【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1の検出部を示す要部拡大図、
図3は、
図1の内側キャップと外側キャップをユニット化した状態を示す斜視図、
図4は、
図1のドレーン部を示す要部拡大図、
図5は、本発明に係る車輪用軸受装置の外方部材の研削方法を示す説明図、
図6は、本発明に係る車輪用軸受装置の組立方法を示す説明図、
図7(a)は、
図6のパルサリングの組立方法を示す説明図、(b)は、(a)の変形例を示す説明図、
図8は、
図6の内側キャップと外側キャップの組立方法を示す説明図を示す説明図、
図9(a)は、
図11の内側キャップと外側キャップの組立方法を示す説明図、(b)は、(a)の変形例を示す説明図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0033】
この車輪用軸受装置は従動輪側の第3世代と呼称され、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0034】
ハブ輪4は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。車輪取付フランジ6にはハブボルト6aが周方向等配に植設されている。
【0035】
内輪5は、外周に他方(インナー側)の内側転走面5aが形成され、ハブ輪4の小径段部4bに圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成すると共に、小径段部4bの端部を塑性変形させて形成した加締部4cによって所定の軸受予圧が付与された常態で軸方向に固定されている。これにより、軽量・コンパクト化を図ることができる。なお、内輪5および転動体3、3はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0036】
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aをはじめ、後述するシール8のシールランド部となる車輪取付フランジ6のインナー側の基部6bから小径段部4bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部4cは鍛造加工後の表面硬さは生のままとされている。これにより、車輪取付フランジ6に負荷される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、内輪5の嵌合部となる小径段部4bの耐フレッティング性が向上すると共に、微小なクラック等の発生がなく加締部4cの塑性加工をスムーズに行うことができる。
【0037】
外方部材2は、外周にナックル9に取り付けられるための車体取付フランジ2bを一体に有し、この車体取付フランジ2bのインナー側にナックル9に嵌合される円筒状のパイロット部2cが形成され、内周にハブ輪4の内側転走面4aに対向するアウター側の外側転走面2aと、内輪5の内側転走面5aに対向するインナー側の外側転走面2aが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3、3が収容され、保持器7、7によって転動自在に保持されている。そして、外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のアウター側の開口部にシール8が装着されると共に、インナー側の開口部には後述する内側キャップ15が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0038】
外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0039】
シール8は、外方部材2のアウター側の端部内周に圧入された芯金10と、この芯金10に加硫接着によって一体に接合されたシール部材11とからなる一体型シールで構成されている。芯金10は、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)や冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。
【0040】
一方、シール部材11はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延び、基部6bの外周面に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップ11aとダストリップ11bおよび径方向内方に傾斜して延び、基部6bの外周面に所定の径方向シメシロを介して摺接するグリースリップ11cを有している。そして、芯金10の外表面を覆うように、シール部材11が回り込んで接合され、所謂ハーフメタル構造をなしている。これにより、気密性を高めて軸受内部を保護することができる。
【0041】
なお、シール部材11の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0042】
なお、ここでは、転動体3、3にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、これに限らず、円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受で構成されたものであっても良い。
【0043】
本実施形態では、内輪5の外周にパルサリング12が圧入されている。このパルサリング12は、
図2に拡大して示すように、円環状に形成された支持環13と、この支持環13の側面に加硫接着等で一体に接合された磁気エンコーダ14とで構成されている。この磁気エンコーダ14は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入され、周方向に交互に磁極N、Sが着磁されて車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。
【0044】
支持環13は強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)や防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工によって断面略L字状に形成され、内輪5に圧入される円筒部13aと、この円筒部13aから径方向外方に延びる立板部13bとを有している。そして、この立板部13bのインナー側の側面に磁気エンコーダ14が接合されている。
【0045】
ここで、外方部材2に内側キャップ15が装着され、外方部材2のインナー側の開口部を閉塞している。この内側キャップ15は、耐食性を有し、後述する回転速度センサ21の感知性能に悪影響を及ぼさないように、非磁性体のオーステナイト系ステンレス鋼板からプレス加工によってカップ状に形成され、外方部材2のインナー側の端部内周に圧入される円筒状の嵌合部15aと、この嵌合部15aの端部から径方向内方に延び、磁気エンコーダ14に僅かな軸方向すきまを介して対峙する円板部15bと、この円板部15bからアウター側に膨出する屈曲部15cを介して外方部材2のインナー側の開口部を閉塞する底部15dを備えている。
【0046】
本実施形態では、内側キャップ15のインナー側に、さらに外側キャップ(外側キャップ)16が圧入固定されている。具体的には、外方部材2の内側嵌合面19の開口部側(インナー側)に所定の段差19aを介して外側嵌合面20が形成され、外側キャップ16はこの外側嵌合面20に所定のシメシロを介して圧入されている。そして、内側キャップ15は外側キャップ16に予め嵌合されて一体化されている。
【0047】
外側キャップ16は冷間圧延鋼板からプレス加工によってカップ状に形成され、外方部材2の外側嵌合面20に圧入される円筒状の嵌合部16aと、この嵌合部16aから径方向外方に重合して延び、外方部材2のインナー側の端面2dに密着する鍔部16bと、この鍔部16bから外方部材2のインナー側の開口部を閉塞する底部16cとを備えている。
【0048】
外側キャップ16の嵌合部16aの開口端部には段部16aaが形成され、この段部16aaに内側キャップ15の嵌合部15aの開口端部15aaが嵌着されている。この場合、内側キャップ15の嵌合部15aと段部16aaが所定の幅寸法に設定され、内側キャップ15の嵌合部15aの開口端部15aaを段部16aaの壁面に衝合するまで圧入することにより、外側キャップ16の嵌挿孔17に装着される回転速度センサ21と磁気エンコーダ14とのエアギャップを精度良く設定することができると共に、外側キャップ16の板厚t2よりも内側キャップ15の板厚t1を小さく設定しても圧入時の変形を防止することができる。
【0049】
そして、この接合部にNBR等の合成ゴムからなる弾性部材18が加硫接着によって一体に接合されている。この弾性部材18は、外側キャップ16の嵌合部16aの外径より径方向外方に突出する環状突起18aを備え、重合した内側キャップ15の嵌合部15aの外径に密着している。そして、外方部材2の外側嵌合面20が研削仕上げでRa1μm以下に規制されると共に、この環状突起18aが外側キャップ16の嵌合時に外方部材2の外側嵌合面20に弾性変形して圧着され、内側キャップ15がハーフメタル構造をなして嵌合部15aの気密性を高めている。
【0050】
外側キャップ16の底部16cには磁気エンコーダ14に対応する水平位置に嵌挿孔17が形成され、この嵌挿孔17に後述する回転速度センサ21が嵌挿される。このように、外側キャップ16が外方部材2の端面2dに密着する鍔部16bを備えているので、剛性を高めて回転速度センサの位置決め精度を向上させることができると共に、嵌挿孔17が水平位置に形成され、この嵌挿孔17に回転速度センサ21が装着されていれば、車輪からの横方向荷重により外方部材2と内方部材1が相対的に傾いた状態においても、回転速度センサ21と磁気エンコーダ14とのエアギャップ変動を抑制することができ、安定した検出精度を得ることができる。
【0051】
また、外側キャップ16の中心側に形成された穿孔22に固定ナット23が端部の拡径加締加工により固定されている。この固定ナット23は外側キャップ16の底部16cの軸受内方側(アウター側)に加締固定されている。固定ナット23の固定方法は、これ以外にも、例えば、溶接、接着、圧入等であっても良い。そして、外側キャップ16の嵌挿孔17に嵌挿された回転速度センサ21が、取付部材24を介して取付ボルト25を固定ナット23に締結することによって固定されている(
図1参照)。このように、本実施形態では、固定ナット23が外側キャップ16の底部16cの軸受内方側に固定されているため、取付ボルト25の締結により固定ナット23が底部16bの内側面に引き込まれ、簡便な固定ナット23の加締だけで脱落を防止することができる。
【0052】
回転速度センサ21は、ホール素子、磁気抵抗素子(MR素子)等、磁束の流れ方向に応じて特性を変化させる磁気検出素子およびこの磁気検出素子の出力波形を整える波形整形回路が組み込まれたIC等からなり、車輪の回転速度を検出してその回転数を制御する自動車のアンチロックブレーキシステムを構成している。そして、この回転速度センサ21が内側キャップ15の円板部15bに衝合または近接するまで挿入されている。これにより、所望のエアギャップが得られ、煩雑なエアギャップ調整を省いて組立作業性の向上が図れると共に、外側キャップ16との接合部に合成ゴムからなる弾性部材18が一体に接合されているので、気密性を維持した状態で軸受内部を確実に密封することができ、密封性の向上を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0053】
さらに、内側キャップ15と外側キャップ16を単なる円筒状の嵌合面に圧入した場合、内側キャップ15の圧入ストロークが増えて組立作業性が低下するだけでなく、圧入工程で薄肉の内側キャップ15が変形する恐れがある。本実施形態では、内側嵌合面19のインナー側に段差19aを介して外側嵌合面20が形成されているので、内側キャップ15の圧入ストロークを最小限に抑えて組立作業性を向上させると共に、圧入工程での内側キャップ15の変形を防止することができ、製品の信頼性を向上させることができる。
【0054】
外側キャップ16はステンレス系や鉄系の鋼板からプレス加工により形成され、鉄系の鋼板にはその後カチオン電着塗装によって全面防錆皮膜が形成されている。なお、カチオン電着塗装は、正電極に対して、製品側を負電極として通電するものであるが、負電極に対して、製品側を正電極として通電するアニオン型の電着塗装であっても良い。このアニオン型の電着塗装の場合、塗装色の安定性や焼付温度を低く設定できる特徴を備えているが、この種の外側キャップ16においては、防錆力と密着力に優れた強力な塗装膜が形成できるエポキシ樹脂系等からなるカチオン電着塗装の方が好ましい。
【0055】
本実施形態では、カチオン電着塗装の下地処理(前処理)としてリン酸亜鉛処理が施されている。このリン酸亜鉛処理により素材となる鋼材の表面が化学反応で粗面化されるため、塗料の食い付きが良くなって付着性が向上する。さらに、リン酸亜鉛処理の後にシーラー処理が施されていても良い。このシーラーは、一種の金属表面処理剤であり、例えば、30秒〜2分程度の短時間の浸漬、あるいは、スプレー処理を行うことにより、化成皮膜を形成することができる、所謂化成処理で、優れた塗膜密着性が確保できると共に、素材の保護皮膜が形成でき、強固な防錆機能と導電性を発揮することができる。換言すると、カチオン電着塗装の下地処理としてリン酸亜鉛処理が施されると共に、その上にシーラー処理が施されることによってリン酸亜鉛皮膜の微細な表面の平滑化により塗料電着時の空気の巻き込みを防止することができる。この空気の巻き込みがあると、塗膜にクレータ(凹凸等の不均一な表面)等の表面欠陥が生じることがあり好ましくない。
【0056】
このように、本実施形態では、外側キャップ16の外方部材2との当接部分にカチオン電着塗装からなる防錆皮膜が形成されると共に、カチオン電着塗装の下地処理としてリン酸亜鉛処理が施されているので、塗料の付着性が向上し、外方部材2への圧入時に防錆皮膜が容易に剥がれ落ちることなく、嵌合面の微小な凹凸を埋めて滑らかな表面を維持できると共に、外側キャップ16の嵌合部16aが長期間に亘って発錆するのを防止することができ、外方部材2の外側嵌合面20に密着するので外側嵌合面20の発錆を防止することができる。
【0057】
なお、外側キャップ16にカチオン電着塗装を行う前に予め加硫接着剤を塗布するが、この場合、外方部材2の外側嵌合面20およびインナー側の端面2dとの当接部分のみに塗布するのではなく、外側キャップ16の全表面に加硫接着剤を塗布することにより、固化した加硫接着剤が樹脂膜となり、良好な気密性を得ることもできる。
【0058】
内側キャップ15の板厚t1は、外側キャップ16の板厚t2よりも薄く設定されている。具体的には、外側キャップ16の板厚t2が1.0〜1.5mmに対して、内側キャップ15の板厚t1が0.2〜1.0mmに設定されている。これにより、エアギャップを小さく設定することが可能になり、検出精度を高めることができる。また、軽量化を図ることができると共に、加工性が向上して低コスト化を図ることができる。なお、この板厚t1が0.2mm未満では、内側キャップ15の形状を精度良く成形するのが難しくなると共に、1.0mmを超えると、エアギャップが大きくなって所望の磁気特性を得ることができず検出精度が低下する。
【0059】
また、本実施形態では、
図3に示すように、外側キャップ16の底部16cの径方向外方側にドレーン26が形成されている。このドレーン26は、嵌合部16aと底部16cの路面に近い側の膨出部27に形成されている。膨出部27は、底部16cからインナー側に所定の寸法Lだけ突出して形成されている。この膨出部27は、
図4に拡大して示すように、ナックル9が外方部材2の端面2dと面一ではなく、インナー側に突出している場合に有効である。すなわち、外側キャップ16の膨出部27にドレーン26を径方向に貫通して形成することにより、外側キャップ16内に外部から雨水等の異物が浸入したとしても、この膨出部27部分に流動落下し、ナックル9に妨害されることなく容易に異物を外部に効果的に排出することができる。
【0060】
次に、
図5を用いて外方部材2の研削方法を説明する。外方部材2は、旋削工程において、複列の外側転走面2a、2aと、インナー側の端部に、内側キャップ(図示せず)が圧入される内側嵌合面19と、この内側嵌合面19のインナー側に、所定の段差19aを介して外側キャップ16が圧入される外側嵌合面20が所定の研削取代をもって形成される。そして、高周波焼入れによる熱処理工程の後、研削工程において、複列の外側転走面2a、2aと、これら内側嵌合面19と外側嵌合面20が総型砥石29によって同時研削されている。
【0061】
研削加工は、外方部材2のインナー側の端部に形成されたパイロット部2cの円周方向2箇所に芯合わせ用のシュー30が摺接され、外方部材2のアウター側の端面2eにバッキングプレート31を衝合させた状態で回転させると共に、総型砥石29を一定方向に回転させて所望の形状・寸法に形成される。なお、総型砥石29は、予めロータリードレッサー(図示せず)によって所望の形状・寸法に成形され、スピンドルのクイル32に固定された状態で、外方部材2と位置決めされる。
【0062】
本実施形態では、内側嵌合面19と外側嵌合面20が、総型砥石29によって複列の外側転走面2a、2aと同時研削されているので、各嵌合面19、20の真円度や粗さ等の精度が向上し、嵌合部のシメシロが安定し嵌合面積が増加するので、安定した嵌合力が得られると共に、嵌合部の気密性が高くなる。また、同時研削によって加工工数を低減することができ、低コスト化を図ることができる。
【0063】
次に、
図6〜8を用いて車輪用軸受装置の組立方法を説明する。
図6に示すように、車輪用軸受装置を縦型、すなわち、軸心を垂直にし、ハブ輪4を図中下方にした状態で、車輪用軸受装置を受け台(図示せず)に載置し、外方部材2のインナー側の開口部側からパルサリング12を内輪5の外径に圧入すると共に、内側キャップ15、外側キャップ16を外方部材2の内側嵌合面19および外側嵌合面20に圧入する。この場合、内側キャップ15と外側キャップ16は、予め外側キャップ16の嵌合部16aの段部16aaに内側キャップ15の嵌合部15aの開口端部15aaを嵌着してユニット化(一体化)され、このユニット化された状態で、外方部材2に圧入される。以下、
図7、8を用いて、パルサリング12とユニット化された内側キャップ15と外側キャップ16の組立方法を詳細に説明する。
【0064】
パルサリング12の軸受装置への組立は、
図7(a)に示すように、車輪用軸受装置を縦型にして受け台28に載置し、内輪5の端面上に案内治具33を位置決め固定する。この案内治具33は、外周がフラットな軸状をなし、一端部に加締部4cを収容する環状溝33aが形成されると共に、他端部の外周にパルサリング12をセンタリングするためのテーパ面33bが形成されている。
【0065】
なお、案内治具33は、車輪取付フランジ6のアウター側の側面6cあるいはハブ輪4のアウター側の端面を軸方向の基準面とすると共に、ハブ輪4のアウター側の端部に形成したパイロット部6dを径方向の基準面としている。
【0066】
次に、パルサリング12を案内治具33のテーパ面33b上に載せ、圧入治具34によってこのパルサリング12を所定の位置まで圧入する。圧入治具34はカップ状をなし、一端部にパルサリング12を押圧する圧入部34aが凸設されると共に、外方部材2のインナー側の端面2dを基準に、他端部がフラットな押圧面34bと外方部材2のインナー側の端面2dに当接する係止面34dが形成され、押圧面34bにプレス装置を配置してパルサリング12を係止面34dが端面2dに当接するまで圧入する。この場合、圧入治具34の凹部34cの内周は、案内治具33の外径に僅かな案内すきまを介して嵌挿される内径に設定されると共に、凹部34cの深さは係止面34dが端面2dに当接した状態において、案内治具33の高さが接触しないよう、すきまが形成されるように設定されている。すなわち、パルサリング12の軸方向位置は外方部材2のインナー側の端面2dを基準にして位置決めされる。
【0067】
また、
図7(b)に示すように、圧入治具34’の係止面34d’を外方部材2の車体取付フランジ2bのインナー側の側面2fに当接させてパルサリング12の軸方向位置を規制してもよい。
【0068】
次に、内側キャップと外側キャップの軸受装置への組立は、
図8に示すように、鍔部16bが付いた外側キャップ16の場合(本願発明の第1実施形態の場合)は、外方部材2の内側嵌合面19と外側嵌合面20にユニット化された内側キャップ15と外側キャップ16のユニットが圧入される。この場合、外側キャップ16を圧入治具35によって押圧する訳であるが、圧入治具35の一端部に外側キャップ16の外周を案内する凹部35aが形成され、その端部の係止面35dを外側キャップ16の鍔部16bに当接させ、その側面が外方部材2のインナー側の端面2dに衝合するまでこの鍔部16bを押圧して位置決めが完了する。また、鍔部16bが付いた外側キャップ42の場合(本願発明の第4の実施形態の場合)は、外方部材2の内側嵌合面19と外側嵌合面20にユニット化された内側キャップ38と外側キャップ42のユニットが圧入された後、前記と同様の組立で位置決めが完了する。
【0069】
一方、
図9(a)に示すように、鍔部16bがない外側キャップ37の場合(本願発明の第2実施形態の場合)は、圧入治具35’はカップ状をなし、一端部に外側キャップ37の外周を案内し、外側キャップ37を押圧する凹部35a’が形成されると共に、外側キャップ37の軸方向位置決めのため凹部35a’の深さを係止面35d’が外方部材2のインナー側の端面2dに当接するように押圧して位置決めするか、あるいは、
図9(b)に示すように、圧入治具35”の係止面35d”が車体取付フランジ2bのインナー側の側面2fに当接するように押圧して位置決めが完了する。パルサリング12の軸方向位置と外側キャップ37の軸方向位置を同じ基準面で圧入するのでパルサリング12の磁気エンコーダ14と外側キャップ37の回転速度センサ21の取付け面である底部16cまでの距離のばらつきが少なくできて回転速度センサ21と磁気エンコーダ14のエアキャップのばらつきを少なくすることができる。また、鍔部16bがない外側キャップ39の場合(本願発明の第3実施形態の場合)も前記と同様の位置決めが可能である。
【0070】
このように、第1から第4の実施形態において、内側キャップ15、36、38と外側キャップ16、37、39、42の圧入においては、両者を予めユニット化し、この状態で外方部材2に圧入する方法を採用したので、一回の圧入作業で両方のキャップを圧入することができ、組立工数が半減し、低コスト化を達成することができると共に、外側キャップ16、42の鍔部16bを外方部材2の端面2dに衝合させるか、または、圧入治具35を外方部材2の端面2dや車体取付フランジ2bのインナー側の側面2fに衝合させるだけで複雑な位置合わせを必要とせず、精度良く容易に位置決め固定することができる。