(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914446
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】切削工具およびそれを用いたワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B51/00 M
B23B51/00 L
B23B51/00 V
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-222152(P2013-222152)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2014-111303(P2014-111303A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2014年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2012-239305(P2012-239305)
(32)【優先日】2012年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】000203531
【氏名又は名称】多賀電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小畠 一志
(72)【発明者】
【氏名】浜田 晴司
【審査官】
齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−008029(JP,A)
【文献】
米国特許第04116580(US,A)
【文献】
特開2010−155289(JP,A)
【文献】
特開2001−179517(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0158627(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B28D 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心に頂点を有し、その頂点から切刃稜線が延在し、その切刃稜線に連なるように曲線状切刃稜線が設けられ、前記頂点は、略角錐の頂点であり、前記角錐は複数の前記切刃稜線を有し、一部の前記切刃稜線は前記曲線状切刃稜線に連なり、他の前記切刃稜線は前記曲線状切刃稜線に連ならず所定の長さ延在した後に途切れている、切削工具。
【請求項2】
前記角錐は正四角錐、正五角錐または正六角錐である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記角錐の対稜角は鈍角である、請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記対稜角は95°以上である、請求項3に記載の切削工具。
【請求項5】
ナノ多結晶ダイヤモンド、バインダレスナノ多結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、超硬合金、サーメット、セラミックスおよび多結晶CBNからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項6】
外周面には溝が設けられていない、請求項1から5のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項7】
前記切刃稜線および前記曲線状切刃稜線の丸み半径は0.1μm以上20μm以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記曲線状切刃稜線は角柱体の稜線に連なる、請求項1から7のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の切削工具を用いてワークを加工する方法であって、前記工具を回転させながらワークに当接させて前記工具に超音波振動を加えることでワークを加工する、切削工具を用いたワークの加工方法。
【請求項10】
前記加工は穴あけ、穴の仕上げ、面取り、またはバリ取りのいずれかである、請求項9に記載の切削工具を用いたワークの加工方法。
【請求項11】
前記ワークは、ガラス、サファイヤ、サーメット、超硬合金、シリコン、ゲルマニウム、セラミックス、CFRP、GFRP、グラファイト、GaN、およびSiCからなる群より選ばれた少なくとも一種である、請求項9または10に記載の切削工具を用いたワークの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具およびそれを用いたワークの加工方法に関し、より特定的には、超硬質工具材料からなるドリル、およびそれを用いて硬脆材料に穴あけ加工をする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、切削工具は、例えば、特表昭59−500553号公報(特許文献1)、実公昭51−27510号公報(特許文献2)、特開平3−264205号公報(特許文献3)、特公昭47−22985号公報(特許文献4)、特公昭47−27299号公報(特許文献5)、実開昭49−121192号公報(特許文献6)、実開平5−9814号公報(特許文献7)、および特許第3540256号公報(特許文献8)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表昭59−500553号公報
【特許文献2】実公昭51−27510号公報
【特許文献3】特開平3−264205号公報
【特許文献4】特公昭47−22985号公報
【特許文献5】特公昭47−27299号公報
【特許文献6】実開昭49−121192号公報
【特許文献7】実開平5−9814号公報
【特許文献8】特許第3540256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の切削工具を用いて穴をあけた場合に、穴の抜け側(穴をあけ始めた表面と反対側)の表面でワークに欠けや剥離が生じやすいという問題があった。さらに、高硬度材料に穴あけをすると切削工具の寿命が短いという問題があった。
【0005】
そこで、この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、ワークに欠けや剥離が発生することを抑制でき、しかも寿命の長い切削工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に従った切削工具は、回転中心に頂点を有し、その頂点から切刃稜線が延在し、その切刃稜線に連なるように曲線状切刃稜線が設けられる。
頂点は、略角錐の頂点である。角錐は複数の切刃稜線を有し、一部の切刃稜線は曲線状切刃稜線に連なり、他の切刃稜線は曲線状切刃稜線に連ならず所定の長さ延在した後に途切れている。
【0007】
このように構成された切削工具では、回転中心に頂点を有することで工作物への進入時に、送り方向の力が頂点を中心としてそこから繋がる切刃稜線に均等に働くため、安定した加工が行える。また、曲線状切刃稜線を設けることで、切削抵抗が滑らかに小さくなり加工がさらに安定する。
【0008】
回転切削工具先端の回転中心は、一般的には頂点ではなくチゼルと呼ばれるノミ状の切刃である。チゼルの回転中心の切削速度は0となるため切削が不安定になる。一方、この発明は回転中心に頂点を持つとワークを頂点で塑性または弾性変形させることで頂点がワークに食い込み回転の支点となるため、安定した加工が行える。
【0009】
さらに穴加工を行った場合にワークの抜け側におけるチッピングおよび剥離の発生を抑制することができる。
頂点は、略角錐の頂点であるため、先端を略角錐とすることで稜線が切刃稜線となり、切刃を容易に成形できる。角錐は複数の切刃稜線を有し、一部の切刃稜線は曲線状切刃稜線に連なり、他の切刃稜線は曲線状切刃稜線に連ならず所定の長さ延在した後に途切れている。頂点から繋がる切刃稜線の一部を途切れさせることにより、切削液の供給がしやすくなり、かつ切り屑の排出性が向上して安定した加工が行える。
【0011】
好ましくは、角錐は正四角錐、正五角錐または正六角錐である。特に、正四角錐であれば隣接する側面で構成される切刃稜線の刃物角が適度の大きさを有しワークへの食いつきが良く、切刃の強度も高い。角錐の側面が多過ぎると、切刃稜線の刃物角が大きくなり過ぎてワークへの食いつきが悪化する。
【0012】
好ましくは、角錐の対稜角は鈍角である。対稜角が鈍角であることで、ワークに最初に食いつく先端部の強度が高くなり、耐欠損性が高くなる。頂点から底面に垂直に下した線と、ひとつの稜線とを含む断面において、断面の頂点がなす角度を対稜角と呼ぶ。
【0013】
対稜角が鋭角であると、工具材料の剥離や欠損が発生しやすい。さらに、振動などの外乱が発生したときに所定の切り込みより大きくワークに切削工具が食い込み、刃先に大きな負担が発生し突発的な欠損の原因となる。鈍角であると鋭角よりもスラスト方向の抵抗が大きいため、食い込み量は対稜角が鋭角のものよりも小さくなり突発的な欠損の確率が小さくなる。
【0014】
好ましくは、対稜角は95°以上である。対稜角を95°以上とすることで先端にかかる力のうち工具剛性のあるスラスト方向の分力が明確に大きくなり、安定した加工が行える。より好ましくは100°以上、最も好ましくは105°以上である。ただし、160°を超えるとワークへの食い込みが低下して好ましくない。
【0016】
好ましくは、切削工具は、ナノ多結晶ダイヤモンド、バインダレスナノ多結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、超硬合金、サーメット、セラミックスおよび多結晶CBNからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む。工具材料をこれらの高硬度材料とすることで、耐欠損性や耐摩耗性が向上し安定した加工が行える。工具材料が高硬度でないと、回転中心の頂点によるワークの塑性、弾性変形量が小さくなり、中心での支持剛性が小さくなり加工が不安定になる。
【0017】
好ましくは、外周面には溝が設けられていない。溝をなくすことで工具剛性が高くなり、耐欠損性が向上する。
【0018】
好ましくは、切刃稜線および曲線状切刃稜線の丸み半径は0.1μm以上20μm以下である。丸み半径が0.1μm未満では鋭利過ぎて欠損しやすく、20μmを超えると鋭利さが失われて切れ味が低下する。
【0020】
好ましくは、曲線状切刃稜線は角柱体の稜線に連なる。角柱体に繋がることで、角柱体で安定した加工が行える。また、角柱体がガイドの役割を果たす。
【0021】
切削工具を用いたワークの加工方法は、上記のいずれかの切削工具を用いてワークを加工する方法であって、工具を回転させながらワークに当接させて工具に超音波振動を加えることでワークを加工する。超音波振動を加えることにより、先端部がワークに加速度をもって衝突することで、ワークを微小破壊させ、これにより加工が継続する。その結果、通常の切削よりも切削抵抗が低減できる。その結果、工具寿命を引き延ばすことができる。
【0022】
好ましくは、加工は穴あけ、穴の仕上げ、面取り、またはバリ取りのいずれかである。すなわち、本発明の切削工具は、ドリル、リーマ、エンドミル、面取り工具、バリ取り工具として用いることができる。
【0023】
好ましくは、ワークは、ガラス、サファイヤ、サーメット、超硬合金、シリコン、ゲルマニウム、セラミックス、CFRP、GFRP、グラファイト、GaN、およびSiCからなる群より選ばれた少なくとも一種である。これらは高硬度材料であるか、または高硬度材料を含む材料であるため難削材料であるが、脆性を有するため超音波振動の衝撃による微小破壊が有効に作用する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図5】実施の形態に従ったドリルの右側面図である。
【
図6】実施の形態に従ったドリルの左側面図である。
【
図8】実施の形態に従ったドリルの別の局面の斜視図である。
【
図9】実施例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【
図10】比較例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【
図13】比較のために用いたツイスト形状のドリルの写真である。
【
図14】比較のために用いた正四角錐形状のドリルの写真である。
【
図15】実施例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【
図16】ツイスト形状のドリルによる穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【
図17】四角錐形状のドリルによる穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【
図18】実施例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【
図19】ツイスト形状のドリルによる穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、実施の形態に従ったドリルの正面図である。
図2は、実施の形態に従ったドリルの背面図である。
図3は、実施の形態に従ったドリルの平面図である。
図4は、実施の形態に従ったドリルの底面図である。
図5は、実施の形態に従ったドリルの右側面図である。
図6は、実施の形態に従ったドリルの左側面図である。
図7は、実施の形態に従ったドリルの斜視図である。
図8は、実施の形態に従ったドリルの別の局面の斜視図である。
【0026】
本発明に基づいた実施の形態におけるドリルおよびそれを用いた穴あけ加工方法について、以下、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0027】
図1から8を参照して、ドリル1は、四角錐形状の先端部100およびその先端部100に連なる中間部200を備える。ドリル1の外周面に溝が設けられていない。一般的なドリルおよびエンドミルであると切刃を形成するために溝加工または座ぐり加工が必要である。しかし、溝を形成しないことで、当該加工を省略することが可能となる。先端部100を構成する四角錐の頂点2の対稜角θ1は鈍角である。
【0028】
正四角錐は第一稜線10、第一稜線10に隣接する第二稜線20、第二稜線20に隣接する第三稜線30および第三稜線30に隣接する第四稜線40を有している。
【0029】
中間部200は第五稜線50および第六稜線60を有しており、第一稜線10が第五稜線50に連なっており、第三稜線30が第六稜線60に連なっており、第二稜線20および第四稜線40は先端部100および中間部200の境界で途切れており、第五稜線50および第六稜線60は曲線状であり、第一稜線10から第六稜線60は超硬質工具材料により構成される。
【0030】
超硬質工具材料はナノ多結晶ダイヤモンド、バインダレスナノ多結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、超硬合金、サーメット、セラミックスおよび多結晶CBNからなる群より選ばれた少なくとも一種を含むことが好ましい。バインダレスナノ多結晶ダイヤモンドは、15GPa,2000℃以上の超高圧高温下で、グラファイトを触媒や溶媒無しに直接的にダイヤモンドに変換させて製造されたダイヤモンドである。
【0031】
切削工具としてのドリル1は、回転中心に頂点2を有し、その頂点2から第一から第四切刃稜線としての第一から第四稜線10−40が延在し、その第一から第四稜線10−40の一部に連なるように曲線状切刃稜線としての第五および第六稜線50,60が設けられる。頂点2は、略角錐体の頂点である。角錐は四角錐である。対稜角θ1は95°以上である。
【0032】
第一および第三稜線10,30は第五および第六稜線50,60に連なり、第二および第四稜線20,40は曲線状切刃稜線に連ならず所定の長さ延在した後に途切れている。
【0033】
第五および第六稜線50,60は角柱体により構成される後部の第七および第八稜線70,80に連なる。
【0034】
対稜角θ1が95°以上であることがさらに好ましい。先端部100における対稜角θ1が大きくなることで、先端部100の強度を高めることができる。中間部に連なる後部300を有し、後部300は四角柱形状であることが好ましい。
【0035】
第五稜線50および第六稜線60の丸み半径は0.2μm以上20μm以下であることが好ましい。レーザによりドリル1の仕上げ加工が行われる。
【0036】
この発明に従った加工方法では、上記のいずれかに記載の工具を回転させながらワークに当接させて工具に超音波振動を加えることでワークを加工する。
【0037】
加工は穴あけ、穴の仕上げ、面取り、またはバリ取りのいずれかである。ワークは、ガラス、サファイヤ、サーメット、超硬合金、シリコン、ゲルマニウム、セラミックス、CFRP、GFRP、グラファイト、GaN、およびSiCからなる群より選ばれた少なくとも一種である。
【0038】
ドリル1は、従来のドリルと比較してチゼルを有していない。ドリル1においては、先端部100から連続した切れ刃としての第一稜線10および第五稜線50ならびに第三稜線30および第六稜線60を有する。第一稜線10から第四稜線40は直線形状であるのに対して、第五稜線50および第六稜線60は、ともに曲線形状である。
【0039】
中間部200と後部300との境界では、第五稜線50と第六稜線60とが、後部30
0を構成する正四角柱になだらかに接続している。すなわち、第五稜線50および第六稜線60が、四角柱の稜線の接線を構成している。
【0040】
先端部100の四角錐の対稜角θ1が鈍角であるため強度が高く、耐欠損性が高まり、工具寿命を延長することできる。
【0041】
さらに、第五稜線50および第六稜線60を曲線状とすることにより、抜け際のラジアル方向およびスラスト方向の力を低減することができる。
【0042】
ドリル1では、ドリルの刃先である先端部100に正四角錐を形成し、その正四角錐の4稜線のうち対角の2稜線から外周の四角柱に繋がる連続の円弧または曲線状の切刃である第五稜線50および第六稜線60を持つことでワークにおけるドリル抜け側(穴あけを開始した面と反対側の面)における欠けや剥離を抑制することができる。さらに、工具寿命を延長することができる。
【0043】
つまり、切削速度がゼロに近い中心部の加工を四角錐の頂点である頂点2と第一から第四稜線10−40で超音波振動をワークに与えることにより、硬脆材料の微小破壊が進み、全体のスラスト方向の抵抗を下げて四角錐の頂点が食い込み時に支点となることから、安定した加工が可能となる。
【0044】
(実施例)
ナノ多結晶ダイヤモンドをレーザ加工して、
図1から7で示す形状のドリル1を作成した。寸法は回転直径がφ0.7mm×長さ1.5mm(先端四角錐+R1.0mm)とした。すなわち、ドリル1の後部300の回転直径がφ0.7mmであり、頂点2から後部300の後端までの長さが1.5mmである。先端四角錐の対稜角θ1は120°、第五稜線50および第六稜線60の刃物角θ2は130°、第五稜線50および第六稜線60の丸み曲線のRは1.0mmである。
【0045】
このドリルを用いてガラスの穴あけ加工を行った。加工条件は回転数Nを8000min
-1とし、送りFは10mm/min(1.25μm/rev)とした。加工時には、ドリル1に超音波振動を与えた。超音波の周波数は80.9kHzとした。加工時には水溶性加工液を冷却材として使用した。加工したガラスは携帯端末用強化ガラス(厚み1.1mm)である。
【0046】
穴あけ加工の結果、ガラスの抜け側に欠けや剥離は発生しなかった。
図9は実施例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図9を参照して、ワークとしてのガラス4の裏面5(抜け側の面)の穴6を観察したところ、穴6に欠けや剥離は見当たらなかった。
【0047】
(比較例)
比較例として、通常の電着工具を用いて、実施例と同じガラスに穴あけ加工を行った。穴あけの条件は以下のとおりである。
【0048】
工具:電着ダイヤモンド軸付きホイール、外径φ0.5mm、ダイヤモンド粒度#400
加工方法:偏心0.1mmのヘリカル加工(螺旋加工)でφ0.7mmの穴を加工
工具の回転数:8000min
-1
ヘリカルの送りピッチ:0.01mm/1回転(公転)
超音波の周波数:76kHz(工具の軸方向の振動)
図10は、比較例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図10を参
照して、ワークとしてのガラス4の裏面5(抜け側の面)の穴6を観察したところ、穴6に大きな剥離が発生した。最大剥離幅Wは、244.2μmであった。
【0049】
(比較試験)
次に、実施例に従ったドリルと、ツイスト形状のドリルと、正四角錐ドリルとの比較試験を行った。
【0050】
図11および
図12は、実施例に従ったドリルの写真である。
図11および
図12を参照して、実施例に従ったドリルの寸法は回転直径がφ0.7mm×長さ1.5mm(先端四角錐+R1.0mm)とした。ドリル1の後部300の回転直径がφ0.7mmであり、頂点2から後部300の後端までの長さが1.5mmである。先端四角錐の対稜角θ1は120°、第五稜線50および第六稜線60の刃物角θ2は130°、第五稜線50および第六稜線60の丸み曲線のRは1.0mmである。
【0051】
図13は、比較のために用いたツイスト形状のドリルの写真である。
図13を参照して、ツイスト形状のドリルは、回転直径φ0.7mm×長さ1.5mm、先端角145°、ねじれ角20°であり、先端にはチゼルが設けられている。
【0052】
図14は、比較のために用いた正四角錐形状のドリルの写真である。
図14を参照して、正四角錐形状のドリルは、回転直径φ0.7mm×長さ1.5mmであり、先端が正四角錐形状である。
【0053】
図11から14のドリルは、いずれもナノ多結晶ダイヤモンド(スミダイヤバインダレス)により構成された。
【0054】
図11から14のドリルを用いてガラスの穴あけ加工を行った。加工条件は回転数Nを8000min
-1とし、送りFは10mm/min(1.25μm/rev)とした。加工時には、ドリルに超音波振動を与えた。超音波の周波数は80.9kHzとした。加工時には水溶性加工液を冷却材として使用した。加工したガラスは携帯端末用カバーガラス(厚み1.1mm)である。
【0055】
実施例に従ったドリルでは、穴あけ加工の結果、ガラスの抜け側に欠けや剥離は発生しなかった。
図15は実施例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図15を参照して、ワークとしてのガラスの裏面(抜け側の面)の穴を観察したところ、穴に欠けや剥離は見当たらなかった。
【0056】
図16は、ツイスト形状のドリルによる穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図17は、四角錐形状のドリルによる穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図16および17を参照して、ワークとしてのガラスの裏面(抜け側の面)の穴を観察したところ、穴に大きな剥離が発生した。
【0057】
図11から13のドリルを用いてサファイヤガラスの穴あけ加工を行った。加工条件は回転数Nを3000min
-1とし、送りFは5mm/min(1.7μm/rev)とした。加工時には、ドリルに超音波振動を与えた。超音波の周波数は80.9kHzとした。加工時には水溶性加工液を冷却材として使用した。加工したガラスはサファイヤカバーガラス(厚み0.7mm)である。
【0058】
実施例に従ったドリルでは、穴あけ加工の結果、ガラスの抜け側に欠けや剥離は発生しなかった。
図18は実施例に従った穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図18を参照して、ワークとしてのガラスの裏面(抜け側の面)の穴を観察したところ、穴に欠けや剥離は見当たらなかった。
【0059】
図19は、ツイスト形状のドリルによる穴あけ加工方法で形成された穴を示す図である。
図19を参照して、ワークとしてのガラスの裏面(抜け側の面)の穴を観察したところ、穴に大きな剥離が発生した。
【0060】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、ドリル、エンドミルおよびリーマに代表される回転する切削工具の分野において用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ドリル、2 頂点、10 第一稜線、20 第二稜線、30 第三稜線、40 第四稜線、50 第五稜線、60 第六稜線、70 第七稜線、80 第八稜線、100 先端部、200 中間部、300 後部。