(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、発明者らは、マイクロ波を吸収して優れた発熱性能を示し、なおかつ、所定温度で昇温を停止するマイクロ波吸収発熱体用MgCuZnフェライト粉を提案した(特許文献1参照)。
特許文献1に記載の技術は、優れた昇温特性を有すると共に、所望の温度でその昇温を止めることができるという優れた技術である。
しかしながら、上記のMgCuZnフェライト粉では、MgCuZnフェライト粉中のZnO比を小さくすると、その昇温停止温度を高温にできるものの、275℃程度が上限である。従って、275℃を超える高温域に昇温停止温度を設定したい場合などに、未だ課題を残していた。
【0007】
ここで、上述した昇温停止温度:Tsは、フェライト粉を圧縮成形した後、焼成して、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約5mmの板状焼結体を作製し、これを市販の電子レンジの中に置いて500Wのマイクロ波を60〜90秒間照射し、温度上昇が停止した時の試料表面温度を測定した値である。
実際に、フェライト粉を発熱体に使用する場合は、陶磁器の表面に釉薬と共に薄くコーティングしたり、耐熱樹脂に混練してシート状で使用したりすることが多い。このような場合は、上記の板状焼結体で測定した場合に比べると、発熱体の含有量が少ないために発熱量が低下する。また、陶磁器に添加した場合は、耐火物生地に熱を奪われ、樹脂シートの場合は、厚さが薄いために表面からの放熱の影響を受けやすくなる。
従って、上記板状焼結体で評価した昇温停止温度に比べると、実使用条件の昇温停止温度は低下しやすい傾向にあるという問題が明らかになった。
【0008】
すなわち、上記の問題を考慮すると、食材に焦げ目を付ける調理に最適な200〜300℃の温度範囲で昇温を停止するためには、300℃をはるかに超える450〜550℃程度の温度で昇温停止するフェライト粉が求められることになる。
一方で、食材を蒸したり茹でたりするような調理器具には100℃程度が、また、携帯用カイロや温湿布等のように人体に直接触れる可能性のある保温材には50〜80℃程度が、と目的によって最適な昇温停止温度は異なってくる。
【0009】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、所定温度までの発熱性能に優れるのはいうまでもなく、50〜550℃という広い範囲の昇温停止温度を任意に選択できるマイクロ波吸収発熱体用NiCuZnフェライト粉を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記した発熱体用MgCuZnフェライト粉の種々の問題を解決するために、550℃程度まで昇温停止挙動を発現するフェライト粉およびそれを用いた発熱体の作製について鋭意検討を加えた。
はじめに、MgCuZnフェライト粉を用いた発熱体で、昇温停止温度の上限が275℃程度である原因を考察した。その結果、発熱体が、高温域で放熱に打ち勝ってさらに昇温し続けるためには、ある程度の飽和磁化が必要であることが分かった。しかしながら、昇温停止温度が高くなる組成のMgCuZnフェライト粉では、キュリー温度Tcが高温化すると同時にフェライト粉の飽和磁化の値σsが低くなってしまう。このために、発熱体の放熱量がその発熱量を上回ることになり、発熱体は275℃以上に昇温し続けることができなくなることが分かった。
【0011】
そこで、発明者らがさらに解析した結果、MgCuZnフェライト粉の場合、この閾値となる温度は275℃であり、その時の飽和磁化の値が15(emu/g)であることを見出した。併せて、フェライト粉の放熱量は、環境温度(電子レンジの庫内雰囲気の温度は空調使用下で約25℃)と発熱体温度との温度差に比例することが解明された。
上記した知見から、放熱に打ち勝つために最低限必要な飽和磁化の値σsと、発熱体温度Tとの関係は、(T、σs)=(275、15)と(25、0)を結ぶ直線で表すことができることが明らかとなり、その式は、
X=0.06×T−1.38・・・(A)
となることが分かった。
そして、T=Tsにおいて、X値以上のσsを確保することができれば、発熱体は、自身の放熱に打ち勝ち、昇温可能であることを知得した。
【0012】
ここで、例えば、Ts=450℃を実現するために必要な飽和磁化の値σsは、上記した(A)式より、450℃でX=25.6であるから、σs≧25.6(emu/g)の関係を満足することが必要となる。また、Mg系フェライトより磁束密度の高いフェライトとしては、Mn系フェライトおよびNi系フェライトが広く知られているが、一般的なMn系フェライトは、キュリー温度Tcが300℃以下であり、450℃ではσs=0である。一方、Ni系フェライトは、キュリー温度Tcが580℃以下であり、組成を適正に選ぶことで550℃程度でも磁性を示す磁性体となる。
【0013】
さらに、発明者らが考察を加えた結果、高温域まで磁性を有するNiOを主成分とするフェライトの成分組成だけでなく、素材であるフェライト粉の粒子径を適切に選定することにより、550℃程度の高温域であっても、昇温停止温度を調整できることを知見したのである。
【0014】
すなわち、主成分のFe
2O
3,NiO,ZnOおよびCuOの組成比とマイクロ波照射による温度上昇特性の関係を調べることで、昇温速度および到達温度の観点から最適な範囲を見出し、フェライト粉の粒子径と昇温挙動の関係を調べることで、粒子径に最適な範囲があることを見出したのである。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.鉄酸化物がFe
2O
3換算で46〜51mol%、
銅酸化物がCuO換算で
4〜8mol%および
亜鉛酸化物がZnO換算で0mol%超,
23.0mol%以下を含み
、残部はニッケル酸化物および不可避的不純物からなるNiCuZnフェライト粉
の製造方法であって、
該NiCuZnフェライト粉の平均粒子サイズが2〜500μmの範囲で、該NiCuZnフェライト粉の焼成温度が850〜1200℃であり、かつ該NiCuZnフェライト粉の昇温停止温度Ts(℃)と昇温停止温度における飽和磁化の値σs
1(emu/g)とが、下記(1)式を満足することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体用NiCuZnフェライト粉
の製造方法。
記
σs
1≧0.06×Ts−1.38 ・・・(1)
【0016】
2.前記1に記載の
製造方法により製造されたNiCuZnフェライト粉を、少なくとも一部に含有する
マイクロ波吸収発熱体を製造することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体
の製造方法。
【0017】
3.前記1に記載の
製造方法により製造されたNiCuZnフェライト粉を、少なくとも表面に有する
マイクロ波吸収発熱体を製造することを特徴とするマイクロ波吸収発熱体
の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うマイクロ波吸収発熱体は、電子レンジの2.45GHzのマイクロ波を効果的に吸収して急速に加熱、昇温し、かつ50〜550℃という広い温度範囲における任意の温度で、その昇温を停止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明のNiCuZnフェライト粉(以下、単にフェライト粉ともいう)の飽和磁化の値(以下、σsとも記す)について説明する。
本発明では、昇温停止温度(以下、Tsとも記す)におけるσsをσs
1とすると、
σs
1≧0.06×Ts−1.38 ・・・(1)
の関係を満足することが重要である。
【0021】
前述したように、磁性体の磁気損失を利用して、マイクロ波吸収発熱効果を得る場合、ある程度の大きさのσsが必要である。特に、300〜550℃程度の高温域まで昇温させる場合、発熱体の放熱の影響が大きくなるため、それらの温度でσs
1が一定値、すなわち上掲(1)式の右辺の値(以下、X値という)以上であることが重要である。
すなわち、σs
1がX値に満たない場合、そのマイクロ波吸収発熱体は、放熱量が発熱量より大きくなって昇温することができない。
【0022】
ここで、本発明におけるTsとは、フェライト粉を圧縮成形した後、焼成して、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約5mmの板状焼結体を作製し、市販の電子レンジを用いて、500Wのマイクロ波を照射した後の試料表面温度が、60〜90秒間、ほとんど温度変化がなく一定と見なされた時の温度とする。なお、上記試料表面温度は、放射温度計で測定する。
また、飽和磁化の値σsとは、振動試料型磁束計(VSM)を用いて、測定対象となる温度で印加磁場強度を10(kOe)として測定して得られる値であり、本発明では、Tsで測定したときの飽和磁化の値をσs
1とする。
【0023】
次に、本発明のNiCuZnフェライト粉の基本組成について説明する。なお、以下に示すNiCuZnフェライト粉の成分組成を表す%表示は、とくに断らない限りmol%を意味する。
鉄酸化物:Fe
2O
3換算で46〜51%
鉄は、フェライト相の安定性および比抵抗に影響を与え、マイクロ波印加による昇温速度に大きく作用する。鉄酸化物量がFe
2O
3換算で46%に満たないと、フェライト以外の相が生成してフェライト単相を得ることが難しくなり、発熱体の昇温速度が低下する。一方、鉄酸化物量がFe
2O
3換算で51%を超えると、発熱体の比抵抗が低下して金属のようにマイクロ波を反射して発熱性能が低下したり、マイクロ波を照射した時にスパークするおそれすら生じる。従って、鉄酸化物量はFe
2O
3換算で46〜51%の範囲に限定する。好ましくは48〜49.8%の範囲である。
【0024】
銅酸化物:CuO換算で3〜14%
銅は、マイクロ波印加による昇温特性において、高温での昇温停止挙動に影響する。銅酸化物量がCuO換算で3%に満たないか、または14%を超えたときは、いずれの場合も、発熱体の昇温が停止せずに、マイクロ波照射と共に、発熱体の温度が上昇し続けてしまう。従って、銅酸化物量はCuO換算で3〜14%の範囲に限定する。好ましくは4〜10%、さらに好ましくは4〜8%の範囲である。
【0025】
亜鉛酸化物:ZnO換算で0%超,38%以下
亜鉛は、マイクロ波印加による昇温特性において、Tsに影響する元素である。亜鉛酸化物量をZnO換算で0%超,38%以下に調整することで、50〜550℃の広い温度範囲にわたってTsを任意に設定することができる。
ここに、亜鉛酸化物量が多いほどTsが低下し、ZnO換算で38%を超えると、Tsが50℃未満になるため、加熱調理用用具として適さなくなる。一方、亜鉛酸化物がゼロの場合は、発熱体の温度が停止しない。また、亜鉛酸化物が少ないほどTsは上昇するものの、亜鉛酸化物量が少なすぎると、高温域におけるσsが低下し、上掲(1)式を満足することが難しくなる場合がある。
従って、亜鉛酸化物量はZnO換算で0%超,38%以下の範囲に限定する。好ましくは1〜38%、より好ましくは2〜38%、さらに好ましくは5〜38%の範囲であって、10〜35%の範囲がより望ましい。
【0026】
残部:ニッケル酸化物および不可避的不純物
残部の主成分であるニッケル酸化物の量は、NiO換算で0%超,46%以下が好ましい。というのは、NiOが46%を超えると、異相が析出しやすくなり、昇温特性が劣化するからである。なお、NiOが少ないと、σs
1が(1)式を満足する範囲が狭くなり、他の成分や焼成温度を細かく設定する必要が生じる。従って、より好ましいニッケル酸化物量の範囲は、NiO換算で5〜40%であり、さらに好ましくは10〜35%の範囲である。
また、フェライト粉中には、原料成分や製造過程で、SiO
2やMn,Ca,AlおよびPなどが不可避的不純物として混入する場合があるが、これらは、合計量が0.5%以下であれば特に問題はない。
【0027】
以上、本発明のNiCuZnフェライト粉の成分組成について説明したが、本発明では、成分組成が上記の範囲を満足するだけでは不十分で、フェライト粉の粒径を所定の範囲におさめることが肝要である。
フェライト粉の平均粒子サイズ:2〜500μm
フェライト粉の粒子サイズは、マイクロ波の吸収効率に大きく影響する。フェライト粉を樹脂と混練する際、所望する発熱量を得るために、樹脂との合計量に対して10〜80mass%程度のフェライト粉を添加することが望ましいが、粒子が2μmより細かいと、マイクロ波吸収発熱体のマイクロ波の吸収効率が低くなり、温度上昇速度および到達温度が低下するため、食品を均一かつ高速に加熱することができない。一方、粒子サイズが500μmを超えると、樹脂や釉薬に添加して使用した時に滑らかな表面が得られなくなる。なお、上記混練時の比率は、50〜75mass%程度がより望ましい。
従って、本発明に従うフェライト粉の平均粒子サイズは2〜500μmの範囲に限定する。好ましい平均粒子サイズは2〜250μm、より好ましくは5〜100μmの範囲である。なお、平均粒子サイズは、従来公知の粉末粒径測定法によって算出される平均粒径を用いることができるが、測定精度等を考慮すると、レーザー回折式粒度分布計で測定した時に得られる50%粒径値(D
50)で評価することが好ましい。
【0028】
次に、上記のフェライト粉を用いた電子レンジ用の加熱調理器具、例えば調理皿を製造する場合について説明する。本発明では、上記したNiCuZnフェライト粉を、発熱体の少なくとも一部に含有させるか、または、少なくとも表面に有することで、本発明に従うマイクロ波吸収発熱体を得ることができる。
【0029】
まず、上記の好適成分組成に調整したFe
2O
3,CuO,ZnOおよびNiOを出発原料として、混合し、粉砕または成形体とし、850〜1200℃で熱処理(焼成)してフェライト化し、その後必要に応じて粉砕、分級などを施して所定の粒子サイズに調整する。
【0030】
その際、上記した焼成温度は、フェライト生成反応と結晶粒成長に大きな影響を及ぼす。焼成温度が850℃に満たないと、フェライト生成反応が十分に進行せずに、未反応のFe
2O
3やNiOが残留し、マイクロ波吸収発熱性能が低下するおそれがあるため、好ましくない。一方、焼成温度が1200℃を超えると、異相であるCu
2Oが析出し、誘電特性が変化するために、昇温を停止するという挙動特性が得られなくなり、好ましくない。従って、焼成温度は850〜1200℃の範囲が好ましい。より好ましくは、900〜1150℃の範囲である。なお、焼成時間については、特別の限定はないが、0.5〜10h程度とするのが好ましい。
また、本発明のNiCuZnフェライト粉は、混合焙焼法や共沈法など特殊なフェライト原料製造方法を用いることもできる。
【0031】
本発明では、陶磁器等の電子レンジ用の加熱調理器具の原料に、上記の方法で得られたNiCuZnフェライト粉を、10mass%以上添加した原料を用いて調理皿を作製することができる。すなわち、フェライト粉をマイクロ波吸収発熱体の一部に含有させることができる。また、フェライト粉(すなわち100mass%)を所定の形状に成形し、焼成して電子レンジ用調理皿とすることもでき、表層として表面の一部に含有していても良い。
【0032】
また、上記の方法で得られたNiCuZnフェライト粉に、耐熱樹脂あるいは釉薬などを混合し、調理皿の表面に塗布したり、接着したりして使用する、すなわちフェライト粉をマイクロ波吸収発熱体の表面に具えることができる。その際の厚みは、塗布する場合で、50〜500μm程度が、また接着して使用する場合で、10〜200μm程度が、さらに上記の表層として表面の一部に含有している場合で、0.1〜3mm程度が好ましい。
【0033】
その他のNiCuZnフェライト粉を製造する工程およびマイクロ波吸収発熱体を製造する工程は、特に限定はなく、いわゆる常法に従えば良い。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
〔実施例1〕
成分組成比が、Fe
2O
3:NiO:ZnO:CuO=49:残部:18:0〜15(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、1150℃で焼成し、ついで解砕、分級して、平均粒径D
50=55μmのNiCuZnフェライト粉とした。ついで、得られたNiCuZnフェライト粉にポリビニルアルコール(PVA)を少量添加して混合した後、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約5mm、質量:30gの板状に成形し、1100℃で熱処理してNiCuZnフェライト板を作製した。
得られたNiCuZnフェライト板を市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜60秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定した。
【0035】
図1に、NiCuZnフェライト粉中のCuO含有量が昇温特性に及ぼす影響を、マイクロ波照射時間とサンプル表面の温度との関係で示す。同図から明らかなように、本発明に従うCuO量範囲のNiCuZnフェライト板は、いずれも約340℃で、その表面温度の昇温が停止することが確認された。一方、比較例は、所定温度で昇温停止せずに、発熱し続けた。
さらに、昇温停止の確認できた発明例1〜3の粉末のσs
1を測定したところ、Ts=325〜348℃に対して、σs
1=22〜25(emu/g)であり、Ts=325〜348℃におけるX値(=0.06×Ts−1.38)をいずれも上回っていた。
【0036】
〔実施例2〕
成分組成比が、Fe
2O
3:NiO:ZnO:CuO=49.5:残部:2〜38:6(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、1100℃で焼成し、ついで粉砕、分級して、D
50=35μmのNiCuZnフェライト粉を得た。ついで、得られたNiCuZnフェライト粉にポリビニルアルコール(PVA)を少量添加して混合した後、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約5mm、質量:30gの板状に成形し、1075℃で熱処理してNiCuZnフェライト板を作製した。
得られたNiCuZnフェライト板を市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定し、60〜90秒の飽和温度からTsを見積もった。
図2に、得られた結果を示す。
【0037】
同図に示した結果より、本発明の範囲でZnOを配合したNiCuZnフェライト板では、ZnOの配合量を調整することにより、Tsを50〜550℃の間において、任意の温度に調整できることが確認された。
さらに、上記フェライト粉のσs
1を測定した。
図3に示すように、本発明の範囲でZnOを配合したNiCuZnフェライト板は、そのいずれもが前掲(1)式を満足することが確認された。
【0038】
〔実施例3〕
成分組成比が、Fe
2O
3:NiO:ZnO:CuO=48.5:27.5:18:6(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、大気中、800〜1250℃の温度で2時間焼成し、粉砕、分級してD
50が約20μmのNiCuZnフェライト粉を得た。上掲
図2に示したとおり、ZnO=18(%)の時は、Tsが343℃となるため、得られたNiCuZnフェライト粉の343℃におけるσs
1をVSMを用いて測定した。
ついで、これらのフェライト粉をシリコン樹脂と混練して、フェライト粉:樹脂=70:30(mass%)のシートを成形し、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約1mmのシート状に切り出して、焼成温度の異なる種々のNiCuZnフェライトシートを作製した。得られたNiCuZnフェライトシートを市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定し、昇温特性を調べた。
なお、昇温特性の昇温停止有無の評価は、
○:明瞭に停止(60秒後と90秒後の成形体表面の温度差が10℃未満)
△:不明瞭(60秒後と90秒後の成形体表面の温度差が10℃以上,30℃未満)
×:昇温し続ける(60秒後と90秒後の成形体表面の温度差が30℃以上)
とした。
昇温特性の測定結果を、表1および
図4にそれぞれ示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1および
図4に示したように、焼成温度が本発明の範囲を満足した場合には、Tsにおけるσsが前記X値より大きくなり、明瞭な昇温停止挙動を示すことが判る。
【0041】
〔実施例4〕
成分組成比が、Fe
2O
3:NiO:ZnO:CuO=48.5:27.5:18:6(%)となるように秤量し、ボールミルで湿式混合した後、大気中1100℃で2時間焼成し、粉砕、分級して、D
50=1〜600μmのNiCuZnフェライト粉を得た。
ついで、これらのNiCuZnフェライト粉をシリコン樹脂と混練して、フェライト粉:樹脂=70:30(mass%)のシートを成形し、縦:40mm×横:40mm×厚さ:約1mmのシート状に切り出して、焼成温度の異なる種々のNiCuZnフェライトシートを作製した。得られたシートの表面状態を目視観察した。さらに、市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の成形体表面の温度を放射温度計で測定し、昇温特性を調べた。
昇温特性の測定結果を、表2および
図5にそれぞれ示す。なお、昇温停止有無の評価基準は、実施例3と同じである。
【0042】
【表2】
【0043】
表2および
図5に示したように、粒子サイズが本発明の範囲を満足した場合には、昇温速度が速く、かつ表面状態の良好なシートを得ることができる。
【0044】
〔実施例5〕
市販の陶磁器用耐熱粘土を用いて、直径:80mm、厚さ:5mmの皿型試験片を成形し、900℃で1時間、焼成して素焼きとした。
ついで、市販の耐熱粘土用釉薬に、実施例3における試料No.3のフェライト粉を添加し、イオン交換水で粘度調整してフェライト粉含有釉薬を作製した。フェライト粉の添加比率は、耐熱釉薬の固形分
質量:100に対して、フェライト粉を30の配合とした。その後、素焼きの片面にフェライト含有釉薬を塗布し、乾燥した後、1100℃で2時間、焼成して、表面にフェライト発熱体層を有する試験片を作製した。かかる試験片の破断面をSEM観察することより、試験片の表面に、厚さ:約150μmのフェライト含有層が形成されていることを確認した。
一方、比較のために、フェライト粉を添加しない釉薬を用いて、同様の方法で試験片を作製した。
【0045】
本発明の試験片を市販の電子レンジの中に置き、500Wのマイクロ波を10〜90秒間照射した時の試料中央部の表面温度を放射温度計で測定したところ、60秒でほぼ昇温停止し、90秒では270℃であった。一方、比較の試験片では照射時間とともに緩やかに温度上昇し続け、90秒で65℃であった。
【0046】
続いて、試験片の上に切り込みを入れたウインナーソーセージを載せ、市販の電子レンジの中に置き、500W、70秒間マイクロ波を照射した。本発明の試験片では、ウインナーソーセージの内部まで均一に加熱され、かつ表面には適度な焦げ目が付いた。一方、比較の試験片では,ウインナーソーセージは加熱されたが、水分が蒸発して表面が固化し、焦げ目を付けることはできなかった。
【0047】
以上のように、表層に本発明のフェライト粉を含有する試験片を用いれば、試験片自体がマイクロ波を吸収して200℃以上の高温に発熱するため、食材を温めるだけでなく、焦げ目を付ける調理も可能であることが判る。
【0048】
上記したそれぞれの実施例で示したように、本発明に従うNiCuZnフェライト粉は、マイクロ波照射によって急速に昇温し、しかも、NiCuZnフェライト板では、50〜550℃の範囲の所期した温度で昇温が停止するという、本発明の効果が確認された。なお、本実施例では、発熱体の少なくとも一部(表層含む)にNiCuZnフェライト粉を含有する調理器具の発明例を示してはいないが、本発明に従うかぎり、いずれも上記したシート同様、良好な発熱性能と昇温停止性を有していることが確認された。