(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンと、このエンジンの燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、この燃料噴射弁へ燃料を供給する燃料供給部と、この燃料供給部による燃料の供給圧力を制御する制御部と、前記燃料供給部に供給される燃料を濾過する燃料フィルタとを備えた建設機械に設けられ、
前記燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられ、前記燃料フィルタを通過する燃料の圧力を検出する判定用圧力検出部と、この判定用圧力検出部によって検出された圧力と所定の基準値とを比較して前記燃料フィルタの目詰まりを判定する判定部とを備えた建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置において、
前記燃料供給部による燃料の供給圧力を検出する燃料供給圧力検出部と、
前記燃料噴射弁による燃料の噴射を停止させる噴射停止部と、
前記噴射停止部によって前記燃料噴射弁による燃料の噴射が停止された状態で、前記エンジンが動作して前記燃料供給部による燃料の供給が行われたとき、前記燃料供給圧力検出部によって検出された圧力に応じて、前記所定の基準値を補正する補正部とを備えたことを特徴とする建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンが所定の性能を発揮できるように燃料の供給回路には燃料フィルタが備えられ、この燃料フィルタによって異物が濾過された燃料がエンジンに供給されるようになっている。また、安定したエンジン性能を維持するためには、燃料フィルタが目詰まりしてしまう前に、この燃料フィルタのエレメントを交換する必要がある。
【0003】
この燃料フィルタの交換サイクルは、通常、粗悪燃料を使用している利用者を想定して行われている。従って、良質燃料が使用される場合は、燃料フィルタが目詰まりを起こす前に、すなわち、まだ燃料フィルタの交換を要しないのに交換してしまうことになる。これによって良質燃料を使用している利用者に対しては、経済的な負担を引き起こしている。このようなことから、燃料フィルタの交換時期を把握するための各種の技術が従来から検討されている。
【0004】
この種の従来技術の1つとして、燃料フィルタの下流側の圧力を検出する圧力センサと、燃料タンク内の燃料の残量を検出する残量検知装置と、この残量検出装置によって検出された燃料の残量に基づいて燃料タンク内の燃料の残量に応じた圧力を演算するコントローラとを備え、このコントローラが、圧力センサによって検出された圧力、及び演算した燃料タンク内の燃料の残量に応じた圧力と所定の基準値とを比較して燃料フィルタの目詰まりを検知する建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここで、油圧ショベル等の建設機械は、エンジンの燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、この燃料噴射弁へ燃料を供給する燃料供給部と、この燃料供給部による燃料の供給圧力を制御する制御部とを備えており、燃料フィルタを通過した燃料は、制御部の指令を受けた燃料供給部によってエンジンへ供給され、指定された噴射量に応じてエンジンの燃料噴射弁によって燃焼室内へ噴射される。
【0006】
また、エンジンが一定の期間稼働すると、燃料噴射弁が経時劣化することがあり、この場合には燃料噴射弁からのリーク量が増加するので、制御部が燃料供給部による燃料の供給圧力を適正な圧力に保つために、燃料供給部から燃料噴射弁へ供給される燃料の流量を増加させるようにしている。これに関連する従来技術の1つとして、燃料の噴射量の経時劣化量に基づいて実際の燃料噴射量を補正することができる内燃機関用燃料噴射装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献2に開示された従来技術の内燃機関用燃料噴射装置では、実際の燃料噴射量の補正が行われても、燃料噴射弁が経時劣化して燃料供給部から燃料噴射弁へ供給される燃料の流量は増加しているので、燃料フィルタを通過する燃料の流量も増加する。そのため、燃料フィルタにおける燃料の圧力損失が大きくなるので、燃料フィルタの下流側の圧力が低下する。
【0009】
従って、上述の従来技術の内燃機関用燃料噴射装置のように、燃料噴射弁の経時劣化に伴って燃料フィルタの下流側の圧力が低下しているときに、上述した特許文献1に開示された従来技術の建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置を適用して燃料フィルタの目詰まりの判定を行うと、燃料フィルタの交換時期でないにも拘わらず、圧力センサによって検出される圧力、及びコントローラが演算した燃料タンク内の燃料の残量に応じた圧力が所定の基準値を下回る可能性があるので、燃料フィルタの目詰まりを誤って検出することが懸念されている。このように、従来技術の建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置は、燃料噴射弁が経時劣化したときに、燃料フィルタの交換時期を正確に把握することができず、燃料フィルタの目詰まりの検知精度が低いことが問題になっている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の実情からなされたもので、その目的は、燃料噴射弁が経時劣化したときであっても、燃料フィルタの交換時期を正確に把握することができる建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置は、エンジンと、このエンジンの燃焼室内へ燃料を噴射する燃料噴射弁と、この燃料噴射弁へ燃料を供給する燃料供給部と、この燃料供給部による燃料の供給圧力を制御する制御部と、前記燃料供給部に供給される燃料を濾過する燃料フィルタとを備えた建設機械に設けられ、前記燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられ、前記燃料フィルタを通過する燃料の圧力を検出する判定用圧力検出部と、この判定用圧力検出部によって検出された圧力と所定の基準値とを比較して前記燃料フィルタの目詰まりを判定する判定部とを備えた建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置において、前記燃料供給部による燃料の供給圧力を検出する燃料供給圧力検出部と、前記燃料噴射弁による燃料の噴射を停止させる噴射停止部と、前記噴射停止部によって前記燃料噴射弁による燃料の噴射が停止された状態で、前記エンジンが動作して前記燃料供給部による燃料の供給が行われたとき、前記燃料供給圧力検出部によって検出された圧力に応じて、前記所定の基準値を補正する補正部とを備えたことを特徴としている。
【0012】
このように構成した本発明は、噴射停止部によって燃料の噴射が停止された状態、すなわち燃料が噴射されない状態を意図的に作り出し、エンジンが動作して燃料供給部による燃料の供給が行われたときに、燃料供給圧力検出部によって検出された圧力から燃料噴射弁の経時劣化の程度を把握することができる。そして、補正部は、このような条件下で燃料供給圧力検出部によって検出された圧力に応じて、燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられる基準値を補正することにより、燃料噴射弁の経時劣化が考慮されているので、燃料噴射弁が経時劣化して燃料フィルタの下流側の圧力が低下していても、判定部が燃料フィルタの目詰まりを的確に検知することができる。従って、燃料噴射弁が経時劣化したときであっても、燃料フィルタの交換時期を正確に把握することができる。
【0013】
また、本発明に係る建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置は、前記発明において、前記燃料供給部によって供給される燃料の温度を検出する燃料温度検出部を備え、前記補正部は、前記燃料供給圧力検出部によって検出された圧力に加え、前記燃料温度検出部によって検出された温度に応じて、前記所定の基準値を補正することを特徴としている。
【0014】
このように構成した本発明は、燃料の温度変化に伴って燃料噴射弁からのリーク量が異なっても、補正部は、燃料供給圧力検出部によって検出された圧力に加え、燃料温度検出部によって検出された燃料の温度に応じて、燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられる基準値を補正することにより、判定部による燃料フィルタの目詰まりの判定に燃料の温度変化に伴う燃料噴射弁からのリーク量の差異を反映させることができ、燃料フィルタの目詰まりの判定を適切に行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置は、前記発明において、前記制御部は、前記燃料噴射弁によって噴射される燃料の噴射量を制御し、前記
噴射停止部から前記燃料噴射弁による燃料の噴射を停止させる入力を受けている間、前記燃料噴射弁による燃料の噴射の停止を実行することを特徴としている。このように構成すると、制御部が外部の
噴射停止部から燃料の噴射を停止させる入力を受けることにより、燃料が噴射されない状態を容易に作り出すことができる。これにより、
噴射停止部の当該入力の有無を適宜切り替えることにより、燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられる基準値の補正を自由に行うことができる。
【0016】
また、本発明に係る建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置は、前記発明において、前記
噴射停止部は前記燃料噴射弁による燃焼の噴射を前記エンジンの始動時に一時的に停止させ、前記燃料供給圧力検出部が前記燃料供給部による燃料の供給圧力を検出して前記補正部による前記所定の基準値の補正が行われることを特徴としている。このように構成すると、燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられる基準値の補正が行われる際に、エンジンが始動時に一時的に停止するだけで済むので、エンジンの始動後に作業者が建設機械を円滑に動かすことができる。これにより、作業者が建設機械の作業に迅速に取り掛かることができるので、作業を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置によれば、補正部が、噴射停止部によって燃料噴射弁による燃料の噴射が停止された状態で、エンジンが動作して燃料供給部による燃料の供給が行われたとき、燃料供給圧力検出部によって検出された圧力に応じて、燃料フィルタの目詰まりの判定に用いられる基準値を補正することにより、燃料噴射弁の経時劣化が考慮されているので、燃料噴射弁が経時劣化して燃料フィルタの下流側の圧力が低下していても、判定部が燃料フィルタの目詰まりを的確に検知することができる。従って、燃料噴射弁が経時劣化したときであっても、燃料フィルタの交換時期を正確に把握することができる。これにより、燃料フィルタの目詰まりの検知精度を高めることができるので、従来よりも利用者に与える経済的な負担を軽減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る建設機械の燃料フィルタ目詰まり検知装置を実施するための形態を図に基づいて説明する。
【0020】
[第1実施形態]
本発明に係る燃料フィルタ目詰まり検知装置の第1実施形態は、建設機械、例えば
図1に示す油圧ショベル1に設けられる。この油圧ショベル1は、走行体2と、この走行体2の上側に配置され、旋回フレーム3aを有する旋回体3と、この旋回体3の前方に取り付けられて上下方向に回動して掘削等の作業を行うフロント作業機4とから構成されている。
【0021】
上述の旋回体3は、例えば車体の後方に配置され、車体のバランスを保つカウンタウェイト5と、車体の前方左側に配置され、フロント作業機4を操作する操作者が乗車するキャブ6と、これらカウンタウェイト5とキャブ6の間に配置されたエンジンルーム7と、このエンジンルーム7の上部に設けられ、車体の上部の外装を形成する車体カバー8とを備えている。
【0022】
フロント作業機4は、基端が旋回フレーム3aに回動可能に取り付けられて上下方向に回動するブーム4Aと、このブーム4Aの先端に回動可能に取り付けられたアーム4Bと、このアーム4Bの先端に回動可能に取り付けられたバケット4Cとを有している。また、フロント作業機4は、旋回体3とブーム4Aとを接続し、伸縮することによってブーム4Aを回動させるブームシリンダ4aと、ブーム12とアーム13とを接続し、伸縮することによってアーム4Bを回動させるアームシリンダ4bと、アーム4Bとバケット4Cとを接続し、伸縮することによってバケット4Cを回動させるバケットシリンダ4cとを有している。
【0023】
また、旋回体3は、
図2に示すようにエンジンルーム7内に収納されたエンジン11と、このエンジン11に供給される燃料を貯蔵する燃料タンク12と、エンジン11の動作を制御するコントローラ15と、図示されないが、エンジン11の駆動力で回転し、ブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4cへ作動油を圧油として吐出する油圧ポンプと、この油圧ポンプに吸入される作動油を貯蔵する作動油タンクと、油圧ポンプからブームシリンダ4a、アームシリンダ4b、及びバケットシリンダ4cへ吐出される圧油の流れを制御するコントロールバルブとを備えている。
【0024】
本発明の第1実施形態では、エンジン1は、燃焼室内へ燃料を噴射する後述の燃料噴射弁と、この燃料噴射弁へ送り出す燃料を高圧で貯えるコモンレール16と、このコモンレール16に燃料を供給する燃料供給部17とを有している。旋回体3は、この燃料供給部17に供給される燃料を濾過する燃料フィルタ18を有し、この燃料フィルタ18は、例えば燃料タンク12と燃料供給部17との間の管路50に設けられており、燃料に含まれる不純物等を除去してエンジン11の状態を良好な状態に維持している。
【0025】
上述の燃料噴射弁は、例えば先端に噴射口が形成されるとともに、基端側に供給口とドレン口とを有するインジェクタ19から成り、このインジェクタ19は、供給口が管路52によりコモンレール16に接続され、ドレン口が管路51により燃料タンク12に接続され、内部にコモンレール16から供給された高圧の燃料を一時的に貯留する貯留室(図示せず)を有している。また、コントローラ15は、例えばインジェクタ19の開口量を調整して噴射される燃料の噴射量を制御している。従って、インジェクタ19の貯留室に貯留された燃料のうちコントローラ15によって制御された噴射量の燃料が噴射口から噴射され、残りの余剰分の燃料はドレン口から管路51を通って燃料タンク12へ戻される。
【0026】
燃料供給部17は、例えば燃料タンク12から燃料フィルタ18を介して燃料を汲み上げてコモンレール16へ供給する供給ポンプ17Aと、この供給ポンプ17Aの供給量を調整する燃料供給量調整弁17Bとから成っている。コントローラ15は、図示されないが、燃料供給部17による燃料の供給圧力を制御する制御部を備えており、燃料供給量調整弁17Bは、コントローラ15から指令を受けて開閉し、指定された供給圧力に相当する供給量の燃料を通過させることにより、供給ポンプ17Aの供給量の調整を行うようにしている。
【0027】
キャブ6は、エンジン11の動作状態等の各種の情報を表示する表示装置としてのモニタ22と、操作されることによってエンジン11を始動させる始動指令をコントローラ15へ出力したり、あるいはエンジン11を停止させる停止指令をコントローラ15へ出力するエンジン始動停止スイッチ23とを有し、このエンジン始動停止スイッチ23の状態は、始動指令を出力するときに始動状態(
図5参照)となり、停止指令を出力するときに停止状態となる。
【0028】
また、キャブ6は、例えばコントローラ15の外部に設けられ、インジェクタ19による燃料の噴射を停止させる噴射停止部を有し、この噴射停止部は、例えば操作されることによってインジェクタ19による燃料の噴射を停止させる非常停止指令をコントローラ15へ出力したり、あるいはこの非常停止指令が解除される解除指令をコントローラ15へ出力するエンジン非常停止スイッチ24から成り、このエンジン非常停止スイッチ24は、非常停止指令を出力するときにON状態(
図5参照)となり、解除指令を出力するときにOFF状態となる。
【0029】
本発明の第1実施形態では、コントローラ15は、エンジン非常停止スイッチ24から非常停止指令の入力を受けている間、インジェクタ19による燃料の噴射の停止を実行するようにしており、この燃料の噴射の停止は、例えばインジェクタ19の噴射口を閉じた状態に保つことで行われる。このとき、エンジン11が動作している場合には、エンジン11の燃焼室に燃料が噴射されなくなるので、エンジン11が非常停止する。
【0030】
また、旋回体3は、燃料フィルタ18の目詰まりの判定に用いられ、燃料フィルタ18を通過した燃料の圧力を検出する判定用圧力検出部としての判定用圧力センサ21を備えており、コントローラ15は、
図3に示すようにこの判定用圧力センサ21によって検出された圧力と所定の基準値(以下、便宜的に目詰まり判定用基準値と呼ぶ)とを比較して燃料フィルタ18の目詰まりを判定する目詰まり判定部25とを備えている。
【0031】
この目詰まり判定部25は、例えば
図4に示すように判定用圧力センサ21によって検出された圧力aが目詰まり判定用基準値b以下であるとき(a≦b)、燃焼フィルタ18に目詰まりが生じていると判定してその旨の警告をモニタ22に表示し、判定用圧力センサ21によって検出された圧力aが目詰まり判定用基準値bよりも大きいとき(a>b)、燃焼フィルタ18に目詰まりが生じていないと判定して上述の警告をモニタ22に表示しないようにしている。
【0032】
旋回体3は、燃料供給部17による燃料の供給圧力を検出する燃料供給圧力検出部を有しており、この燃料供給圧力検出部は、例えば
図2に示すようにコモンレール16に設けられ、このコモンレール16内の圧力を測定するコモンレール圧力センサ30から成っている。そして、コントローラ15は、
図3に示すようにエンジン非常停止スイッチ24によってインジェクタ19による燃料の噴射が停止された状態で、不図示のスタータモータが駆動し、エンジン11が動作(クランキング状態)して供給ポンプ17Aによる燃料の供給が行われたとき、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力に応じて、目詰まり判定用基準値bを補正する補正部26を有している。
【0033】
本発明の第1実施形態では、旋回体3は、インジェクタ19によって供給される燃料の温度を検出する燃料温度検出部と、エンジン11の回転数を検出するエンジン回転数検出部とを備えている。燃料温度検出部は、例えば燃料供給部17に設けられ、燃料供給量調整弁17Bから供給ポンプ17Aへ流通する燃料の温度を測定してコントローラ15へ出力する燃料温度センサ31から成っている。エンジン回転数検出部は、例えばエンジン11に設けられ、エンジン11の回転数を測定してコントローラ15へ出力するエンジン回転数センサ32から成っている。
【0034】
そして、補正部26は、エンジン非常停止スイッチ24によってインジェクタ19による燃料の噴射が停止された状態で、エンジン11が動作して供給ポンプ17Aによる燃料の供給が行われたとき、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力に加え、燃料温度センサ31によって検出された温度に応じて、目詰まり判定用基準値bを補正するようにしている。
【0035】
具体的には、補正部26は、例えば燃料フィルタ18の目詰まり判定用基準値bを補正する判定条件が成立したかどうかを判断し、この判断結果に応じて目詰まり判定用基準値bの補正を実行する判定を行う実行判定部26Aと、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力、及び燃料温度センサ31によって検出された温度に基づいて、目詰まり判定基準値bに対する補正値e(
図6参照)を演算する演算部26Bと、この演算部26Bによって演算された補正値eを目詰まり判定用基準値bに加算又は減算する加減部26Cと、これらの演算部26Bと加減部26Cとの間に設けられ、実行判定部26Aによって判定された結果に応じて開閉する開閉スイッチ26Dとを含んでいる。なお、演算部26Bによって演算される補正値eが、例えば0以上であれば(e≧0)、加減部26Cは、目詰まり判定用基準値bに対して補正値eの減算を行う。
【0036】
実行判定部26Aは、
図5に示すようにエンジン非常停止スイッチ24がON状態であり、かつエンジン始動停止スイッチ23が始動状態である場合、目詰まり判定用基準値bを補正する判定条件が成立したと判断して目詰まり判定用基準値bの補正を実行する判定を行い、エンジン非常停止スイッチ24がOFF状態である場合、あるいはエンジン始動停止スイッチ23が停止状態である場合、目詰まり判定用基準値bを補正する判定条件が成立していないと判断して目詰まり判定用基準値bの補正を実行しない判定を行う。
【0037】
開閉スイッチ26Dは、実行判定部26Aによって目詰まり判定用基準値bの補正を実行すると判定され、エンジン回転数センサ32によって検出されたエンジン11の回転数が所定の回転数に達したときに閉じて演算部26Bと加減部26Cを接続し、実行判定部26Aによって目詰まり判定用基準値bの補正を実行しないと判定されたときに開いて演算部26Bと加減部26Cを遮断する。
【0038】
演算部26Bは、例えば
図6に示すようにコモンレール16内の圧力と燃料フィルタ18の目詰まり判定用基準値を補正する補正値との関係26a、及び燃料の温度と目詰まり判定用基準値の補正値を補正する補正係数との関係26bを記憶している。コモンレール16内の圧力と補正値との関係26aは、例えばコモンレール内の圧力に対して補正値が反比例するように設定され、燃料の温度と補正係数との関係26bは、例えば燃料の温度に対して補正係数が比例するように設定されている。なお、これらの各関係26a,26bは、例えば予め実験等によって設定されている。
【0039】
また、演算部26Bは、例えば記憶したコモンレール内の圧力と補正値との関係26aに対し、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力を適用して補正値cを演算すると共に、記憶した燃料の温度と補正係数との関係26bに対し、燃料温度センサ31によって検出された温度を適用して補正係数dを演算し、演算した補正値cに補正係数dを乗算して加減部26Cへ出力する補正値eを求める。加減部26Cは、演算部26Bによって演算された補正値eを入力したとき、この補正値eを目詰まり判定基準値bに加算又は減算して目詰まり判定基準値bを補正する。
【0040】
次に、本発明の第1実施形態に係るコントローラ15による燃料フィルタ18の目詰まりの判定における制御動作を
図7のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
【0041】
本発明の第1実施形態では、まずコントローラ15は、判定用圧力センサ21によって検出された圧力a、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力、燃料温度センサ31によって検出された温度、及びエンジン回転数センサ32によって検出された回転数の各状態量を入力する(手順S1)。次に、コントローラ15の補正部26の実行判定部26Aは、目詰まり判定用基準値bを補正する判定条件が成立したかどうかを判断する(手順S2)。
【0042】
このとき、キャブ6内の作業者がエンジン非常停止スイッチ24を操作せず、エンジン非常停止スイッチ24がOFF状態である場合、あるいはキャブ6内の作業者がエンジン始動停止スイッチ23を操作せず、エンジン始動停止スイッチ23が停止状態である場合には、実行判定部26Aは、目詰まり判定用基準値bを補正する判定条件が成立していないと判断し、目詰まり判定用基準値bの補正を実行しない判定を行い(手順S2/No)、コントローラ15の目詰まり判定部25は、燃料フィルタ18に目詰まりが生じているかどうかを判定する(手順S8)。
【0043】
ここで、目詰まり判定用基準値bの初期値をb1とすると、目詰まり判定用基準値bの補正は行われていないので、手順S8において、目詰まり判定部25は、判定用圧力センサ21によって検出された圧力aが目詰まり判定用基準値b1以下であるとき(a≦b1)、燃焼フィルタ18に目詰まりが生じていると判定する(手順S8/Yes)。そして、目詰まり判定部25は、その旨の警告をモニタ22に表示し(手順S9)、手順S1からの動作が繰り返される。
【0044】
手順S8において、目詰まり判定部25は、判定用圧力センサ21によって検出された圧力aが目詰まり判定用基準値b1よりも大きいとき(a>b1)、燃焼フィルタ18に目詰まりが生じていないと判定する(手順S8/No)。そして、目詰まり判定部25は、上述の警告をモニタ22に表示せず(手順S10)、手順S1からの動作が繰り返される。
【0045】
一方、手順S2において、キャブ6内の作業者がエンジン非常停止スイッチ24を操作した状態でエンジン始動停止スイッチ23を操作してエンジン11を始動させる動作、いわゆるエンジンクランキング動作を行うことにより、エンジン非常停止スイッチ24がON状態であり、かつエンジン始動停止スイッチ23が始動状態である場合には、実行判定部26Aは、目詰まり判定用基準値bを補正する判定条件が成立していると判断し、目詰まり判定用基準値bの補正を実行する判定を行う(手順S2/Yes)。
【0046】
次に、コントローラ15の補正部26の演算部26Bは、記憶したコモンレール内の圧力と補正値との関係26aに対し、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力を適用して補正値cを演算すると共に、記憶した燃料の温度と補正係数との関係26bに対し、燃料温度センサ31によって検出された温度を適用して補正係数dを演算し、演算した補正値cに補正係数dを乗算して補正値eを求め(手順S3)、この補正値eを加減部26Cへ出力する。
【0047】
次に、コントローラ15の補正部26Bの開閉スイッチ26Dは、エンジン回転数センサ32によって検出されたエンジン11の回転数が所定の回転数に達しているかどうかを判断する(手順S4)。このとき、開閉スイッチ26Dは、エンジン回転数センサ32によって検出されたエンジン11の回転数が所定の回転数に達していないと判断した場合(手順S4/No)、開いた状態を維持して上述した手順S8からの動作が繰り返される。
【0048】
手順S4において、開閉スイッチ26Dは、エンジン回転数センサ32によって検出されたエンジン11の回転数が所定の回転数に達していると判断した場合(手順S4/Yes)、閉じて演算部26Bから加減部26Cへ補正値eが入力される(手順S5)。次に、加減部26Cは、入力した補正値eを目詰まり判定基準値bの初期値b1に減算することにより(b=b1−e)、目詰まり判定基準値bの補正が行われる(手順S6)。そして、手順S6の動作が行われて開閉スイッチ26Dが開くと(手順S7)、目詰まり判定基準値bが手順S6で補正されたb1−eに更新された状態で、上述した手順S8からの動作が繰り返される。
【0049】
このように構成した本発明の第1実施形態によれば、キャブ6内の作業者がエンジンクランキング動作を行うことにより、インジェクタ19の噴射口からエンジン11の燃焼室へ燃料が噴射されない状態を意図的に作り出し、エンジン11が始動して供給ポンプ17Aによる燃料の供給がコモンレール16を介して行われたときに、コモンレール圧力センサ30によって検出された圧力からインジェクタ19の経時劣化の程度を把握することができる。
【0050】
そして、補正部26は、このような条件下でコモンレール圧力センサ30によって検出された圧力に応じて、目詰まり判定用基準値bを補正することにより、インジェクタ19の経時劣化が考慮されているので、インジェクタ19が経時劣化して燃料フィルタ18の下流側の圧力が低下していても、目詰まり判定部25が燃料フィルタ18の目詰まりを的確に検知することができる。従って、インジェクタ19が経時劣化したときであっても、燃料フィルタ18の交換時期を正確に把握することができる。これにより、燃料フィルタ18の目詰まりの検知精度を高めることができるので、利用者に与える経済的な負担を軽減させることができる。
【0051】
また、本発明の第1実施形態は、インジェクタ19へ供給される燃料の温度を考慮して、コモンレール内の圧力と補正値との関係26a、及びコモンレール圧力センサ30で検出された圧力から得られた補正値cを、燃料温度センサ31で検出された温度に基づいて演算部26Bによって補正するようにしているので、燃料の温度変化に伴ってインジェクタ19からのリーク量が異なっても、目詰まり判定部25による燃料フィルタ18の目詰まりの判定に燃料の温度変化に伴うインジェクタ19からのリーク量の差異を反映させることができる。これにより、燃料フィルタ18の目詰まりの判定を適切に行うことができ、燃料フィルタ18の目詰まりの判定精度を向上させることができる。
【0052】
また、本発明の第1実施形態は、コントローラ15は、エンジン非常停止スイッチ24から非常停止指令の入力を受けている間、インジェクタ19による燃料の噴射が停止されるので、キャブ6内の作業者がエンジン非常停止スイッチ24を操作することで燃料が噴射されない状態を容易に作り出すことができる。例えば、エンジン11の使用期間が長くなり、インジェクタ19が経年劣化していると考えられるときに限ってエンジン非常停止スイッチ24の操作が行われることにより、燃料フィルタ18の使用状況に応じて目詰まり判定用基準値bの補正を行うことができる。
【0053】
従って、インジェクタ19による燃料の噴射を停止させる頻度を減少させることができ、燃料フィルタ18の交換作業にかかる手間を省くことができる。このように、エンジン非常停止スイッチ24からコントロータ15へ出力される非常停止指令又は解除指令を適宜切り替えることにより、目詰まり判定用基準値bの補正を自由に行うことができ、優れた利便性を確保することができる。
【0054】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態が前述した第1実施形態と異なるのは、第1実施形態では、噴射停止部は、コントローラ15の外部に設けられたエンジン非常停止スイッチ24から構成され、キャブ6内の作業者がこのエンジン非常停止スイッチ24を操作することにより、非常停止指令をコントローラ15へ出力してインジェクタ19による燃焼の噴射を停止させたのに対して、第2実施形態は、
噴射停止部はインジェクタ19による燃焼の噴射をエンジン11の始動時に一時的に停止させ、コモンレール圧力センサ30がコモンレール16内の圧力を検出して補正部26による目詰まり判定用基準値bの補正が行われることである。
【0055】
具体的には、本発明の第2実施形態では、
噴射停止部は、例えばコントローラ15内に格納され、コントローラ15は、エンジン始動停止スイッチ23から始動指令を入力してから所定の時間が経過するまで、インジェクタ19の噴射口を閉じ、始動指令を入力してから所定の時間が経過したときに、インジェクタ19の噴射口を開く制御を行うようにしている。その他の構成は上述した第1実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0056】
このように構成した本発明の第2実施形態によれば、上述した第1実施形態と同様の作用効果が得られる他、コントローラ15がエンジン11の始動時に限ってインジェクタ19による燃料の噴射の停止を制御し、補正部26による目詰まり判定用基準値bの補正を行うことにより、エンジン11の始動後にキャブ6内の作業者が油圧ショベル1を円滑に動かすことができるので、作業者がフロント作業機4を操作して掘削等の作業に迅速に取り掛かることができ、作業を効率良く行うことができる。また、エンジン11の始動後には目詰まり判定用基準値bの補正が既に行われているので、作業者が油圧ショベル1のキャブ6に乗車して作業を行う毎に目詰まり判定用基準値bをインジェクタ19の経年劣化に対応した最新の値に更新することができる。これにより、油圧ショベル1の使用中において目詰まり判定部25が燃料フィルタ18の目詰まりを正確に検知することができる。