【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、車両の懸架装置に用いられるサスペンションアーム10の斜視図で、本発明方法に従って製造されたものである。このサスペンションアーム10は、中空で長手形状のサスペンションアーム本体12と、そのサスペンションアーム本体12の長手方向の両端部14にそれぞれ溶接により一体的に固設された一対のブッシュ用外筒16とを備えている。ブッシュ用外筒16は丸パイプにて構成されているとともに、内部に弾性部材を介して内筒が設けられ、その内筒を介して車両に取り付けられる。サスペンションアーム本体12の両端部14は筒状接合部に相当する。
【0019】
図2は、
図1におけるII−II矢視部分の拡大断面図、すなわちサスペンションアーム本体12とブッシュ用外筒16との接合部分の断面図で、
図3は
図2におけるIII 部、すなわち溶接による溶融接合部(網目部分)Wの拡大断面図である。また、
図4は、
図2におけるIV−IV矢視部分の断面図、すなわち端部14の軸線Oに対して直角な断面図である。これ等の図から明らかなように、サスペンションアーム本体12は、筒状接合部である両端部14を含めて長円形状の中空断面を有しており、その長円形状の長手方向(
図2における上下方向)とブッシュ用外筒16の中心線Sとが略直角になり、且つ軸線Oと中心線Sとが略直交する姿勢で、端部14がブッシュ用外筒16の円筒外周面18に突き合わされて一体的に接合されている。端部14の先端20は、長円形状の長手方向において円筒外周面18に対応する円弧形状とされており、長円形状の全周に亘って円筒外周面18に溶接されている。このようにサスペンションアーム本体12の端部14の先端20が全周に亘って円筒外周面18に溶接されることにより、その先端20の開口21(
図7参照)がブッシュ用外筒16によって閉塞され、その開口21からサスペンションアーム本体12の内部に水や泥等が侵入することが防止される。なお、この実施例では軸線Oと中心線Sとが直交しているが、例えば
図2において軸線Oを紙面の表裏方向へ傾斜させるなど、直角方向から傾斜する姿勢で交差するように突き合わせて接合することもできる。軸線Oと中心線Sとが互いに交差しない捩れの位置関係で突き合わせて接合しても良い。
【0020】
図5および
図6は、ブッシュ用外筒16をサスペンションアーム本体12に溶接する前の状態を示す図で、
図5はサスペンションアーム本体12の端部14をブッシュ用外筒16に突き合わせた状態の正面図、
図6はその突合せ部分の斜視図である。また、
図7は、
図5におけるサスペンションアーム本体12の端部14の先端20の上半分を拡大して示す図で、(a) は
図5に対応する正面図、(b) は先端側から見た端面図である。これ等の図から明らかなように、端部14の先端20は、長円形状の開口21の内周縁部22が全周に亘ってブッシュ用外筒16の円筒外周面18に略接するように、その長円形状の開口21の長手方向の端部である外端部24を除いて前記円弧形状とされており、その外端部24を除いた先端20の端面は、内周縁部22から外周縁に至るまで円筒外周面18に略面接触させられる。
【0021】
外端部24の端面すなわち外端部端面26は、外端(
図5における上下方向の外側の端縁)へ向かうに従って円筒外周面18から離間しており、その円筒外周面18との間にV字状の窪み28が形成されるようになっている。外端部端面26は、端部14の軸線Oに対して直角な平坦面で、その軸線Oに対して直角な方向において外端部24の外端から、その外端部24における肉厚t以下で且つ肉厚tの1/2以上の範囲内で、本実施例では肉厚tと同じか僅かに狭い範囲に設けられている。また、窪み28の開き角度θ、すなわち円筒外周面18の接線方向と外端部端面26との間の角度は、30°以上で、本実施例では約55°である。
【0022】
そして、上記
図5、
図6のように、開口21の内周縁部22が全周に亘って円筒外周面18に接するように、端部14の円弧形状の先端20をブッシュ用外筒16の円筒外周面18に突き合わせた状態で、窪み28が形成される外端部24を含めて先端20の全周に溶接を施して円筒外周面18に一体的に接合する。その場合に、窪み28が形成される外端部24では、
図8に示すように溶接トーチ30を窪み28の内側に向けて溶接を施し、窪み28の底部(V字の角部)を含んで入熱されるようにする。これにより、外端部24およびブッシュ用外筒16に対して窪み28からバランス良く入熱されるようになり、その外端部24においても
図3に示すようにブッシュ用外筒16に対する溶融接合部Wの溶け込み深さdや脚長Lを十分に確保でき、所定の接合強度が安定して得られるようになる。溶接法としては、例えば消耗電極式アーク溶接が好適に用いられる。なお、溶け込み深さdは、ブッシュ用外筒16の溶接前の円筒外周面18を基準として、その円筒外周面18の法線方向における最大深さで、脚長Lは、円筒外周面18から法線方向の深さ0.1mmの仮想円(二点鎖線)と溶融接合部Wとの交点間の線分の長さである。
【0023】
このように、本実施例のサスペンションアーム10においては、筒状接合部として機能する端部14の先端20がブッシュ用外筒16の円筒外周面18に対応する円弧形状とされており、その先端20が全周に亘って円筒外周面18に略接する状態で、その先端20が全周に亘って円筒外周面18に溶接されているため、先端20の開口21がブッシュ用外筒16によって適切に閉塞され、サスペンションアーム本体12内への水や泥の侵入が適切に防止される。
【0024】
また、ブッシュ用外筒16として丸パイプをそのまま用いることができるとともに、端部14についても先端20を円弧形状とするだけで特別な寸法精度の管理が不要であり、溶接トーチ30による溶接もブッシュ用外筒16の円筒外周面18に沿って行えば良いため、特許文献1のようにブッシュ用外筒に突起部を設ける場合に比較して製造コストが低減される。
【0025】
また、端部14の先端20の外端部24では、開口21の内周縁部22が円筒外周面18に接触させられるとともに、外端部端面26とブッシュ用外筒16の円筒外周面18との間にV字状の窪み28が形成され、その窪み28の底部を含んで入熱されるように溶接が施される。このため、その窪み28から外端部24およびブッシュ用外筒16に対してバランス良く入熱されるようになり、端部14の先端20の開口21をブッシュ用外筒16により確実に閉塞しつつ、ブッシュ用外筒16に対する溶け込み深さdや脚長Lが拡大されて、その外端部24においても高い接合強度が得られる。
【0026】
特に、本実施例では窪み28の開き角度θが55°であるため、その窪み28から外端部24およびブッシュ用外筒16に対してバランス良く入熱されるように溶接を行うことが容易に可能である。また、窪み28を形成する外端部端面26が、端部14の軸線Oに対して略直角な方向において外端部24の外端から外端部24の肉厚tと略同じ範囲に設けられているため、先端20の開口21をブッシュ用外筒16によって確実に閉塞しつつ十分な大きさの窪み28を確保して接合強度を向上させることができる。すなわち、外端部端面26が肉厚tよりも大きくなると、先端20の開口21とブッシュ用外筒16の円筒外周面18との間に隙間が生じるため、溶接状態によっては水等が侵入する可能性がある一方、外端部端面26が肉厚tの1/2よりも小さくなると、窪み28が小さくなって入熱量のバランス向上による接合強度の向上効果が十分に得られなくなる。
【0027】
ここで、
図12に示すように、端部14の先端20が長円形状の開口21の長手方向の全域、言い換えれば先端20の円弧形状の周方向の全域に亘って、ブッシュ用外筒16の円筒外周面18に面接触するように、外端部24を含む先端20の全域を円筒外周面18に対応する円弧形状とし、その先端20の全周を溶接トーチ30によって円筒外周面18に溶接することも可能である。しかし、この場合には、先端20の外端部24では、その肉厚tが徐々に薄くなって円筒外周面18上に延びており、その外端部24の外周面に向かって溶接を行う必要があるため、ブッシュ用外筒16まで入熱が届き難く、両部材に対する入熱量のバランスが悪くなる。このため、
図12のXIII部の溶接後の断面を拡大して示す
図13から明らかなように、溶融接合部Wのブッシュ用外筒16に対する溶け込み深さdおよび脚長Lが比較的小さく、その外端部24における接合強度が部分的に低くなる可能性がある。すなわち、
図5〜
図8に示すように外端部端面26と円筒外周面18との間にV字状の窪み28が形成されるようにすれば、その窪み28から外端部24およびブッシュ用外筒16に対してバランス良く入熱されるようになるため、溶融接合部Wの溶け込み深さdや脚長Lが大きくなって外端部24の接合強度を向上させることができるのである。上記
図12は前記
図5に対応する正面図で、
図13は前記
図3に対応する断面図である。なお、これ等の
図12、
図13に示す態様も、第1発明、第2発明の実施例である。
【0028】
また、前記実施例では、筒状接合部として機能する端部14を含めてサスペンションアーム本体12の中空断面が長円形状を成していたが、
図9に示すように、長手方向の端部にストレート部を有する長方形状の中空断面のサスペンションアーム本体40を用いることもできる。また、
図10に示すように、半割体形状の一対の鋼板42、44を突き合わせて溶接等により一体的に接合することにより、前記実施例と同様の長円形状の中空断面としたサスペンションアーム本体46や、
図11に示すように、半割体形状の一対の鋼板48、50を突き合わせて溶接等により一体的に接合することにより、
図9と同様の長方形状の中空断面としたサスペンションアーム本体52を用いることもできる。
【0029】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。