(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
医療分野に用いられる薬液ボトルや点滴用の輸液ボトル等の薬剤容器には、針でその薬液を取り出せるようにするため、そのキャップとして、ゴム栓や、外枠体の内側に弾性栓体(例えば、ゴムやエラストマー樹脂等)を設けたものが用いられている。後者のキャップに於いては、外枠体を薬剤容器の口部に溶着等することにより取り付けられる。そして、使用時には弾性栓体に、取り出し用チューブを備えた注射針を突き刺し、薬剤容器を上側にし、キャップを下側に配置することにより、当該取り出し用チューブを介して容器内の輸液を取り出す。また、この様な医療用キャップには、薬液や輸液の漏洩防止や空気に触れることによる変質を防止するため、密閉性が求められる。
【0003】
前記医療用キャップとしては、例えば、弾性栓体の接液面と外枠体の底面保持部の上部とが融着しており、かつ前記弾性栓体の側面部と前記外枠体の側周部の内壁とは非融着状態で接触している構造のものが提案されている(下記特許文献1参照)。当該特許文献1によれば、ゴム特性が改善され、再シール性の向上も図れることが開示されている。
【0004】
しかし、従来の医療用キャップであると、弾性栓体と外枠体との密着が十分でない場合がある。この様な医療用キャップに於いては、針刺しの際に弾性栓体と外枠体の位置がずれて両者の間に空隙が生じたり、そのために2本目の針を刺すことや、再度針刺しを行うことが困難になるという問題がある。
【0005】
前記の問題を解決するため、下記特許文献2においては、弾性栓体の接液面が、円中心方向へ向かって凸の傾斜を有した医療用キャップが開示されている。当該医療用キャップであると、外枠体から弾性栓体の水平方向成分に圧力が加わった状態であるため、再シール性の向上及び針抜けの防止が可能になる。
【0006】
また、下記特許文献3においては、硬度30度〜55度、圧縮永久歪40%以下の熱可塑性のエラストマーと、当該熱可塑性のエラストマーの外周を該肉厚の40%以上にわたりリング状または円筒状に一体的に成形されたポリオレフィン系樹脂とからなる薬液容器用接合栓が開示されている。そして、当該特許文献3によれば、シール性が向上し、ビン針を抜いた場合でも薬液が外部に漏れることがないと記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されている医療用キャップ等であっても、液漏れや針抜けの発生防止が不十分であるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、弾性栓体と、当該弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、弾性栓体と支持体の位置ズレによる空隙の発生を防止し、針刺し時の液漏れがなく、また針抜けに対する保持力や復元力に優れるなど、密閉性の確保に優れた医療用キャップ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者等は、前記従来の問題点を解決すべく、医療用キャップ及びその製造方法について検討した。その結果、下記構成を採用することにより、前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係る医療用キャップは、前記の課題を解決するために、弾性栓体と、前記弾性栓体を内部で保持する支持体とを有する医療用キャップであって、前記支持体は、前記弾性栓体を複数で取り囲んで収容する内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備え、前記内部壁と外部壁の間隙には、当該内部壁及び弾性栓体を押圧する押圧壁を少なくとも1つ備えた内栓が設けられており、前記押圧壁は前記外部壁及び内部壁の接触面と溶着し、かつ、前記弾性栓体に対しても、複数の前記内部壁の間隙において接触して溶着しており、前記弾性栓体は、前記内部壁及び前記押圧壁から圧力が加えられていることを特徴とする。
【0012】
前記の構成によれば、弾性栓体は複数の内部壁の間隙において、押圧壁と接触して溶着した構造となっている。また、押圧壁は、外部壁及び内部壁との接触面において溶着した構造となっている。すなわち、前記構成の医療用キャップは、弾性栓体と内栓、及び内栓と支持体が相互に溶着した構造となっている。その為、例えば弾性栓体に針刺しをする際に、弾性栓体と支持体の位置ズレにより空隙が生じるのを防止することができる。さらに、液漏れの発生を防止し密閉性の確保が図れる。また、前記内栓の押圧壁は支持体に於ける外部壁と内部壁の間隙に位置し、弾性栓体は内部壁及び押圧壁から圧力が加えられているので、針抜けに対する保持力及び復元力に優れ、更に針抜き後の再シール性も良好である。
【0013】
前記の構成に於いて、前記弾性栓体と前記内部壁は両者の接触面で溶着していることが好ましい。当該構成であると、弾性栓体は内栓だけでなく支持体とも溶着しているので、弾性栓体に対する針刺しの際の弾性栓体の位置ズレや、液漏れの発生を一層防止することができ、さらに密閉性の向上が図れる。
【0014】
本発明に係る医療用キャップの製造方法は、前記の課題を解決するために、前記に記載の医療用キャップの製造方法であって、前記弾性栓体を前記内部壁の内側に収容した前記支持体を作製する工程と、前記弾性栓体を内部に収容した前記支持体を下金型内に置き、当該支持体における前記内部壁を押圧するための押圧部を備えた上金型を用いて、当該内部壁を中心方向に押圧した状態で型閉じして、前記内栓の成形用のキャビティを形成する工程と、前記キャビティ内に溶融樹脂を注入して、前記内部壁と外部壁の間隙に、当該内部壁及び弾性栓体を押圧する押圧壁を備えた内栓を成形する工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
前記の方法に於いては、先ず、内部に前記弾性栓体を備えた前記支持体を作製した後に、前記内栓を成形するものであり、当該内栓の成形にあたっては、内部壁を中心方向に押圧しながら行う。このため、製造される医療用キャップにおいては、弾性栓体が押圧壁から直接、及び内部壁を介して間接に圧力が加えられた状態となっている。その結果、前記の方法であると、針抜けに対する保持力及び復元力に優れ、更に針抜き後の再シール性を向上させた医療用キャップを製造することができる。
【0016】
また前記の方法により成形される内栓は、その押圧壁が外部壁と内部壁の間隙に位置する様に成形されるので、当該押圧壁と外部壁及び内部壁との接触面は溶着した構造となっている。さらに、押圧壁は、内部壁と内部壁の間隙において弾性栓体と接触しており、この接触部分で溶着した構造になっている。すなわち、前記の方法であると、弾性栓体と内栓、及び内栓と支持体が相互に溶着した構造の医療用キャップを製造することが可能になる。その結果、例えば弾性栓体に対する針刺しの際に、弾性栓体と支持体の位置ズレにより空隙や液漏れの発生を防止し、密閉性に優れた医療用キャップを提供することができる。
【0017】
前記の方法に於いては、前記上金型として、当該上金型と下金型との型閉じの際に、前記弾性栓体の周縁部を押圧するリング部が設けられたものを用いることが好ましい。これにより、型閉じした上金型と下金型で構成されるキャビティに溶融樹脂を注入した際に、当該溶融樹脂が弾性栓体と上金型の隙間に流れ込むのを防止することができる。その結果、内栓が弾性栓体の針刺面又は接液面を覆う様に成形されるのを防ぐことができる。
【0018】
前記の方法に於いて、前記弾性栓体を内部に収容した前記支持体の作製工程は、当該弾性栓体を金型の内部に載置した状態で当該支持体を成形することにより、前記弾性栓体と前記内部壁が接触面で溶着した支持体を作製する工程であってもよい。これにより、弾性栓体を内栓だけでなく支持体における内部壁とも溶着させることができるので、弾性栓体に対する針刺しの際の弾性栓体の位置ズレや、液漏れの発生を一層防止し、さらに密閉性にも優れた医療用キャップを製造することができる。
【0019】
また、前記の方法に於いて、前記弾性栓体を内部に収容した前記支持体の作製工程は、当該支持体の成形後に、前記内部壁の内側に当該弾性栓体を収容させることにより、前記弾性栓体と前記内部壁が接触面で溶着していない支持体を作製する工程であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の医療用キャップは、弾性栓体と、これを内部で保持する支持体とを有するものであり、前記支持体は、前記弾性栓体を複数で取り囲んで収容する内部壁と、前記内部壁を取り囲む外部壁とを備えている。また、前記内部壁と外部壁の間隙には、内部壁及び弾性栓体を押圧する押圧壁を少なくとも1つ備えた内栓が設けられており、前記押圧壁は前記外部壁及び内部壁の接触面と溶着している。さらに、前記弾性栓体は、複数の内部壁の間隙において押圧壁と接触して溶着している。この為、例えば弾性栓体に針刺しをする際に、弾性栓体と支持体の位置ズレにより空隙が生じるのを防止することができる。さらに、液漏れの発生を防止し密閉性の確保が図れる。また、弾性栓体は押圧壁から直接、及び内部壁を介して間接に圧力が加えられているので、針抜けに対する保持力及び復元力に優れ、更に針抜き後の再シール性も良好である。
【0021】
本発明の医療用キャップの製造方法は、内部に前記弾性栓体を備えた前記支持体を作製した後に、前記内栓を成形するものであり、当該内栓の成形にあたっては、内部壁を中心方向に押圧しながら行う。そのため、弾性栓体が押圧壁から直接、及び内部壁を介して間接に圧力が加えられた状態の医療用キャップを得ることができる。その結果、針抜けに対する保持力及び復元力に優れ、更に針抜き後の再シール性を向上させたものにできる。また、前記の方法においては、内栓は、その押圧壁が外部壁と内部壁の間隙に位置する様に成形されるので、当該押圧壁と外部壁及び内部壁との接触面は溶着した構造にすることができる。さらに、内部壁は複数設けられているので、押圧壁は、複数の当該内部壁の間隙において弾性栓体と接触し溶着した構造にすることができる。すなわち、前記の方法であると、弾性栓体と内栓、及び内栓と支持体が相互に溶着した構造の医療用キャップを製造することができるため、例えば弾性栓体に対する針刺しの際に、弾性栓体と支持体の位置ズレにより空隙や液漏れの発生を防止し、密閉性に優れた医療用キャップを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(医療用キャップ)
本実施の形態1に係る医療用キャップについて、
図1〜
図4を参照しながら以下に説明する。但し、説明に不要な部分は省略し、また説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。
図1は、本実施の形態に係る医療用キャップを説明するための断面模式図である。また、
図2は前記医療用キャップにおける弾性栓体を備えた支持体を説明するための断面模式図であって、同図(a)は支持体の内部に弾性栓体が一体的に設けられた状態を表し、同図(b)は前記弾性栓体を省略し支持体のみを表す。
図3は、内部壁と押圧壁の溶着している様子を表す模式図である。
図4は、前記医療用キャップにおける内栓を説明する為の断面模式図である。
【0024】
図1(a)に示すように、本実施の形態に係る医療用キャップ10は、支持体1、弾性栓体2及び内栓3を少なくとも備える。
前記支持体1は、その内部で弾性栓体2を保持することが可能であり、具体的には、当該弾性栓体2を取り囲んで収容する内部壁12と、内部壁12を取り囲む外部壁11とを少なくとも一体的に備えている(
図2(a)参照)。内部壁12は弾性栓体2との接触面において溶着しており、これにより、支持体1と弾性栓体2を一体的な構造にすることができる。但し、本発明に於いては、内部壁12と弾性栓体2は溶着していなくてもよい。尚、前記「溶着」とは、後述の通り、支持体1を射出成形等により成形する際に注入される溶融樹脂の熱により、これに接した弾性栓体2の表面が溶融した結果、当該支持体1の成形後に、支持体1と弾性栓体2とがその接触面において結合した状態にあることを意味する。
【0025】
前記内部壁12は、
図2(b)に示すように、環状に複数配置されている。また、各内部壁12同士は、相互に離間した状態で配置されている。隣り合う内部壁12同士の離間距離は特に限定されず、医療用キャップ10の直径や内部壁12の数に応じて適宜設定することができる。但し、各内部壁12は等間隔に配置されているのが好ましい。これにより、内部壁12を介して弾性栓体2に加える圧力に偏りが生じるのを防止することができる。また、内部壁12の数も特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。例えば、内部壁12は対角線上に対となる様に配置してもよい。
【0026】
内部壁12は、その一方の端部において、押圧壁31の押圧面の端部と溶着している(
図3参照)。また、内部壁12の他方の端部は、前記押圧壁31と隣り合う他の押圧壁31の押圧面の端部と溶着している。これにより、内栓3を支持体1と一体的に結合させることができ、内栓3の脱落を防止することができる。尚、ここでいう「溶着」とは、内栓3を射出成形等により成形する際に注入される溶融樹脂の熱により、これに接した内部壁12の表面が溶融した結果、当該内栓3の成形後に、内部壁12と押圧壁31の接触面において結合した状態にあることを意味する。
【0027】
前記内部壁12の厚さは特に限定されないが、0.1mm〜2.5mmの範囲内が好ましく、0.2mm〜1mmの範囲内がより好ましい。また、内部壁12の幅及び隣り合う内部壁12の間隙の距離はその数や弾性栓体2の大きさに応じて、適宜設定することができる。内部壁12の幅は、通常は1.5mm〜37mmの範囲内が好ましく、2mm〜30mmの範囲内がより好ましい。また、隣り合う内部壁12の間隙の距離は、通常は0.3mm〜30mmの範囲内が好ましく、1mm〜20mmの範囲内がより好ましい。前記間隙の距離を0.3mm以上にすることにより、内部壁12が中心方向に押圧される際、隣り合う内部壁12同士の接触を回避することができる。その一方、前記間隙の距離を30mm以下にすることにより、弾性栓体2に加えられる圧力の偏りを小さくすることができる。
【0028】
内部壁12の高さは特に限定されないが、
図2(a)に示すように弾性栓体2をその内部に収容したときに、当該弾性栓体2の高さと同じか、あるいは高い方が好ましい。これにより、内部壁12は弾性栓体2の側周面23を覆う様にして収容し、かつ、効果的に弾性栓体2に圧力を加えることできる。前記内部壁12の高さは弾性栓体2の高さにもよるが、通常は2.5mm〜14mmの範囲内が好ましく、3mm〜11mmの範囲内がより好ましい。
【0029】
また、内部壁12の形状は特に限定されるものではない。例えば、
図2(b)に示すように、内部壁12の断面形状が頂部に向かうに従い先細りとなる形状であってもよい。これにより、外部壁11との間隙を、頂部では広くすると共に、底部に向かうに従い狭くすることができる。その結果、後述の通り、弾性栓体2に対して圧力が加わるように、内栓3の押圧壁31を成形することが容易になる。その一方、内部壁12の底部の厚さを頂部と同等又は薄くしてもよい。これにより、内部壁12の底部に於いても弾性栓体2に加える圧力を大きくすることができる。尚、内部壁12の厚さは、前述の数値範囲内で適宜設定することができる。
【0030】
また、内部壁12の底部には、弾性栓体2を載置可能にする載置部13が設けられている。載置部13は、内部壁12から中心方向に環状に張り出す様にして設けられている。これにより、弾性栓体2の針刺面22の周縁部24を支持することができる。その結果、弾性栓体2が支持体1から針刺面22側の外部に押し出されるのを防止することができる。更に、載置部13には、弾性栓体2との嵌合を可能にする環状の突条部が設けられていてもよい。これにより、弾性栓体2の位置ズレや脱落を一層防止することができる。尚、本実施の形態に於いては、載置部13が環状の場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、所定の間隔で複数の載置部を設けた態様であってもよい。この場合、隣接する載置部の離間距離は、弾性栓体2が支持体1から押し出されない程度に支持できる態様であれば、特に限定されない。また、弾性栓体2は押圧壁31と溶着しているので、弾性栓体2の直径が小さい場合等で針刺面22の露出面積を広くしたいときには、載置部13を省略してもよい。
【0031】
外部壁11は、内栓3との接触面において溶着している(詳細については後述する。)。これにより、内栓3を支持体1と一体的に結合させることができ、内栓3の脱落を防止することができる。尚、ここでいう「溶着」とは、内栓3を射出成形等により成形する際に注入される溶融樹脂の熱により、これに接した外部壁11の表面が溶融した結果、当該内栓3の成形後に、外部壁11と内栓3の接触面において結合した状態にあることを意味する。
【0032】
更に、外部壁11の頂部には、
図1(a)に示すように、輸液容器や採血管、バイアル瓶等の薬剤容器の口部との溶着等による接合を容易にするため、外部壁11の外側に張り出したフランジ部17が設けられている。但し、本発明はこれに限定されず、例えば、
図1(b)に示すように、外部壁11の頂部にフランジ部17が設けられていない態様の医療用キャップ10’であってもよい。
【0033】
前記外部壁11の高さは、前記内部壁12よりも高い方が好ましい。内部壁12よりも低いと、薬剤容器の口部に医療用キャップ10を取り付ける際に、内部壁12がその取付けを阻害する場合があるからである。前記外部壁11の高さは、具体的には4mm〜20mmの範囲内が好ましく、5mm〜18mmの範囲内がより好ましい。また、外部壁11の厚さは特に限定されないが、支持体1の形状を保持させるという観点からは、内部壁12よりも厚い方が好ましい。前記外部壁11の厚さは、具体的には0.3mm〜3mmの範囲内が好ましく、0.4mm〜2mmの範囲内がより好ましい。
【0034】
前記外部壁11と内部壁12の間隙の距離は、後述する内栓3の押圧壁31の形状等に応じて適宜設定することができる。具体的には、0.3mm〜5mmの範囲内が好ましく、0.5mm〜2mmの範囲内であることがより好ましい。また、間隙の距離は、前記数値範囲内に於いて、外部壁11及び内部壁12の底部に向かうに従い狭くしてもよい。
【0035】
前記支持体1を構成する材料としては、合成樹脂のうち、医療用途としての安全性が確立されたものであれば足りる。中でも熱可塑性樹脂を用いるのが一般的である。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の従来医療用途に用いられている樹脂が好ましいが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
弾性栓体2は、接液面21を上側にし、針刺面22を下側にして支持体1に於ける内部壁12の内部に収容されるのが好ましい。ここで、前記接液面21とは、薬液等が接する面を意味する。また、針刺面22とは、本実施の形態に係る医療用キャップ10が薬剤容器に装着され、薬液等を取り出す際に、注射針により針刺しが行われる面を意味する。
【0037】
弾性栓体2は、複数の内部壁12の間隙において内栓3の押圧壁31と接触しており、この接触部分において溶着している。ここでいう「溶着」とは、内栓3を射出成形等により成形する際に注入される溶融樹脂の熱により、これに接した弾性栓体2の表面が溶融した結果、当該内栓3の成形後に、弾性栓体2と押圧壁31がその接触部分において結合した状態にあることを意味する。
【0038】
また、前記弾性栓体2の全体形状は特に限定されないが、例えば
図1に示す円柱状のものが好ましい。また、弾性栓体2の針刺面22側に、前記環状の突条部との嵌合が可能な環状溝が設けられていてもよい。
【0039】
弾性栓体2の特性については特に限定されず、医療用注入針等が貫通できる程度の硬度を有していればよい。また、通常の保管の際に容易に変形したり、破損したりしない程度の形状保持性を有するものが好ましい。弾性栓体2の硬度は、JIS K6253法による測定に於いて、A5〜A50であることが好ましく、A10〜A45であることがより好ましい。
【0040】
前記弾性栓体2に用いる材料としては、例えば、ゴムや熱可塑性エラストマーが挙げられる。前記ゴムとしては特に限定されず、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレン−イソブチレンゴム等が例示できる。また、熱可塑性エラストマーとしては特に限定されず、例えば、オレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ塩化ビニル系、ポリブタジエン系等が例示できる。中でも共役ジエン系の熱可塑性エラストマーに水素添加した熱可塑性エラストマー(SEBS、SEPS、HSBR、SEBR、CEBC)が好適である。
【0041】
弾性栓体2の直径は特に限定されず、弾性栓体2が内部壁12と溶着した態様の場合では、当該弾性栓体2の直径は内部壁12の内径と同一となる。また、弾性栓体2が内部壁12と溶着していない態様の場合では、前記支持体1に於ける内部壁12の内部に収容できる程度であればよい。但し、弾性栓体2の直径が小さ過ぎると、弾性栓体2が溶着しない状態で支持体1に収容されている場合には、当該内部壁12をその直径が縮小する方向に変形させても弾性栓体2の側周面23と密着させることが困難になるので好ましくない。具体的には、弾性栓体2の直径は10mm〜30mmの範囲内で設定される。更に、弾性栓体2の直径は、支持体1の内部壁12の内径に対し、0.03mm〜1mmの範囲で小さめに設定されていることが好ましい。これにより、内部壁12の内側への弾性栓体2の挿入の容易性を確保している。更に、弾性栓体2の厚みは内部壁12の高さと同一又は小さければ特に限定されないが、好ましくは2.5mm〜12mm、より好ましくは3mm〜9mmの範囲内である。また、針刺面22側に環状溝を設ける場合、その深さは特に限定されないが、好ましくは0.2mm〜2mm、より好ましくは0.3mm〜1.5mmの範囲内である。
【0042】
弾性栓体2の製造方法としては特に限定されず、例えば、熱可塑性エラストマーを圧潰しながら行うコンプレッション成形や射出成形により製造可能である。
【0043】
前記内栓3は、
図4に示すように、複数の押圧壁31が環状壁32により結合された構造であり、隣接する押圧壁31は離間して設けられている。各押圧壁31が離間して設けられているのは、内栓3の成形の際に内部壁12を押圧するための押圧部(詳細については後述する。)が上金型に設けられているためである。また内栓3の押圧面においては、
図4に示すように、複数の突条部36が設けられており、当該突条部36は複数の内部壁12の間隙に位置している。そして、内栓3と弾性栓体2は、当該突条部36において接触し溶着している。また、各押圧壁31は隣り合う内部壁12の間の間隙に位置する様に設けられているのが好ましい。これにより、複数の内部壁12及び弾性栓体2に対して均等に押圧力を加えることができる。但し、押圧壁31の数は特に限定されず、少なくとも1つが設けられていればよい。
【0044】
前述の通り、内栓3は外部壁11との接触面において溶着している。より詳細には、内栓3の押圧壁31の押圧面とは反対側の面が、外部壁11と溶着している。また、内栓3の環状壁32も外部壁11との接触面において溶着している。
【0045】
押圧壁31の高さは、当該押圧壁31が外部壁11及び内部壁12の間隙に溶融樹脂が流れ込むことにより成形されるものであるため、基本的には当該間隙の深さと同一になる。
【0046】
また、内栓3には、弾性栓体2の接液面21側の周縁部25を支持するための支持部34が設けられていることが好ましい。これにより、弾性栓体2が接液面21側に押し出されるのを防止することができる。支持部34の厚さや内径は、弾性栓体2を十分に支持し得る程度であれば特に限定されない。但し、内径が小さすぎると、弾性栓体2に対して針刺しを行う際の針刺し面積が小さくなり過ぎるので好ましくない。前記支持部34は、押圧壁31の内側面に環状に設けられていることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、所定の間隔で複数の支持部が設けられた構造であってもよい。この場合、隣接する支持部の離間距離は、支持体1から押し出されない程度に、弾性栓体2を支持できる態様であれば、特に限定されない。尚、支持部34には、弾性栓体2との嵌合を可能にする環状の突条部が設けられていてもよい。これにより、弾性栓体2の位置ズレや脱落を一層防止することができる。
【0047】
押圧壁31の厚さは特に限定されないが、外部壁11と内部壁12の間隙の大きさや、弾性栓体2の圧縮特性等に応じて適宜設定される。具体的には、押圧壁31の厚さは、0.3mm〜6mmの範囲内が好ましく、0.5mm〜3mmの範囲内がより好ましい。
【0048】
内栓3に用いられる構成材料は特に限定されない。例えば、前記支持体1に用いられる構成材料と同様のものを採用することができる。
【0049】
尚、本実施の形態に於いては、内栓3に隔膜部を備えた構成の医療用キャップであってもよい。隔膜部は、弾性栓体2の接液面21を被覆するためのものである。弾性栓体2を構成する熱可塑性エラストマー材料は、ゴム材料に比べて極めて衛生的な材料であるが、使用する薬液によっては、弾性栓体2との接触が好ましくないものもある。従って、前記隔膜部を設けることにより、薬液が接触する箇所を容器と同一又は類似した性質の材料とすることができる。
【0050】
前記隔膜部としては、弾性栓体2に融着させたラミネートフィルム、インサートにより内栓3形成時に接合させたフィルム、内栓3と一体成形された膜部等が挙げられる。前記ラミネートフィルムとしては特に限定されず、前記合成樹脂からなる内栓3と融着可能なものが使用される。具体的には、例えば フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル樹脂又はこれらの混合物等を主成分とするプラスチツクフィルムが挙げられる。隔膜部の厚さは特に限定されないが、0.01mm〜1mmの範囲内が好ましく、0.03mm〜0.5mmの範囲内がより好ましい。隔膜部の厚さを1mm以下にすることにより、針刺しの際の貫通を可能にする。その一方、隔膜部の厚さを0.01mm以上にすることにより、当該隔膜部が破断等するのを防止することができる。
【0051】
本実施の形態に係る医療用キャップ10においては、弾性栓体2に対してその中心方向に、押圧壁31から直接、及び内部壁12を介して間接に圧力が加わるように、当該押圧壁31を備えた内栓3が成形されている。弾性栓体2に加えられる圧力は、内部壁12や押圧壁31の形状及び厚さにもよるが、通常は、弾性栓体2の中心軸に於ける針刺面方向に向かって作用する。また、弾性栓体2に加えられる圧力は針刺面22側に向かうに従い小さくなる。この作用により、弾性栓体2自身が有する復元力が弾性栓体2の側周面の方向に働き拡張しようとする結果、弾性栓体2と内部壁12が溶着していない場合でも、内部壁12との密着性の向上が図れる。その結果、弾性栓体2の針刺面22に針刺しを行った際には、液漏れの発生を防止し、かつ、針抜けに対する保持力及び復元力も向上させることができる。更に、針を抜いたときには、弾性栓体2は内部壁12からの中心軸に於ける針刺面方向に向かって押しやられる力を受けるので、針で生じた穴を閉塞させることができる。これにより、針抜け後の再シール性にも優れたものにできる。尚、弾性栓体2の接液面21側及び針刺面22側は、それぞれ中央部が凸状に僅かに膨出した形状になる場合がある。また、本実施の形態では、医療用キャップとして横断面が円形状のものを例にして説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば楕円形状のものなど、本発明の作用効果を奏する形状であれば特に限定されない。
【0052】
(医療用キャップの製造方法)
次に、本実施の形態に係る医療用キャップの製造方法について説明する。
図5〜
図7は、医療用キャップの製造方法を説明するための断面模式図である。
図8は、前記医療用キャップにおける内栓を成形する際に用いる第2上金型の説明図であって、同図(a)は内部から見たときの平面図であり、同図(b)は同図(a)におけるA−A線矢視断面図である。
図9は、前記内栓の成形時おける前記第2上金型における押圧部と内部壁12の位置関係を表す模式図である。
【0053】
前記医療用キャップの製造方法は、弾性栓体2を内部に収容した支持体1を作製する工程と、弾性栓体2を内部に収容した支持体1を金型内に置き、内部壁12を中心方向に押圧した状態で金型の型閉じをして、内栓3の成形用のキャビティを形成する工程と、キャビティ内に溶融樹脂を注入することにより内栓3を成形する工程とを含む。
【0054】
先ず、
図5(a)に示すように、弾性栓体2を内部に収容した支持体1の作製工程は、第1上金型41と共通下金型42を用いて、支持体1を射出成形する。第1上金型41はコア(凸型)であり、共通下金型42はキャビティ(凹型)である。第1上金型41と共通下金型42は、型閉じをした際に、支持体1の成形が可能なキャビティが形成される構造となっている。また、第1上金型41には、予め作製しておいた弾性栓体2を収容することが可能な収容部43が設けられている。
【0055】
支持体1の成形は、
図5(b)及び5(c)に示すように、前記収容部43に弾性栓体2を収容した状態で、第1上金型41と共通下金型42を型閉じし、その後、
図5(d)に示すように、支持体1の構成材料となる樹脂を溶融した溶融樹脂51をキャビティ内に注入して行う。また、本実施の形態に於いては、弾性栓体2の収容は、針刺面22が共通下金型42側に向く様に行う。射出圧力としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。射出された溶融樹脂は、型閉じされた状態で冷却される。冷却時間は特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。型開き後、
図6(a)及び7(a)に示すように、外部壁11及び内部壁12を備えた支持体1が形成される。また、弾性栓体2は内部壁12との接触面において溶着している。
【0056】
尚、弾性栓体2の収納は支持体1の成形後に行ってもよい。この場合、それぞれ支持体1と弾性栓体2を作製した後に、支持体1の内部壁12に弾性栓体2を収納する工程が付加される。また、この場合、弾性栓体2と内部壁12とは、接触面において非溶着の状態となっている。
【0057】
次に、内栓3の成形を行う(
図6(b)〜6(e)参照)。内栓3の成形に於いては、
図8に示す第2上金型44を用いて行う。第2上金型44はコア(凸型)である。第2上金型44と共通下金型42は、型閉じをした際に、内栓3の成形が可能なキャビティが形成される構造となっている。また、第2上金型44には、内部壁12の頂部を弾性栓体2の中心方向に押圧することが可能な複数の突起状の押圧部45が設けられている。各押圧部45は、内部壁12に対応する位置に環状に配置されている。
【0058】
前記押圧部45の高さHは特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる(
図8(b)参照)。但し、高さHの下限については、型閉じの際に、内部壁12を押圧できる程度以上であることが好ましい。また、高さHの上限については、外部壁11と内部壁12の間隙の深さよりも小さいことが好ましい。尚、押圧部45の高さHとは、基台部47から押圧部45の先端までの距離を意味する。
【0059】
前記押圧部45の幅wは、少なくとも内部壁12の幅Wよりも小さいことが好ましい(
図9参照)。これにより、成形される押圧壁31と内部壁12の溶着を可能にする。また、同図からも分かる通り、押圧部45は内部壁12に対し略中心部分を押圧するように配置されているのが好ましい。
【0060】
前記押圧部45の形状としては特に限定されないが、その内側の押圧面49は先端に向かうに従い曲面状に傾斜して先細りとなるものが好ましい。このような押圧面49であると、第2上金型44と共通下金型42の型閉じを行う際に、内部壁12を介して弾性栓体2に対し、その中心方向に除々に押圧力を加えることができる。また、内部壁12を押圧する部分が押圧部45の内側の押圧面49が曲面状に傾斜した面であるため、第2上金型44と共通下金型42の型閉じを円滑に行うことができる。
【0061】
また、前記第2上金型44の環状に配置された押圧部45の内側には、さらに環状のリング部46が設けられている(
図8参照)。当該リング部46は、第2上金型44と共通下金型42の型閉じの際に、弾性栓体2の接液面21側の周縁部25を押圧するものである。これにより、金型内に溶融樹脂を充填した際に、当該溶融樹脂が弾性栓体2の接液面21側と第2上金型44の隙間に流れ込むのを防止することができる。
【0062】
前記リング部46の高さhは特に限定されないが、第2上金型44と共通下金型42の型閉じの際に、押圧された弾性栓体2の接液面21側の膨らみを一定程度収容できるものであればよい。リング部46の直径は弾性栓体2の接液面21の直径よりも小さいことが好ましく、これにより接液面21の周縁部25にリング部46を当接させることができる。
【0063】
ここで、内栓3の成形過程の詳細を
図7(a)〜7(c)に示す。
図7(b)に示すように、第2上金型44と共通下金型42の型閉じを行うと、第2上金型44の押圧部45が内部壁12を押圧する。その結果、第2上金型44と共通下金型42の型閉じが完了した状態では、弾性栓体2は、内部壁12を介して押圧部45から、その中心に向かう方向に圧力を受けている。また、内栓3の成形を可能にするキャビティも形成されている。
【0064】
次に、
図7(c)に示すように、前記キャビティ内に、内栓3の構成材料となる、樹脂を溶融した溶融樹脂52を樹脂注入口48から注入する。射出圧力としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。射出された溶融樹脂52は、型閉じされた状態で冷却される。冷却時間は特に限定されず、適宜必要に応じて設定され得る。型開き後、
図6(e)に示すように、押圧壁31を備えた内栓3が形成される。内栓3の押圧壁31は、隣り合う内部壁12の間隙に於いて、弾性栓体2と溶着している。また、内栓3の環状壁32は外部壁11の内側面と溶着している。
以上により、本実施の形態に係る医療用キャップ10が得られる。
【0065】
前記製造方法により得られる医療用キャップ10において、弾性栓体2には、内部壁12及び押圧壁31によって、
図1の矢印で示す方向、すなわち弾性栓体2の中央部の下方に向かって押圧力(カシメ力)が働いている。この押圧力の作用により、弾性栓体2自身が有する復元力が弾性栓体2の側周面23の方向に働き拡張しようとする結果、内部壁12との密閉性が向上する。その結果、針抜けに対する保持力、及び復元力が向上し、針抜け後の再シール性にも優れたものにできる。
【0066】
尚、本実施の形態に於いては、第2上金型として環状のリング部46を備えた態様を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図10に示すように、前記リング部46に代えて、円弧状に窪んだ凹部63を備えた第2上金型64を用いてもよい。
図10は、医療用キャップにおける内栓を成形する際に用いる第2上金型64の説明図であって、同図(a)は内部から見たときの平面図であり、同図(b)は同図(a)のB−B線矢視断面図である。前記凹部63の深さは特に限定されないが、第2上金型64と共通下金型42の型閉じの際に、押圧された弾性栓体2の接液面21側の膨らみを収容できる程度の空間が形成される程度であることが好ましい。また、前記凹部63の直径は弾性栓体2の接液面21の直径よりも小さいことが好ましく、これにより接液面21の周縁部に凹部63の周縁部を当接させることができ、溶融樹脂が弾性栓体2の接液面21と第2上金型64の隙間に流れ込むのを防止することができる。