(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
本実施の形態では、建物における既存梁の下方に補助梁が配置されることによって、既存梁が補強される。建物は、典型的には木造住宅である。
【0022】
(梁補強構造の概略について)
はじめに、本実施の形態に係る梁補強構造の概略について説明する。
【0023】
図1に示されるように、既存住宅には、既存の躯体部として、基礎(図示せず)上に設けられた土台11と、土台11上に設置された既存柱12,13,14と、これら既存柱12,13,14に支えられた既存梁15と、既存梁15に対して直交する既存梁16,17とが含まれているものとする。これらの構造躯体は、たとえば全て、四角柱形状である。
【0024】
一対の既存柱12,13は、既存梁15の両端部に連結され、既存梁15を支持している。本実施の形態では、既存梁15の両端部は、既存柱12,13によってそれぞれ間接的に支持されている。より具体的には、既存梁15の一端側は、既存梁17に連結されており、その既存梁17が既存柱13によって支持されている。同様に、既存梁15の他端側は、既存梁16に連結されており、その既存梁16が既存柱12によって支持されている。なお、既存梁15の少なくとも一方側端部は、既存柱12または13によって直接的に支持されていてもよい。
【0025】
本実施の形態に係る梁補強構造では、このような住宅において、一対の既存柱12,13間に位置する既存柱14(以下「中間柱14」という)が撤去されている。また、既存梁15の下方に、補助梁21が配置されている。補助梁21は、たとえば木材で形成されている。補助梁21の両端部は、たとえば公知のL字形状の支持金物6を介して一対の既存柱12,13に支持されている。なお、既存梁15と補助梁21とを確実に連結させるためには、既存梁15と補助梁21とをまたぐ位置に側板22がさらに設けられることが望ましい。
【0026】
本実施の形態では、補助梁21は、仮置き工程を経てから取り付け位置(すなわち、既存梁15の直下)に配置される。補助梁21の仮置き工程を実現するために、上記支持金物6を支持する支持具(以下「補助梁支持具」という)が既存柱12,13に取り付けられる。支持金物6は、補助梁21の固定時に補助梁21の端部を既存柱12,13に支持させるために用いられる支持部材であるとともに、補助梁支持具に支持される被支持部材でもある。
【0027】
(補助梁支持具の構造例および配置例について)
図2および
図3は、それぞれ、一方の既存柱13に取り付けられた補助梁支持具4を示す側面図および斜視図である。
図4は、補助梁支持具4を示す斜視図である。なお、
図3では、既存梁17の延びる方向(長手方向)が矢印A1で示されており、本実施の形態では当該方向を幅方向という。つまり、幅方向は、既存梁15および補助梁21の延びる方向(長手方向)に直交する方向を表わす。また、既存梁15および補助梁21の延びる方向を奥行方向ともいう。また、
図4では、補助梁支持具4に支持される支持金物6が想像線にて示されている。
【0028】
図2を参照して、補助梁支持具4は、上記支持金物6を支持する。支持金物6は、水平方向に延びる天板部61と、天板部61より下方に延びる立板部62とを含む。支持金物6の天板部61は、予め、補助梁21の端部の下面212に固定されている。
図4において想像線で示されるように、天板部61および立板部62には、それぞれ、釘やボルトなどの固定具(
図16の「92」)が挿入される複数の貫通穴63,64が設けられている。支持金物6の幅は、補助梁21の幅寸法(
図9の「L1」)以下である。これに対し、補助梁支持具4の幅は、少なくとも補助梁21の幅寸法以上であり、ここでは、たとえば補助梁21の幅寸法の2倍以上である。補助梁支持具4は、後述するように、補助梁21に対して仮置き位置422と正規位置421とを提供する。補助梁支持具4は、剛性を有する材料、たとえば鋼材により形成されている。
【0029】
補助梁支持具4は、ベース部41と、ベース部41に連結され、支持金物6を受入れる受入れ部42とを含む。本実施の形態では、既存柱13の内側面130の幅は、補助梁21の幅寸法と略同一であるため、ベース部41は、既存柱13に当接される部分と既存柱13から側方に突出する部分とを有している。
図3および
図4に示されるように、ベース部41は、既存柱13との当接部分に、固定具91が挿通される複数の貫通穴43が設けられている。
【0030】
受入れ部42は、ベース部41の上端部から、既存柱13の内側面130に沿って上方に立ち上がる立壁45と、底壁44とで構成されている。底壁44は、ベース部41の上端に形成されている。立壁45は、支持金物6の立板部62の厚み分、既存柱13から離れて配置されている。立壁45の表面は、ベース部41の表面と面一状に形成されている。そのため、立壁45の厚みは、ベース部41の厚みよりも、支持金物6の立板部62の厚み寸法以上小さい。受入れ部42の上端面420(つまり、立壁45の上端面)は、幅方向に段差なく延びている。支持状態において、支持金物6の天板部61は、受入れ部42の上端面420に当接(載置)され、支持金物6の立板部62は、受入れ部42の裏面側に受け入れられる。
【0031】
受入れ部42の上端面420は、補助梁21の端部が本置きされる正規位置421と、補助梁21の端部が仮置きされる仮置き位置422とを有している。つまり、この上端面420が、補助梁21に対して仮置き位置422と正規位置421とを提供するための載置面である。正規位置421は、既存梁15の下面に対向するように配置され、仮置き位置422は、既存梁15よりも側方に突出するように配置されている。たとえば、正規位置421の幅は、補助梁21の幅寸法と略同一であり、仮置き位置422の幅は、補助梁21の幅寸法以上である。
図5には、補助梁21の端部が補助梁支持具4の仮置き位置422に載置された状態が示されている。
【0032】
なお、本実施の形態では、支持金物6が補助梁支持具4の受入れ部42に完全に受け入れられた状態(支持状態)においても、
図2に示されるように支持金物6の下端部は、受入れ部42の底壁44から浮いた状態となっている。しかしながら、支持状態において、支持金物6の下端部は、受入れ部42の底壁44に接してもよい。ただし、この場合でも、支持金物6が受入れ部42の上端面420に接することが望ましい。つまり、受入れ部42の立壁45の上下方向長さは、支持金物6の立板部62の上下寸法以上であることが望ましい。
【0033】
受入れ部42の上端面420における、仮置き位置422側の幅方向端縁には、仮置き位置422からの補助梁21の脱落を防止するために、上端面420からさらに立ち上がる立上片(図示せず)などが設けられていてもよい。また、補助梁支持具4には、求められる強度に応じて、支持金物6に干渉しない範囲で補強部材(図示せず)が設けられてもよい。
【0034】
図3および
図4に示すように、受入れ部42のうち既存柱13の内側面130に対面する部分、すなわち立壁45(
図2)の一部には、開口40が設けられている。開口40は、支持金物6が正規位置421に位置するときに、支持金物6の立板部62の貫通穴64を露出させる。つまり、開口40は、貫通穴64を貫通する固定具(の頭部)を露出させる。なお、本実施の形態では、開口40によって全ての貫通穴64が露出される例を示しているが、少なくとも一部の貫通穴64が露出されればよい。また、受入れ部42に、複数の貫通穴64を露出する1つの開口40が設けられることとするが、
図6に示されるように、貫通穴64ごとに開口40Aが設けられてもよい。また、支持金物6の立板部62に貫通穴64が設けられていなくても、受入れ部42の立壁45は、固定具を打ち込むべき箇所に開口を有していればよい。
【0035】
本実施の形態では、補助梁21を片方ずつ持ち上げて、既存柱12,13に取り付けられた補助梁支持具4の仮置き位置に422に、補助梁21に固定された支持金物6を載置する。この場合、先に載置される方(一方側)の補助梁支持具4の受入れ部42の上端面420(仮置き位置422)は、受入れ部42の立壁45に引掛けられた支持金物6の回転運動の支点となるため、上端面420の少なくとも一部は断面R形状を有していることが望ましい。
【0036】
また、後に載置される方の補助梁支持具4の仮置き位置422に補助梁21を載置し易くするために、
図7に示されるように、補助梁支持具4における仮置き位置422の幅を、一方側と他方側とで異ならせてもよい。
図7には、補助梁支持具4が既存柱12,13に取り付けられた状態(上方から見た状態)が模式的に示されている。
図7では、一方の既存柱13側の補助梁支持具4の幅寸法L11の方が、他方の既存柱12側の補助梁支持具4の幅寸法L12よりも長い。この場合、補助梁支持具4の仮置き位置422の幅は、補助梁21の幅寸法よりも大きく、補助梁支持具4Aの仮置き位置422の幅は、補助梁21の幅寸法よりも小さい。つまり、補助梁支持具4Aにおける仮置き位置422と正規位置421とは、部分的に重なっている。なお、この場合でも、補助梁支持具4Aの受入れ部42の上端面420の幅は、補助梁21の端部を仮置きした状態で安定的に補助梁21を支持できる長さであることが望ましい。
【0037】
図8には、補助梁21の両端部が補助梁支持具4,4Aに仮置きされた状態が示されている。補助梁21が仮置きされた状態では、
図7に示されるように、補助梁21は既存梁15よりも側方に位置している。この状態において、既存梁15を下方から支持する既存梁支持具5が補助梁21の中央部(長手方向両端部以外の部分)に取り付けられていることが望ましい。次に、既存梁支持具5について説明する。
【0038】
(既存梁支持具5の構造例および配置例について)
図9は、既存梁支持具5を装着した補助梁21が、補助梁支持具4,4Aに仮置きされた状態を示す斜視図である。
図10は、既存梁支持具5の構造例を示す断面図である。なお、
図9では、理解を容易にするために、既存梁15が部分的に切断された状態が示されている。
【0039】
図9に示されるように、本実施の形態における既存梁支持具5は、補助梁21の両端部が補助梁支持具4,4Aに仮置きされた状態において、既存梁15を下方から支持する支持面50を有している。支持面50は、補助梁21の上面210に沿って延び、幅方向一方側に張り出している。支持面50が補助梁21より張り出す方向は、補助梁支持具4が既存柱12,13より張り出す方向とは反対の方向である。つまり、補助梁支持具4は、既存柱12,13より幅方向他方側に張り出している。
【0040】
既存梁支持具5は、
図10に示されるように、たとえば、各々が略L字形状を有する2つの支持部材51,52を含む。これらの支持部材51,52もまた、剛性を有する材料、たとえば鋼材により形成されている。第1の支持部材51は、支持面50が形成された水平部511と、水平部511に連結された垂直部512とを有する。水平部511の一部が、補助梁21の上面210に載置(当接)される。ここでは、水平部511のうち、補助梁21の上面210に載置される部分をベース部511a、水平部511のうち、補助梁21より幅方向一方側へ張り出した部分を張出部511bという。支持面50は、水平部511の上面であり、略水平方向に延在している。垂直部512は、補助梁21の幅方向他方側の側面211に沿って配置される。なお、
図9および
図10では、張出部511bの幅寸法L4は、既存梁15の幅寸法L3と略同一としているが、既存梁15の幅寸法より小さくてもよい。つまり、補助梁21が仮置きされた状態で、支持面50と既存梁15の下面150とが、少なくとも一部、当接(または対面)していればよい。
【0041】
第2の支持部材52も同様に、水平部522と、水平部522に連結された垂直部521とを有する。水平部522は、補助梁21の下面212に当接される。垂直部521は、補助梁21の幅方向他方側の側面211に沿って配置される。垂直部521は、少なくとも部分的に、第1の支持部材51の垂直部512と重なっており、これらの垂直部512,521のうちのいずれか一方(
図10では垂直部512)が、補助梁21の側面211に当接する。
【0042】
第1の支持部材51の垂直部512と第2の支持部材52の垂直部521とが重なった部分には、それぞれ複数の貫通穴514,524が形成されている。これらの貫通穴514,524に連結具71が貫通されることによって、第1の支持部材51と第2の支持部材52とが連結される。これにより、既存梁支持具5は、補助梁21の三方を取り囲んだ状態で、補助梁21に固定される。連結具71は補助梁21を突き刺しておらず、容易に取り外し可能である。具体的には、たとえば、貫通穴514,524は、内周面に螺旋状の溝が形成されたネジ穴であり、連結具71は、雄ネジである。
【0043】
垂直部512の貫通穴514、および、垂直部521の貫通穴524は、ともに、上下方向に所定間隔(たとえば30mm間隔)で設けられている。これにより、様々な規格の補助梁21に対応することができる。なお、補助梁21の下面212と第2の支持部材52の水平部522との間に多少の隙間が生じる場合には、その隙間にパッキン等を挿入して、補助梁21が2つの支持部材51,52によって上下方向に挟持されるようにしてもよい。
【0044】
なお、既存梁支持具5によって補助梁21の三方を取り囲むだけでは、既存梁支持具5は、張出部511b上の支持面50に既存梁15の荷重が加えられたときに、
図10において時計方向に回転してしまう可能性がある。したがって、既存梁支持具5は、回転防止手段をさらに有していることが望ましい。本実施の形態では、たとえば、第2の支持部材52に、水平部522の幅方向他方側の端部より立ち上がる立上部523をさらに設けることで、既存梁支持具5の回転を防止することとしている。立上部523は、補助梁21の幅方向一方側の側面213に当接することが望ましい。
【0045】
既存梁支持具5は、第1の支持部材51の水平部511のうち張出部511bのみで既存梁15の荷重を支持する。そのため、張出部511bの下方には、
図11に示すような補強部材53が設けられることが望ましい。補強部材53は、たとえば、第1の支持部材51の水平部511の張出部511bの下面に当接される当接部531と、補助梁21の幅方向一方側の側面213に当接される当接部532と、これらの当接部531,532に直交する直交部533とを含む。第1の支持部材51の水平部511における張出部511bと当接部531とに、連結具72が貫通されることによって、第1の支持部材51と補強部材53とが連結固定される。なお、張出部511bおよび当接部531にも、連結具72が貫通される貫通穴が予め形成されており、連結具72も、連結具71と同様に簡単に取り外し可能であるものとする。
【0046】
また、
図11に示されるように、第1の支持部材51の張出部511bの先端部(幅方向一方側端部)には、既存梁15の下方への差し込みを容易にするために、斜め下方に延びる傾斜部513が設けられていてもよい。なお、
図11に示す張出部511bの幅は、
図10に示す幅よりも短く形成されている。
【0047】
(梁補強方法について)
ここで、本実施の形態における既存梁15の補強方法について説明する。
図12は、本実施の形態における梁補強方法の工程順序を示すフローチャートである。なお、梁補強方法の説明において、特に補助梁支持具4,4Aを区別する必要がない場合には、単に補助梁支持具4と記す。
【0048】
図12を参照して、はじめに、補助梁支持具4が、一対の既存柱12,13に対しそれぞれ固定される(工程P1)。本実施の形態では、典型的には、補助梁支持具4の受入れ部42の上端面420が、補助梁21の高さ寸法(
図9の「L2」)と、既存梁支持具5の水平部511の厚み分と、支持金物6の天板部61の厚み分とを足し合わせた寸法以上、既存梁15の下面150より下方に配置される。補助梁支持具4は、たとえば、複数の固定具91(
図2)が、ベース部41の表面側から貫通穴43を貫通するように既存柱12,13に打ち込まれることによって固定される。この場合、上記
図3および
図7に示したように、補助梁支持具4の受入れ部42のうち仮置き位置422の部分のみが、既存梁15の側方側へ張出される。
【0049】
また、補助梁21の両端部に被支持部材としての支持金物6を固定する(工程P2)。支持金物6は、立板部62が奥行方向外側に位置するように、補助梁21の両端部に固定される。具体的には、たとえば、天板部61の貫通穴63を挿通する固定具によって、支持金物6が補助梁21の下面に固定される。
【0050】
次に、補助梁21に、既存梁支持具5を取り付ける(工程P3)。既存梁支持具5は、たとえば、補助梁21の中央部(長手方向両端部以外の部分)であって、補助梁支持具4に補助梁21を仮置きした場合に中間柱14と接触しない部分に取り付けられる。既存梁支持具5を取り付ける具体的な手順は、たとえば次の通りである。
図9および
図10を参照して、まず、補助梁21の上方側より第1の支持部材51を被せ、補助梁21の下方側より第2の支持部材52を嵌め込む。第1の支持部材51と第2の支持部材52との嵌め込み順序は逆でもよい。その後、第2の支持部材52の水平部522が補助梁21の下面212に当接し、かつ、第2の支持部材52の垂直部521が第1の支持部材51の垂直部512に当接した状態で、連結具71を貫通穴514,524に嵌入する。これにより、支持部材51,52は、互いに連結され、補助梁21に固定される。なお、
図11に示すように、第1の支持部材51に補強部材53が設けられる場合には、補強部材53は、支持部材51,52を連結した後に取り付けられてもよいし、第1の支持部材51を補助梁21の上方から被せる前に取り付けられてもよい。
【0051】
次に、各補助梁支持具4の上端面420における仮置き位置422上に、補助梁21の端部が仮置きされる(工程P4)。具体的には、
図13に示すように、まず、補助梁21の一方側端部が持ち上げられ、既存柱13に固定された補助梁支持具4の仮置き位置422に、補助梁21の一方側端部に固定された支持金物6が引掛けられる。このとき、支持金物6が、補助梁支持具4の上方から受入れ部42内に挿入されて引掛けられる。また、補助梁21の一方側端部は、仮置き位置422の端に寄せて仮置きされる。
【0052】
その後、補助梁21の他方側端部が持ち上げられ、既存柱12に固定された補助梁支持具4Aの仮置き位置422に、補助梁21の他方側端部に固定された支持金物6が引掛けられる。このとき、支持金物6が、補助梁支持具4Aの側方から受入れ部42内に挿入されて引掛けられる。
【0053】
補助梁21が補助梁支持具4上に仮置きされた状態では、補助梁21は、既存梁15よりも側方側(幅方向他方側)に位置しており、既存梁支持具5の張出部511b上の支持面50は、既存梁15の下面150に当接している。このときの状態が、
図14に示されている。なお、補助梁支持具4の設置高さ等によっては、既存梁支持具5の支持面50が既存梁15の下面150に当接しないことも考えられるが、補助梁21を仮置きした段階では、支持面50が、少なくとも近接した位置にて既存梁15の下面150に対面しているだけでもよい。つまり、既存梁支持具5の支持面50は、中間柱14の撤去に伴い既存梁15が撓んだ場合にはじめて、既存梁15の下面150と当接するように配置されていてもよい。
【0054】
本実施の形態では、この段階で、既存梁15および土台11に係合されていた中間柱14の上下端のホゾ(突起部)140を切り、中間柱14本体を既存梁15および土台11から切り離す(工程P5)。これにより、中間柱14と構造躯体との縁が切られる。なお、中間柱14のホゾ140が切られただけでは中間柱14は倒れないため、既存梁15の荷重は中間柱14によって支持されたままである。
【0055】
その後、仮置きされた補助梁21を、補助梁支持具4の正規位置421側に向けてスライド移動させながら、中間柱14を取り除く(工程P6)。当該工程については、
図15を参照して具体的に説明する。
図15(A)には、補助梁21が補助梁支持具4に仮置きされ、上記工程P5において中間柱14の上下端のホゾが切られた状態が、模式的に示されている。この状態で、作業者は、補助梁21の側面211を叩くなどして、補助梁21を既存梁15に隣接する位置(すなわち、既存梁15の真下)に移動させる。このとき、
図15(B)に示されるように、既に構造躯体との縁が切られた中間柱14は、補助梁21によって、補助梁21の移動方向に徐々に押し出される。そのため、本実施の形態では、補助梁21が正規位置421へ近づくにつれて、既存梁15の荷重が、補助梁21に取り付けられた既存梁支持具5の支持面50に徐々に加えられることになる。本工程において補助梁21が正規位置421に移動された状態が、
図16に示されている。この状態では、既存梁支持具5のベース部511a上の支持面50が既存梁15の下面150に当接している。
【0056】
既存梁15の真下に補助梁21が配置されると、補助梁21から既存梁支持具5を取り外す(工程P7)。具体的には、既存梁支持具5を固定していた連結具71を抜き取り、第1の支持部材51と第2の支持部材52とを分解することによって、既存梁支持具5を補助梁21から取り外す。
【0057】
その後、補助梁21に固定された支持金物6と既存柱12,13とが固定される(工程P8)。具体的には、
図16に示すように、補助梁支持具4,4Aの開口40を通して、支持金物6の貫通穴64に固定具92が打ち込まれる。支持金物6が固定されると、補助梁支持具4,4Aを既存柱12,13から取り外す(工程P9)。
【0058】
また、既存梁15および補助梁21の両側面に、側板22を取り付ける(工程P10)。つまり、側板22は、既存梁15と補助梁21とを一体的に連結するために、既存梁15と補助梁21とをまたぐように貼り付けられる。側板22の梁15,21への取り付けは、公知の手法により行われてよい。本実施の形態では、少なくとも既存梁支持具5を取り付けていた箇所に、既存梁支持具5の水平部511の厚み分、補助梁21の上面210と既存梁15の下面150との間に隙間が生じ得るが、側板22が取り付けられることによって、既存梁15と補助梁21とを確実に一体化することができる。
【0059】
なお、本実施の形態では、既存梁15および補助梁21の両側面に側板22を取り付けることとしたが、一方の側面にのみ側板22が取り付けられてもよい。あるいは、側板22を用いなくても、既存梁15と補助梁21との隙間をパッキン等によって埋めることによって両者を一体的に連結してもよい。あるいは、既存梁15と補助梁21とは、単純に、ボルトや公知の金物で連結されてもよい。
【0060】
また、補助梁21から既存梁支持具5を取り外すタイミングは、補助梁21を正規位置311に移動させた直後としたが、限定的ではない。たとえば、既存梁支持具5は、補助梁21と既存梁15とを一体的に連結する工程(P10)の後に取り外されてもよい。この場合、側板22によって両者を連結する場合には、既存梁支持具5に干渉しない位置に側板22を取り付ければよい。このように、既存梁支持具5以外の箇所においても既存梁15の荷重を支持できる状態としてから既存梁支持具5を取り外す場合、より安全に既存梁支持具5を取り外すこともできる。
【0061】
上述のように、本実施の形態によれば、重量物である補助梁21を片方ずつ持ち上げて、補助梁21を仮置き位置に配置することができる。補助梁21が重量物であればあるほど補助梁21の両端部に分かれて同時に高所まで持ち上げて固定作業を行うことは不安定であり危険を伴っていたが、本実施の形態の補助梁支持具4を用いることで、少人数の作業員で安全に補助梁21の取り付けを行うことができる。
【0062】
また、補助梁21の固定には、一般的なL字形状の支持金物6を用いることができ、補助梁支持具4は取り外して使い回すことができる。したがって、本実施の形態によれば、コスト面でも有利である。
【0063】
また、上述の梁補強方法によれば、補助梁21の両端部が仮置き位置422にて一対の既存柱12,13に支持された状態で、補助梁21に装着された既存梁支持具5の支持面50が既存梁15の下面150に当接または対面される。したがって、補助梁21の正規位置への移動途中に中間柱14が既存梁15を支持できなくなったとしても、既存梁支持具5を備えた補助梁21によって既存梁15を補強することができる。その結果、構造的に不安定な瞬間を作ることなく補強作業を行うことができる。なお、既存梁支持具5を備えた補助梁21を補助梁ユニットとして提供してもよい。これにより、既存梁15の補強をより容易に行うことができる。
【0064】
本実施の形態における既存梁支持具5は、主に、簡易な構成の2つの支持部材51,52によって構成されており、補助梁21への脱着も簡単である。したがって、作業者の手間を軽減し、補強作業を効率良く行うことができる。
【0065】
また、既存梁支持具5も取り外して他の補強工事に転用できるため、補強工事のコストを抑えることもできる。
【0066】
(変形例1)
本実施の形態では、既存梁支持具5の水平部511の厚み分、既存梁15と補助梁21との間に隙間が空くため、側板22の貼り付けや、隙間を埋める作業が必要であった。しかし、
図12の工程P3において補助梁21に既存梁支持具5を取り付ける前に、補助梁21に、既存梁支持具5の水平部511の厚み分、切欠きを設ける工程をさらに追加してもよい。この場合の補助梁21の例が
図17に示されている。
図17は、本発明の実施の形態の変形例1に係る補助梁21を模式的に示す図である。
【0067】
図17(A)に示されるように、補助梁21の上面210側には、既存梁支持具5の厚み分の深さを有する切欠き部210aが設けられている。この場合、
図12の工程P2において、
図17(B)に示されるように、切欠き部210a内に、既存梁支持具5を取り付ける。そうすると、既存梁支持具5の支持面50と補助梁21の上面210とはフラットな状態となる。既存梁支持具5がこのように装着されると、補助梁21が正規位置311に移動された場合に、既存梁支持具5の支持面50のみが既存梁15の下面150に当接しているのではなく、補助梁21の上面210も既存梁15の下面150に当接した状態となる。したがって、補助梁21を正規位置311に移動した後の既存梁15の荷重は、補助梁21の上面210においても受けているため、既存梁支持具5の取り外しを容易にすることができる。また、この場合、既存梁15と補助梁21とを一体的に連結するための連結部材(たとえば側板22)を設けなくてもよい。
【0068】
(変形例2)
本実施の形態では、既存柱12,13の両方に、補助梁支持具4が用いられることとしたが、少なくとも一方に補助梁支持具4が用いられればよい。その場合でも、他方の既存柱には、補助梁21に対し正規位置と仮置き位置とを提供する他の部材が用いられることが望ましい。
図18は、本発明の実施の形態の変形例2において、他方側の既存柱12に固定される支持用部材3の構造例を示す図である。
図18には、特願2013−1869989号として出願済の支持具が示されている。
【0069】
支持用部材3は、たとえば略L字形状を有しており、略水平に配置される板状部(以下「水平板部」という)31と、水平板部31に直交し、既存柱12に固定される板状部(以下「垂直板部」という)32とを含む。取り付け状態において、水平板部31の奥行方向端部が、垂直板部32の上端部に連結されている。支持用部材3は、剛性を有する材料、たとえば鋼材により形成されている。
【0070】
水平板部31が、補助梁21の高さ寸法と既存梁支持具5の水平部511の厚み分とを足し合わせた寸法以上、既存梁15の下面より下方に配置される。支持用部材3における水平板部31の上面(すなわち水平面)310は、補助梁21の他方側端部が本置きされる正規位置311と、補助梁21の他方側端部が仮置きされる仮置き位置312とを有している。水平板部31の正規位置311が、既存梁15の下面に対向するように配置され、仮置き位置312が、既存梁15よりも側方(前方側)に突出するように配置されている。水平板部31の正規位置311、および、垂直板部32の既存柱12への当接部分には、固定具93が挿通される複数の貫通穴34が設けられている。水平板部31における、仮置き位置312側の幅方向端縁には、仮置き位置312からの補助梁21の転倒を防止するために、上面310から立ち上がる立上片35が設けられている。
【0071】
このような支持用部材3が用いられる場合、補助梁21の他方側端部が、仮置き位置312から正規位置311にスライドされた後に、補助梁21の他方側端部と支持用部材3とが直接固定される。たとえば、固定具が、水平板部31の下面側から正規位置311の貫通穴34を貫通するように補助梁21の下面に打ち込まれることによって、両者が固定されればよい。
【0072】
(他の変形例)
本実施の形態では、補助梁21の移動に伴って中間柱14が取り除かれる。そのため、
図12の工程P4において補助梁21が仮置きされた段階では、既存梁支持具5の支持面50は、既存梁15の下面150に当接または対面していなくてもよい。具体的には、たとえば、補助梁支持具4の仮置き位置422の幅が、補助梁21の幅寸法よりも大きく、補助梁21が、仮置き位置422の端に位置しているような場合には、既存梁支持具5の支持面50は、既存梁15の下面150に当接または対面していなくてもよい。すなわち、既存梁支持具5の支持面50は、補助梁21が既存梁15の真下(正規位置421)から幅方向他方側にずれた位置(上下方向に重ならない位置)にある場合に、既存梁15の下面150と当接または対面するように、補助梁21よりも幅方向一方側に少しでも張り出していればよい。
【0073】
また、本実施の形態では、補助梁21を正規位置421に移動した後、既存梁支持具5を取り外すこととした。しかし、補強工事後に、補助梁21が天井によって隠される場合などにおいては、既存梁支持具5を補助梁21に取り付けたままとしてもよい。また、補助梁支持具4も、既存柱12,13に取り付けたままとしてもよい。
【0074】
また、本実施の形態では、既存梁支持具5は、取り外しを容易にするために2つの支持部材51,52を含むこととしたが、上記のように特に取り外しを意図しない場合には、第2の支持部材52を含まなくてもよい。その場合、
図10に示した簡単に取り外し可能な連結具71に代えて、固定具や接着剤など簡単に取り外しができない接合部材が用いられてもよい。たとえば固定具を用いる場合には、固定具が、第1の支持部材51の垂直部512の貫通穴524を貫通して補助梁21の側面211に打ち込まれることによって、既存梁支持具5が補助梁21に固定されてもよい。または、第1の支持部材51の水平部511におけるベース部511aと補助梁21の上面210とが固定具等によって固定されてもよい。後者の場合、第1の支持部材51は、垂直部512を含まず、水平部511のみによって構成されてもよい。なお、いずれの場合においても、水平部511における張出部511bを補強するための補強部材53が設けられることが望ましい。
【0075】
また、本実施の形態では、補助梁21が既存梁15の真下に、両者が上下方向に完全に重なった状態で固定されることとしたが、上下方向において少なくとも一部が重なっていれば、これらは完全に重なっていなくてもよい。つまり、補助梁支持具4の正規位置421が、既存梁15の下方に、幅方向において既存梁15の下面150と少なくとも一部対面するように、位置していればよい。したがって、補助梁21は、既存梁15の幅方向一方側または他方側に、はみ出した状態で固定されてもよい。
【0076】
また、本実施の形態では、補助梁21の移動に伴って中間柱14が取り除かれることとしたが、補助梁21を移動させる前に(すなわち
図12の工程P5において)、中間柱14を完全に取り除いておいてもよい。中間柱14が取り除かれると、それまで中間柱14が支持していた既存梁15の荷重が、既存梁支持具5の支持面50に加えられる。この場合、補助梁21は、既存梁支持具5の支持面50により既存梁15の支持状態が保たれたまま、移動させられる。
【0077】
また、本実施の形態では、補助梁21の端部を片方ずつ持ち上げて、支持金物6を補助梁支持具4の仮置き位置422に載置することとしたが、補助梁21の重量等によっては、補助梁21の両端部を同時に持ち上げて補助梁支持具4の仮置き位置422に載置してもよい。
【0078】
なお、上記実施の形態では、補助梁21の両端部は、一対の既存柱12,13間に配置されることとしたが、既存梁15の両端部に連結された一対の既存躯体部間に配置されていれば、既存柱12,13間でなくてもよい。この場合、各実施の形態において既存柱12,13に固定された部材は、一対の既存躯体部の対向面(内側面)に固定されていればよい。一対の既存躯体部は、互いに対向する対向面(内側面)を有しており、既存柱に加え、たとえば既存梁を含む。具体的には、たとえば上述の既存梁16,17が下方側に長い場合には、補助梁支持具4は、既存梁16,17に固定されてもよい。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。