(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1弾性要素および第2弾性要素(12、13)がそれぞれアーム(10、11)に連結される、請求項1に記載の歯車(40)用固定装置(1、2、3、4、5、6)。
第3弾性要素(16)が前記アーム(10、11)の接合ゾーンの異なる位置で一方のアーム(10、11)に連結される、請求項1または2に記載の歯車(40)用固定装置(1、2、3、4、5、6)。
第1弾性要素および第2弾性要素(12、13)が両者の間に90°の角度または鈍角を形成する、請求項1から4のいずれか一項に記載の歯車(40)用固定装置(1、2、3、4、5、6)。
第1弾性要素および第2弾性要素(12、13)が第1フレキシブルブレードおよび第2フレキシブルブレード(12、13)である、請求項1から5のいずれか一項に記載の歯車(40)用固定装置(1、2、3、4、5、6)。
第3弾性要素(16)が、両側に第3フレキシブルブレードおよび第4フレキシブルブレード(18、19)を含む剛ブロック(17)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の歯車(40)用固定装置(1、2、3、4、5、6)。
第3弾性要素(16)に力を加えるプレストレスシステムをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の歯車(40)用固定装置(1、2、3、4、5、6)。
プレストレスシステムが、第5フレキシブルブレードおよび第6フレキシブルブレード(31、32)によるか中間ブロック(33)を使用してシャーシ(7)に連結された追加ブロック(30)を備え、中間ブロック(33)自体も第7フレキシブルブレードおよび第8フレキシブルブレード(34、35)によりシャーシ(7)に連結される、請求項12に記載の歯車(40)用固定装置(4、5、6)。
第5フレキシブルブレード、第6フレキシブルブレード、第7フレキシブルブレード、第8フレキシブルブレードの4つのブレード(31、32、34、35)の移動時、ブレード間の間隔の短縮が打ち消され、その結果、プレストレスの設定時、追加ブロック(30)の不要な運動が防止されるよう、第7フレキシブルブレードおよび第8フレキシブルブレード(34、35)が配設される、請求項14に記載の歯車(40)用固定装置(4、5、6)。
中間ブロック(33)がスタッド(36)を備え、シャーシ(7)が、スタッド(36)を受け入れかつその動きを画定することができる凹部(37)を備える、請求項14または15に記載の歯車(40)用固定装置(5、6)。
固定用装置が一続きで作成され、または固定用装置がアンクルの少なくとも一方を除き一続きで作成される、請求項1に記載の歯車(40)用固定装置(2、4、5、6)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、歯車の回転を制御する可動部の移動に関するあそびを最小にする、さらには除去し、その結果、この歯車が一部を成す機構の性能を向上させることである。性能の向上は簡単かつ正確に行うことができるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、以下の項目1に主な特徴が述べられている固定装置を用いることにより達成される:
項目1 シャーシと、
歯車のうちの1つの歯と接触するようになっているアンクルをそれぞれが具備する2つのアームを備える固定子と、
固定子に連結された1つの端部と、シャーシに連結された他方の端部をそれぞれが有する第1弾性要素および第2弾性要素と、
固定子に連結された第3弾性要素と
を備える歯車用固定装置であって、一続きであるか、アンクルのうちの少なくとも一方を除き一続きであることを特徴とする装置。
【0010】
このようにこれら特徴のおかげで、本発明による固定装置により、機構を構成する部品全体の相対位置決めを向上させることができる。装置はこのようにして平坦にすることができ、そのため装置の固定が容易になる。さらに、より広い公差で装置を作製することができるので、その作製時の精度が低減される。
【0011】
当業者にとっては本発明による固定装置は時計の脱進機用のアンクルまたは固定子に類似するものである。この装置本来の意味での脱進機ではない、というのは、全ての構成要素を含んでいるわけではないからである(非特許文献1を参照のこと)。
【0012】
上の項目1にて画定された本発明による固定装置の有利な追加的特徴を、以下の項目2から項目15に列挙する:
【0013】
項目2 第1弾性要素および第2弾性要素がそれぞれアームに連結される、項目1に記載の歯車用固定装置。
【0014】
そのような特徴は、特許文献1においてそうであるように、2つの弾性要素が同じ側で連結されている場合よりも大きな旋回角度が得られるという長所を有する。
【0015】
項目3 第3弾性要素が前記アームの接合ゾーンの異なる位置で一方のアームに連結される、項目1または2に記載の歯車用固定装置。
【0016】
これにより、有利には、第1弾性要素および第2弾性要素のうちの一方が引っ張り力で作用し、もう一方が圧縮力で作用するようにする可能性が提供されるが、これは特許文献1の対象となるアンクルでは不可能である。さらに、上で触れたアンクルでもそうであるように、第1弾性要素および第2弾性要素によっては応力の調節が妨げられないので、第3要素による応力の調節が容易になる。
【0017】
項目4 第3弾性要素が一方のアームの端部に連結される、項目3に記載の歯車用固定装置。
【0018】
こうすることにより、第1弾性要素および第2弾性要素の引っ張りおよび/または圧縮の調節の可能性が最大化される。
【0019】
項目5 第1弾性要素および第2弾性要素が両者の間に鈍角を形成する、項目1から4のいずれか一項に記載の歯車用固定装置。
【0020】
項目6 第1弾性要素および第2弾性要素が第1フレキシブルブレードおよび第2フレキシブルブレードである、項目1から5のいずれか一項に記載の歯車用固定装置。
【0021】
項目7 第3弾性要素が、両側に第3フレキシブルブレードおよび第4フレキシブルブレードを含む剛ブロックである、項目1から6のいずれか一項に記載の歯車用固定装置。
【0022】
項目8 第3弾性要素がシャーシにも連結される、項目1から7のいずれか一項に記載の歯車用固定装置。
【0023】
項目9 第4フレキシブルブレードが追加ブロックに連結され、場合によっては追加ブロックがシャーシに連結される、項目7に記載の歯車用固定装置。
【0024】
項目10 第3弾性要素に力を加えるプレストレスシステムをさらに含む、項目1から9のいずれか一項に記載の歯車用固定装置。
【0025】
項目11 プレストレスシステムが、第3弾性要素に加えられる力を変化させることができる、項目10に記載の歯車用固定装置。
【0026】
項目12 可変プレストレスシステムが偏心ねじまたはマイクロねじを備える、項目11に記載の歯車用固定装置。
【0027】
項目13 可変プレストレスシステムが、第5フレキシブルブレードおよび第6フレキシブルブレードによるか中間ブロックを使用してシャーシに連結された追加ブロックを備え、中間ブロック自体も第7フレキシブルブレードおよび第8フレキシブルブレードによりシャーシに連結される、項目11に記載の歯車用固定装置。
【0028】
項目14 4つのブレードの移動時、ブレード間の間隔の短縮が打ち消され、その結果、プレストレスの設定時、ブロックの不要な運動が防止されるよう、第7フレキシブルブレードおよび第8フレキシブルブレードが配設される、項目13に記載の歯車用固定装置。
【0029】
項目15 中間ブロックがスタッドを備え、シャーシが、スタッドを受け入れかつその動きを画定することができる凹部を備える、項目13または14に記載の歯車用固定装置。
【0030】
技術的に不可能な場合は別として、これらの項目のうち少なくとも2つを組み合わせることが可能であることは言うまでもない。
【0031】
さらに本発明は以下の項目において要約される時計部品にも関する:
【0032】
項目16 項目1から15に記載の歯車用固定装置を備える時計部品。
【0033】
以下の項目17は本発明による時計部品について有利な追加的特徴を提供する。
【0034】
項目17 固定装置が脱進機の一部を成し、歯車がガンギ車である、項目16に記載の時計部品。
【0035】
別の態様によれば、本発明は、主要な特徴が以下の項目から得られる時計部品の製造方法にも関する:
【0036】
項目18 項目12に記載の固定装置をプレート上に固定するステップと、
双安定系が得られるまで偏心ねじを回すステップと
を含む時計部品の組み立て方法。
【0037】
項目19 項目13または14に記載の固定装置をムーブメントのプレート上に固定するステップと、
マイクロねじまたは偏心ねじを、それが追加ブロックと接触するよう固定するステップと、
双安定系が得られるまで第一のマイクロねじまたは偏心ねじを回すステップと
を含む時計部品の組み立て方法。
【0038】
項目20 項目13から15のいずれか一項に記載の固定装置をムーブメントのプレート上に固定するステップと、
マイクロねじを、それが中間ブロックと接触するよう固定するステップと、
双安定系が得られるまでマイクロねじを回すステップと
を含む時計部品の組み立て方法。
【0039】
項目21 さらに、
双安定系を得るためにマイクロねじを回す前に、シャーシと中間ブロックの間にくさびを挿入するステップ
を含む、項目20に記載の時計部品の組み立て方法。
【0040】
次に、添付の図面を参照して行う以下の説明において、本発明のその他の特徴および長所を詳細に記述する。添付の図面は概略的に以下のことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明による固定装置
この固定装置の全体図を
図1に示すが、そこでは同装置は、協働するようになっている歯車の横に配置されている。
【0043】
図からわかるように、固定装置1は2つのアーム10、11を含む固定子9を備え、2つのアームの間には、エルボー、ならびにエルボーとは反対の側すなわち歯車40側に、角度が形成される(図では鈍角であるが鋭角となることもありうる)。
【0044】
歯車40とは反対の側では、エルボーまたはアーム10、11の接合ゾーンの近傍に位置する点からフレキシブルブレード12、13が、アーム10、11のそれぞれから延び、アーム10、11により両ブレード間にはたとえば90度の角度が形成される。
【0045】
好ましくは、本発明による固定装置は、たとえば、固定ねじを受け入れるようになされた穴8により、プレートまたは時計のムーブメントブリッジなどの支持体に既知の方法で固定されるようになされたシャーシ7を備える。フレキシブルブレード12、13はこのシャーシ7に到達する。
【0046】
当然のことながら、フレキシブルブレード12、13は場合によっては同一のアームを起点としてもよいが、その場合、固定子の旋回点を画定するブレードの仮想交点が、脱進機が良好に作動するのに適する場所に設定されることを条件とする。しかしながら、各フレキシブルブレードの一端部を各アーム上に設置することにより、装置の旋回角度を最大にすることができる。
【0047】
アームのうちの一方、アーム10は、歯車40の歯を固定するようになされた入りアンクル14を、その自由端にあるいは自由端の近傍に具備する。
【0048】
他方のアーム11は、歯車40の歯と接触するようになされた出爪15を、アーム10に連結された端部ではない方の端部に、あるいはこの端部の近傍に具備する。
【0049】
幾何学的プレストレス
本発明の一特徴によれば、弾性要素16は、固定子、好ましくは一方のアームの端部、たとえばアーム11の端部、に連結される。この弾性要素16は長方形剛ブロック17から成り、この剛ブロックは、アーム11側に向いたその横方向側はフレキシブルブレード18により延長され、横方向の反対側はフレキシブルブレード19により延長される。
【0050】
このフレキシブルブレード19は固定ブロック20に連結することができる。
【0051】
しかしながらフレキシブルブレード19はシャーシ7に連結されるのが好ましい。したがって
図2では、フレキシブルブレード19はシャーシ7に到達するL字形部分21に連結されている。
【0052】
弾性要素16は本発明による固定装置が良好に作動する上で必須である。事実、この弾性要素により、3つの連接部、すなわち
フレキシブルブレード12、13によるシャーシへの第1連接部
フレキシブルブレード18によるアーム11と弾性要素16との間の第2連接部
フレキシブルブレード19による弾性要素16とブロック20(
図1)またはL字形部分21(
図2)の間の第3連接部
を有する旋回システムを作製することが可能になる。
【0053】
そのような3連接旋回システムは「ナックル継手」とも呼ばれる。
【0054】
シャーシ(21)の寸法調節、あるいはブロック20とシャーシ7との間の距離を微調整することにより、機構に双安定挙動を与えることができるが、すなわちこれは、3連接旋回システムにより、固定子9は、不安定均衡位置を経由して、安定し明確に画定された2つの均衡位置間を移動することが可能になるということである。
【0055】
固定装置の諸部分を適当な寸法にすることによりプレストレスを得ることができる。プレストレスは固定装置の設計時から既に想定することができる。したがって
図2においてL字形部分21がブレード19を押圧すると、L字形部分はプレストレスを間接的にアーム11に印加する。
【0056】
図1において、剛ブロック17の近傍の、ブレード19の長さよりも短い距離のところにブロック20を固定することができ、その結果ブロックはブレード19を押圧する。
【0057】
図2は、ロビンタイプの脱進機に適用される本発明による固定装置2を示す図である。図からわかるように、アーム11とは反対側のアーム10の端部は、
図2にプレート23だけを示したテンプと協働するようなされたフォーク形部分22により、入アンクル14を超えて延びる。
【0058】
このフォーク形部分22ならびにテンプとのその協動は当業者にはよく知られていることである。当業者であれば、ロビンタイプの脱進機を扱う参考文献において、あるいは必要に応じて特許文献2において、部分22の正確な形状ならびにテンプとのその協働に関するあらゆる詳細を知ることができよう。
【0059】
図3はデテントタイプの脱進機に適用される本発明による固定装置を示す図である。したがって、既知の方法で固定子9に連結されたデテント25は、同図に図示したテンプのプレート27上に固定された固定解除ピン26と協働する。同様に、テンプに固設された部分には推進アンクル28が設けられ、ガンギ車40により駆動されるようになっている。当業者にとってはこういったことは全てよく知られたことあり、デテントタイプの脱進機を扱う参考文献において、あるいは場合によっては特許文献3において、固定子、固定、デテント25の正確な形状ならびにテンプとのその協働に関するあらゆる詳細を知ることができよう。
【0060】
本発明による固定装置は、シャーシ7のおかげでより容易に設置することができる。実際、フレキシブルブレードによる旋回、および特にシステムの双安定挙動を実現するには、種々の要素の寸法および位置を良好に管理することが必要である。この点に関して、特許文献1に記載の解決方法は、弾性要素がそれぞれ個別に柱時計のムーブメントに固設されるので非常に問題がある。固定子9、弾性要素12、13、16、および必要に応じて、選択された実施形態による本装置の他の要素が、シャーシ7と一続きで作製される場合には、組み立て時にムーブメントに固設されるのはこのシャーシであり、固定装置を時計のムーブメント内に取り付けても種々の要素の相対位置は変わらない。
【0061】
弾性プレストレス
本発明の有利な実施形態によれば、3連接システムの動作は弾性要素16に働くプレストレスシステムにより向上する。
【0062】
この弾性プレストレスシステムは幾何学的プレストレス法による場合よりも優れたプレストレス力の管理が可能になる。それにより本発明による固定装置を構成する部品の寸法誤差に対する双安定性挙動の感応度を下げることができ、したがって寸法公差を改善することができる。
【0063】
このプレストレスシステムは、プレストレスが与えられたブレード31および32(
図4)を介して弾性要素16に弾性力を常に与える。
【0064】
可変幾何学的プレストレス
プレストレスシステムは可変であること、すなわち弾性要素16に印加される応力を変えることができることが好ましい。
【0065】
これは偏心ねじを用いることにより得ることができる。したがって
図3でわかるように、可変プレストレスシステムは偏心ねじ29を使用して作製される。偏心ねじが回されると、偏心ねじは追加ブロック24を回転駆動する。すると追加ブロックは偏心ねじ29の回転方向に従ってブレード19を多少押圧するので、ブレードは剛ブロック17、ブレード18、ついで固定子9のアーム11を押す。
【0066】
可変弾性プレストレス
可変弾性プレストレスシステムを作製する別の方法を
図4に示す。この方法は、弾性要素16のブレード19を追加ブロック30に連結することから成るが、追加ブロック30自身も案内の役割を果たすフレキシブルブレード31、32によりシャーシ7に連結されている。次に、たとえばねじ(図示せず)を用いて追加ブロック30を移動させることにより、弾性要素16にプレストレスを与え、またそのプレストレスを調節する。また、フレキシブルブレード31、32が連結されているシャーシ7の部分7aを適切な寸法にすることにより、このプレストレスを増加させることもできる。
【0067】
図5は
図4に示す実施形態の有利な変形形態を示す。この変形形態においては、追加ブロック30はシャーシ7に直接連結されるのではなく、中間ブロック33を介して連結され、中間ブロック自体も、案内の役割を果たすフレキシブルブレード34、35によりシャーシ7に連結されている。
【0068】
したがって中間ブロック33に変位量Δχを課すと、ブレード31、32、34および35は全く同じようにたわみ、これら4つのブレードが相対的に短くなるため、中間ブロック33は(
図5上で)左から右に移動するのと同時に上方に移動しようとする。したがってこのシステムは、平行に作用しプレストレス量がχであるようなブレード31および32から成るプリロードばねのように作用する。ブレード31、32、34および35の短縮分は、ブロック30が上から下に向かう移動を全く受けないようにして相殺される。これは、プレストレスを調節しても(しかもここでは距離Δχの大小に関わらず)、ナックル継手の幾何学的形状(
図5の部品19および11の連接のアラインメント)、したがって同継手の安定状態は何ら変わらないという長所を有する。
【0069】
外力によるプレストレス
変形形態では、
図4および
図5のブロック30に力Fを与える追加ばねのように作用する外部プレストレスを使用することも可能である。ブレード31および32は、前回のケースでは案内の役割とばねの役割を同時に果たしていたが、ここでは案内の役割は果たさない。
【0070】
したがって
図4では、力F(図示せず)は弾性要素16の方向においてブロック30に直接加えられる。
【0071】
図5では、力F(図示せず)は、同図に示した移動量Δχの方向においてブロック33に加えられ、プレストレスはブレード31および32を介して弾性要素16に伝達される。
【0072】
プレストレスシステムの長所
このように、可変型にせよ固定型にせよ、幾何学的または弾性的プレストレスシステムのおかげで固定子9は、双安定挙動をとる、すなわちただ1つの中心均衡位置の周囲を自由に振動することはもはやできなくなり、ある安定した端位置から他方の安定端位置まで傾動する。したがって安全性が向上する。すなわち推進運動前のロック解除段階の間、ガンギ車40の引っ張り力に、弾性ブレード12、13により形成される双安定フレキシブル旋回軸による引っ張りトルクが加えられる。この引っ張りトルクによりフレキシブル旋回軸の動的挙動が決まる。このシステムを従来のデテント脱進機と比較すると、双安定フレキシブル旋回軸の復元トルクが、従来のデテント脱進機のばねの復元トルクに取って代わることがわかる。
【0073】
これにより大きな長所がもたらされる。すなわち固定子のロック解除に通常必要なエネルギーの一部が回収されるが、これはテンプの実作動角度(テンプがフォークまたはアンクルのデテントのフィンガーと接触する瞬間から、固定子がガンギ車を解放する瞬間までに回る角度)が少なくなるからであり、これは当然のことながら固定子9をその第2の安定な位置に傾動させる双安定性のおかげであり、こうすることによりテンプとの接触時間が少なくなる。
【0074】
固定または可変プレストレスシステムがもたらすその他の長所は以下の通りである:
軸と軸受との間の旋回を廃止したこと、すなわち旋回あそびをなくしたことによる精度の向上。これはロビン脱進機のようにアンクルがきわめて小さな動作角度(標準スイスアンクル脱進機の場合15度であるのに対し3度)を示す脱進機の実際的作製に大きく資する;旋回精度も向上する;双安定性により安全装置をなくすことができる;したがって、ロビン脱進機およびスイスアンクルの場合、アンクルにガードピン(逆転防止システム)を具備することをやめることができる;デテント型またはスイスアンクル型ロビン脱進機の場合、たとえばラウンディドエッジアンクルによりアンクル上の歯車のドローイング、および、歯車の後退を廃止することができる;したがってドローイングは、制御する固定子のポテンシャル井戸に置き換えることができ、それにより幾何学的後退および動的後退を回避することができ、固定子を搖動させるために使われるエネルギーの一部を回収することができる。
【0075】
好ましくは、
図5でわかるように、中間ブロック33はスタッド36を備え、シャーシ7はこのスタッドを受け入れその動きを画定することができる凹部37を備える。したがってスタッド36は制限ストッパーの役割を果たすが、これはシステムの安全性を確保し、プレストレスの印加中の突発的破損を防止するためのものである。事実、スタッド36の移動は凹部37の隔壁により制限される。その最大移動量は、破断プレストレスに対応する移動量を下回った状態に留まるようになされている。
【0076】
図6は先に記述した固定装置のデテントタイプ脱進機内での使用を示す。ここではシャーシ7の形状のみが
図5のシャーシの形状と異なる。
【0077】
図6では、テンプの上に慣性プレート52が設置される。慣性プレートおよびその動作は特許文献4において詳細に記述され、その内容は参考文献として本特許出願に組み込まれている。この特許文献4において慣性プレートは「慣性部材11」と呼ばれている。
【0078】
本発明による固定装置は、先行技術、特に腕時計の脱進機用アンクルに関する特許文献1で知られているシステムと比べ、いくつもの長所を有する。
【0079】
特許文献1において、
図7および
図8は、旋回軸を形成する最初の2つの要素は固定子と同じ側にあり、両者の間に90°(
図7の場合30°)よりもはるかに小さい角度を形成し、第3の要素は最初の2つの要素で形成される角の二等分線上かつ内側に設置される(22パラグラフ、1.43−48を参照のこと)。
【0080】
この構成により双安定挙動を得ることができるが、サイズについての欠点を有する。まず、システムが双安定モードにある時には2つの弾性要素は座屈状態で作用する。Eを材料のヤング係数とし、lを要素の長さとし、Iをその慣性(長方形ブレードの場合高さhおよび厚さeの立方、I=h×e
3/l2)とする時、各要素を座屈させるために各要素に加える限界荷重は8n×E×I/l
2となるので、実際には座屈は制御することが困難である。この限界荷重はブレードの寸法、特に厚さにきわめて影響されやすいことがわかる。したがって少しでも製造の不良があると、双安定性挙動を得るために必要な負荷が大きく変わることがある。
【0081】
他方、旋回軸を形成する最初の2つの要素の間の角度は90°よりはるかに小さいため、システムは不良の影響を受けやすくなる。第3要素を双安定系にするために第3要素に加えるのに必要な力はブレードに大きく影響する:ブレードに沿った力の成分はいかなる場合も、第3弾性要素に加えられる力の70.7%(θ=90°とする時COS(θ/2))未満になることはない。上で引用した出願の
図7の場合には、この成分は96%である。
【0082】
最後に、弾性エネルギーは、ブレードの座屈により2つの旋回要素内に全て保存される。
【0083】
本発明による固定装置においては、旋回軸を形成する最初の2つの要素間の角度は通常は90°であるが、これよりさらに大きくなることもある。力は、2つの旋回要素によって形成される扇形以外の方向に優先的に印加されるので、1つのブレードだけが圧縮すなわち座屈の力を受け、他方のブレードは引っ張りの力を受ける。したがって限界荷重に対する寸法変化の影響は目に見えて減少するので、システムの作動に対する製造公差の影響度は明らかに低くなる。圧縮応力(座屈)と引っ張り応力の配分は、最初の2つの弾性要素間の角度、および最初の2つの弾性要素に対する力Fの方向によってさらに調節することができる。最後に、弾性エネルギーは大部分が第3弾性要素内に保存される。
【0084】
したがって本発明による固定装置により、有利には、第1弾性要素および第2弾性要素のうちの一方が引っ張りの力で作用し他方は圧縮で作用するようにすることができるという可能性が提供されるが、これは上で引用した特許出願の対象となるアンクルでは不可能である。さらに、上で触れたアンクルでもそうであるように、第1弾性要素および第2弾性要素によっては応力の調節が妨げられないので、第3要素による応力の調節が容易になる。
【0085】
本発明による固定装置はただ1つの面内を延び、たとえばDRIE法(「Deep Reaction Ion Etching」)を用いてケイ素で、あるいはUV−LiGA(「Lithographie,Galvanoformung,Abformung」)を用いてNiまたはNiPで一続きで作製することができる。この2つの方法により、必要とされる厳密な製造公差を尊重しながら、本発明による固定装置を製造することができる。
【0086】
また、複数のレベルを有する部品を作製するのに同じ方法を用いることも可能であり、かつ有利である。
【0087】
変形形態では、本発明による固定装置を2つまたは3つの部品で作製すること、すなわちアンクルのうちの一方および/または他方が固定子に取り付けられるようにすることが可能である。その場合、見ながら微調整ができるよう、ルビー製のアンクルを使用することができる。
【0088】
本発明による固定装置の使用
本発明による歯車用固定装置は数多くの機構に適用され、時計部品、特に腕時計のロビンタイプまたはデテントタイプの脱進機など、ダイレクト脱進機機構に特に適用される。
【0089】
「ダイレクト脱進機」とは、歯車の推進力がテンプに直接伝達されることを意味する。
【0090】
したがって、
図7には従来のデテントタイプ脱進機が示してあるが、同脱進機においては
図6の慣性プレート52は、弛緩ブレード42と相互作用するピン41に置き換えられている。ピン41がブレードと接触するとこのブレード42はたわみ、ピン43を経由して固定子9をGの方向に駆動するが、たわみはHの方向においては相殺される。
【0091】
図8には、テンプに固設されたピン41が固定子9のアーム10の端部を延長するフォーク44と相互作用レバーの結果、固定子が抜かれ、歯車40が開放された、ロビンタイプの脱進機を示した。歯車は反復運動毎に外れるが、推進力は2回の反復運動のうち1回だけ推進力を伝達する。したがってこれはシングルビート脱進機である。
【0092】
測定から、
図6に示したような本発明による固定装置の平均効率がきわめて良好であり、腕時計が通常受ける衝撃にもかかわらず、特に、信頼性の高い動作に適した安全性を有する、機能性の高い腕時計用デテント脱進機を作製することが可能であることがわかった。
【0093】
本発明による固定装置はスイスアンクル脱進機など、インダイレクト脱進機にも適用される。
【0094】
「インダイレクト脱進機」とは、推進力が歯車からテンプに間接的に伝達されることを意味する。
【0095】
したがって、
図9に従来のスイスアンクル型脱進機を示すが、ここでは推進力はアンクル45およびフォーク46を介して歯車40からテンプに伝達される。この図でわかるように、シャーシ7により有利には、アンクル45の動きを制限するストッパー47、48を直接組み込むことができ、これらのストッパーはデテントピンとも呼ばれる。シャーシ7は、テンプに固設されたプレートによって支承されるピン41の回転ならびにフォーク46の移動を可能にする開口部51を具備する。
【0096】
本発明によってもたらされる高い旋回精度は安全装置を廃止することができるという長所を有する。したがって、
図9に示してあるようなスイスアンクル型脱進機においては(ロビン型脱進機の場合と全く同様に)、アンクル45にガードピン50を具備させることを廃止することが可能である、というのはたとえば衝撃によるアンクルの逆転はシステムが防止するからである。同様に、あるいは代替方法として、入アンクル14および出爪15から歯車40のドローイングを廃止することができ、
図10でわかるように、休止面49が直線ではなく丸められた入アンクル14および出爪15をたとえば使用することにより、取り外しの際の歯車の後退を廃止することができる;したがってドローイングは、制御する固定子のポテンシャル井戸に置き換えることができ、それにより幾何学的後退および動的後退を回避することができ、固定子9を傾動させるために使われるエネルギーの一部を回収することができる。スイスアンクルタイプの脱進機についてのこの解決方法を
図10に示したが、同方法はデテントタイプまたはロビンタイプの脱進機にも適用することができる。
【0097】
時計部品の作製方法
図3から
図10の実施形態により固定子9の角度方向剛性を変え、双安定動作モードに達するまで調節することができる。するとシステムのポテンシャルエネルギーは、最大値の周辺に明確に画定された2つのポテンシャル井戸を有する結果、ある位置から他の位置への固定子のきわめて高精度な旋回が可能になる。
【0098】
したがって時計部品の製造時には、当業者はなじみの従来のステップに加え、本発明による固定装置に特有なステップを実施することが有利である。
【0099】
したがって、
図3に示すような可変プレストレスシステム固定装置3を使用する場合、固定装置を時計部品のムーブメントプレートに固定した後、双安定系が得られるまで偏心ねじ29を回す。
【0100】
図4に示すような可変プレストレスシステム固定装置4を使用する場合、固定装置を時計部品のムーブメントプレートに固定した後、マイクロねじまたは偏心ねじを、それが追加ブロック30に接触するように回し、次に双安定系が得られるよう適切なやり方でねじを回す。
【0101】
図5または
図6に示すような可変プレストレスシステム固定装置5または6を使用する場合、固定装置を時計部品のムーブメントプレートに固定した後、マイクロねじまたは偏心ねじ38を、それが中間ブロック33に接触するように回し、次に双安定系が得られるようねじを回す。位置決め精度をさらに上げるには、ねじ38を回して調節を行う前に、シャーシ7と中間ブロック33との間にV字形のくさび39を挿入する。その場合くさび39は、減速係数により移動量の微調整が行える可変ストッパーの役割を果たす。
【0102】
スライディングアンクルを有するデテント脱進機への適用
図3、
図9および
図10を再度参照すると、そこに図示した脱進機は少し特殊であることがわかる。そこで
図11から
図21を参照してこの脱進機について詳しく記述するが、わかりやすくする配慮からこれらの図には、弾性ブレードも、追加および中間固定剛ブロックも、シャーシも図示していない。
【0103】
これは時計のムーブメント用デテント脱進機であり、その概要は以下の通りである:
a.推進要素2’に固設されたテンプ3’と、歯が推進要素2’の軌道を分断する歯車1’と、停止要素4a’および弾性開放要素4c’を有するデテントレバー4’と、停止要素4a’をガンギ車1’の歯の軌道の中に挿入するための手段と、停止要素4a’をガンギ車の歯から抜くためのテンプの一振動期間に1回、レバー4’の弾性開放要素4c’と歯合するようになるためテンプ3’に回動固設された開放フィンガー7’とを備える時計のムーブメント用デテント脱進機であり、
この脱進機は、停止要素4a’をガンギ車1’の歯の軌道の中に挿入するための前記手段が、デテントレバー4’に固設されたスライディング表面4b’であって、停止要素4a’がガンギ車の歯の軌道から出てきた時この軌道に入るよう配置されたスライディング表面を含み、このスライディング表面は、ガンギ車の1つの歯により同表面に印加される力が、ガンギ車1’の歯の軌道内にデテントレバー4’の停止要素4a’が復帰するよう成形されるという特徴を有する。
【0104】
この脱進機の有利な特徴を以下の項目bおよびcに示す:
b.デテントレバーの停止要素4a’が、ガンギ車1’の歯の軌道外のところに位置し、デテントレバー4’の固定解除位置においてこの軌道に隣接する安全表面4e’を含むことを特徴とする項目aに記載の脱進機。
c.安全表面4e’の長さが、停止要素4a’がガンギ車1’の歯の軌道内に早期に復帰するのを防止するために、テンプ3’に駆動推進力を伝達するためにガンギ車1’が動く角度に相当することを特徴とする項目bに記載の脱進機。
【0105】
そのような脱進機の長所は振動に対する安全性が向上することである。別の長所は、デテントレバーの停止要素が、テンプが具備するばねによってではなく、レバーをガンギ車の固定位置に移動するためにガンギ車の歯が作用するスライディング表面によって、ガンギ車の歯の軌道内に戻されることである。消費エネルギーはより少なく、かつテンプから供給されるのではなくガンギ車から供給され、テンプ−ヒゲゼンマイ振動子の振動周期の乱れが最小になる。さらに、ガンギ車の歯の軌道に交互に進入する停止要素およびスライディング表面を有するこのデテントレバーは追加的安全装置を構成する。
【0106】
有利には、デテントレバーの停止要素は、ガンギ車1’の歯の軌道外のところに位置し、デテントレバーの固定解除位置においてこの軌道に隣接する安全表面を含む。この安全表面の長さは、停止要素が歯車の歯の軌道内に早期に復帰するのを防止するために、テンプに駆動推進力を伝達するために歯車が動く角度に相当する。したがってこれは第2の追加的安全性となる。
【0107】
より詳細には、
図11に示す脱進機はガンギ車1’を含み、ガンギ車の歯の円形軌道は、ヒゲゼンマイ(図示せず)結合されたテンプ3’に固設された推進アンクル2’の軌道を分断する。
【0108】
デテントレバー4’は2つのストッパー5’、6’間を自由に移動することができる。デテントレバーは、その制止面4a’がガンギ車1’の歯を停止するのに用いられるような停止要素と、ガンギ車の歯がスライディング表面4b’上で滑動し、レバーを反時計方向に切り換え、制止面をガンギ車1’の軌道に復帰させるためのスライディング表面4b’とを含む。このデテントレバー4’は、ストッパー4dを押圧し自由端がテンプ3’に固設された開放フィンガー7’の軌道の中に入る弾性解放要素4c’をさらに含む。
【0109】
デテントレバー4の停止要素は、ガンギ車1’の歯の軌道外のところに位置し、デテントレバー4’がストッパー5’を押圧する時この軌道に隣接する安全表面4e’を含む(
図13から
図16)。この表面は、歯車の歯がテンプ3’の推進アンクル2’に推進力を伝達する角度に相当するガンギ車1’の角度上に展開している。
【0110】
テンプ−ヒゲゼンマイ3’の発振サイクルは
図11から
図21に示す種々の段階に分けることができる。
【0111】
図11に示す段階では、テンプ3’は反時計方向に回転する。レバー4’の停止要素の制止面4a’はガンギ車を制止し、ガンギ車はレバー4’をストッパー6’に押圧した状態に維持する。
【0112】
図12に示す段階は、テンプ3’に固設された開放フィンガー7’が、ストッパー4d’を押圧している弾性開放要素4c’に当たる瞬間に相当する。ストッパー4d’があり、テンプ3’は反時計方向へ回転することから、弾性開放要素4c’は剛性要素のとしての挙動を示す。
【0113】
するとデテントレバー4’は開放フィンガー7’の作用により、ストッパー6’に押圧された状態からストッパー5’に押圧された状態(
図13)に移行し、デテントレバー4’の停止要素の制止面4a’により歯が停止されていたガンギ車1’が解放される。
【0114】
ガンギ車1’は(図示しない)仕上歯車列から伝達される香箱ばね(図示しない)のトルクを受け、時計方向に駆動される。するとガンギ車の歯のうちの1つがテンプ3’(
図14)の推進アンクル2’に当たる。これが推進段階の始まりであり、この段階の間、香箱ばねのエネルギーはテンプ3’に伝達され、テンプの発振運動の維持に必要なエネルギーがテンプに伝達される。
【0115】
この推進段階はガンギ車の歯が推進アンクルを離れるタイミングで、すなわち、実質上、
図15に示すような位置で終了する。図でわかるように、この推進段階中、デテントレバー4’の停止要素の安全表面4e’が、たとえば衝撃があった場合でも停止要素がガンギ車1’の歯の軌道内に入るのを防止する。
【0116】
推進段階の後もガンギ車1’は回転し続け、その歯のうちの1つがスライディング表面4b’(
図16)に当たる。ガンギ車1’の歯はこの表面4b’を押圧して滑動し、レバー4’を反時計方向に回転させ、ストッパー6’(
図17)に再度押圧させる。この反転動作によりレバー4’の停止要素もガンギ車1’の歯の軌道内に復帰し、その結果、ガンギ車の1つの歯が停止要素の制止面4a’を押圧するようになり、レバー4’をストッパー6’(
図18)に押圧した状態に維持するトルクをレバーに印加する。
【0117】
この時間中、テンプ3’は、ヒゲゼンマイがテンプを停止し時計方向に回転させるまで反時計方向に回転し続ける。
【0118】
開放フィンガー7’がデテントレバー4’の弾性開放要素4c’に当たると(
図19)、フィンガーは、デテントレバー4’を移動させることなくストッパー4d’から要素を遠ざける(
図20)。テンプ3’の推進アンクル2’はガンギ車1’のうちの隣接する2つの歯の間を通過するがこれらの歯には接触しない。
【0119】
テンプ3’は、ヒゲゼンマイによって停止され反時計方向に回転駆動されるまで回転し続け(
図21)、こうして新しい発振サイクルが始まる。
【0120】
図11から
図21に示すデテント脱進機は、シャーシ、弾性ブレード等を追加することにより改良することができ、その結果、
図3に示す脱進機に到達する。フレキシブル旋回軸を作製することにより、固定子の移動に伴うほぼ全てのあそびを取り除くことができるようになり、固定装置の構成部品の相対位置決めの精度が向上する。改良された脱進機は、動作の安全性を向上させるということが第一目的である優れた挙動を有する。