(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度調整工程は、落下した前記塊のうち少なくとも鉛直方向下側の部分を保持する保持部材を用いて前記塊を加熱する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
プレス成形開始時点における前記一対の型の温度は、前記ガラスの歪点以下の温度であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の磁気ディスク用ガラスブランクの製造方法。
前記磁気ディスク用ガラスブランクの主表面について50μm以下の取り代となるように加工を行うことで、磁気ディスク用ガラス基板を製造することを特徴とする、請求項15記載の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1の実施形態>
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
(磁気ディスクおよび磁気ディスク用ガラス基板)
まず、
図1を参照して、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクについて説明する。
図1(a)は、磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製される磁気ディスクの一例を示す概略構成図である。
図1(b)は、磁気ディスクの概略断面図である。
図1(c)は、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面を浮上する状態を示す図である。
【0034】
図1(a)に示されるように、磁気ディスク1はリング状であり、回転軸を中心として回転する。
図1(b)に示されるように、磁気ディスク1は、ガラス基板2と、少なくとも磁性層3A,3Bと、を備える。
なお、磁性層3A,3B以外には、例えば、図示されない付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層等が成膜される。付着層には、例えばCr合金等が用いられる。付着層は、ガラス基板2との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられる。非磁性下地層には、例えばRu合金等が用いられる。垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。保護層には、例えば水素化カーボンからなる材料が用いられる。潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
【0035】
磁気ディスク1について、より具体的な例を用いて説明する。本実施形態では、スパッタリング装置を用いて、ガラス基板2の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、Ruの下地層、CoCrPt−SiO
2・TiO
2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜される。さらに、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層が成膜される。
【0036】
磁気ディスク1は、ハードディスク装置で用いられる場合、例えば7200rpmの回転速度で回転軸を中心として回転する。
図1(c)に示されるように、ハードディスク装置の磁気ヘッド4A,4Bのそれぞれは、磁気ディスク1の高速回転に伴って、磁気ディスク1の表面から距離Hだけ浮上する。磁気ヘッド4A,4Bが浮上する距離Hは、例えば、5nmである。この状態で、磁気ヘッド4A,4Bは、磁性層に情報を記録し、あるいは読み出しを行う。この磁気ヘッド4A,4Bの浮上によって、磁気ディスク1に対して摺動することなく、しかも近距離で磁性層に対して記録あるいは読み出しを行うことにより、磁気記録情報エリアの微細化と磁気記録の高密度化を実現する。
このとき、磁気ディスク1のガラス基板2の中央部から外周エッジ部5まで、目標とする表面精度で正確に加工され、距離H=5nmを保った状態で磁気ヘッド4A,4Bを正確に動作させることができる。
【0037】
このような磁気ディスク1に用いられるガラス基板2の主表面の表面凹凸は、平坦度が例えば4μm以下であり、表面の粗さが例えば0.2nm以下である。最終製品としての磁気ディスク用基板に求められる目標平坦度は、例えば4μm以下である。
【0038】
平坦度は、例えば、Nidek社製フラットネステスターFT−900を用いて測定することができる。
主表面の粗さ(Ra)は、例えば、エスアイアイナノテクノロジーズ社製走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡)を用いて、1μm×1μmの範囲を512×256ピクセルの解像度で測定したときに得られる表面粗さの算術平均Raとすることができる。
【0039】
ガラス基板2の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
アルミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiO
2を50〜75%、Al
2O
3を1〜15%、Li
2O、Na
2O及びK
2Oから選択される少なくとも1種の成分を合計で5〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、及び、ZrO
2、TiO
2、La
2O
3、Y
2O
3、Ta
2O
5、Nb
2O
5及びHfO
2から選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%を用いることが好ましい。また、アミノシリケートガラスとして、モル%表示で、SiO
2を57〜74%、ZnO
2を0〜2.8%、Al
2O
3を3〜15%、Li
2Oを7〜16%、Na
2Oを4〜14%、を主成分として含有する、化学強化用ガラス材を用いることもできる。
【0040】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、
図2を参照して、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローを説明する。
図2は、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の一実施形態のフローを示す図である。
図2に示されるように、まず、板状ガラス素材をプレス成形により作製する(ステップS10)。次に、成形された板状ガラス素材をスクライブする(ステップS20)。次に、スクライブされた板状ガラス素材を形状加工する(ステップS30)。次に、板状ガラス素材に対して、固定砥粒による研削を施す(ステップS40)。次に、板状ガラス素材の端面研磨を行う(ステップS50)。次に、板状ガラス素材の主表面に、第1研磨を施す(ステップS60)。次に、第1研磨後の板状ガラス素材に化学強化を施す(ステップS70)。次に、化学強化された板状ガラス素材に第2研磨を施す(ステップS80)。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0041】
(a)プレス成形工程
まず、
図3を参照して、プレス成形工程(ステップS10)について説明する。
図3は、プレス成形において用いられる装置の平面図である。
図3に示されるように、装置101は、4組のプレスユニット120,130,140,150と、切断ユニット160と、を備える。
切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から溶融ガラスが流出する経路上に設けられる。切断ユニット160によって溶融ガラスが切断されることにより、溶融ガラスの塊が鉛直方向下向きに落下する。プレスユニット120,130,140,150は、塊の落下経路の両側から、互いに対向する一対の型の面で塊を同じタイミングで挟み込みプレス成形することにより、板状ガラス素材を成形する。溶融ガラス流出口111から流出する溶融ガラスの温度は、例えば1000℃以上である。
図3に示される例では、4組のプレスユニット120,130,140,150は、溶融ガラス流出口111を中心として90度おきに設けられている。
【0042】
プレスユニット120,130,140,150の各々は、図示しない移動機構によって駆動されて、溶融ガラス流出口111に対して進退可能となっている。すなわち、溶融ガラス流出口111の真下に位置するキャッチ位置(
図3においてプレスユニット140が実線で描画されている位置)と、溶融ガラス流出口111から離れた退避位置(
図3において、プレスユニット120,130及び150が実線で描画されている位置及び、プレスユニット140が破線で描画されている位置)との間で移動可能となっている。
【0043】
切断ユニット160は、キャッチ位置と溶融ガラス流出口111との間の溶融ガラスの経路上に設けられる。切断ユニット160は、溶融ガラス流出口111から流出される溶融ガラスを適量に切り出して、溶融ガラスの塊(以降、ゴブともいう)を形成する。切断ユニット160は、第1切断刃161と第2切断刃162とを有する。
また、切断ユニット160の付近には加熱部165(
図3には不図示)が設けられている。加熱部165の構成については、後述する。
第1切断刃161と第2切断刃162とは、一定のタイミングで溶融ガラスの経路上で交差するよう駆動される。第1切断刃161と第2切断刃162とが交差したとき、溶融ガラスが切り出されてゴブが得られる。得られたゴブは、キャッチ位置に向かって鉛直方向下向きに落下する。
【0044】
ここで、プレスユニット120について詳細に説明する。プレスユニット120は、第1の型121と、第2の型122と、第1駆動部123と、第2駆動部124と、を有する。
第1の型121と第2の型122の各々は、ゴブをプレス成形するための面を有するプレート状の部材である。この2つの面の法線方向が略水平方向となり、この2つの面が互いに平行に対向するよう配置されている。
【0045】
第1駆動部123は、第1の型121を第2の型122に対して進退させる。一方、第2駆動部124は、第2の型122を第1の型121に対して進退させる。第1駆動部123及び第2駆動部124は、第1の型121の面と第2の型122の面とを急速に近接させる機構を有する。第1駆動部123及び第2駆動部124は、例えば、エアシリンダやソレノイドとコイルばねを組み合わせた機構である。
なお、プレスユニット130,140及び150の構造は、プレスユニット120と同様であるため、説明は省略する。
【0046】
プレスユニットの各々は、キャッチ位置に移動した後、第1駆動部と第2駆動部の駆動により、落下するゴブを第1の型と第2の型の問で挟み込んで所定の厚さに成形すると共に急速に冷却し、円形状の板状ガラス素材Gを作製する。その後、プレスユニットは退避位置に移動し、第1の型と第2の型を引き離し、成形された板状ガラス素材Gを落下させる。
【0047】
プレスユニット120,130,140,150の退避位置の下には、それぞれ、第1コンベア171、第2コンベア172、第3コンベア173、第4コンベア174が設けられている。第1〜第4コンベア171〜174の各々は、対応する各プレスユニットから落下する板状ガラス素材Gを受け止めて図示しない次工程の装置に板状ガラス素材Gを搬送する。
【0048】
本実施形態では、プレスユニット120,130,140及び150が、順番にキャッチ位置に移動して、ゴブを挟み込んで退避位置に移動するよう構成されている。そのため、各プレスユニットでの板状ガラス素材Gの冷却を待たずに、連続的に板状ガラス素材Gの成形を行うことができる。
なお、1つのプレスユニット120のみを用いて、連続的にゴブを挟み込んで板状ガラス素材Gの成形を行うこともできる。この場合、第1の型121と第2の型122は、ゴブG
Gをプレス成形した直後に開放され、次に落下する溶融ガラスの塊をプレス成形する。
【0049】
ここで、
図4に示される側面図を参照して、本実施形態のプレス成形工程について説明する。
図4(a)は、溶融ガラスL
Gと切断ユニット160が接触する前の側面図である。
図4(b)は、切断ユニット160が溶融ガラスL
Gを切り出した後の側面図である。
図4(c)は、プレスユニット120が溶融ガラスの塊G
Gをプレス成形している状態の側面図である。
【0050】
図4に示されるように、キャッチ位置に移動したプレスユニット120と溶融ガラス流出口111との間に、加熱部165が設けられている。加熱部165は、例えば、ヒーターである。
図4に示される例では、加熱部165は、プレスユニット120と切断ユニット160との間に設けられているが、更に、切断ユニット160と溶融ガラス流出口111との間に設けられていてもよい。また、加熱部165は、ゴブG
Gの落下経路から均等に離間した位置に配置されることが好ましい。
図4に示される例の加熱部165は、水平面内の形状が矩形形状である。
加熱部165の温度は、室温よりも高い温度であればよいが、溶融ガラスL
Gの温度に近いことがより好ましい。本実施形態では、加熱部165の温度は溶融ガラスL
Gの転移温度Tg以上の温度である。なお、
図4には示されていないが、加熱部165を加熱するための電源などが加熱部165には接続されている。
【0051】
図4(a)に示されるように、溶融ガラスL
Gは、溶融ガラス流出口111から連続的に流出される。溶融ガラスL
Gの温度は、例えば、約1200℃である。
図4(a)に示される例では、溶融ガラス流出口111から流出した溶融ガラスL
Gの先端から順に、加熱部165によって加熱される。
【0052】
図4(b)に示されるように、所定のタイミングで切断ユニット160を駆動し、第1切断刃161と第2切断刃162によって、溶融ガラスL
Gを切断する。これにより、切断された溶融ガラスは、その表面張力によって、概略球状のゴブG
Gとなる。
図4(b)に示される例では、切断ユニット160を駆動する度に、例えば、直径15mm程度のゴブG
G が形成されるように、溶融ガラスL
Gの時間当たりの流出量や切断ユニット160の駆動間隔が調整される。
【0053】
形成されたゴブG
Gは、鉛直方向下向きに落下する。ゴブG
G が第1の型121と第2の型122の隙間に入るタイミングで、第1の型121と第2の型122とが互いに近づくように、第1駆動部123と第2駆動部124が駆動される。これにより、
図4(c)に示されるように、第1の型121と第2の型122の間にゴブG
Gが捕獲(キャッチ)される。さらに、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aとが、微小な間隔にて近接した状態になり、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間に挟み込まれたゴブG
Gが、薄板状に成形される。
【0054】
なお、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間隔を一定に維持するために、第2の型122の内周面122aには、突起状のスペーサ122bが設けられる。第2の型のスペーサ122bが第1の型121の内周面121aに当接することによって、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間隔は一定に維持されて、板状の空間が作られる。
【0055】
第1の型121及び第2の型122には、図示しない温度調節機構が設けられていることが好ましい。第1の型121及び第2の型122の温度は、温度調節機構により、溶融ガラスL
Gの歪点以下の温度に調整される。
【0056】
ゴブG
Gが第1の型121の内周面121a又は第2の型122の内周面122aに接触してから、第1の型121と第2の型122とがゴブG
Gを完全に閉じ込める状態になるまでの時間は約0.06秒と極めて短い。このため、ゴブG
Gは極めて短時間の内に第1の型121の内周面121a及び第2の型122の内周面122aに沿って広がり略円形状に成形され、さらに、急激に冷却されて非晶質のガラスとして固化する。これによって、板状ガラス素材Gが作製される。
なお、本実施形態において成形される板状ガラス素材Gは、例えば、直径75〜80mm、厚さ約1mmの円形状の板である。
【0057】
第1の型121と第2の型122が閉じられた後、プレスユニット120は速やかに退避位置に移動する。続いて、他のプレスユニット130がキャッチ位置に移動し、このプレスユニット130によって、ゴブG
Gのプレスが行われる。
【0058】
プレスユニット120が退避位置に移動した後、板状ガラス素材Gが十分に冷却されるまで(例えば、屈服点よりも低い温度となるまで)、第1の型121と第2の型122は閉じた状態を維特する。この後、第1駆動部123及び第2駆動部124が駆動されて第1の型121と第2の型122が離間し、板状ガラス素材Gは、プレスユニット120を離れて落下し、下部にあるコンベア171に受け止められる(
図3参照)。
【0059】
ここで、仮に加熱部165を設けない場合、溶融ガラス流出口111から連続的に溶融ガラスL
Gが供給され、溶融ガラスL
Gは周囲の空気によって徐々に冷却される。溶融ガラスL
Gの下端ほど、溶融ガラス流出口111から供給されてからの時間が長くなるため、切断ユニット160によって切断した直後の溶融ガラスL
Gの温度は、切断痕を除けば全体的には下端に向かって低くなる。但し、切断ユニット160と接触して形成される2つの切断痕の温度は、ゴブG
Gの真ん中付近より低くなっている。更に、2つの切断痕のうち、先に切断ユニット160と接触して形成される切断痕の温度の方が、後に切断ユニット160と接触して形成される切断痕の温度よりも低くなっている。
溶融ガラスの温度が高いほど粘度は低くなるため、ゴブG
Gの全体における位置によって温度差が大きくなると、ゴブG
Gの全体における位置によって粘度の差も大きくなり、均一にプレス成形されにくくなり、その結果、板厚のばらつきが大きくなりやすい。
【0060】
これに対し、本実施形態では、キャッチ位置に移動したプレスユニット120と溶融ガラス流出口111との間に設けられた加熱部165が溶融ガラスL
GやゴブG
Gを加熱することによりゴブG
Gの温度を調整する。これにより、ゴブG
Gの全体における位置による温度差を低減することができる。ゴブG
Gの全体における位置による温度差は、例えば、50℃以内である。そのため、ゴブG
Gの全体における位置による粘度の差を低減することができ、より均一にプレス成形することが可能となる。具体的には、ゴブG
Gに形成される2つの切断痕の粘度差を500万ポアズ以内とすることが好ましい。なお、ゴブG
Gに形成される切断痕の粘度は、各切断痕が形成される部分のゴブG
Gの表面温度から求められる粘度である。
本発明においては、上述したような方法でプレス成形を行うことにより、板状ガラス素材Gの少なくとも上部と下部とで生じる板厚のばらつきを15μm以下とすることができる。
なお、プレス成形工程によって成形された板状ガラス素材Gは、ガラスブランクともいう。
【0061】
ところで、一般に、切断刃を用いて溶融ガラスを切断して溶融ガラスのゴブを形成する場合、切断刃と接触する部分において、溶融ガラスが急冷され、切断痕が形成される。切断痕を含むゴブをプレス成形する場合、切断痕に起因するシアマークが板状ガラス素材に形成される。シアマークは、例えば、板状ガラス素材の主表面から数μm〜数10μm程度の深さの間に密集する小さい気泡の集まりや、表面の凹みであり、全体として例えば円弧状である。シアマークが磁気ディスク用ガラス基板に残存していると、磁気データの読み書きに支障を来たすばかりか、ヘッドと磁気ディスクとの接触を引き起こしてハードディスクドライブを故障させる要因にもなる。そのため、従来は、研削工程や研磨工程においては、シアマークを確実に除去できる深さまで研削及び研磨を行う必要があった。
これに対し、本実施形態では、プレス成形工程において、ゴブを成形した後に切断痕が加熱されることで、ガラスゴブ全体の温度分布が小さくなる。そのため、シアマークは小さく、かつ主表面から浅い位置に形成されるか、シアマークが形成されないこともある。
【0062】
(b)スクライブ工程
次に、スクライブ工程(ステップS20)について説明する。プレス成形工程の後、スクライブ工程では、成形された板状ガラス素材G(ガラスブランク)に対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形された板状ガラス素材Gを所定のサイズのリング形状とするために、板状ガラス素材Gの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされた板状ガラス素材Gは、部分的に加熱され、板状ガラス素材Gの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、リング形状の板状ガラス素材となる。
なお、板状ガラス素材をスクライブを必要としない程度の外径、真円度とし、このような板状ガラス素材に対してコアドリル等を用いて円孔を形成することによりリング形状とすることもできる。
また、上述したように、本実施形態のプレス成形工程では、形成されるシアマークは小さいため、板状ガラス素材Gの中央付近に形成された場合には、スクライブによる内孔形成によってシアマークが除去されるか、残存してもごく小さいものとなる。
【0063】
(c)形状加工工程(チャンファリング工程)
次に、形状加工工程(ステップS30)について説明する。形状加工工程では、スクライブされた板状ガラス素材Gの形状加工が行われる。形状加工は、チャンファリング(外周端部および内周端部の面取り)を含む。
リング形状の板状ガラス素材Gの外周端部および内周端部に、ダイヤモンド砥石により
面取りが施される。
【0064】
(d)固定砥粒による研削工程
次に、固定砥粒による研削工程(ステップS40)について説明する。固定砥粒による研削工程では、リング形状の板状ガラス素材Gに対して、固定砥粒による研削が施される。固定砥粒による研削による取り代は、例えば、数μm〜100μm程度である。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。
【0065】
ここで、
図5及び
図6を参照して、板状ガラス素材Gを研削する工程について説明する。
図5(a)は、固定砥粒による研削に用いる装置の全体図である。
図5(b)は、この装置に用いられるキャリヤを示す図である。
図6は、板状ガラス素材Gの研削中の状態を説明する図である。
図5(a)及び
図6に示されるように、装置400は、下定盤402と、上定盤404と、インターナルギヤ406と、キャリヤ408と、ダイヤモンドシート410と、太陽ギヤ412と、インターナルギヤ414と、容器416と、ポンプ420と、を有する。また、容器416は、クーラント418を有する。
【0066】
装置400は、下定盤402と上定盤404との間に、インターナルギヤ406を上下方向から挟む。インターナルギヤ406内には、研削時に複数のキャリヤ408が保持される。
図5(b)に示される例では、インターナルギヤ406は5つのキャリヤ408を保持する。
下定盤402および上定磐404に平面的に接着したダイヤモンドシート410の面が研削面となる。すなわち、板状ガラス素材Gは、ダイヤモンドシート410を用いた固定砥粒による研削が行われる。
【0067】
研削すべき複数の板状ガラス素材Gは、
図5(b)に示されるように、各キャリヤ408に設けられた円形状の孔に配置されて保持される。板状ガラス素材Gの一対の主表面は、研削時、下定盤402および上定盤404に挟まれてダイヤモンドシート410に当接する。
一方、板状ガラス素材Gは、下定盤402の上で、外周にギヤ409を有するキャリヤ408に保持される。このキャリヤ408は、下定盤402に設けられた太陽ギヤ412、インターナルギヤ414と噛合する。太陽ギヤ412を矢印方向に回転させることにより、各キャリヤ408はそれぞれの矢印方向に遊星歯車として自転しながら公転する。これにより、板状ガラス素材Gは、ダイヤモンドシート410を用いて研削が行われる。
【0068】
図5(a)に示されるように、装置400は、容器416内のクーラント418をポンプ420によって上定盤404内に供給し、下定盤402からクーラント418を回収し、容器416に戻すことにより、循環させる。このとき、クーラント418は、研削中に生じる切子を、研削面から除去する。具体的には、装置400は、クーラント418を循環させる際に、下定盤402内に設けられたフィルタ422で濾過し、そのフィルタ422に切子を滞留させる。
【0069】
研削装置400では、ダイヤモンドシート410を用いて研削を行うが、ダイヤモンドシート410の代わりに、ダイヤモンド粒子を設けた固定砥粒を用いることができる。例えば、複数のダイヤモンド粒子を樹脂で結合することによりペレット状にしたものを固定砥粒による研削に用いることができる。
【0070】
(e)端面研磨工程
次に、端面研磨工程(ステップS50)について説明する。固定砥粒による研削後、端面研磨工程では、板状ガラス素材Gの端面研磨が行われる。
端面研磨では、板状ガラス素材Gの内周側端面及び外周側単面にブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、板状ガラス素材Gの端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0071】
(f)第1研磨(主表面研磨)工程
次に、第1研磨工程(ステップS60)について説明する。端面研磨工程の後、第1研磨工程では、板状ガラス素材Gの主表面に第1研磨が施される。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。
第1研磨は、固定砥粒による研削により主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的とする。第1研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)で用いた装置400を用いる。固定砥粒による研削と異なり、第1研磨工程では、固定砥粒の代わりにスラリーに混濁した遊離砥粒を用いる。また、第1研磨工程では、クーラントは用いない。また、第1研磨工程では、ダイヤモンドシート410の代わりに樹脂ポリッシャが用いられる。
第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させた酸化セリウム等の微粒子(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。
【0072】
(g)化学強化工程
次に、化学強化工程(ステップS70)について説明する。第1研磨工程の後、化学強化工程では、第1研磨後の板状ガラス素材Gが化学強化される。
化学強化液として、例えば、硝酸カリウム(60%)と硫酸ナトリウム(40%)の混合液等を用いられる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄した板状ガラス素材Gが、例えば200℃〜300℃に予熱された後、板状ガラス素材Gが化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、板状ガラス素材Gの両主表面全体が化学強化されるように、複数の板状ガラス素材Gが端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0073】
このように、板状ガラス素材Gを化学強化液に浸漬することによって、板状ガラス素材Gの表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、板状ガラス素材Gが強化される。
なお、化学強化処理された板状ガラス素材Gは洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄される。
【0074】
(h)第2研磨(最終研磨)工程
次に、第2研磨工程(ステップS80)について説明する。第2研磨工程では、化学強化されて十分に洗浄された板状ガラス素材Gに第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。
第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨では、固定砥粒による研削(ステップS40)および第1研磨(ステップS60)で用いた装置400を用いる。第2研磨では、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが第1研磨と異なる。また、第2研磨では、樹脂ポリッシャの硬度が第1研磨とは異なる。
【0075】
第2研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリーに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径0.1μm程度)が用いられる。
こうして、研磨された板状ガラス素材Gは、洗浄される。洗浄では、中性洗剤、純水、IPAが用いられる。
第2研磨により、主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2nm以下
の表面凹凸を有する、磁気ディスク用ガラス基板2が得られる。
この後、磁気ディスク用ガラス基板2に、
図1に示されるように、磁性層層3A,3Bが成膜されて、磁気ディスク1が作製される。
【0076】
以上が、
図2に示されるフローの説明である。
図2に示されるフローでは、スクライブ(ステップS20)及び形状加工(ステップS30)は、固定砥粒による研削(ステップS40)と第1研磨(ステップS60)の間に行われる。また、化学強化(ステップS70)は、第1研磨(ステップS60)と第2研磨(ステップS80)との間に行われる。
しかし、これらの工程の順番は、特に限定されるものではない。固定砥粒による研削(ステップS40)の後、第1研磨(ステップS60)、その後第2研磨(ステップS80)が行われる限り、スクライブ(ステップS20)、形状加工(ステップS30)および化学強化(ステップS70)の各工程は、適宜配置することができる。
【0077】
本実施形態では、溶融ガラスL
GやゴブG
Gが加熱されることにより、ゴブG
Gの全体における位置による温度差を低減することができる。そのため、ゴブG
Gの全体における位置による粘度の差を低減することができ、作製される板状ガラス素材の板厚のばらつきを低減することができる。その結果、研削工程や研磨工程における取り代を低減し、クラックの発生を抑制することができる。また、板状ガラス素材の主表面の外周エッジ部において生じるダレを抑制することができる。
【0078】
また、切断ユニット160が溶融ガラスL
Gを切断する場合、溶融ガラスL
Gが切断ユニット160によって部分的に急冷されることに起因する切断痕が形成される。本実施形態では、加熱部165がゴブG
Gを全体的に加熱することにより、切断痕も加熱される。そのため、ゴブG
Gに切断痕が残りにくくなり、切断痕に起因するシアマークが板状ガラス素材Gに形成されるのを抑制することができる。すなわち、ゴブを成形した後に切断痕が加熱されることで、ガラスゴブ全体の温度分布が小さくなるため、シアマークは小さく、かつ主表面から浅い位置に形成されるか、シアマークが形成されないようにすることができる。
また、上述したように、本実施形態のプレス成形工程で形成されるシアマークは小さく、かつ主表面から浅い位置に形成されるため、その後の研削及び/または研磨工程において50μm程度の取り代とした場合でも除去することができる。
【0079】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。本実施形態は、プレス成形工程が第1の実施形態とは異なり、それ以外の工程は第1の実施形態と同様である。以下、第1の実施形態と同様の工程は説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分について説明する。
第1の実施形態と異なり、本実施形態では、切断ユニット160の付近に加熱部165は設けられていない。また、第1の実施形態と異なり、本実施形態では、切断ユニット160とプレスユニット120との間に保持部材180が設けられている。
【0080】
ここで、
図7に示される側面図を参照して、本実施形態のプレス成形工程について説明する。
図7(a)は、溶融ガラスL
Gと切断ユニット160が接触する前の側面図である。
図7(b)は、切断ユニット160が溶融ガラスL
Gを切り出した後の側面図である。
図7(c)は、プレスユニット120が溶融ガラスの塊G
Gをプレス成形している状態の側面図である。
【0081】
図7に示されるように、キャッチ位置に移動したプレスユニット120と切断ユニット160との間に、保持部材180が設けられている。保持部材180は、第1部材181と第2部材182とを有する。第1部材181と第2部材182とは、互いに水平面内を移動するように不図示の駆動装置によって駆動される。第1部材181と第2部材182の上面には、それぞれ図中に破線で示される部分に窪みが形成されており、第1部材181と第2部材182とが結合して閉じた際に、保持部材180の上面に半球状の窪みが形成される。
また、保持部材180は、不図示の温度調整機構によって温度が調整されている。保持部材180の温度は、室温よりも高い温度であればよいが、溶融ガラスL
Gの温度に近いことがより好ましい。本実施形態では、保持部材180の温度は1100℃である。
【0082】
図7(a)に示されるように、溶融ガラスL
Gは、溶融ガラス流出口111から連続的に流出される。溶融ガラスL
Gの温度は、例えば、約1200℃である。この際、保持部材180は、溶融ガラス流出口111の鉛直下方で閉じている。
図7(b)に示されるように、所定のタイミングで切断ユニット160を駆動し、第1切断刃161と第2切断刃162によって、溶融ガラスL
Gを切断する。これにより、切断された溶融ガラスは、その表面張力によって、概略球状のゴブG
Gとなる。
図7(b)に示される例では、切断ユニット160を駆動する度に、例えば、半径10mm程度のゴブG
G が形成されるように、溶融ガラスL
Gの時間当たりの流出量や切断ユニット160の駆動間隔が調整される。
【0083】
形成されたゴブG
Gは、鉛直方向下向きに落下し、保持部材180によって保持される。この際、略球状のゴブG
Gの下側は保持部材180の窪みの中に入り、ゴブG
Gの下側が加熱される。一方、ゴブG
Gの上側は保持部材180の上側に露出する。
次に、保持部材180が開き、ゴブG
Gが鉛直方向下向きに落下する。ゴブG
Gが第1の型121と第2の型122の隙間に入るタイミングで、第1の型121と第2の型122とが互いに近づくように、第1駆動部123と第2駆動部124が駆動される。これにより、
図7(c)に示されるように、第1の型121と第2の型122の間にゴブG
Gが捕獲(キャッチ)される。さらに、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aとが、微小な間隔にて近接した状態になり、第1の型121の内周面121aと第2の型122の内周面122aの間に挟み込まれたゴブG
Gが、薄板状に成形される。
以後の工程は、上述した第1の実施形態と同様である。
【0084】
本実施形態では、切断ユニット160によって形成されたゴブG
Gを保持部材180が保持し、ゴブG
Gの少なくとも下側を加熱することにより、ゴブG
Gの全体における位置による温度差を低減することができる。そのため、ゴブG
Gの全体における位置による粘度の差を低減することができ、板厚のばらつきを低減することができる。
【0085】
<その他の実施形態>
上述した実施形態では、ゴブG
Gのうち少なくとも温度の低い部分を加熱することにより、ゴブG
Gの全体における位置による温度差を低減すべく、ゴブG
Gの温度を調整する例について説明したが、ゴブG
Gの温度を調整する方法はこれに限定されるものではない。
例えば、ゴブG
Gのうち温度の高い部分を冷却することにより、ゴブG
Gの全体における位置による温度差を低減すべく、ゴブG
Gの温度を調整してもよい。具体的には、ゴブG
Gのうち温度の高い部分に送風することにより、ゴブG
Gの温度を調整することができる。
【0086】
また、上述した実施形態では、溶融ガラス流出口111下部に配置された加熱部165や保持部材180を用いてゴブG
Gを均熱化させる(つまり、ゴブG
Gの全体における位置による温度差を低減させる)例を示したが、ゴブG
Gに対する均熱化の効果をより大きくするためには均熱のための時間(均熱時間)を延ばすことが好ましい。均熱時間を延ばすための具体的な構成例について、以下説明する。なお、以下では、気体を噴出させる均熱部材を用いる方法について説明するが、気体を噴出させるためのアクチュエータ等の機構についての説明は省略している。かかる機構は公知のものを適宜利用できる。
【0087】
先ず、漏斗状の均熱部材191を用いた構成例について
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は、漏斗状の均熱部材191を用いてゴブG
Gが均熱化されている状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
図9は、漏斗状の均熱部材191が分割してゴブG
Gが落下する状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。なお、
図8において、気体の流れFLの線の長さは概ね流速の大きさを示している。
【0088】
均熱部材191は、切断ユニット160とプレスユニット120の間に位置し、落下するゴブG
Gを浮上させた状態で保持し、その間にゴブG
Gを均熱化させるために設けられている。均熱部材191は例えばステンレス製で内部が空洞となっており、
図8(a)に示すように、表面に気体を噴出させるために複数の微細な孔191hが設けられる。孔191hは例えばφ50μmであり、例えば0.2mm間隔で設けられる。孔191hから噴出させる気体は、ガラスの転移温度以上軟化点以下に加熱された空気等である。孔191hからの気体の噴出によって、切断ユニット160から落下するゴブG
Gは、
図8(b)に示すように、均熱部材191上で浮上した状態で保持され、均熱化される。ゴブと接触した場合を考慮して、ガラスの融着を防止するため均熱部材191の表面には白金や金のコーティングをすることが望ましい。また均熱部材191の材質はステンレスに限らず、ガラスの転移温度や軟化点を考慮し、より耐熱性の高い材質(セラミックなど)を用いても良い。孔191hから噴出させる気体は、空気に限られず、均熱部材191の耐久性を考慮して窒素などの他の気体を用いても良い。
【0089】
均熱部材191内で一定時間浮上させて十分に均熱化させた後、
図9(a)に示すように、均熱部材191は、第1部材191aと第2部材191bに水平方向に分割させられる。これによってゴブG
Gは、プレスユニット120に向かって鉛直下方に落下する。
【0090】
上述した均熱部材191は漏斗状の形状であったが、このような形状に限られない。均熱部材はスプーン状であってもよい。スプーン状の均熱部材192の構成を
図10及び
図11に示す。
図10は、スプーン状の均熱部材192を用いてゴブG
Gが均熱化されている状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)はB−B断面図である。
図11は、スプーン状の均熱部材192が分割してゴブG
Gが落下する状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。均熱部材192においても複数の微細な孔192hが設けられており、ここから気体が噴出し、それによってゴブG
Gが均熱部材192の内部で浮上する。
均熱部材192内で一定時間浮上させて十分に均熱化させた後、
図11(a)に示すように、均熱部材192は、第1部材192aと第2部材192bに水平方向に分割させられる。これによってゴブG
Gは、プレスユニット120に向かって鉛直下方に落下する。
なお、漏斗状の均熱部材191は、下方から高速な気体を噴出させることができるため、スプーン状の均熱部材192の場合よりもゴブG
Gの浮上を安定化させることができる。
【0091】
均熱部材は、平坦な、あるいは凹型の板状のものでもよい。このような板状の均熱部材193の構成を
図12及び
図13に示す。
図12は、板状の均熱部材193を用いてゴブG
Gが均熱化されている状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)はC−C断面図である。
図13は、板状の均熱部材193からゴブG
Gが落下する状態を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。なお、
図12及び
図13においては、ガス導入部については図示を省略している。均熱部材193においても複数の微細な孔193hが設けられており、ここから気体が噴出し、それによってゴブG
Gが均熱部材193の上部で浮上する。
図12(b)に示すように、板状の均熱部材193は水平方向に対して傾斜して設けられる。そのため、切断ユニット160から落下するゴブG
Gは、均熱部材193上で浮上しつつ、重力の影響を受けて均熱部材193の表面に沿って移動する。その後、
図13に示すように、ゴブG
Gは、均熱部材193の端に達した後に、プレスユニット120に向かって鉛直下方に落下する。均熱部材193を使用する場合には、プレスユニット120は、板状の均熱部材193の長手方向の長さだけ、溶融ガラス流出口111から水平方向にオフセットした位置に設けられる。
【0092】
上述したようにして均熱部材191〜193のいずれかを使用してゴブG
Gを均熱化させる場合、ゴブG
Gの浮上状態の継続時間は、ゴブG
Gの表面の温度分布つまり粘度分布を、どの程度低減させる必要があるかに依存する。板厚分布を10μm以下、さらに良化させて5μm以下と低減させるためには、より長時間の浮上をさせることが好ましい。なお、長時間浮上させることで熱放射により絶対温度が低減してしまい、その後のプレス成形で薄板化が困難となる場合もある。その場合には、さらに均熱部材の外部から補助的な加熱を行うことが好ましい。その加熱方法は特に限定されないが、例として赤外線放射や高周波加熱が挙げられる。
【0093】
上述したように、均熱部材を、切断ユニット160とプレスユニット120の間に配置し、落下するゴブG
Gを浮上させた状態で保持することで、プレス成形後のガラスブランクについて、落下軸方向が他軸方向よりも長くなる形状となることが抑制される。つまり、成形されるガラスブランクの真円度が向上するという利点がある。ガラスブランクの形状を真円に近づけることにより、スクライブ工程やチャンファリング工程において外形の加工量が少なくなるため、無駄となるガラス素材が少なくなり、コストの削減に繋がる。さらに、ガラスブランクの真円度が例えば10μm以下であると、外周端部を加工する必要がなくなるため、チャンファリング工程によって形成されたキズ等による外周端部からのガラス成分の溶出(例えばアルカリ溶出)を抑制することができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例、比較例を用いて、本発明の効果を確認するためのシミュレーション及び実験の結果について説明する。
【0095】
(実施例1−4)
図4を参照して説明した第1の実施形態のプレス成形工程により、板状ガラス素材Gを作製した。実施例1、2のガラス転移温度Tgは500℃である。実施例3、4のガラス転移温度Tgは650℃である。また、実施例1−4において、溶融ガラスL
Gの温度は1200℃である。
実施例1−4の加熱部165の温度は、下記表1に示される通りである。また、実施例1−4において、最後に形成された切断痕部分の表面温度、最初に形成された切断痕部分の表面温度、及び、最後に形成された切断痕と最初に形成された切断痕の粘度差をシミュレーションにより求めた結果は、表1に示される通りである。なお、以下の実施例や比較例では、最後に形成された切断痕部分はゴブG
Gの上部に位置しており、最初に形成された切断痕部分はゴブG
Gの下部に位置していた。
また、実施例1−4において作製された板状ガラス素材Gの板厚分布を測定した結果は、表1に示される通りである。ここで、板状ガラス素材Gの板厚分布は、ミツトヨ製マイクロメータを用い、1枚の板状ガラス素材Gの主表面上に5mmメッシュを想定し、その交点のうち安定して測定できる場所について測定し、それらの最大値と最小値の差とした。また、ゴブの粘度は、予め調査した温度と粘度の関係を用いて、サーモグラフィーで測定したゴブ表面の温度からシミュレーションにて算出した。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示されるように、加熱部165を設けることにより、板状ガラス素材Gの板厚分布を15μm以下にすることができる。また、加熱部165の温度が高いほど、板状ガラス素材Gの板厚分布が小さくなることが分かる。
【0098】
(実施例5−8)
図7を参照して説明した第2の実施形態のプレス成形工程により、板状ガラス素材Gを作製した。実施例5、6のガラス転移温度Tgは500℃である。実施例7、8のガラス転移温度Tgは650℃である。また、実施例5−8において、溶融ガラスL
Gの温度は1200℃である。
実施例5−8の保持部材180の温度は、下記表2に示される通りである。また、実施例5−8において、最後に形成された切断痕部分の表面温度、最初に形成された切断痕部分の表面温度、及び、最後に形成された切断痕と最初に形成された切断痕の粘度差をシミュレーションにより求めた結果は、表2に示される通りである。
また、実施例5−8において作製された板状ガラス素材Gの板厚分布を測定した結果は、表2に示される通りである。
【0099】
【表2】
【0100】
表2に示されるように、保持部材180を設けることにより、板状ガラス素材Gの板厚分布を15μm以下にすることができる。また、保持部材180の温度が高いほど、板状ガラス素材Gの板厚分布が小さくなることが分かる。
【0101】
(実施例9、10及び比較例1、2)
比較例1、2では、上述した加熱部165、保持部材180のいずれも用いずに、板状ガラス素材Gを作製した。
実施例9では、
図7を参照して説明した第2の実施形態のプレス成形工程により板状ガラス素材Gを作製した。但し、実施例9において、保持部材180の温度は、ガラス転移温度Tgよりも低い。
実施例10では、
図4を参照して説明した第1の実施形態のプレス成形工程により板状ガラス素材Gを作製した。但し、実施例10において、加熱部165の温度は、ガラス転移温度Tgよりも低い。
なお、実施例9、10及び比較例1、2において、溶融ガラスL
Gの温度は1200℃である。
【0102】
実施例9、10及び比較例1、2において、最後に形成された切断痕部分の表面温度、最初に形成された切断痕部分の表面温度、及び、最後に形成された切断痕と最初に形成された切断痕の粘度差をシミュレーションにより求めた結果は、表3に示される通りである。
また、実施例9、10及び比較例1、2において作製された板状ガラス素材Gの板厚分布を測定した結果は、表3に示される通りである。
【0103】
【表3】
【0104】
表3に示されるように、実施例9、10及び比較例1、2では、作製された板厚ガラス素材Gの板厚分布は、実施例1−8と比べて大きくなることが分かる。これは、加熱部165や保持部材180を設けない場合や、加熱部165、保持部材180の温度がガラス転移温度Tgに比べて低い場合に、最後に形成された切断痕部分の表面温度と最初に形成された切断痕部分の表面温度との差が大きくなり、最後に形成された切断痕と最初に形成された切断痕との粘度差が大きくなるためである。但し、実施例9、10については、プレス成形前のゴブG
Gを加熱していることによって、比較例1、2よりも板厚分布が低減できていることが分かる。
【0105】
次に、実施例1〜10の板状ガラス素材G(ガラスブランク)を用い、
図2のステップS20,S30,S50〜S80の工程(すなわち、固定砥粒による研削工程を除く各工程)を順に行って、それぞれ磁気ディスク用ガラス基板を作製した。つまり、平面度を向上させるための主表面の研削工程を行わずに磁気ディスク用ガラス基板を作製した。
なお、上記磁気ディスク用ガラス基板の作製に当たっては、第1研磨、第2研磨の各工程は、以下の条件で行った。
・第1研磨工程:酸化セリウム(平均粒子サイズ;直径1〜2μm)、硬質ウレタンパッド(JIS−A硬度:80〜100)を使用して研磨した。取り代10〜40μm。
・第2研磨工程:コロイダルシリカ(平均粒子サイズ;直径20〜40nm)、軟質ポリウレタンパッド(アスカーC硬度:50〜80)を使用して研磨した。取り代1〜5μm。
作製した磁気ディスク用ガラス基板の主表面を目視で観察したところ、主表面上にシアマークは認められなかった。このことから、実施例のガラスブランクは、シアマークが小さく、かつ主表面から浅い位置に形成されるため、50μm以下の研磨加工の取り代でシアマークがほぼ除去されたことが分かる。
【0106】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。