(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ろう材のうち、前記心材の少なくとも一方の面にクラッドされたろう材が、前記各成分元素の他にZn:0.5〜5.5mass%を更に含有する、請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
前記ろう材のうち、前記心材の少なくとも一方の面にクラッドされたろう材が、前記各成分元素の他にTi0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から成る群から選択される1種以上を更に含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
前記心材が、前記各成分元素の他にMg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から成る群から選択される1種以上を更に含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
アルミニウム合金の心材と、当該心材の一方の面にクラッドされたAl−Si系合金のろう材と、前記心材の他方の面にクラッドされた犠牲陽極材とを備えるアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記心材が、Si:0.05〜1.2mass%、Fe:0.05〜1.0mass%、Cu:0.05〜1.2mass%、Mn:0.6〜1.8mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、前記ろう材が、Si:2.5〜13.0mass、Fe:0.05〜1.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、前記犠牲陽極材が、Zn:1.0〜6.0mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Fe:0.05〜2.0mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、前記心材の金属組織として、0.01μm以上0.1μm未満の金属間化合物の分布密度が104〜5×105個/mm2、0.1μm以上1μm未満の金属間化合物の分布密度が104〜5×106個/mm2、1μm以上の金属間化合物の分布密度が5×103個/mm2以上であるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
前記心材、ろう材及び犠牲陽極材のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造された心材鋳塊を均質化する工程と、均質化した心材鋳塊の一方の面に鋳造されたろう材を、かつ、他方の面に鋳造された犠牲陽極材をクラッドする工程と、クラッドしたクラッド材を熱間圧延する工程と、熱間圧延したクラッド材を冷間圧延する工程とを含み、
前記均質化工程が、心材鋳塊を加熱してから加熱保持温度に達するまでの加熱段階と、加熱保持温度に達した心材鋳塊をその温度に保持する加熱保持段階と、心材鋳塊を加熱保持温度から冷却する冷却段階とを含み、加熱段階において、心材鋳塊の加熱開始から400℃に達するまでの昇温速度が60℃/h以上であり、心材鋳塊の温度が400℃を超えてから500℃に達するまでの昇温速度が30℃/h以上であり、心材鋳塊の温度が500℃を超えてから加熱保持温度に達するまでの昇温速度が30℃/h以下であり、加熱保持段階において、心材鋳塊が580〜620℃で1時間以上20時間以下加熱保持され、冷却段階において、心材鋳塊の冷却開始から500℃に達するまでの冷却速度が30℃/h以下であり、心材鋳塊の温度が500℃を下回ってから400℃に達するまでの冷却速度が30℃/h以上であり、
前記冷間圧延工程の途中において、300〜450℃の温度での中間焼鈍が1回以上施され、最終冷間圧延段階での圧延率を10〜30%として最終板厚に到達させることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
前記ろう材が、前記各成分元素の他にTi0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から成る群から選択される1種以上を更に含有する、請求項6又は7に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
前記犠牲陽極材が、前記各成分元素の他にMn:0.05〜1.8mass%、Mg:0.5〜3.0mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から成る群から選択される1種以上を更に含有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
前記心材が、前記各成分元素の他にMg:0.05〜0.5mass%、Ti0.05〜0.3mass%、Zr:0.05〜0.3mass%、Cr:0.05〜0.3mass%及びV:0.05〜0.3mass%から成る群から選択される1種以上を更に含有する、請求項6〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量かつ高熱伝導性を備えており、適切な処理により高耐食性が実現できるため、自動車用熱交換器、例えば、ラジエータ、コンデンサ、エバポレータ、ヒータ、インタークーラなどに用いられている。これら自動車用熱交換器のチューブ材としては、3003合金などのAl−Mn系合金を芯材として、一方の面に、Al−Si系合金のろう材又はAl−Zn系合金の犠牲陽極材をクラッドした2層クラッド材や、更に他方の面にAl−Si系合金のろう材をクラッドした3層クラッド材などが使用されている。熱交換器は通常、このようなクラッド材とコルゲート成形したフィンとを組み合わせ、600℃程度の温度でろう付することによって接合される。
【0003】
近年、熱交換器の小型軽量化が進んでいるが、小型であっても高い放熱性能を維持するために、チューブに複雑な形状を付与することが求められる場合がある。チューブ材の成形性を高めるためには、素材の状態でのチューブ材の強度は出来る限り低く、破断伸びは出来る限り大きいことが好ましい。しかしながら、素材の状態でのチューブ材の組織を完全再結晶組織としてしまうと、成形時に付与されたひずみによってろう付加熱時に亜結晶粒が残存し、ろうが心材へ侵食してろう付性が低下してしまう。素材の状態が加工組織であっても低強度・高破断伸びを有する必要があり、そのために冷間圧延時の加工度を低くすると、やはりろう付加熱時に亜結晶粒が残存し、ろうが心材へ侵食してろう付性が低下する。従って、優れた成形性とろう付性の両方を達成するためには、製造工程を工夫することによって心材の金属組織を制御する必要がある。
【0004】
ろう付加熱時におけるろうの侵食を抑制したブレージングシートの提案として、特許文献1に記載されるような技術が知られている。この技術では、心材の金属組織として、最大長さが1μm以下の析出物が5×10
4個/mm
2以下であるとすることにより、ろう付加熱後の心材結晶粒が粗大となり、微細結晶粒によるろうの侵食を抑制できるとしている。しかしながら、亜結晶粒残存によるろうの侵食を抑制することについては考慮されていない。また、素材の強度を低下させるための金属組織についても記載されていない。
【0005】
ろう付加熱時における残存亜結晶粒によるろうの侵食を抑制したブレージングシートの提案としては、特許文献2に記載されるような技術が知られている。この技術では、心材の均質化処理を500〜620℃で行い、更に最終焼鈍の条件を詳細に規定することにより析出物を粗大化させ、ろう付加熱時における亜結晶粒の残存を防止するとしている。しかしながら、均質化処理の条件としては温度が記載されているのみであり、保持時間や昇温・冷却の条件については何ら記載されておらず、また、均質化処理により得られる具体的な金属組織についても何ら記載されていない。
【0006】
また、ブレージングシートの薄肉化に伴い、耐食性に対する要求も増している。ブレージングシートの防食としては、通常、Al−Zn系合金を犠牲材としてクラッドしたものが用いられる。しかしながら、熱交換器の構造によっては、ろう材に犠牲防食効果を持たせる必要が生じる場合がある。従来、このような場合には、Znを添加したAl−Si系ろう材をクラッドしたブレージングシートを用いて熱交換器を構成していた。Al−Si系合金としては、通常、10%程度のSiを添加したA4045合金などが用いられる。しかしながら、これにZnを添加してもろう付時において添加Znのほとんどが流動してしまい、ろう付後に残存するZn量が少なくなってしまう問題があった。
【0007】
このような問題に対して、特許文献3および4に記載されるような技術が知られている。すなわち、Siの添加量を3〜6%程度に低減し、その一部はろうとして流動させ残りは固体のまま残存させることにより、従来よりも優れた耐食性を発揮させるものである。しかしながら、このような技術によるブレージングシートでは、ろう材の粒界に溶融ろうが生成するため、ろう付後に腐食環境に晒されると粒界が局部腐食し、残存したろう材の結晶粒が脱落してしまうという問題が残った。
【0008】
具体的には、特許文献3に記載される技術では、ろう付後のAl−Si系合金クラッド層の結晶粒径や、それを制御するための製造方法については何ら記載されていない。このように、Al−Si系合金クラッド層の粒界腐食という問題については全く認識されておらず、その解決策を何ら教示、示唆するものではない。
【0009】
また、特許文献4に記載される技術では、Al−Si系合金クラッド層におけるSi粒子のサイズや数密度について詳細に記載されている。しかしながら、これらは耐エロージョン・コロージョン性やろう付性の向上を目的としたものであり、Al−Si系合金クラッド層の粒界腐食を防止するためのものではない。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法の実施の態様について、以下に詳細に説明する。ろう付時の加熱条件は、通常600℃程度まで加熱した後に空冷することにより行なわれるものであって、加熱の方法、加熱速度や冷却速度、保持時間などについては特に制限されるものではない。
【0027】
まず、第1発明に係るアルミニウム合金ブレージングシート(以下、単に「アルミニウム合金ブレージングシート」と記す)について説明する。このアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金の心材と、その少なくとも一方の面にクラッドされたAl−Si系合金のろう材とから構成される。
【0028】
A.合金成分
第1発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートを構成する心材とろう材の成分元素の添加理由とその含有量について説明する。
【0029】
1.心材
心材のアルミニウム合金は、Si、Fe、Cu及びMnを必須元素とし、Mg、Ti、Zr、Cr及びVを選択的添加元素として含有する。
Siは、MnとともにAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.2mass%(以下、単に「%」と記す)の範囲である。0.05%未満では高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、1.2%を超えると心材の融点が低下して溶融する。Siの好ましい含有量は、0.05〜1.0%である。
【0030】
Feは、再結晶核となり得るサイズの金属間化合物を形成し易い。ろう付後の結晶粒径を粗大にしてろう拡散を抑制するためには、Feの含有量は、0.05〜1.0%である。含有量が0.05%未満では高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となり、1.0%を超えるとろう付後の結晶粒径が微細となり、ろうが拡散してきてこれに侵食される。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.5%である。
【0031】
Cuは、固溶強化により強度を向上させる。Cuの含有量は、0.05〜1.2%の範囲である。含有量が0.05%未満ではその効果が小さく、1.2%を超えるとアルミニウム合金が鋳造時に割れを発生する可能性が高くなる。Cuの好ましい含有量は、0.3〜1.0%である。
【0032】
Mnは、SiとともにAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。Mnの含有量は、0.6〜1.8%である。含有量が0.6%未満ではその効果が小さく、1.8%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性を低下させる。Mnの好ましい含有量は、0.8〜1.6%である。
【0033】
Mgは、Mg
2Siの析出により強度を向上させるので含有させるのが好ましい。Mgの含有量は、0.05〜0.5%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果が小さい場合があり、0.5%を超えるとろう付が困難となる場合がある。Mgのより好ましい含有量は、0.15〜0.4%である。
【0034】
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させるのが好ましい。Tiの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果が得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Tiのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0035】
Zrは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Zr系の金属間化合物が析出してろう付後の結晶粒粗大化に作用するので含有させるのが好ましい。Zrの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Zrのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0036】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物が析出してろう付後の結晶粒粗大化に作用するので含有させるのが好ましい。Crの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Crのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0037】
Vは、固溶強化により強度を向上させるので含有させるのが好ましい。Vの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Vのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0038】
これらMg、Ti、Zr、Cr及びVの選択的添加元素は、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。また、これら選択的添加元素の他に不可避的不純物を各々0.05%以下、全体で0.15%以下含有していてもよい。
【0039】
2.ろう材
ろう材のアルミニウム合金は、Si及びFeを必須元素とし、Zn、Ti、Zr、Cr及びVを選択的添加元素として含有する。
Siは材料の融点を低下させて液相を生じ、ろう付けを可能にする。Siの含有量は、2.5〜13%である。2.5%未満では、生じる液相は僅かでありろう付けが機能し難くなる。一方、13%を超えると、例えばフィンなどの相手材へ拡散するSi量が過剰となり、相手材が溶融するエロージョンが生じてしまう。Siの好ましい含有量は、3.5〜12%であり、更に好ましい含有量は7.0〜12%である。
【0040】
Feは、Al−Fe系やAl−Fe−Si系の化合物を形成し易い。Al−Fe−Si系化合物の形成によりろう材の有効Si量を低下させる。また、Al−Fe系やAl−Fe−Si系の化合物の形成によりろう付時におけるろうの流動性を低下させ、ろう付性を阻害する。このため、Feの含有量は、0.05〜1.0%とする。Fe含有量が1.0%を超えると、上述のようにろう付性を阻害してろう付性が不十分となる。一方、Fe含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならなくなってコスト高を招く。Feの好ましい含有量は、0.1〜0.8%である。
【0041】
Znは、電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上できるので含有させるのが好ましい。Znの含有量は、0.5〜5.5%が好ましい。Zn含有量が0.5%未満ではその効果が十分でない場合があり、5.5%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲陽極材が消失して耐食性が低下する。Znのより好ましい含有量は、0.5〜3.0%である。
【0042】
Tiは、固溶強化により強度を向上させるので含有させるのが好ましい。Tiの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果が得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Tiのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0043】
Zrは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Zr系の金属間化合物が析出してろう付後の結晶粒粗大化に作用するので含有させるのが好ましい。Zrの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Zrのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0044】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物が析出してろう付後の結晶粒粗大化に作用するので含有させるのが好ましい。Crの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Crのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0045】
Vは、固溶強化により強度を向上させるので含有させるのが好ましい。Vの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、塑性加工性を低下させる場合がある。Vのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0046】
これらZn、Ti、Zr、Cr及びVの選択的添加元素は、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。また、これら選択的添加元素の他に不可避的不純物を各々0.05%以下、全体で0.15%以下含有していてもよい。
【0047】
B.金属組織
次に、本発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートは心材の金属組織に関し、ろう付前において、0.01μm以上0.1μm未満の金属間化合物の分布密度が10
4〜5×10
5個/mm
2、0.1μm以上1μm未満の金属間化合物の分布密度が10
4〜5×10
6個/mm
2、1μm以上の金属間化合物の分布密度が5×10
3個/mm
2以上に限定される。その限定理由について、以下に説明する。なお、ここでの金属間化合物のサイズは円相当直径を指す。
【0048】
ブレージングシートに優れた成形性を付与するには、製造工程において中間焼鈍を行ってから冷間圧延により最終板厚に達するまでの圧延率を低くする。これにより、素材の状態における強度が低くなり、優れた成形性が得られる。しかしながら、圧延率が低過ぎるとろう付時に亜結晶粒が残存し、心材へのろうの侵食が生じる。心材へのろうの侵食が生じると、ろうの流動性が低下してろう付性が阻害される。更に、腐食環境に晒された場合には、ろうの侵食部分が粒界腐食を起こして耐食性も低下させる。一方、圧延率が高過ぎると素材での強度が高くなり、優れた成形性を得ることが出来ない。よって、同じ圧延率でもろう付時に亜結晶粒が残存し難く、なおかつ素材の強度が低い心材組織を得ることが必要となる。
【0049】
この点に関して、本発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、心材において1μm以上の金属間化合物はろう付時の心材の再結晶を促進するものであり、一方、1μm未満の金属間化合物はろう付時の心材の再結晶を抑制するものであり、しかも素材の状態での強度を増加させるものであることを見出した。
【0050】
本発明者らは、この点について更に詳細な検討をしたところ、1μm未満の金属間化合物の分布密度は低い方がよく、0.01μm以上0.1μm未満の金属間化合物の分布密度が5×10
5個/mm
2以下、0.1μm以上1μm未満の金属間化合物の分布密度が5×10
6個/mm
2以下であるとき、心材へのろうの侵食が抑制され、しかも素材の状態での強度は低く、優れた成形性及び耐食性を得ることができることが判明した。0.01μm以上0.1μm未満の金属間化合物の分布密度が5×10
5個/mm
2を超える場合、或いは、0.1μm以上1μm未満の金属間化合物の分布密度が5×10
6個/mm
2を超える場合は、心材へのろうの侵食が発生し易く、しかも素材での強度が高くなり、優れた成形性及び耐食性を得ることは出来ない。
【0051】
なお、成形性の面から1μm未満の金属間化合物の分布密度に下限値を設けるものではない。しかしながら、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの成分では、1μm未満の金属間化合物を全く無くすことは困難である。実際には、0.01μm以上0.1μm未満の金属間化合物、並びに、0.1μm以上1μm未満の金属間化合物は、少なくとも10
4個/mm
2の分布密度を有する。
【0052】
一方、1μm以上の金属間化合物は、ろう付時の心材の再結晶を促進し心材へのろう侵食を抑制するものなので、その分布密度は高い方がよい。分布密度が10
3個/mm
2以上であるとき、心材へのろうの侵食が抑制されることが判明した。分布密度が10
3個/mm
2未満の場合は、心材へのろうの侵食が生じ易くなるい。なお、1μm以上の金属間化合物のより好ましい分布密度は、5×10
3個/mm
2以上である。
【0053】
C.ろう材の板厚方向における平均結晶粒径
次に、前記ろう材がZnを含有する場合に、ろう付された後の状態において残存するろう材の板厚方向における平均結晶粒径が、このろう材のクラッド厚さの80%以上である場合に、特に優れた耐食性を有することも判明した。その理由を以下に説明する。
【0054】
既に述べたように、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートはろう付によりろう材の粒界に溶融ろうが生成するため、ろう付後に腐食環境に晒されると粒界が局部腐食する。ろう付後のろう材の板厚方向における平均結晶粒径(以下、「板厚方向における平均結晶粒径」を単に「結晶粒径」と記す)が、このろう材のクラッド厚さの80%以下の場合には、板厚方向においてろう材とろう材の界面、或いは、ろう材と心材との界面に粒界が多く存在する。そのため、粒界腐食による結晶粒の脱落が生じ易くなる。その結果、ろう材が早期に消失してしまい、十分な耐食性を得ることができない。なお、ろう付後におけるろう材の結晶粒径がこのろう材のクラッド厚さの80%以上である場合には、粒界腐食による結晶粒の脱落が抑制され十分な耐食性を得ることができる。ろう付後のろう材の好ましい結晶粒径は、このろう材のクラッド厚さの90%以上である。
【0055】
次に、第2発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートについて説明する。このアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金の心材と、その両面にクラッドされたAl−Si系合金のろう材とから構成される。第1発明と相違するのは、心材の少なくとも一方の面にクラッドされるAl−Si系合金のSi含有量の上限が7.0%と少なく、Znを必須元素として含有し、上述のろう材の板厚方向における平均結晶粒径を発明の構成要件として規定していることである。以下に、第1発明と相違する部分を中心に説明する。
【0056】
A.合金成分
1.心材
心材のアルミニウム合金はその添加理由及び含有量において、第1発明におけるものと同じである。
【0057】
2.ろう材
ろう材のアルミニウム合金は、Si、Fe及びZnを必須元素とし、Zn、Ti、Zr、Cr及びVを選択的添加元素として含有する。Fe、Zn、Ti、Zr、Cr及びVについてはその添加理由及び含有量、ならびに、不可避的不純物において第1発明におけるものと同じである。
【0058】
第2発明では、ろう材に犠牲陽極効果を積極的に持たせるために、Znを必須元素として含有する。Znの含有量は、0.5〜5.5%である。Zn含有量が0.5%未満ではその効果が十分でなく、5.5%を超えると、腐食速度が速くなり早期に犠牲陽極材が消失して耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、0.5〜3.0%である。
【0059】
Siの添加理由は、第1発明におけるのと同じであるが、その含有量は2.5〜7.0%である。ろう材に犠牲陽極効果を持たせる場合には、ろう付時に液相を生じさせるとともに、一部は固相として残存させることが好ましい。この場合のSi含有量は2.5〜7.0%であり、好ましくは2.5〜6.0%である。
【0060】
B.金属組織
金属組織については、上述の第1発明と同じである。
【0061】
C.ろう材の板厚方向における平均結晶粒径
この第2発明では、ろう材がZnを必須元素として含有するので、ろう付された後の状態において残存するろう材の板厚方向における平均結晶粒径が、このろう材のクラッド厚さの80%以上であることを発明の構成要件として規定される。ろう材の板厚方向における平均結晶粒径をこのろう材のクラッド厚さの80%以上とした理由については、第1発明と同じである。
【0062】
次に、第3発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートについて説明する。このアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金の心材と、その一方の面にクラッドされたAl−Si系合金のろう材と、その他方の面にクラッドされた犠牲陽極材から構成される。第1発明と相違するのは、ブレージングシートが犠牲陽極材を備えていることである。以下に、第1発明と相違する部分を中心に説明する。
【0063】
A.合金成分
1.心材
心材のアルミニウム合金はその添加理由及び含有量において、第1発明におけるものと同じである。
【0064】
2.ろう材
ろう材のアルミニウム合金もその添加理由及び含有量において、第1発明におけるものと同じである。
【0065】
3.犠牲陽極材
熱交換器の使用環境においてブレージングシートに高い耐食性が求められる場合には、心材の片面に犠牲陽極材がクラッドしたものが用いられる。犠牲陽極材のアルミニウム合金は、Zn、Si及びFeを必須元素とし、Mn、Mg、Ti、Zr、Cr及びVを選択的添加元素として含有する。
【0066】
Znは、電位を卑にすることができ、心材との電位差を形成することで犠牲陽極効果により耐食性を向上できる。Znの含有量は、1.0〜6.0%である。Zn含有量が1.0%未満ではその効果が十分ではなく、6.0%を超えると腐食速度が速くなり早期に犠牲陽極材が消失し、耐食性が低下する。Znの好ましい含有量は、2.0〜5.0%である。
【0067】
Siは、Fe、MnとともにAl−Fe―Mn−Si系の化合物を形成し、分散強化により強度を向上させ、或いは、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させる。また、ろう付時に心材から拡散してくるMgと反応してMg
2Si化合物を形成することで強度を向上させる。Siの含有量は、0.05〜1.5%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、1.5%を超えると犠牲陽極材の融点が低下して溶融してしまい、また犠牲陽極材の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる。Siの好ましい含有量は、1.2%以下である。
【0068】
Feは、Si、MnとともにAl−Fe―Mn−Si系の化合物を形成し、分散強化により強度を向上させる。Feの含有量は、0.05〜2.0%である。含有量が0.05%未満では、高純度アルミニウム地金を使用しなければならずコスト高となる。一方、2.0%を超えると鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり、割れが発生したりして塑性加工性を低下させる。Feの好ましい含有量は、1.5%以下である。
【0069】
Mnは、強度と耐食性を向上させるので含有させるのが好ましい。Mnの含有量は、1.8%以下が好ましい。含有量が1.8%を超えると、鋳造時に巨大金属間化合物が形成され易くなり塑性加工性を低下させる場合がある。また、犠牲陽極材の電位を貴にするため、犠牲陽極効果を阻害して耐食性を低下させる場合がある。Mnのより好ましい含有量は、1.5%以下である。
【0070】
Mgは、Mg
2Siの析出により強度を向上させるので含有させるのが好ましい。犠牲陽極材自身の強度を向上させるのみでなく、ろう付加熱により心材へMgが拡散して心材の強度も向上させる。Mgの含有量は、0.5〜3.0%が好ましい。含有量が0.5%未満ではその効果が小さい場合があり、3.0%を超えると熱間クラッド圧延時の圧着が困難となる。Mgのより好ましい含有量は、0.5〜2.0%である。
【0071】
Tiは、固溶強化により強度を向上させ、また耐食性の向上も図れるので含有させるのが好ましい。Tiの含有量は、0.02〜0.3%が好ましい。含有量が0.02%未満ではその効果が得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、割れが発生したりして塑性加工性を低下させる場合がある。Tiのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0072】
Zrは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Zr系の金属間化合物が析出してろう付後の結晶粒粗大化に作用するので含有させるのが好ましい。Zrの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、割れが発生したりして塑性加工性を低下させる場合がある。Zrのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0073】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、またAl−Cr系の金属間化合物が析出してろう付後の結晶粒粗大化に作用するので含有させるのが好ましい。Crの含有量は、0.05〜0.3%が好ましい。含有量が0.05%未満ではその効果は得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、割れが発生したりして塑性加工性を低下させる場合がある。Crのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0074】
Vは、固溶強化により強度を向上させ、また耐食性の向上も図れるので含有させるのが好ましい。Vの含有量は、0.02〜0.3%が好ましい。含有量が0.02%未満ではその効果が得られない場合があり、0.3%を超えると巨大金属間化合物を形成し易くなり、割れが発生したりして塑性加工性を低下させる場合がある。Vのより好ましい含有量は、0.1〜0.2%である。
【0075】
これらMn、Mg、Ti、Zr、Cr及びVの選択的添加元素は、心材中に必要により少なくとも1種が添加されていればよい。また、これら選択的添加元素の他に不可避的不純物を各々0.05%以下、全体で0.15%以下含有していてもよい。
【0076】
B.金属組織、ならびに、C.ろう材の板厚方向における平均結晶粒径
金属組織、ならびに、ろう材の板厚方向における平均結晶粒径については、上述の第1発明と同じである。
【0077】
次に、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法として、まず第1発明及び第2発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法について説明する。
【0078】
第1、2発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造工程は、前記心材及びろう材のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造された心材鋳塊を均質化する工程と、均質化した心材鋳塊の少なくとも一方の面に鋳造されたろう材をクラッドする工程と、クラッドしたクラッド材を熱間圧延する工程と、熱間圧延したクラッド材を冷間圧延する工程であって、その途中において300〜450℃の温度での中間焼鈍が1回以上施される冷間圧延工程を含むものである。冷間圧延工程の途中で中間焼鈍が1回施される場合は、第1の冷間圧延段階と中間焼鈍とを順次経て、最終冷間圧延段階である第2の冷間圧延段階が実施される。また、中間焼鈍が2回施される場合は、第1の冷間圧延段階と、第1の中間焼鈍と、第2の冷間圧延段階と、第2の中間焼鈍とを順次経て最終冷間圧延段階である第3の冷間圧延段階が実施される。中間焼鈍が3回以上施される場合も同様に、各中間焼鈍を挟んで冷間圧延段階が実施される。
【0079】
ここで、最終板厚まで冷間圧延する工程、すなわち、最終冷間圧延段階において、圧延率が10〜30%に限定される。その限定理由について、成形性及び耐食性の観点から説明する。
【0080】
本発明のブレージングシートが優れた成形性を有するためには、上記の最終冷間圧延段階において最終板厚に達するまでの圧延率を低くすることが必要となる。圧延率が30%以下の場合において、ブレージングシートは素材の状態での強度が低くなり優れた成形性を示す。圧延率が30%より大きい場合には、ブレージングシートは素材の状態での強度が高く、優れた成形性を示さない。また、圧延率が10%未満の場合には、心材の金属組織が前述の条件を満たしていても、ろう付時において亜結晶粒が残存して心材へのろう侵食が生じてしまう。
【0081】
一方、耐食性の観点からは既に述べたように、ろう付後におけるろう材の結晶粒径がこのろう材のクラッド厚さより大きい場合に優れた耐食性を示す。本発明者らは、結晶粒径と圧延率の関係について詳細な検討を重ねた。その結果、圧延率が30%以下の場合のみ、ろう材のろう付後における結晶粒径がこのろう材のクラッド厚さより大きくなることを見出した。圧延率が30%を超えると、ろう材の粒界腐食によって結晶粒が脱落し、優れた耐食性を得ることができない。一方、圧延率が10%未満の場合は、心材の再結晶を誘起するためのひずみが十分でなくろう付時において心材が再結晶しないため、心材へのろう侵食が発生してしまう。その結果、心材において粒界腐食が発生するため、優れた耐食性を得ることができない。なお、より好ましい圧延率は10〜25%である。また、中間焼鈍の温度は300〜550℃が好ましい。300℃未満では心材が完全に再結晶しない場合があり、550℃を超えるとろう材が溶融する場合がある。中間焼鈍にはバッチ式の炉を用いてもよいし、連続式の炉を用いてもよい。バッチ式の炉を用いる場合、中間焼鈍の保持時間は1〜10時間が好ましい。1時間未満では心材が完全に再結晶しない場合があり、10時間を超えるとコスト高となる。
【0082】
次に、前記心材鋳塊を加熱する均質化工程において、その加熱条件と冷却条件が詳細に限定されているが、その限定理由について説明する。
【0083】
既に述べたように、本発明のブレージングシートでは、心材の金属組織において1μm未満の微細な金属間化合物を少なく存在させ、1μm以上の粗大な化合物を多く存在させるものである。このような金属組織を得るためには、均質化工程における加熱保持温度が高い方が好ましい。この加熱保持温度が580℃以上の場合には心材の金属組織は前述の条件を満たすが、580℃未満では条件を満たさない。一方、均質化工程の加熱保持温度が620℃を超えると、心材鋳塊が局部溶融する虞がある。また、加熱保持時間は1時間以上20時間以下である。1時間未満では金属間化合物を粗大化させる効果が不十分となり、一方、20時間を超えるとコスト高となる。
【0084】
また、昇温及び冷却の過程においては、500℃未満の温度領域では微細な金属間化合物が生成されるため、この温度領域における昇温及び冷却の速度はできるだけ速くする必要がある。昇温時においては、心材鋳塊の加熱開始から心材鋳塊の温度が400℃に達するまでの昇温速度を60℃/h以上とし、心材鋳塊の温度が400℃を超えてから500℃に達するまでの昇温速度を30℃/h以上とした。一方、冷却時においては、心材鋳塊の温度が500℃を下回ってから400℃に達するまでの冷却速度を30℃/h以上とした。このような、昇温速度及び冷却速度とすることにより、1μm未満の微細な金属間化合物を少なく存在させることができる。
【0085】
一方、500℃以上の温度領域では微細な金属間化合物はマトリックス中に再固溶し、粗大な金属間化合物はより大きく成長するため、この温度領域における昇温及び冷却の速度はできるだけ遅くする必要がある。昇温時においては、心材鋳塊の温度が500℃を超えてから加熱保持温度に達するまでの昇温速度を30℃/h以下とし、冷却開始から心材鋳塊の温度が500℃に達するまでの冷却速度を30℃/h以下とした。このような昇温速度及び冷却速度とすることにより、1μm未満の微細な金属間化合物を少なく存在させ、かつ、1μm以上の粗大な金属間化合物を多く存在させることができる。
以上の限定条件により本発明のアルミニウム合金ブレージングシートを製造した場合には、金属組織が前述の条件を満たし、優れた成形性と耐食性が達成される。
【0086】
なお、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造工程においては、最終の板厚まで冷間圧延工程にかけた後に、更なる成形性の向上を目的として仕上焼鈍工程にかけても良い。仕上焼鈍工程は、150〜550℃で行うのが好ましい。150℃未満では成形性向上の効果が少なく、550℃を超えるとろう材が溶融する虞がある。また、本発明のアルミニウム合金ブレージングシートの厚さ、ろう材層や犠牲陽極材層のクラッド率には特に制限はない。通常、自動車用熱交換器のチューブ材として用いる場合は、0.6mm以下の薄肉ブレージングシートとすることが多い。但し、この範囲内の板厚に限定されるものではなく、数mm程度の比較的厚肉の材料として使用することも可能であることは勿論である。また、ろう材層の片面クラッド率は、通常3〜25%程度である。
【0087】
次に、第3発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法について説明する。
【0088】
第3発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造工程は、前記心材、ろう材及び犠牲陽極材のアルミニウム合金をそれぞれ鋳造する工程と、鋳造された心材鋳塊を均質化する工程と、均質化した心材鋳塊の一方の面に鋳造されたろう材を、他方の面に鋳造された犠牲陽極材をそれぞれクラッドする工程と、クラッドしたクラッド材を熱間圧延する工程と、熱間圧延したクラッド材を冷間圧延する工程であって、その途中において300〜450℃の温度での中間焼鈍が1回以上施される冷間圧延工程を含むものである。冷間圧延工程における冷間圧延段階と中間焼鈍については、第1及び第2の発明と同じである。
【0089】
第3発明のアルミニウム合金ブレージングシートの製造工程が、第1、2のアルミニウム合金ブレージングシートの製造工程と相違する点は、犠牲陽極材のアルミニウム合金を鋳造する工程を含み、クラッド工程において、鋳造された犠牲陽極材が均質化された心材鋳塊の他方の面にクラッドされることである。
【0090】
冷間圧延工程における最終冷間圧延段階での圧延率の限定事項、ならびに、心材鋳塊を加熱する均質化工程における加熱条件と冷却条件の限定事項については、第1、第2発明に係るアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法におけるのと同じである。
【実施例】
【0091】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0092】
本発明例1〜13及び35〜44、ならびに、比較例14〜34及び45〜61
表1に示す合金組成を有する心材合金、表2に示す合金組成を有するろう材合金、表3に示す合金組成を有する犠牲陽極材をそれぞれDC鋳造により鋳造し、心材合金については表4に示す条件にて均質化処理を施し、各々両面を面削して仕上げた。なお、表4において、鋳塊の温度が400℃に達するまでの昇温速度を「A」欄に示し、鋳塊の温度が400℃を超えてから500℃に達するまでの昇温速度を「B」欄に示し、鋳塊の温度が500℃を超えてから加熱保持温度に達するまでの昇温速度を「C」欄に示し、冷却を開始してから鋳塊の温度が500℃に達するまでの冷却速度を「D」欄に示し、鋳塊の温度が500℃を下回ってから400℃に達するまでの冷却速度を「E」欄に示した。また、保持時の到達温度と保持時間についても表4に記載した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
これらの合金を用い、第1発明及び第2発明の実施例では、心材の一方の面には皮材1として表2のろう材を組み合わせ、他方の面には皮材2として表2のろう材を組み合わせた。なお、皮材2を組み合わせず2層材としたものもある。また、第3発明の実施例では、心材の一方の面には皮材1として表2のろう材を組み合わせ、他方の面には皮材2として表3の犠牲陽極材を組み合わせた。クラッド率は、片面でいずれも10%とした。これらの合わせ材を、530℃で3時間の条件で熱間圧延工程にかけ、3.5mmの2層又は3層のクラッド材を作製した。熱間圧延開始時の材料温度は510℃であった。このようにして作製したクラッド材を冷間圧延工程にかけた。冷間圧延工程では、まず第1の冷間圧延段階を実施し、次いで中間焼鈍(条件:400℃にて5時間保持)を施し、更に第2の冷間圧延段階である最終冷間圧延段階を実施して、最終的にH1n調質の板厚0.4mmのブレージングシート試料を作製した。各ブレージングシート試料の心材、皮材1、皮材2の組合せ、表4に示す製造工程、製造性、ならびに、中間焼鈍後の最終冷間圧延段階における圧延率を表5、6に示す。また、製造工程において特に問題が発生せず、0.4mmの最終板厚まで圧延できたものは製造性を合格(○)とし、製造中に犠牲陽極材の過剰な伸びや、心材と犠牲陽極材との圧着不良が生じたものは製造性が不合格(×)とした。
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
これらのブレージングシート試料を下記の各評価に供した結果を、表7、8に示す。
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
(金属間化合物の存在密度の測定)
各ブレージングシート試料の心材部分についてL−LT面を研磨により薄膜化し、走査型透過電子顕微鏡(STEM)観察を行うことにより調べた。この際、電子分光装置(EELS)を用いて観察部の膜厚を測定し、膜厚が0.1〜0.15μmの箇所でのみSTEM観察を行って、各サンプル1000倍の倍率で10視野ずつ観察し、それぞれの視野のSTEM写真を画像解析することによって、各サイズの金属間化合物の密度を求めた。なお、表7、8に示す金属間化合物の分布密度は、それぞれ10視野より求めた値の平均値で表した。
【0104】
(ろう材の結晶粒径の測定)
各ブレージングシート試料のL−ST面を研磨で面出ししてケラー氏液でエッチングを施し、合金成分の違いによるコントラストの差異を顕微鏡で観察することにより、皮材1のクラッド厚さAを測定した。一方、600℃で3分間のろう付加熱に供した同じブレージングシート試料のL−ST面を研磨で面出ししてバーカー氏液を用いて陽極酸化させ、偏光をかけた顕微鏡で観察し、ろう材の厚さ方向における平均結晶粒径Bを測定した。観察倍率は100倍とし、3視野におけるろう材の全結晶粒の平均を取って平均結晶粒径とした。得られたA、Bより(B/A)×100の値を算出し、これが80%以上の場合を合格(○)、それ未満の場合を不合格(×)とした。なお、評価は皮材1にZnが添加されている試料についてのみ実施した。
【0105】
(ブレージングシートの引張強さと破断延びの測定)
各ブレージングシート試料を、引張速度10mm/分、ゲージ長50mmの条件で、JIS Z2241に従って引張試験に供した。得られた応力−ひずみ曲線から引張強さと破断伸びを読み取った。その結果、引張強さが200MPa以下で、かつ、破断伸びが5.0%以上の場合を合格とし、これ以外の場合を不合格とした。
【0106】
(ろう付後の引張強さの測定)
ブレージングシート試料に代えて、600℃で3分間のろう付加熱に供したろう付加熱後の試料について、ろう付前のブレージングシート試料と同様にして応力−ひずみ曲線から引張強さを読み取った。引張強さが130MPa以上の場合を合格とし、これ以外の場合を不合格とした。
【0107】
ろう付性の評価
3003合金をコルゲート成形によりフィンに加工して、ブレージングシート試料のろう材面と組合せ、5%のフッ化物フラックス水溶液中に浸漬し、600℃で3分間のろう付加熱に供した。この試験コアのフィン接合率が95%以上であり、かつ、ろう付後の試料の溶融及び心材へのろう侵食が生じていない場合をろう付性が合格(○)とし、フィン接合率が95%未満又はろう付後の試料に溶融が生じた場合をろう付性が不合格(×)とした。なお、心材へのろう侵食の有無は、ろう付加熱した試料の断面を研磨で面出しし、ケラー氏液でエッチングして顕微鏡で観察することにより判断した。
【0108】
腐食深さの測定
ブレージングシート試料に600℃で3分間の熱処理(ろう付加熱に相当)を施した後、50mm×50mmに切り出し、試験面の逆側を樹脂によってマスキングした。ここで、ろう材の耐食性は、Znが添加されているろう材面を試験面として試験した。なお、Znが添加されているろう材がいずれの面にも設けられていない場合には、ろう材の耐食性評価を行なわなかった。犠牲陽極材の耐食性は、犠牲陽極材面を試験面として試験した。試験面がろう材の場合は、ASTM−G85に基づいてSWAAT試験に供し、1000時間で腐食貫通の生じなかったものを合格(◎)、500時間以上1000時間未満で腐食貫通の生じたものも合格(○)、500時間未満で腐食貫通の生じたものを不合格(×)とした。試験面が犠牲陽極材の場合は、Cl
−500ppm、SO
42−100ppm、Cu
2+10ppmを含有する88℃の高温水中で8時間、室温放置16時間を1サイクルとするサイクル浸漬試験を3ヶ月間実施し、腐食貫通の生じなかったものを合格(○)、生じたものを不合格(×)とした。
【0109】
本発明例1〜13及び35〜44では、本発明で規定する条件を満たしており、製造性、ブレージングシートの引張強さ及び破断伸び、ろう付後の引張強さ、ろう付性、ならびに、犠牲陽極材の腐食深さ(耐食性)のいずれも合格であった。なお、ろう材に適切な量のZnを添加している本発明例1〜13、37〜44及び比較例14〜21及び23〜30については、ろう材面の耐食性についても優れており、本発明で規定する金属組織が得られている本発明例1〜13及び37〜43では、特にろう材面の耐食性が優れていた。なお、本発明例44、比較例20、21、29、30においても本発明で規定する金属組織が得られているが、本発明例44ではろう材のSi量が7%を超えているため、比較例20、29では圧延率が高すぎてろう材の結晶粒系がろう材クラッド厚さの80%より小さかったため、比較例21、30では圧延率が低すぎて心材へのろうの侵食が生じたため、ろう材面の耐食性が特に優れているとまでには至らなかった。
【0110】
比較例14及び23では、心材鋳塊の均質化処理の加熱において加熱を開始してから400℃に達するまでの昇温速度が遅過ぎたため、心材へのろう侵食が生じてろう付性が不合格であった。
比較例15及び24では、心材鋳塊の均質化処理の加熱において400℃を超えてから500℃に達するまでの昇温速度が遅過ぎたため、心材へのろう侵食が生じてろう付性が不合格であった。
比較例16及び25では、心材鋳塊の均質化処理の加熱において500℃に達してからの昇温速度が速過ぎたため、心材へのろう侵食が生じてろう付性が不合格であった。
比較例17及び26では、心材鋳塊の均質化処理における加熱保持温度が低過ぎたため、心材へのろう侵食が生じてろう付性が不合格であった。
比較例18及び27では、心材鋳塊の均質化処理の冷却において冷却を開始してから500℃に達するまでの冷却速度が速過ぎたため、心材へのろう侵食が生じてろう付性が不合格であった。
比較例19及び28では、心材鋳塊の均質化処理の冷却において500℃を下回ってから400℃に達するまでの冷却速度が遅過ぎたため、心材へのろう侵食が生じてろう付性が不合格であった。
比較例20及び29では、最終冷間圧延段階における圧延率が高過ぎたため、ブレージングシート素材の引張強さと伸びが不合格であった。
比較例21及び30では、最終冷間圧延段階における圧延率が低過ぎたため、圧延率が低すぎるため心材へのろう侵食が生じ、ろう付性が不合格であった。
比較例22では、心材鋳塊の均質化処理における加熱保持温度が高過ぎたため、心材鋳塊が局部溶解し心材が製造できなかった。
比較例31では、心材のSi成分が多過ぎたためろう付中に心材の溶融が起こり、ろう付性が不合格であった。
比較例32では、心材のFe成分が多過ぎたため心材へのろう侵食が生じ、ろう付性が不合格であった。
比較例33では、ろう材のFe成分が多過ぎたためフィンとの未接合が生じ、ろう付性が不合格であった。
比較例34では、ろう材のSi成分が多過ぎたためフィンの溶融が生じ、ろう付性が不合格であった。
【0111】
比較例45では、ろう材のZn成分が多過ぎたため、ろう材の耐食性が不合格であった。
比較例46では、ろう材のZn成分が少な過ぎたため、ろう材の耐食性が不合格であった。
比較例47では、心材のMg成分が多過ぎたためフィンとの未接合が生じ、ろう付性が不合格であった。
比較例48では、心材のTi、Cr、Zr、V成分が多過ぎたため圧延中に割れが生じ、材料を製造することができなかった。
比較例49では、心材のMn成分が多過ぎたため圧延中に割れが生じ、材料を製造することができなかった。
比較例50では、心材のCu成分が多過ぎたため鋳造中に割れが生じ、材料を製造することができなかった。
比較例51では、心材のMn成分が少な過ぎたため、ろう付後の引張強さが不合格であった。
比較例52では、心材のCu成分が少な過ぎたため、ろう付後の引張強さが不合格であった。
比較例53では、心材のSi成分が少な過ぎたため、ろう付後の引張強さが不合格であった。
比較例54では、ろう材のSi成分が少な過ぎたためフィンとの未接合が生じ、ろう付性が不合格であった。
比較例55では、ろう材のTi、Cr、Zr、V成分が多過ぎたため圧延中に割れが生じ、材料を製造することができなかった。
比較例56では、犠牲陽極材のSi成分が多過ぎたため、犠牲陽極材の耐食性が不合格であった。
比較例57では、犠牲陽極材のFe成分が多過ぎたため圧延中に割れが生じ、材料を製造することができなかった。
比較例58では、犠牲陽極材のMn、Ti、Cr、Zr、V成分が多過ぎたため圧延中に割れが生じ、材料を製造することができなかった。
比較例59では、犠牲陽極材のZn成分が少な過ぎたため、犠牲陽極材の耐食性が不合格であった。
比較例60では、犠牲陽極材のZn成分が多過ぎたため、犠牲陽極材の耐食性が不合格であった。
比較例61では、犠牲陽極材のMg成分が多過ぎたため熱間圧延において心材と犠牲材を圧着できず、材料を製造することができなかった。