特許第5914099号(P5914099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914099
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/00 20060101AFI20160422BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   G02C7/00
   G02C7/02
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-77471(P2012-77471)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-205776(P2013-205776A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100149250
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 明広
(72)【発明者】
【氏名】原田 高志
【審査官】 南 宏輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−164311(JP,A)
【文献】 特開2000−028506(JP,A)
【文献】 特開2003−215011(JP,A)
【文献】 特開2010−066094(JP,A)
【文献】 特開2010−127766(JP,A)
【文献】 特表2005−522690(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0062678(US,A1)
【文献】 特開2002−202244(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0314894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
G02B 1/00−1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面被膜を有する眼鏡レンズの耐擦傷性を評価する耐擦傷性評価方法であって、
前記眼鏡レンズ上に、先端が球状でありその先端曲率半径が1μm〜1mmであるダイヤモンド針を、当接して前記ダイヤモンド針の前記眼鏡レンズに対する当接荷重を連続的に高めながら直線相対運動させる工程(A)、
前記直線相対運動により前記眼鏡レンズの前記表面被膜の剥離が生成し始める剥離荷重を求めて前記表面被膜の耐擦傷性を評価する工程(B)、
を具備する、眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法。
【請求項2】
前記工程(A)が、先端に前記ダイヤモンド針を有する当接荷重可変アームと、前記ダイヤモンド針を当接する眼鏡レンズを固定するステージと、前記当接荷重可変アームを水平方向に滑動させる可動台座とを有する、耐擦傷性試験装置を用いて行われ、
前記直線相対運動は、前記ステージに前記眼鏡レンズを固定して、前記当接荷重可変アームの先端の前記ダイヤモンド針を前記眼鏡レンズに当接して、前記当接荷重可変アームの水平方向への滑動と共に、前記ダイヤモンド針の前記眼鏡レンズに対する前記当接荷重を連続的に高めながら、前記眼鏡レンズの前記表面被膜が剥離するまで荷重を上昇させて、前記直線相対運動を終了させることにより行われる、請求項1に記載の眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被膜を有する眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法及びこれに用いられる眼鏡レンズ用耐擦傷性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズには様々な特性が要求されるが、眼鏡のユーザーが日常生活における使用によって傷が形成されにくい性質、すなわち、耐擦傷性が求められる。耐擦傷性を考慮して、眼鏡レンズの表面にはハードコート膜、反射防止膜(AR膜)などの表面被膜が形成される。眼鏡レンズの開発段階における眼鏡レンズ基材や表面被膜の選定や、眼鏡レンズの製造工程における品質管理のために、耐擦傷性の評価が行われる。
【0003】
従来の一般的な眼鏡レンズの耐擦傷性試験としては、ベイヤー試験が知られている。ベイヤー試験では、容器内に砂と眼鏡レンズを入れて、当該容器を揺動させることで、レンズと砂をこすり付けて眼鏡レンズの耐擦傷性が評価される。当該方法によれば、大まかな耐擦傷性の傾向は判断できるものの、実際の使用状況において形成される傷には様々な原因によるものがあり、ベイヤー試験だけでは眼鏡レンズの実使用における傷つきにくさを必ずしも網羅できなかった。
【0004】
特許文献1においては、実際の使用状況を再現しつつ、再現性に優れた耐擦傷性試験方法として、装置を用いてレンズに擦傷物を接触させた状態で相対運動させることが提案されている。ここで使用される擦傷物としては、スチールウールや、ワイヤーブラシ等が挙げられている。
特許文献2においては、眼鏡レンズを布等で拭く際に発生する拭き傷のように眼鏡レンズを比較的柔らかな部材により擦った場合に形成される傷の評価を行うことを目的として、擦傷物として所定硬度を有する擦傷物を押し当てた評価方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−295131号公報
【特許文献2】特開2005−258207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、擦傷物と眼鏡レンズが面で接触した場合の擦傷性の評価方法について開示されている。しかし、このような方法で良品と判断された眼鏡レンズであっても、傷がついてしまうことがあることがわかった。
特許文献2において開示された評価方法は、擦傷物を眼鏡レンズに対してある程度の荷重をかけて実施する方法であるが、ここで特定されたような高い荷重がかけられることは、眼鏡レンズが枠入れされた後は極めて稀であり、実際の使用状況においては想定しがたい。
【0007】
以上のように、特許文献1及び特許文献2の方法によっても、眼鏡レンズの実際の使用状況を想定した耐擦傷性評価方法としては最適であるとは言えず、更に、実際の使用状況に即した眼鏡レンズの耐擦傷性試験が求められる。
すなわち、本発明は、より実際の使用状況に即した眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法及び、これに用いられる眼鏡レンズ用耐擦傷性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、実際の使用状況において形成される傷の形状を分析した結果、従来の評価方法において良品と判断された眼鏡レンズであっても、目視できるような大きさの線状の傷が形成されていることを確認した。これらの傷を顕微鏡により観察すると眼鏡レンズ表面に形成された被膜が剥離している様子が観察された。このような傷は、従来の評価方法により形成されるものとは異なり、例えば、小さな物体が点接触でレンズに接触したことにより形成される傷であると推察できた。当該傷は、具体的には木や金属、無機酸化物(小石等)などに接触させた際に形成されると思われるものであった。
このような発見に基づき本発明者は鋭意検討した結果、ダイヤモンド針を用いて眼鏡レンズの耐擦傷性を評価することで、今までの評価方法では再現できなかったような傷を再現することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]に関する。
[1] 表面被膜を有する眼鏡レンズの耐擦傷性を評価する耐擦傷性評価方法であって、
前記眼鏡レンズ上に、先端が球状でありその先端曲率半径が1μm〜1mmであるダイヤモンド針を、当接して直線相対運動させる工程(A)、
前記直線相対運動により眼鏡レンズが受けた影響で前記表面被膜の耐擦傷性を評価する工程(B)、
を具備する、眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法。
[2] 前記工程(A)において、ダイヤモンド針の眼鏡レンズに対する当接荷重を連続的に高めながら直線相対運動させ、
前記工程(B)において、眼鏡レンズの表面被膜の剥離が生成し始める剥離荷重を求めて前記表面被膜の耐擦傷性を評価する、請求項1に記載の耐擦傷性評価方法。
[3] 前記工程(A)において、前記直線相対運動中に前記ダイヤモンド針と前記眼鏡レンズを離隔させて該直線相対運動を終了させ、
前記工程(B)において、眼鏡レンズの表面被膜上におけるダイヤモンド針の軌跡の先端の形状を観察して、前記表面被膜の耐擦傷性を評価する、請求項1に記載の耐擦傷性評価方法。
[4] 前記工程(A)を、表面被膜の剥離が観察されない最大荷重よりも低く、かつ、ダイヤモンド針の軌跡が形成される最小荷重よりも高い荷重の範囲内で、直線相対運動終了時の当接荷重を変化させて複数回繰り返し行い、
前記工程(B)において、前記直線相対運動終了時の当接荷重と、ダイヤモンド針の軌跡の先端に形成される先端隆起の高さと、の関係から先端隆起開始荷重を求めて前記表面被膜の耐擦傷性を評価する、請求項3記載の耐擦傷性評価方法。
[5] 先端にダイヤモンド針を有する当接荷重可変アームと、
前記ダイヤモンド針を当接する眼鏡レンズを固定するステージと、
前記当接荷重可変アームと前記ステージを直線相対運動させる可動手段と、
前記直線相対運動により当接荷重可変アームと接触して前記ダイヤモンド針と眼鏡レンズを離隔させるガイド部材と、を具備することを特徴とする、眼鏡レンズ用耐擦傷性評価装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の評価方法によれば、眼鏡レンズ上にダイヤモンド針を当接して直線相対運動させることで、眼鏡レンズ上に実際の使用状況において形成される傷に良く似た引掻き傷が形成される。これにより、本発明は、従来の評価方法では評価できなかった小さな物体が点接触でレンズに接触したことにより形成されるような傷が形成されやすさについて評価することができ、より使用実態に即した評価方法となる。
【0011】
また、本発明の耐擦傷性評価装置によれば、当接荷重可変アームとガイド部材が接触することで、当該アームの動作方向が規制されて、ダイヤモンド針と眼鏡レンズとが離隔する。すなわち、ダイヤモンド針と眼鏡レンズが当接されて直線相対運動している際に、当接荷重可変アームとガイド部材との接触によって、ダイヤモンド針が眼鏡レンズ上で停止することなく当該眼鏡レンズから離隔して当該直線相対運動が終了する。これにより、終了地点に形成されたダイヤモンド針の軌跡の先端の形状の再現性が向上し、当該形状による耐擦傷性評価が可能となる。眼鏡レンズ上に形成されるダイヤモンド針の軌跡の先端形状は、荷重が大きくなるにつれて隆起し、荷重が少なくなると隆起が小さくなるため、眼鏡レンズとダイヤモンド針の当接荷重による影響が反映されやすく、当該部分を分析することで、耐擦傷性の評価をより精密に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の第一形態の耐擦傷性評価方法に使用する耐擦傷性試験装置の概略構成図である。
図2図2は、本発明の第二形態の耐擦傷性評価方法に使用する耐擦傷性試験装置の概略構成図である。
図3図3は、第二形態において使用される耐擦傷性試験装置のXX’断面の概略図である。
図4図4は、ガイド部材の変形例の概略構成を示す。
図5図5は、実施例の剥離荷重測定試験における光学顕微鏡による観察結果を示す。
図6図6は、実施例の先端隆起開始荷重測定試験におけるコンフォーカル顕微鏡による観察結果を示す。
図7図7は、実施例の先端隆起開始荷重測定試験におけるコンフォーカル顕微鏡による観察結果から求めたx−x’断面プロファイルを示す。
図8図8は、実施例の先端隆起開始荷重測定試験におけるコンフォーカル顕微鏡による観察結果から求めたy−y’断面プロファイルを示す。
図9図9は、先端隆起開始荷重測定試験により得られた結果のプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の眼鏡レンズの耐擦傷性評価方法は、表面被膜を有する眼鏡レンズの耐擦傷性を評価する耐擦傷性評価方法であって、前記眼鏡レンズ上にダイヤモンド針を当接して直線相対運動させる工程(A)、前記直線相対運動により眼鏡レンズが受けた影響で前記表面被膜の耐擦傷性を評価する工程(B)、を具備する。
【0014】
本発明において耐擦傷性を評価する眼鏡レンズとしては、一般的な眼鏡レンズを使用することが可能であるが、表面被膜を有する眼鏡レンズを使用する。表面被膜としては、特に限定されないが、例えば、反射防止膜、ハードコート膜、プライマー膜、撥水膜等を一種又は複数種を積層したものが挙げられる。これらの表面被膜の材料としては、無機酸化物や、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの有機物、無機酸化物と有機物の複合物等が挙げられる。
眼鏡レンズの基材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス基材、プラスチック基材を使用することができるが、プラスチック基材を使用することが好ましい。プラスチック基材に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリアクリル樹脂、エピスルフィド系ポリマー等が挙げられる。
【0015】
工程(A)では、眼鏡レンズ上にダイヤモンド針を当接して直線相対運動させる。このようにして、眼鏡レンズ表面を傷付ける擦傷物として、ダイヤモンド針を選択することによって、使用状況において形成されるものとよく似た形状の傷が形成される。
【0016】
工程(A)において使用するダイヤモンド針の先端形状としては、楕円状や、球状が挙げられる。これらの中でも特に球状が好適である。
また、球状の先端形状を有するダイヤモンド針を使用する場合、その先端曲率半径は、1μm〜1mmが好適であり、10μm〜500μmがより好適であり、30μm〜100μmが更に好適である。これらの範囲の先端曲率半径を有することにより、より使用実態に近い傷をレンズ表面に形成することができる。
【0017】
工程(A)における直線相対運動とは、特に限定されないが、眼鏡レンズを固定してダイヤモンド針を移動させることにより行ってもよいし、ダイヤモンド針を固定して眼鏡レンズを移動してもよいし、眼鏡レンズ及びダイヤモンド針の双方を移動させてもよい。
【0018】
なお「直線相対運動」とは、横方向又は縦方向に微視的な振動を与えない相対運動を意味し、ダイヤモンド針又は眼鏡レンズに対して意図的に微振動を与えずに、直線的に相対運動させて眼鏡レンズ上をダイヤモンド針で走査することを意味する。直線相対運動は、巨視的には厳密な直線運動である必要はなく、形成される傷が概略直線形状を有していればよく、例えば、ダイヤモンド針をアームに設置して、当該アームを回転させることにより形成される円弧軌道の一部であってもよい。直線相対運動により形成される傷は、使用実態において形成される傷の形状に似通っているため、当該運動を採用した評価方法よって、より適切な耐擦傷評価をすることができる。なお、微振動させながら相対運動をさせる場合には、傷が形成されやすくなりすぎるため、使用実態よりも苛酷な条件となるため、眼鏡レンズの耐擦傷性評価としては好ましくない。
【0019】
ダイヤモンド針と眼鏡レンズの直線相対運動の速度は、特に限定されないが、例えば、1〜1000mm/secが好適であり、3〜500mm/secがより好適であり、5〜100mm/secが更に好適である。当該範囲で直線相対運動させることにより、木や金属と擦れたり、小石が当たった場合等の使用実態により傷が形成されうる衝撃に近づけることができる。
【0020】
なお、ダイヤモンド針と眼鏡レンズの当接荷重は、直線相対運動中一定であっても、連続的に増加させてもよい。また、当接荷重は、0.1〜200gの範囲が好適である。
【0021】
工程(B)においては、工程(A)の直線相対運動により眼鏡レンズが受けた影響で表面被膜の耐擦傷性を評価する。ここで当該影響の観察方法は、特に限定されないが、目視、光学顕微鏡、コンフォーカル顕微鏡、レーザー顕微鏡等の3次元形状測定顕微鏡により行われる。これらの中でも、3次元形状測定顕微鏡が好ましい。
【0022】
以下本発明の好適な評価方法について、第一形態、第二形態を挙げて記載する。
【0023】
(第一形態)
本発明の第一形態に係る評価方法では、前記工程(A)において、ダイヤモンド針の眼鏡レンズに対する当接荷重を連続的に高めながら直線相対運動させ(以下、本工程を「工程(A−1)」とすることがある。)、前記工程(B)において、眼鏡レンズの表面被膜の剥離が生成し始める剥離荷重を求めて前記表面被膜の耐擦傷性を評価する(以下、本工程を「工程(B−1)」とすることがある)。
【0024】
工程(A−1)において、当接荷重を連続的に高めながら直線相対運動させることにより、眼鏡レンズの荷重変化による表面被膜の影響を評価しやすくなるため、耐荷重を簡便に評価することができる。なお、当接荷重は、小さな荷重から徐々に高めながら行い、最終的には眼鏡レンズの表面被膜が剥離するまで荷重を高めることが好適である。
【0025】
工程(B−1)において、上記の工程(A−1)の直線相対運動により形成された軌跡を観察し、表面被膜の剥離が生成し始める当接荷重を求める。この際に、光学顕微鏡を用いることが好適である。また、生成し始めの位置を特定することにより、連続的に変化する荷重において、どの荷重において、表面被膜の剥離が生成し始めたかを特定する。これにより、特定された荷重が、表面被膜の剥離荷重となる。以上の方法によって、眼鏡レンズの耐擦傷性評価が行われる。
【0026】
(第二形態)
本発明の第二形態に係る評価方法では、前記工程(A)において、前記直線相対運動中に前記ダイヤモンド針と前記眼鏡レンズを離隔させて該直線相対運動を終了させ(以下、工程(A−2)と称する場合がある)、前記工程(B)において、眼鏡レンズの表面被膜上におけるダイヤモンド針の軌跡の先端の形状を観察して、前記表面被膜の耐擦傷性を評価する(以下、工程(B−2)と称する場合がある)。
【0027】
工程(A−2)においては、直線相対運動中にダイヤモンド針と眼鏡レンズを離隔させて該直線相対運動を終了させる。これにより、眼鏡レンズ上のダイヤモンド針の軌跡の先端の形状(以下、単に「先端形状」とする場合がある)に再現性を持たせることができる。特に、先端形状は、眼鏡レンズの表面被膜の耐擦傷性を反映させやすく、この形状を評価することで表面被膜の組成等による耐擦傷性を的確に把握しやすくなる。一方、直線相対運動の終了方法として、ダイヤモンド針と眼鏡レンズの移動を止めた後に、これらを離隔させると、直線相対運動終了後から、ダイヤモンド針と眼鏡レンズの接触時間に応じて、ダイヤモンド針が眼鏡レンズの表面被膜に押し込まれ、先端の形状が変化するため、再現性が得られにくい。
【0028】
また、ダイヤモンド針と眼鏡レンズとの当接荷重は、直線相対運動の終了時の荷重が把握できるようにすることが好適であり、直線相対運動中は一定であることがより好適である。
また、荷重は、眼鏡レンズの被膜が剥離する剥離荷重よりも小さくすることが好適である。このような荷重で直線相対運動させることで、先端形状の影響が現れやすくなるため、耐擦傷性をより細かに評価することができる。
【0029】
工程(A−2)を、直線相対運動終了時の当接荷重を変化させて複数回繰り返し行うことが好適である。このように繰り返し行うことにより、当接荷重の変化による先端形状への影響が明らかになる。
【0030】
工程(B−2)において、眼鏡レンズの表面被膜のダイヤモンド針の軌跡の先端形状を観察して、前記表面被膜の耐擦傷性を評価する。すなわちダイヤモンド針を離隔した場所における眼鏡レンズの表面被膜の形状を観察する。
【0031】
ダイヤモンド針軌跡の先端の形状の観察は、3次元形状測定顕微鏡を用いることが好適である。これにより、先端形状を立体的に観察できる。立体的に観察することによって、ダイヤモンド針の軌跡の形成する溝の深さや、当該溝の両側に形成される隆起や、先端形状における隆起(以下、単に「先端隆起」と称する場合がある)などの詳細な観察が可能となる。これらの中でも、先端隆起を観察することが好適である。
【0032】
以下、本発明の耐擦傷性評価方法について、具体的な装置の例を挙げて説明する。当該具体例は一例であって、当該態様に限定されるわけではない。
【0033】
図1は、本発明の第一形態の耐擦傷性評価試験に使用する装置の概略構成図である。
耐擦傷性試験装置1は、先端にダイヤモンド針を有する当接荷重可変アーム11と、前記ダイヤモンド針を当接する眼鏡レンズを固定するステージ12と、前記当接荷重可変アームを水平方向に滑動させる可動台座13とを有する。
【0034】
当接荷重可変アーム11は、アーム本体111と、前記アーム本体を垂直方向に可動させる支軸台座112と、前記アーム本体の先端に取り付けられたダイヤモンド針113と、前記ダイヤモンド針と反対の端部に取り付けられた当接荷重可変装置114が備えられている。当接加重可変装置は、アーム本体111に対して負荷するカウンターウエイトの荷重を変化させることで、ダイヤモンド針と眼鏡レンズの当接荷重を調節する。
【0035】
ステージ12は、台座15の上に設けられている。当該ステージ12は、ステージ本体121と、眼鏡レンズLを固定するチャック122を備える。
可動台座13は、台座15の上に設けられており、上記当接荷重可変アーム11の支軸台座112をX軸方向に移動可能に水平に滑動させる。これにより、当接荷重可変アームと前記ステージを直線相対運動させる可動手段となる。
【0036】
本発明の工程(A−1)においては、ステージ12のチャック122に眼鏡レンズLを固定して、前記当接荷重可変アーム11の先端のダイヤモンド針を前記レンズLに当接して、当接荷重可変アーム11の水平方向への滑動と共に、ダイヤモンド針と眼鏡レンズの当接荷重を連続的に上昇させる。眼鏡レンズの表面被膜が剥離するまで荷重を上昇させて、直線相対運動を終了させる。
【0037】
図5に、上記直線相対運動終了後の眼鏡レンズ上のダイヤモンド針の軌跡の光学顕微鏡写真を示す。荷重が少ない場合には、眼鏡レンズ上には浅い溝が形成されるのみであるが、荷重が大きくなるに従って、当該写真により、観察されるように、表面にクラックが発生し(写真左側)、更には、表面被膜の剥離(写真右側)が観察される。このように表面被膜が剥離した場合には、目視でも確認しやすくなる。また、このように表面被膜の剥離が観察された地点における荷重を表面被膜剥離荷重として、眼鏡レンズの耐擦傷性を評価する。
【0038】
図2は、本発明の第二形態において使用される耐擦傷性試験装置である。第二形態において使用される耐擦傷性試験装置は、基本的に第一形態で使用されるものと同じ構成であるため、構成の共通する部分については図面に同一記号を付して説明を省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0039】
本発明の(工程A−2)において用いられる眼鏡レンズ用耐擦傷性評価装置1は、上記構成に加えて、前記直線相対運動により当接荷重可変アームと接触して前記ダイヤモンド針と眼鏡レンズを離隔させるガイド部材21を更に有する。ガイド部材21は、円弧状の側面211を有する。
【0040】
図3は、図2におけるXX’断面の概略図である。図3に示すように、ガイド部材21は、アーム本体111の水平方向に滑動する軌道上に配置され、円弧状側面211と接触して、アーム本体111は上方向へと軌道を変化させる。これにより、ダイヤモンド針と眼鏡レンズは離隔して、該直線相対運動が終了する。
【0041】
図4は、ガイド部材21の変形例の概略構成を示す。第一の変形例に係るガイド部材22は、直線傾斜側面221を有する(図4(a))。第二の変形例に係るガイド部材23では、円弧状側面231と、当該側面部材を支える台座232とを有する(図4(b))。第三の変形例に係るガイド部材24では、曲面傾斜側面241を有する(図4(c))。
【0042】
以下、3次元形状測定顕微鏡として、コンフォーカル顕微鏡を用いた場合を例にとり説明する。
図6〜8は、上記の直線相対運動により形成された傷の状態をコンフォーカル顕微鏡により確認した結果の一例を示す。
このように、コンフォーカル顕微鏡による結果から、上記の直線相対運動より形成された先端隆起の形状を解析することができる。
例えば、図7に示すようにダイヤモンド針の軌跡の中心部における水平方向のx−x’断面を観察した際のプロファイルを観察すると、特に先端部分においては先端隆起が観察される。この先端隆起の高さ(以下、単に「先端隆起高さ」とする)を観察することで、眼鏡レンズの耐擦傷性を評価することができる。ここで「先端隆起高さ」とは、軌跡の形成されていない面の高さと、先端隆起の最大高さの差である(図7参照)。
また、図8に示すようにダイヤモンド針の軌跡に対して垂直方向のy−y’断面の表面プロファイルを観察すると、当該軌跡において、形成された溝の深さや、当該溝の側部に形成される隆起の大きさ等を観察することができる。
【0043】
工程(A−2)を、当接荷重を変化させて、複数回繰り返し行って、これらの先端隆起高さを観察することで、先端隆起開始荷重を求めて耐擦傷性を評価することができる。
工程(A−2)の荷重は、表面被膜の剥離が観察されない最大荷重よりも低く、かつ、ダイヤモンド針の軌跡が形成される最小荷重よりも高い荷重で行う。このような範囲の荷重において、荷重を変えて複数回繰り返し直線相対運動して、これらの結果を観察して、当接荷重と先端隆起高さの関係をプロットする。更に、これらのプロットより、先端隆起が形成される最小の当接荷重、すなわち、先端隆起開始荷重を求める。
このように先端隆起開始荷重を求めることで、表面被膜の剥離荷重のみではなく、眼鏡レンズの表面に溝が形成され始める荷重を評価することができるため、より傷つきにくい眼鏡レンズの評価方法が得られる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0045】
(剥離荷重測定試験)
図1に示す眼鏡レンズ用耐擦傷性評価装置を用いて耐擦傷性試験を行った。ハードコート膜及び反射防止膜を有する眼鏡レンズを用いて、下記の条件にてダイヤモンド針を用いて連続的に荷重を上昇させながら、直線相対運動させて(工程(A−1))、その表面状態を光学顕微鏡で観察した(工程(B−1))。観察した結果を図5示す。これらの結果から、白色に観察される表面被膜の剥離が観察された地点から、表面被膜(反射防止膜)の剥離荷重を求めた結果、95gであった。
(測定条件)
ダイヤモンド針の先端曲率半径:50μm
荷重:連続荷重(0gから100gまで徐々に荷重増加)
直線相対運動速度(スクラッチ速度):10mm/sec
荷重増加速度:10g/sec
【0046】
(先端隆起開始荷重測定試験)
図2に示す眼鏡レンズ用耐擦傷性評価装置を用いて耐擦傷性試験を行った。ハードコート膜及び反射防止膜を有する眼鏡レンズを用いて、下記の条件にてダイヤモンド針を用いて60gの荷重をかけながら、直線相対運動させて(工程(A−2))、その表面状態をコンフォーカル顕微鏡(レーザーテック社製、コンフォーカル顕微鏡H1200)で観察した(工程(B−2))。観察した結果を図6に示し、当該結果からx−x’断面プロファイル、y−y’断面プロファイルを求めて、それぞれ図7図8に示す。
上記の操作を、ダイヤモンド針の荷重60g、65g、70g、75g、80g、85gとして、測定を行い、コンフォーカル顕微鏡にて観察して測定された先端隆起高さを求めた。これらの結果をプロットして、先端隆起開始荷重を求めた(図9)。結果、先端隆起開始荷重は、57gであった。
(測定条件)
ダイヤモンド針の先端曲率半径:50μmR
荷重:一定荷重(60g、65g、70g、75g、80g、85gで計測)
直線相対運動速度(スクラッチ速度):10mm/sec
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の耐擦傷性評価試験においては、実際の使用態様に即した傷を形成することができるので、実使用において傷のつきにくい眼鏡であるか否かを評価することができる。
【符号の説明】
【0048】
1: 耐擦傷性試験装置
11: 当接荷重可変アーム
111:アーム本体
112:支軸台座
113:ダイヤモンド針
114:当接荷重可変装置
12: ステージ
121:ステージ本体
122:チャック
13:可動台座
15:台座
21:ガイド部材
L:眼鏡レンズ
図1
図2
図4
図7
図8
図9
図3
図5
図6