【実施例】
【0019】
本発明の第1実施例を,
図1と
図2を用いて説明する。
図1は,本発明の第1実施例に係る原子炉建屋水素除去設備を備えた原子炉建屋の全体構造を示す断面図である。
図2は,
図1の原子炉建屋の外観を示す図である。第1実施例では,原子炉建屋水素除去設備として天井に設置された水素透過膜の例を示す。
【0020】
図1に示すように,原子炉建屋1内には原子炉格納容器4が設置され,さらに原子炉格納容器4の内部には原子炉圧力容器3が収納されている。水素ガスは,原子力発電所の過酷事故時に原子炉圧力容器3内において,ジルコニウムによる水−金属反応や水の放射線分解により発生する。発生した水素ガスは,原子炉格納容器4内に拡散する。
【0021】
従来においては,水素ガスは原子炉格納容器4内に留まるとの前提で,水素ガスを原子炉格納容器4外へ排出するか,もしくは積極的に燃焼させることによって原子炉格納容器4内雰囲気ガスから水素を除去し,原子炉格納容器4内を可燃限界に至らしめないように対策している。
【0022】
本発明では,過酷事故によって原子炉格納容器4内の水素ガスが原子炉建屋2へ漏洩し,かつこの水素ガスが空気との密度差によって建物上部に向けて上昇し,原子炉建屋2の天井付近に滞留することを想定している。このようにして天井付近に滞留した大量の水素ガスは,可燃限界に到達すると,水素燃焼により水素爆発を引き起こす可能性がある。水素爆発を引き起こすと,原子炉建屋2自体が破壊される恐れがあるので,水素燃焼を防止することは放射性物質の閉じ込めの観点から重要である。
【0023】
以上述べた経緯により,設計基準事故を越えた過酷事故時に原子炉圧力容器3内で発生した水素は原子炉格納容器4を経由して原子炉建屋1の天井付近に滞留する。天井に滞留した水素の濃度が可燃限界を超えると水素燃焼を起こす危険があることから水素を原子炉建屋1の外部に放出する必要がある。
【0024】
本発明の第1実施例では,原子炉建屋1の天井に水素透過膜2を設置する。原子炉建屋1の天井付近に滞留した放射性物質を含む水素ガスは,原子炉建屋1の天井の水素透過膜2から建屋外部に水素ガス21のみが選択的に放出されるが,放射性物質は水素透過膜2を通過しない。このため放射性物質の原子炉建屋1内への閉じ込め効果が期待できる。なお本発明の第1実施例は,原子炉建屋1の天井に水素透過膜を設置するだけであるため,原子力発電の各種型式(沸騰水型原子炉のMarkI型やMarkII型,及びABWR,さらには加圧水型原子炉)にも適用できる。
【0025】
本発明の第1実施例に適用可能な水素透過膜2は,具体的には以下のように構成されるのが良い。まず水素透過膜の材質は主に,金属,高分子,セラミックの3種類の材質に大別され,これ等材質での水素透過膜が形成され設置される。
【0026】
このうち金属膜の水素透過膜は,金属で構成される膜であり,主成分は,パラジウム,ニオブ,バナジウムの3種類の膜に大別される。ニオブ膜やバナジウム膜は水素分離を解離・再結合させるために表面に薄いパラジウム層を持つ。金属膜の特徴は,金属パラジウムが水素ガスを吸着し,吸着した水素が解離し,解離によって生成した水素原子がパラジウム中に溶解し,水素原子が膜内を移動し,膜表面で水素原子が再結合する。ニオブやバナジウムは水素原子をよく透過させることができるが,水素溶解量が多く脆化しやすいため,チタンやニッケルなどの他の金属を添加している。金属膜は,使用温度が数百度程度と高く,耐熱性に優れており,水素透過速度も高いため水素透過膜に適した材料である。
【0027】
高分子膜は,主成分がポリイミド,ポリスルホンとシリコンゴムで構成される膜が存在する。高分子膜の特徴は,分離層(緻密な層)と支持層の2層構造になっており,分離層中にガス分子が溶解して膜を透過する。成分が有機高分子のため,使用温度は150℃以下と低いものの,他の透過膜と比較すると水素透過速度が非常に高いため,設備容積を小さくすることができることを特徴としている。
【0028】
セラミック膜は,セラミックで構成される膜であり,主成分は,窒化ケイ素,シリカで構成される。セラミック膜の特徴は,分離層(緻密な層)と支持層の2層構造になっており,分離層中をガス分子が拡散して膜を透過する。材質がセラミックのため,800℃程度の高温環境でも使用が可能である。ただし,水素透過流速が他の膜と比較すると低いため,設備容量が大きくなる可能性がある。
【0029】
なお原子炉建屋1の天井に設置される水素透過膜の面積は,水素透過膜の材質によって変化するため,原子炉建屋1の天井の設備も水素透過膜の面積に合わせて設計される。
【0030】
さらに第1実施例で使用される水素透過膜は,電源がないパッシブな状態で機能するものであり,ここではガスと接触して水素分離する。この場合に原子炉建屋1内は,過酷事故発生により通常時の負圧から正圧に上昇しているので,正圧による膜浸透の促進が期待できる。但し,過酷事故後の建屋内圧力の具体的な数値は,事故の種類,時間変化などにより変化するが,少なくとも格納容器内圧力上昇の際には建屋内は正圧になっていると考えられる。また,上記各種透過膜の透過度は,圧力以外に膜の厚さ,温度条件などにより変化するが,一般的に物質の性質による透過度は高分子膜>金属膜>セラミック膜と言われている。
【0031】
図2は,
図1の原子炉建屋の外観を示す図であり,原子炉建屋1と水素透過膜2の配置関係が図示されている。水素透過膜2を透過した放射性物質を含まない水素ガス21は建屋から大気に放出される。
【0032】
本発明は,上記のような第1実施例の構造にすることにより,以下のような機能と効果を期待することができる。
【0033】
過酷事故時に水素濃度が可燃限界に到達する前に,水素ガスのみを水素透過膜2から原子炉建屋1の外部に放出することにより,原子炉建屋1の水素燃焼を未然に防止する効果がある。
【0034】
原子炉建屋1天井に水素透過膜2を設置することによって,原子炉建屋1内で発生した水素を選択的に放出させて水素燃焼を防止すると共に放射性物質を原子炉建屋1内部に閉じ込める効果が期待できる。
【0035】
本設備は,外部からの電源を不要とする設備であることから外部電源喪失時にも水素の原子炉建屋1外への放出が可能である。さらに本設備は,原子炉建屋1天井に水素透過膜2を設置した静的安全設備であるため,過酷事故時の運転員操作を不要とする。
【0036】
次に本発明の第2実施例を,
図3と
図4を用いて説明する。
図3は本発明の第2実施例に係る原子炉建屋水素除去設備を備えた原子炉建屋の全体構造を示す断面図である。
図4は,
図2の原子炉建屋の外観を示す図である。第2実施例では,原子炉建屋水素除去設備として天井に設置された開閉天井の例を示す。
【0037】
図3に示すように,原子炉建屋1の天井付近には,自動開閉天井5,水素濃度計測装置6が備え付けられている。また自動開閉天井5,水素濃度計測装置6には,遠隔操作システム8が備え付けられている。また,自動開閉天井5,水素濃度計測装置6,遠隔操作システム8への電源を供給するシステムとして蓄電池システム7が備え付けられている。
【0038】
図3において,自動開閉天井5は,原子炉建屋1天井の内部に組み込まれており,通常運転時には,開閉扉は閉じられており,必要に応じて遠隔操作システム8による開閉操作が可能な設計となっている。自動開閉天井5には遠隔操作システム8が接続されており,運転員が水素濃度計測装置6により天井付近の水素濃度測定値を監視した上で,遠隔操作システム8から天井の開閉を自動で操作することが可能である。また,自動開閉天井5は,蓄電池システム7に何らかの不具合が発生する可能性を考慮して,運転員の手動操作によって開閉を行うことも可能な設計とされるのがよい。
【0039】
原子炉建屋1の天井付近に設置される水素濃度計測装置6は,水素の可燃限界である4%程度の計測が可能な装置であり,原子炉建屋1天井付近の雰囲気中の水素濃度を計測できる。
【0040】
蓄電池システム7は,外部電源喪失を想定して,電源を必要とする自動開閉天井5,水素濃度計測装置6,遠隔操作システム8に取り付けられており,交流電源喪失時にも本システムの操作が可能な設計となっている。また,蓄電池システム7の蓄電池は,過酷事故時に原子炉建屋1内へのアクセスが制限された場合を想定して,原子炉建屋1外のサービス建屋に備え付けられている。蓄電池システム7の機器並びに支持構造物は高耐震構造であり,多重化されているものとする。
【0041】
遠隔操作システム8は,原子炉建屋1以外の建屋に設けられている中央制御室と免震重要棟に備え付けられている。遠隔操作システム8の操作は,中央制御室からの操作を基本とするが,中央制御室が使用できない場合には,免震重要棟から操作するものとする。遠隔操作システム8には水素濃度計測装置6が接続されており,原子炉建屋1天井付近で水素濃度を計測し,中央制御室または免震重要棟で監視することができる。遠隔操作システム8は,自動開閉天井5の左右の扉につながっており,片側の扉の開閉を可能とする設計となっている。
【0042】
なお天井開放の稼働条件について,ここでは水素濃度可燃限界の4%以上かつ酸素濃度5%以上の場合に開放するのがよい。従来においては格納容器内対応なので酸素濃度5%以下に保持している関係で酸素濃度5%以上を稼働条件にしているが,本発明は建屋内なので,水素濃度下限限界の4%以上を条件とするのがよい。
【0043】
上記の設備を用いて運転員は,水素濃度計測装置6が検知した水素濃度を中央制御室または免震重要棟から監視し,水素濃度が可燃限界に到達する前に遠隔操作システム8により自動開閉天井5を操作し,原子炉建屋1上部天井から放射性物質を含む水素ガス22を外部に放出する。
【0044】
本設備は,原子炉建屋1上部及び原子炉建屋1外に機器を設置するため,沸騰水型原子炉でもMarkI型やMarkII型,及びABWRに適用できる上に,加圧水型原子炉にも適用できる。
【0045】
図4は
図1の原子炉建屋の外観を示す図であり,自動開閉天井5の開放により放射性物質を含む水素ガスが大気放出される様子を示している。
【0046】
本発明の第2実施例は,上記のような原子炉建屋1の構造にすることにより,以下のような機能と効果を期待することができる。
【0047】
過酷事故時に水素濃度が可燃限界に到達する前に遠隔操作システム8を作動させて,水素を原子炉建屋1の外部に放出することにより,原子炉建屋1の水素燃焼を未然に防止する効果がある。この場合に,放射性物質を含む水素ガス22が大気放出されることにはなるが,水素燃焼により原子炉格納容器4の内部あるいは原子炉圧力容器3の内部に存在する大量の放射性物質が外部放出される最悪の事態を事前に防ぐことができる。
【0048】
電源は蓄電池システム7を採用することとし,外部電源喪失時にも使用が可能である。また,蓄電池は原子炉建屋1外のサービス建屋に設置することで過酷事故時並びに津波,溢水時の環境条件に対する電源への影響を緩和させる。また,機器並びに支持構造物は高耐震構造であり,多重化されているものとする。
【0049】
天井扉の自動開閉では,遠隔操作システム8を採用することによって,中央制御室及び免震重要棟からの操作を可能とし,中央制御室が使用できない場合には,免震重要棟からの操作を期待できる。
【0050】
本発明の第3実施例を,
図5を用いて説明する。
図5は,本発明の第3実施例に係る原子炉建屋水素除去設備を備えた原子炉建屋の全体構造を示す断面図である。
【0051】
本発明の第3実施例は,第1実施例の水素ガスと放射性物質を分離する水素透過膜の機能と,第2実施例の水素ガスの建屋外放出機構を組み合わせたものである。第3実施例も,原子炉建屋水素除去設備として天井に設置された開閉天井の例を示している。
【0052】
図5では,第2実施例の水素ガスの建屋外放出機構が原子炉建屋1の天井(屋根)に設置されており,第1実施例の水素ガスと放射性物質を分離する水素透過膜2の機能が原子炉建屋1の最上階10の床11に設置されている。なお,最上階10の床11は原子炉格納容器4よりも上部に位置している。
【0053】
この方式によれば,原子炉格納容器4から漏洩した放射性物質を含む水素ガスは最上階10の床11の下部(原子炉格納容器4よりも上部の)天井に滞留し,水素透過膜2の機能により放射性物質と水素ガスに分離される。放射性物質は水素透過膜2を透過しないので最上階10の床11の下部を構成する空間内に留まり,水素ガス21のみが最上階10に透過し,さらに上昇して原子炉建屋1の天井(屋根)付近に滞留する。
【0054】
原子炉建屋1の天井(屋根)付近に滞留した水素ガスが,運転員操作により大気放出されることは本発明の第2実施例と同じである。
【0055】
本発明の第3実施例によれば,第1実施例による効果と,第2実施例による効果を兼ね備えて得ることができる。