特許第5913364号(P5913364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5913364ポリオキソメタレートおよびバナジウム(IV)化合物を含むカソード液を持つ再生可能な燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5913364
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】ポリオキソメタレートおよびバナジウム(IV)化合物を含むカソード液を持つ再生可能な燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   H01M8/18
【請求項の数】26
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-545494(P2013-545494)
(86)(22)【出願日】2011年12月16日
(65)【公表番号】特表2014-500604(P2014-500604A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】GB2011052500
(87)【国際公開番号】WO2012085542
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年9月25日
(31)【優先権主張番号】1021904.6
(32)【優先日】2010年12月23日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】509018742
【氏名又は名称】エーカル・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ACAL Energy Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】ナッキー,キャスリン
(72)【発明者】
【氏名】カンガティ,ベルミ
(72)【発明者】
【氏名】ダウンズ,クレアー
(72)【発明者】
【氏名】ポッター,アンドリュー
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04396687(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン選択性高分子電解質膜によって分離されたアノードおよびカソードと、燃料を電池のアノード領域に供給する手段と、酸化剤を電池のカソード領域に供給する手段と、電気回路をアノードおよびカソードの間に提供する手段と、カソードと連通する非揮発性カソード溶液流動流体とを含み、カソード溶液は、電池の作動時、カソードで少なくとも部分的に還元され、およびカソードでの還元の後、酸化剤との反応によって少なくとも部分的に再生されるポリオキソメタレートレドックス対を含み、およびカソード溶液は、少なくとも約0.075Mの前記ポリオキソメタレートを含むレドックス燃料電池であって、前記ポリオキソメタレートは、式:
[Z
(式中、Xは、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたはアルキルアンモニウム、およびこれらの2種以上の組合わせから選択され、
Zは、B、P、S、As、Si、Ge、Ni、Rh、Sn、Al、Cu、I、Br、F、Fe、Co、Cr、Zn、H、Te、MnおよびSe、ならびにこれらの2種以上の組合わせから選択され、
Mは、少なくとも1個のV原子を含み、およびMは、Mo、W、V、Nb、Ta、Mn、Fe、Co、Cr、Ni、Zn、Rh、Ru、Tl、Al、Ga、Inおよび第1、第2および第3遷移金属系列およびランタニド系列から選択される他の金属類、およびこれらの2種以上の組合わせから選択される金属であり、
aは、[Z]アニオンの荷電平衡に必要なXの数であり、
bは、0〜20であり、
cは、1〜40であり、および
dは、1〜180である)で表され、
前記カソード液は、さらに、バナジウム(IV)化合物を含むレドックス燃料電池。
【請求項2】
bが0〜2である請求項1に記載のレドックス燃料電池。
【請求項3】
cが5〜20である請求項1または請求項2に記載のレドックス燃料電池。
【請求項4】
dが30〜70である請求項1〜のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項5】
前記ポリオキソメタレートが、式:Χ[ΖΜ1240]で表される請求項1〜4のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項6】
前記ポリオキソメタレートが、H3+ePMo12−e40、H3+ePW12−e40、HPMo12−e40、HPW12−e40、およびこれらの2種以上の組み合わせを含み、
式中、eは2〜5であり、
f+gは、3+eであり、および
Xは、Na、Liまたはこれらの組合わせである請求項1〜5のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項7】
前記バナジウム(IV)化合物は、VO、V、VOSO、VO(acac)、VO(ClO、VO(BF、これらの水和物、およびこれらの2種以上の組合わせから選択される少なくとも1つを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項8】
3+ePMo12−e40またはH3+ePW12−e40(式中、eは2〜5である)と、添加されたVおよび/またはVOSOとの組合わせを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項9】
PMo12−e40またはHPW12−e40(式中、eは2〜5であり、f+gは3+eであり、Xは、Na、Liまたはこれらの組み合わせである)と、添加されたVおよび/またはVOSOとの組み合わせを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項10】
前記バナジウム(IV)化合物の濃度は、0.05M以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項11】
Mは、バナジウム、モリブデンおよびこれらの組合わせから選択される請求項1〜1のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項12】
は、V、V、VまたはVを含む請求項1〜1のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項13】
Zはリンである請求項1〜1のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項14】
Xは、水素と、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属イオン、好ましくはリチウムおよびその組合わせとの組合わせを含む請求項1〜1のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項15】
前記ポリオキソメタレート中に、2〜4個のバナジウムを含む請求項1〜1のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項16】
前記ポリオキソメタレートは、HNaPMo1040を含む請求項1に記載のレドックス燃料電池。
【請求項17】
前記ポリオキソメタレートは、HNaPMo40を含む請求項1に記載のレドックス燃料電池。
【請求項18】
前記ポリオキソメタレートは、HNaPMo40を含む請求項1に記載のレドックス燃料電池。
【請求項19】
少なくとも1個のXは、水素である請求項1〜1のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項20】
Xは、少なくとも1個の水素と、少なくとも1種の、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムおよびこれらの2種以上の組合わせから選択される他の物質とを含む請求項19に記載のレドックス燃料電池。
【請求項21】
前記カソード溶液は、少なくとも1種の補助的なレドックス種を含む請求項1〜2のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項22】
前記補助的なレドックス種は、遷移金属錯体、さらなるポリオキソメタレート、およびこれらの組合わせから選択される請求項2に記載のレドックス燃料電池。
【請求項23】
前記遷移金属錯体中の遷移金属は、酸化状態がII〜Vのマンガン、I〜IVの鉄、I〜IIIの銅、I〜IIIのコバルト、I〜IIIのニッケル、(II〜VII)のクロム、II〜IVのチタン、IV〜VIのタングステン、II〜VのバナジウムおよびII〜VIのモリブデンから選択される請求項2に記載のレドックス燃料電池。
【請求項24】
前記カソード溶液は、いかなる補助的なレドックス種も含まない請求項1〜2のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項25】
前記ポリオキソメタレートの前記カソード溶液における濃度は、0.1M以上である請求項1〜2のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池。
【請求項26】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のレドックス燃料電池の使用のためのカソード溶液であって、該溶液は、バナジウム(IV)化合物と組合わせられた、少なくとも約0.075Mのポリオキソメタレートを含むカソード溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特に電子部品および携帯用電子部品のマイクロ燃料電池、および自動車産業および定置用の大型燃料電池にも適用される間接型またはレドックス燃料電池に関する。また、本発明は、該燃料電池で使用されるある種のカソード溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、自動車および携帯用電子技術のような携帯機器への適用で長年知られているが、しかしながら、その実用性が真剣に考え始められるようになったのはほんの最近のことである。燃料電池の最も簡単な形態は、燃料および酸化剤を反応生成物(複数を含む)に変換し、その過程で電気および熱を生成する電気化学的エネルギー変換装置である。該電池の一例では、水素が燃料として、および空気または酸素が酸化剤として使用され、反応生成物は水である。ガスは、それぞれ、2種の電極の間で荷電粒子を運ぶ固体または液体電解質によって分離された、拡散型触媒電極に供給される。間接型またはレドックス燃料電池では、酸化剤(ある場合は、および/または燃料)は、電極で直接反応せず、代わりにレドックス対の還元体(燃料では酸化体)と反応してそれを酸化させ、この酸化種をカソードに供給する。
【0003】
これらの異なる電解質を特徴とする数種類の燃料電池が存在する。液体電解質アルカリ電解質燃料電池には、電解質がCOを溶解し、定期的に交換が必要であるという固有の欠点がある。高分子電解質またはプロトン導電性固体電池膜を持つPEMタイプの電池は酸性であり、この欠点は回避される。しかし、実際には、酸素還元反応の比較的低い電気的触媒作用のため、このような系からの電力出力が理論的最高値に達するのは難しいことが分かっている。また、高価な貴金属電気触媒がしばしば使用される。
【0004】
米国特許第3152013号明細書は、カチオン選択性透過膜と、ガス透過性触媒電極と、第二電極とを含む気体燃料電池であって、前記膜は、電極間に配置され、ガス透過性電極とのみ電気的に接触する気体燃料電池を開示する。水性カソード液は、第二電極および前記膜と接触して備えられ、カソード液は酸化剤対を含む。燃料ガスを透過性電極に供給し、および還元された酸化剤材料を酸化するために、ガス状の酸化剤をカソード液に供給する手段が備えられている。好ましいカソード液およびレドックス対は、HBr/KBr/Brである。酸素還元用の好ましい触媒として窒素酸化物が開示されているが、酸化剤として純粋な酸素が必要であり、そのため、酸化剤として空気を使用すると、有害な窒素酸化物種の排気が必要となる。
【0005】
電気化学的燃料電池に関して広く認められている問題は、規定された条件下で得られる電極反応の理論電位を計算することができるが、これが完全に達成できるというわけではないということである。該系における欠陥は、必ず、ある反応から到達できる理論的電位を下回るあるレベルまでの電位の損失が起こる結果となるということである。このような欠陥を減らす以前の試みとして、カソード溶液中で酸化−還元反応を受けるカソード液の添加物の選択が挙げられる。たとえば、米国特許第3294588号明細書は、この点で、キノン類と染料とを使用することを開示する。試された他のレドックス対は、米国特許第3279949号明細書に開示されているような、バナジン酸塩/バナジル対である。
【0006】
米国特許第3540933号明細書によれば、電気化学的燃料電池において、カソード液およびアノード液と同じ電解質溶液を使用することによって、ある利点が実現しうる。この文献では、電解質中の任意の他のレドックス対とは異なる、0.8V以下の平衡電位を持つ2種を超えるレドックス対を含む液体電解質を使用することが開示されている。
【0007】
電解質溶液中の異なるレドックス対のレドックス電位のマッチングは、米国特許第3360401号明細書でも考慮され、それは、燃料電池からの電気エネルギーの流速を増すための、中間電子伝達種の使用に関する。
【0008】
数種類のプロトン交換膜燃料電池が存在する。たとえば、米国特許第4396687号明細書では、再生可能なアノードおよびカソード溶液を含む燃料電池が開示されている。該アノード溶液は、アノード溶液を水素に暴露することにより、酸化された状態から還元された状態に還元されたものである。米国特許第4396687号明細書によれば、好ましいアノード溶液は、触媒存在下のタングストケイ酸(HSiW1240)またはタングストリン酸(HPW1240)である。
【0009】
米国特許第4396687号明細書の好ましいカソード溶液は、カソード溶液を酸素に直接暴露することにより、還元状態から酸化状態に再酸化したものである。米国特許第4396687号明細書のカソード液として、VOSOの溶液を含むメディエータ成分が挙げられる。メディエータは、V(V)〜V(IV)の酸化状態から還元された電子シンクとして機能する。また、カソード液として、メディエータを、その酸化状態(VOSOに再生する触媒も挙げられる。米国特許第4396687号明細書のカソード液中に存在する触媒は、ポリオキソメタレート(POM)溶液、すなわち、HPMo1040である。この開示および同じ会社の米国特許第4407902号明細書は、具体的に、VOSOのHPMo1040を含むカソード液への添加であって、VOSOの濃度は0.8Mであり、HPMo1040の濃度は0.059Mであることを記載する。
【0010】
米国特許第4396687号明細書の他に、オキソメタレート触媒を使用する数多くの他の試みがなされている。たとえば、米国特許第5298343号明細書では、固体金属触媒と、オキソメタレートと、モリブデン酸のような金属酸とを含むカソード系が開示される。
【0011】
さらに、国際公開公報第96/31912号は、蓄電装置に埋め込まれたポリオキソメタレートの使用を記載する。電子を一時的に蓄積するために、ポリオキソメタレートのレドックス性を炭素電極材料と組み合わせて使用する。
【0012】
米国特許公開公報第2005/0112055号は、水からの酸素の電気化学的生成を触媒するポリオキソメタレートを使用することを開示する。英国特許第1176633号明細書は、固体モリブデン酸化物アノード触媒を開示する。
【0013】
米国特許公開公報第2006/0024539号は、金属含有触媒上で、ポリオキソメタレート化合物と遷移金属化合物とを使用して室温でCOを選択的に酸化することによって、燃料電池を使用して電気エネルギーを作り出す反応器および対応する方法を開示する。
【0014】
欧州特許公開公報第0228168号は、ポリオキソメタレート化合物の活性炭への吸着により電荷蓄積容量が改良されたと言われている、活性炭電極を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第3152013号
【特許文献2】米国特許第3294588号
【特許文献3】米国特許第3279949号
【特許文献4】米国特許第3540933号
【特許文献5】米国特許第3360401号
【特許文献6】米国特許第4396687号
【特許文献7】米国特許第4407902号
【特許文献8】米国特許第5298343号
【特許文献9】国際公開公報第96/31912号
【特許文献10】米国特許公開公報第2005/0112055号
【特許文献11】英国特許第1176633号
【特許文献12】米国特許公開公報第2006/0024539号
【特許文献13】欧州特許公開公報第0228168号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の燃料電池には全て、以下の欠点の1個以上がある。
【0017】
それらは非効率である、それらは高価でありおよび/または組み立てるのに費用がかかる、それらは高価なおよび/または環境に悪影響を及ぼす材料を使用する、それらからは不適切なおよび/または不充分な維持可能電流密度および/または電池電位しか得られない、それらは建設するには大きすぎる、それらが作動する温度が高すぎる、それらは不必要な副生物および/または汚染物質および/または有毒物質を生成する、それらには自動車および携帯用電子機器のような携帯用途における実用的な商業的有用性が見いだせない。
【0018】
本発明の目的は、先に記載した欠点の1個以上を克服または改良することである。本発明のさらなる目的は、レドックス燃料電池における使用のための改良されたカソード溶液を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明による燃料電池のカソード区画の概略図である。
図2】本発明によるVPOMカソード液系におけるV(IV)濃度の増加による効果を実証するデータを示す図である。
図3】本発明による燃料電池で達成可能な分極および電力プロファイルを実証するさらなる比較データを示す図である。
図4】本発明による第一カソード液系におけるV(IV)濃度の増加による電池電位に対する効果を実証するデータを示す図である。
図5】本発明による第二カソード液系におけるV(IV)濃度の増加による効果を実証するデータを示す図である。
図6】本発明による第二カソード液系におけるV(IV)濃度の増加による効果を実証するデータを示す図である。
図7】V(IV)濃度の増加に対するさらなる性能データを示す図である。
図8】ある従来系の間の電気化学的性能の違いを示す図である。
図9図8のカソード溶液に関するさらなる性能データを示す図である。
図10図8のカソード溶液に関するさらなる性能データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
すなわち、本発明は、イオン選択性高分子電解質膜によって分離されたアノードおよびカソードと、燃料を電池のアノード領域に供給する手段と、酸化剤を電池のカソード領域に供給する手段と、電気回路をアノードおよびカソードの間に提供する手段と、カソードと連通する非揮発性カソード溶液流動流体とを含み、カソード溶液は、電池の作動時、カソードで少なくとも部分的に還元され、およびカソードでの還元の後、酸化剤との反応によって少なくとも部分的に再生されるポリオキソメタレートレドックス対を含み、およびカソード溶液は、少なくとも約0.075Mの前記ポリオキソメタレートを含むレドックス燃料電池であって、前記ポリオキソメタレートは、式:
[Z
(式中、Xは、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたはアルキルアンモニウム、およびこれらの2種以上の組合わせから選択され、
Zは、B、P、S、As、Si、Ge、Ni、Rh、Sn、Al、Cu、I、Br、F、Fe、Co、Cr、Zn、H、Te、MnおよびSe、ならびにこれらの2種以上の組合わせから選択され、
Mは、少なくとも1個のV原子を含み、およびMは、Mo、W、V、Nb、Ta、Mn、Fe、Co、Cr、Ni、Zn、Rh、Ru、Tl、Al、Ga、Inおよび第1、第2および第3遷移金属系列およびランタニド系列から選択される他の金属類、およびこれらの2種以上の組合わせから選択される金属であり、
aは、[Z]アニオンの荷電平衡に必要なXの数であり、
bは、0〜20であり、
cは、1〜40であり、および
dは、1〜180である)で表され、
前記カソード液は、さらに、バナジウム(IV)化合物を含むレドックス燃料電池を提供する。
【0021】
現在の多くの燃料電池技術は、酸素が電極に流され、次いで酸素はここで触媒と反応して水を生成する、気体反応性カソードを使用する。多くの場合、使用される触媒は、白金、貴金属である。これは、燃料電池全体のコストを上げるばかりでなく、反応が非効率であるため、有効電力の損失が起こる。
【0022】
本発明の燃料電池設計では、2種類の可溶性活性種である、メディエータおよび触媒、または触媒種およびメディエータ種の両方として作用しうる1種類の可溶性活性種で構成されるカソード液を持つ水性カソード系を使用する。2種系では、酸素が触媒によって溶液中で還元され、これが次にメディエータを酸化し、次いで電極で還元されて最初の状態に戻る。このサイクルの完了により、再生レドックスカソードが作り出される。
【化1】
【0023】
ポリオキソメタレート(POM)は、そのような燃料電池系で使用するためのカソード液触媒/メディエータ成分として、我々の出願、PCT/GB2007/050151で開示されている材料のファミリである。特に、バナジウム含有ポリオキソメタレートは、適正なレドックス特性を有し、現在、好ましいカソード液であることが認識されている。しかし、バナジウム含有ポリオキソメタレートが還元される時、生成するバナジウム(IV)が、かご構造から外に出る傾向があることが我々によって発見された。バナジウムが該系内により多く存在するほど、この現象はより多く起こりやすくなるが、酸素による再酸化反応を促進するためには、より多くのバナジウムの存在が望まれる。POMかご構造からのバナジウムの損失は、カソード液の100%再酸化が達成されないことを意味し、したがって、最高性能が限定されることを意味する。バナジウム(IV)がPOMかご構造から失われることを防ぐこと、またはバナジウムがその場所に留まることを助長する方法を導入することが有利であろう。
【0024】
ルシャトリエの原理は、もし条件を変えることによって動的平衡が乱されれば、平衡の位置は、変化を相殺するように動くと述べる。バナジウム含有POMの還元時の変化を、
【化2】
と表すとすれば、ルシャトリエの原理により、VO2+イオンを計画的に添加することにより、平衡を式の左側の完全なPOMかご構造に向かってシフトすることが示唆される。したがって、バナジウム(IV)塩をバナジウム含有ポリオキソメタレート溶液へ添加することにより、バナジウムが還元時にかご構造に戻ることを促進し、および電極で追加の介在効果を提供することによって、燃料電池性能は改良されると仮定した。
【0025】
好ましくは、カソード液は、水性系の溶液である。
【0026】
好ましいポリオキソメタレート化合物は、一般式:Χ[ΖΜ1240]の
ケギン構造を有する。
【0027】
Mに関して好ましい金属は、モリブデン、タングステン、バナジウムおよびこれらの2種以上の組合せであり、ただし、ポリオキソメタレートは、Mの少なくとも1つはバナジウムでなければならない。好ましくは2〜5個のMがバナジウムであり、より好ましくは3個または4個、最も好ましくは4個である。
【0028】
残りのMは、モリブデン、タングステンのいずれか、またはこれらの組合せが好ましい。
【0029】
Zとして、亜リン酸は特に好ましい。
【0030】
Xは、好ましくは、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたはアルキルアンモニウム、およびこれらの2種以上の組合わせから選択される。特に好ましい例として、水素、ナトリウム、リチウム、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0031】
本発明のカソード液の具体的な限定ではない例示は、H3+ePMo12−e40およびH3+ePW12−e40(式中、e=2〜5);ΗΧΡΜo12−e40、ΗΧΡW12−e40(式中、e=2〜5、f+g=3+e、およびX=Na、Liまたはこれらの組合わせである)である。
【0032】
カソード溶液中のポリオキソメタレートの濃度は、好ましくは少なくとも約0.1Mであり、より好ましくは少なくとも約0.15Mであり、最も好ましくは少なくとも約0.20Mである。
【0033】
カソード液の一部として、バナジウム(IV)化合物が含まれる。バナジウム(IV)含有化合物のいかなるものも使用することができるが、具体的な例示として、VO、V、VOSO、VO(acac)、VO(ClO、VO(BF、およびこれらの物質の水和物が挙げられる。特に好ましい例は、VO、VおよびVOSO・xHOである。
【0034】
バナジウム(IV)化合物の好ましい濃度は、少なくとも約0.05M、少なくとも約0.1M、少なくとも約0.15M、少なくとも約0.2M、少なくとも約0.25M、または少なくとも約0.3Mである。
【0035】
ポリオキシメタレートとバナジウム(IV)化合物との間のモル比は、少なくとも約1:10、少なくとも約1.5:10、少なくとも約2:10、少なくとも約2.5:10、または少なくとも約3:10が好ましい。
【0036】
特に好ましいカソード液の組合せとして、H3+ePMo12−e40またはH3+ePW12−e40(式中、e=2〜5)と添加V、およびHPMo12−e40またはHPW12−e40(式中、e=2〜5、f+g=3+e、およびX=Na、Liまたはこれらの組合せ)と添加VOSOが挙げられる。
【0037】
bの好ましい範囲は、0〜15、より好ましくは0〜10、さらに好ましくは、0〜5、さらにより好ましくは0〜3、最も好ましくは0〜2である。
【0038】
cの好ましい範囲は5〜20、より好ましくは10〜18、最も好ましくは12である。
【0039】
dの好ましい範囲は30〜70であり、より好ましくは34〜62であり、最も好ましくは34〜40である。
【0040】
Xに関して、水素と、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属との組合せが特に好ましい。そのような好ましい組み合わせの1つは、水素およびナトリウムの組合せである。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、ポリオキソメタレートはバナジウムを含み、より好ましくは、バナジウムおよびモリブデンを含む。ポリオキソメタレートは、2〜4個のバナジウム中心を含むのが好ましい。したがって、特に好ましいポリオキソメタレートとして、HNaPMo1040、HNaPMo40またはHNaPMo40、および中間体組成物の化合物が挙げられる。さらに、これらの混合物、または他のポリオキソメタレート触媒も想定される。好ましくは、少なくとも1つのXは水素であり、いくつかの実施形態では、全てのXが水素であろう。しかし、いくつかのケースでは、X全てが水素ではない、たとえば、少なくとも2個のXが水素ではない場合が好ましいこともある。そのような場合、たとえばXは、少なくとも1個の水素と、少なくとも1種の、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムおよびこれらの2種以上の組合せから選択される他の材料とを含むこともある。
【0042】
本発明の好ましい一実施形態では、イオン選択性PEMは、他のカチオンよりプロトンに対して選択的であるカチオン選択性膜である。
【0043】
カチオン選択性高分子電解質膜は、任意の適切な材料から形成してもよいが、好ましくは、カチオン交換能を有する高分子物質を含む。適切な例示として、フッ素樹脂型イオン交換樹脂および非フッ素樹脂型イオン交換樹脂が挙げられる。フッ素樹脂型イオン交換樹脂として、パーフルオロカルボン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂などが挙げられる。パーフルオロカルボン酸樹脂として、たとえば、「ナフィオン」(デュポン社)、「フレミオン」(旭硝子株式会社)、「アシプレックス」(旭化成株式会社)などが好ましい。非フッ素樹脂型イオン交換樹脂として、ポリビニルアルコール類、ポリアルキレンオキシド類、スチレン−ジビニルベンゼンイオン交換樹脂など、およびこれらの金属塩が挙げられる。好ましい非フッ素樹脂型イオン交換樹脂として、ポリアルキレンオキシド−アルカリ金属塩複合体が挙げられる。これらは、たとえば、塩素酸リチウムまたは他のアルカリ金属塩の存在下に、エチレンオキシドオリゴマーを重合することにより得られる。他の例示として、フェノールスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸、スルホン化トリフルオロスチレン、α,β,β−トリフルオロスチレン系スルホン化共重合体、放射線グラフト膜が挙げられる。非フッ素化膜として、スルホン化ポリ(フェニルキノキサリン)、ポリ(2,6−ジフェニル−4−フェニレンオキシド)、ポリ(アリールエーテルスルホン)、ポリ(2,6−ジフェニレンオール);酸ドープポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリイミド;スチレン/エチレン−ブタジエン/スチレントリブロック共重合体;部分的にスルホン化されたポリアリーレンエーテルスルホン;部分的にスルホン化されたポリエーテルエーテルケトン(PEEK);およびポリベンジルスルホン酸シロキサン(PBSS)が挙げられる。
【0044】
いくつかのケースでは、イオン選択性高分子電解質膜は、2重膜を含むことが望ましい場合がある。もし存在する場合、該2重膜は、一般的に、第一のカチオン選択性膜と第二のアニオン選択性膜とを含むだろう。この場合、2重膜は、隣接するペアの逆電荷選択性膜を含んでもよい。たとえば、2重膜は、間に任意の隙間を開けて、並んで置かれた少なくとも2種のディスクリートメンブレンを含んでもよい。隙間がある場合、その隙間の寸法は、本発明のレドックス電池で最小値にとどめることが好ましい。2重膜の使用は、本発明のレドックス燃料電池において、アノードおよびカソード溶液の間のpH降下による電位を維持することによって、電池の電位を最高にするために使用してもよい。理論に限定されるのではないが、該膜系で維持されるべきこの電位のために、該系のある点で、プロトンは、有意な電荷移動媒体でなければならない。単一カチオン選択性膜は、膜内でカソード溶液から他のカチオンが自由に移動するために同じ程度まで達成しないかもしれない。
【0045】
この場合、カチオン選択性膜は2重膜のカソード側に、およびアニオン選択性膜は2重膜のアノード側に置いてもよい。この場合、カチオン選択性膜は、電池の作動時、プロトンが膜のアノード側からカソード側へ膜を通り抜けるように適合される。この場合、アニオン選択性膜は、膜のカソード側からアノード側にカチオン性物質が通り抜けるのを実質的に防ぐように適合されるが、アニオン性物質は、アニオン選択性膜のカソード側からアノード側に通り抜け、この時、反対方向に膜を通り抜けるプロトンと結合するかもしれない。好ましくは、アニオン選択性膜はヒドロキシルイオンに選択性があり、したがって、プロトンと結合して生成物として水を得る。
【0046】
本発明の第二の実施形態では、カチオン選択性膜は2重膜のアノード側に置かれ、アニオン選択性膜は2重膜のカソード側に置かれる。この場合、カチオン選択性膜は、電池の作動時、プロトンが膜のアノード側からカソード側に通り抜けるように適応される。この場合、アニオンは、2重膜のカソード側から隙間空間へ通ることができ、プロトンは、アノード側から通るだろう。この場合、そのようなプロトンおよびアニオン性物質を、2重膜の隙間空間から流す手段を備えることが望ましいこともある。そのような手段は、直接膜を通って流れ出るように、カチオン選択性膜に1個以上の穿孔が含まれてもよい。あるいは、カチオン選択性膜の周りの流れ出された物質を、膜の隙間空間からカソード側へ、溝で流す手段を備えてもよい。
【0047】
本発明の他の態様によれば、プロトン交換膜燃料電池を作動する方法が提供され、該方法は、
a)プロトン交換膜に隣接して位置するアノードでHイオンを形成するステップと、
b)酸化された状態でレドックス対を持つ本発明のカソード液を、プロトン交換膜に向かい側に隣接して位置するカソードに供給するステップと、
c)カソードと接触すると、触媒を還元され始めるようにし、同時にHイオンが膜を通過し、電荷のバランスをとるステップと、
を含む方法である。
【0048】
好ましい実施形態では、カソード液は、カソード液貯蔵器から供給される。
【0049】
先に記載した態様の方法は、追加的に、カソード液をカソードから再酸化ゾーンに通すステップであって、該ゾーンで触媒は再酸化されるステップd)を含んでもよい。
【0050】
とりわけ好ましい実施形態では、先の態様の方法は、
e)カソード液を再酸化ゾーンからカソード液貯蔵器に通すステップを含む。
【0051】
この実施形態では、電池は循環式で、カソード内の触媒は、取り換えなしで、繰り返して、酸化および還元されうる。
【0052】
本発明の燃料電池は、LPG、LNG、ガソリンまたは低分子量アルコールのような利用可能な燃料前駆体を、水蒸気改質反応によって、燃料ガス(たとえば、水素)に変換するように構成された改質器を含んでもよい。該電池は、改質燃料ガスをアノードチャンバに供給するように構成された、燃料ガス供給するデバイスを含んでもよい。
【0053】
電池のある適用においては、燃料、たとえば、水素を加湿するように構成された燃料加湿器が備えられるのが望ましいこともある。該電池は、加湿された燃料をアノードチャンバに供給するように構成された燃料供給デバイスを含んでもよい。
【0054】
また、電力を負荷するように構成された電気負荷デバイスは、本発明の燃料電池と併用して提供されてもよい。
【0055】
好ましい燃料として、水素、金属水素化物(たとえば、燃料それ自身としてまたは水素の供給元として作用する水素化ホウ素)、アンモニア、低分子量アルコール、アルデヒドおよびカルボン酸、糖類、バイオ燃料、LPG、LNGまたはガソリンが挙げられる。
【0056】
好ましい酸化剤として、空気、酸素および過酸化物が挙げられる。
【0057】
本発明のレドックス燃料電池におけるアノードは、たとえば、水素ガスアノードまたは直接メタノールアノード;他の低分子量アルコール、たとえば、エタノール、プロパノール、ジプロピレングリコール;エチレングリコール;また、これらおよびギ酸、エタン酸のような酸種から形成されるアルデヒドであってもよい。さらに、アノードは、細菌種が燃料を消費し、電極で酸化されるメディエータを生成するか、または細菌それ自身が電極で吸着され直接電子をアノードに供給する、バイオ燃料電池型系から形成されてもよい。
【0058】
本発明のレドックス燃料電池におけるカソードは、カソード材料として、炭素、金、白金、ニッケル、金属酸化物種を含んでもよい。しかし、高価なカソード材料は避けることが好ましく、したがって、好ましいカソード材料として、炭素、ニッケルおよび金属酸化物が挙げられる。カソード用の好ましい材料の1つは、網目ガラス状炭素または炭素繊維系電極、たとえば、炭素フェルトである。他のものは、ニッケルフォームである。カソード材料は、粒子状カソード材料の微分散体から構成されてもよく、該粒子状分散体は、適切な接着剤またはプロトン導電性高分子物質によって互いに接着されている。カソードは、カソード溶液のカソード表面への最大流を作り出すように設計される。したがって、カソードは形成された流量調節器または三次元電極で構成されてもよく、液体流は、電極に隣接する液体チャネルがある流通配置で、または三次元電極の場合、電極を貫流するように液体を強制する流通配置で管理されてもよい。電極の表面は電気触媒も意図されるが、電気触媒を析出粒子の形態で電極の表面に付着させるのが有利な場合もある。
【0059】
本発明において、電池の作動時、カソードチャンバにおける溶液内を流れるレドックス対は、以下の式に従って、カソードチャンバにおける酸素の還元のための触媒として使用される。
+4Spred+4H→2HO+4SpOX
(式中、Spは、レドックス対種である。)
【0060】
本発明の燃料電池で利用されるポリオキソメタレートレドックス対および他の任意の補助的なレドックス対は、非揮発性であるべきであり、好ましくは水性溶剤に可溶性である。好ましいレドックス対は、燃料電池の電気回路で有用な電流を生成するのに効果的な速さで酸化剤と反応すべきであり、水が反応の最終生成物となるように酸化剤と反応すべきである。
【0061】
本発明の燃料電池は、カソード溶液中に少なくとも約0.075Mのポリオキソメタレート種の存在が必要である。しかし、ある状況では、ポリオキソメタレート種およびバナジウム(IV)化合物の他に、カソード溶液中に他のレドックス対が含まれることも可能である。そのような補助的なレドックス対の多くの適切な例があり、たとえば、結合遷移金属錯体および他のポリオキソメタレート種が挙げられる。そのような複合体を形成することができる適切な遷移金属イオンの具体的な例示として、酸化状態がII〜Vのマンガン、I〜IVの鉄、I〜IIIの銅、I〜IIIのコバルト、I〜IIIのニッケル、II〜VIIのクロム、II〜IVのチタン、IV〜VIのタングステン、II〜VのバナジウムおよびII〜VIのモリブデンが挙げられる。リガンドは、炭素、水素、酸素、窒素、イオウ、ハロゲン化物、リンを含むことができる。リガンドは、Fe/EDTAおよびMn/EDTA、NTA、2−ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸を始めとするキレート複合体でもよく、またはシアン化物のような非キレートであってもよい。
【0062】
しかし、いくつかのケースでは、本発明のカソード溶液にいかなるメディエータの存在も回避し、ポリオキソメタレート材料(複数も含む)のレドックス挙動のみに依存するのが好ましい場合もある。
【0063】
本発明の燃料電池は、レドックス対で、燃料電池の作動時、カソードチャンバ内の酸化剤の還元を触媒することで、直接、作動してもよい。しかし、いくつかのケースでは、いくつかのレドックス対に関しては、触媒メディエータをカソードチャンバに導入することが必要および/または望ましい場合もある。
【0064】
本発明の実施形態を図示する以下の図面を参照して、本発明の種々の態様を、より詳しく記載する。
【0065】
図1は、本発明による燃料電池のカソード区画の概略図を図解する。
【0066】
図2は、本発明によるVPOMカソード液系におけるV(IV)濃度の増加による効果を実証するデータを示す。
【0067】
図3は、本発明による燃料電池で達成可能な分極および電力プロファイルを実証するさらなる比較データを示す。
【0068】
図4は、本発明による第一カソード液系におけるV(IV)濃度の増加による電池電位に対する効果を実証するデータを示す。
【0069】
図5は、本発明による第二カソード液系におけるV(IV)濃度の増加による効果を実証するデータを示す。
【0070】
図6は、本発明による第二カソード液系におけるV(IV)濃度の増加による効果を実証するデータを示す。
【0071】
図7は、V(IV)濃度の増加に対するさらなる性能データを示す。
【0072】
図8は、ある従来系の間の電気化学的性能の違いを示す。
【0073】
図9は、図8のカソード溶液に関するさらなる性能データを示す。
【0074】
図10は、図8のカソード溶液に関するさらなる性能データを示す。
【0075】
図1を参照して、アノード(図示せず)をカソード3から分離する高分子電解質膜2を含む、本発明による燃料電池1のカソード側を示す。この図では、カソード3は網状炭素を含み、したがって、多孔性である。しかし、白金のような他のカソード材料を使用してもよい。高分子電解質膜2は、電池の作動時、アノードチャンバ内で燃料(この場合水素)の(場合によっては接触)酸化によって生成したプロトンが通過する、カチオン選択性膜を含む。燃料ガスの酸化によってアノードで生成した電子は電気回路(図示せず)内を流れ、カソード3に戻る。燃料ガス(この場合、水素)は、アノードチャンバ(図示せず)の燃料ガス通路に供給され、一方酸化剤(この場合、空気)は、カソードガス反応チャンバ5の酸化剤入口4に供給する。カソードガス反応チャンバ5(触媒再酸化ゾーン)には排気管6が備えられ、燃料電池反応の副生物(たとえば、水および熱)は、そこを通って排出することができる。
【0076】
電池の作動時、酸化型ポリオキソメタレートレドックス触媒を含むカソード溶液が、カソード液貯蔵器7からカソード入口チャネル8へ供給される。カソード液は、膜2に隣接して置かれた、網状炭素カソード3へ流れ入る。カソード液がカソード3を通り抜けると、ポリオキソメタレート触媒は還元され、次いでカソード出口チャネル9を通って、カソードガス反応チャンバ5に戻る。
【0077】
本発明のカソード液の有利な組成のため、触媒の再酸化が非常に迅速に起こり、燃料電池が従来のカソード液を持つ電池より高い持続可能な電流を生成することを可能にする。
【0078】
以下の実施例に記載するように、従来のカソード液より改良された、本発明のカソード液の性能を強調する比較試験を行った。
【0079】
実施例1
実施例カソード液の合成
【0080】
一般式:HPMo12−e40(式中、e=2〜5、f+g=3+e、およびX=Na、Liその他)のカソード液は、J H Grateら(国際公開公報第9113681号)に記載された方法に従って合成することができる。
【0081】
一般式:H3+ePMo12−e40のカソード液は、V F OdyakovらによってAppl Cat A:General,2008,342,126で報告される方法を応用した方法を使用して合成することができる。
【0082】
バナジウム(IV)化合物の導入は、適切な量のバナジウム(IV)材料を、通常固体形態で、目的の濃度に達するまで、ポリオキソメタレート水溶液に、撹拌しながら加えることにより行い、必要な場合は加熱して、完全な溶解を確実にする。
【0083】
実施例2
のHPMo40への添加
【0084】
のΗΡΜo40(水溶液)への添加によるカソード液の電気化学的特性への効果を調べるための実験を行った。ガラス状炭素電極、参照カロメル電極(SCE)および白金対電極を持つ、標準3電極電池を使用した。サイクリックボルタモグラム(図2)を、0.3MのHPMo40(水溶液)、および0.15MのVが添加された0.3MのHPMo40(水溶液)について、室温、0.05V/秒で記録した。記録されたサイクリックボルタモグラムは、0.3MのHPMo40(水溶液)中、0.15Mの濃度のVを添加した場合、標準の0.3MのHPMo40(水溶液)系に対して、還元電流のより速い立上がりおよび大きさの増加により認められ、電極性能における改良が観察されることを示す。
【0085】
の添加によるHPMo40(水溶液)カソード液の燃料電池性能への効果を測定するために、次の燃料電池テストを行った。これを行うために、レドックス再生カソードおよび水素アノードを使用した。
【0086】
テスト電池は、作用面積が25cmのナフィオン212膜電極組立品(Ion Power)と、網目ガラス状炭素カソードとで構成した。分極曲線を、80℃の温度、150ml/分のカソード液流速および0.5バールのH圧で集め、掃引速度は500mA/秒であった。
【0087】
得られた分極および電力曲線(図3)は、Vが加えられたカソード液は、Vが加えられていないカソード液より性能が優れていることを明らかに示す。
【0088】
さらに、定常状態実験は、400mA/cmの一定電流を系(図4)から引き出す場合、Vが添加されたカソード液は、より高い電位を維持することができることを示す。
【0089】
実施例3
VOSOのHNaPMo40(水溶液)への添加
【0090】
VOSOのHNaPMo40(水溶液)への添加によるカソード液の電気化学的特性への効果を調べるための実験を行った。ガラス状炭素電極、参照カロメル電極(SCE)および白金対電極を持つ、標準3電極電池を使用した。サイクリックボルタモグラム(図5および6)を、0.3MのHNaPMo40(水溶液)および0.3MのVOSOが添加された0.3MのHNaPMo40(水溶液)について、0.05V/秒、室温および62℃で記録した。両ケースで使用されたHNaPMo40(水溶液)のサンプルは、分析前に、電気化学的に還元させ、空気に接触させて再酸化させた。記録されたサイクリックボルタモグラムは、0.3MのHNaPMo40(水溶液)中、0.3Mの濃度のVOSOを添加した場合、標準の0.3MのHNaPMo40(水溶液)系に対して、還元電流のより速い立上がりおよび大きさの増加により認められ、電極性能における改良が観察されることを示す。
【0091】
VOSOの添加によるHNaPMo40(水溶液)カソード液の燃料電池性能への効果を測定するために、次の燃料電池テストを行った。これを行うために、レドックス再生カソードおよび水素アノードを使用した。
【0092】
テスト電池は、作用面積が25cmのGORE Primea膜電極組立品(Ion Power)と、網目ガラス状炭素カソードとで構成した。分極曲線を、80℃の温度、150ml/分のカソード液流速および0.5バールのH圧で集め、掃引速度は500mA/秒であった。
【0093】
得られた分極曲線(図7)は、VOSOが加えられたカソード液は、VOSOが加えられていないカソード液より性能が優れていることを示す。
【0094】
実施例4(比較)
従来技術のカソード液の比較
【0095】
従来技術のカソード液の処方との比較を引出すための実験を行う。3種類にカソード水溶液を調製し、第一は、0.059MのHPMo1040および0.8MのVOSO(米国特許第4396687号明細書および米国特許第4407902号明細書)を含み、第二は0.059MのHPMo40および0.8MのVOSOを含み、第三は0.3MのHNaPMo40だけを含んでいた。
【0096】
電気化学的実験は、ガラス状炭素電極、参照カロメル電極(SCE)および白金対電極を持つ、標準3電極電池を使用して行った。サイクリックボルタモグラム(図8)を、先に記載した3種のカソード液のそれぞれについて、1時間酸素をバブリングした後に、0.05V/秒、60℃で記録した。サイクリックボルタモグラムは、0.3MのHNaPMo40カソード液が、他のカソード液に対して、改良された電極性能を実証することを示す。したがって、本発明のカソード液が、0.3MのHNaPMo40に対して改良されていることを示す先に示した実施例から、該カソード液は、これらの従来技術のカソード液の実施例より性能も優れているということになる。
【0097】
本発明のカソード液と従来技術のカソード液との比較を引き出すために、次の燃料電池テストを行った。これを行うために、レドックス再生カソードおよび水素アノードを使用した。
【0098】
テスト電池は、作用面積が25cmのナフィオン212膜電極組立品(Ion Power)と、網目ガラス状炭素カソードとで構成した。分極曲線を、80℃の温度、150ml/分のカソード液流速および0.5バールのH圧で集め、掃引速度は500mA/秒であった。
【0099】
得られた分極曲線および定常状態の性能データ(図9および10)は、0.3MのHNaPMo40カソード液が、他の試験されたカソード液に対して、改良された電極性能を実証することを示す。したがって、本発明のカソード液が、0.3MのHNaPMo40に対して改良されていることを示す先に示した実施例から、該カソード液は、これらの従来技術のカソード液の実施例より性能も優れているということになる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10