【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0043】
(実施例1〜4の共通条件)
外径150mm以上の石英ガラス母材から、必要重量の塊を切り出し、カーボンを型として溶融・圧縮・成型を行い、外径350mm厚み70mmの寸法を有する平らな円柱形状の合成石英ガラス100を得た。この得られた合成石英ガラス100に対し、
図2に示したような、ヒーター13等を備えた熱処理炉(大気炉)11にて、実施例1〜4として、条件を変えて熱処理(アニール処理)を行った。
【0044】
このアニール処理では、平らな円柱形状の合成石英ガラスを包含することが可能な石英ガラス製の容器を用いた。これらは円板形状の下部断熱材(下板)31、同じく円板形状の上部断熱材(上板)32、円筒形状であるリング状断熱材33からなり、処理条件に応じて種々のサイズを必要とする。それぞれの断熱材の肉厚は、下部断熱材31が20mm、上部断熱材32が20mm、リング状断熱材33が20mmのものを用いた。
【0045】
さらに、合成石英ガラス100と石英ガラス容器の間隙には充填可能な断熱材34としてSiO
2粉(Unimin社製Iota粉、粒径:〜400μm、Al:〜30ppm)を用いた。
【0046】
熱処理を施す温度プログラムは、
図4に示す温度プログラムを用いた。すなわち、加熱開始から10時間かけて1200℃まで昇温し、1200℃で50時間維持した後、100時間かけて1000℃まで降温し、その後、ヒーターによる加熱を停止し、放冷した。
【0047】
(実施例1)
外径350mm厚み70mmの合成石英ガラス100を、内径540mmの石英ガラス製のリング状断熱材33に内包し、合成石英ガラス100の上側の底面(上面)102と上部断熱材32との間に2mm厚み、下側の底面(下面)101と下部断熱材31との間に2mm厚み、側面103とリング状断熱材33との間に95mm厚みで石英粉を充填した。
図2に示した熱処理炉(大気炉)11のように、熱処理炉内の炉材12の上にこれを設置し、上記熱処理を施した。
【0048】
(実施例2)
外径350mm厚み70mmの合成石英ガラス100を、内径390mmの石英ガラス製のリング状断熱材33に内包し、合成石英ガラス100の上側の底面102と上部断熱材32との間に20mm厚み、下側の底面101と下部断熱材31との間に20mm厚み、側面103とリング状断熱材33との間に20mm厚みで石英粉を充填した。
図2に示した熱処理炉(大気炉)11のように、熱処理炉内の炉材12の上にこれを設置し、上記熱処理を施した。
【0049】
実施例1及び実施例2の合成石英ガラス100はそれぞれ、熱処理後にユニオプト社製の複屈折測定器(波長=633nmの光源)で複屈折を測定すると、
図5(a)(実施例1)及び
図6(a)(実施例2)のグラフに示した複屈折の値(位相差)を持つことが分かった。グラフ中では符号付の絶対値で各位置における複屈折値を示した。この符号で進相軸の軸向きを示した。正の値は、半径方向に対して「+45°〜−45°」の角度(
図3の角度範囲A、半径方向)、負の値は、半径方向に対して「+135°〜+45°、又は−45°〜−135°」の角度(
図3の角度範囲B、接線方向)を持つことを示している。また、この測定により得られた、実施例1及び実施例2のそれぞれの合成石英ガラス100の複屈折進相軸の角度分布を
図5(b)(実施例1)及び
図6(b)(実施例2)に示した。
【0050】
図12は、1つの合成石英ガラス101の複屈折進相軸の方向の定義を説明するための模式図である。
図12(a)には、合成石英ガラス101の上面から見た様子を示している。
図12(b)は
図12(a)の中心Oを通る1つの半径方向を拡大して示した拡大図である。
図12(a)、(b)に示したように、合成石英ガラス101の半径方向に複屈折を測定するときに、中心Oを通る1つの半径方向の複屈折測定点を中心側からa
1、a
2、…、a
i、…、a
nとする。
【0051】
図12(c)を参照して、測定点a
iにおける複屈折進相軸の方向の定義を説明する。
図12(c)に示したように、測定点a
iにおいて、便宜上、半径方向(放射方向)をX方向、接線方向(同心円方向)をY方向とする。また、進相軸の方向が、X方向と成す角度をθ
iとする。ここで、複屈折の大きさ(位相差)をRe
iとすると、測定点a
iにおける複屈折は、以下のように、半径方向成分と接線方向成分に分けることができる。
半径方向成分 = Re
i・cosθ
i
接線方向成分 = Re
i・sinθ
i
【0052】
半径方向の各測定点a
1、a
2、…、a
i、…、a
nで測定した、上記の半径方向成分及び接線方向成分の平均値を比較して、1つの合成石英ガラス101についての複屈折進相軸の方向を定義する。
【0053】
1つの合成石英ガラス101における、複屈折の大きさの半径方向成分の平均値は、以下のように表される。
【数1】
1つの合成石英ガラス101における、複屈折の大きさの接線方向成分の平均値は、以下のように表される。
【数2】
上記平均値を比較し、その比が2:1以上に偏った場合に、その比2以上の成分を、その合成石英ガラス101の進相軸方向と定義する。
【0054】
これに従って計算すると、実施例1では半径方向成分の平均値が0.29nm/cm、接線方向成分の平均値が0.05nm/cmであり、熱処理した合成石英ガラスの複屈折進相軸の方向は半径方向である。実施例2では、半径方向成分の平均値が0.03nm/cm、接線方向成分の平均値が0.23nm/cmであり、熱処理した合成石英ガラスの複屈折進相軸の方向は接線方向である。
【0055】
なお、波長633nmで測定した複屈折は、紫外光における複屈折とは厳密には一致しないが、複屈折進相軸の方向は同様の傾向となる。紫外光のように測定波長より短波長の光を使用すると複屈折位相差は大きくなる傾向にあるが、進相軸の軸向きは変わらない。
【0056】
実施例1及び実施例2で熱処理した合成石英ガラス100は、1回の熱処理により、且つ、原材料のOH基濃度分布を特別限定せずに、複屈折進相軸の方向を制御することができた。
【0057】
この実施例1及び実施例2は、同一炉内、同一バッチで、異なる断熱条件で複数の合成石英ガラス100を処理することが可能であることを示しており、また進相軸の方向が異なる2種類の合成石英ガラス100が得られることを示している。
【0058】
(実施例3)
外径350mm厚み70mmの合成石英ガラス100を、内径590mmの石英ガラス製のリング状断熱材33に内包し、合成石英ガラス100の上側の底面102と上部断熱材32との間に2mm厚み、下側の底面101と下部断熱材31との間に2mm厚み、側面103とリング状断熱材33との間に120mm厚みで石英粉を充填した。
図2に示した熱処理炉(大気炉)11のように、熱処理炉内の炉材12の上にこれを設置し、上記熱処理を施した。
【0059】
その後、実施例1及び実施例2と同様に複屈折分布及び複屈折進相軸の角度分布を測定した結果、
図7(a)、(b)に示す結果となった。また、各測定点における半径方向成分の平均値は0.65nm/cm、接線方向成分が0.04nm/cmであり、複屈折進相軸の方向は半径方向である。
【0060】
(実施例4)
外径350mm厚み70mmの合成石英ガラス100を、内径360mmの石英ガラス製のリング状断熱材33に内包し、合成石英ガラス100の上側の底面102と上部断熱材32との間に20mm厚み、下側の底面101と下部断熱材31との間に20mm厚み、側面103とリング状断熱材33との間に5mm厚みで石英粉を充填した。
図2に示した熱処理炉(大気炉)11のように、熱処理炉内の炉材12の上にこれを設置し、上記熱処理を施した。
【0061】
その後、実施例1及び実施例2と同様に複屈折分布及び複屈折進相軸の角度分布を測定した結果、
図8(a)、(b)に示すようになった。また、各測定点における半径方向成分の平均値は0.05nm/cm、接線方向成分が0.70nm/cmであり、複屈折進相軸の方向は接線方向である。
【0062】
(実施例5)
まず、外径150mm以上の石英ガラス母材から、必要重量の塊を切り出し、カーボンを型として溶融・圧縮・成型を行い、外径350mm厚み70mmの寸法を有する平らな円柱形状の合成石英ガラス100を得た。この得られた合成石英ガラス100に対し、
図1に示したような、ヒーター13等を備えた熱処理炉(大気炉)11にて、熱処理(アニール処理)を行った。
【0063】
外径350mm厚み70mmの合成石英ガラス100を、内径350mm−外径530mmの石英ガラス製のリング状断熱材23に内包し、合成石英ガラス100の上側の底面に厚み5mmの上部断熱材22、下側の底面に厚み5mmの下部断熱材21を用いて覆った。その後、
図1に示した熱処理炉11のように、熱処理炉内の炉材12の上にこれを設置し、
図4に示す温度プログラムで熱処理を施した。すなわち、加熱開始から10時間かけて1200℃まで昇温し、1200℃で50時間維持した後、100時間かけて1000℃まで降温し、その後、ヒーターによる加熱を停止し、放冷した。
【0064】
その後、実施例1及び実施例2と同様に複屈折分布及び複屈折進相軸の角度分布を測定した結果、
図9(a)、(b)に示すようになった。各測定点における半径方向成分の平均値は0.39nm/cm、接線方向成分の平均値は0.04nm/cmであり、複屈折進相軸の方向は半径方向である。
(実施例6)
上部断熱材22の厚みを変更した他は実施例5と同様にして熱処理を行った。すなわち、外径350mm厚み70mmの合成石英ガラス100を、内径350mm−外径390mmの石英ガラス製のリング状断熱材23に内包し、合成石英ガラス100の上側の底面に厚み20mmの上部断熱材22、下側の底面に厚み20mmの下部断熱材21を用いて覆った。その後、
図1に示した熱処理炉11のように、熱処理炉内の炉材12の上にこれを設置し、
図4に示す温度プログラムで熱処理を施した。
【0065】
その後、実施例1及び実施例2と同様に複屈折分布及び複屈折進相軸の角度分布を測定した結果、
図10(a)、(b)に示すようになった。各測定点における半径方向成分の平均値は0.06nm/cm、接線方向成分の平均値は0.37nm/cmであり、複屈折進相軸の方向は接線方向である。
【0066】
実施例1〜6の条件及び結果を表1にまとめた。表1中の数値の単位はmmである。
【0067】
【表1】
【0068】
(比較例)
実施例1〜4と同様に、外径150mm以上の石英ガラス母材から、必要重量の塊を切り出し、カーボンを型として溶融・圧縮・成型を行い、外径350mm厚み70mmの寸法を有する平らな円柱形状の合成石英ガラスを得た。この合成石英ガラスに対し、断熱効果については特に調節せずに石英ガラス製容器と石英ガラス粉により断熱し、均質性の向上や複屈折の低減のために一般的に行われる熱処理を行った。
【0069】
その後、実施例1と同様に複屈折分布及び複屈折進相軸の角度分布を測定した結果、
図11(a)、(b)に示す結果となった。すなわち、複屈折の値が全体に低減されており、均質性が高い合成石英ガラスが得られているが、半径方向に沿って、複屈折進相軸の方向(符号)が中心領域以外でも何度も入れ替わっており、これは複屈折進相軸の分布を制御したものではない。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。