特許第5914477号(P5914477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5914477高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ及びそのマスターバッチから製造されたプラスチックフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914477
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ及びそのマスターバッチから製造されたプラスチックフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20160422BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C08J3/22
   C08J3/22CEZ
   C08J5/18CER
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-523124(P2013-523124)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(65)【公表番号】特表2013-532761(P2013-532761A)
(43)【公表日】2013年8月19日
(86)【国際出願番号】TH2011000028
(87)【国際公開番号】WO2012026893
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2013年4月3日
(31)【優先権主張番号】1001001199
(32)【優先日】2010年8月4日
(33)【優先権主張国】TH
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513025314
【氏名又は名称】ナショナル サイエンス アンド テクノロジー ディベロップメント エイジェンシー
(73)【特許権者】
【識別番号】513025107
【氏名又は名称】キング モンクッツ インスティテュート オブ テクノロジー ラートクラバン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100186370
【弁理士】
【氏名又は名称】小久保 菜里
(72)【発明者】
【氏名】タワン スーノイ
(72)【発明者】
【氏名】チョンラーダ リトビルール
(72)【発明者】
【氏名】アシラ フォウンフチャト
(72)【発明者】
【氏名】ドウンポーン シリキッティカル
(72)【発明者】
【氏名】ファチャリーヤ ラクサ
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−031838(JP,A)
【文献】 特開2008−133350(JP,A)
【文献】 特開2001−163999(JP,A)
【文献】 特開平02−110137(JP,A)
【文献】 特開昭62−184035(JP,A)
【文献】 特開平11−035077(JP,A)
【文献】 特開平01−033159(JP,A)
【文献】 特表2005−503259(JP,A)
【文献】 特表平06−500136(JP,A)
【文献】 特開2000−129058(JP,A)
【文献】 特表2009−541200(JP,A)
【文献】 特開昭64−000144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08J 5/00− 5/02;5/12− 5/22
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B32B 1/00−43/00
B01J 20/00−20/34
C01B 33/20−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86の、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー、及び
(B)有機シラン化合物を用いたシリル化反応により表面改質され、かつゼオライトとあわせた前記コポリマー中のゼオライト量が30質量%から70質量%のゼオライト
を含み、前記有機シラン化合物が、次の化学式
【化1】
(式中、Rはメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基、R1はメチル基、R2は、フェニル基、フェニルエチル基、ビニル基、及びメタクリル酸プロピル基からなる群より選ばれる、π-π相互作用形成能を有する官能基、nは0又は2である。)で示される、エチレン選択透過性プラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
【請求項2】
前記ゼオライトがベータゼオライト、ZSM-5ゼオライト、シリカライトゼオライト及びゼオライトCaAからなる群より選ばれる、請求項1記載のエチレン選択透過性プラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
【請求項3】
前記ゼオライトがゼオライト1グラムあたり60ミリリットルの(100%エチレン下における)エチレン吸着能を有する、請求項2記載のエチレン選択透過性プラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
【請求項4】
前記ゼオライトが0.25から10マイクロメートルの平均粒子サイズ(D50)を有する、請求項2又は3記載のエチレン選択透過性プラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
【請求項5】
ポリオレフィン及びポリスチレンからなる群より選ばれるポリマー、及び
全体量の3.5質量%から90質量%のマスターバッチ
を含み、前記マスターバッチが
(A)スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86の、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー、及び
(B)有機シラン化合物を用いたシリル化反応により表面改質され、かつゼオライトとあわせた前記コポリマー中のゼオライト量が30質量%から70質量%のゼオライト
を含み、前記有機シラン化合物が、次の化学式
【化2】
(式中、Rはメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基、R1はメチル基、R2は、フェニル基、フェニルエチル基、ビニル基、及びメタクリル酸プロピル基からなる群より選ばれる、π-π相互作用形成能を有する官能基、nは0又は2である。)で示される、エチレン選択透過性プラスチックフィルム。
【請求項6】
全体量の0.02質量%から5質量%の添加剤をさらに含む、請求項5記載のエチレン選択透過性プラスチックフィルム。
【請求項7】
前記添加剤が、ブロッキング防止剤及び防曇剤の群より選ばれる、請求項6記載のエチレン選択透過性プラスチックフィルム。
【請求項8】
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選ばれる、請求項5乃至7のいずれかに記載のエチレン選択透過性プラスチックフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ及びそのマスターバッチから製造されたプラスチックフィルムにかかわる、化学および高分子技術の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゼオライトを含むプラスチックフィルムも合成ゼオライトを含むプラスチックフィルムも、生鮮食品用の包装用素材を提供するものとして開示されている。いくつかの特許発明において、このフィルムが、包装された生鮮食品の新鮮さを保つことができると報告されている。これらの発明の例としては、米国特許第4814364号、米国特許第4840823号、及び米国特許第4847145号がある。さらに、欧州特許出願公開第1170327号は、有機物親和性のゼオライトをポリマーマトリクス中に分散した状態で含有する、例えばプラスチックフィルムなどのプラスチック物品について開示している。前記プラスチックフィルムは、揮発性有機化合物、特にエチレンを選択的に吸着することができる。そうは言うものの、前記の発明は、前記フィルムの吸着能力が、含有するゼオライトの量により制限されるという点で不都合であった。それゆえ、タイ国特許出願第98017号(2009年8月27日)公報において、上述の不都合を克服する、もう一つの先行発明が開示されている。この発明は、ベータゼオライト、ZSM-5ゼオライト及びシリカライトゼオライトからなる群より選ばれる微細ゼオライト粒子を5質量%から30質量%含む包装用フィルムを開示している。前記ゼオライトは、エチレン透過率が36,000立方センチメートル/平方メートル・日よりも高いポリマーを1成分として有するポリマーブレンド中に分散している。前記フィルムは従来の熱可塑性プラスチック加工により得られる。さらに、前記フィルムはエチレン透過率が36,000から90,000立方センチメートル/平方メートル・日の範囲であり、熟成過程を遅らせ果物や野菜の保存可能期間を延長することができる。しかしながら、このようなフィルムのエチレン選択性は、エチレン感受性の農産物の包装用としては十分に高いものではない。したがって、本発明の目的は、高いエチレン選択透過性、すなわち、透過性と選択性の両方が高いプラスチックフィルムを製造するためのマスターバッチの処方及びそのマスターバッチから製造されたプラスチックフィルムについて開示することである。本発明より得られるフィルムは、高いエチレン選択透過性を有し、それゆえエチレン感受性商品に適したものとなっている。
【0003】
分子ふるい/ゼオライト粒子をポリマーマトリクス中に均一に分散した状態で含むガス分離膜の開発において、近年いくつもの調査研究が行われている。分子ふるい/ゼオライト粒子とポリマーマトリクスとの間の界面に、微小な亀裂及び空隙が存在していること、さらにその結果、分離能力、特にガス選択性をそれらが減少させていることが報告されている。ゼオライト粒子の表面改質は、粒子の分散性及び界面接着を改善するために実施することができる。このような改質ゼオライトを含む膜のガス透過性と選択性は、このように増強される。こういった発明としては、例えば米国特許第6508860(B1)号は、ゼオライト表面のシラノール基と反応できる単官能性有機シラン化合物によって改質されたゼオライト、例えば菱沸石型ゼオライト、を含有するガス分離膜を開示している。分子あたりたった1つの反応基では、前記有機シラン分子はゼオライト構造中の細孔及びチャネルをブロックすることができないだろう。前記有機シラン化合物は、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン(APDMS)、3−イソシアナトプロピルジメチルクロロシラン(ICDMS)、および3−アミノプロピルジイソプロピルエトキシシラン(APDIPS)である。さらに、この発明は、良好な粒子分散性を提供できるというゼオライトの表面改質の恩恵を指摘しており、その結果ガス選択性、とりわけ酸素と二酸化炭素の選択性が向上する。しかしながら、開示された前記の膜の製造方法は従来型の方法、すなわち溶液キャスト法である。前記の方法は、また一方で、面倒で時間がかかる方法として、本技術分野における当業者によく知られている。
【0004】
米国特許第5891376号及びオーストラリア国特許第B-83930/91号特許出願公開は、透過性の制御されたフィルム及び前記フィルムを製造するための方法の発明について開示しており、フィルムはポリオレフィン並びに天然ゼオライト及びシランカップリング剤により表面を改質した天然ゼオライトを含む不活性多孔質フィラーを有する。前記フィルムはO2の透過性に対するCO2の透過性の割合が少なくなっている。前記シランカップリング剤は、メチルトリクロロシラン及びトリクロロオクタデシルシランから選択され、O2の透過性に対するCO2の透過性の割合を減少させている。明白なことではあるが、前記カップリング剤は、エチレンの輸送を促進して本発明の目的であるエチレン透過性を増強するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここに開示した発明の狙いは、特別な官能基を有する化学物質により表面を改質したゼオライトを有するプラスチックフィルムを開発することであり、その改質によって良好な粒子分散性、良好な粒子とポリマーの界面接着、および、それゆえに向上したエチレン選択透過性が提供される。よって、本発明は高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用のマスターバッチ、及びそのマスターバッチにより製造されたプラスチックフィルムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用であって、シリル化反応により表面を改質したゼオライトを有するマスターバッチの開発に関する。本発明はまた、従来の熱可塑加工により前記マスターバッチ並びにポリオレフィン及びポリスチレンから選択される他のポリマーから製造されるプラスチックフィルムの処方を開示する。本発明より得られるマスターバッチは、(A)スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86の、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー、及び(B)有機シラン化合物を用いたシリル化反応により表面改質され、かつゼオライトとあわせた前記コポリマー中のゼオライト量が30質量%から70質量%のゼオライト、を含む。前記有機シラン化合物は、下記化学式
【0007】
【化1】
【0008】
で示される。式中、Rはメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基であり、R1はメチル基、R2は、フェニル基、フェニルエチル基、ビニル基、及びメタクリル酸プロピル基からなる群より選ばれる、π-π相互作用形成能を有する官能基、nは0又は2である。
【0009】
ゼオライトの表面改質は、有機シランの反応基とゼオライトの表面シラノール基との間のシリル化反応により行われる。このような反応はゼオライト表面上に、π−π相互作用を形成することのできる官能基を付加する。これらの官能基はπ−π相互作用によりエチレン輸送を促進することができ、フィルムのエチレン選択透過性の向上を提供する。加えて、ゼオライトの表面改質は粒子とポリマーとの相互作用をよりよくし、その結果、よりよい粒子分散性が実現する。前記マスターバッチにより製造されたプラスチックフィルムは、それゆえに、顕著に高いエチレン選択透過性を有し、それは、ゼオライト非含有フィルム及び非改質ゼオライト含有フィルムのいずれよりも高いエチレン選択透過性となっている。前記フィルムは、熟成過程を遅らせ、かつ、生鮮食品、特にエチレン感受性商品の保存可能期間を延長するための包装用フィルムとしての使用に適している。
【0010】
本発明は、マスターバッチの形状をとった、高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルムを製造するためのゼオライト/ポリマー混合物の処方を開示する。前記マスターバッチは、次に詳細が述べられている特異的な官能基を持った有機シランにより表面改質されたゼオライトを含む。本発明はまた、前記マスターバッチ並びにポリオレフィン及びポリスチレンより選ばれる他のポリマーから製造されるプラスチック包装用フィルムの処方を開示する。
【0011】
プラスチックフィルム製造用マスターバッチは、(A)スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86の、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー、及び(B)有機シラン化合物を用いたシリル化反応により表面改質され、かつゼオライトとあわせた前記コポリマー中のゼオライト量が30質量%から70質量%のゼオライト、を含む。前記有機シラン化合物は、下記化学式
【0012】
【化2】
【0013】
で示される。式中、Rはメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基であり、R1はメチル基、R2は、フェニル基、フェニルエチル基、ビニル基、及びメタクリル酸プロピル基からなる群より選ばれる、π-π相互作用形成能を有する官能基、nは0又は2である。
【0014】
本発明におけるゼオライトは、BEA骨格を有するゼオライト(すなわちベータゼオライト)、MFI骨格を有するゼオライト(例えばZSM-5及びシリカライト)、及びLTA骨格を有するゼオライトCaAである。前記ゼオライトはその構造中にある細孔及びチャネルがエチレンの動的分子径(約0.39ナノメートル)に比べて比較的大きいため、エチレンガスを吸着するのに適している。前記ゼオライトは、エチレン吸着能が60ミリリットル/ゼオライト1グラムよりも高く、かつ平均粒子径(D50)が0.25から1マイクロメートルのものより選択しなくてはならない。前記マスターバッチ中の前記有機シランのシリル化反応により表面改質されたゼオライトの量は、全体の固体質量の30%から70%の範囲である。
【0015】
本発明によれば、シリル化反応による表面改質は、ゼオライトの表面シラノール基と、有機シランの官能基であるアルコキシ基、すなわちメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基との反応によって起こる。このような反応は、表面ヒドロキシル基を有する粒子の表面を改質することのできる本技術分野における当業者に周知である。そうは言うものの、前記有機シランは、単官能性又は三官能性の反応基を有するものから選ばれなければならない。ここで、前記有機シランを含む有機シリコーン化合物は通常水との反応性があることに注意すべきだ。それゆえ、本発明で開示されたシリル化反応は、無水条件下、例えば高度に脱水された溶媒を用いて反応を行うと、良い収率が得られる。本発明で用いる溶媒は、トルエン、ヘキサン及びクロロホルムから選択されるが、トルエンが好ましい。本発明のシリル化反応におけるゼオライトの組成は、溶媒の容量あたり5から30質量%のゼオライトであり、前記有機シラン濃度は0.1から10ミリモル/ゼオライト1グラムで、0.5から5ミリモル/ゼオライト1グラムが好ましい。触媒、すなわちトリエチルアミンは反応時に、0.1から1、好ましくは0.5から1の有機シランに対するモル比で、添加されなければならない。この反応は、室温から摂氏120度の範囲で、好ましくは摂氏80から120度の恒温下で、6から24時間、好ましくは6から12時間、行わなければならない。
【0016】
前記マスターバッチ中において、ゼオライトのマトリクスとして選ばれるポリマーは、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンブロックコポリマーで、スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86である。この選択されたコポリマーは、非常に高いエチレン透過性(約150,000立方センチメートル/平方メートル・日)を有し、フィルム物品の製造の一般的な手順を用いて混合及び製造することができる。
【0017】
本発明における、マスターバッチの形状をとったゼオライト/ポリマー混合物は、まず初めに乾燥成分の機械混合を行い、次に本技術分野における当業者に周知の方法、例えば密閉式ミキサー及び二軸スクリュー押出機を用いて、溶融状態で混合することで製造できる。その後、この混合物は砕かれ又は切断されて、大きさ2.5×4ミリメートルの小さなペレットにされる。得られたマスターバッチは、前述のシリル化反応により表面改質されたゼオライトを、全体質量の30%から70%量含んでいる。
【0018】
前記マスターバッチは、ポリオレフィン及びポリスチレンから選択される第二のポリマーを配合することによってプラスチックフィルムの製造に用いられる。前記ポリオレフィンはポリエチレン及びポリプロピレンの群より選択される。本発明において開示された、前記第二のポリマーに混合される前記マスターバッチの量は、全体質量の3.5%から90%の範囲である。任意で、例えばブロッキング防止剤及び防曇剤などの添加剤を、全体質量の0.02%から5%量で添加してもよい。
【0019】
プラスチックフィルムは、前記マスターバッチ及び前記第二のポリマーを材料として、まず初めに乾燥成分の機械混合を行い、次に本技術分野における当業者に周知の方法、例えば、圧縮成型、キャストフィルム押出及びブローンフィルム押出などの方法を用いて、溶融状態で混合及び製造することにより得ることができる。得られたプラスチックフィルムの厚さは30から50マイクロメートルである。
【0020】
本発明において開示されたプラスチックフィルムは、前記シリル化反応により表面改質されたゼオライトを均一に分散した状態で含有している。また、非常に高いエチレン選択性(酸素に対するエチレンの透過性は、使用ポリマーに応じて6.5から8.3である。)を有し、それはまたさらに、ゼオライト非含有フィルム及び非改質ゼオライト含有フィルムのいずれよりも約20%から70%高いエチレン選択性を有する。その上、開示発明のエチレン透過率は、それらのフィルムよりも8%から60%高い。一方、前記フィルムの酸素透過率及び二酸化炭素透過率はそれぞれ、6,000から20,000立方センチメートル/平方メートル・日の範囲、及び18,000から90,000立方センチメートル/平方メートル・日の範囲であり、生鮮食品包装の用途に適している。さらに、本発明で開示されたフィルムは、その良好な機械的性質及び熱シール性のために、任意の産業用用途に使用することが可能である。また、前記フィルムは、例えば紙及び板、不織シート及び微細孔シートなどの、他のフィルム又は多孔質シート上の層として用いることができる。
【実施例】
【0021】
マスターバッチ及びプラスチックフィルムの調製手順を以下の実施例において説明する。
【0022】
実施例1 スチレン含量13%のスチレン-b-(エチレン-ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー中にフェニル改質ゼオライトを含むマスターバッチは、以下のステップで調製することができる。ゼオライトの改質は以下の通りに実施した。ゼオライトを摂氏100度にて真空下で8時間乾燥し、その次に真空下で常温まで冷却した。その後、溶媒であるトルエンを、窒素雰囲気下で、最終ゼオライト組成が20質量/体積%になるように加えた。トルエン中のゼオライト懸濁液を、均質な懸濁液が得られるまで絶えず撹拌した。その次に、1gゼオライトあたり1ミリモルのフェニルトリエトキシシラン、及びトリエチルアミン:フェニルトリエトキシシランの比が、モル比で1:1になる比率のトリエチルアミンを、窒素雰囲気下で添加した。混合物を摂氏120度で加熱し、その温度で8時間ホールドした。得られた懸濁粒子をろ過し溶媒でリンスした後に、摂氏100度にて真空下で24時間乾燥した。
【0023】
マスターバッチは、フェニル改質ゼオライトとコポリマーを、密閉式ミキサーを用い摂氏200度で10分間混合することによって調製した。改質ゼオライトの最終組成は、全体質量の30%であった。この混合物を微小なペレットになるよう粉砕した。2×2ミリメートルのふるいを通過できなかったペレットのみを、さらなるステップで使用した。
【0024】
実施例2 フェニル改質ベータゼオライト(Si/Al = 300、粒子サイズ(D50) = 0.62マイクロメートル)及びスチレン含量13%のスチレン-b-(エチレン-ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマーを含む、実施例1で得られたマスターバッチからプラスチックフィルムを調製する方法は以下のとおりである。マスターバッチを、固体密度が0.92グラム/立方センチメートル(ASTM D1505)、メルトフローインデックスが5.5グラム/10分(条件:190/2.16 ASTM D1238)の低密度ポリエチレン(LDPE)のプラスチック樹脂及び、添加剤すなわちブロッキング防止剤を全体質量の0.2%量と、機械混合により混合する。マスターバッチ:プラスチック樹脂の比率は33:67であり、それゆえ、フェニル改質ベータゼオライトの組成は、全体質量の10%である。乾燥状態で混合されたコンパウンドを次に、ブローンフィルム押出法にて、設定温度が摂氏160から190度、設定速度が50rpmの設定で単軸スクリュー押出機を用い加工した。得られたフィルムは30±5マイクロメートル厚であった。さらに、このフィルムは、極めて透明で開封が容易という、許容可能な機械的性質を示した。
【0025】
フィルムのエチレン、酸素及び二酸化炭素透過率を表1に示した。非改質ベータゼオライト及びアルキル改質ベータゼオライトを含むフィルムの結果もまた、比較として同表に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
注釈:
・Betaはベータゼオライト
・Beta-SiRはシリル化反応により改質したベータゼオライト RはPh(フェニル基)及びC8H17(オクチル基)
・SEBSはスチレン含量13%のスチレン-b-(エチレン-ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー
・LDPEは低密度ポリエチレン
* ガス透過率は、100%ガスから、フィルムの逆側にある100%窒素へのガス移動が起こる連続流れ測定により得られた
** エチレン選択性は、酸素透過性に対するエチレン透過性
*** アルミノケイ酸塩を改質するのに通常使われるアルキル鎖を含む有機シランを比較のために選択した
【0028】
本発明によると、フェニル改質ベータゼオライト含有プラスチックフィルムは、非改質ゼオライトを含むフィルム及びオクチル改質ゼオライトを含むフィルムよりもエチレン透過率及びエチレン選択性の両方が高い。
本発明の実施態様の一部を以下の項目1−8に列記する。
[1]
(A)スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86の、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー、及び
(B)有機シラン化合物を用いたシリル化反応により表面改質され、かつゼオライトとあわせた前記コポリマー中のゼオライト量が30質量%から70質量%のゼオライト
を含み、前記有機シラン化合物が、次の化学式
【化3】
(式中、Rはメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基、R1はメチル基、R2は、フェニル基、フェニルエチル基、ビニル基、及びメタクリル酸プロピル基からなる群より選ばれる、π-π相互作用形成能を有する官能基、nは0又は2である。)で示される、高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
[2]
前記ゼオライトがベータゼオライト、ZSM-5ゼオライト、シリカライトゼオライト及びゼオライトCaAからなる群より選ばれる、項目1記載の高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
[3]
前記ゼオライトがゼオライト1グラムあたり60ミリリットルの(100%エチレン下における)エチレン吸着能を有する、項目2記載の高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
[4]
前記ゼオライトが0.25から10マイクロメートルの平均粒子サイズ(D50)を有する、項目2又は3記載の高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム製造用マスターバッチ。
[5]
ポリオレフィン及びポリスチレンからなる群より選ばれるポリマー、及び
全体量の3.5質量%から90質量%のマスターバッチ
を含み、前記マスターバッチが
(A)スチレンとエチレン‐ran-ブチレンの含有割合が12:88から14:86の、スチレン-b-(エチレン‐ran-ブチレン)-b-スチレンコポリマー、及び
(B)有機シラン化合物を用いたシリル化反応により表面改質され、かつゼオライトとあわせた前記コポリマー中のゼオライト量が30質量%から70質量%のゼオライト
を含み、前記有機シラン化合物が、次の化学式
【化4】
(式中、Rはメトキシ基、エトキシ基又はクロロ基、R1はメチル基、R2は、フェニル基、フェニルエチル基、ビニル基、及びメタクリル酸プロピル基からなる群より選ばれる、π-π相互作用形成能を有する官能基、nは0又は2である。)で示される、高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム。
[6]
全体量の0.02質量%から5質量%の添加剤をさらに含む、項目5記載の高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム。
[7]
前記添加剤が、ブロッキング防止剤及び防曇剤の群より選ばれる、項目6記載の高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム。
[8]
前記ポリオレフィンが、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選ばれる、項目5乃至7のいずれかに記載の高エチレン選択透過性を有するプラスチックフィルム。