特許第5913248号(P5913248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5913248
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】車載用表示装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/02 20060101AFI20160414BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20160414BHJP
   B60L 3/00 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   B60R16/02 640K
   B60K35/00 ZZHV
   B60L3/00 N
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-212552(P2013-212552)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-74373(P2015-74373A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2014年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬田 至
(72)【発明者】
【氏名】大伴 洋祐
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−041750(JP,A)
【文献】 特開2009−040197(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0125357(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/02
B60K 35/00
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を示す速度情報を取得する車速取得部と、
車両を駆動させる駆動部の出力を示す出力情報を取得する出力取得部と、
前記速度情報および前記出力情報に基づいて、現在の車速における前記車両の定格出力に対する出力の比を示す出力率を導出する出力率導出部と、
前記速度情報および前記出力率に応じて、前記車両の走行に費やされるエネルギーの浪費の程度を示す浪費情報を導出する浪費導出部と、
前記浪費情報に基づいて前記エネルギーの浪費具合を表示する表示部と、
を備え、
前記浪費導出部は、前記車速が所定速度範囲内であり、かつ、前記出力率が予め設定された第1出力範囲内であるとき、該出力率が同じであっても、該車速が高い場合の方が、該車速が低い場合よりも、前記エネルギーの浪費が少ないことを示す前記浪費情報を導出することを特徴とする車載用表示装置。
【請求項2】
前記浪費導出部は、前記速度情報および前記出力率から、前記浪費情報として数値を導出し、
前記表示部は、前記浪費情報としての数値に応じ、前記エネルギーの浪費が多いことを示すパワー範囲、または、該エネルギーの浪費が少ないことを示すエコ範囲のいずれに属する走行状態であるかを表示することを特徴とする請求項1に記載の車載用表示装置。
【請求項3】
前記表示部は、前記エコ範囲に属する走行状態であることを示す表示領域を有し、該表示領域内で識別表示される現在位置によって、前記エネルギーの浪費の程度を示すことを特徴とする請求項2に記載の車載用表示装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記浪費情報の数値に応じて指示部材の指示位置が変わるメータであり、前記出力率が0を含む第3出力範囲内である場合、前記指示位置を所定位置に停止表示させることを特徴とする請求項3に記載の車載用表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行に費やされるエネルギーの情報を表示する車載用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バッテリを搭載しバッテリの電力でモータを駆動して走行する電気自動車や、モータとエンジンの両動力で走行するハイブリッド自動車が普及し始めている。例えば、特許文献1、2では、このような車両の車輪に伝達されるモータの駆動パワーを表示する車載用表示装置が提示されている。
【0003】
上記の車載用表示装置では、駆動パワーが閾値以上であるとパワーモード、閾値未満であるとエコモードといったように、駆動パワーに応じて走行モードが決定され、決定された走行モードが視認可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/153395号
【特許文献2】国際公開第2008/056529号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エコモードやパワーモードといった走行モードは、本来、バッテリや燃料によるエネルギーの浪費を抑えて走行できるように、運転者に報知されることが望ましい。しかし、上述した特許文献1、2の車載用表示装置では、単に、駆動パワーの大きさが示されているに過ぎない。
【0006】
上記の車載用表示装置では、例えば、急な上り坂であれば、駆動パワーが大きくなることから、一律してパワーモードと報知されてしまい、下り坂であれば、駆動パワーが小さくなることから、一律してエコモードとして表示されてしまうおそれがある。このように、従来の車載用表示装置に表示された走行モードなどの情報を参考にしても、エネルギーの浪費を抑えた走行は困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、エネルギーの浪費を抑えて走行するための適切な情報を表示することが可能な車載用表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の車載用表示装置は、車速を示す速度情報を取得する車速取得部と、車両を駆動させる駆動部の出力を示す出力情報を取得する出力取得部と、速度情報および出力情報に基づいて、現在の車速における車両の定格出力に対する出力の比を示す出力率を導出する出力率導出部と、速度情報および出力率に応じて、車両の走行に費やされるエネルギーの浪費の程度を示す浪費情報を導出する浪費導出部と、浪費情報に基づいてエネルギーの浪費具合を表示する表示部と、を備え、浪費導出部は、車速が所定速度範囲内であり、かつ、出力率が予め設定された第1出力範囲内であるとき、出力率が同じであっても、車速が高い場合の方が、車速が低い場合よりも、エネルギーの浪費が少ないことを示す浪費情報を導出することを特徴とする。
【0009】
浪費導出部は、速度情報および出力率から、浪費情報として数値を導出し、表示部は、浪費情報としての数値に応じ、エネルギーの浪費が多いことを示すパワー範囲、または、エネルギーの浪費が少ないことを示すエコ範囲のいずれに属する走行状態であるかを表示してもよい。
【0010】
表示部は、エコ範囲に属する走行状態であることを示す表示領域を有し、表示領域内で識別表示される現在位置によって、エネルギーの浪費の程度を示してもよい。
【0011】
表示部は、浪費情報の数値に応じて指示部材の指示位置が変わるメータであり、出力率が0を含む第3出力範囲内である場合、指示位置を所定位置に停止表示させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エネルギーの浪費を抑えて走行するための適切な情報を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電気自動車(車両)の構成を示す図である。
図2】走行に費やされるエネルギーの浪費具合を示す情報の導出表示処理の流れを示すフローチャートである。
図3】駆動モータの特性を説明するための説明図である。
図4】表示部の表示例を示す図である。
図5】比較例の車載用表示装置におけるパワー範囲およびエコ範囲を説明するための図である。
図6】本実施形態の車載用表示装置におけるパワー範囲およびエコ範囲の概念を説明するための説明図である。
図7】本実施形態の車載用表示装置におけるパワー範囲およびエコ範囲の詳細を説明するための説明図である。
図8】浪費情報導出テーブルを説明するための説明図である。
図9】本実施形態の表示部の表示例および比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、電気自動車1(車両)の構成を示す図である。図1に示すように、電気自動車1は、車輪2が駆動モータ3(駆動部)に接続される。駆動モータ3は、インバータ4を介して駆動用バッテリ5に接続され、駆動用バッテリ5から供給される電力により回転する。電気自動車1は、駆動モータ3を通じた車輪2の回転に伴って走行する。
【0016】
車速センサ6は、例えば、車輪速センサやレゾルバでなり、車輪2の回転数を検出し、回転数を示す信号を制御装置10に出力する。
【0017】
アクセルセンサ7は、アクセルペダルの踏み込み量を検出し、踏み込み量を示す信号を制御装置10に出力する。
【0018】
ブレーキセンサ8は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出し、踏み込み量を示す信号を制御装置10に出力する。
【0019】
表示部9は、電気自動車1のダッシュボードなどに搭載されたメータで構成され、後述する表示制御部16の制御に応じて、電気自動車1の走行に費やされる駆動用バッテリ5のエネルギーの浪費具合を示す情報を表示する。ここでは、表示部9がメータで構成される場合について説明したが、表示部9は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどで構成されて、メータの画像を表示する、所謂デジタルメータであってもよい。
【0020】
制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)を含むマイクロコンピュータでなり、各部を統括制御する。制御装置10は、車速センサ6、アクセルセンサ7、ブレーキセンサ8それぞれに接続され、各センサ(6〜8)で検出された情報を示す信号が入力される。
【0021】
また、制御装置10は、インバータ4と接続されており、各センサ(6〜8)から入力される信号などに基づいて、インバータ4を介して駆動モータ3の駆動を制御する。
【0022】
具体的には、制御装置10は、各センサ(6〜8)で検出された情報から、ユーザの要求トルクを決定し、要求トルクに応じて駆動モータ3を制御するようにインバータ4に制御指示を出力する。
【0023】
また、表示部9、および、制御装置10は、電気自動車1の走行に費やされるエネルギーの情報を導出および表示する車載用表示装置11を構成する。
【0024】
制御装置10は、ROMに格納されたプログラムをRAMに展開して、走行に費やされるエネルギーの浪費具合を示す情報の導出表示処理を実行し、車速取得部12、出力取得部13、出力率導出部14、浪費導出部15、表示制御部16として機能する。以下、フローチャートを参照しながら、制御装置10の各機能部の処理について詳述する。
【0025】
図2は、走行に費やされるエネルギーの浪費具合を示す情報の導出表示処理の流れを示すフローチャートである。車速取得部12は、図2に示すように、車速センサ6からの信号に基づいて車速を導出し、車速を示す速度情報を取得する(S100)。ここでは、車速取得部12が車速を導出する場合について説明したが、車速センサ6など、他の装置が導出した車速情報を車速取得部12に伝達してもよい。
【0026】
出力取得部13は、電気自動車1を駆動させる駆動モータ3の出力トルクを示す出力情報を取得する(S102)。具体的に、出力取得部13は、ユーザの要求トルクを出力トルクとみなして、要求トルクを示す情報を出力情報とする。ここでは、ユーザの要求トルクを出力トルクとする場合について説明したが、例えば、トルクセンサの出力値などを出力トルクとしてもよい。
【0027】
出力率導出部14は、速度情報および出力情報に基づいて、現在の車速における電気自動車1の駆動モータ3の定格トルク(定格出力、定格性能)に対する出力の比を示す出力率を導出する(S104)。以下、図3を用いて、定格トルクと車速との関係を説明した後、出力率について説明する。
【0028】
図3は、駆動モータ3の特性を説明するための説明図である。図3に示すように、駆動モータ3では、回転数が閾値αまでは、定格トルクの最大値は一定となり、閾値αを超えると、回転数が大きくなるにつれて、定格トルクの最大値は低下する。
【0029】
出力率は、出力トルクを定格トルクで除算した百分率である。例えば、同じ出力率の場合、回転数が大きくなるにつれて出力トルクが小さくなる。また、回転数が大きくなっても同じ出力トルクを維持する場合、出力率が大きくなる関係となっている。駆動用バッテリ5を充電しているとき、出力率は負の値をとる。
【0030】
図2に示すように、出力率導出ステップS104の後、浪費導出部15は、速度情報および出力率に応じて、車両の走行に費やされるエネルギーの浪費の程度を示す浪費情報を導出する(S106)。浪費情報については、後に詳述する。
【0031】
そして、表示制御部16は、浪費情報に基づいて、電気自動車1の走行に費やされる駆動用バッテリ5のエネルギーの浪費具合を表示部9に表示させる(S108)。
【0032】
図4は、表示部9の表示例を示す図である。浪費情報は、数値で表されており、図4に示すように、表示部9は、浪費情報の数値に応じて指示位置が変わるメータとなっている。具体的に、メータは、矢印など、指示位置が特定できる形状の指示部材9aを備え、指示部材9aが指示するメータ上の指示位置が、浪費情報の数値に対応している。こうして、浪費情報の数値の大小によってエネルギーの浪費の程度が示される。
【0033】
また、浪費情報の範囲として、チャージ範囲、エコ範囲、および、パワー範囲が設定されている。チャージ範囲は、走行エネルギーで駆動用バッテリ5を充電可能な走行状態であることを示し、エコ範囲は、エネルギーの浪費が少ない走行状態であることを示し、パワー範囲は、エネルギーの浪費が多い走行状態であることを示す。
【0034】
ここでは、−100以上0未満の浪費情報としての数値をチャージ範囲とし、0以上50以下の浪費情報としての数値をエコ範囲とし、50より大きく100以下の浪費情報としての数値をパワー範囲とする。すなわち、浪費情報が−100以上0未満であればチャージ範囲に属する走行状態であって、浪費情報が0以上50以下であればエコ範囲に属する走行状態であって、浪費情報が50より大きく100以下であればパワー範囲に属する走行状態であることを示す。
【0035】
このように、表示部9は、エコ範囲に属する走行状態であることを示す表示領域9bを有している。そして、浪費導出部15によって導出された浪費情報としての数値が、エコ範囲内にある場合、浪費情報としての数値に応じて、表示領域9b内で識別表示される現在位置(ここでは、指示部材9aが示す指示位置)を識別表示する。こうして、表示部9は、エネルギーの浪費の程度を示す。
【0036】
表示制御部16は、浪費情報が示す数値に応じて指示部材9aを不図示のアクチュエータなどによって回転させることで、指示部材9aの指示位置によって、チャージ範囲、エコ範囲、パワー範囲のいずれに属する走行状態であるかを、表示部9に表示する。また、表示部9は、浪費情報を指示位置として示すとともに、チャージ範囲、エコ範囲、および、パワー範囲の上限値および下限値とを、数値とともにメータ内の領域として図示している。
【0037】
ここでは、表示部9は、チャージ範囲、エコ範囲、および、パワー範囲それぞれについて、上限値および下限値の数値を表示する場合について説明したが、表示部9には数値を必ずしも表示しなくてもよい。
【0038】
図5は、比較例の車載用表示装置におけるパワー範囲およびエコ範囲を説明するための図である。比較例の車載用表示装置においては、出力率に応じてチャージ範囲、エコ範囲、パワー範囲のいずれに属する走行状態であるかを表示する。
【0039】
図5中、破線30は、駆動モータ3の定格トルクを示し、破線31は、出力率50%の出力トルクを示す。図5に示す例では、出力率が50%を超えているとパワー範囲、出力率が0%以上50%以下であるとエコ範囲、出力率が0%未満であるとチャージ範囲となっている。
【0040】
また、破線32は、電気自動車1の走行抵抗に釣り合う出力トルクを示す。ここで、走行抵抗の要因としては、例えば、空気抵抗、路面に対する車輪2の転がり抵抗、電気自動車1の駆動系の慣性モーメントなどが挙げられる。また、空気抵抗は、正面から見た電気自動車1の面積などによって定まる。
【0041】
破線32では、車速が高くなるにつれて出力トルクも大きくなっている。これは、車速が高くなるにつれ、走行抵抗が大きくなることから、それに釣り合う出力トルクも大きくなることを示している。
【0042】
そして、電気自動車1は、破線32に示される出力トルクが維持されれば、大凡、現在の車速を維持することが可能となる。以下、破線32に示される出力トルクを維持トルクと称する。ただし、ここでは、車道の傾斜やブレーキによる制動などは考慮しないものとする。
【0043】
図5に示すように、パワー範囲とエコ範囲の境界を示す破線31と、維持トルクを示す破線32とは、車速βを境に車速に対する出力トルクの値の大小関係が逆転している。すなわち、車速βよりも高速域では、出力率50%でも現在の車速を維持できない。また、車速βよりも低速域では、出力率50%では、現在の車速を維持するには出力トルクが大き過ぎる。
【0044】
すなわち、比較例の車載用表示装置では、車速βよりも低速域において、破線32に示される維持トルクよりも出力トルクが大きく、エネルギーの浪費が大きい可能性があるにもかかわらず、エコ範囲と表示されてしまう場合がある。
【0045】
同様に、比較例の車載用表示装置では、車速βよりも高速域において、破線32に示される維持トルクよりも出力トルクが小さく、エネルギーの浪費が少ないにもかかわらず、パワー範囲と表示されてしまう場合がある。
【0046】
そのため、比較例の車載用表示装置に表示された情報を参考にしても、エネルギーの浪費を抑えた走行は困難であった。
【0047】
図6は、本実施形態の車載用表示装置11におけるパワー範囲およびエコ範囲の概念を説明するための説明図である。図6に示すように、車載用表示装置11では、パワー範囲とエコ範囲の境界を示す一点鎖線33は、定格トルクの範囲内(破線30よりも、図6中、下側)において、維持トルクを示す破線32と交わらない。ここでは、一点鎖線33は、破線32に対して、例えば、定数が加算されて、縦軸方向にシフト(平行移動)した形状となっている。
【0048】
そして、パワー範囲とエコ範囲の境界(一点鎖線33)を、車速に拘わらず維持トルク(破線32)よりも一定値上方にシフトしたところに設定したため、比較例のように、破線32に示す維持トルクよりも出力トルクが小さいにもかかわらず、表示部9に、パワー範囲と表示されることがない。つまり、出力トルクが、現在の車速を維持するために要求される維持トルクの範囲内にあれば、必ず、表示部9にエコ範囲と表示される。
【0049】
なお、パワー範囲とエコ範囲の境界を、維持トルクを示す破線32とすると、維持トルクを僅かでも超えれば、パワー範囲と表示されることとなってしまう。これでは、エネルギーの浪費具合を示す情報として適切ではない。
【0050】
パワー範囲とエコ範囲の境界(一点鎖線33)と、維持トルク(破線32)との間に、エコ範囲と判定される適当な範囲を設けることで、維持トルクに対して極端に過大な出力トルクでなければ、表示部9にエコ範囲と表示させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態の車載用表示装置11では、図6に示したパワー範囲とエコ範囲の設定の概念を前提としたうえで、さらに次のような設定を行うことで、エネルギーの浪費具合を一層適切に表示することが可能となっている。
【0052】
図7は、本実施形態の車載用表示装置11におけるパワー範囲およびエコ範囲の詳細を説明するための説明図である。図7に示すように、本実施形態のパワー範囲およびエコ範囲は、予め設定された所定速度範囲(ここでは、60〜100km/h)においては、パワー範囲とエコ範囲の境界を示す実線34は、図6に示した一点鎖線33と大凡等しい。
【0053】
一方、電気自動車1の停止状態からの加速時においては、維持トルクよりも大きな出力トルクを要するのは当然であって、このような走行状態においてまで、エネルギーの浪費が大きいパワー範囲として表示されることは、エネルギーの浪費具合を示す情報として適切ではない。
【0054】
そこで、図7に示すように、車速が、所定速度範囲の下限値(ここでは、60km/h)よりも低い低速域では、実線34は、出力トルクが一定値aとなって、維持トルクを示す破線32から図7中、上側に乖離している。すなわち、図6に示す一点鎖線33よりも、より大きな出力トルクまでエコ範囲とみなされるように設定されている。
【0055】
また、車速が法定速度などを大幅に超えている場合、維持トルクと釣り合う出力トルクであるからといって、エネルギーの浪費が少ないエコ範囲と表示されることは、エネルギーの浪費具合を示す情報として適切ではない。
【0056】
そこで、車速が所定速度範囲の上限値(ここでは、100km/h)よりも高い高速域では、実線34は、出力トルクが一定値bとなって、維持トルクを示す破線32と交差するとともに、その交点よりも高速側では、破線32に対して図7中、下側に乖離している。すなわち、図6に示す一点鎖線33よりも、より小さな出力トルクまでパワー範囲とみなされるように設定されている。
【0057】
図6図7では、浪費情報としての具体的な数値を省いて、車速と出力トルクの座標軸上におけるパワー範囲とエコ範囲について説明した。続いて、図7に示すような車速と出力トルクおよびパワー範囲とエコ範囲の対応関係が実現されるように予め設定された浪費情報の数値と、表示部9のメータ上の浪費情報の指示位置について、図8図9を参照しながら詳述する。
【0058】
図8は、浪費情報導出テーブルを説明するための説明図である。図8において、各行は出力率を示し、各列は車速を示す。そして、出力率の行および車速の列によって特定される数値が浪費情報を示す。浪費導出部15は、図8に示される浪費情報導出テーブルを参照して浪費情報としての数値を導出する。
【0059】
また、出力率20%や車速25km/hといったように、各行や各列の数値の間に相当する数値が参照される場合、各行や各列で最も近い値に置き換えて、浪費情報を決定する。具体例を挙げると、出力率25%、車速40km/hであれば、最も近い値である出力率30%に置き換えて、出力率30%と車速40km/hに対応する数値として、「25」を浪費情報とする。また、出力率20%といったように、最も近い2つの出力率の中間値である場合、ここでは、大きな出力率(この場合、出力率30%)に置き換えられることとする。
【0060】
図8に示される表は、浪費情報導出テーブルの一例であって、各行、各列の数が多くなるようにより細分化されてもよい。例えば、比例計算で補間した値を用いてもよい。この場合、具体例を挙げると、出力率25%、車速40km/hであれば、出力率10%と30%の各行における車速40km/hに対応する数値の間で、比例計算で補間した値として、「22.5」を浪費情報とする。
【0061】
図9は、本実施形態の表示部9の表示例および比較例を示す図であり、図9(a)〜(c)には、本実施形態の表示部9の表示例を示し、図9(d)〜(f)には、比較例の表示部109の表示例を示す。
【0062】
図8に示すように、車速60km/h、出力率−100%のとき、浪費情報は「−100」となる。この場合、図9(a)、(d)に示すように、本実施形態の表示部9および比較例の表示部109のいずれにおいても、表示態様は同じとなっている。
【0063】
また、図8に示すように、車速60km/h、出力率が100%のとき、浪費情報が「100」となり、この場合には、図9(b)、(e)に示すように、本実施形態の表示部9および比較例の表示部109のいずれにおいても、表示態様は同じとなっている。
【0064】
しかし、例えば、車速100km/h、出力率60%のとき、図9(c)、(f)に示すように、本実施形態の表示部9および比較例の表示部109では、表示態様が異なっている。これは、以下のような理由による。
【0065】
例えば、図8に示すように、車速が所定速度範囲で、出力率が第1出力範囲(ここでは、出力率10〜95%)であるとき、各行を左から右に比較していくと、浪費情報は徐々に減っていく。すなわち、同じ出力率であっても、車速が大きくなるほど浪費情報は小さい値となる。
【0066】
このように、浪費導出部15は、車速が所定速度範囲内であり、かつ、出力率が第1出力範囲内であるとき、出力率が同じであっても、車速が高い場合の方が、車速が低い場合よりも、エネルギーの浪費が少ないことを示す浪費情報を導出する。
【0067】
そのため、上述した比較例のように、出力率によって一律にパワー範囲やエコ範囲が決定付けられる場合と異なり、維持トルクの上昇に伴って出力トルクの上昇が許容されるように、浪費情報が導出される。その結果、表示部9は、維持トルクが考慮された適切なエネルギーの浪費具合を示す情報を表示することが可能となる。
【0068】
具体的には、図9(f)に示すように、比較例の表示部109では、車速100km/h、出力率60%のとき、出力率のみによってパワー範囲と表示される。一方、本実施形態では、車速100km/hにおいて維持トルクが低速域よりも大きくなっていることが考慮された浪費情報導出テーブルによって、浪費情報が「25」と導出される。こうして、表示部9には、図9(c)に示すように、現在の走行状態がエコ範囲であるものとして表示されることとなる。
【0069】
また、図9に示すように、浪費情報としての数値「25」は、エコ範囲の中で、上限値(数値50)と下限値(数値0)との距離が等しく表示される中心位置を示す。図8においては、数値25を含む後述する第2出力範囲をハッチングで示す。
【0070】
ここでは、車速が所定速度範囲内では、浪費情報が「25」となるのは、出力トルクが維持トルクと等しくなる出力率を含む第2出力範囲内である場合となっている。第2出力範囲は、例えば、車速が60km/hのときに、出力率20%以上35%未満となり、車速が80km/hのときに、出力率35%以上45%未満となり、車速が90km/hのときに、出力率45%以上55%未満となり、車速が100km/hのときに、出力率55%以上70%未満となる。
【0071】
すなわち、表示部9は、車速が所定速度範囲内であって、かつ、現在の車速を維持する出力率を含む第2出力範囲内である場合に導出される浪費情報として、エコ範囲の中で、中心位置を示す。
【0072】
そのため、表示部9においては、上述した低速域や高速域を除いた所定速度範囲内において、維持トルクと大凡等しい出力トルクが維持されて、大凡定速で走行していてエネルギーの浪費が抑えられていることが、エコ範囲の中心位置が示されていることから直感的に把握しやすい。
【0073】
また、図8に示すように、車速が所定速度範囲の下限値(60km/h)よりも低い低速域では、浪費情報が「25」となる出力率が30%となっている。低速域においては、走行抵抗が小さいことから、出力トルクが維持トルクと釣り合ったときの出力率は30%よりも小さい。具体的には、例えば、出力率10%などであって、車速が0km/h、3km/h、20km/h、40km/hのときの浪費情報は、図8に示すように、「25」よりも小さい値となる。
【0074】
言い換えれば、低速域において、出力率30%のときの出力トルクは、維持トルクよりも大きい。すなわち、車速が所定速度範囲の下限値よりも小さく、かつ、現在の車速を維持する出力率より大きいとき(ここでは、出力率20%以上35%未満のとき)に導出される浪費情報として「25」が導出され、表示部9は、浪費情報として、エコ範囲の中で中心位置を示す。
【0075】
そのため、低速域において維持トルクよりも大きな出力トルクであっても、それが適当な加速の範囲であれば、表示部9は、浪費情報として、エコ範囲の中で中心位置を示すこととなり、エネルギーの浪費具合を適切に表示することが可能となる。
【0076】
また、図8に示すように、車速が所定速度範囲の上限値(100km/h)よりも高い所定値(110km/h)以上の高速域では、浪費情報が「25」となる出力率が60%となっている。高速域においては、走行抵抗が大きいことから、維持トルクと釣り合う出力トルクとなる出力率は60%よりも大きい。具体的には、例えば、出力率80%などであって、このときの浪費情報は、図8に示すように、「25」よりも大きい値となる。
【0077】
言い換えれば、高速域において、出力率60%のときの出力トルクは、維持トルクよりも小さい。すなわち、車速が所定速度範囲の上限値よりも高い所定値(ここでは、図7に示す車速110km/h)以上、かつ、現在の車速を維持する出力率より小さいとき(ここでは、出力率55%以上70%未満のとき)に導出される浪費情報として「25」が導出され、表示部9は、浪費情報として、エコ範囲の中で中心位置を示す。
【0078】
所定値は、図7に示す破線32と実線34との交点における車速である。図7に示すように、車速が所定値以上であれば、維持トルクを示す破線32は、パワー範囲に含まれることとなる。
【0079】
上述したように、高速域においては、法定速度などを大幅に超えている場合、維持トルクと釣り合う出力トルクであるからといって、エネルギーの浪費が少ないエコ範囲と表示されることは、エネルギーの浪費具合を示す情報として適切ではない。
【0080】
ここでは、高速域において、維持トルクよりも小さな出力トルクのとき、表示部9は、浪費情報として、エコ範囲の中で中心位置を示すこととなる。そのため、単純に、維持トルクと等しい出力トルクとなっているときにエコ範囲の中で中心位置を示す場合よりも、エネルギーの浪費具合を適切に表示することが可能となる。
【0081】
また、図8において、出力率が0を含む第3出力範囲をクロスハッチングで示す。ここでは、第3出力範囲は、出力率−4%以上5.5%未満である。第3出力範囲では、浪費情報はすべて0となっている。
【0082】
すなわち、表示部9は、出力率が0%を含む第3出力範囲内である場合、指示位置を所定位置に停止表示させる。
【0083】
そのため、電気自動車1の一時停止中など、クリーピングなどによって電気自動車1が進行して車速がわずかに動いても、浪費情報は0に固定され、指示位置のブレを抑えることが可能となる。
【0084】
上述した実施形態では、浪費導出部15は、浪費情報導出テーブルによって浪費情報を導出する場合について説明したが、浪費導出部15は、予め設定された数式によって浪費情報を導出してもよい。
【0085】
また、上述した実施形態では、表示部9がメータであって浪費情報がメータの指示位置で示される場合について説明したが、表示部9は、他のグラフによって浪費情報を示してもよい。また、例えば、点灯するボタンなどであって、電気自動車1の走行に費やされるエネルギーの浪費が多いとき、または、少ないときに、点灯する構成であってもよい。その場合であっても、浪費導出部15は、車速が予め設定された所定速度範囲内であり、かつ、出力率が第1出力範囲内であるとき、出力率が同じであっても、車速が高い場合の方が、車速が低い場合よりも、エネルギーの浪費が少ないことを示す浪費情報を導出する。そして、表示制御部16は、このように導出された浪費情報に基づいて、表示部9の点灯や消灯の可否を判断してもよい。
【0086】
また、上述した実施形態では、浪費情報は、数値が大きいほどエネルギーの浪費が大きい場合について説明したが、浪費情報は、数値が小さいほどエネルギーの浪費が大きくともよい。
【0087】
また、上述した実施形態では、表示部9は、出力率が0%を含む第3出力範囲内である場合、指示位置を所定位置に停止表示させる場合について説明したが、表示部9は、出力率が0%を含む第3出力範囲内であっても、指示位置を所定位置に停止表示させなくてもよい。
【0088】
また、上述した実施形態では、車載用表示装置11が電気自動車1に搭載される場合について説明したが、車載用表示装置11は、ハイブリッド自動車に搭載されてもよい。この場合、車両を駆動させる駆動部は、駆動モータとエンジンで構成され、車両の定格出力として、駆動モータとエンジンのシステム定格出力(システム定格性能)が用いられることとなる。
【0089】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、車両の走行に費やされるエネルギーの情報を表示する車載用表示装置に利用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 電気自動車(車両)
3 駆動モータ(駆動部)
9 表示部
11 車載用表示装置
12 車速取得部
13 出力取得部
14 出力率導出部
15 浪費導出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9