特許第5913908号(P5913908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5913908
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】大屋根の構築方法およびその構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/32 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   E04B1/32 101A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-237514(P2011-237514)
(22)【出願日】2011年10月28日
(65)【公開番号】特開2013-96086(P2013-96086A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】高木 精一
(72)【発明者】
【氏名】山田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲
(72)【発明者】
【氏名】砂山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊也
(72)【発明者】
【氏名】佐治 聡
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−031524(JP,A)
【文献】 特開平08−158478(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/138141(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/32
E04B 7/08 − 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面がアーチあるいはドーム状の構造物を網目状、格子状の曲面鉄骨で組み立てる方法であって、
複数本の鉄骨で組み立てた、平面が「く」字の反転連続状、断面がアーチ状の一定幅の単位アーチ材を使用し、
この単位アーチ材を複数組使用し、
順次、単位アーチ材の曲面側が接する状態で隣接して設置し、
その後、隣接する単位アーチ材の間に緊張材を配置して緊張することによってアーチの曲率の調整と、単位アーチ材間の引き寄せを行い、
複数組の単位アーチ材を設置した後に、
特定の単位アーチ材の鉄骨間にトラスなどで構成した補強フレームを取り付けて、単位アーチ材の形状を確定し、
その後に隣接した単位アーチ材間に配置した緊張材を撤去し、
以上の工程を、複数組の単位アーチ材ごとに行って大屋根を完成させることを特徴とした、
大屋根の構築方法。
【請求項2】
断面がアーチあるいはドーム状の構造物を網目状、格子状の曲面鉄骨で組み立てた大屋根の構造であって、
この大屋根は、
単位アーチ材と、補強フレームと、撤去可能な緊張材より構成し、
単位アーチ材は、複数本の鉄骨で組み立てた、平面が「く」字の反転連続状、断面がアーチ状の一定幅の単位アーチ材の連続体であり、
緊張材は、隣接する単位アーチ材の間に配置する、ジャッキなどを介在させて緊張力を調整でき、かつ撤去可能に構成したワイヤや鋼棒であり、
補強フレームは、特定の単位アーチ材の鉄骨間に取り付ける、トラスなどで構成した伸縮自在のフレームであることを特徴とした、
大屋根の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面鉄骨で網目状、格子状に組み立てたアーチ、ドームのような曲面鉄骨の大屋根の構築方法およびその構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の格納庫や体育館のような大スパンの屋根を構築する方法として各種の方法が知られている。
その多くが中央にベントと称する支柱を立て、その支柱で下から支持した状態で鉄骨を組み立てて大屋根を構築するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−297473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の大屋根の構築方法にあっては、次のような問題点がある。
<1> その多くが中央にベントと称する支柱を立て、その支柱で下から支持して鉄骨を組み立てて大屋根を構築するものである。したがって使用中の鉄道の上にまたがって屋根を構築する場合など、中央に支柱の設置ができない場合には、そのような工法を採用することが困難である。
<2> 大屋根の構築中に自重で変形しやすく、その修正のために支柱や架台からジャッキで押し上げるような調整が必要である。そのような要求からも、ジャッキの反力が取れる支柱や架台が、構築が完了し大屋根の形状を確定させるまで必要となり、その下部空間を鉄道や道路に使用中の場合には構築が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の大屋根の構築方法は、断面がアーチあるいはドーム状の構造物を網目状、格子状の曲面鉄骨で組み立てる方法であって、複数本の鉄骨で組み立てた、平面が「く」字の反転連続状、断面がアーチ状の一定幅の単位アーチ材を使用し、この単位アーチ材を複数組使用し、順次、単位アーチ材の曲面側が接する状態で隣接して設置し、その後、隣接する単位アーチ材の間に緊張材を配置して緊張することによってアーチの曲率の調整と、単位アーチ材間の引き寄せを行い、複数組の単位アーチ材を設置した後に、特定の単位アーチ材の鉄骨間にトラスなどで構成した補強フレームを取り付けて、単位アーチ材の形状を確定し、その後に隣接した単位アーチ材間に配置した緊張材を撤去し、以上の工程を、複数組の単位アーチ材ごとに行って大屋根を完成させることを特徴としたものである。
また本発明の大屋根の構造は断面がアーチあるいはドーム状の構造物を網目状、格子状の曲面鉄骨で組み立てた大屋根の構造であって、 この大屋根は、単位アーチ材と、補強フレームと、撤去可能な緊張材より構成し、 単位アーチ材は、複数本の鉄骨で組み立てた、平面が「く」字の反転連続状、断面がアーチ状の一定幅の単位アーチ材の連続体であり、緊張材は、隣接する単位アーチ材の間に配置する、ジャッキなどを介在させて緊張力を調整でき、かつ撤去可能に構成したワイヤや鋼棒であり、補強フレームは、特定の単位アーチ材の鉄骨間に取り付ける、トラスなどで構成した伸縮自在のフレームであることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の大屋根の構築方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 軽量で撓みやすい単位アーチ材を、曲面側を隣接させて接続する方法であるから、取り扱うクレーンなどが簡易なものでよく、足場の悪い場所でも容易に構築を行うことができる。
<2> たわみやすい単位アーチ材を使用するが、単位アーチ材の接続中は、緊張材で緊張してアーチの曲率を調整しつつ、新設の単位アーチ材との接続を行う。そのためにアーチの変形が累積して増大することがない。
<3> 緊張材は、ひとつの単位アーチ材の内部にではなく、隣接する単位アーチ材との間に配置して緊張する。そのため新設の単位アーチ材を既設の単位アーチ材側に引き寄せる機能も果たし、常に引き締めながら構築するから、大屋根全体の構造が緩むことがない。
<4> 複数の単位アーチ材の接続の後に、特定の単位アーチ材に補強材を取り付けてその形状を確定し、その後に緊張材を撤去する。したがって緊張材は仮設材であって、完成後の屋根の空間の障害にはならず、広い空間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の大屋根の完成状態の説明図。
図2】構築中の説明図。
図3】平面から見た構築中の説明図。
図4】緊張材の取り付け状態の説明図。
図5】補強フレームの取り付け状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の大屋根の構築方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>前提条件
本発明の大屋根Aの構築方法は、アーチやドームを曲面鉄骨で組み立てる方法である。
大屋根Aは、平面が網目状でかつ断面がアーチ状の構造物である。
平面が網目状とは、例えばパイプを斜材として利用し、パイプの斜材を接点21で接続して三角形状、菱形状などの閉じた形状の連続体に組み立てて構成する。
【0010】
<2>単位アーチ材
本発明の大屋根Aは、単位アーチ材1の複数組を平行に並べて設置することによって構成する。
すなわち単位アーチ材1は、「かまぼこ状」あるいは「半球状」の大屋根Aを一定幅で平行に切断した形状の部材である。
具体的にはパイプを接続して「く」の字に構成し、この「く」の字を順次反転させて連続した平面形状を有し、かつ断面がアーチを形成するように製造したものが単位アーチ材1である。
このように1単位の単位アーチ材1は、「く」の字の反転連結部材であるから、単位アーチ材1自体では三角形状、菱形状などの閉じた形状を形成してはおらず、角度の変更点を接点21として隣接した単位アーチ材1を接続することによって三角形状や、菱形状などの閉じた形状を形成するものである。
断面がアーチであるとは、連続した曲線である場合だけでなく、直線部材を順次接合して多数の折れ曲げ点を設けた多角線も含む意味である。
また曲面鉄骨とは、同様に曲線材に限らず直線材を使用する場合も含む意味である。
単位アーチ材1は、アーチの曲面を横断する線で複数に分割した単位アーチ1b、すなわち分割片(図3左端)を現場で接続して延長するように構成することもできる。
構造物の構築に際しては、以上の単位アーチ材1を複数組使用する。
【0011】
<3>単位アーチ材の設置
まず一組の単位アーチ材1の両端を支持することによって最初のアーチを完成させる。
単位アーチ材1の両側の端部は、アーチの曲率の調整が自由に行えるように例えばピン構造で固定する。
次に、最初に設置した単位アーチ材1に隣接して、第二の単位アーチ材1の曲面側の接点21を接する状態で設置する。
単位アーチ材1の隣接設置は、三角形状、菱形状などの閉じた形状の接点21に取り付けたプレート間でボルト、ナットで締結して行う。
単位アーチ材1は、前記したように、ひとつのアーチを、曲面を横断する線で複数に分割して構成することができる。
そうすれば、弧状を複数に分割した形状の単位アーチ1bを順次接続してゆくこともでき、一回に取り扱う部材も軽量となる。
また単位アーチ材1自体も三角形状や菱形状などの閉じた形状を形成していないため比較的軽量であり、組立ては軽作業ですむとともに短時間の簡易な作業となる。
そのため鉄道の営業線での夜間工事のように作業時間の短い現場での迅速な構築への適用が可能となる。
単位アーチ材1の新設は、外部に配置したクレーンで新設の単位アーチ材1を吊り上げて行う。
【0012】
<4>単位アーチ材の緊張
単位アーチ材1を2組隣接して配置したら、同一の単位アーチ材1ではなく、隣接する単位アーチ材1の間に緊張材2の両端を取り付ける。
ここで1つの単位アーチ材1の形状を最初に確定してから行ってもよい。
緊張材2は、いずれかの位置にジャッキを介在させるなどして、緊張力を調整できるように構成したワイヤや鋼棒である。
この緊張材2の取り付けは、隣接する単位アーチ材1のいずれかの接点21を自由に選択することができる。
例えば単位アーチ材1の端部付近を引き寄せたり緩めると、その頂部の扛上、扛下が容易である。
後述するように、この緊張材2は仮設材であって役目が終了したら撤去するから、単位アーチ材1のどの場所に連結しても最終的に構造物の利用空間を制限することがない。
【0013】
<5>緊張材の設置理由
緊張材2を設置する理由は次の通りである。
すなわち単位アーチ材1は、鉄骨の弦材を組み立てた簡易な三角形状や菱形状などを構成してあり、それ自体では閉ループを形成していない単位部材であるから、構築中の不安定な状態では変形を起こしやすい。これは閉ループを形成する部分が一部に混在していても同様である。
その場合に、変形に応じて緊張材2を緊張することによって単位アーチ材1の頂部の扛上、扛下を行い、曲率の調整を行う。
このように緊張材2によって扛上、扛下が可能であるから、従来のように支柱がなく、あるいは押し上げジャッキがなくとも、曲率の調整を行うことができる。
【0014】
<6>単位アーチ材の引き寄せ
前記したように、緊張材2の両端を取り付ける位置は、同一の単位アーチ材1の接点21間ではなく、隣接する単位アーチ材1の接点21の間である。
隣接する単位アーチ材1の間に緊張材2の端部を取り付けて緊張することによって、新設した単位アーチ材1aを、既設の単位アーチ材1の方向へ引き寄せることができる。
このように隣接する単位アーチ材1間の引き寄せを行って、新設した単位アーチ材1aを、先行して設置した単位アーチ材1側に引き寄せ、単位アーチ材1群の鉄骨の位置、形状、精度の確保を行う。
以上のような作業で、複数組の単位アーチ材1を順次隣接して接続してゆき、かまぼこ状、あるいはドーム状のアーチ構造物の一部が完成する。
【0015】
<7>補強フレームの取り付け
複数の単位アーチ材1の設置が終わったら、特定の単位アーチ材1の鉄骨間に補強フレーム3を取り付ける。
この補強フレーム3は、複数本の強固なパイプによって構成したトラスなどであって、変形に対する大きな抵抗をもった梁や立体トラスのような機能を持つ部材である。
この補強フレーム3を、単位アーチ材1の頂部付近の内側に、例えば斜材を介して取り付ける。
この取り付けは、左右に分けて複数で取り付けることも可能である。
補強フレーム3を構成するパイプは、軸線を中心とする回転を与えることによって伸縮が自在であるよう、ボルト、ナットの機能を与えたものである。
そしてこの補強フレーム3を複数組の単位アーチ材1の内のひとつの単位アーチ材1、あるいはすべての単位アーチ材1に取り付ける。
そして補強フレーム3のパイプを回転することによって長さを伸縮し、補強フレーム3の端部を取り付けた接点21を介して単位アーチ材1の曲率の修正を行い、単位アーチ材1の形状を不安定なものから、変形しがたい形状として確定する。
この補強フレーム3は、永久構造物としてアーチの頂部に近い内側に設置したまま残す。
【0016】
<8>緊張材の撤去
複数組の単位アーチ材1にひとつの補強フレーム3を取り付けたら、その後に隣接した単位アーチ材1間に配置した緊張材2を撤去する。
単位アーチ材1は緊張が開放されて変形する可能性があるが、補強フレーム3を取り付けた単位アーチ材1において、再度補強フレーム3の調整を行う。
その結果、複数の単位アーチ材1間で、正確なアーチ形状の維持を図ることができる。
【0017】
<9>工程の繰り返し
以上の工程を繰り返すことによって、かまぼこ状、ドーム状のアーチ構造物が完成する。
複数の単位アーチ材1の曲率を一定ではなく、その曲率を徐々に小さくして接続を連続して行けば、ドーム構造物を完成することができる。
【符号の説明】
【0018】
A:大屋根
1:単位アーチ材
1a:新設する単位アーチ材
1b:分割した単位アーチ材
2:緊張材
21:接点
3:補強フレーム
図1
図2
図3
図4
図5