(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
環状のコアプレートの特定の片面または両面に環状に接合された複数のセグメントピースと、前記複数のセグメントピース相互間に形成されたセグメント間溝とを具備する湿式摩擦材において、
前記環状に接合された複数のセグメントピースは、前記セグメントピースの幅が内周より外周が短く、前記セグメントピースの内周に内周凹部を2以上、及び前記セグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成した第1セグメントピースと、前記セグメントピースの幅が内周より外周が長く、前記セグメントピースの内周に内周凹部を2以上、及び前記セグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成した第2セグメントピースとを交互に配設したことを特徴とする湿式摩擦材。
前記複数のセグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成し、前記外周凹部の窪み量が、前記複数のセグメントピースの径方向の幅の1/10〜1/3の範囲内としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材。
【背景技術】
【0002】
近年、原油価格の上昇や地球温暖化防止の観点から車の低燃費化が要求され、低い引き摺りトルク特性が要求されている。
通常、引き摺りトルクの低減は、セグメントピースのカウンタプレートとの接触面側に油溝を形成し、そこに、潤滑油(Automatic Transmission Fluid,自動変速機潤滑油、以下「ATF」とも略する。)を供給することによってなしている。なお、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標であるが、ここでは、当該登録商標とは無関係に自動変速機潤滑油の略称として「ATF」と略する。
そこで、摩擦界面のATFの流れを制御すること、摩擦界面に溝を形成することによって、従来の湿式摩擦材は引き摺りトルクの低減を行ってきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、コアプレートと、コアプレートとの間に間隔を隔ててリング状に貼付された複数のセグメントピースを有し、隣り合う2つのセグメントピースの対向端面でコアプレートの内周側と外周側とを結ぶ潤滑油溝を区画形成した湿式摩擦材において、少なくとも一方のセグメントピースの対向端面は内部に切り込まれた切り込み部を対向端面の内周側端部及び/または中間部に有し、潤滑油溝は前記切り込み部によって溝幅の広い広幅部を潤滑油溝の内周側開口部及び/または中間部に持つ湿式摩擦材の技術を提供している。
即ち、潤滑油溝を区画形成するセグメントピースの対向端面の内周側端部及び/または中間部に内部に切り込まれた切り込み部を設けることによって、対向端面を非直線状にし、潤滑油溝の溝幅が一定ではなく、溝幅の広い広幅部と広幅部よりも溝幅が狭い非広幅部を持っている。このように対向端面が内部に切り込まれた切り込み部を設けて、潤滑油溝が広幅部と非広幅部とを持つと、内周側から外周側へと潤滑油溝を流れるATFは、広幅部から非広幅部へと変化するポイントで堰き止められて、一部のATFがセグメントピースの表面に溢れ出て、セグメントピースの表面を流れることになる。
【0004】
また、特許文献2にかかる湿式摩擦材においては、隣り合うセグメントピース同士の間隙によって、両面または片面プレス加工によって形成される複数の潤滑油溝が、内周開口部または中間部分が左右対称の形状に拡がった潤滑油溝と、前記内周開口部から外周開口部までの幅がほぼ均一な潤滑油溝とが所定の割合で混在しており、非締結状態において湿式摩擦材が何れかの方向に空転したときに、内周から供給されるATFが空転後部側に拡がった部分に当接することによって、ATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されてカウンタプレートプレートと摩擦面との接触が抑制され、過剰なATFは内周開口部から外周開口部までの幅がほぼ均一な油溝から排出され、顕著な引き摺りトルク抑制効果を得ることができる。湿式摩擦材が逆方向に空転した場合には、反対側の拡がった部分が同様な役割を果たす。セグメントタイプ摩擦材の場合は芯金のリング状部分の幅一杯で横長の大きなセグメントピースとできるので、セグメントピースの数を少なくすることができ、切り出しと接着のための時間が短縮され、低コスト化することができる。更に、プレス型摩擦材の場合には芯金のリング状部分の両面または片面全面に摩擦材基材を接着して両面または片面プレスするのみで製造できるので、大量生産により低コスト化することができる。
【0005】
そして、特許文献3にかかる湿式摩擦材においては、平板リング形状の芯金にセグメントピースまたはリング形状に切断された摩擦材基材が、複数個のセグメントピースまたは島状部分の外周側面が芯金の外周から所定の引き込み長さを有するように全周両面若しくは全周片面に接着されてなるセグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、セグメントピースまたは島状部分の外周側に、芯金の外周方向に突出する1個または複数個の突起が設けられている。
このように引き込み部分に突出した突起を設けることによって、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れてセグメントピースまたは島状部分の上へ流れ込む事態が防止され、相対回転数が比較的高い領域においても大きな引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。そして、セグメントタイプ摩擦材またはリングタイプ摩擦材であって、引き込み部分からセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御することによって、相対回転数が比較的高い領域においても優れた引き摺りトルクの低減効果を得ることができる湿式摩擦材となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、内周側から外周側へと油溝を流れるATFは、広幅部から非広幅部へと変化するポイントで堰き止められて、一部のATFが湿式摩擦材の表面に溢れ出て、湿式摩擦材の表面を流れるから引き摺りトルクの低減を行うことができる。
また、特許文献2についても、内周開口部から外周開口部までの幅がほぼ均一な潤滑油溝とそうでない潤滑油溝が所定の割合で混在しており、非締結状態において湿式摩擦材が何れかの方向に空転したときに、内周から供給されるATFが積極的に摩擦材基材の摩擦面に供給されてカウンタプレートプレートと摩擦面との接触が抑制されるものである。
しかし、特許文献1及び特許文献2の発明は、セグメントピースの内周端面及び外周端面を流れるATFがセグメントピースの内周端面及び外周端面と接触するため、これによる接触抵抗や剪断トルクによって引き起こされる引き摺りトルクは低減させ難い。
【0008】
また、特許文献3にかかる湿式摩擦材においては、相対回転数が比較的高い領域において、遠心力で外周部分に溜まったATFの流れが突起によって制御され、高速回転でATFの流れが乱れてセグメントピースまたは島状部分の上に流れ込む事態が防止され、相対回転数が比較的高い領域においても引き摺りトルクの低減効果を得ることができる。
しかし、特許文献3の発明はセグメントピースまたは島状部分の上へのATFの余分な流れ込みを制御することにあり、特許文献1及び特許文献2の発明と同様、セグメントピースの内周端面及び外周端面との接触による接触抵抗や剪断トルクによって引き起こされる引き摺りトルクについては充分な減少効果が得られ難い。
そして、特許文献1乃至特許文献3に限らず従来技術においては、コアプレートに間隔を隔ててリング状に貼着された複数のセグメント摩擦材は、所望の伝達トルクを確保するために、セグメント摩擦材に対向する相手材としてのカウンタプレートとの接触面積をできるだけ大きくしながらも、引き摺りトルクは低減させるようにしていた。
【0009】
そこで、本発明は、湿式摩擦材の内外周端面とATFとの接触抵抗や剪断トルクを制御して引き摺りトルクを効率よく低減させた湿式摩擦材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明にかかる湿式摩擦材は、環状のコアプレートの特定の片面または両面に環状に接合された複数のセグメントピースと、前記複数のセグメントピース相互間に形成されたセグメント間溝とを具備する湿式摩擦材において、前記環状に接合された複数のセグメントピースは、前記セグメントピースの幅が内周より外周が短く、前記セグメントピースの内周に内周凹部を2以上、及び前記セグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成した第1セグメントピースと、前記セグメントピースの幅が内周より外周が長く、前記セグメントピースの内周に内周凹部を2以上、及び前記セグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成した第2セグメントピースとを交互に配設したものである。ここで交互に配設とは、第1セグメントピースと第2セグメントピースが、その枚数を問わず交互に配置されたものである。
上記複数のセグメントピースは、前記コアプレートの特定の片面または両面に環状に接合されたものであり、上記セグメント間溝は、前記セグメントピース相互間の対向面によって形成された溝である。
【0011】
請求項2の発明にかかる湿式摩擦材は、前記内周凹部の形成により前記複数のセグメントピースの内周に残存する内周端部の円周方向の幅が、0.3〜2mmの範囲としたものである。
ここで、前記内周凹部の形成により前記複数のセグメントピースの内周に残存する内周端部とは、前記複数のセグメントピースの内周のうち、内周凹部の凹みを除いた内周の残りの部分をいう。
【0012】
請求項3の発明にかかる湿式摩擦材は、前記複数のセグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成し、前記外周凹部の窪み量が、前記複数のセグメントピースの径方向の幅の1/10〜1/3の範囲内としたものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明の湿式摩擦材のセグメント間溝の両側に配設した環状に接合された複数のセグメントピースは、前記セグメントピースの幅が内周より外周が短く、前記セグメントピースの内周に内周凹部を2以上、及び前記セグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成した第1セグメントピースと、前記セグメントピースの幅が内周より外周が長く、前記セグメントピースの内周に内周凹部を2以上、及び前記セグメントピースの外周に外周凹部を2以上形成した第2セグメントピースとを交互に配設したものである。
したがって、セグメントピースの内外周と当該内外周方向に沿って流通するATFによって引き起こされる接触抵抗が低下し、発生する剪断トルクが抑制されるため引き摺りトルクを小さくすることができる。また、内周凹部内及び外周凹部内に流入したATFはセグメントピースの表面に乗り上げて油膜を形成するためカウンタプレートとの間に発生する引き摺りトルクを低減させることができる。また外周の幅が大きい第2セグメントピースが配されることで第1セグメントピースのみが配される場合に比べて伝達トルクを向上させることができる。
【0014】
請求項2の発明の湿式摩擦材は、前記内周凹部の形成により前記複数のセグメントピースの内周に残存する内周端部の円周方向の幅が0.3〜2mmの範囲内である。このような範囲内にすることで、
請求項1に記載の効果に加えて、前記複数のセグメントピースの内周端部が剥離に至ることがない。
【0015】
請求項3の発明の湿式摩擦材は、前記外周凹部の窪み量が、前記複数のセグメントピースの径方向の幅の1/10〜1/3の範囲内としたものである。このため、
請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、より引き摺りトルクの低減を図りながら、所望のトルク伝達可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態において、図示の同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する場合がある。
【0018】
[実施の形態]
まず、
図1を用いて本発明の実施の形態の湿式摩擦材の構成を説明する。
図1のように、湿式摩擦材1は、図示のように、コアプレート10の特定の片面または両面に、コアプレート10の円周方向に沿って複数枚のセグメントピース40が接合されている。そして、コアプレート10の中心位置からその半径方向に放射方向に延びた直線上に、複数枚のセグメントピース40の相互間の間隔で形成されたセグメント間溝41を形成している。
【0019】
更に詳しく説明すると、湿式摩擦材1は、一般に鋼板からリング状(円環状)に形成された芯金としてのコアプレート10と、このコアプレート10の両側の表面に接合されたペーパー系の湿式摩擦材となるセグメントピース40とからなり、コアプレート10には、一般に、回転軸等のトルク伝達要素のスプラインまたは同様なものと係合する係合歯11が一体に形成され、この例では内周側に設けられている。
【0020】
湿式摩擦材1を構成するセグメントピース40は、木材パルプ或いはアラミド繊維等の繊維基材と、カシューダスト等の摩擦調整剤や炭酸カルシウム或いはケイソウ土等の体質充填剤等の充填剤とを抄造して得た抄紙体に、熱硬化性樹脂からなる樹脂結合剤を含浸し、次いで熱成形により加熱硬化して形成したものである。具体的には、その一例として、基材繊維としてのリンターパルプ25重量%及びアラミド繊維30重量%からなる繊維基材と、充填材としてのカシューダスト15重量%及びケイソウ土30重量%からなる摩擦調整剤とからなる抄紙体に、30重量%の樹脂率(摩擦材全体に対する割合)でレゾール型のフェノール樹脂を含浸し、次いで熱成形により硬化したものを挙げることができる。なお、本発明を実施する場合、セグメントピース40は、上記構成配合に限定されるものではない。
【0021】
他方、湿式摩擦材1の複数のセグメントピース40と圧接して摩擦係合するカウンタプレート2は、コアプレート10と同様に、一般に金属製の1枚板からリング状(円環状)に形成され、湿式摩擦材と摺接する平坦な表面を有する本体部20を備えている。また、この本体部20には係合歯21が一体に付設され、トルク伝達要素のスプラインまたは同様なものと係合するようになっている。なお、このようなカウンタプレート2は一般には鋼材(炭素鋼材)から形成されるが、ねずみ鋳鉄等から形成することもできる。
【0022】
そして、これらの湿式摩擦材1とカウンタプレート2とは、ATF等の潤滑油中に浸漬した状態で複数枚交互に組合わされ、それによって湿式摩擦係合装置30が形成される。
図1の例の湿式摩擦係合装置30は、湿式多板形クラッチとして形成され、入力または出力回転軸31にキー止めされたクラッチハブ32に、湿式摩擦材としての複数枚のセグメントピース40がスプライン結合によって軸方向に可動に組付けられる。一方、出力また入力回転軸を形成するクラッチハウジング33の内側に、カウンタプレート2が同様にスプライン結合によって軸方向に可動に組付けられている。また、クラッチハウジング33内には、カウンタプレート2を押圧する環状ピストン34を含む油圧作動装置が形成されている。なお、クラッチハウジング33の開口端には、その油圧作動装置の荷重を受けるための受圧部材35が組付けられている。
【0023】
したがって、この湿式摩擦係合装置30において、油圧源からの油圧によってピストン34が作動されると、交互に組合わされた湿式摩擦材1とカウンタプレート2とがピストン34と受圧部材35との間で相互に圧接され、その摩擦係合によりクラッチハブ32とクラッチハウジング33間のトルクの伝達が行われる。また、油圧を解き、ピストン34の作動を解除すると、それらの圧接による摩擦係合が解かれ、それによってトルクの伝達が遮断される。こうして、ピストン34を含む作動手段の作動、及び解除によって、トルクを伝達し、また遮断することができる。
【0024】
なお、この湿式摩擦係合装置30において、例えば、クラッチハブ32側を入力とし、クラッチハウジング33側を固定することによって、湿式多板形ブレーキとして形成することができる。また、湿式摩擦材としての複数枚のセグメントピース40とカウンタプレート2とを相互に圧接し、摩擦係合させる作動手段は、本例のように油圧式が一般的であるが、他にも機械式、電磁式等であることができ、更には、本例のようにポジティブ形式であっても、またはネガティブ形式であってもよい。
【0025】
コアプレート10は、トルク伝達要素のスプラインと係合する係合歯11が内周側に設けられているが、それを除く外周は円環状であり、湿式摩擦材としての複数枚のセグメントピース40を接合した外周、即ち、
図2においては、セグメントピース40
01〜40
41(ここで、特定の位置のセグメントピース40
01〜40
41を指定しない共通的な場合には、単に「セグメントピース40」と記す)の外周で規定されるライニング半径Rよりも0.5〜3mm大径となっている。
【0026】
図2(a)に示すように、等間隔にセグメントピース40
01〜40
41が接合され、それによってセグメントピース40の相互間にはセグメント間溝41が形成される。セグメント間溝41は内周側の間隔Nが最小の間隔で、外周側の間隔Pが最大の間隔となっている。セグメントピース40の周方向の最大長さは、その両端を結ぶ直線で長さMである。ここで、内周側と外周側とは、セグメントピース40の外周と内周を2分する径方向に対する中心線に対して、内側にあるのを内周側、外側にあるのを外周側という。なお、セグメント間溝41の最小間隔Nと最大間隔Pは同じ間隔とすることもできるが、外周側間隔Pを内周側間隔Nより広くするのが望ましい。このような間隔にすることで内周側から供給されるATFは、セグメント間溝41の内周側から外周側への流通が促進され、湿式摩擦材に対して良好な冷却効果を発揮し易くなる。
【0027】
セグメントピース40の内周凹部50は、セグメントピース40の内周側にあり、セグメントピース40の内周に凹部を設けることで凹形状に形成されている。この凹形状は、
図2や
図6に示すように各種形状とすることができるが、凹部の周方向を2分する中心線で対称形状とするのが好ましい。
図2に示した実施例では、鋸歯状、即ち、三角形であり、これが2以上セグメントピース40の内周に繰り返し形成されている。ここで、湿式摩擦材1の回転方向の特性を変更したい場合には、三角形の辺の傾斜角度を変更することもできる。また、
図6に示した各種変形例の内周凹部50は、セグメントピース40の両端の内周凹部50が左右対称形状ではなく、一定の窪みを維持した形状となっている。しかし、内周凹部50が2以上連続したセグメントピース40の内周に対しては、セグメントピース40の周方向に対する中心線に対して左右対称形状となっている。
このように内周凹部50はセグメントピース40の内周に設けられた凹部であり、この内周凹部50はセグメントピースの内周に2以上設けられていて、好ましくはその形状が対称形とするのがよい。そして、この対称形状とは、1個の内周凹部50の凹形状が、内周凹部50の周方向を2分する中心線で対称となること、及びセグメントピース40の周方向に対する中心線で対称となることを意味する。
【0028】
また、セグメントピース40の内周凹部50は見方を変えると、セグメントピース40の内周側の内周面に形成された凹凸形状と観ることもできる。この凹凸形状は内側に凸の山Xと内側に凹の谷Yで形成された鋸歯状、即ち、三角形、さらに周方向の中心線に対し対象の場合は二等辺三角形の繰り返しになっている。
【0029】
本実施の形態では、セグメントピース40の外周に外周凹部60を2以上設けた形態とすることができる。外周凹部60はセグメントピース40の外周側にあり、かつ、セグメントピース40の外周に凹形状が形成されている。この凹形状も内周凹部50同様に各種形状とすることができ、その周方向の中心線で対称形状とするのが好ましい。
そして、外周凹部60は内周凹部50と同様、セグメントピース40の外周側の外周面に形成された凹凸形状と観ることもできる。この凹凸形状は外側に凸の山Xと外側に凹の谷Yからなる鋸歯状になっている。勿論、左右回転方向の特性を変更したい場合には、左右方向の傾斜角度を変更することもできる。
【0030】
本発明の実施例で使用するセグメントピース40は、セグメントピース40の相互間にセグメント間溝41が形成されている。
図3(a)及び
図3(b)に示した比較例及び参考例同様に、セグメント間溝41は内周側の間隔Nが最小の間隔で、外周側の間隔Pが最大の間隔となっている。セグメントピース40の内周の幅は長さMである。また、セグメントピース40の外周の幅は長さLであり、セグメントピース40の最小幅となっている。以下、セグメントピース40の幅は、内外周を問わず最長の幅を長さMとし、最小の幅を長さはLとして説明する。
【0031】
図4(a)は本発明の実施例1の湿式摩擦材1で、コアプレート10の特定の片面または両面に接合された複数のセグメントピース40は、打ち抜き等で独立して形成されたものである。このとき、複数のセグメントピース40の長さMは、得られる特性に合致した任意の大きさとすることができる。通常、セグメントピース40は12枚乃至46枚程度が接合できる値に設定される。本実施の形態のセグメントピース40の枚数及び大きさは従来技術が使用できる。そして、実施例1の湿式摩擦材1は、セグメントピース40の外周側を直線状に形成し、セグメントピース40の内周のみに凹からなる内周凹部50を3個有するものである。
【0032】
図4(b)に示す実施例2の湿式摩擦材1は、実施例1のセグメントピース40の外周に2個の凹からなる外周凹部60を設けたものである。セグメントピース40の最長長さM、セグメントピース40の最小長さはLである。
【0033】
実施例1及び実施例2の内周凹部50は各々が三角形の形状、付言すれば、個々に左右対称形状の二等辺三角形を成している。このためセグメントピース40の内周には連続した内周凹部50が形成され、セグメントピース40の内周に残存する端面(以下、「内周端面」と呼ぶ)が少なくなっている。このようなセグメントピース40を有する湿式摩擦材1が回転すると、ATFは相対的にセグメントピース40の内周に沿って流通することになるが、本発明では、この周方向に沿って流通するATFと接するセグメントピース40の内周端面が少なくなっている。したがって、ATFがセグメントピース40の内周端面と接触する割合が減少することで接触抵抗が減少し、更にATFとこの内周端面によって引き起こされる剪断トルクを低減させることができる。このように内周凹部50の存在がセグメントピース40の内周方向に発生する引き摺りトルクを効率よく減少させ得る。また、三角形の形状をした内周凹部50は、底辺から頂点に向かって幅が狭くなっている。このように、セグメントピース40の内周から外周に向かって開口幅を小さくすることで
図5(b)に示すように、摩擦材表面へのATFの乗り上げによる油膜が形成しやすくなる。このATFの乗り上げ効果による油膜よって湿式摩擦材1はカウンタプレート2から離間するため、湿式摩擦材1とカウンタプレート2間によって発生する引き摺りトルクが低減できる。つまり、内周凹部50はセグメントピース40の内周を流通するATFによって引き起こされる引き摺りトルクと、セグメントピース40の摩擦表面とカウンタプレート間で引き起こされる引き摺りトルクとを効率よく低下させることができる。
【0034】
そして、この引き摺りトルクの低減の効果は、内周端面での接触抵抗と剪断トルクの低減効果と乗り上げ効果の加算によるものであるが、これらは湿式摩擦材1の回転数に依存し、低回転数では乗り上げの効果が高く、高回転数では内周端面での接触抵抗と剪断トルクの低減が高くなるといえる。これは、高回転になるほど相対的にATFは内周方向への流れが主流となり易く、内周凹部50内への流入が減ると考えられるからである。
したがって、これら本実施の形態の内周凹部50はその存在、及びその形状によって、ATFとのセグメントピース40の内周端面での接触抵抗と剪断トルク、及び内周凹部50からのセグメントピース40の表面へのATFの乗り上げを制御することができ、これによって引き摺りトルクを効率よく低減させることが可能となる。
【0035】
ここで、内周凹部50はセグメントピース40の内周に凹みを設けることで形成しているが、この内周凹部50の窪み量Aはセグメントピース40の径方向の幅Cの1/10〜1/3の範囲に設定している。この範囲内であれば伝達トルクの低下を必要以上に低下させることなく、効率よく内周凹部50によって引き摺りトルクを低減させることができる。また、セグメントピース40の内周に内周凹部50を2以上形成することによってセグメントピース40の内周には内周凹部50の間に内周端部が形成されるが、この内周端部の周方向の幅lを0.3mm〜2mmに規定している。この範囲内に規定することで、内周端部のコアプレート10からの剥離を防止することができ、耐久性を確保しながらATFとの接触抵抗の低減が可能となる。
つまり、幅lが0.3mmより小さいと剥離しやすくなり、幅lが2mmを超えると充分な接触抵抗の低減が得られ難くなるためである。
【0036】
ここで、本実施の形態の内周端部の形状は、円弧形状または直線形状を成している。したがって、内周端部の周方向の幅lは、先端を面取りした面取りの直径であり、また当該直線の幅ということになる。内周端部の形状が直線形状の場合、当該直線の両端を直線または円で面取りするのが好ましい。
このように、内周端部の周方向の幅lは面取りがなされるのが好ましく、面取りがなされていない場合には剥離されやすい形態となる。特に、内周端部の形状が、内周端部の幅の両端をR形状となるように形成することが好ましく、両端をR形状とすることで、剥離防止の効果が向上する。更に好ましくは、
図6(c)のように幅全体にRを設けた半円形状とすることである。このような形状とすることでいちだんと剥離防止効果が良くなる。
本実施の形態の内周端部の周方向の幅lは、通常、直線で漸近線を描くことによりその幅が求められる。つまり幅lは、内周端部の両端が内周凹部50と接続する接続点間の距離を指し、内周端部に面取りがされている場合は、当該面取り部分が内周凹部50と接続する接続点間が幅lとなる。
このように、セグメントピース40の内周凹部50について説明してきたが、セグメントピース40の外周に外周凹部60を設けるときにも同様の効果が得られる。即ち、
図4(b)に示したように実施例2では、セグメントピース40の内周凹部50に加えて外周に外周凹部60が設けられていて、このときの内周凹部50の効果は実施例1の内周凹部50の効果と同様の効果を有する。そして実施例2の外周凹部60は内周凹部50と同様に、セグメントピース40の外周方向を流通するATFと接する外周端面の割合が少なくなることによる接触抵抗と剪断トルクの低下による引き摺りトルクの低減と、外周凹部60からのセグメントピース40の摩擦表面へのATFの乗り上げ効果によるカウンタプレート2との離間作用よって引き摺りトルクを低減させることができる。このため実施例1以上に実施例2は引き摺りトルクを低減させる効果を有している。
【0037】
このように実施例2は実施例1以上に引き摺りトルクを効率よく低減させることができるが、セグメントピース40の外周に外周凹部60を設けていることから、セグメントピース40の外周側のカウンタプレート2と対抗する面積が少なくなっている。このためカウンタプレート2との間に発生するトルク容量が小さくなり、実施例1に比べて所望の伝達トルクが確保し難くなるおそれが生じる。このためセグメントピース40を
図8(e)に示したように、セグメントピース40の外周の幅を内周の幅より短くし、この内周に内周凹部を2以上、外周に外周凹部を2以上形成した第1セグメントピース40
−1と、この第1セグメントピース40
−1とは逆にセグメントピース40の外周の幅を内周の幅より長くし、この内周に内周凹部を2以上、外周に外周凹部を2以上形成した第2セグメントピース40
−2とを交互に配設したのが実施例3である。さらに説明すると実施例3は、実施例2のセグメントピース40を第1セグメントピース40
−1として使用し、この第1セグメントピース40
−1を180°反転させて内外周を逆にコアプレート10に配したのが第2セグメントピース40
−2である。つまり、実施例3は、実施例2のセグメントピース40を、1枚おきに反転させて配設したものともいえる。
【0038】
このように外周の幅が内周の幅より短い第1セグメントピース40
−1だけでなく、外周の幅が内周の幅より長い第2セグメントピース40
−2を用いることで湿式摩擦材1の全体に占めるセグメントピース40の外周側におけるカウンタプレート2と対抗する対抗面積の総面積が、第1セグメントピース40
−1だけの場合より大きく設定することが可能となる。したがって実施例3は実施例2よりも伝達トルクは大きくなる。そして実施例3では第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2を1枚毎に交互に配設しているが、本発明はこれに限定するものではない。例えば第1セグメントピース40
−1の1枚に対し第2セグメントピース40
−2を2枚以連続して配置し、これらを繰り返し配することもでき、更に、すべて第2セグメントピース40
−2とすることも有り得る。これらは第2セグメントピース40
−2の設置枚数が増加することにより、実施例3以上の伝達トルクの確保が可能となる。また、セグメントピース40の枚数によっては、第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2の繰り返し枚数が完全に同じ繰り返し枚数とはならず部分的に相違する場合がある。この場合でも第2セグメントピース40
−2を設けていることによって第1セグメントピース40
−1だけの実施例2以上の伝達トルクを確保できる。
つまり、第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2の湿式摩擦材1全体に対する配設割合を変えることで、引き摺りトルクと伝達トルクの調整が容易に可能となる。そして、配設割合の変更は、交互に配設する第1セグメントピース40
−1の枚数と第2セグメントピース40
−2の枚数を各々変更することで行える。この際配設する第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2は、実施例3のように1枚毎に交互に配置して配設しても良く、第1セグメントピース40
−1及び/または第2セグメントピース40
−2を連続配置して交互に配設しても良い。このとき、第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2の交互に配置する枚数は第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2でそれぞれ自由に設定でき、この設定した枚数で交互に配設する。そして交互に配設する枚数は必ずしも同じ枚数とする必要はなく異なった枚数で配設することも有り得る。
【0039】
次に、本発明の実施形態における相対回転数に対する引き摺りトルクの試験結果について説明する。
図8(c)に示したコアプレート10の中心方向にある内周にのみ内周凹部50を形成したセグメントピース40を実施例1として、また、
図8(d)に示したように実施例1のセグメントピース40に、コアプレート10の外周に外周凹部60を形成したものを実施例2とし、さらに
図8(e)に示したように第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2とを交互に配設したものを実施例3として作製した。また、比較として
図8(a)の内周凹部50及び外周凹部60を形成しない比較例、及び内周凹部50の効果を確認するために
図8(b)に示したように外周凹部60のみ形成した参考例を作製した。このため、参考例の外周凹部60は実施例2と同じ形状となるように設定した。
【0040】
ここで
図4(a)に示したように、実施例1の内周凹部50の窪み量Aはセグメントピース40の径方向幅の1/4であり、内周端部の周方向の幅lは0.6mmである。また実施例2の内周凹部50の窪み量Aと内周端部の周方向の幅lも実施例1と同じとし、外周凹部60についても内周凹部50と同様の形状で作製した。そして、実施例3は上述したように実施例2のセグメントピース40を使用して第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2とした。
【0041】
試験条件を回転数500〜3000rpm、潤滑油ATF、油温40℃、潤滑油量1000ml/min(軸芯潤滑無し)、湿式摩擦材のサイズは外径φ152.8、内径φ144で、湿式摩擦材のディスク枚数を4枚、バッククリアランスを0.20mm/枚として湿式摩擦材1とカウンタプレート2との相対回転数を500rpm〜3000rpmと変化させたときの引き摺りトルクを測定し、その結果を
図9に示す。
【0042】
図9の試験結果から分かるように本発明の実施例1乃至実施例3では、内周凹部50及び外周凹部60を形成しない比較例に比べて内周凹部50を形成することで全ての回転数で引き摺りトルクを低減することが判明した。また、外周凹部60を形成した参考例も比較例に比べて全ての回転数で引き摺りトルクが低減している。ここで実施例1は1600rpm程度の低回転までは、参考例よりも優っており、低回転数域の引き摺りトルクを低減させるためには、外周より内周に内周凹部50を形成するのが好ましいことが確認された。さらに内周凹部50及び外周凹部60を形成した実施例2及び実施例3では比較例、参考例よりも全ての回転数で引き摺りトルクを低減することができている。そして、実施例2と実施例3を比べると、引き摺りトルクの低減効果は同じ結果であった。
【0043】
これらの結果から以下のことが言える。
湿式摩擦材1が回転するとセグメントピース40の内周に在るATFは相対的にセグメントピース40の内周に沿って流通しようとする。この際実施例1乃至実施例3ではセグメントピース40の内周側に内周凹部50が存在しているため、内周を流通するATFは、
図5(a)の参考例のように内周凹部50が存在しないものに比べてセグメントピース40の内周端面との接触面積が少なくなっている。したがって、ATFが内周に沿って流通するときのセグメントピース40との内周端面に起因する接触抵抗と剪断トルクは小さくなり、これによって引き摺りトルクは小さくなる。また、実施例2は
図5(b)に示したようにセグメントピース40の摩擦表面へのATFの乗り上げが生じる。このことは図示していないが実施例3でも同様である。このATFの乗り上げ効果によって湿式摩擦材1とカウンタプレート2は離間するため、湿式摩擦材1とカウンタプレート2による引き摺りトルクが低下する。つまり実施例2及び実施例3では、内周凹部50を設けることで、比較例に比べて内周を流通するATFとの接触抵抗や剪断トルクによって発生する引き摺りトルク、及び湿式摩擦材1とカウンタプレート2との間に発生する引き摺りトルクを低減することができる。ここで、実施例1は実施例2のように外周凹部60が形成されておらず、外周凹部60を形成した参考例に比べて相対回転数が略1600rpmより高回転域ではかえって引き摺りトルクは悪くなっているが、これについては以下のように推定する。
【0044】
内周凹部50の効果は実施例1でも同様と考えられるが、高回転域ではATFは遠心力によって湿式摩擦材1の外周側が多くなる。そのためセグメントピース40の外周側に外周凹部60を設けない実施例1より外周凹部60を設けた参考例の方がセグメントピース40の外周を流通するATFとの接触抵抗と剪断トルクは小さくなり、また、外周凹部60からのATFの乗り上げ効果によって湿式摩擦材1とカウンタプレート2の離間が促進され、引き摺りトルクが効果的に減少したものと推測する。この参考例と実施例1から、外周凹部60の効果も内周凹部50と同じ効果をもたらすが、相対回転数によって内周凹部50と外周凹部60の効果の現われ方に相違が生じる。つまりATFの流通が、相対回転数が低く内周域が主流のときは内周凹部50の効果が大きく、相対回転数が高くなり外周域が主流になるときは外周凹部60の効果が大きくなって引き摺りトルクを低減させるものと思われる。
【0045】
ここで、実施例3の引き摺りトルクの低減効果は試験結果から実施例2と略同等であるが、湿式摩擦材1に配したセグメントピース40は、実施例2は実施例3の外周の幅が内周の幅より短い第1セグメントピース40
−1のみが配されているのに対し、実施例3は外周の幅が内周の幅より長い第2セグメントピース40
−2も配されている。したがって、湿式摩擦材1に占める全セグメントピース40の外周側の総面積は実施例2より実施例3は多くなっている。この面積の増加によって実施例3の伝達トルクは実施例2より大きくすることが可能となる。
なお、本発明の実施の形態として図示していないが所望の冷却効率が得られれば、第2セグメントピース40
−2のみとすることも有り得、このような第2セグメントピース40
−2のみとすることでさらに伝達トルクを大きくすることが可能となる。
【0046】
冷却効率についてはセグメント間溝41を流通するATFの流量が影響し、この流量はセグメント間溝41の形状に起因する。実施例1及び実施例2では湿式摩擦材1のセグメント間溝41は、湿式摩擦材1の回転中心から放射線状に沿って形成され、その幅は外周側が内周側より広く形成されている。このように形成することで内周側から供給されるATFは内周側から外周側へ(
図7(a)のF1方向)流通しやすくなる。実施例1及び実施例2では内周側に対する外周側の幅を広く大きく変化させているが、ここでも所望の冷却効率が得られれば
図10に示した実施例2の変形例ように、外周側の幅は内周側に比べて広くしているが、その変化を小さくすることができる。これによっても外周側のセグメントピース40のカウンタプレート2との摩擦面を大きく設定することができる。これら実施例1や実施例2、及び実施例2の変形例ではセグメント間溝41の方向は一定の方向を向いている。これに対し実施例3では、セグメント間溝41の幅は実施例1及び実施例2に比べて幅の変化は小さく、またその方向は、第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2によって湿式摩擦材1の回転中心から回転方向に向かって形成されたセグメント間溝411と、湿式摩擦材1の回転中心から回転方向とは逆方向に向かって形成されたセグメント間溝412ができる。そしてセグメントピース40の内周側に供給されたATFは半径方向の外周に向かってセグメント間溝41を移動するが、回転方向に形成されたセグメント間溝411を流れるF3方向のATFの流れは、回転方向と逆方向に形成されたセグメント間溝412を流れるF2方向のATFより流通量が少ない。これは、F3方向を流れるATFはセグメント間溝411を移動する間に湿式摩擦材1の回転によって第2セグメントピース40
−2に押されて表面に乗り上がる量が多くなるためである。このため、実施例3のF2方向のセグメント間溝412は、内周側から外周側へのATFの流通が主であり、F3方向のセグメント間溝411は第2セグメントピース40
−2表面へのATFの供給が主となり、各々異なった機能を有している。
【0047】
以上説明したように、本発明の実施の形態では、複数のセグメントピース40の内周に2以上の内周凹部50を形成することで、セグメントピースの内周と当該内周方向を流通するATFによって引き起こされる接触抵抗が低下し、発生する剪断トルクが抑制されるため引き摺りトルクを小さくすることができる。また、内周凹部50内に流入したATFはセグメントピースの表面に乗り上げて油膜を形成するためカウンタプレートとの間に発生する引き摺りトルクを低減させることができる。このとき前記内周凹部の窪み量が、前記複数のセグメントピースの径方向の幅の1/10〜1/3の範囲内としているため所望のトルク伝達を可能としながらも引き摺りトルクの低減が可能となる。
【0048】
ここで、内周凹部50は1600rpm程度以下の低回転で発生する引き摺りトルクを低減させるのに特に有効である。これは、この低回転領域ではATFに加わる遠心力は大きくないため、セグメントピース40の内周側を流通するATFによって引き摺りトルクが発生しやすい状態にあるが、本発明の内周凹部50を設けることで発生させ難くすることができるからである。ここで、複数のセグメントピース40の内周に2以上の内周凹部50とは、内周凹部50として2個以上確保される形態を意味し、山Xまたは谷Yとの関係では、谷Yの数が2以上であればよい。
【0049】
また、内周凹部50の形状は、例えば、三角形のようにセグメントピース40の内周から外周に向かって開口幅が狭くなる形状としている。このように開口幅が狭くなるような形状とすることで、ATFは遠心力を受けてセグメントピース40の表面上に乗り上げやすくなり、この乗り上げたATFによって湿式摩擦材1とカウンタプレート2が離間しやすくなるため、湿式摩擦材1とカウンタプレート2との間に発生する引き摺りトルクを低減させることができる。また、セグメントピース40の内周に大きな開口を設けることとなるため内周を流通するATFとの接触面積が小さくなることで接触抵抗が低下し、セグメントピース40の内周とATFとの相互作用によって発生する剪断トルクも小さくできるため、これら接触抵抗と剪断トルクによる引き摺りトルクも低減できる。
【0050】
ここで内周凹部50をこのような外周に向かって開口幅が狭くなる形状とすると、セグメントピース40の内周端部の幅は狭くなりコアプレート10から剥離しやすくなる。このため本発明の実施形態では、内周端部の円周方向の幅lを0.3〜2mmの範囲に規定し、このような範囲内に入るように内周凹部50を形成している。このため、所望の伝達トルクを確保しながら内周端部がコアプレート10から剥離することが抑制でき、耐久性の確保が成される。
【0051】
更に本発明の実施の形態では、内周凹部50に加えて外周凹部60を形成している。外周凹部60も内周凹部50と同様の効果を与える。この際内周凹部50はセグメントピース40の内周に発生する引き摺りトルクとカウンタプレート間に発生する引き摺りトルクを低減させるのに対し、外周凹部60はセグメントピース40の外周に発生する引き摺りトルクとカウンタプレート間に発生する引き摺りトルクを低減させる。この際ATFに大きな遠心力が働くとセグメントピース40の外周にATFが移動するため、この外周に引き摺りトルクが発生し易くなる。したがって、外周凹部60は、ATFに大きな遠心力を作用させる高回転領域に効果を発揮する。外周凹部60をセグメントピース40に形成するか否かは湿式摩擦材1に要求される仕様によって適宜設定すれば良いが、内周凹部50に加えて外周凹部60を形成することで低回転から高回転までの全領域で引き摺りトルクの低減が可能となる。
【0052】
このように、実施例1乃至実施例3の湿式摩擦材1の場合は、環状のコアプレート10の特定の片面または両面に環状に接合された複数のセグメントピース40と、複数のセグメントピース40相互間に形成されたセグメント間溝41とを具備し、複数のセグメントピース40は、その内周に2以上の凹からなる内周凹部50を形成し、その外周に2以上の凹からなる外周凹部60を形成してなる。
したがって、セグメントピース40の内周を流通するATFによって引き起こされる接触抵抗が低下し、発生する剪断トルクが抑制されるため引き摺りトルクを小さくすることができる。また、2以上の凹からなる内周凹部50と2以上の凹からなる外周凹部60の窪み量が規定されていることから必要以上に伝達トルクの低下を抑えることができ引き摺りトルクの低減が可能となる。
【0053】
ここで実施例3のように、内外周の幅を相違させた第1セグメントピース40
−1と第2セグメントピース40
−2を交互に配設した形態では同一形状のセグメントピース40を採用した時に比べて伝達トルクの低下が少なくなり、所望の伝達トルクが得られやすくなる。
【0054】
上記実施の形態の湿式摩擦材は、コアプレート10の特定の片面または両面に環状に接合された複数のセグメントピース40と、セグメントピース40相互間に形成されたセグメント間溝41とを具備し、複数のセグメントピース40の内周に内周凹部50を2以上形成し、内周凹部50の窪み量が、複数のセグメントピース40の径方向の幅の1/10〜1/3の範囲内としたものである。これは、セグメントピース40の径方向の幅が1/10を下回ると所望のトルク伝達を可能としながらも引き摺りトルクを十分低減できなくなり、1/3を超えると引き摺りトルクは十分低減可能となるが所望のトルク伝達の達成が困難となるためである。
したがって、セグメントピース40の内周と当該内周方向に沿って流通するATFによって引き起こされる接触抵抗が低下し、発生する剪断トルクが抑制されるため引き摺りトルクを小さくすることができる。また、内周凹部50内に流入したATFはセグメントピース40の表面に乗り上げて油膜を形成するためカウンタプレートとの間に発生する引き摺りトルクを低減させることができる。このとき内周凹部50の窪み量が、複数のセグメントピース40の径方向の幅の1/10〜1/3の範囲内としているため所望のトルク伝達を可能としながらも引き摺りトルクの低減が可能となる。