、数2において、実施例又は比較例の装置で形成したプラスチック容器の酸素透過度の値を「薄膜を形成したプラスチック容器の酸素透過度」として算出した。評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1より、実施例の装置で形成した薄膜を有するプラスチック容器は、原料ガスの供給量が30sccm及び成膜時間が3秒間の条件で、いずれもBIFが10以上となった。これに対して、比較例1の装置で形成した薄膜を有するプラスチック容器は、原料ガスの供給量が50sccm及び成膜時間が6秒間の条件であっても、BIFが10に満たなかった。また、比較例2の装置で形成した薄膜を有するプラスチック容器は、原料ガスの供給量が30sccm及び成膜時間が3秒間の条件では、BIFが10に満たず、原料ガスの供給量が50sccm及び成膜時間が6秒間の条件のとき、BIFが10以上となった。この結果から、BIFを10以上にできる原料ガスの使用量が、実施例の装置では1.5scc(30sccm×3秒)で足り、比較例の装置では少なくとも5scc(50sccm×6秒)以上であり、実施例の装置は、比較例の装置と比較して、原料ガスの使用量を30%以上削減してもBIFを10以上にできることが確認できた。