【実施例】
【0009】
<1>前提条件
本発明の大屋根Aの構築方法は、アーチやドームを曲面鉄骨で組み立てる方法である。
大屋根Aは、平面が網目状でかつ断面がアーチ状の構造物である。
平面が網目状とは、例えばパイプを斜材として利用し、パイプの斜材を接点21で接続して三角形状、菱形状などの閉じた形状の連続体に組み立てて構成する。
【0010】
<2>単位アーチ材
本発明の大屋根Aは、単位アーチ材1の複数組を平行に並べて設置することによって構成する。
すなわち単位アーチ材1は、「かまぼこ状」あるいは「半球状」の大屋根Aを一定幅で平行に切断した形状の部材である。
具体的にはパイプを接続して「く」の字に構成し、この「く」の字を順次反転させて連続した平面形状を有し、かつ断面がアーチを形成するように製造したものが単位アーチ材1である。
このように1単位の単位アーチ材1は、「く」の字の反転連結部材であるから、単位アーチ材1自体では三角形状、菱形状などの閉じた形状を形成してはおらず、角度の変更点を接点21として隣接した単位アーチ材1を接続することによって三角形状や、菱形状などの閉じた形状を形成するものである。
断面がアーチであるとは、連続した曲線である場合だけでなく、直線部材を順次接合して多数の折れ曲げ点を設けた多角線も含む意味である。
また曲面鉄骨とは、同様に曲線材に限らず直線材を使用する場合も含む意味である。
単位アーチ材1は、アーチの曲面を横断する線で複数に分割した単位アーチ1b、すなわち分割片(
図3左端)を現場で接続して延長するように構成することもできる。
構造物の構築に際しては、以上の単位アーチ材1を複数組使用する。
【0011】
<3>単位アーチ材の設置
まず一組の単位アーチ材1の両端を支持することによって最初のアーチを完成させる。
単位アーチ材1の両側の端部は、アーチの曲率の調整が自由に行えるように例えばピン構造で固定する。
次に、最初に設置した単位アーチ材1に隣接して、第二の単位アーチ材1の曲面側の接点21を接する状態で設置する。
単位アーチ材1の隣接設置は、三角形状、菱形状などの閉じた形状の接点21に取り付けたプレート間でボルト、ナットで締結して行う。
単位アーチ材1は、前記したように、ひとつのアーチを、曲面を横断する線で複数に分割して構成することができる。
そうすれば、弧状を複数に分割した形状の単位アーチ1bを順次接続してゆくこともでき、一回に取り扱う部材も軽量となる。
また単位アーチ材1自体も三角形状や菱形状などの閉じた形状を形成していないため比較的軽量であり、組立ては軽作業ですむとともに短時間の簡易な作業となる。
そのため鉄道の営業線での夜間工事のように作業時間の短い現場での迅速な構築への適用が可能となる。
単位アーチ材1の新設は、外部に配置したクレーンで新設の単位アーチ材1を吊り上げて行う。
【0012】
<4>単位アーチ材の緊張
単位アーチ材1を2組隣接して配置したら、同一の単位アーチ材1ではなく、隣接する単位アーチ材1の間に緊張材2の両端を取り付ける。
ここで1つの単位アーチ材1の形状を最初に確定してから行ってもよい。
緊張材2は、いずれかの位置にジャッキを介在させるなどして、緊張力を調整できるように構成したワイヤや鋼棒である。
この緊張材2の取り付けは、隣接する単位アーチ材1のいずれかの接点21を自由に選択することができる。
例えば単位アーチ材1の端部付近を引き寄せたり緩めると、その頂部の扛上、扛下が容易である。
後述するように、この緊張材2は仮設材であって役目が終了したら撤去するから、単位アーチ材1のどの場所に連結しても最終的に構造物の利用空間を制限することがない。
【0013】
<5>緊張材の設置理由
緊張材2を設置する理由は次の通りである。
すなわち単位アーチ材1は、鉄骨の弦材を組み立てた簡易な三角形状や菱形状などを構成してあり、それ自体では閉ループを形成していない単位部材であるから、構築中の不安定な状態では変形を起こしやすい。これは閉ループを形成する部分が一部に混在していても同様である。
その場合に、変形に応じて緊張材2を緊張することによって単位アーチ材1の頂部の扛上、扛下を行い、曲率の調整を行う。
このように緊張材2によって扛上、扛下が可能であるから、従来のように支柱がなく、あるいは押し上げジャッキがなくとも、曲率の調整を行うことができる。
【0014】
<6>単位アーチ材の引き寄せ
前記したように、緊張材2の両端を取り付ける位置は、同一の単位アーチ材1の接点21間ではなく、隣接する単位アーチ材1の接点21の間である。
隣接する単位アーチ材1の間に緊張材2の端部を取り付けて緊張することによって、新設した単位アーチ材1aを、既設の単位アーチ材1の方向へ引き寄せることができる。
このように隣接する単位アーチ材1間の引き寄せを行って、新設した単位アーチ材1aを、先行して設置した単位アーチ材1側に引き寄せ、単位アーチ材1群の鉄骨の位置、形状、精度の確保を行う。
以上のような作業で、複数組の単位アーチ材1を順次隣接して接続してゆき、かまぼこ状、あるいはドーム状のアーチ構造物の一部が完成する。
【0015】
<7>補強フレームの取り付け
複数の単位アーチ材1の設置が終わったら、特定の単位アーチ材1の鉄骨間に補強フレーム3を取り付ける。
この補強フレーム3は、複数本の強固なパイプによって構成したトラスなどであって、変形に対する大きな抵抗をもった梁や立体トラスのような機能を持つ部材である。
この補強フレーム3を、単位アーチ材1の頂部付近の内側に、例えば斜材を介して取り付ける。
この取り付けは、左右に分けて複数で取り付けることも可能である。
補強フレーム3を構成するパイプは、軸線を中心とする回転を与えることによって伸縮が自在であるよう、ボルト、ナットの機能を与えたものである。
そしてこの補強フレーム3を複数組の単位アーチ材1の内のひとつの単位アーチ材1、あるいはすべての単位アーチ材1に取り付ける。
そして補強フレーム3のパイプを回転することによって長さを伸縮し、補強フレーム3の端部を取り付けた接点21を介して単位アーチ材1の曲率の修正を行い、単位アーチ材1の形状を不安定なものから、変形しがたい形状として確定する。
この補強フレーム3は、永久構造物としてアーチの頂部に近い内側に設置したまま残す。
【0016】
<8>緊張材の撤去
複数組の単位アーチ材1にひとつの補強フレーム3を取り付けたら、その後に隣接した単位アーチ材1間に配置した緊張材2を撤去する。
単位アーチ材1は緊張が開放されて変形する可能性があるが、補強フレーム3を取り付けた単位アーチ材1において、再度補強フレーム3の調整を行う。
その結果、複数の単位アーチ材1間で、正確なアーチ形状の維持を図ることができる。
【0017】
<9>工程の繰り返し
以上の工程を繰り返すことによって、かまぼこ状、ドーム状のアーチ構造物が完成する。
複数の単位アーチ材1の曲率を一定ではなく、その曲率を徐々に小さくして接続を連続して行けば、ドーム構造物を完成することができる。