(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5913085
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造および方法
(51)【国際特許分類】
D07B 9/00 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
D07B9/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-284263(P2012-284263)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125707(P2014-125707A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080322
【弁理士】
【氏名又は名称】牛久 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100104651
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100114786
【弁理士】
【氏名又は名称】高城 貞晶
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 太輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 幸子
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩
(72)【発明者】
【氏名】蜂須賀 俊次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 建司
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/019075(WO,A1)
【文献】
特開2002−020985(JP,A)
【文献】
特開平02−054049(JP,A)
【文献】
特開2006−176957(JP,A)
【文献】
特開平08−049354(JP,A)
【文献】
実開昭61−161327(JP,U)
【文献】
特開平05−033425(JP,A)
【文献】
米国特許第01894389(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維強化プラスチック製素線を撚り合わせることによって形成される繊維強化プラスチック製線条体の末端部分において,上記線条体の表面のらせん状の谷間に沿って,表面に研磨粒子が付着したフィラー線が巻き付けられ,フィラー線が巻き付けられた部分に表面および裏面に研磨粒子が付着した増摩シートがらせん状に巻き付けられ,さらにその上から金属製素線を編組したネットチューブが被せられており,上記ネットチューブが被せられている部分が,端末スリーブ内にくさびによって挟まれて固定されている,
繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
【請求項2】
上記フィラー線が,上記線条体の表面のらせん状の谷間に対応してあらかじめらせん状に型付けられている,
請求項1に記載の端末定着構造。
【請求項3】
上記フィラー線が,上記線条体の表面の谷間の断面形状に沿う断面形状を持つ,
請求項1または2に記載の端末定着構造。
【請求項4】
上記フィラー線が繊維強化プラスチック製のものである,
請求項1から3のいずれか一項に記載の端末定着構造。
【請求項5】
複数本の繊維強化プラスチック製素線を撚り合わせることによって形成される繊維強化プラスチック製線条体の末端部分において,上記線条体の表面のらせん状の谷間に沿って,表面に研磨粒子が付着したフィラー線を巻き付け,フィラー線が巻き付けられた部分に表面および裏面に研磨粒子が付着した増摩シートをらせん状に巻き付け,さらにその上から金属製素線を編組したネットチューブを被せ,上記ネットチューブが被せられている部分をくさびに挟み込み,これを端末スリーブ内にくさび止めする,
繊維強化プラスチック製線条体の端末定着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に,端末スリーブ(ソケット,定着具)を定着(固定)する端末定着構造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート部材内に埋込まれた緊張材に緊張力を与えることで,その反力としてコンクリート部材にあらかじめ圧縮応力を与えるプレストレストコンクリート構造が知られている。プレストレストコンクリート構造を採用することによって,引張強度が圧縮強度よりも低いコンクリートの欠点が改善され,圧縮にも引張にも強いコンクリート部材が得られる。
【0003】
プレストレストコンクリート構造を採用する場合,コンクリート部材内に埋込まれる緊張材に高い緊張力を与えなければならない。そのためには緊張材の末端部分を安定かつ強固に把持する必要があり,その把持を実現する端末部材を緊張材の末端部分に定着(固定)する必要がある。
【0004】
プレストレストコンクリート構造に用いられる緊張材として,従来,PC鋼撚り線が使用されている。このPC鋼撚り線の末端部分に端末部材を定着させる一般的な方法としてくさび定着が知られている。くさび定着ではスリーブとくさびとが用いられ,くさびによってPC鋼撚り線の末端部分を挟み,これをスリーブ内に引き込む。スリーブの中空およびくさびの外形はいずれも勾配を有しており,スリーブ内をくさびが移動すると勾配によってくさびが中心方向に締め付けられる。この締め付け作用によってくさびがPC鋼撚り線を強く把持する。PC鋼撚り線に与えられる緊張力に応じて把持力が増加するので,PC鋼撚り線の末端部分に強固にスリーブを定着することができる。
【0005】
PC鋼撚り線に代えて,繊維樹脂複合撚り線(繊維強化プラスチック製撚り線)が緊張材として用いられるようになってきている。繊維樹脂複合撚り線は,炭素繊維等の高強度繊維とエポキシ等の樹脂とを複合化して形成される素線を撚り合わせてストランド状に成型したものであり,軽量,高強度,高弾性,耐食性等の優れた性質を有し,特に塩害地域におけるプレストレストコンクリート構造の緊張材として好適に使用することができる。
【0006】
しかしながら,PC鋼撚り線に比べて繊維樹脂複合撚り線はせん断力に弱い。PC鋼撚り線に用いられるくさび定着をそのまま繊維樹脂複合撚り線に用いると,くさびの咬み込みによって繊維樹脂複合撚り線が損傷を受け,繊維樹脂複合撚り線がくさびから抜け出たり,損傷部分の強度が低下して破断に至る可能性がある。
【0007】
このような繊維樹脂複合撚り線の損傷発生を防止して把持力を向上させるための構造が,特許文献1および特許文献2に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−272889号公報
【特許文献2】国際公開WO2011/019075
【0009】
特許文献1は,撚合体の末端部分にあらかじめ熱硬化性樹脂を塗布して円筒状に成型し,これを緩衝層とするものを開示する。緩衝層によって撚合体の損傷を防ぐことができる。しかしながら,熱硬化性樹脂を塗布して円筒状に成型するには成型のための設備が必要とされ,さらに熱硬化性樹脂が硬化するのを待たなければならない。このため特許文献1に記載のものでは現場における端末部材の定着は現実的ではなく,あらかじめ工場等において端末部材を定着させておく必要がある。
【0010】
特許文献2は炭素繊維強化プラスチック製ケーブルの末端部分に摩擦シートを被せ,その上に金属製チューブを被せて密着させるものを開示する。特許文献2に記載のものによると,炭素繊維強化プラスチック製ケーブルの損傷を防ぐことができ,さらに現場における端末部材の定着も可能である。
【0011】
ここでプレストレストコンクリート構造を持つコンクリート部材の製造過程では,成型期間の短縮のために高温養生が行われることがある。高温養生では,型枠にコンクリートを注入した後,型枠全体がシートで覆われ,シート内部に水蒸気が入れられる。高温養生は10時間程度行われ,この間,コンクリートは50℃〜65℃程度の高温環境下に保たれる。コンクリート部材に緊張材が埋め込まれている場合,緊張材の末端の端末部材も高温環境下に晒されることになる。
【0012】
上記特許文献1および特許文献2では,端末定着構造部分が50℃〜65℃の高温環境下に晒されることは考慮されていない。
【発明の開示】
【0013】
この発明は,高温環境下においても定着性能を十分に発揮することができる端末定着構造を提供することを目的とする。
【0014】
この発明による端末定着構造は,繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に端末スリーブを定着させるものである。繊維強化プラスチック製線条体は,炭素繊維,ガラス繊維等の繊維材料と,エポキシ樹脂,ポリアミド樹脂,フェノール樹脂等の樹脂材料とを複合(混合)させた複数本の素線(繊維強化プラスチック製素線)を撚り合わせることによって形成される。線条体は長手方向にほぼ一様の断面形状を有し,長さが直径に比べて長い。線条体にはケーブル,ロープ,ロッドなどが含まれる。
【0015】
この発明による繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造は,繊維強化プラスチック製線条体の末端部分において,上記線条体の表面のらせん状の谷間に沿って,表面に研磨粒子が付着したフィラー線が巻き付けられ,フィラー線が巻き付けられた部分に表面および裏面に研磨粒子が付着した増摩シートがらせん状に巻き付けられ,さらにその上から金属製素線を編組したネットチューブが被せられており,上記ネットチューブが被せられている部分が,端末スリーブ内にくさびによって挟まれて固定されていることを特徴とする。
【0016】
この発明による繊維強化プラスチック製線条体の端末定着方法は,複数本の繊維強化プラスチック製素線を撚り合わせることによって形成される繊維強化プラスチック製線条体の末端部分において,上記線条体の表面のらせん状の谷間に沿って,表面に研磨粒子が付着したフィラー線を巻き付け,フィラー線が巻き付けられた部分に表面および裏面に研磨粒子が付着した増摩シートをらせん状に巻き付け,さらにその上から金属製素線を編組したネットチューブを被せ,上記ネットチューブが被せられている部分をくさびに挟み込み,これを端末スリーブ内にくさび止めするものである。
【0017】
繊維強化プラスチック製線条体は,複数の繊維強化プラスチック製素線を撚り合わせることによって形成されているので,その表面には長手方向にらせん状にのびる谷間が,隣接する繊維強化プラスチック製素線の間に存在する。この発明によると,上記線条体の表面の谷間に沿って,表面に研磨粒子が付着したフィラー線が巻き付けられている。フィラー線によって線条体の表面の谷間の少なくとも一部が埋められるので,線条体の表面の谷間を無くすまたは少なくすることができる。フィラー線の表面に研磨粒子が付着しているので,線条体とフィラー線との間に強い摩擦力が生じ,フィラー線が線条体の表面の谷間に沿って滑って移動してしまうおそれは少ない。
【0018】
またこの発明によると,フィラー線が巻き付けられた部分に表面および裏面に研磨粒子が付着した増摩シートがらせん状に巻き付けられ,さらにその上から金属製素線を編組したネットチューブが被せられているので,くさびによる線条体への局部的なせん断力が,増摩シートおよびネットチューブが被せられた線条体の部分において分散(緩衝)される。線条体が端末スリーブの位置(すなわちくさびの位置)において断線しにくくなり,高い定着性能(引張強度)を確保することができる。また,増摩シートの表面および裏面にも研磨粒子が付着しているので,線条体は端末スリーブ(くさび)から抜けにくくなる。さらにネットチューブは金属製素線を編組したものであるから,ネットチューブによってもある程度の摩擦力は生じる。
【0019】
この発明の端末定着構造によると,線条体とフィラー線の間の境界,線条体およびフィラー線と増摩シートの間の境界,増摩シートとネットチューブの間の境界における,すき間(空間)を無くすまたは少なくすることができる。特に線条体の表面の谷間に沿ってフィラー線が巻き付けられているので,増摩シートおよびネットチューブによって上記線条体の表面の谷間を埋める必要が無くなる。すなわち,増摩シートおよびネットチューブに必要以上に厚さを持たせる必要がない。
【0020】
ネットチューブを構成する金属製素線は高温になるとクリープ変形が加速する。増摩シートに合成繊維製のものを用いると,増摩シートも高温環境下においてクリープ変形が加速する。クリープ変形は摩擦力(応力伝達力)を低下させるので,高温環境下では,低温環境下に比べてくさびから線条体が抜け出やすくなる。この発明による端末定着構造は線条体の表面の谷間に沿ってフィラー線が巻き付けられているので,上述したように,増摩シートおよびネットチューブに必要以上に厚さを持たせる必要がなく,すなわち増摩シートおよびネットチューブを薄く形成することができる。このため,高温環境下で発生するネットチューブおよび増摩シートのクリープ変形の量が少なく,高温環境下における定着性能の低下は少ない。
【0021】
一実施態様では,上記フィラー線が,上記線条体の表面のらせん状の谷間に対応してあらかじめらせん状に型付けられている。現場において線条体の表面の谷間に容易にフィラー線を巻き付けることができる。
【0022】
好ましくは,上記フィラー線が,上記線条体の表面の谷間の断面形状に沿う断面形状を持つ。線条体の表面の谷間のほぼ全体をフィラー線によって埋めることができる。
【0023】
上記フィラー線についても,線条体と同様に,繊維強化プラスチック製のものを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】端末スリーブが末端部分に固定された炭素繊維強化プラスチック製ケーブルの斜視図である。
【
図2】炭素繊維強化プラスチック製ケーブルおよびフィラー線の斜視図である。
【
図3】炭素繊維強化プラスチック製ケーブルの外側周面にフィラー線を巻き付けた様子を示す斜視図である。
【
図5】増摩シートを巻き付けた様子を示す斜視図である。
【
図6】ネットチューブを被せた様子を示す斜視図である。
【
図8】くさびを取り付けた様子を示す斜視図である。
【実施例】
【0025】
図1は,端末定着構造を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製ケーブル(以下,CFRPケーブル1という)の末端に適用した実施例を示す斜視図である。
図1に示す端末定着構造はその製造工程を説明することによって明らかになるので,以下,
図2〜
図11を参照して,
図1に示す端末定着構造の製造工程を説明する。
【0026】
図2はCFRPケーブル1およびフィラー線2の斜視図である。
図3はCFRPケーブル1の外側周面にフィラー線2を巻き付けた様子を示す斜視図である。
図4は
図3のIV-IV線に沿う横断面図である。
【0027】
図2,
図4を参照して,CFRPケーブル1および6本のフィラー線2を用意する。CFRPケーブル1は,複数本の炭素繊維12およびエポキシ樹脂11の複合材を材料とする断面円形の7本の炭素繊維強化プラスチック製の素線1aを撚り合わせた1×7構造(1本の素線を中心にして,その周囲に6本の素線を撚り合わせた構造)を持つ。CFRPケーブル1の全体の断面直径は約15.2mmである。1×7構造を持つ直径約15.2mmのCFRPケーブル1の規格破断荷重は270kNである。
【0028】
CFRPケーブル1は上述のように断面円形の1本の素線の周囲に断面円形の6本の素線を撚り合わせることで構成されているので,その外側周面の素線同士の境界位置には,長手方向にらせん状にのびる6本の谷間(溝)が形成される。このらせん状の谷間を埋めるように,6本の谷間のそれぞれに沿ってフィラー線2がそれぞれ巻き付けられる。
【0029】
フィラー線2も,CFRPケーブル1と同様に,複数本の炭素繊維12およびエポキシ樹脂11の複合材を材料とする炭素繊維強化プラスチック製のものである。
図1を参照して,フィラー線2はCFRPケーブル1の外側周面のらせん状の谷間に対応してあらかじめらせん状に型付けられており,そのらせん形状は,CFRPケーブル1の外側周面のらせん状の谷間のピッチと同じピッチを持つ。フィラー線2の長さは後述するくさび6の長手方向の長さよりも長い。
図4を参照して,フィラー線2は,その横断面がCFRPケーブル1の外側周面の谷間の断面形状におおよそ合致するやや扁平の概略三角形の形状を持つ。フィラー線2の断面積は約3.7mm
2である。
【0030】
フィラー線2の表面全体には,粒径0.01〜0.20mmの多数の研磨粒子(アルミナ粒,炭化珪素粒など)2aがエポキシ樹脂等を接着剤にして接着されている(
図4では研磨粒子2aが強調して示されている)。研磨粒子2aによってCFRPケーブル1とフィラー線2との間の摩擦力が高められ,CFRPケーブル1の外側周囲の谷間に沿って巻き付けられたフィラー線2は,CFRPケーブル1の外側周面の谷間に沿って滑って移動することはほとんどない。フィラー線2の一端または両端を粘着テープ等によってCFRPケーブル1の末端部に簡易に固定してもよい。
【0031】
図5を参照して,フィラー線2が巻き付けられている範囲のCFRPケーブル1の末端部に増摩シート3をらせん状に巻き付ける。増摩シート3は細長いシート状のもので,合成繊維(たとえばポリエステル)製シートの表面および裏面にステンレス製のメッシュシートを積層させた三層構造を持ち,それぞれのシートの厚さは約 0.5mmであり,柔軟性を持つ。増摩シート3を構成する各シートの表面および裏面にも接着材によって多数の研磨粒子(アルミナ粒,炭化珪素粒など)3aが接着されている。
【0032】
増摩シート3は,後述するくさび6の長手方向の長さよりも長い範囲で,らせん状に隙間が無いようにCFRPケーブル1に巻き付けられる。増摩シート3の一端または両端も粘着テープ等によってCFRPケーブル1の末端部に簡易に固定してもよい。
【0033】
図6を参照して,増摩シート3が巻き付けられたCFRPケーブル1の末端部にネットチューブ4を被せる。ネットチューブ4は, 0.4mmの直径を持つステンレスワイヤ(素線)を撚り合わせた1×7構造(1本のステンレスワイヤを中心にして,その周囲に6本のステンレスワイヤを撚り合わせた構造)のストランド4aを,1×(6+6)構造(6本のストランド4aをS方向に,6本のストランド4aをZ方向に編み合わせた構造)で筒状に編組したもので,長手方向に空洞を有しかつ長手方向に伸縮性を持つ。
【0034】
ネットチューブ4も,増摩シート3と同様,その長さは後述するくさび6の長手方向の長さよりも長い。ネットチューブ4の長さは増摩シート3の巻付け長さよりも短くても,長くてもよい。
【0035】
ネットチューブ4はその両端を掴んで両端を互いに近づけると空洞の直径が広がり,逆に両端を遠ざけると空洞の直径が狭まる。CFRPケーブル1の増摩シート3が巻き付けられた部分をネットチューブ4の空洞中に位置させた状態でネットチューブ4の両端を互いに離れる方向に引っ張ると,ネットチューブ4の空洞の直径が狭まりネットチューブ4が増摩シート3の表面に密着する。増摩シート3の表面に密着させた状態においてネットチューブ4を構成するストランド4aのピッチは12mmである。ネットチューブ4の一端または両端も粘着テープ等によってCFRPケーブル1の末端部に簡易に固定してもよい。
【0036】
図7,
図8および
図9を参照して,端末スリーブ5および4つのくさび6が用意される。端末スリーブ5は長さ 163mmの金属製(ステンレス鋼製または鉄製)のもので,その外形は円筒状(
図1参照)(角柱状でもよい)であり,内部に概略円錐状の中空5aを持つ。端末スリーブ5の末端部付近の周面にはねじ溝5dが形成されている。端末スリーブ5の口の小さい開口5b側から端末スリーブ5の中空5a内にネットチューブ4が被せられたCFRPケーブル1の末端部が挿入され,口の大きい開口5cから外に出される。
【0037】
図8を参照して,端末スリーブ5の外に出たネットチューブ4が被せられているCFRPケーブル1の末端部に4つのくさび6を取り付ける。
図9はくさび6をその内面側から示している。4つのくさび6は 155mmの長さを持ち,いずれも同一形状であり,その内面に長手方向に浅い窪み6aが形成されている。窪み6aの形状(深さを含む)は長手方向において同一である。他方,くさび6の肉厚は先端から末端に向かうにしたがって厚くなっている。4つのくさび6を組み合わせると概略円錐状の外形となり,端末スリーブ5の中空5aの形状とほぼ合致する。くさび6の内面の窪み6aの表面には凹凸(ねじ溝でもよい)6bが形成されており,これによりくさび6とネットチューブ4が被せられているCFRPケーブル1との間の摩擦力が高められる。
【0038】
図10を参照して,端末スリーブ5の口の大きい開口側から,くさび6を端末スリーブ5の中空5aに押込む。
図11を参照して,くさび6をさらに強く端末スリーブ5に押込むと,4つのくさび6が端末スリーブ5の内壁によって周囲から押さえつけられて締め付けられる。これによりフィラー線2が巻き付けられたCFRPケーブル1の末端部が,増摩シート3,ネットチューブ4およびくさび6を介して,端末スリーブ5に固定される(
図1参照)。増摩シート3およびネットチューブ4によって,くさび6によるCFRPケーブル1への局部的なせん断力が分散(緩衝)される。
【0039】
表1は,構造の異なる2つの端末定着構造(それぞれ「実施例」および「比較例」と呼ぶ)について行った高温クリープ試験の結果を示している。
【0040】
【表1】
【0041】
表1において,実施例は,上述した製造工程によって製造した端末定着構造についての高温クリープ試験の結果を示している。比較例は,フィラー線2を巻き付けることなくCFRPケーブル1に直接に増摩シート3をらせん状に巻付け,その上からネットチューブ4を被せ,これをくさび6に挟んで端末スリーブ5に固定したものについての高温クリープ試験の結果を示している。ここで,実施例と比較例とでは,フィラー線2の有無のみならず,増摩シート3の構造およびネットチューブ4の編組構造も異ならせている。すなわち,比較例では増摩シート3において2枚のステンレスシートの間に挟まれた合成繊維製シートの数を5枚とし(合計7枚),さらにネットチューブ4を構成すべく編組されるストランド4aを2本1組にして編組したもの(2×(6+6)構造)(2本のストランド4aを1組として,それをS方向に6本,Z方向に6本編み合わせた構造)を用いた(なお,ストランド4aを構成するワイヤ素線については,実施例と比較例とで直径 0.4mmの同じものを用い,ストランド構造も同じ1×7とした)。比較例では,増摩シート3およびネットチューブ4を厚く形成することで,くさび6によって締め付けられたときに増摩シート3およびネットチューブ4が変形してCFRPケーブル1の表面の谷間を埋め,これによって,後述するように,比較的低い温度であれば比較例でも良好な定着性能を発揮する。
【0042】
CFRPケーブル1については,実施例および比較例の両方において,同じ所定の長さの1×7構造を持つ直径15.2mmのものを用いた。上述したように一端にくさび6を用いた端末定着構造によって端末スリーブ5を固定し,他端は膨張剤を用いた端末定着構造によって端末スリーブを固定した。両端の端末スリーブを引張試験機にセットし,ヒータによってくさび6を用いた端末定着構造を持つ端末スリーブ5を加熱する。CFRPケーブル1の規格破断荷重である270kNの75%の引張荷重(緊張荷重)(=203kN)でくさび6を用いた端末定着構造を持つ端末スリーブ5を引っ張った。試験1では端末スリーブ5の加熱温度を50℃,試験2では加熱温度を60℃,試験3では加熱温度を70℃,試験4では加熱温度を80℃に設定した。
【0043】
表1を参照して,比較例の端末定着構造は,50℃の加熱温度であれば端末スリーブ5を24時間引っ張り続けても端末スリーブ5からCFRPケーブル1が抜け出ることはなかった。しかしながら,60℃の温度にすると,試験を開始して1時間と持たずに端末スリーブ5からCFRPケーブル1が抜け出てしまった。50℃程度の比較的低い温度であれば,比較例の端末定着構造であっても安定した定着性能を発揮することができるが,それよりも高温になると定着性能が低下することが分かる。これは,60℃程度の温度になると,比較的低温(約50℃程度までの温度)のときの定着性能を上げるために厚く形成した増摩シート3およびネットチューブ4にクリープ変形が生じ,増摩シート3およびネットチューブ4とCFRPケーブル1との間に滑りが生じたためであると考えられる。
【0044】
これに対し,実施例の端末定着構造は,試験1〜試験4のいずれについても,すなわち加熱温度を50℃から80℃にまで上げても,端末スリーブ5を24時間引っ張り続けたところで端末スリーブ5からCFRPケーブル1が抜け出ることはなかった。実施例の端末定着構造は,50℃〜65℃程度(さらにはそれ以上)の温度環境下におけるコンクリート養生が行われたとしても,十分な定着性能を発揮できることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
1 CFRPケーブル
1a 炭素繊維強化プラスチック製素線
2 フィラー線
2a,3a 研磨粒子
3 増摩シート
4 ネットチューブ
5 端末スリーブ
6 くさび