(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914458
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】シトルリンを含有するアジュバント組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20160422BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20160422BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20160422BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/145
A61P31/16
A61K39/00 H
【請求項の数】50
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-504708(P2013-504708)
(86)(22)【出願日】2012年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2012056132
(87)【国際公開番号】WO2012124631
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2014年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-53658(P2011-53658)
(32)【優先日】2011年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173555
【氏名又は名称】一般財団法人化学及血清療法研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】野崎 周英
(72)【発明者】
【氏名】上仲 一義
(72)【発明者】
【氏名】松田 純一
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/033425(WO,A1)
【文献】
特表平10−509432(JP,A)
【文献】
米国特許第03725545(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61P 31/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−シトルリンを含有するアジュバント用組成物。
【請求項2】
前記L−シトルリンが1mg/mL〜50mg/mLで含まれる、請求項1に記載のアジュバント用組成物。
【請求項3】
アジュバント用組成物が、ペプチド抗原用のアジュバント用組成物である、請求項1または請求項2に記載のアジュバント用組成物。
【請求項4】
抗酸化物質をさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアジュバント用組成物。
【請求項5】
抗酸化物質が、アスコルビン酸である、請求項4に記載のアジュバント用組成物。
【請求項6】
前記L−シトルリンと抗酸化物質の重量比が1:1である、請求項4または請求項5に記載のアジュバント用組成物。
【請求項7】
前記抗酸化物質が5mg/mLで含まれる、請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のアジュバント用組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のL−シトルリンを含有するアジュバント用組成物と抗原を含有するワクチン組成物。
【請求項9】
前記抗原とL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが100以上である、ワクチン組成物。
【請求項10】
前記抗原が、インフルエンザウイルス抗原である、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス1(M1)、マトリックス2(M2)および核タンパク(NP)からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上の抗原である、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)である、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
前記インフルエンザウイルス抗原が、マトリックス2(M2)である、請求項11に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
前記インフルエンザウイルス抗原とL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが300以上である、請求項10から請求項13のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項15】
前記抗原がペプチドである、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
前記ペプチドとL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが100以上である、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
前記ペプチドが、M2eペプチド、M2eペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチド、またはM2eペプチドにシステインを含むペプチドが付加されたペプチドである、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
前記ペプチドが、M2eペプチドにおいて、N末端から数えて20番目と21番目の間、21番目と22番目の間、および22番目と23番目の間にそれぞれシステイン残基を挿入した合成ペプチドである、請求項17に記載のワクチン組成物。
【請求項19】
前記M2eペプチドとL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが200以上である、請求項17または請求項18に記載のワクチン組成物。
【請求項20】
前記ペプチドが、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの一部のアミノ酸配列からなるペプチド、または前記ペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチドである、請求項15に記載のワクチン組成物。
【請求項21】
前記ペプチドがアミロイドβ(Aβ)ペプチドのN末端より28個のアミノ酸からなるペプチドのC末端にシステイン残基を1個付加したペプチドである、請求項20に記載のワクチン組成物。
【請求項22】
前記アミロイドβペプチドとL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが100以上である、請求項20または請求項21に記載のワクチン組成物。
【請求項23】
前記抗原が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項8に記載のワクチン組成物。
【請求項24】
ワクチンにアジュバントとしてのL−シトルリンを添加することからなる、該ワクチンに含まれる抗原に対する抗体産生能の増強したワクチンの製造方法。
【請求項25】
前記L−シトルリンを1mg/mL〜50mg/mLで添加する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗原とL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが100以上である、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記抗原が、インフルエンザウイルス抗原である、請求項24または請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス1(M1)、マトリックス2(M2)および核タンパク(NP)からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上の抗原である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記インフルエンザウイルス抗原が、マトリックス2(M2)である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記インフルエンザウイルス抗原とL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが300以上である、請求項27から30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記抗原がペプチドである、請求項24に記載の方法。
【請求項33】
前記ペプチドとL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが100以上である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ペプチドが、M2eペプチド、M2eペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチド、またはM2eペプチドにシステインを含むペプチドが付加されたペプチドである、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記ペプチドが、M2eペプチドにおいて、N末端から数えて20番目と21番目の間、21番目と22番目の間、および22番目と23番目の間にそれぞれシステイン残基を挿入した合成ペプチドである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記M2eペプチドとL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが200以上である、請求項34または請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ペプチドが、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの一部のアミノ酸配列からなるペプチド、または前記ペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチドである、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記ペプチドがアミロイドβ(Aβ)ペプチドのN末端より28個のアミノ酸からなるペプチドのC末端にシステイン残基を1個付加したペプチドである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記アミロイドβペプチドとL−シトルリンの重量比が1:Nであって、Nが100以上である、請求項37または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗原が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上のアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項24に記載の方法。
【請求項41】
L−シトルリンとともに抗酸化物質をも添加する、請求項24から40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記L−シトルリンと抗酸化物質を重量比1:2〜2:1で添加する、請求項41または42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗酸化物質を1〜10mg/mLで添加する、請求項41から43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
ワクチンに添加することによる、アジュバントとしてのL−シトルリンの使用。
【請求項46】
1mg/mL〜50mg/mLのL−シトルリンをワクチンに添加する、請求項45に記載の使用。
【請求項47】
抗酸化物質を併用する、請求項45または請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸である、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
前記L−シトルリンと抗酸化物質を重量比1:1でワクチンに添加する、請求項47または請求項48に記載の使用。
【請求項50】
5mg/mLの前記抗酸化物質をワクチンに添加する、請求項47から49のいずれかに記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シトルリン類を含有するアジュバント組成物、シトルリン類と抗酸化物質(例えばアスコルビン酸)を含有するアジュバント組成物、上記のアジュバント組成物と抗原を含有するワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンは抗原性物質とともに、アジュバント、希釈剤、保存剤、安定化剤および緩衝化剤を必要に応じて含みうる。特に、アジュバントは、抗原と共に投与され、投与した抗原に対する免疫応答を増強する物質であり、その作用は(1)抗原を吸着して抗原提示細胞への取り込みを高めたり、(2)抗原を局所に長時間とどめて、徐々に放出することにより抗原刺激を持続させたり、(3)直接免疫担当細胞を活性化するなどアジュバントの種類によって様々である。従って、アジュバントはワクチンの用量や投与回数、ワクチン中の抗原量を低減させる点で非常に有用である。そのため、これまでワクチンの作用を増強させるアジュバントに関する様々な研究がなされているが、実際に医療現場で使用されているものは極めて少ない。
【0003】
代表的なアジュバントとして、多くのワクチンに利用されているのが水酸化アルミニウム(以下、「Alumアジュバント」という)であるが、可溶性でないために抗原との均一な混合化が困難であり、経鼻または経皮投与用デバイスとの組合せが難しい等の利便性の観点から、理想的なアジュバントとは言い難い。Alumアジュバント以外では、スクアレンやMPL(monophosphoryl lipid)などを利用したものがあるが、アジュバント活性が強い反面、副反応も強く、水に溶けにくいという弱点を有している。そのため、医療現場では、人体へ高い免疫反応を惹起し、副作用が少なく、利便性の向上したアジュバントの開発が切望されている。
【0004】
一方、シトルリン(citrulline)は、アミノ酸の一種で尿素回路を構成する化合物のひとつであり、動物、特に哺乳類で広く存在する(化学式C
6H
13N
3O
3、別名2−アミノ−5−(カルバモイルアミノ)ペンタン酸、分子量175.2g/mol)。シトルリンは1930年に日本でスイカから発見されており、スイカの学名Citrullus vulgaris(シトルラス・ブルガリス)から名づけられたものである。
【0005】
シトルリンは生体内のタンパク質を構成するアミノ酸ではないが、尿素回路の中間体の一つであり、アルギニンから血管拡張作用を有する物質として知られる一酸化窒素(NO)とともに生成され、さらにアスパラギン酸と縮合してアルギニンに再生される。シトルリンにはアンモニア代謝促進(非特許文献1)や血管拡張による血流改善(非特許文献2)、血圧低下(非特許文献3)、神経伝達(非特許文献4)、活性酸素消去(特許文献1)などの有用な作用が知られている。
【0006】
そのため、シトルリンは日本では2007年よりサプリメントなどの食品素材として新たに使用が認められている。また、海外ではそれ以前から使用されており、米国では血流改善、動脈硬化予防、精力増強などを目的としたサプリメント、欧州ではシトルリン−リンゴ酸塩が疲労回復の医薬品として販売されている。
【0007】
このようにシトルリンは多様な作用が報告されているにも拘らず、シトルリンがアジュバント活性を有することは知られておらず、シトルリンと抗原を含有させたワクチンやシトルリンを含有するアジュバントの報告も未だなされていない。また、シトルリンと抗酸化物質を併用してアジュバントとする知見も報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−226370号公報
【特許文献2】特開昭53−075387号公報
【特許文献3】特開昭63−068091号公報
【特許文献4】国際公開2011024748号パンフレット
【特許文献5】国際公開2008133208号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Cell Biochemistry and Function, "Effect of arginine, ornithine and citrulline supplementation upon performance and metabolism of trained rats", 2003年、第21巻、p.85−91
【非特許文献2】European Journal of Pharmacology, "L-Citrulline mediated relaxation in the control and lipopolysaccharide-treated rat aortic rings", 2001年、第431巻、p.61−69
【非特許文献3】Journal of Clinical Investigation, "L-arginine abrogates salt-sensitive hypertension in Dahl/Rapp rats", 1991年、第88巻、p.1559−1567
【非特許文献4】Gastroenterology, "L-citrulline recycling in opossum internal anal sphincter relaxation by nonadrenergic, noncholinergic nerve stimulation", 1997年、第112巻、p.1250−1259
【非特許文献5】The Journal of Biological Chemistry, "A SIMPLE SYNTHESIS OF dl-CITRULLINE", 1938年、第122巻、p.477−p484
【非特許文献6】The Journal of Organic Chemistry, "THE SYNTHESIS OF d,l-CITRULLINE FROM NON-BIOLOGICAL PRECURSORS", 1941年、第6巻、p.410−416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者等は、従来から汎用されているAlumアジュバントの欠点(不溶性に伴う利便性の悪さ等)、スクアレンなどの新しいアジュバントの欠点(副反応の強さ)を克服できるようなアジュバントを検討した。すなわち、本発明は、抗原の免疫原性を高め、人体への安全性に富み、利便性の向上したアジュバンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
斯かる実情を鑑みて、本発明者等は、十分な抗体産生能を発揮し、安全性に優れ、利便性の向上したワクチンおよびアジュバントを鋭意検討した結果、シトルリンが優れたアジュバント効果を発揮するという従来の報告に無い極めて新しい知見を見出した。加えて、シトルリンは水溶性物質であるため、抗原との調剤が容易であり、哺乳動物の体内や各種食料品にも含まれるため、人体への安全性も優れている。そのため、本発明では、シトルリンを用いることで、抗体産生能、安全性、および利便性に優れる、ワクチンまたはアジュバントを提供することが可能になった。
【0012】
本願発明は、以下に示す通りである。
[1]シトルリン類を含有するアジュバント組成物。
[2]前記シトルリン類が、L−シトルリン、D−シトルリン、L−チオシトルリン、L−ホモチオシトルリン、S−メチル−L−チオシトルリンおよびS−エチル−L−チオシトルリンからなる群より選択される1種または2種以上である、[1]に記載のアジュバント組成物。
[3]前記シトルリン類が、L−シトルリンまたはD−シトルリンである、[2]に記載のアジュバント組成物。
[4]前記シトルリン類が1mg/mL〜50mg/mLで含まれる、[1]から[3]のいずれかに記載のアジュバント組成物。
[5]アジュバント組成物が、ペプチド抗原用のアジュバント組成物である、[1]から[4]のいずれかに記載のアジュバント組成物。
[6]抗酸化物質をさらに含む、[1]から[5]のいずれかに記載のアジュバント組成物。
[7]前記抗酸化物質が、アスコルビン酸である、[6]に記載のアジュバント組成物。
[8]前記シトルリン類と抗酸化物質の重量比が1:2〜2:1である、[6]または[7]に記載のアジュバント組成物。
[9]前記抗酸化物質が1〜10mg/mLで含まれる、[6]から[8]のいずれかに記載のアジュバント組成物。
[10][1]から[9]のいずれかに記載のシトルリン類を含有するアジュバント組成物と抗原を含有するワクチン組成物。
[11]前記抗原とシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが100以上である、[10]に記載のワクチン組成物。
[12]前記抗原が、インフルエンザウイルス抗原である、[10]に記載のワクチン組成物。
[13]前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス1(M1)、マトリックス2(M2)、および核タンパク(NP)からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上の抗原である、[12]に記載のワクチン組成物。
[14]前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)である、[13]に記載のワクチン組成物。
[15]前記インフルエンザウイルス抗原が、マトリックス2(M2)である、[13]に記載のワクチン組成物。
[16]前記インフルエンザウイルス抗原とシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが300以上である、[12]から[15]のいずれかに記載のワクチン組成物。
[17]前記抗原がペプチドである、[10]に記載のワクチン組成物。
[18]前記ペプチドとシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが100以上である、[17]に記載のワクチン組成物。
[19]前記ペプチドが、M2eペプチド、M2eペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチド、またはM2eペプチドにシステインを含むペプチドが付加されたペプチドである、[17]に記載のワクチン組成物。
[20]前記ペプチドが、M2eペプチドにおいて、N末端から数えて20番目と21番目の間、21番目と22番目の間、および22番目と23番目の間にそれぞれシステイン残基を挿入した合成ペプチドである、[19]に記載のワクチン組成物。
[21]前記M2eペプチドとシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが200以上である、[19]または[20]に記載のワクチン組成物。
[22]前記ペプチドが、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの一部のアミノ酸配列からなるペプチド、または前記ペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチドである、[17]に記載のワクチン組成物。
[23]前記ペプチドがアミロイドβ(Aβ)ペプチドのN末端より28個のアミノ酸からなるペプチドのC末端にシステイン残基を1個付加したペプチドである、[22]に記載のワクチン組成物。
[24]前記アミロイドβペプチドとシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが100以上である、[22]または[23]に記載のワクチン組成物。
[25]前記抗原が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上のアミノ酸配列からなるペプチドである、[10]に記載のワクチン組成物。
[26]ワクチンにアジュバントとしてのシトルリン類を添加することからなる、該ワクチンに含まれる抗原に対する抗体産生能の増強したワクチンの製造方法。
[27]前記シトルリン類が、L−シトルリン、D−シトルリン、L−チオシトルリン、L−ホモチオシトルリン、S−メチル−L−チオシトルリンおよびS−エチル−L−チオシトルリンからなる群より選択される1種または2種以上である、[26]に記載の方法。
[28]前記シトルリン類が、L−シトルリンまたはD−シトルリンである、[27]に記載の方法。
[29]前記シトルリン類を1mg/mL〜50mg/mLで添加する、[26]から[28]のいずれかに記載の方法。
[30]前記抗原とシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが100以上である、[26]から[29]のいずれかに記載の方法。
[31]前記抗原が、インフルエンザウイルス抗原である、[26]から[29]のいずれかに記載の方法。
[32]前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、マトリックス1(M1)、マトリックス2(M2)および核タンパク(NP)からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上の抗原である、[31]に記載の方法。
[33]前記インフルエンザウイルス抗原が、ヘマグルチニン(HA)である、[32]に記載の方法。
[34]前記インフルエンザウイルス抗原が、マトリックス2(M2)である、[32]に記載の方法。
[35]前記インフルエンザウイルス抗原とシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが300以上である、[31]から[34]のいずれかに記載の方法。
[36]前記抗原がペプチドである、[26]に記載の方法。
[37]前記ペプチドとシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが100以上である、[36]に記載の方法。
[38]前記ペプチドが、M2eペプチド、M2eペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチド、またはM2eペプチドにシステインを含むペプチドが付加されたペプチドである、[36]に記載の方法。
[39]前記ペプチドが、M2eペプチドにおいて、N末端から数えて20番目と21番目の間、21番目と22番目の間、および22番目と23番目の間にそれぞれシステイン残基を挿入した合成ペプチドである、[38]に記載の方法。
[40]前記M2eペプチドとシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが200以上である、[38]または[39]に記載の方法。
[41]前記ペプチドが、アミロイドβ(Aβ)ペプチド、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの一部のアミノ酸配列からなるペプチド、または前記ペプチドに1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチドである、[36]に記載の方法。
[42]前記ペプチドがアミロイドβ(Aβ)ペプチドのN末端より28個のアミノ酸からなるペプチドのC末端にシステイン残基を1個付加したペプチドである、[41]に記載の方法。
[43]前記アミロイドβペプチドとシトルリン類の重量比が1:Nであって、Nが100以上である、[41]または[42]に記載の方法。
[44]前記抗原が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、および配列番号5からなる群より選ばれた少なくとも1種または2種以上のアミノ酸配列からなるペプチドである、[26]に記載の方法。
[45]シトルリン類とともに抗酸化物質をも添加する、[26]から[44]のいずれかに記載の方法。
[46]前記抗酸化物質が、アスコルビン酸である、[45]に記載の方法。
[47]前記シトルリン類と抗酸化物質を重量比1:2〜2:1で添加する、[45]または[46]に記載の方法。
[48]前記抗酸化物質を1〜10mg/mLで添加する、[45]から[47]のいずれかに記載の方法。
[49]アジュバントとしてのシトルリン類の使用。
[50]前記シトルリン類が、L−シトルリン、D−シトルリン、L−チオシトルリン、L−ホモチオシトルリン、S−メチル−L−チオシトルリンおよびS−エチル−L−チオシトルリンからなる群より選択される1種または2種以上である、[49]に記載の使用。
[51]前記シトルリン類が、L−シトルリンまたはD−シトルリンである、[50]に記載の使用。
[52]1mg/mL〜50mg/mLの前記シトルリン類をワクチンに添加する、[49]から[51]のいずれかに記載の使用。
[53]抗酸化物質を併用する、[49]から[52]のいずれかに記載の使用。
[54]前記抗酸化物質が、アスコルビン酸である、[53]に記載の使用。
[55]前記シトルリン類と抗酸化物質を重量比1:2〜2:1でワクチンに添加する、[53]または[54]に記載の使用。
[56]1〜10mg/mLの前記抗酸化物質をワクチンに添加する、[53]から[55]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シトルリン類と抗原を共に投与することで、抗原単独で投与した場合と比較して、免疫原性を向上させることが可能となる。また、シトルリン類は既存のアジュバント(Alumアジュバント)と比較しても同程度の抗体産生効果を奏し、ペプチドを抗原とする場合にはAlumアジュバントと比較しても優れた抗体産生効果が見出された。さらに、シトルリン類と抗酸化物質(例えばアスコルビン酸)を併用してアジュバントとして使用することによって、シトルリン類を単独でアジュバントに使用する場合と比較して、抗体産生効果が向上することが見出された。
【0014】
また、シトルリンは生体内に元来存在する水溶性の物質であるため、従来のAlumアジュバントやオイル系アジュバントと比べて、抗原との調剤も容易であり、副作用発生のリスクが軽減される。そのため、本発明のシトルリン類を含有するアジュバント組成物やワクチン組成物は、従来のアジュバントやそれを含有するワクチンと比べて、利便性が向上し、人体への安全性に優れている。また、シトルリン類は、化学合成や微生物などによる量産化も可能であるため、医薬品の製造規模でワクチン用アジュバントとして提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】シトルリンを1〜5mg/bodyでマウスへ投与した際のHA抗原に対する抗体価の測定結果である。
【
図2】シトルリンを4mg/bodyでマウスへ投与した際のM2eに対する抗体価の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第一の態様はシトルリン類を含有するアジュバント組成物である。
【0017】
本発明のアジュバント組成物に含まれるシトルリン類としては、シトルリン、シトルリンの誘導体、シトルリンの塩が含まれる。前記のシトルリンとしては、L−シトルリンおよびD−シトルリンが含まれ、好ましくはL−シトルリンである。前記のシトルリン誘導体としては、L−チオシトルリン(L-thiocitrulline)、L−ホモチオシトルリン(L-thiohomocitrulline)、S−メチル−L−チオシトルリン(S-methyl-L-thiocitrulline)、S−エチル−L−チオシトルリンが挙げられる。すなわち、本発明のシトルリン類にはL−シトルリン、D−シトルリン、L−チオシトルリン、L−ホモチオシトルリン、S−メチル−L−チオシトルリン、S−エチル−L−チオシトルリンが含まれる。
【0018】
本発明のアジュバント組成物に含まれるシトルリン類はシトルリンの塩であってもよい。シトルリン類の塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩が挙げられる。
【0019】
シトルリン類は、化学的に合成する方法、発酵生産する方法等により取得することができる。シトルリン類を化学的に合成する方法としては、例えば、Gastroenterology, 1997年、第112巻、p.1250−1259(非特許文献4)やThe Journal of Biological Chemistry, 1938年、第122巻、p.477−p484(非特許文献5)に記載の方法が挙げられる。また、L−シトルリンを発酵生産する方法としては、例えば、特開昭53−075387号(特許文献2)や特開昭63−068091号(特許文献3)に記載の方法が挙げられる。また、シトルリン類は市販品を購入することにより取得することができ、一例として、L−シトルリン(シグマ−アルドリッチ社:Code No.27510やC7629)、L−チオシトルリン(シグマ−アルドリッチ社:Code No.88544、和光純薬工業株式会社:Code No.205-13861)、S−メチル−L−チオシトルリン(和光純薬工業株式会社:Code No.139-12611)が挙げられる。
【0020】
本発明のアジュバント組成物に含まれるシトルリン類の濃度は、抗原の種類、剤形、投与方法、対象患者などに応じて適宜変更してよいが、シトルリン類をAmg/mL〜Bmg/mLで含んでいてよい(AおよびBは、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100からなる群より選択される異なる数値であって、AはBよりも小さい数値である)。
【0021】
本発明のアジュバント組成物を用いたシトルリン類の投与量は、抗原の種類、薬剤の剤形、投与方法などに応じて適宜変更してよい。
【0022】
本発明のアジュバント組成物は、シトルリン類に加えて、抗酸化物質を含んでいてもよい。かかる抗酸化物質としては、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)、α−トコフェロール(ビタミンE)、グルタチオン、N−アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、カテキン、クエルセチン、尿酸、ビリルビン、グルコース、フラボノイド、セルロプラスミン、アルブミン、フェリチン、メタロチオネイン、スーパーオキシドディスムターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオントランスフェラーゼ、カタラーゼ、チオレドキシンが挙げられる。アスコルビン酸およびα−トコフェロールが好ましい。
【0023】
ワクチン組成物やアジュバント組成物にシトルリン類に加えて抗酸化物質を含む場合には、シトルリン類と抗酸化物質の重量比は1:2〜2:1、好ましくは1:1であってよい。また、本発明のアジュバント組成物に含まれる抗酸化物質は1〜10mg/mL、好ましくは5mg/mLであってよい。
【0024】
本発明の第二の態様は前記のシトルリン類を含有するアジュバント組成物と抗原とを含有するワクチン組成物である。
【0025】
前記抗原としては、通常、ワクチンに含まれるものであればいかなるものであってもよく、例えば、炭水化物、糖脂質、糖タンパク質、脂質、リポタンパク質、リン脂質、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、またはこれらの誘導体が挙げられる。本発明において、「ペプチド」とは2〜数十個のアミノ酸からなるものを指し、「ポリペプチド」とは数十個以上のアミノ酸からなるものを指す。上記抗原の中でもタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドが好ましい。本発明のシトルリン類を含有するアジュバント組成物は、ペプチドを抗原として用いた場合に特に優れた抗体産生効果が認められるので、ペプチドを抗原として用いるのが特に好ましい。
【0026】
前記抗原の入手方法は、遺伝子組換え、化学合成、または天然物から取得する方法のいずれであってもよい。
【0027】
前記抗原は、病原体(ウイルス、細菌、真菌、寄生虫微生物)、ウイルス様粒子、ヴィロソーム、癌細胞、アレルゲン、または自己分子を由来とする抗原であってもよい。
【0028】
前記の病原体を由来とする抗原は、サブユニット抗原、ペプチド抗原、不活性化した病原体、弱毒化した病原体、組換え体抗原であってもよい。
【0029】
前記ウイルスとしては、例えば、肝炎ウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、アブラウイルス、イサウイルス、イヌジステンパーウイルス、インフルエンザウイルスA−C、ウマ動脈炎ウイルス、エボラウイルス、エンテロウイルス、カリチウイルス、コロナウイルス、サル免疫不全ウイルス、ソゴトウイルス、デングウイルス、トガウイルス、トリ感染性滑液嚢疾患ウイルス、トリ肺炎ウイルス(以前はシチメンチョウ鼻気管炎ウイルス)、ニパーウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ニューモウイルス、ネコ感染性腹膜炎ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ノーウォークウイルス、パピローマウイルス、パポーバウイルス、パラインフルエンザウイルスタイプ1−3、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、ヒト免疫不全症ウイルス、ブタ呼吸傷害・繁殖症候群ウイルス、フラビウイルス、ヘニパウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルス、ヘンドラウイルス、ポリオウイルス、マレック病ウイルス、メタニューモウイルス、モルビリウイルス、ライノウイルス、ルブラウイルス、レスピロウイルス、レトロウイルス、ロタウイルス、ワクシニアウイルス、黄熱ウイルス、感染性鼻気管炎ウイルス、牛疫ウイルス、狂犬病ウイルス、水痘ウイルス、脳炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルスが挙げられる。好ましくはインフルエンザウイルスである。
【0030】
前記インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科に属する直径約100nmの粒子径サイズを有するRNAエンベロープウイルスであり、内部タンパク質の抗原性に基づいて、A、BおよびC型に分けられる。そのなかでヒトと動物の両方に感染するのがA型で多様性も多い。そのA型は、ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の2種類のエンベロープ糖タンパク質を有し、抗原性の違いによってHAでは16種類、NAでは9種類が存在するために、その組み合わせにより多くの種類のA型インフルエンザウイルスが存在する。過去に発生していない組み合わせのインフルエンザウイルスが出現したときには、それに対する免疫がないために大流行となる。所謂、インフルエンザパンデミックである。
【0031】
本発明で抗原とするインフルエンザウイルスは、型、亜型、株の種類は特に限定されない。インフルエンザウイルスを由来とする抗原としては、HA、NA、M1、M2、NPが挙げられる。特に好ましいのはHA、M2である。その理由は、現状のインフルエンザワクチン組成物で使用されている抗原がHAであるため、HAを抗原として含有するワクチンは汎用性が高いためである。また、国際公開2011024748号(特許文献4)に開示されているように、インフルエンザウイルス間でアミノ酸配列に変異が少ないM2タンパク質は、広域なインフルエンザウイルスに対する免疫を付与する観点から抗原として有用である。M2タンパク質は疎水性膜貫通ドメインを除去した23アミノ酸配列からなる領域に相当するペプチド(M2e、配列番号1:N末−SLLTEVETPIRNEWGCRCNDSSD−C末)や、M2eペプチドの抗原性を高める目的で、1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたM2eペプチドまたはシステインを含むペプチドが付加されたM2eペプチドであってもよい。上記のシステインで修飾されたM2eペプチドとしては、国際公開2011024748号(特許文献4)に記載されたペプチドが挙げられ、具体的にはN末端から数えて20番目と21番目の間、21番目と22番目の間、および22番目と23番目の間にそれぞれシステイン残基を挿入した合成ペプチドM2eC212223(配列番号2:N末−SLLTEVETPIRNEWGCRCNCDCSCSD−C末)が挙げられる。
【0032】
前記インフルエンザウイルス抗原の調製方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法がいずれも使用できる。例えば、インフルエンザ感染動物またはインフルエンザ患者から単離されたウイルス株を鶏卵や細胞などに感染させて常法により培養し、精製したウイルス原液から抗原を調製してよい。また、遺伝子工学的に組換えウイルスあるいは特定の抗原を種々の細胞で産生あるいは発現させたものを材料として抗原を調製することも可能である。
【0033】
前記の抗原に使用される自己分子としては、アミロイドβペプチド、またはアミロイドβペプチドの一部のアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。アミロイドβペプチドまたは前記一部のアミノ酸配列からなるペプチドは、1もしくは数個のシステインが付加もしくは挿入されたペプチドまたはシステインを含むペプチドが付加されたペプチドであってよい。上記のペプチドとしては、国際公開2008133208号(特許文献5)に開示されているペプチドが挙げられる。具体的には、アミロイドβペプチドは42アミノ酸からなるアミロイドβペプチド(配列番号3:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA−C末)、アミロイドβペプチドの一部のアミノ酸配列からなるペプチドはN末端から数えて28アミノ酸からなるペプチド(配列番号4:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNK−C末)、システインが付加されたペプチドはN末端から数えて28アミノ酸からなるペプチドのC末端側にシステイン残基を1個付加したペプチド28AACys(配列番号5:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKC−C末)であってよい。
【0034】
前記細菌としては、例えば、アクチノバチラス・プルロニューモニエ、アロイオコックス・オティディティス、インフルエンザ菌(型分類可能および型分類不可能の双方)、エルシニア菌、オウム病クラミジア、キャンピロバクター、クラミジア肺炎病原体、クロストリジア種、コレラ菌、サルモネラ・コレレシウス、ジアルジア、ジフテリア菌、シュードモナス種、ストレプトコッカス・ゴルドニ、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ボビス、ストレプトコックス・アガラクチエ、トラコーマクラミジア、トリ結核菌群、ネズミチフス菌、パスツレラ・ヘモリチカ、パスツレラ・マルトシダ、ヒト結核菌、ブタ連鎖球菌、プロテウス・ブルガリス、プロテウス・ミラビリス、ヘモフィルス・ソムヌス、ヘリコバクター・ピロリ、ボレリア・ブルグドルフェリ、マイコプラスマ・ガリセプチクム、モラクセラ・カタラリス、レプトスピラ・インテロガンス、黄色ブドウ球菌、化膿連鎖球菌、髄膜炎菌、赤痢菌、腺疫菌、大腸菌、炭疽菌、腸チフス菌、破傷風菌、肺炎連鎖球菌、百日咳菌、表皮ブドウ球菌、糞便連鎖球菌、緑色連鎖球菌、淋菌が挙げられる。
【0035】
前記寄生虫としては、例えば、赤痢アメーバ、プラスモジウム属、森林型熱帯リーシュマニア、回虫属、鞭虫属、ジアルジア属、住吸血虫属、クリプトスポリジウム属、トリコモナス属、トキソプラスマ、ニューモシスティス・カリニが挙げられる。
【0036】
本発明のワクチン組成物に含まれる抗原の濃度は、抗原の種類、ワクチン組成物の投与形態や剤形等に応じて適宜変更してよい。
【0037】
本発明のワクチン組成物に含まれる抗原とシトルリン類の重量比は1:Nであって、好ましくはNが100以上、200以上、300以上、333以上、400以上、800以上、3000以上、3333以上、6000以上、6666以上、10000以上、13000以上、13333以上、160000以上、または16666以上である。抗原とシトルリン類の重量比はまた、1:A〜1:Bである(AおよびBは100、200、300、333、400、800、3000、3333、6000、6666、10000、13000、13333、16000、16666から選択される異なる数値であって、AはBよりも小さい数値である)。
【0038】
抗原がHAタンパク質である場合、ワクチン組成物に含まれる抗原とシトルリン類の重量比は1:Nであって、好ましくはNが300以上、333以上、3000以上、3333以上、6000以上、6666以上、10000以上、13000以上、13333以上、160000以上、または16666以上である。抗原とシトルリン類の重量比はまた、1:A〜1:Bである(AおよびBは300、333、3000、3333、6000、6666、10000、13000、13333、16000、16666から選択される異なる数値であって、AはBよりも小さい数値である)。
【0039】
抗原がペププチである場合、ワクチン組成物に含まれる抗原とシトルリン類の重量比は1:Nであって、好ましくはNが100以上、200以上、400以上、800以上である。抗原とシトルリン類の重量比はまた、1:A〜1:Bである(AおよびBは100、200、400、800から選択される異なる数値であって、AはBよりも小さい数値である)。
【0040】
抗原がM2eペプチドである場合、ワクチン組成物に含まれる抗原とシトルリン類の重量比は1:Nであって、好ましくはNが200以上である。
【0041】
抗原がアミロイドβペプチドである場合、ワクチン組成物に含まれる抗原とシトルリン類の重量比は1:Nであって、好ましくはNが100以上、200以上、400以上、800以上である。抗原とシトルリン類の重量比はまた、1:A〜1:Bである(AおよびBは100、200、400、800から選択される異なる数値であって、AはBよりも小さい数値である)。
【0042】
また、本発明のワクチン組成物における抗原の投与量は、抗原の種類、ワクチン組成物の投与形態や剤形等に応じて適宜変更してよい。
【0043】
本発明のワクチン組成物は、単一の抗原を含んでいてもよいし、または複数種の抗原の組み合わせを含んでいてもよい。複数種の抗原の組み合わせを含む場合、同一のウイルスや細菌等で異なる型の抗原を複数種含んでいてもよいし、異なるウイルスや細菌等の抗原を複数種含んでいてもよい。インフルエンザウイルスワクチン組成物の場合、インフルエンザウイルスA型とB型の異なる型の抗原を含んでいるのが好ましい。
【0044】
前記ワクチン組成物の剤形は、シトルリン類と抗原が単一容器にて製剤化されたものであってもよいし、シトルリン類を含有するアジュバント組成物と抗原を含有する免疫原性組成物がそれぞれ個別の容器に製剤化されたものであってもよい。なお、製剤化される際の剤形は、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤、凍結状態等であってよい。
【0045】
前記アジュバント組成物およびワクチン組成物の剤形は、例えば、液状、粉末状(凍結乾燥粉末、乾燥粉末)、カプセル状、錠剤、凍結状態等であってもよい。
【0046】
前記アジュバント組成物およびワクチン組成物は、シトルリン類や抗原以外に、医薬として許容されうる担体を含んでいてもよい。前記医薬として許容されうる担体としては、ワクチンの製造に通常用いられる担体であればいずれも使用することができる。具体的には、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、等張水性緩衝液およびそれらの組み合わせが挙げられ、さらに、乳化剤、保存剤(例、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤および不活化剤(例、ホルマリン)などを適宜配合してよい。
【0047】
前記アジュバント組成物およびワクチン組成物の投与対象としては、免疫可能な任意の生物、特に、ヒトおよび他の哺乳動物(例えば、家畜、ペット、および野生動物)が挙げられる。
【0048】
前記アジュバント組成物およびワクチン組成物の投与経路としては、例えば、経皮投与、舌下投与、点眼投与、皮内投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、経鼻投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、口から肺への吸入投与等が挙げられる。
【0049】
前記アジュバント組成物およびワクチン組成物の投与方法は、例えば、ステント、カテーテル、経皮的パッチ、マイクロニードル、移植可能な徐放性デバイス、シリンジ、マイクロニードルを付けたシリンジ、無針装置、スプレーによるものであってよい。また、抗原とアジュバント組成物が個別の容器にて製剤されている場合には、製剤された抗原とアジュバント組成物を同時に投与してもよいし、あるいは、抗原またはアジュバント組成物を投与して一定期間後にもう一方を投与してもよい。
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
アジュバントとして使用したシトルリン溶液は以下のようにして調製した。L−シトルリン(シグマ、C7629−1G)を注射用蒸留水(大塚製薬株式会社製)に溶解し、終濃度80mg/mLとした。これを0.22μmで無菌ろ過し、使用時まで−20℃に凍結保存した。
【0052】
(1)シトルリン含有組成物の調製
抗原として、インフルエンザウイルスHA抗原を作成した(株:A/ソロモン株、組成:1200μg/mL HA)。HA抗原を様々なシトルリン濃度となるよう混合して、表1の組成物1〜4を作成した(なお、組成物1はシトルリンを含まない)。比較対照として、HA抗原とAlumアジュバント(Imject Alum(PIERCE社)またはALHYDROGEL(BRENNTAG社))の混合液を作成した(表1の比較対照)。
【0053】
【表1】
【0054】
(2)マウスへの免疫と血清回収
上記の組成物1〜4、または比較対照を下記の方法にてマウス1匹あたり100μLで投与した(マウス1匹あたりの投与量は表1に記載)。BALB/cマウス6週齢の雌の体重を測定し、均等になるように1群3匹、4群に分けた。各個体はアニマルマーカーで個体識別した。被験物投与の当日、イソフルラン吸入麻酔下で眼窩静脈叢より、キャピラリーを用いて採血した。遠心分離後、血清をチューブに分取した。被験物はディスポーザブルの1mL用シリンジ(テルモ社製)に0.1mLとり、マウスの頸背部皮下に投与した。被験物投与後14日目にイソフルラン吸入麻酔下で開腹し、腹腔内後大静脈より全採血した。血液は室温で30分以上静置したのち、遠心して(3000rpm、10分間)血清を分離した。このようにして得られた血清中のHA抗原に対する抗体を下記のELISA法にて測定した。
(3)ELISAによる抗HA抗体価の測定
免疫した抗原と同じものを1μg/mL濃度で、ELISAプレートへ50μL/well投入し、自然吸着により4℃で一晩静置して固相化した。PBS(当日調製)にて3回洗浄後、Blocker
TM Casein in PBS(Thermo社製)を200μL/wellで投入し、室温で1時間反応させた。PBSにて3回洗浄後、抗血清(day0、14)をBlocker
TM Casein in PBSにて200倍希釈し、50μL/wellで投入し室温で2時間反応させた。抗マウスIgG−POD標識抗体(Thermo社製)をBlocker
TM Casein in PBSで2000倍に希釈したものを50μL/well投入し、室温で1時間反応させた。PBSにて4回洗浄後、基質TMB(BioFX社製)を50μL/well投入し、室温で15分反応後、1N H
2SO
4を50μL/well投入し反応を停止させた。450nmの吸光度を測定した。
(4)結果
ELISAの結果を表1に示した。シトルリンと抗原を共に免疫した群において、特にシトルリンを100μg/body、1000μg/bodyにて投与した群では、抗原だけを免疫した群と比較して明らかにシトルリンのアジュバント効果が認められ、100μg/body投与群では約1.3倍、1000μg/body投与群では約1.9倍の抗体産生効果が認められた。特に、シトルリンを1000μg/body投与した群では、Alumアジュバントと同等程度のアジュバント効果が認められた。また、シトルリン投与量の増加に応じて抗体の増加も認められた。
【実施例2】
【0055】
実施例1の結果から、シトルリンにアジュバント効果が認められたので、その最適量を検討した。実施例1ではシトルリンの投与量を10〜1000μg/bodyと変化させた結果、1000μg/bodyが最も高いアジュバント効果を示したので、さらにシトルリンの投与量を増やした場合の効果を調べた。
(1)シトルリン含有組成物の調製
実施例1の調製方法と同様の方法にて、シトルリンの濃度が異なる組成物5〜10を作成した(表2;なお、組成物5はシトルリンを含まない)。
【0056】
【表2】
【0057】
(2)マウスへの免疫と血清回収
実施例1と同様の方法にて、マウス1匹あたりに組成物5〜10を100μL投与し、血清を回収した(マウス1匹当たりの投与量は表2に記載)。
【0058】
(3)ELISAによる抗HA抗体価の測定
実施例1のELISAと同様の方法で抗体価を測定した。
(4)結果
ELISAの結果を
図1に示した。全てのシトルリン投与群においてアジュバント効果が認められ、この範囲内ではある程度の用量依存性が認められた。
【実施例3】
【0059】
(1)シトルリン含有組成物の調製
抗原として、A型インフルエンザウイルスのM2タンパク質のうちウイルス表面に提示される23アミノ酸からなる領域(M2e、配列番号1:N末−SLLTEVETPIRNEWGCRCNDSSD−C末)において、N末端から数えて20番目と21番目の間、21番目と22番目の間、および22番目と23番目の間にそれぞれシステイン残基を挿入した合成ペプチドM2eC212223(配列番号2:N末−SLLTEVETPIRNEWGCRCNCDCSCSD−C末)を使用した。
【0060】
国際公開2011024748号(特許文献4)に記載されているように、M2eC212223ペプチドを合成した。合成した各ペプチドは1mM EDTAを含有する窒素ガス置換した注射用蒸留水にて5mg/mLに調製し、これを原液として使用時まで−80℃以下で保存した。被験物質としてシトルリンを含まない組成物11、実施例1で調製したシトルリン溶液を混合した組成物12を作成した(表3)。
【0061】
【表3】
【0062】
(2)マウスへの免疫と血清回収
マウスへの免疫は次のように行った。BALB/cマウス7週齢の雌を1群5匹、2群に分けた。各個体はアニマルマーカーで個体識別した。被験物はディスポーザブルの1mL用シリンジ(テルモ社製)にとり、マウスの頸背部皮下に1匹あたり0.1mL投与した(マウス1匹当たりの投与量は表3に記載)。被験物を2週間間隔で2回投与し、2回目の投与から1週間後にソムノペンチル(共立製薬)麻酔下で開腹し、腹腔内後大静脈より全採血した。血清分離は実施例1と同様に行った。
(3)ELISAによる抗M2e抗体価の測定
血清中のM2eに対する抗体価を国際公開2011024748号(特許文献4)に記載した方法にて測定した。すなわち、M2eを0.1M Carbonate buffer,pH9.6で2μg/mLに希釈し、96−well plate(Nunc社、Immobilizer Amino)に100μL/well加え、4℃で一夜静置して固相化した。翌日、各wellを300μLの0.05%Tween20含有リン酸緩衝液(PBST)で3回洗浄し、0.1M Carbonate buffer,pH9.6で10mMに希釈したモノエタノールアミン(和光純薬)を300μL/wellずつ添加して、室温で1時間静置した。その後、10mMモノエタノールアミンを十分に除き、PBSTで検体を希釈して100μL/wellにて添加した(各検体ともduplicate)。室温、1時間の反応の後、添加した各希釈血清を捨て、300μL/wellのPBSTで3回洗浄した。洗浄後、well内の洗浄液を十分に除き、PBSTで2000倍希釈したHRP標識抗マウスIgGヤギ抗体(American Qualax社、A131PS)を100μL/well添加し、室温、1時間反応した。反応後、標識抗体希釈液を捨て、300μL/wellのPBSTで2回、同量の蒸留水で2回洗浄し、発色基質液TMB+(Dako社)を100μL/well添加して遮光下、室温で30分間反応した。その後、1N硫酸を100μL/well添加して発色を停止し、450nmの吸光度(OD450値)を測定した。
(4)結果
ELISAの結果を
図2に示した。シトルリンをアジュバントとして使用した場合は、シトルリンを含まない場合と比べて、約14倍の抗体産生効果が認められた。これにより、シトルリンはインフルエンザウイルスHA抗原だけでなく、合成ペプチドであるM2eC212223に対してもアジュバント効果を示すことが確認できた。
【実施例4】
【0063】
(1)シトルリン含有組成物の調製
抗原として、42アミノ酸残基からなるアミロイドβ(Aβ)ペプチド(配列番号3:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA−C末)のうち、N末端より28個のアミノ酸からなるペプチド(配列番号4:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNK−C末)のC末端にシステイン残基を1個付加した合成ペプチド28AACys(配列番号5:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKC−C末)を使用した。
【0064】
上記の合成ペプチドを国際公開2008133208号(特許文献5)に記載したようにして合成し(北海道システム・サイエンス社)、生理食塩液で5mg/mLに調製しこれを原液とし、使用時まで−80℃以下で保存した。投与時には10μg/bodyになるように調製した。
【0065】
アジュバントとして使用したシトルリン溶液は以下のようにして調製した。L−シトルリン(シグマ、C7629−1G)を生理食塩液(大塚製薬株式会社製)に溶解し、終濃度50mg/mLとした。使用時まで−30℃に凍結保存した。L−アスコルビン酸(和光製薬株式会社)も同様に生理食塩液(大塚製薬株式会社製)に溶解し、終濃度50mg/mLとし、使用時まで4℃に冷蔵保存した。また、対照としてAlum(ALHYDROGEL)を用いた。上記のシトルリン溶液、28AACys、アスコルビン酸溶液を混合して表4の比較対照1と2、および組成物13〜18を作製した。
【0066】
【表4】
【0067】
(2)マウスへの免疫と血清回収
マウスへの免疫は次のように行った。C57BL/6マウス7週齢の雄を1群4匹、8群に分けた。各組成物をマウス1匹あたり200μLずつ1mLツベルクリン用注射器(テルモ、SS−01T2613S)を用い、腹部皮下内に投与した(マウス1匹当たりの投与量は表4に示した)。マウスへの免疫は2週間隔で2回の免疫を行った。2回目免疫から14日目にペントバルビタールナトリウム(共立製薬、ソムノペンチル)麻酔下、腹部大静脈より採血して殺処分した。採取した血液はマイクロティナ(BECTON DICKINSON社)に移し、室温にて十分に凝固させた後、遠心分離した(5000回転、10分間)。分離した血清は各々0.5mLチューブ2本に分注し、測定まで−80℃にて保存した。血清中のAβペプチドに対する抗体を下記のELISA法にて測定した。
【0068】
(3)ELISAによる抗AβIgG抗体価の測定
Aβペプチド(1−40のアミノ酸配列:N末−DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV(配列番号6)、北海道システム・サイエンス社合成)を0.1M Carbonate buffer,pH9.6で10μg/mLに希釈し、8well strips(Nalgen-Nunc社、Immobilizer Amino)に100μL/well加え、4℃で一夜静置して固相化した。翌日、各wellを300μLの0.05%Tween20含有PBS(PBST)で3回洗浄し、10mM ethanolamineを300μL/wellずつ添加して、室温で1時間静置した。その後、10mM ethanolamineを十分に除き、PBSTで検体を50倍〜10000倍に希釈して100μL/wellにて添加した(各検体ともduplicate)。室温で1時間の反応の後、添加した各希釈血清を捨て、300μL/wellのPBSTで3回洗浄した。洗浄後、well内の洗浄液を十分に除き、検体希釈液を用いて2000倍希釈したHRP標識抗マウスIgGヤギ抗体(American Qualax社、A131PS)を100μL/wellにて添加し、室温で1時間反応した。反応後、標識抗体希釈液を捨て、300μL/wellのPBSTで2回、同量の蒸留水で2回洗浄し、発色基質液TMB+(Dako社)を100μL/well添加して遮光下、室温で30分間反応した。その後、1N硫酸を100μL/well添加して発色を停止し、450nmの吸光度(OD450値)を測定した。
【0069】
市販のAβに対するモノクローナル抗体(CHEMICON社;MAB1560)を標準血清として用いた。標準血清をPBSTにて0.156、0.3125、0.625、1.25、2.5、5、10ng/mLとなるように希釈し、抗体価測定時のスタンダードを調製した。各被検マウス血清の抗AβIgG抗体測定と同時に、各希釈検体をduplicateにてそれらのOD450値を測定した。得られたスタンダードの単位とOD450値の標準直線より各被検マウス血清の抗AβIgG抗体価を算出した。
(4)結果
算出した各免疫群におけるマウス血清中の抗Aβ抗体価を表4に示した。シトルリンを添加した群(組成物13〜16、18)では、アジュバント未投与群(比較対照1)と比べて、抗体産生効果が増強していた。すなわち、アジュバント未投与群と比べて、1mg/body投与群で約11.6倍(組成物13)、2mg/body投与群で約42.2倍(組成物14)、4mg/body投与群で約125.8倍(組成物15)、8mg/body投与群で約141.7倍(組成物16)といった極めて顕著な抗体産生効果が認められた。
【0070】
また、L−アスコルビン酸単独を投与した群では殆ど抗体産生効果は認められなかったが(比較対照1と組成物17の比較)、L−アスコルビン酸とシトルリンを併用して添加した群では、シトルリン単独投与群と比べて約4.0倍(組成物13と18の比較)、L−アスコルビン酸単独投与群と比べて約12.1倍(組成物17と18の比較)、Alum投与群と比べて約39.4倍(比較対照2と組成物18)、シトルリン未投与群と比べて約46.9倍(比較対照1と組成物18)、抗体産生効果が増強していた。
【0071】
シトルリン投与群およびシトルリンとアスコルビン酸の併用投与群のいずれにおいても、Alum投与群よりも抗体産生効果が優れており(組成物13で約9.8倍、組成物14で約35.5倍、組成物15で約105.6倍、組成物16で約119倍、組成物18で約39.4倍)、既存のAlumアジュバントと比べても極めて優れた抗体産生効果を示した。
【0072】
実施例1、2、3および4の結果から、抗原の種類を問わず、シトルリンには明らかなアジュバント効果が観察された。その効果は、シトルリンの濃度によっては、既存のAlumアジュバントと同等の効果を有しており、特にペプチド抗原では既存のAlumアジュバントよりも優れた抗体産生効果を示していた。さらに、シトルリンはアスコルビン酸と併用して使用することによって、アジュバント効果が向上することが見出された。
【0073】
加えて、シトルリンを投与されたマウスには異常は認められず、Alum使用群に認められる投与局所の硬結も認められなかったことから、安全性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明ではシトルリン類を含有するアジュバント組成物、当該アジュバント組成物と抗原を含有するワクチン組成物を提供する。シトルリンは、生体にとっても有用であり、水溶性の物質であるため、従来のAlumアジュバントやオイル系アジュバントと比べて、安全性が高く、調剤面で利便性に優れたアジュバント組成物およびワクチン組成物を提供することが可能となる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]