(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バルーン外部の前後間のインピーダンスは、前記バルーンを血管内で拡張して血流を完全遮断すると血管組織のインピーダンスを反映して上昇し、前記バルーンのアブレーションによる血管組織が加熱されると細胞膜のイオン透過性亢進により低下し、血管組織の蒸散又は炭化がおこると上昇に転じることを、前記電気インピーダンス測定用回路計で測定する構成としたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のバルーンカテーテルアブレーションシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した診断用ラッソ型電極カテーテル102,107は、何れもその電極部分を肺静脈壁に密着するよう操作して電位を記録することが必要であり、技術的に困難さがある。また、
図2の例では、診断用ラッソ型電極カテーテル107でカテーテルルーメン106を占めると、ガイドワイアーを使用することができなくなるので、バルーン104の保持力が低下して肺静脈口に密着できず、一回のアブレーションで肺静脈隔離を達成できなくなる問題点がある。一方、バルーンカテーテル先端部に肺静脈電位測定用電極を設置する方法も考案されたが、バルーンカテーテルが嵩張り、血栓付着の危険性もあって、未だ実用化していない。
【0007】
また、バルーンカテーテルアブレーションにて、バルーン104内の電極105と体表対極板との間で高周波通電しながら、この間の電気インピーダンスとバルーン104内の電極105による電位をモニターしても、バルーン膜の高インピーダンスに阻まれて鋭敏な変化を示さず、アブレーションの進行具合を推定できない。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、従来の肺静脈電位の直接記録や、対極板とバルーン内の電極を用いた電気インピーダンスと電位の記録に代わり、肺静脈隔離の進行具合を知ることができるバルーンカテーテルアブレーションシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、互いにスライド可能な内筒と外筒によりカテーテルシャフトが構成され、前記内筒と前記外筒との先端部間にはコンプライアンスの高い弾性バルーンが設置され、前記バルーンの内部には高周波通電用電極と温度センサーが設置され、前記高周波通電用電極と前記温度センサーは、それぞれ第1通電線にて高周波発生器と温度計とに接続され、前記外筒と前記内筒により形成された前記バルーンの内部に通じる送液路には、バルーン収縮拡張用シリンジと、前記バルーンの内部撹拌用の振動発生器が接続され、前記バルーンの外部には、前記バルーンを挟んで双極電極が設置され、上記双極電極は第2通電線を介して電気インピーダンス測定用回路計と電位増幅装置に接続された構成としたバルーンカテーテルアブレーションシステムである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記双極電極は、前記バルーンと前記カテーテルシャフトからなるバルーンカテーテルの先端部と、前記バルーンカテーテルを挿入するガイドシースの先端部にそれぞれ設置され、前記第2通電線を介して前記電気インピーダンス測定用回路計と電位増幅装置に接続されることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記双極電極は、前記バルーンと前記カテーテルシャフトからなるバルーンカテーテルの先端部に設置したバルーンカテーテル先端電極と、前記バルーンの後方に留置された別のカテーテル先端電極であり、前記第2通電線を介して前記電気インピーダンス測定用回路計と電位増幅装置に接続されることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記双極電極は、カテーテルルーメンを通過して前記バルーンの前方に留置されたガイドワイアーに附属する電極と、前記外筒の先端部に設置された電極、前記バルーンと前記カテーテルシャフトからなるバルーンカテーテルを挿入するガイドシースの先端部に設置された電極、あるいはバルーンの後方に留置された別のカテーテル先端電極であり、前記第2通電線を介して前記電気インピーダンス測定用回路計と電位増幅装置に接続されることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記電気インピーダンス測定用回路計と電位増幅装置に高周波ノイズカットフィルターが附属していることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1〜5の何れか一つに記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記双極電極は導電率の高い金属(金,銀,銅)で構成され、直径3mm以上で長さ2mm以上の円筒形であることを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、請求項1〜6の何れか一つに記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記バルーン外部の前後間の電気インピーダンスが、前記バルーンの収縮時には血液の電気インピーダンスを反映して低い値をとるが、血管内で前記バルーンを拡張し、血流を完全遮断すると血管のインピーダンスが加わって上昇することを、前記電気インピーダンス測定用回路計で測定する構成としたことを特徴とする。
【0016】
請求項8の発明は、請求項1〜7の何れか一つに記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記バルーン外部の前後間の電気インピーダンスが、前記バルーンのアブレーションによる組織加熱が順調の時には細胞膜のイオン透過性亢進により低下し、過剰焼灼により組織の蒸散や炭化がおこると上昇することを、前記電気インピーダンス測定用回路計で測定する構成としたことを特徴とする。
【0017】
請求項9の発明は、請求項1〜8の何れか一つに記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記双極電極の間には高周波発生器を接続可能であることを特徴とする。
【0018】
請求項10の発明は、請求項1〜9の何れか一つに記載のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおいて、前記バルーンが、クライオバルーン、レーザーバルーン、超音波バルーン、発熱素子やニクロム線を発熱源とする温熱バルーンの何れかを用いて構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明では、バルーンカテーテル先端のバルーンを電解質溶液で拡張して肺静脈口に密着し、高周波発生器よりバルーン内の高周波通電用電極に通電し、振動発生器にてバルーン内を攪拌しながら、バルーンの温度とバルーン周囲の電気インピーダンスと遠隔電位を、それぞれ温度計と電気インピーダンス測定回路計と電位増幅装置でモニターする。
【0020】
バルーンを血管内に挿入すると、電気インピーダンス測定回路計でモニターされるバルーン外部の前後間のインピーダンスは、バルーンが収縮状態では血管内の血液インピーダンスを反映し、バルーンを拡張して血管内血流を遮断すると、血液インピーダンスに血管インピーダンスが付加されて上昇を示す。バルーンによるアブレーションを開始すると、血管は加熱され、細胞膜イオン透過性が亢進し、インピーダンスは低下する。アブレーションが限界を超え組織の蒸散や炭化がおこると、インピーダンスは上昇に転じる(
図10)。
【0021】
また双極電極として、導電性の高い大きめの電極を用いると、電極が心筋組織と接触しなくとも、導電性の比較良好な血液を介して心筋組織の遠隔電位を電位増幅装置で記録できる。アブレーションの進行とともに、左房―肺静脈電位間隔が延長して、電位増幅装置で記録される肺静脈電位は減高し消失に至り、肺静脈隔離の達成を知る。
【0022】
こうして、バルーンカテーテルによる心房細動アブレーションにて、従来の肺静脈電位を直接記録することに代わって、バルーン周囲の電気インピーダンスと遠隔電位をモニターすることにより、アブレーションによる肺静脈隔離の進行具合を知ることができる。
【0023】
請求項2の発明では、この場合、バルーンカテーテルに設置される双極電極は単一となるので、バルーンカテーテルの構造を簡単化することが可能になる。
【0024】
請求項3の発明では、バルーンカテーテルに設置される双極電極は、バルーンカテーテル先端電極だけとなるので、バルーンカテーテルの構造を簡単化することが可能になる。
【0025】
請求項4の発明では、バルーンカテーテルの前方に留置される電極を、バルーンカテーテルの先端部にではなくガイドワイアーに付属させることで、バルーンカテーテルの構造を簡単化することが可能になる。
【0026】
請求項5の発明では、高周波通電用電極への通電中であっても、電気インピーダンス測定用回路計や電位増幅装置は高周波ノイズに妨げられずに、バルーン周囲の電気インピーダンスと遠隔電位を正しく測定することが可能となる
請求項6の発明では、双極電極と血液との接触部のインピーダンスが低くなり、双極電極と心筋が直接接触していなくとも、心筋の遠隔電位を血液を介して電位増幅装置で記録可能となる。
【0027】
請求項7の発明では、電気インピーダンス測定用回路計からの出力に基づいて、バルーン6による血管閉塞状況がわかり、バルーンで血管を閉塞したあとに、一度上昇した電気インピーダンスが下降したら、バルーンにピンホール発生したことが推測できる。
【0028】
請求項8の発明では、電気インピーダンス測定用回路計からの出力に基づいて、血管組織のアブレーションの進行状況がわかる。
【0029】
請求項9の発明では、温熱バルーンの熱伝導加熱にて肺静脈口周囲が完全焼灼できないとき、バルーンで血管を閉塞した状態でバルーン外部の前後に設けた双極電極の間より高周波通電をすることで、血管閉塞部周囲残存組織を直接的な高周波加熱により追加焼灼することが可能となる。
【0030】
請求項10の発明では、双極電極による電気インピーダンスと遠隔電位の測定が、クライオバルーン、レーザーバルーン、超音波バルーンや、発熱素子やニクロム線を発熱源とする温熱バルーンを用いたアブレーションシステムにも応用でき、そのアブレーションの進行状況の推測が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明で提案するバルーンカテーテルアブレーションシステムについて、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図3は、本発明の一実施形態におけるバルーンカテーテルアブレーションシステムの要部構成を示している。同図において、1は管腔臓器内に挿入可能な柔軟性に富む筒状のカテーテルシャフトであって、このカテーテルシャフト1は、互いに前後方向にスライド可能な外筒シャフト2と内筒シャフト3とにより構成される。外筒シャフト2の先端部4と、内筒シャフト3の先端部5近傍との間には、収縮拡張可能なバルーン6が設けられている。バルーン6は、ポリウレタンやPET(ポリエチレンテレフタラート)などの耐熱性に富むレジンで薄膜状に形成され、バルーン6の内部に液体(通常は、生理食塩水と造影剤の混合液)が充填されることによって、回転体形状である例えば略球形に膨らむようになっている。
【0034】
カテーテルシャフト1内部の外筒シャフト2と内筒シャフト3との間には、バルーン6の内部に形成した充填部8に通じて、この充填部8に液体を送ると共に振動波を伝える送液路9が形成される。10は、バルーン部8を標的部位に誘導するためのガイドワイアーであり、このガイドワイアー10は、内筒シャフト3を挿通して設けられている。
【0035】
バルーン6の内部には、高周波通電用電極11と温度センサー12がそれぞれ設置される。高周波通電用電極11は、バルーン6の内部を加熱する電極として、内筒シャフト3にコイル状に巻回されて設けられている。また、高周波通電用電極11は単極構造であって、カテーテルシャフト1の外部に設けられた対極板13との間で高周波通電を行なうように構成され、高周波通電することにより高周波通電用電極11が発熱するようになっている。なお、高周波通電用電極11を双極構造として、両極間にて高周波通電を行なうように構成してもよい。
【0036】
温度検知部としての温度センサー12は、バルーン6の内部において内筒シャフト3の基端部側に設けられており、高周波通電用電極11に接して、この高周波通電用電極11の温度を検知する構成となっている。なお、本実施形態では図示しないが、当該温度センサー12の他に、バルーン6の内部温度を検知する別な温度センサーを、内筒シャフト3の先端部5近傍に固定してもよい。
【0037】
さらに、バルーン6の外部において、内筒シャフト3の先端部5と外筒シャフト2の先端部4の近傍には、バルーン6の前後を挟むようにして、対をなす双極電極16a,16bがそれぞれ設置される。
図3に示す例では、バルーン6を管腔臓器内の壁面に密着させて、管腔臓器内を流れる血流を完全に遮断した状態で、一方の電極16aから他方の電極16bに電流を流す構成となっている。そして、上述したカテーテルシャフト1とバルーン6とによって、体内に挿入可能な形状を有するバルーンカテーテル21が構成される。
【0038】
バルーンカテーテル21の外部において、前記送液路9の基端には送液管22が連通接続される。この送液管22の途中には、三方活栓23の二つの接続口が接続され、三方活栓23の残りの一つの接続口に、バルーン6の収縮拡張用のシリンジ24が接続される。また、送液管22の基端には、バルーン6の内部撹拌用の振動発生器25が接続される。三方活栓23には指で回動操作可能な操作片27が設けられており、この操作片27を操作することで、シリンジ24と振動発生器25の何れかを、送液路9に連通接続させる構成になっている。
【0039】
液体注入器としてのシリンジ24は、三方活栓23に接続する筒状体28に可動式のプランジャ29を備えて構成される。そして、三方活栓23によりシリンジ24と送液路9とを連通させた状態で、プランジャ29を押し込むと、筒状体28の内部から送液路9を通過してバルーン6の内部に液体が供給され、逆にプランジャ29を引き戻すと、バルーン6の内部から送液路9を通過して、筒状体28の内部に液体が回収されるようになっている。
【0040】
送液管22と共にバルーン内攪拌装置を構成する振動発生器25は、三方活栓23により送液路9と連通した状態で、送液路9を通じてパルーン6内部の液体に非対称の振動波を与えて、定常的に渦を発生させるものである。このパルーン6内の渦によって、バルーン6の内液が振動攪拌され、バルーン6の内部温度が均一に保たれるようになっている。
【0041】
また、バルーンカテーテル21の外部には高周波発生器31が設けられ、バルーン6の内部に設置された高周波通電用電極11と温度センサー12は、それぞれカテーテルシャフト1の内部に設けた通電線32,33によって、高周波発生器31と電気的に接続される。高周波発生器31は、通電線32を通じて高周波通電用電極11と対極板13との間に電力である高周波エネルギーを供給して、液体で満たされたバルーン6全体を加温するもので、別な通電線33を通じて送られてくる温度センサー12からの検知信号により、高周波通電用電極11ひいてはバルーン6の内部温度を測定出力し、その温度を表示する温度計(図示せず)を備えている。また、高周波発生器31は温度計で測定された温度情報を逐次取り込み、通電線32を通じて高周波通電用電極11と対極板13との間に供給する高周波電流のエネルギーを決定する構成となっている。通電線32,33は、内筒シャフト3の軸方向全長にわたり、内筒シャフト3に沿って固定されている。
【0042】
なお本実施形態では、バルーン6の内部を加熱する加熱手段として高周波通電用電極11を用いているが、バルーン6の内部を加熱できれば、特定のものに限定されない。例えば、高周波通電用電極11と高周波発生器31の代わりに、超音波発熱体と超音波発生装置、レーザー発熱体とレーザー発生装置、ダイオード発熱体とダイオード電源供給装置、ニムロム線発熱体とニクロム線電源供給装置の何れかを用いることができる。
【0043】
また、カテーテルシャフト1およびバルーン6を含むバルーンカテーテルは、その内部を加熱する際に、熱変形などを起こさずに耐え得る耐熱性レジン(樹脂)の素材で全て構成される。バルーン6の形状は、短軸と長軸が等しい球形の他に、例えば短軸を回転軸とした扁球や、長軸を回転軸とした長球や、俵型などの各種回転体形状とすることができるが、どのような形状であっても、管腔内壁に密着した場合に変形するコンプライアンスの高い弾性部材で形成される。
【0044】
さらに本実施形態では、バルーンカテーテル21の外部に、電気インピーダンス測定電位増幅装置41と高周波フィルター42がそれぞれ設置される。電気インピーダンス測定電位増幅装置41は、通電線43,44を通じてバルーン6外部の前後に設置した電極16aと電極16bにそれぞれ接続しており、双極電極16a,16bの間に微弱な電流を流して、そのときの電圧値から得られる電気インピーダンスを、バルーン6周囲の電気インピーダンスとして測定出力し、さらに双極電極16a,16から得られる遠隔電位を増幅して記録出力し、その電気インピーダンスと電位波形の変化からアブレーションの効果、ひいては肺静脈隔離が成功したか否かを判定するものである。またここでは、高周波発生器31から発生する高周波ノイズの影響をなくすために、双極電極16a,16bと、電気インピーダンス測定電位増幅装置41と、通電線43,44とによる測定用の電気回路に、高周波ノイズカットフィルター42が組み込まれている。通電線43,44は、前述の通電線32,33と同様に、内筒シャフト3の軸方向全長にわたり、内筒シャフト3に沿って固定されている。
【0045】
次に、本実施形態におけるバルーンカテーテルアブレーションシステムの動作原理を、
図4と
図5でそれぞれ説明する。なお、
図4はアブレーション前の血流と電流の状態であり、
図5はアブレーション後の血流と電流の状態であって、何れの図も血流は矢印付きの太い点線で示し、電流は矢印付きの太い実線で示している。また、
図4Aと
図5Aは、アブレーション電極101の電極部111と、診断用ラッソ型電極カテーテル102の電極部112を、通電線43,44を通じて高周波フィルター42を備えた電気インピーダンス測定電位増幅装置41に接続した従来の電極カテーテルアブレーションシステムを示している。それに対して、
図4Bと
図5Bは、上述した
図3に示す実施形態のバルーンカテーテルアブレーションシステムを示している。
【0046】
これらの各図において、アブレーション電極101またはバルーン6からの熱により、肺静脈口が全周性に貫壁性に焼灼されると、肺静脈PV内の心筋スリーブと左房LAとの間の電気インピーダンスは変化を示す。
図4Aや
図5Aに示す通常のアブレーション法では、アブレーション電極101の電極部111と診断用ラッソ電極カテーテル102の電極部112との間で電気インピーダンスを測定すると、心筋の伝導性が失われても、肺静脈PV内の血流が遮断されていないので、電流は抵抗値の低い血液を流れて、電気インピーダンス測定電位増幅装置41で測定される電気インピーダンスは、アブレーションの前後で変化しない。
【0047】
しかし、
図4Bや
図5Bに示すバルーンカテーテル21では、バルーン6外部の前後間のインピーダンスは、バルーン6が収縮状態の時は血管内血液のインピーダンスを反映して低い値をとるが、弾性バルーン6の拡張により肺静脈PV内の血流を完全遮断すると、血管組織のインピーダンスが加わり上昇する。この時、アブレーションにより肺静脈内の心筋スリーブと左心房LAとの間の標的部位Sにおいて、血管組織が加熱されるとその細胞膜のイオン透過性が亢進し、バルーン6の前後で電気インピーダンスは下降する。したがって、温度センサー12からの検知信号を取込んで、高周波発生器31によりバルーン6の内部温度を測定表示させ、バルーン6の内部温度が所定のターゲット温度に到達したときに、電気インピーダンス測定電位増幅装置41で測定される電気インピーダンスが下降すれば、電気インピーダンス測定電位増幅装置41はバルーンカテーテル21による標的部位Sへの焼灼が順調であると判断できる。しかし焼灼が過度に及び、組織の蒸散や炭化がおこると、電気インピーダンスは上昇に転じる。この時は、電気インピーダンス測定電位増幅装置41による電気インピーダンスの測定出力から、高周波通電用電極11への通電を直ちに中止しなければならない。また、双極電極16a,16bでとらえ、電気インピーダンス測定電位増幅装置41にて記録した遠隔電位では、焼灼の進行とともに左房LA−肺静脈PV電位間隔が延長して肺静脈PV電位は減高し、肺静脈隔離が達成されれば肺静脈PV電位は消失する。
【0048】
次に、上記バルーンカテーテルアブレーションシステムの様々な変形例について説明する。
【0049】
図6に示す第1変形例では、バルーン6の外部において、双極電極を構成する一方の電極16aが、バルーンカテーテル21の先端部である内筒シャフト3の先端部5に設置されると共に、他方の電極16bが、バルーンカテーテル21を挿入する筒状のガイドシース51の先端部に設置される。電気インピーダンス測定電位増幅装置41は、通電線43,44を通じて電極16aと電極16bにそれぞれ接続される。この場合、バルーンカテーテル21に設置する双極電極は単一の電極16aだけとなり、バルーンカテーテル21の構造を簡素化できる。なお、ガイドシース51は、上記実施形態や以下に説明する各変形例でも、体内でバルーンカテーテル21を肺静脈PV内に挿入するために用いられる。
【0050】
図7に示す第2変形例では、バルーン6の外部において、双極電極を構成する一方の電極16aが、バルーンカテーテル21の先端部である内筒シャフト3の先端部5に設置されると共に、他方の電極16bが、バルーン6の後方に留置された別のカテーテル先端電極として、アブレーション電極101の先端部に設置される。つまり、ここでの電極16bは、前述したアブレーション電極101の電極部111に相当する。電気インピーダンス測定電位増幅装置41は、通電線43,44を通じて電極16aと電極16bにそれぞれ接続される。この場合も、バルーンカテーテル21に設置する双極電極は、バルーンカテーテル先端電極となる単一の電極16aだけとなり、バルーンカテーテル21の構造を簡素化できる。
【0051】
図8に示す第3変形例では、バルーン6の外部において、双極電極を構成する一方の電極16aが、ガイドワイアー10の先端部に設置されると共に、他方の電極16bが、外筒シャフト2の先端部4に設置される。ガイドワイアー10は、内筒シャフト3の内部空間であるカテーテルルーメン52を通過して、その先端部がバルーン6の前方に位置しており、電極16aはガイドワイアー付属電極として、ガイドワイアー10の先端部に留置される。電気インピーダンス測定電位増幅装置41は、通電線43,44を通じて電極16aと電極16bにそれぞれ接続される。
【0052】
電極16bは、第1変形例のように、ガイドシース51の先端部に設置したり、第2変形例のように、バルーン6の後方に留置された別のカテーテル先端電極として、アブレーション電極101の先端部に設置したりすることもできる。何れにせよ、この場合も、バルーンカテーテル21に設置する双極電極は、ガイドワイアー付属電極となる単一の電極16aだけとなり、バルーンカテーテル21の構造を簡素化できる。
【0053】
図3および
図6〜
図8の各例では何れも、拡張したバルーン6と管腔内壁との密着部分の前方に一方の双極電極16aが配置され、密着部分の後方に他方の双極電極16bが配置される。このとき、密着部分の前方部と後方部との間で、血流が完全に遮断されていれば、バルーン6の周囲における電気インピーダンスの変化を電気インピーダンス測定電位増幅装置41でモニターすることで、アブレーションの進行具合の判定を正しく行なうことができる。また、双極電極16a,16bの形状は導電率の高い例えば金,銀,銅などの金属で、直径が3mm以上で長さ2mm以上の円筒形とするのが好ましく、これにより肺静脈血液との接触面積が大きくなり、電気インピーダンスが低下して導電性が高まり、遠隔電位を容易に検出でき、しかも凹凸のない形状なので、血栓付着をなくすことができる。
【0054】
次に、本発明のバルーンカテーテルアブレーションシステムにおける実際の使用法について、
図1のバルーンカテーテル21の使用状態を示す
図9を参照して説明する。
【0055】
大腿静脈より心房中隔穿刺をおこない、ガイドワイアー10を左心房LA内に挿入し、これを介してガイドシース51を左房LA内に留置し、このガイドシース51を通じてバルーンカテーテル21を肺静脈PV内に挿入する。ガイドワイアー10とガイドシース51の支持のもとに、コンプライアンスの高い弾性バルーン6の内部を、生理食塩水とイオン系造影剤との混合液の注入により拡張して、肺静脈口に密着させる。これはカテーテル先端より造影剤を注入して、閉塞的肺静脈造影が得られることにより確認される。このとき拡張したバルーン6により、肺静脈PV内と左房LAの血流は完全に遮断されている。
【0056】
CT(コンピュータ断層撮影)より測定した心筋スリーブの発達具合に応じて、バルーン6の温度と通電時間を決定し、高周波通電装置である高周波発生器31と、バルーン6内の撹拌用の振動発生器25のスイッチをONとして、バルーン6内の温度を温度センサー12でモニターしながら、高周波通電用電極11と対極板13との間で高周波通電を行なって、バルーン6が密着した標的部位Sに対するアブレーションを開始する。同時にバルーン6の前後の外部双極電極16a,16bより、電気インピーダンス測定電位増幅装置41を用いて、バルーン6周囲の電気インピーダンスと遠隔電位をモニター出力する。バルーン6内の温度が、目標となるターゲット温度に到達し、バルーン6周囲の電気インピーダンスが低下し、電位波形に変化が見られれば、これは肺静脈口周囲の焼灼が順調であることを示しているので通電を続ける。一方、バルーン6内の温度がターゲット温度に達しても、バルーン6周囲の電気インピーダンスの低下や電位波形に変化がなければ、無効通電の可能性が高いので、高周波通電用電極11への通電を中止して、バルーン6の位置を変えて再度試みる。こうして、所望のアブレーションが終了し、肺静脈PV電位の消失をみたら、バルーンカテーテル21を抜去する。
【0057】
図10は、高周波通電用電極11への高周波通電中に、高周波発生器31の温度計でモニターされるバルーン6内の温度と、電気インピーダンス測定電位増幅装置41でモニターされるバルーン6周囲の電気インピーダンスと肺静脈遠隔電位の波高を、「バルーン温度」,「インピーダンス」,「電位波高」として、それぞれ示したものである。同図において、A:バルーン6の拡張を開始すると、電気インピーダンスの上昇が見られ、B:バルーン6で血管を完全閉塞すると、電気インピーダンスは最高値に達する。C:バルーンカテーテル21による標的部位Sへの高周波通電を開始すると、D:バルーン6内の温度上昇に伴って組織加熱が開始され、バルーン6周囲の電気インピーダンスの低下が見られる。また、肺静脈遠隔電位の波高は減少し、最後に消失に至る。これは、アブレーションにより肺静脈隔離が成立したことを示している。アブレーションを過度に続けると、E:組織の蒸散や炭化がおこり、インピーダンスは上昇に転じる。
【0058】
以上を要約すると、本発明における高周波加温バルーンカテーテルアブレーションシステムは、互いにスライド可能な内筒である内筒シャフト3と外筒である外筒シャフト2によりカテーテルシャフト1が構成され、内筒シャフト3と外筒シャフト2との先端部間にあって、バルーンカテーテル21の先端部にはバルーン6が設置され、バルーン6の内部には高周波通電用電極11と温度センサー12がそれぞれ設置され、高周波通電用電極11と温度センサー12は、それぞれカテーテルシャフト21内の第1通電線である通電線32,33にて体外の温度計を組み込んだ高周波発生器31に接続され、内筒シャフト3と外筒シャフト2により形成されたバルーン6の内部に通じる送液路9には、バルーン収縮拡張用のシリンジ24とバルーン6の内部撹拌用の振動発生器25とが接続され、バルーン6の外部には、このバルーン6を挟むよう双極電極16a,16bが設置され、双極電極16a,16bは第2通電線である通電線43,44を介して、体外の電気インピーダンス測定用回路計と電位増幅装置とを構成する電気インピーダンス測定電位増幅装置41に接続されている。
【0059】
この場合、心房細動治療のための肺静脈隔離に、本発明のバルーンカテーテルアブレーションシステムを適応させるには、バルーンカテーテル21先端のバルーン6を電解質溶液で拡張して肺静脈口に密着し、高周波発生器31よりバルーン6内の高周波通電用電極11に通電し、振動発生器25にてバルーン6内を攪拌しながら、バルーン6の温度と、バルーン6周囲の電気インピーダンスと電位波形とを、それぞれ高周波発生器31の温度計と電気インピーダンス測定電位増幅装置41でモニターする。
【0060】
ここで、バルーン6を血管内に挿入すると、電気インピーダンス測定電位増幅装置41でモニターされるバルーン6外部の前後間のインピーダンスは、バルーン6が収縮状態では血管内の血液インピーダンスを反映し、バルーン6を拡張して血管内血流を遮断すると、血液インピーダンスに血管インピーダンスが付加されて上昇を示す。バルーン6によるアブレーションを開始すると、血管は加熱され、細胞膜イオン透過性が亢進し、インピーダンスは低下する。アブレーションが限界を超え組織の蒸散や炭化がおこると、インピーダンスは上昇に転じる。
【0061】
また、双極電極16a,16bとして、導電性の高い大きめの電極を用いると、双極電極16a,16bが心筋組織と接触しなくとも、導電性の比較良好な血液を介して心筋組織の遠隔電位を電気インピーダンス測定電位増幅装置41の電位増幅装置で記録できる。アブレーションの進行とともに、左房―肺静脈電位間隔が延長して、電気インピーダンス測定電位増幅装置41の電位増幅装置で記録される肺静脈電位は減高し消失に至り、肺静脈隔離の達成を知る。
【0062】
このように、バルーン6の標的温度到達に伴う電気インピーダンスの低下と電位波形の変化は肺静脈隔離の進行を示すので、バルーン6周囲の電気インピーダンスと電位波形のモニター出力から、ホットバルーンアブレーションによる肺静脈隔離の効果を知ることができ、効果的な通電か否かの判定指標となる。こうして、バルーンカテーテル21による心房細動アブレーションにて、従来の肺静脈電位を直接記録することに代わって、電気インピーダンス測定電位増幅装置41がバルーン6前後の電気インピーダンスと遠隔電位波形をモニターすることにより、アブレーションによる肺静脈隔離の進行具合を知ることができる。
【0063】
また
図6で示したように、前記双極電極16a,16bは、バルーン6とカテーテルシャフト1とからなるバルーンカテーテル21の先端部と、バルーンカテーテル21を挿入するガイドシース51の先端部にそれぞれ設置され、通電線43,44を介して電気インピーダンス測定電位増幅装置41に接続されている。
【0064】
この場合、バルーンカテーテル21に設置される双極電極は、単一の電極16aだけとなるので、バルーンカテーテル21の構造を簡単化することが可能になる。
【0065】
また
図7で示したように、前記双極電極は、バルーンカテーテル21の先端部に設置したバルーンカテーテル先端電極としての電極16aと、バルーン6の後方に留置された別のカテーテル先端電極としての電極16bであり、通電線43,44を介して電気インピーダンス測定電位増幅装置41に接続されている。
【0066】
この場合、バルーンカテーテル21に設置される双極電極は、バルーンカテーテル先端電極となる電極16aだけになるので、同様にバルーンカテーテル32の構造を簡単化することが可能になる。
【0067】
また
図8で示したように、前記双極電極は、カテーテルルーメン52を通過してバルーン6の前方に留置されたガイドワイアー10に附属する電極となる電極16aと、外筒シャフト2の先端部4に設置された電極、バルーンカテーテル21を挿入するガイドシース51の先端部に設置された電極、あるいはバルーン6の後方に留置された別のカテーテル先端電極となる電極16bであり、通電線43,44を介して電気インピーダンス測定電位増幅装置41に接続されている。
【0068】
この場合、バルーンカテーテル21の前方に留置される電極16aを、バルーンカテーテル21の先端部にではなくガイドワイアー10に付属させることで、バルーンカテーテル21の構造を簡単化することが可能になる。
【0069】
また、本実施形態における電気インピーダンス測定電位増幅装置41には、高周波ノイズカットフィルターとしての高周波フィルター42が附属している。
【0070】
この場合、高周波通電用電極11への通電中であっても、電気インピーダンス測定電位増幅装置41は高周波ノイズに妨げられずに、バルーン6周囲の電気インピーダンスと遠隔電位を正しく測定することが可能となる。
【0071】
また、本実施形態の双極電極16a,16bは何れも、導電率の高い金属で構成され、直径3mm以上で長さ2mm以上と大きめの円筒形であるため、円筒形の双極電極16a,16bと肺静脈血液との接触面積は大きく、また双極電極16a,16bと血液との接触部のインピーダンスが低くなって導電性が高まり、双極電極16a,16bと心筋が直接接触していなくとも、心筋の遠隔電位を血液を介して電気インピーダンス測定電位増幅装置41で記録可能となる。しかも、双極電極16a,16bは凹凸のない形状なので、血栓付着をなくすことができる。
【0072】
また本実施形態では、バルーン6外部の前後間の電気インピーダンスが、バルーン6の収縮時には血液の電気インピーダンスを反映して低い値をとるが、血管内でバルーン6を拡張することにより、血流を完全遮断すると、血管のインピーダンスが加わって上昇することを、電気インピーダンス測定電位増幅装置41で測定して、その結果を表示などで出力する構成となっている。
【0073】
この場合、電気インピーダンス測定電位増幅装置41からの出力に基づいて、バルーン6による血管閉塞状況がわかり、バルーン6で血管を閉塞したあとに、一度上昇した電気インピーダンスが下降したら、バルーン6にピンホール発生したことが推測できる。
【0074】
また本実施形態では、バルーン6外部の前後間の電気インピーダンスが、バルーン6のアブレーションによる組織加熱が順調の時には、細胞膜のイオン透過性亢進により低下し、過剰焼灼により組織の蒸散や炭化がおこると上昇することを、電気インピーダンス測定電位増幅装置41で測定して、その結果を表示などで出力する構成となっている。
【0075】
この場合、電気インピーダンス測定電位増幅装置41からの出力に基づいて、血管組織のアブレーションの進行状況がわかる。
【0076】
また本実施形態では、双極電極16a,16bの間に高周波発生器31を接続できるように構成してもよい。これは例えば、電気インピーダンス測定電位増幅装置41と高周波発生器31の何れかに、双極電極16a,16bを接続可能にする切替スイッチを設けることで達成される。
【0077】
この場合、温熱バルーン6の熱伝導加熱にて肺静脈口周囲が完全焼灼できないとき、バルーン6で血管を閉塞した状態でバルーン6の外部の前後に設けた双極電極16a,16bの間より高周波通電をすることで、血管閉塞部周囲の残存組織を直接的な高周波加熱により追加焼灼することが可能となる。
【0078】
さらに本実施形態のバルーン6は、発熱素子やニクロム線を発熱源とする温熱バルーンの他に、クライオバルーン、レーザーバルーン、超音波バルーンの何れかを用いて構成される。
【0079】
この場合、双極電極16a,16bによる電気インピーダンスと遠隔電位の測定が、クライオバルーン、レーザーバルーン、超音波バルーンや、発熱素子やニクロム線を発熱源とする温熱バルーンを用いたバルーンカテーテルアブレーションシステムにも応用でき、そのアブレーションの進行状況の推測が可能となる。
【0080】
その他、実施例上の効果として、本実施形態では、カテーテルシャフト1とバルーン6を含むバルーンカテーテル21の素材が、全て耐熱性となっている。
【0081】
この場合、高周波通電用電極11への通電に伴い、バルーン6の内部を加熱する際に、バルーン6を含むバルーンカテーテル21が熱変形などを起こさないようにすることができる。
【0082】
なお本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。本発明におけるカテーテルシャフト1やバルーン6の各形状は、上記実施形態で示したものに限定されず、標的部位に応じた種々の形状に形成してもよい。また、上記実施形態では、高周波発生器31に温度計を組み込んだ構成を示したが、高周波発生器と温度計を別々に配設してもよい。