【文献】
M. Billingsley, et al.,Extent and Impacts of Hydrocarbon Fuel Compositional Variability for Aerospace Propulsion Systems,46th AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference & Exhibit,25 July 2010 - 28 July 2010,REPORT DATE: 12 July 2010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項13に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−240で測定した真燃焼熱が、18,500〜19,000BTU/lbであることを特徴とする方法。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(序論および定義)
本発明の詳細な説明を行う。添付の特許請求の範囲の各々は別々の発明を規定しており、これらは権利侵害の目的で、当該特許請求の範囲の各々に規定された様々な要素または限定に対する等価物を含むものとして認識される。以下の開示は特定の実施形態、変形、および実施例を含むが、本開示は、これらの実施形態、変形、または実施例に限定されず、本開示における情報を、入手可能な情報および技術と組み合わせた際に、当業者が開示の方法および物質組成物を作製かつ使用できるようにすることを含む。
【0007】
本明細書で使用する様々な用語を以下に示す。請求項で使用する用語が以下に定義されていない場合、その用語は、出願時における刊行物および交付済み特許の中に反映されているように、当業者がその用語に与えた最も広範な定義を与えられるべきである。さらに、別段の指定がない限り、本明細書に記載のすべての化合物は、置換されていても、置換されていなくてもよく、一覧の化合物にはそれらの誘導体が含まれる。
【0008】
さらに、様々な範囲および/または数値的な制限は、明示的に以下のように示すことができる。なお、いずれの範囲も、明示された範囲または制限内に入る同様な大きさの段階的な範囲(iterative range)を含むことを理解されたい。
【0009】
本発明の実施形態は、配合された推進薬に関する。対象となる機体は基本的に打上げ機およびロケットであるが、他の機体としては極超音速宇宙往還機(例えば、ラムジェットまたはスクラムジェットによって動力が供給される機体)などがある。ラムジェットは、一般に、ジェットの前進運動を利用して、流入する空気を圧縮するジェットエンジンであり、一般に、対気速度がゼロの場合、推力を生成できず、したがって、ジェット機を静止状態から動かすことができない。スクラムジェットは、ラムジェットの変形であり、燃焼プロセスが超音速気流中で行われる。
【0010】
ロケットは、高速でロケットの後ろに質量を放出することによって推力を生成する。化学ロケットは、燃焼室において推進薬と液体酸素などの酸化剤とを反応させて、高速度ガスの流れを作り、それにより推力を生成する。これらの機体の現在の有効搭載量は、推進薬の密度およびエネルギー含量によってかなり制限されている。
【0011】
ロケット推進薬の比推力(Isp)は、生成された推力と推進薬の燃焼室中への質量流量とを関連付けるパラメータである。比は、燃焼室温度の平方根に比例し、燃焼室内の分子量の平方根に反比例する。したがって、比推力は、燃焼室温度の上昇(燃焼室圧力がより高圧になる)および燃焼生成物の分子量の減少(より重い生成物よりも高速の排出速度を実現する)によって増加する。比推力は、本質的にモーメント項である。所与の時間内に燃焼する燃料の質量を増大させるか、または排出ガスの速度を増加させると、一般に、比推力に有益な効果がもたらされる。より高い比推力が望ましく、それは所与の重量の燃料が燃焼される際により大きな推力が生成されるためである。その結果、他の方法で可能となりうるよりも、より大きな有効搭載量を軌道に打ち上げることができ、または高い軌道を実現できる。
【0012】
推進薬の現行ユーザーの多くは、「RP−1」規格を満たす推進薬(以下、「RP−1推進薬」と称す)を使用している。硫黄含有量を気にする他のユーザーは、RP−2規格を満たす推進薬を使用する必要がある。RP−1およびRP−2推進薬に関連するいくつかの化学的および物理的性質の規格を以下の表1に示す。
【0014】
従来から、RP−1推進薬は、ジェット燃料に類似している高度に精製されたケロシンである。ケロシンは、一般に、石油を140℃〜250℃で分別蒸留して、炭素原子10〜25個の炭素鎖長を有する分子の混合物として得られる。例えば、RP−1推進薬は、約175の平均分子量、約0.82g/mlの密度、350°F(176℃)〜525°F(273℃)の沸点範囲を有し得る。理論的には、ほとんどの石油原油は十分に処理すればいくつかのRP−1推進薬を生成できるが、実際には、燃料は、より低品質な原油の精製に伴う費用および困難のために、一般に高品質なベースストックを有する少数の油田から調達される。
【0015】
RP−1推進薬を製造する従来の方法と異なり、本発明の推進薬は、1種または複数の炭化水素流体をブレンドすることによって、配合された推進薬である。
【0016】
本明細書では、用語「炭化水素流体」は、同等に広範囲な用途で使用される広範囲の材料を表す一般的な意味で使用される。本明細書に記載の配合された推進薬に一般に利用される炭化水素流体は、いくつかの処理によって製造できる。例えば、炭化水素流体は、硫黄および他のヘテロ原子を除去する過酷な水素化処理、深度水素化処理、もしくは水素化分解、または重合化もしくはオリゴマー化処理から製造でき、こうした処理の後に蒸留を行って、狭い沸点範囲のものに分別する。ある場合には、流体中のイソパラフィンまたはパラフィンの濃度を増大させるために、化学的または物理的分離などの追加ステップがあってもよい。さらに、オリゴマー化由来のイソパラフィンが、炭化水素流体を構成してもよい。
【0017】
ある種の炭化水素流体は、米国特許第7,311,814号および米国特許第7,056,869号に記載されており、これらを参照により本明細書に組み込む。燃料と異なり、炭化水素流体は、例えば、500°F(260℃)未満、300°F(148℃)未満または100°F(37℃)未満の狭い沸点範囲を有する傾向がある。留分がこのように狭いと、引火点範囲がより狭くなり、粘度がより高くなり、粘度安定性が向上し、例えば、蒸留曲線に示されるように、蒸留規格が規定される。
【0018】
ある種の実施形態では、炭化水素流体は、減圧軽油留出物を水素化分解し、続いて、水素化分解した減圧軽油を分留および/または水素化することによって製造できる。こうした流体は、212°F(100℃)〜752°F(400℃)のASTM D86による沸点範囲を有してもよく、個々の炭化水素流体は、本明細書に記載された、より狭い沸点範囲を有してもよい。流体はさらに、例えば、少なくとも40wt%、少なくとも60wt%または少なくとも70wt%のナフテン含有量を有してもよい。流体はさらに、例えば、2wt%未満、1.5wt%未満または1.0wt%未満の芳香族化合物含有量を有してもよい。流体はさらに、例えば、212°F(100℃)未満、205°F(96℃)未満または200°F(93℃)未満のアニリン点を有してもよい。
【0019】
ある種の実施形態では、炭化水素流体は、例えば、30ppm未満、15ppm未満または3ppm未満の低硫黄濃度を有していてもよく、または、例えば、1.0vol%未満、0.5vol%未満または0.01vol%未満の芳香族化合物含有量を有していてもよく、比較的高い真燃焼熱を有していてもよく、狭い蒸留範囲を有していてもよい。さらに、炭化水素流体の処理および生成の方法に応じて、炭化水素流体は、主要な化合物として(例えば、40wt%超、50wt%超または60wt%超または80wt%超)、パラフィン系、イソパラフィン系、またはナフテン系として特徴づけることができる。こうした特徴づけは、非常に低い密度および/または高い真燃焼熱を実現するためにブレンド時に有用となり得るが、こうした特徴づけは推進薬の配合の必要条件ではない。
【0020】
様々な炭化水素流体を特徴づけるいくつかの例示的で非限定的な化学的および物理的性質の範囲を以下の表2に示す。
【0022】
炭化水素流体は、最終の使用要件を満たす材料を生じ得る任意の適切な出発材料から誘導され得る。上述の軽油の場合のように、出発材料が最終生成物の沸点範囲に入る必要がないことに留意されたい。したがって、炭化水素流体を製造する出発材料は、例えば、軽油または他の高分子量材料(低分子量材料にするためにさらに水素化分解されるか、もしくは硫黄含有量を減少させるために深度水素化される高分子量材料など)、留出物として通常分類される材料(例えば、ケロシン、直留ディーゼル、超低硫黄ディーゼル、十分な水素処理をしたコーカーディーゼルなど)、またはFCC装置からのライトサイクル油であってもよい。出発材料は、ガス液化処理またはバイオマス変換処理からのケロシンまたは軽油であってもよい。十分に水素処理して、酸素を除去した後、ある種の実施形態では、バイオディーゼルおよびバイオジェットを出発材料として使用する。一般に、バイオディーゼルおよびバイオジェットは、水素処理により、酸素が除去される。ある種の実施形態では、処理後にC
12〜C
18の範囲の炭素鎖を生じるトリグリセリドを出発材料として使用する。バイオディーゼルおよびバイオジェットは、植物源由来でも動物源由来でもよい。さらに、出発材料は、炭化水素流体を生じるオレフィンや、重合化またはオリゴマー化されたポリオレフィンでもよい。1種または複数の実施形態では、出発材料として、例えば、プロペン、ブテン、またはそれらの組合せを含んでもよい。オレフィンは、ナフサクラッカーなど従来の資源から製造されてもよい。あるいは、本開示のある種の実施形態では、オレフィンは、低炭素数アルコール(低級アルコール)を脱水して製造する。低炭素数アルコールは、様々なバイオマス発酵プロセスを経て製造できる。ある種の実施形態では、炭化水素流体は、軽油、ケロシン、直留ディーゼル、超低硫黄ディーゼル、コーカーディーゼル、ライトサイクル油、水素脱ろう軽油もしくはケロシン留分、エチレン、プロペン、ブテン、またはそれらの組合せを含んでいてもよい。
【0023】
1種または複数の実施形態では、炭化水素流体は、一般に、C
9〜C
18またはより狭い蒸留留分から選択された成分である。ブレンドにより配合された推進薬を形成できる炭化水素流体を特徴づける蒸留留分の具体的で非限定的な例としては、SPIRDANE(登録商標)[例えば、D−40{密度が約0.790g/mL、沸点範囲が356°F〜419°F(180〜215℃)、引火点が107.6°F(42℃)}、D−60{密度が約0.770g/mL、沸点範囲が311°F〜392°F(155〜200℃)、引火点が145°F(62℃)}]、KETRUL(登録商標)[例えば、D−70{密度が約0.817g/mL、沸点範囲が381°F〜462°F(193〜238℃)、引火点が160°F(71℃)}、D−80{密度が約0.817g/mL、沸点範囲が397°F〜465°F(202〜240℃)、引火点が170.6°F(77℃)}]、HYDROSEAL(登録商標)(例えば、G232H)、およびTOTAL FLUIDES,S.A.から市販されるISANE IP(登録商標)流体、ExxonMobil Chemical Corp.から市販されるISOPAR(商標)流体、および出光興産(株)から市販されるIP2835が挙げられる。
【0024】
本開示で提供する情報および方法を用いて、炭化水素流体のブレンドにより特定の所望の特性を有する推進薬を配合することが可能である。1種または複数の実施形態では、配合された推進薬は、2種以上の炭化水素流体を含む。例えば、いくつかの実施形態では、配合された推進薬は、2種の炭化水素流体を含む。他の諸実施形態では、配合された推進薬は、3種の炭化水素流体を含む。さらに他の諸実施形態では、配合された推進薬は、4種の炭化水素流体を含む。個々の炭化水素流体は、推進薬への配合に関して、各々がロケット燃料ブレンドの最終性質にどのように寄与するかに応じて選択される。
【0025】
1種または複数の実施形態では、特定の蒸留曲線または特定の蒸留曲線の態様を示すように、推進薬を配合する。例えば、ある種の実施形態では、配合された推進薬が、表1に指定した燃料蒸発温度で規定された範囲の下限値、および表1に規定した終点またはそれ以下の温度を有することができる。このような場合、複数の炭化水素流体をブレンドして、「燃料蒸発温度(留出温度)」および「終点」に関するRP−1規格を満たすように配合された推進薬を作製できる。
【0026】
ブレンドされる個々の炭化水素流体に関しては、各々が、所望の規格内の特定の流体特性、例えば、終点や燃料蒸発温度などを有する必要はない。すなわち、推進薬は、それ自体は所望の規格を満たしていない広範囲の炭化水素流体を用いて配合され得る。さらに、既知のジェット燃料配合物を炭化水素流体に組み込むことができる。こうした組合せの利用によって、より広範に調整された性質の配分が実現可能である。例えば、具体的で非限定的な配合された推進薬は、所望の規格よりも高い終点を有する第1炭化水素流体と、所望の規格よりも低い終点を有する第2炭化水素流体とをブレンドしてものであってもよく、このブレンドにより所望の規格内に入る終点を実現することができる。さらに、個々の炭化水素流体を選択することによって、許容されるマージン内の所望の蒸留曲線を再現することが可能である。
【0027】
ある種の状況では、単一の炭化水素流体、例えば、RP−1など特定の推進薬規格の蒸留範囲内、または重複する範囲内にある炭化水素流体などを推進薬として使用できるが、2種以上の流体を組み合わせると、所望の蒸留曲線全体への密接な一致を可能にする方法の自由度がより大きくなる。例えば、RP−1推進薬の蒸留曲線の規格内の2点、例えば、10%点および終点と一致した場合であれば、規格内になるようにRP−1推進薬曲線全体と一致させる必要はない可能性がある。しかし、2種以上の炭化水素流体を組み合わせることで、所望の蒸留曲線とより密接に一致する配合された推進薬を実現することが可能であり、それによって、例えば、性能の向上または性能の標準化がなされる。
【0028】
炭化水素流体をブレンドして、蒸留曲線上のある点、例えば、10%点や終点などに到達させることができる。それに加えて、炭化水素流体をブレンドして、多数の他の特性を実現することもできる。例えば、炭化水素流体をブレンドして、流動点、曇点、氷結点、および粘度などのコールドフロー特性を有する配合された推進薬を実現できる。他の諸実施形態では、炭化水素流体をブレンドして、密度、水素含有量、および真燃焼熱などある種の推進性能特性を実現できる。
【0029】
一例として、いくつかの実施形態では、RP−1推進薬規格の140°F(60℃)より低い引火点を有する炭化水素流体を、最終ブレンドの引火点を規格より降下させない量に限ってだが、配合に使用できる。同様に、最終的な氷結点がRP−1推進薬の規格値より低くなるならば、最大規格の−60°F(−51℃)より高い氷結点を有する流体、例えば、少量の芳香族化合物を有するものなどをブレンド中に含めることができる。
【0030】
芳香族化合物が低減/除去された炭化水素流体を使用すると、推進薬に別の利益がもたらされる。ある種の実施形態では、炭化水素流体成分中の芳香族化合物量を低減させると、ブレンドストックとして使用される炭化水素流体成分の真燃焼熱がより高くなる。ある種の実施形態では、これらの高い真燃焼熱を有する炭化水素流体を組み合わせると、RP−1推進薬の最小規格18,500BTU/lbを超える生成物が生じる。本開示のある種の実施形態では、真燃焼熱は、ASTM D−240で測定すると、18,500BTU/lb〜19,000BTU/lbである。本開示の他の実施形態では、真燃焼熱は、ASTM D−240で測定すると、18,700BTU/lb〜18,900BTU/lbである。さらに、芳香族化合物が除去または低減された炭化水素流体を使用すると、配合された推進薬の炭化水素含有量を増大させることもできる。
【0031】
さらに、イソパラフィン系のブレンドストックの真燃焼熱は、同じ炭素数を有する芳香族化合物またはナフテン系化合物よりも大きいので、イソパラフィン系のブレンドストックをブレンドに含ませた場合、真燃焼熱の上昇を促進できる。ノルマルパラフィン系のブレンドストックもまた、真燃焼熱を上昇させることができる。
【0032】
様々なブレンドストックは、様々な燃焼速度を有していてもよい。一般に、ロケットエンジンの設計者は、火炎面が、ロケットエンジンにおいて所望の速度で確実に伝播するようにする観点から、特定の燃焼範囲または速度を好む。燃焼速度が速すぎると、エンジン中の所望の場所より前で燃焼が完了してしまう可能性がある。燃焼速度が遅すぎると、逆の問題が生じる可能性がある。一般に、ノルマルパラフィンは、燃焼速度が非常に速い。イソパラフィンは、一般に、燃焼速度がノルマルパラフィンより遅い。本開示のある種の実施形態では、ブレンドストックのイソパラフィン/ノルマルパラフィン比を制御して、配合された推進薬の燃焼速度の最適化を実現する。
【0033】
密度は、機体が持ち上げるべき燃料の重量を決定するので、推進薬の重要なパラメータである。所望の蒸留曲線の範疇で、炭化水素流体を選択して、最終ブレンドの密度を変更できる。例えば、ナフテン系流体は、最終密度を上昇させる傾向があり、イソパラフィン流体は、最終生成物の密度を低下させる傾向がある。大量のナフテンを含有し、RP−1などの推進薬規格と比べて蒸留曲線の上端(high end)にある材料、例えばHYDROSEALS(登録商標)などは、ブレンド生成物の密度を増大させるのに使用されてもよい。本開示のある種の実施形態では、15℃での密度は、D−1298で測定すると、0.77〜0.82、0.799〜0.815、0.81〜0.8135、または0.77〜0.80である。
【0034】
したがって、1種または複数の実施形態は、2種以上の炭化水素流体のうちの少なくとも1種としてイソパラフィン炭化水素流体を利用する。1種または複数の実施形態では、推進薬は、例えば、0.8g/ml超の密度を有する第1炭化水素流体、および0.8g/ml未満の密度を有する第2炭化水素流体を含むことができる。配合された推進薬は、例えば、RP−1推進薬の重量よりも約5%少ない、約7%少ないまたは約9%少ない重量を有してもよい。
【0035】
推進薬の水素含有量は、推進薬の性能に著しい効果がある。一般に、水素含有量が高いほど、推進薬のIspが高くなる。ある種の実施形態では、排出分子量を低く維持するために、燃焼生成物としてCO
2ではなくCOを生じるように、ロケットエンジンをわずかに燃料リッチな状態で動かす。より多くの原子が所与の炭素数の化合物に存在するので、水素含有量の増加と共に、推進薬の燃焼に必要な酸化剤の量(混合比)もまた増加する可能性がある。具体的には、燃料中の炭素に対する水素の比が増加すると、燃料に対する化学量論的な酸素の比が増加する。したがって、より多くのモル数のガスが、燃焼生成物として排出ノズルから放出される。そのガス中の追加されたモル数が水に関する場合、排出ガスの平均分子量は減少する。さらに、かなりの量のOHおよび水素原子の分子フラグメントが形成され、燃焼室から放出される。これらの割合はまた、炭素に対する水素の比の増加と共に増加し、さらに排出ガスの平均分子量を減少させる可能性がある。
【0036】
本開示のある種の実施形態では、配合された推進薬の水素含有量は、炭化水素流体中のブレンドストックにおける分子中の炭素原子に対する水素の比を増加させることによって制御される。例えば、環を減少させたり、分岐させたり、炭化水素分子の水素飽和度を増加させると、水素/酸素原子の比が増加し、それによって、推進薬の水素含有量が増加する。炭化水素流体のブレンドストック中の芳香族化合物を除去または減少させると、水素含有量が著しく増加する可能性がある。本開示のロケット推進薬のいくつかの実施形態における水素含有量は、ASTM D−3343で測定すると、14.25〜15wt%、14〜14.8wt%、15.3wt%未満、または14.8〜15wt%である。
【0037】
一般に、ブレンドされた推進薬で使用される炭化水素流体は、硫黄濃度が非常に低い。硫黄は、真燃焼熱の低下および汚染の増加などの様々な形で推進薬の性能に悪影響を及ぼす。したがって、いくつかの実施形態では、配合された推進薬は、硫黄含有量が、従来のRP−1推進薬と比較して著しく低減されている。例えば、配合された推進薬は、30ppm未満または5ppm未満の硫黄を含む可能性がある。他の諸実施形態では、配合された推進薬は、3ppm未満の硫黄または1ppm未満の硫黄を含有する。
【0038】
配合された推進薬からオレフィンおよび芳香族化合物を実質的に除去すると、配合された推進薬は、従来から製造されているRP−1推進薬より向上した熱的安定性を示す。本明細書に記載の機体で利用するエンジンは、排出ノズルの周りに冷却コイルを備えることができる。このノズルを通って、タンクからの燃料が燃焼室に注入される。冷却コイルは、主に、推進薬中に存在する芳香族化合物および/またはオレフィンのために、定期的に汚染される。したがって、配合された推進薬は、例えば、冷却コイルの汚染を、無くならないにしても、著しく減少させるので、ブースター段を有するロケットエンジンまたはロケットモータの再使用を可能にする燃料を提供する。
【0039】
従来から製造されているRP−1推進薬は、ブースター段と上段のどちらでも使用できる。しかし、上段では、RP−1の密度および性能の問題のために、より高エネルギーの燃料を含ませる、または完全に使用することが一般的である。本開示の利益を受ける当業者が理解できるように、配合された推進薬の性能パラメータを操作することによって、本開示と一致する配合された推進薬は、上段において、単独で、またはより高エネルギーの燃料と組み合わせて使用できる。本開示のある種の実施形態では、配合された推進薬を、金属酸化物を形成できる粉末金属と組み合わせて、より高レベルの比推力を実現できる。このような金属の一例は、アルミニウムである。
【0040】
本開示の配合により推進薬は、従来のRP−1推進薬の有効性/性能の問題を克服する。すなわち、既存の炭化水素流体をブレンドすることにより、従来から製造されているRP−1推進薬より優れていないかもしれないが、性質および費用において少なくとも対等な推進薬を製造することができる。さらに、本開示の推進薬の配合を調整することによって、従来から製造されるRP−1から得られるよりも高レベルの比推力(Isp)を維持する能力を示しつつ、所望の密度、水素含有量、および燃焼熱などの性質を提供できる。
【0041】
さらに、配合された推進薬が、例えば、染料、酸化防止剤、金属不活性化剤、およびそれらの組合せなど様々な添加剤を含有できることが企図される。
【実施例】
【0042】
従来から製造されているRP−1推進薬のサンプルおよび様々に配合された推進薬のサンプルを、ASTM D−86、密度、アニリン点、曇点、硫黄含有量、および芳香族化合物含有量(FIA法)に関して分析した。蒸留曲線および密度を使用して、ASTM D−3343による水素含有量を計算した。蒸留曲線、密度、アニリン点、硫黄含有量、および芳香族化合物含有量を使用して、ASTM D−4529による真燃焼熱を計算した。比較の基準として、従来から製造されているRP−1推進薬のサンプルを入手、分析し、それらの結果を以下のデータに示した。ASTM D−4529に応じて、密度を15℃で測定した。これは真燃焼熱を推定するものである。続いて、配合された各推進薬の密度測定を同基準で行った。後者を使用して、真燃焼熱を計算した。
【0043】
従来から製造されているRP−1推進薬では、硫黄含有量が、最大の30ppmよりかなり低かった。曇点を氷結点の代わりに測定した(氷結点は曇点よりも低い)。水素含有量をASTM D−3343の実験式を使用して計算した。これには、密度、蒸留曲線、および芳香族化合物含有量を利用する。値は14.27%であり、規格の13.8%(wt)を超えていた。さらに、水素含有量をわずかに減少させる少量の芳香族化合物およびオレフィンが、それぞれ1.22および1.10%(vol)存在した。C
12〜C
18ケロシン留分の理論上最大の水素含有量は、14.9〜15.3%である。高度に水素化されたケロシンとして、従来から製造されているRP−1推進薬はまた、ナフテン環の存在を特徴とする。この水素含有量14.3%は、1分子当たりの単一ナフテン環と一致していた。従来から製造されているRP−1推進薬の蒸留曲線を
図1に示す。複数の線を、RP−1推進薬の蒸留曲線規格を示すために挿入した。RP−1規格では、10%点は、365°F(185℃)〜410°F(210℃)に達しなければならず、終点は、525°F(273℃)未満でなければならない。上述のように、従来から製造されているRP−1推進薬は、C
12〜C
18の範囲の炭素数化合物からなる狭い留分である。蒸留%と共に温度が徐々に上昇するのは、複数の炭素数化合物の複合混合物を示すものである。
【0044】
配合された推進薬中で使用するために分析した材料は、SPIRDANE(登録商標)D−40、SPIRDANE(登録商標)D−60、KETRUL(登録商標)D−70、KETRUL(登録商標)D−80、HYDROSEAL(登録商標)G232H、ISANE IP(登録商標)175、およびISANE IP(登録商標)185であった。これらの成分の蒸留曲線を
図2に示す。データを、従来から製造されているRP−1推進薬の蒸留曲線と相対的に示す。「そのまま」、すなわち、配合せずに使用した場合、従来から製造されているRP−1推進薬に十分密接に一致する個々の成分はなかった。それぞれの成分は、G232Hのように沸点がより高いか、D−60のように沸点がより低いか、またはD−80のように沸点範囲がより狭いことを特徴とするものであった。しかし、ブレンド成分の特質をこのように組み合わせることによって、推進薬の蒸留曲線の前端(初留点)、中央点、および後端(終点)をRP−1規格と一致するように調整できるので、ブレンドに自由度を与える。あるいは、ブレンド用成分を適切に選択することで、蒸留曲線または他の性質に関する推進薬の様々な特性を最適化できる。
【0045】
ISANE IP(登録商標)材料を除いたすべての成分の密度測定値は、従来から製造されているRP−1推進薬の密度に近かった。ISANE IP(登録商標)材料は、従来から製造されているRP−1推進薬より低密度であることを特徴とした。ISANE IP(登録商標)材料を含むこれらの成分の真燃焼熱および水素含有量は、従来から製造されているRP−1推進薬と同等であった。
【0046】
成分データを収集した後、各成分を配合して推進薬を作製した。諸成分が組み合わさると互いにどのような影響を及ぼすかを評価するために、いくつかのプロトタイプブレンドを作製した。3種のプロトタイプを作製し、プロト−6、プロト−7、およびプロト−8と称した。プロト−6は、RP−1規格と一致するように設計した。プロト−7はブレンドを平均した沸点がPR−1規格より低くなるように、およびプロト−8は平均した沸点がRP−1規格よりも高くなるように設計された。後者の2種を作製して、蒸留曲線の限界を超えた場合、SPIRDANE(登録商標)、KETRUL(登録商標)、およびHYDROSEAL(登録商標)ベースの材料など現行のブレンド成分によりどのような範囲の密度および他の性質が達成可能であるかを判断した。プロトタイプのブレンド配合物を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
プロト−6、プロト−7、プロト−8、および従来から製造されているRP−1推進薬の蒸留曲線データを
図3に示す。10%点および終点についてのみ参照すると、RP−1規格を満たす蒸留曲線の許容範囲は広い。3種のプロトタイプはすべてこの規格を満たした。プロト−8は、平均した沸点が高くなるように設計され、10%点が規格限界と一致する410°Fであった。3種すべての終点が、最大の525°F(273℃)より低かった。プロト−7は、設計により、それよりかなり低い465°F(240℃)であった。
【0049】
軽質のD−60成分の濃度を高くすると、プロト−7の蒸留曲線の位置が試験した他のすべてのものより低くなることが示された。同様に、重質成分G232Hの濃度を高くすると、プロト−8の蒸留曲線が他のすべてのものより高くなった。
【0050】
すべての配合物の曇点データが氷結規格の−60°F(−51℃)より低くなり、すべてが許容可能な氷結点を有することが示された。前述したように、従来から製造されているRP−1推進薬の硫黄含有量を波長分散X線蛍光法によって測定すると1ppmであった。プロトタイプ配合物では、この方法の検出限界である0.5〜0.6ppmが測定された。これらの値は、RP−2配合物の最大限界の0.1ppmに非常に近い。密度測定値は、従来から製造されているRP−1推進薬の密度に非常に近かったが、わずかに高く、それでもRP−1の規格内にあった。これは、従来から製造されているRP−1推進薬の密度よりわずかに大きいブレンドストックの密度と一致していた。密度測定値を
図4で比較する。
【0051】
ISANE IP(登録商標)175および185は、密度が、従来から製造されているRP−1推進薬よりも著しく低いことを特徴とするが、引火点は、RP−1規格と同じまたは高い。これらの各々の密度は、0.77g/ml未満であり、他のブレンド成分および従来から製造されているRP−1推進薬と比べて著しく低下していた。さらに、水素含有量を測定すると15.1〜15.2wt%の範囲であった。これは、C
12〜C
18の、ナフテン環を有さない完全に飽和したサンプルの理論値と一致しており、これらの材料の分析証明書に報告される典型的な値に見られるとおりである。
【0052】
従来から製造されているRP−1推進薬の蒸留曲線データを、ある種の炭化水素流体と比較して、
図5に示す。新規な材料は、非常に狭い留分であり、終点が400°F(204℃)より低い。そのため、RP−1推進薬配合物を作製するためには、中質から重質の留分の使用を必要とする。さらに、蒸留曲線の初留点は非常にクリーンであった。これは、極めて軽質で引火点が低い化合物がほとんど存在せず、それにより、配合物の軽質部分にとってこれらが理想的なブレンド成分であることを示した。新規な成分を用いて配合したプロトタイプブレンドをプロト−9〜プロト−12と称した。これらのブレンドの組成を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
新規な配合物に対応する蒸留曲線を
図6に示す。プロト−9は、従来から製造されているRP−1推進薬蒸留曲線と密接に一致した。プロト−11は、配合物中のISANE IP(登録商標)175の濃度がかなり高いことから分かるように、低密度の推進薬になるように設計された。プロト−10およびプロト−12は、中沸点化合物をより大きな割合で含むように配合し、D−70とD−80の蒸留曲線への寄与の差を調べた。示すように、差は、使用量のわりには微小であった。
【0055】
図7において、より低沸点の成分とイソパラフィンとの交換があることによる直接的な効果を密度測定値に見ることができる。密度の階段状変化は明白である。低密度ブレンドのプロト−11を測定すると0.7744g/mlであった。ブースター段(第1段)に28,500ガロン、第2段に6,500ガロンの燃料を有する2段機体を仮定した場合、低密度プロトタイプの使用により減じた重量を
図8に示す。従来から製造されているRP−1推進薬の蒸留曲線を模倣するプロト−9において減じた上段の重量は、軌道有効搭載量のほぼ7%である。この減量は、低密度のプロト−11では約9%である。これにより有効搭載量が大きく増加する。
【0056】
プロトタイプの水素含有量を
図9に示す。本質的にナフテン系である化合物のいくつかが完全に飽和したイソパラフィンと交換された場合、水素含有量が、従来から製造されているRP−1推進薬の模倣物であるプロト−9では約14.9wt%に、低密度配合物であるプロト−11では15wt%に純増した。これは、従来から製造されているRP−1推進薬サンプルと比べて著しい増加であった。
【0057】
プロトタイプの真燃焼熱を
図10に示す。
【0058】
上記のプロト配合物に加えて、プロト−20を配合した。プロト−20は、プロト−6およびプロト−9と同様に、従来から製造されているRP−1推進薬に関連する蒸留曲線と妥当な限界範囲内で一致するように設計された。
図11は、4種の配合物すべての蒸留曲線を示す。ただし、プロト−20は、密度、水素含有量、および真燃焼熱がプロト−6とプロト−9との中間になるように設計された。したがって、プロト−20は、密度が15℃で0.8001、水素含有量が14.51wt%、真燃焼熱が18,736BTU/lbである。
【0059】
6000ガロンのプロト−6を商用規模設備で調製した。
図12に示すように、商用規模設備で製造したプロト−6の割合で配合された推進薬からサンプルを取り、サンプル(「商用RPブレンド」とラベル表示)の蒸留曲線を、従来から製造されているRP−1推進薬(RP−1とラベル表示)および実験室レベルで配合したプロト−6(「プロト−6」)の蒸留曲線と比較した。
図12に示すように、商用規模設備に拡大しても、実験室規模で実施したものとほぼ同一の蒸留曲線が得られた。表5は、これらの3種の推進薬の追加データを示す。
【表5】
【0060】
本明細書に記載した方法および装置を特に示し、その例示の実施形態を参照することによって記載したが、当業者によって形式および詳細のさまざまな変更が行われ得ることを理解されたい。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
[態様1]
ロケット推進薬を製造する方法であって、少なくとも2種の炭化水素流体を組み合わせることを含む方法。
[態様2]
態様1に記載の方法において、前記ロケット推進薬が、RP−1規格を満たすことを特徴とする方法。
[態様3]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM D−1298で測定した比重が、60℃で0.760〜0.825であることを特徴とする方法。
[態様4]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM D−1298で測定した比重が、60℃で0.790〜0.81であることを特徴とする方法。
[態様5]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM D−5623で測定した硫黄濃度が、3ppm未満であることを特徴とする方法。
[態様6]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM D−1319で測定した芳香族化合物含有量が、1vol%未満であることを特徴とする方法。
[態様7]
態様6に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM−1319で測定した芳香族化合物含有量が、0.01vol%未満であることを特徴とする方法。
[態様8]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM−1319で測定したオレフィン含有量が、0.1vol%未満であることを特徴とする方法。
[態様9]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM D−3343で測定した水素含有量が、13〜15wt%であることを特徴とする方法。
[態様10]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の、ASTM D−93で測定した引火点が、130〜225°Fであることを特徴とする方法。
[態様11]
態様1に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−3343で測定した水素含有量が、14.25〜15wt%であることを特徴とする方法。
[態様12]
態様11に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−3343で測定した水素含有量が、14.8〜15wt%であることを特徴とする方法。
[態様13]
態様1に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−240で測定した真燃焼熱が、18,500BTU/lb超であることを特徴とする方法。
[態様14]
態様13に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−240で測定した真燃焼熱が、18,500〜19,000BTU/lbであることを特徴とする方法。
[態様15]
態様1に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−1298で測定した密度が、15℃で0.799〜0.815であることを特徴とする方法。
[態様16]
態様15に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM D−1298で測定した密度が、15℃で0.799〜0.815であることを特徴とする方法。[態様17]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の少なくとも1種が、イソパラフィンから構成されることを特徴とする方法。
[態様18]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体の少なくとも1種が、ノルマルパラフィンから構成されることを特徴とする方法。
[態様19]
態様1に記載の方法において、前記ロケット推進薬の、ASTM−1319で測定した芳香族化合物含有量が、0.01vol%未満であることを特徴とする方法。
[態様20]
態様1に記載の方法において、前記炭化水素流体のいずれも、RP−1規格を満たさないことを特徴とする方法。
[態様21]
態様1に記載の方法において、前記ロケット推進薬が、粉末金属をさらに含むことを特徴とする方法。
[態様22]
態様21に記載の方法において、前記粉末金属が、アルミニウムであることを特徴とする方法。