特許第5914219号(P5914219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914219
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】制振装置及び制振性に優れた立設部材
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20160422BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20160422BHJP
   E01F 9/60 20160101ALI20160422BHJP
   E01F 9/623 20160101ALI20160422BHJP
   E01F 9/658 20160101ALI20160422BHJP
   E01F 9/696 20160101ALI20160422BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   F16F15/023 Z
   E01F9/011
   E04H9/02 341Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-151269(P2012-151269)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-13067(P2014-13067A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591141784
【氏名又は名称】学校法人大阪産業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鐵住金建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(74)【代理人】
【識別番号】100093469
【弁理士】
【氏名又は名称】杉岡 幹二
(74)【代理人】
【識別番号】100134980
【弁理士】
【氏名又は名称】千原 清誠
(72)【発明者】
【氏名】飯田 毅
(72)【発明者】
【氏名】住田 智章
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−241960(JP,A)
【文献】 特開2001−090776(JP,A)
【文献】 実開平03−114647(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F9/00−11/00
E04H9/00−9/16
F16F15/00−15/315
15/32−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を封入してなる柔軟性を有する袋体の1個又は複数個が容器内を移動自在に収容されている袋体ダンパーからなる制振装置であって、その袋体の少なくとも1個は、その袋体よりも寸法の小さい袋体の中に液体を封入してなる柔軟性を有する液体封入小袋体の1個又は複数個を封入してなる柔軟性を有する液体封入大袋体であることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
全袋体中の液体封入小袋体の全容量の割合が50%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
全袋体中の液体封入小袋体の全重量の割合が50%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の制振装置。
【請求項4】
袋体ダンパーの容器は、底面の内面がフラットであって側壁を有する直方体形状であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の制振装置。
【請求項5】
袋体ダンパーの容器は、底面の内面が半円球状であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の制振装置。
【請求項6】
袋体ダンパーの容器は上蓋を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれかの制振装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかの制振装置が取り付けられていることを特徴とする立設部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置及び制振性に優れた立設部材に関する。特に、道路や橋梁などに立設される、照明柱、標識柱、信号柱などの立設部材に用いられる制振装置及び制振性に優れた立設部材に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や橋梁などに立設された、照明柱、標識柱、信号柱などの立設部材は、風、地震や車両走行に伴う路面振動などに起因する共振現象によって、揺れが生じることがある。これらの立設部材に揺れが生じると、揺れによって立設部材の損傷が起きやすく、また、その損傷が促進される。また、発生する振動により、立設部材に取り付けられた器具の寿命が短くなる問題があり、さらに、照明柱の場合には、照明光が揺れて人に違和感を与える問題もある。
【0003】
このような共振現象に起因する立設部材の揺れを防止するために、
(a)立設部材の重量、形状及び剛性を変更して、その固有振動数を変更する方法、
(b)立設部材の内部に物理振り子及び当接具を設けて、振動時に物理振り子を当接具に衝突させることによって制振効果を持たせる方法、
が、それぞれ、すでに提案されている。
【0004】
しかしながら、上記(a)の方法では、特定の振動数に対しては制振効果があるものの、風による揺れのように、励振周期や振動数が様々に変動する揺れには対応できないだけでなく、立設部材の材料設計の自由度を減じることになる。また、上記(b)の方法では、励振周期や振動数が様々に変動する揺れには対応できないことに加えて、制振効果を上げるためには、物理振り子及び当接具を一定以上の大きさにする必要がある。そのために収納スペースが必要となるが、これも、立設部材の装置設計の自由度を減じる結果となる。さらに、いずれの方法も、立設部材またはその付属部品の設計によっては制振効果が振動の方向に左右されるおそれがある。
【0005】
特許文献1には、このような従来技術の問題点を踏まえて、内部に液体を封入してなる柔軟性を有する袋体が容器内を移動自在に収容されている袋体ダンパーからなる制振装置が記載されている。この制振装置を垂直立設部材の外部又は内部に取り付けると、垂直立設部材に加えられた揺れによる振動を減衰させることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−241960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された、内部に液体を封入してなる柔軟性を有する袋体が容器内を移動自在に収容されている袋体ダンパーからなる制振装置は、広範囲に変動する振動に対する制振効果が不充分であることが判明した。
【0008】
本発明の目的は、このような状況に鑑み、広範囲に振動数が変動する振動にも、より高い減衰性能を有するとともに、最大効果を発揮する振動数での減衰性能をより高め、かつ振動の方向にも左右されない制振装置及び制振性に優れた立設部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、内部に液体を封入してなる柔軟性を有する袋体が容器内を移動自在に収容されている袋体ダンパーからなる制振装置について、種々に実験と検討を重ねた結果、次の(a)〜(g)に示す知見を得た。
【0010】
(a) 1個の容器内に収容する袋体の数は1個であってもよいし複数個であってもよく、また、袋体を収容する容器の数は1個であってもよいし複数個であってもよい。そして、1個の容器内に移動自在に収容する袋体の寸法は袋体の個数に応じて適宜選択すればよい。そして、おなじ寸法の袋体であれば、容器内に収容する袋体の個数に関わりなく、減衰する振動数に変化はなかった。また、袋体内への最大封入量に対する袋体内に封入する液体の容量の容量比が10〜90%の範囲内であれば、袋体内に封入する重量の大小に関わりなく、減衰する振動数に変化はなかった。なお、振動の方向によって、減衰する振動数が変化することはなかった。
【0011】
(b) この袋体ダンパーを立設部材等の構造物に取り付けた場合、構造物が振動を開始すると、袋体内の液体が構造物の振動とは位相差をもって移動するだけでなく、内部に水などの液体を封入してなる柔軟性を有する袋体自体が容器内を移動自在であるから、容器の内壁に衝突することによって、構造物の振動を減衰せしめ、もって構造物の振動を抑えることができることが分かった。この袋体ダンパーによる制振効果は、袋体内の液体の質量移動によるエネルギー消費と、袋体内の液体自体の粘性抵抗によるエネルギー消費、袋体内の液体と袋体との界面での摩擦抵抗によるエネルギー消費、内部に水などの液体を封入してなる柔軟性を有する袋体自体が流体の移動に伴なって大きく変形することによるエネルギー消費、容器の内面への衝突によるエネルギー消費など、複数の要因が組み合わされたものであると考えられる。
【0012】
(c) 以上のとおり、袋体ダンパーを構成する袋体の個数は1個であってもよいし複数個であってもよく、また、袋体を収容する容器の数は1個であってもよいし複数個であってもよい。ところが、袋体を複数個にしてその寸法を互いに異ならせると、袋体を収容する容器の個数にかかわらず、減衰する振動数に変化がみられた。すなわち、寸法を互いに異ならせた袋体の複数個を1個又は複数個の容器に収容するだけで、減衰する振動数に変化がみられたのである。袋体ダンパーが寸法の異なる袋体を複数個有することによって、減衰する振動数が変化するという現象は、袋体内に封入する重量の大小に関わりなく、袋体内への最大封入量に対する袋体内に封入する液体の容量の容量比が10〜90%の範囲内のときに見られた。
(d) さらに検討を進めたところ、単に、袋体ダンパーを構成する袋体として寸法の異なる複数個を収容するのではなく、寸法の小さい袋体の中に液体を封入してなる柔軟性を有する液体封入小袋体の1個又は複数個を、寸法の大きい袋体の中に液体とともに封入してなる柔軟性を有する液体封入大袋体(以下、「液体封入多重袋体」という。)を1個又は複数個の容器に収容してなる袋体ダンパー(以下、「多重袋体ダンパー」という。)は、減衰性能が向上することが分かった。また、液体封入多重袋体のうち外側の液体封入大袋体の寸法を変化させることで減衰する振動数に変化が見られる。さらに、外側の液体封入大袋体の寸法が異なる液体封入多重袋体を複数個収容してなる袋体ダンパーは、減衰する振動数が広範囲になる。なお、液体封入多重袋体に封入する液体封入小袋体は、内部に液体だけが封入されていてもよいが、液体に加えてさらに寸法の小さい液体封入小袋体が内部に封入されていてもよい。
【0013】
そして、多重袋体ダンパーの減衰性能の観点からは、多重袋体ダンパー内の全袋体のうちに占める小袋体の全容積または全重量の割合が50%以上であることが好ましく、60〜90%が特に好ましいことも分かった。ここで、多重袋体ダンパー内の全袋体の全容積または全重量の割合とは、液体封入多重袋体に含まれる小袋体の容積または重量を含んだものを意味する。
【0014】
この多重袋体ダンパーからなる制振装置は、より高い減衰性能を有する。また、広範囲に振動数が変動する振動にも効果を発揮することができるし、振動の方向にも左右されない。したがって、道路や橋梁などに立設される、照明柱、標識柱、信号柱などの立設部材に取り付けることによって、広範囲に振動数が変動する振動にも、より高い減衰性能を有し、かつ振動の方向にも左右されない制振性を付与することができる。
【0015】
(e) 液体封入多重袋体ダンパーに用いられる袋体の材質としては、袋体内に封入された液体が袋体内から漏れることなく、袋体内を自由に移動できるとともに、液体が袋体内を移動する際にあるいは内部に液体を封入した袋体が容器内を自由に移動する際に、自由に袋体の形状を変えることができる程度の柔軟性を有するものであればよく、たとえば、ポリエチレンやゴムなどの柔軟性を有する高分子物質の薄膜を挙げることができる。そして、袋体内に封入する液体としては、減衰させたい振動の振動数に応じて、水を始めとして、高粘性の液体、高密度の液体など、適宜、選択することができる。袋体の形状としては、たとえば、ポリエチレン製の球状体であってもよいし、筒状のチャック付ポリ袋を適宜、正方形もしくは長方形または円形に熱シールし、液体を封入した枕形状の袋体にしたものであってもよい。チャック付ポリ袋を用いると、袋体の容積を容易に所望値にすることができる。
【0016】
(f)袋体の寸法を問わず、1個の袋体内に封入する液体の容量の袋体の容積に対する容量比は、格別に限定するものでない。また、袋体の寸法は、格別に限定するものでなく、容器内に収容することができる寸法であればよい。1個の容器内に収容する袋体の数は、1個であってもよいし複数個であってもよい。そして、袋体を収容する容器の数は、1個であってもよいし複数個であってもよい。
【0017】
(g) 内部に液体を封入してなる柔軟性を有する袋体を移動自在に収容する容器の形状としては、例えば、矩形又は球形の形状のものでよい。容器からその袋体が振動によって跳び出さなければ容器に上蓋を設けなくてもよいが、平面状又は半球状の上蓋を設けてもよい。容器に上蓋を設けるとその上蓋に袋体が衝突することによってエネルギーが消費されるから、容器に上蓋を設けるのが好ましい。なお、容器の上蓋の内面には、液体を封入してなる袋体が容器内でより移動しやすくなるように、フッ素樹脂膜や油膜を張ってもよい。
【0018】
容器の底面の内面は半円球状であってもよいし、底面の内面がフラットであって側壁を有する直方体形状であってもよい。液体を封入してなる柔軟性を有する袋体が容器内で移動して容器の内面に衝突すると、その分だけエネルギーが消費されるから、袋体が容器内を自由に移動できる容器形状が好ましい。そして、容器の材料としては、特に限定されるものではなく、たとえば、鉄、ステンレス鋼、プラスチックを挙げることができる。
【0019】
本発明にかかる制振装置および制振性に優れた立設部材は、これらの知見に基づいて完成したものである。そして、その要旨は、次の(1)〜(6)の制振装置及び(7)の制振性に優れた立設部材である。以下、これらを総称して本発明ということもある。
【0020】
(1) 内部に液体を封入してなる柔軟性を有する袋体の1個又は複数個が容器内を移動自在に収容されている袋体ダンパーからなる制振装置であって、その袋体の少なくとも1個は、その袋体よりも寸法の小さい袋体の中に液体を封入してなる柔軟性を有する液体封入小袋体の1個又は複数個を封入してなる柔軟性を有する液体封入大袋体であることを特徴とする制振装置。
【0021】
(2) 全袋体中の液体封入小袋体の全容量の割合が50%以上であることを特徴とする、上記(1)の制振装置。
【0022】
(3) 全袋体中の液体封入小袋体の全重量の割合が50%以上であることを特徴とする、上記(1)の制振装置。
【0023】
(4) 袋体ダンパーの容器は、底面の内面がフラットであって側壁を有する直方体形状であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの制振装置。
【0024】
(5) 袋体ダンパーの容器は、底面の内面が半円球状であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの制振装置。
【0025】
(6) 袋体ダンパーの容器は上蓋を有することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかの制振装置。
【0026】
(7) 上記(1)〜(6)のいずれかの制振装置が取り付けられていることを特徴とする立設部材。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、より高い減衰性能を有し、広範囲に振動数が変動する振動にも効果を発揮することができ、かつ振動の方向にも左右されない制振装置及び制振性に優れた立設部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】比較例に係る袋体ダンパーからなる制振装置の一例を示す。
図2】参考例に係る袋体ダンパーからなる制振装置の一例を示す。(a)が全体図(斜視図)、そして、(b)が袋体ダンパー周辺の拡大図(側面図)である。
図3】本発明に係る袋体ダンパーからなる制振装置の一例を示す。(a)が全体図(斜視図)、そして、(b)が袋体ダンパー周辺の拡大図(側面図)である。
図4】種々の袋体ダンパーにおいて、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものの一対比例である。
図5】種々の袋体ダンパーにおいて、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものの他の対比例である。
図6】種々の袋体ダンパーにおいて、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものの他の対比例である。
図7】種々の袋体ダンパーにおいて、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものの他の対比例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、図面に基づいて、本発明を説明する。ここでは、小型の実験装置を用いて本発明の制振効果を実証した。なお、本発明は次の本発明例に限定されるものではない。
【0030】
図1に、比較例に係る袋体ダンパーからなる制振装置の一例を示す。(a)が全体図(斜視図)、そして、(b)が袋体ダンパー周辺の拡大図(側面図)である。
【0031】
照明柱等の立設部材2は、基礎3の上に断面円形の鋼管柱4が立設されてなるものである。そして、袋体ダンパー11からなる制振装置は、鋼管柱4の最上部に取り付けられている。袋体ダンパー11は、1個の容器21と、この1個の容器内に移動自在に収容されている1個の袋体23からなる。この容器21は底面の内面がフラットであって側壁を有し、かつ平面状の上蓋を有する。そして、この容器内に、水を封入してなる柔軟性を有する袋体23の1個が移動自在に収容されている。
【0032】
袋体を収容する容器21は、内面寸法として、幅300mm×奥行き300mm×高さ70mmである。そして、内部に液体を封入してなる袋体23は、幅180mm×奥行き180mmの筒状のチャック付ポリ袋(以下、「ポリ袋a」という。)を用いた。そして、チャック付ポリ袋aには、水をそれぞれ770gおよび335g封入することによって、2種類の袋体(以下、「袋体i」及び「袋体ii」という。)を製作した。それぞれの袋体を収容してなる袋体ダンパーを、それぞれ「袋体ダンパーA1」および「袋体ダンパーA2」という。
【0033】
袋体ダンパーA1および袋体ダンパーA2の諸元(袋体の数、袋体寸法、封入水量)をまとめて、表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
図2に、参考例に係る袋体ダンパーからなる制振装置の一例を示す。(a)が全体図(斜視図)、そして、(b)が袋体ダンパー周辺の拡大図(側面図)である。
【0036】
照明柱等の立設部材2は、基礎3の上に断面円形の鋼管柱4が立設されてなるものである。そして、袋体ダンパー11からなる制振装置は、鋼管柱4の最上部に取り付けられている。袋体ダンパー11は、2個の容器21と2個の袋体23からなり、それぞれの容器内に袋体23が移動自在に収容されている。この容器21は、それぞれ、底面の内面がフラットであって側壁を有し、かつ平面状の上蓋を有する。そして、水を封入してなる柔軟性を有する袋体23は、それぞれの容器内に移動自在に収容されている。
【0037】
袋体を収容する各容器は、それぞれ、内面寸法として、幅164mm×奥行き164mm×高さ38mmである。この容器が縦に積み上げられていて、全体の高さは109mmである。そして、内部に液体を封入してなる袋体23として、幅135mm×奥行き135mmの筒状のチャック付ポリ袋(以下、「ポリ袋d」という。)、および、幅160mm×奥行き160mmの筒状のチャック付ポリ袋(以下、「ポリ袋b」という。)を用い、各ポリ袋にはいずれも水を192.5g封入することによって、2種の袋体(「袋体iii」および「袋体iv」)を製作した。
【0038】
そして、上部容器には、袋体iiiを収容し、そして、下部容器には、袋体ivを収容した。以下、この寸法の異なる2個の袋体23がそれぞれの容器内に移動自在に収容されているダンパーを「袋体ダンパーB1」という。
【0039】
袋体ダンパーB1の諸元(袋体の数、袋体寸法、封入水量)は、表2に示すとおりである。
【0040】
【表2】
【0041】
図3に、本発明に係る袋体ダンパーからなる制振装置の一例を示す。(a)が全体図(斜視図)、そして、(b)が袋体ダンパー周辺の拡大図(側面図)である。
【0042】
照明柱等の立設部材2は、基礎3の上に断面円形の鋼管柱4が立設されてなるものである。そして、袋体ダンパー11からなる制振装置は、鋼管柱4の最上部に取り付けられている。袋体ダンパー11は、液体封入多重袋体ダンパーであって、1個の容器21に収容されている。柔軟性を有する多重袋体は内側の小袋体23aと外側の大袋体23bからなり、小袋体と大袋体の両方に液体が封入されている。容器内の液体封入大袋体23bは容器内を移動自在に収容されており、また、液体封入小袋体23aは液体封入大袋体23bの中を移動自在に収容されている。この容器21は、底面の内面がフラットであって側壁を有し、かつ平面状の上蓋を有する。
【0043】
この袋体を収容する容器21は、内面寸法として、幅300mm×奥行き300mm×高さ70mmである。そして、この多重袋体を構成する小袋体と大袋体には、チャック付ポリ袋a(幅180mm×奥行き180mm)、チャック付ポリ袋b(幅160mm×奥行き160mm)、幅140mm×奥行き140mmの筒状のチャック付ポリ袋(以下、「ポリ袋c」という。)、幅120mm×奥行き120mmの筒状のチャック付ポリ袋(以下、「ポリ袋e」という。)の4種類のうち、2種類を用いた。そして、各チャック付ポリ袋には、表3に示す水を封入して、5種類の液体封入多重袋体ダンパーC1〜C5を製作した。表3にそれらの諸元をまとめて示す。
【0044】
【表3】
【0045】
これらの液体封入多重袋体ダンパーC1〜C5のそれぞれを、下端が固定された外径34mmの鋼管柱の上部に取り付け、固有振動数が2〜14Hzになるように、鋼管の長さを4.0、3.2、2.8、2.5、2.1、1.8および1.5mとして、それぞれ自由振動実験を行った。比較のために、1個の袋体ダンパー(A1、A2)および2個の寸法の異なる袋体ダンパー(B1)についても、同様にして、自由振動実験を行った。
【0046】
図4は、これらの液体封入袋体ダンパーのうち、封入水の総重量が770gのA1、C1およびC2について、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものである。3つの液体封入袋体ダンパーは封入水の総重量が同じだけでなく、外側袋体の寸法も同じである。このプロットから分かるように、多重袋体ダンパーC1およびC2は、1個の袋体ダンパーA1より高い減衰性能を有し、2〜8Hzという広い範囲の振動数の振動に対する制振効果を有していることが分かる。また、多重袋体ダンパーC1とC2とを比較すると、内側袋体の液体重量が大きいほど高い減衰性能を有していることが分かる。
【0047】
図5は、これらの液体封入袋体ダンパーのうち、封入水の総水量が385gのA2、B1、C3およびC4について、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものである。このうち、A2、C3およびC4は封入水の総重量が同じだけでなく、外側袋体の寸法も同じである。このプロットから分かるように、多重袋体ダンパーC3およびC4は、1個または2個の単一袋体より高い減衰性能を有し、2〜5Hzという広い範囲の振動数の振動に対する制振効果を有していることが分かる。また、B1については上下の袋体寸法を変えることにより、より広い範囲の振動数領域にて効果を発揮することが分かり、ピークの減衰定数はC3およびC4より下がるが、袋体の寸法を変えることによって、制御できる振動数領域を広くできることが分かる。なお、多重袋体ダンパーC3とC4とを比較すると、内側袋体の液体容量が大きいほど高い減衰性能を有していることが分かる。
【0048】
図6は、これらの液体封入袋体ダンパーのうち、封入総水量が385gのA2、C3およびC5について、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものである。3つの液体封入袋体ダンパーは封入水の総重量が同じだけでなく、外側袋体の寸法も同じである。ただし、C5は内側袋体重量を大きくし、外側袋体の水量を少なくしたものである。このプロットから分かるように、多重袋体ダンパーC3およびC5は、1個の単一袋体ダンパーに比して、高い減衰性能を有し、2〜5Hzという広い範囲の振動数の振動に対する制振効果を有していることが分かる。なお、多重袋体ダンパーC3とC5とを比較すると、内側袋体の液体重量が大きいほど高い減衰性能を有していることが分かる。
【0049】
図7は、これらの液体封入袋体ダンパーのうち、封入総水量が385gのA2、C4およびC5について、振動数(Hz)と減衰定数(%)をプロットしたものである。3つの液体封入袋体ダンパーは封入水の総重量が同じだけでなく、外側袋体の寸法も同じである。ただし、C5は内側袋体重量を大きくし、外側袋体の水量を少なくしたものである。このプロットから分かるように、多重袋体ダンパーC4およびC5は、1個の単一袋体ダンパーに比して、高い減衰性能を有し、2〜5Hzという広い範囲の振動数の振動に対する制振効果を有していることが分かる。なお、多重袋体ダンパーC4とC5とを比較すると、内側袋体の液体重量が大きいほど高い減衰性能を有していることが分かる。図5に示したC3の結果も併せて考察すると、C3,C4、C5の相互比較から内側袋体の重量が大きく、容積も大きいほど、減衰性能は向上すると言える。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のとおり、より高い減衰性能を有し、広範囲に振動数が変動する振動にも効果的で、かつ振動の方向にも左右されない制振装置及び制振性に優れた立設部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
2 立設部材
3 基礎
4 鋼管柱
11 袋体ダンパー
21 容器
23 袋体
23a 内側小袋体
23b 外側大袋体
24 取付器具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7