(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、(B)第4族元素イオン、(C)シリカ系粒子、及び(D)水を含んでなる歯科用接着性組成物において、
(C)シリカ系粒子として、表面シラノール基数が0.8個/nm2以下のものを用いることを特徴とする歯科用接着性組成物。
(A)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体100質量部に対して、(C)シリカ粒子が2質量部〜50質量部配合され、且つ(C)シリカ系粒子と(D)水の配合量の関係が次の式で表されることを特徴とする請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
Y≦15−0.2×X
X:シリカ粒子(質量部)、Y:水(質量部)
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の歯科用接着性組成物は、(A)リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、(B)第4族元素イオン、(C)シリカ系粒子、及び(D)水を含んでなる。以下、これらの各成分について、順次説明する。
【0019】
〔(A)重合性単量体〕
本発明において重合性単量体は、分子中に重合性不飽和基が存在する公知の有機化合物が制限なく使用される。このうち分子中に存在する重合性不飽和基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。特に硬化速度の点からアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基が最も好ましい。
【0020】
本発明では、こうした重合性単量体の少なくとも一部として、リン酸から誘導される酸性基を有するもの(以下、リン酸から誘導される酸性基を「リン酸系酸性基」と略し、さらに、該リン酸系酸性基を有する重合性単量体を「リン酸系モノマー」と略する)を含有させる。リン酸系酸性基は、歯質の脱灰作用が強いばかりでなく、歯質との本質的な結合力も高く、さらに、第4族元素イオンとのイオン架橋の形成能にも優れている。
【0021】
ここで、リン酸系酸性基とは、次に示す構造を有する酸性基である。
【0022】
【化1】
【0023】
具体的には、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸水素モノエステル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基等が挙げられる。これらの中でも、基−O−P(=O)(OH)
2(リン酸二水素モノエステル基)、基(−O−)
2P(=O)OH(リン酸水素ジエステル)等のリン酸エステル系基が歯質への浸透性の良さから好ましい。
【0024】
こうしたリン酸系モノマーの好適例を示せば、
【0025】
【化2】
【0026】
等が挙げられる。但し、上記化合物中、R
1は水素原子またはメチル基を表す。これらの化合物は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0027】
その他の、リン酸系モノマーとして好適に利用できる化合物を例示すれば、ホスフィン酸基を有するものとしてビス(2−メタクリルオキシ)ホスホン酸、ビス(メタクリルオキシプロピル)ホスフィン酸、ビス(メタクリルオキシブチル)ホスフィン酸等が、またホスホン酸基を有するものとして3−メタクリルオキシプロピルホスホン酸、2−メタクリルオキシエトキシカルボニルメチルホスホン酸、4−メタクリルオキシブトキシカルボニルメチルホスホン酸、6−メタクリルオキシヘキシルオキシカルボニルメチルホスホン酸、2−(2−エトキシカルボニルアリルオキシ)エチルホスホン酸等が、またホスホン酸水素モノエステル基を有するものとしては2−メタクリルオキシエチルホスホン酸モノ(メタクリルオキシエチル)エステル、2−メタクリルオキシエチルホスホン酸モノフェニルエステル等が挙げられる。
【0028】
リン酸系モノマーの配合量は特に制限はなく、重合性単量体成分全体がリン酸系モノマーのみからなってもよいが、接着材の歯質に対する浸透性を調節したり、硬化体の強度を向上させたりする観点からは、酸性基を有しない重合性単量体(以下、「非酸性モノマー」と略する)と併用するのが好適である。非酸性モノマーと併用する場合においても、エナメル質及び象牙質の双方に対する接着強度の高さからリン酸系モノマーは、全重合性単量体成分中において5質量%以上含有させるのが好適であり、5〜80質量%含有させるのがより好適であり、10〜60質量%含有させるのが最も好適である。リン酸系モノマーの配合量が少ないと、エナメル質に対する接着強度が低下する傾向があり、逆に多いと象牙質に対する接着強度が低下する傾向がある。
【0029】
非酸性モノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレート又はメチルメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0030】
更に、非酸性モノマーとして、(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いることも可能である。これらの他の非酸性モノマーを例示すると、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。
【0031】
非酸性モノマーも、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0032】
なお、疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の重合性単量体を使用するのが好ましい。両親媒性重合性単量体を用いることにより、水の分離が防止でき組成の均一性を高めることができる。こうした両親媒性重合性単量体の配合量は、吸水性を増加させない観点から重合性単量体100質量部中において55質量部以下に抑えるのが好ましく、特に50質量部以下に抑えるのがより好ましい。
【0033】
〔(B)第4族元素イオン〕
本発明の歯科用接着性組成物は、(B)第4族元素イオンを含有している。(A)リン酸系モノマーに、該第4族元素イオン、さらに後述する(C)特定のシラノール基数のシリカ系粒子および(D)水が共存することにより、接着強度が大きく向上し、且つ長期間保存してもゲル化し難いものになる。
【0034】
(B)第4族元素イオンの具体例を示すと、チタニウムイオン、ジルコニウムイオン、及びハフニウムイオンである。このうち、接着強度の向上効果に優れることからチタニウムイオンが特に好ましい。これら第4族元素イオンは2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
歯科用接着性組成物における第4族元素イオンの含有量は、リン酸系モノマーのリン酸系酸性基に対して、モル比で0.05〜0.5になる量であり、より好ましくは0.06〜0.3になる量である。ここで、第4族元素イオンの含有量が、リン酸系モノマーのリン酸系酸性基に対して、モル比で0.05より小さくなると、第4族元素イオンとリン酸系モノマーのリン酸系酸性基とのイオン結合による架橋密度が低下し、接着性が十分でなくなる。一方、この第4族元素イオンの上記含有量が0.5を越えると、リン酸系モノマーに対して該第4族元素イオンが過剰量になり、一つの第4族元素イオンにイオン結合するリン酸系モノマーの数が少なくなり、やはり架橋密度が低下して接着性は十分でなくなる。
【0036】
歯科用接着性組成物中における、第4族元素イオンの種類および含有量は、固体成分を除いた後、誘導結合型プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて測定することにより確認することができる。具体的な方法を示すと、接着性組成物を水溶性有機溶媒で濃度1質量%まで希釈し、得られた希釈液をシリンジフィルター等で用いて濾過し、固体成分を除去する。その後、得られた濾液のイオン種および濃度をICP発光分析装置で測定し、接着性組成物中の多価金属イオン種と量を算出する。なお、多価金属イオン以外の金属イオン種およびその含有量も、同様な方法によって測定することができる。
【0037】
また、歯科用接着性組成物中におけるリン酸系酸性基の種類の測定は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより組成物中からリン酸系モノマーを単離し、単離したリン酸系モノマーの質量分析からその分子量を測定し、また、核磁気共鳴分光(NMR)測定して、構造を決定することにより決定する。特に、
31PのNMRを測定することで、その化学シフト値から、リン酸系酸性基の種類を同定することができる。化学シフト値は、同条件(希釈溶媒、濃度、温度)で既知の化合物の
31P-NMRを測定し、それを標準とすることで決定することができる。リン酸系酸性基を有する既知の化合物としては、例えば、ホスフィン酸基を有する化合物としてはジメチルホスフィン酸が、ホスホン酸基を有する化合物としてはメチルホスホン酸が、ホスホン酸水素モノエステル基有する化合物としてはメチルホスホン酸水素モノエチルエステルが、リン酸二水素モノエステル基を有する化合物としてはリン酸二水素モノメチルエステルが、リン酸水素ジエステル基を有する化合物としてはリン酸水素ジメチルエステルが挙げられる。また、リン酸系モノマーの含有量は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより単離した該リン酸系モノマーを用いて、上出の標準物質との検量線を作成し、前出の濾液の一部に内標準物質を添加して高速液体クロマトグラフィーで測定することで求めることができる
なお、本発明の接着性組成物には、上記特定量の第4族元素イオンの他に、その他の金属イオンが含有されていても良い。こうしたその他の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の1価および2価の金属イオンが挙げられ、さらにアルミニウム(III)、鉄(III)、ルテニウム(III)、コバルト(III)、ランタン(III)等の3価の金属イオンが挙げられる。第4族元素イオンによるイオン架橋を良好に発達させる観点からは、これらその他の金属イオンの全量における総イオン価数が、含有されている全金属イオンの総イオン価数に対して0.5以下、より好ましくは0.2以下の割合であるのが好適である。
【0038】
上記したように接着性組成物中において、第4族元素イオンを含む金属イオンの存在量が多くなってくると、重合性単量体成分における、リン酸系モノマーの酸性基は、これとイオン結合し中和されてしまう。したがって、「全金属イオンの総イオン価数」/「リン酸系モノマー全量における酸の総価数」が1以上になると、通常、接着性組成物は酸性を呈さなくなり、その場合、該接着性組成物は、エッチング機能(歯質の脱灰機能)を有さなくなり、別途歯質に対するエッチング操作を施した方が好適なものになる。よって、本発明では、このように「全金属イオンの総イオン価数」が多すぎる場合には、組成物に脱灰機能を持たせるため、組成物の酸性が保持されるように、その他の酸性物質を含有させるのが好適である。
【0039】
この場合、本発明の接着性組成物の酸性度は、以下の方法で測定したpH値が4.8未満であれば良い。すなわち、接着性組成物の酸性度は、該接着性組成物を10質量%の濃度でエタノールに混合し、その混合液のpHを測定することにより実施する。pHの測定は、従来公知の方法で測定可能であるが、25℃において、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)とフタル酸塩pH標準液(pH4.01)で校正したpH電極を用いたpHメーターで測定する方法が簡便で好ましい。希釈するのに用いるエタノールは純度が99.5%以上であり、該エタノール単独のpH値が下記に示す方法で測定したときに4.8〜5.0であれば特に問題ない。接着性組成物は、歯質の脱灰性の強さから、この方法で測定したpHが、0.5〜4.0の範囲であるのが好ましく、1.0〜3.0の範囲であるのがより好ましい。
【0040】
上記その他の酸性物質は、pKa値が水中25℃において2.15を超えるものが使用され、歯質の脱灰機能の強さから、該pKa値が6.0以下、より好ましくは4.0以下のものを使用するのが良好である。好適に使用されるものを例示すると、クエン酸、酒石酸、フッ化水素酸、マロン酸、グリコール酸、乳酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メトキシ酢酸等が挙げられる。
【0041】
また、こうしたその他の酸性物質としては、上記非酸性モノマーの含有量の一部に代えて、2−(6−メタクリルオキシヘキシル)マロン酸、2−(10−メタクリルオキシデシル)マロン酸、トリメリット酸−4−(2−メタクリルオキシエチル)エステル、N−メタクリロイルグルタミン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸−2,4−ビス(2−メタクリルオキシエチル)エステル、3,3,4,4,−ビフェニルテトラカルボン酸−4,4−ビス(2−メタクリルオキシエチル)エステル等のような、リン酸系酸性基を以外の酸性基を有する重合性単量体を用いることで含有させても良い。
【0042】
なお、このようにその他の酸性物質を含有させる場合であっても、本発明では、該酸性物質として、25℃水中において、リン酸の第一解離に基づくpKa値(2.15)以下のpKa値を有する強酸は使用しないのが好ましい。すなわち、接着材組成物中に、このような強酸の共役塩基イオンが含まれていると、硬化体において接着強度が低下することにつながる。その理由は、該強酸の共役塩基イオンは、多価金属イオンとイオン結合するに際して、リン酸系酸性基と競合反応になるため、このような強酸の共役塩基イオンが有効量で含有されていると、上記リン酸系酸性基と多価金属イオンとのイオン結合の形成が抑制されてしまうからである。したがって、斯様な強酸の共役塩基イオンは実質的に含有されないことが好ましく、効果に影響しない程度に多少に含有されることは許容されるが、その含有量は、含有される多価金属イオン対して5モル%以下、より好ましくは3モル%以下であることが望ましい。
【0043】
本発明において、接着性組成物中に、このような強酸の共役塩基イオンが含まれているかどうかは、イオンクロマトグラフィーを用いた測定により確認できる。具体的には、接着性組成物を水で抽出し、得られた水相をろ過し、その濾液をイオンクロマトグラフィーにより測定することで確認することができる。
【0044】
本発明の接着性組成物において、組成物中に第4族元素イオンを存在させる方法は、特に制限されるものではなく、接着性組成物を調整する際に、重合性単量体成分に、上記第4族元素イオンのイオン源となる物質を配合または接触させて、組成物中に該第4族元素イオンを前記量で溶出させれば良い。第4族元素イオン源としては、第4族元素単量体、第4族元素イオン溶出性フィラー、または第4族元素化合物が挙げられる。
【0045】
ここで、第4族元素化合物としては、金属塩、金属ハロゲン化物、金属アルコキシドを用いることができる。金属塩としては、1,3−ジケトンのエノール塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フッ化物、マロン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、酢酸塩、メトキシ酢酸塩等が挙げられ、金属ハロゲン化物としてはフッ化チタン、塩化チタン、フッ化ジルコニウム、フッ化ハフニウム等が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド等が挙げられ、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポイシド等が特に好ましい。これらの第4族元素化合物の中でも、炭素数4以下、さらに好ましくは3以下の低級アルコキシドは、金属イオンの溶出が速く、副生物がアルコールであるため、接着強度に影響がなく除去容易であり、また取り扱いが容易な点からより好ましい。なお、これらの第4族元素化合物中には、溶解性が著しく低いものがあるため、予め予備実験等で確認したうえで用いればよい。
【0046】
他方、第4族元素イオン溶出性フィラーは、歯科用接着性組成物中で、上記第4族元素イオンを溶出させることができるものである。通常は、歯科用接着性組成物が酸性を呈している場合に溶出させ易い。第4族元素イオン溶出性フィラーは、公知のものが制限なく使用できるが、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に第4族元素イオンを保持したものが好適に使用される。具体的には、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類としては、酸化物ガラス、フッ化物ガラス等を挙げることができる。酸化物ガラスとしては、チタニアシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等からなるものがあげられ、フッ化物ガラスとしてはフッ化チタニウムガラス等からなるものを挙げることができる。なお、これらのガラス類からなる第4族元素イオン溶出性フィラーは、第4族元素イオンを溶出させた後は、凝集粒子や、粒径の大きいものについて、沈降したものを濾別する等して少なくとも一部を除去しても良いが、そのまま多孔性の粒子として歯科用接着性組成物中に残留させておくと、充填材として硬化体の強度の向上に寄与することもできる。
【0047】
〔(C)シリカ系粒子〕
歯科用接着性組成物に含有される(C)シリカ系粒子は、表面シラノール基数が0.8個/nm
2以下のものが使用される。このように、表面シラノール基数の少ないシリカ系粒子を用いることにより、リン酸系モノマーと水とを併用した接着性組成物であるにもかかわらず、長期間保存してもゲル化することがない。これは、シリカ系粒子の表面シラノール基数を0.8個/nm
2以下とすることにより、保存中において、該表面シラノール基と第4族元素イオンとの配位結合が穏やかに進行するようになるためであると推定される。ただし、ゲル化には至らずとも、金属イオンが第4族元素イオンであることにより、反応中或いは保存中において、上記配位結合による架橋構造の増強効果は十分に発揮されるため、前記したとおり接着性組成物の接着強度は高い値に保持される。
【0048】
歯科用接着剤にシリカ系粒子をフィラー等として配合することは公知であるが、その場合に用いられるシリカ系粒子は、前記したように表面シラノール基数が上記規定値の上限を大きく上回るのが普通である。例えば、特許文献9には、酸性基含有重合性単量体を含有する歯科用接着材に対して、フュームドシリカを配合することが開示されており、その実施例で使用されている具体例は全て1.0個/nm
2以上の表面シラノール基数のものになっている。しかして、このように表面シラノール基数が大きいシリカ系粒子を配合したのでは、長期保存すると、表面シラノール基と第4族元素イオンとの配位結合が発達して形成されゲル化することは前述したとおりである。
【0049】
このゲル化を長期に防ぎ、且つ接着強度も高い値に維持するバランスをより良好なものとする観点からは、シリカ系粒子表面のシラノール基数は、0.3〜0.7個/nm
2であるのがより好ましい。なお、一般的に、表面シラノール基が0.3個/nm
2未満のシリカ系粒子は、その製造が難しい。
【0050】
本発明において、シリカ系粒子の表面シラノール基数は、カールフィッシャー法により測定した値をいう。すなわち、シリカ系粒子の試料を25℃、相対湿度80%の雰囲気中に45日放置する。その後、120℃で12時間乾燥した後、このシリカ系粒子をメタノール溶媒中に分散し、カールフィッシャー水分計(例えば、京都電子工業社製「MKS−210型」)を使用して、水分量を滴定する。滴定試薬には、例えば「HYDRANAL COMPOSITE 5K」(Riedel−dehaen社製)を用いる。表面シラノール基数は、上記の方法で測定された水分量(質量%)から、以下の手法により計算して求めれば良い。
【0051】
まず、シリカ1gあたりのシラノールの数(個/g)を、下記式により求める。
シリカ1gあたりのシラノールの数(個/g)=水分量(質量%)×0.01×水分子1個を生成するシラノールの数(=2)×アボガドロ定数/水の分子量
=水分量(質量%)×0.01×2×6.02×10
23/18.0
=水分量(質量%)×6.689×10
20
次いで、得られたシリカ1gあたりのシラノールの数から下記式より、単位比表面積当たりのシラノール基数(個/nm
2;表面シラノール基数)を求める。
表面シラノール基数(個/nm
2)=水分量(質量%)×6.689×10
20/(比表面積(m
2/g)×10
18)
=668.9×水分量(質量%)×比表面積(m
2/g)
本発明において、シリカ系粒子の比表面積は、50〜500m
2/gの範囲が好ましい。比表面積が50m
2/g未満のシリカ系粒子では、第4族元素イオンとの接触面積が小さくなり、接着強度が低下する傾向がある。他方、比表面積が500m
2/gより大きいシリカ系粒子では、凝視やすくなり、沈降が生じ易くなる。なお、本発明において、シリカ系粒子の比表面積は、BET法を用いて測定した値をいう。
【0052】
本発明において使用するシリカ系粒子の平均粒子径は特に限定されないが、前記比表面積の好適範囲を満たすものを使用するためには、平均1次粒子径が1〜100nm、平均2次粒子径は、0.01〜100μmのものが好ましい。さらに、平均2次粒子径は、0.02〜10μmのものが最も好ましい。こうしたシリカ系粒子の平均1次粒子径は、走査電子顕微鏡にて撮影した画像を画像解析して求めた値である。具体的には、倍率10万倍において、走査電子顕微鏡にて視野を変えて50の画像を撮影し、これを用いて2500個のシリカ系粒子について平均1次粒子径を画像解析し、個数平均を求めた値である。また、平均2次粒子径は、遠心沈降光透過法の粒度分布系(例えば、ブルックヘブン社製「BI−DCP」)を用いて求めた体積平均粒子径である。
【0053】
本発明においてシリカ系粒子とは、シリカの他、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等のシリカを主成分(10モル%以上、より好適には50モル%以上)とする他の金属酸化物との複合金属酸化物をいう。これらは結晶質であってもよいが、通常は、非晶質のものが使用される。こうしたシリカ系粒子は、前記の表面シラノール基数の要件が満足される限り、火炎加水分解法、火炎溶融法等の乾式法、および沈降法、ゾル−ゲル法等の湿式法等のいずれの方法で得たものであってもよい。なかでも、本発明が規定する表面シラノール基数を満足したものが得やすいことから、火炎加水分解法によって製造された、所謂、フュームドシリカと呼ばれる乾式法で製造したシリカ系粒子が最も好ましい。
フュームドシリカは、緩やかな3次凝集構造を有しており、リン酸系酸性基と第4族元素イオンとにより形成されるイオン架橋や、シリカ粒子の表面シラノール基と第4族元素イオンとにより形成される架橋構造に、さらに該フュームドシリカの凝集構造が加わって、より緻密な3次元構造となって硬化体の接着強度が向上するため特に好ましい。
【0054】
上記表面シラノール基数を満足するシリカ系粒子は、既存品の中から、これら要件を満足するものを選定して用いれば良い。前記したように通常のシリカ系粒子の多くは、表面シラノール基数の要件を満足しない。したがって、適切なものが入手困難な場合には、シランカップリング剤に代表される表面処理材でその数を減らすことによって調節して、該表面シラノール基数の要件を満足するものにして用いればよい。
【0055】
シランカップリング処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられ、特に好ましくは、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンが用いられる。
【0056】
これらのシリカ系粒子の配合量は、特に制限されるものではないが、接着強度を向上させつつ、保存安定性を良好にする効果を両立する観点からは、(A)重合性単量体100質量部に対して2〜50質量部の範囲が好ましい。さらに、安定した接着強度を得るために、またより長期間ゲル化を抑制するために、5〜30質量部がより好ましい。
【0057】
〔(D)水〕
本発明の歯科用接着性組成物において(D)水は、蒸留、濾過、イオン交換等によって、有害な不純物を含まないものを用いるのが好ましい。その配合量は、リン酸モノマーによる脱灰を十分に行い、且つリン酸系酸性基と第4族元素イオンとにより形成されるイオン架橋やシリカ粒子の表面シラノール基と第4族元素イオンとによる形成される架橋構造を十分に形成するためには、(A)重合性単量体100質量部に対して0.5質量部以上配合させるのが好ましく、さらには2質量部以上配合させるのがより好ましい。
【0058】
さらに水の配合量は、(C)シリカ系粒子との関係が次の式で表される範囲となることが好ましい。
Y≦15−0.2×X
X:シリカ粒子(質量部)、Y:水(質量部)
この式を満足することにより、保存中のゲル化の抑制効果が一層に高まり好ましい。すなわち、シリカ系粒子の表面シラノールに対する第4族元素イオンの配位結合は水の存在下で進行するため、シリカ系粒子の配合量に対して水の配合量を上記一定範囲に調整することにより、ゲル化抑制効果を高度に発揮させることが可能になる。
【0059】
本発明の歯科用接着性組成物において水は、該接着性組成物を歯面に塗付した後の、該接着性組成物を硬化させる前にエアブロー等により除去されるのが一般的である。
【0060】
〔(E)揮発性有機溶媒〕
本発明の接着性組成物には、(E)揮発性有機溶媒が配合されても良い。ここで、揮発性有機溶媒は、室温で揮発性を有し、水溶性を示すものが使用できる。なお、揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であり、好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶することを言う。
【0061】
このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
【0062】
なお、これらの揮発性有機溶媒も、前記水と同様に、本発明の接着性組成物を歯面に塗布した後の、該接着性組成物を硬化させる前にエアブロー等することにより除去される。
【0063】
本発明において揮発性有機溶媒の配合量は、通常、(A)重合性単量体100質量部に対して2〜400質量部の範囲、より好ましくは5〜300質量部である。
【0064】
〔歯科用接着性組成物〕
本発明の接着性組成物は歯科用途において、歯質の接着用に有用に使用される。特に、コンポジットレジンや補綴物等の歯科用修復物を歯質に接着させる際に使用される歯科用接着材、ブラケット等の歯列矯正用器具を歯面へ接着させる際に使用される歯科用接着材、および歯質用前処理材として有用である。
【0065】
歯科用接着材として用いる場合、このものには(F)有効量の重合開始剤を配合される。このような重合開始剤としては、公知の光重合開始剤および化学重合開始剤を使用することができる。また、光重合開始剤と化学重合開始剤を併用し、光重合と化学重合のどちらによっても重合を開始させることの出来るデュアルキュアタイプとすることも可能である。
【0066】
代表的な光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
【0067】
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い重合活性を得られて好ましい。
【0068】
また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤については、例えば特開平9−3109号公報に記されているものが好適に用いられるが、より具体的には、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3'−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
【0069】
一方、代表的な化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン類の組み合わせ、有機過酸化物類、アミン類及びスルフィン酸塩類の組み合わせ、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせ、バルビツール酸、アルキルボラン等の化学重合開始剤等が挙げられる。
【0070】
該化学重合開始剤に使用される各化合物として好適なものを以下に例示すると、有機過酸化物類としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を配合して使用することができる。
【0071】
アミン類としては、第二級又は第三級アミン類が好ましく、具体的に例示すると、第二級アミンとしてはN−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられ、第三級アミンとしてはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,Nジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
【0072】
アリールボレート類としては、1分子中に少なくても1つのホウ素―アリール結合を有していれば、公知のものを使用することができるが、保存安定性が高いことや取り扱いの容易さ、入手のし易さから、1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートが最も好ましい。1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートの具体例としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p―クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3―ヘキサフルオロ―2―メトキシ―2―プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p―オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―オクチルオキシフェニル)ホウ素などのホウ素化合物の塩を挙げることができる。ホウ素化合物と塩を形成する陽イオンとしては、金属イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンを使用することができる。
【0073】
上記化学重合開始剤の中でも、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせに、+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物を併用した、特開2003−96122号公報に開示される化学重合開始剤は、重合活性が高いことから、特に好適に使用できる。さらに、上記の有機過酸化物を併用することにより、重合活性をさらに高めることができるため、最も好ましい。
【0074】
上記バナジウム化合物の具体例としては、四酸化二バナジウム(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1―フェニル―1,3―ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等を挙げることができる。
【0075】
これらの重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。その配合量は、有効量であれば特に制限されるものではないが、(A)重合性単量体を100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲であるのが好ましく、0.1〜8質量部の範囲であるのがより好ましい。
【0076】
さらに、本発明の接着性組成物には、用途に関わらずに必要に応じて、その性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して使用することもできる。
【0077】
本発明の接着性組成物においては、本発明の効果により保存安定性が良好となるので、(A)〜(F)のすべての成分を1包装にすることができる。なお、2包装以上に(A)〜(F)を分包した製品形態とし、歯科医院にて両剤を混合して保管してもよいが、(A)〜(D)は同一包装とすることが必要である。(F)重合開始剤に前記化学重合開始剤を配合する場合にはその保存安定性を考慮して、例えば(A)〜(E)と(F)の1成分とを含む包装と、さらに(F)の成分を含む1つ以上の包装とからなる、2包装以上の製品形態とすればよい。
【0078】
本発明の歯科用接着性組成物の使用方法を例示すると、う蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に、本発明の接着性組成物を塗布、5〜60秒程度放置後にエアブローによって圧縮空気を軽く吹きつけて揮発成分を揮発させる。本発明の接着性組成物を光重合型の歯科用接着材として用いる場合には、次いで歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。この硬化させた接着性組成物面に、さらに、充填器具を用いてコンポジットレジン等の充填修復材料を充填するか、接着性レジンセメントなどで補綴修復装置等を接着する。
【0079】
なお、本発明の歯科用接着性組成物は、上記の使用方法から明らかなように、前処理不要でも高い接着力が得られる接着材として良好に使用できるが、必要により予め、エッチングやプライミング等の前処理を施してから使用することも可能である。また本発明の歯科用接着性組成物を歯科用前処理剤として用いる場合には、揮発成分を揮発させた後に、公知の歯科用接着材を塗布して接着させればよい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
[リン酸から誘導される酸性基を有する重合性単量体]
SPM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートのモル比1:1の混合物
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を含有しない重合性単量体]
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[第4族元素イオン源]
Ti(O−iPr)
4:チタニウムテトライソプロポキシ
ド
[第4族元素以外のイオン源]
Al(O−iPr)3:アルミニウムトリイソプロポキシド
[シリカ系粒子]
FS1:平均1次粒径7nm、比表面積220m
2/g、ジメチルジクロロシラン処理、シラノール基数0.7個/nm
2
FS2:平均1次粒径7nm、比表面積220m
2/g、ヘキサメチルジシラザン処理、シラノール基数0.5個/nm
2
FS3:平均1次粒径15nm、比表面積120m
2/g、メチルトリクロロシラン処理、シラノール基数1.2個/nm
2
FS4:平均1次粒径12nm、比表面積200m
2/g、シラノール基数3個/nm
2
[揮発性の水溶性有機溶媒]
IPA:イソプロピルアルコール
[重合開始剤]
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
また、以下の実施例および比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
【0081】
a)接着試験片の作製方法
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に歯科用接着性組成物を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片Iを作製した。
【0082】
b)接着試験方法
引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を接着強度とした。
【0083】
c)保存時のゲル化試験方法
歯科用接着性組成物を摂氏45度に設定したインキュベータにて2週間保管して、ゲル化の有無を目視確認した。なお評価結果には、ゲル化が確認できない場合は「○」、ゲル化が確認できた場合は「×」として示した。
【0084】
実施例1
重合性単量体として25gのSPM、30gのBisGMA、20gの3G及び25gのHEMAと、チタンイオン源として5.8gのチタンイソプロポキシド、シリカ系粒子として12gのFS1、揮発性有機溶媒として、70gのIPA、重合開始剤として1.25gのカンファーキノン、1.25gのDMBE、及びその他成分として0.6gのBHTを用い、これらを均一になるまで撹拌混合したのち、10gの蒸留水を加えて再度均一になるまで撹拌混合して本発明の歯科用接着性組成物を得た。
【0085】
得られた歯科用接着性組成物について、a)接着試験片の作製方法およびb)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらにc)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度2週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期接着強度の測定と同様に、保存後の歯科用接着性組成について接着強度を測定した。歯科用接着性組成物の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
【0086】
実施例2〜
18
実施例1の方法に準じ、表1に示した組成の異なる歯科用接着性組成物を調製した。a)接着試験片の作製方法およびb)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらにc)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度2週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期接着強度の測定と同様に、保存後の歯科用接着性組成物について接着強度を測定した。接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
比較例1〜
6
実施例1の方法に準じ、表3に示した組成の異なる歯科用接着性組成物を調製した。a)接着試験片の作製方法およびb)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらにc)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度2週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期接着強度の測定と同様に保存後の歯科用接着性組成物について接着強度を測定した。歯科用接着性組成物の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
実施例1〜
18は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された歯科用接着性組成物を用いたものであるが、いずれの場合においてもエナメル質、象牙質双方に対して、初期接着強度は高く、保存試験後の歯科用接着性組成物のゲル化は見られなかった。なお、保存後の接着強度も良好に維持できていた。
【0093】
これに対して、比較例1〜
3はシリカ系粒子の表面シラノール基数が本発明の範囲外である場合であり、いずれの場合においてもエナメル質、象牙質双方に対して、初期接着強度は高い値であったが、保存試験後の歯科用接着性組成物がゲル化した。
【0094】
比較例
4は、第4族元素以外のイオン源としてアルミニウムトリイソプロポキシドを用い、シリカ系粒子の表面シラノール基数が本発明の範囲よりも多い場合であり、エナメル質、象牙質双方に対して、初期接着強度は実施例に比べて少し低い値を示した。なお、保存試験後のゲル化は見られず、保存後の接着強度は上記初期接着強度の値が良好に維持できていた。
【0095】
比較例
5、6は、第4族元素以外のイオン源としてアルミニウムトリイソプロポキシドを用い、シリカ系粒子の表面シラノール基数が本発明の範囲内の場合であり、エナメル質、象牙質双方に対して、初期接着強度は上記比較例5よりもさらに低い値を示した。なお、保存試験後のゲル化は見られず、保存後の接着強度は上記初期接着強度の値が良好に維持できていた。