(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914515
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】改善された空間フォーカス飛行時間質量分析計
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20160422BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
H01J49/40
G01N27/62 B
G01N27/62 E
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-545509(P2013-545509)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公表番号】特表2014-502028(P2014-502028A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】GB2011052576
(87)【国際公開番号】WO2012085594
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年11月13日
(31)【優先権主張番号】1021840.2
(32)【優先日】2010年12月23日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/432,837
(32)【優先日】2011年1月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ホイス、ジョン、ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ラングリッジ、デイヴィッド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ワイルドグース、ジェイソン、リー
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06627877(US,B1)
【文献】
特開2002−245964(JP,A)
【文献】
特表2005−538346(JP,A)
【文献】
SHORT R T,IMPROVED ENERGY COMPENSATION FOR TIME-OF-FLIGHT MASS SPECTROMETRY,JOURNAL OF THE AMERICAN SOCIETY FOR MASS SPECTROMETRY,米国,ELSEVIER SCIENCE INC,1994年 8月 1日,V5 N8,P779-787
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00−49/48
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を備える質量分析計であって、
前記ソース領域は、引出し段と第1の加速段とを含み、
使用時に、前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a0+a1(Δx)T’+a2(Δx)2T”+a3(Δx)3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a2(Δx)2T”は2次空間的収束項であり、前記a3(Δx)3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記飛行時間質量分析器は、非ゼロ5次空間的収束項を導入するように配置および適合される5次空間的収束デバイスをさらに備え、前記第5次空間的収束項は、非ゼロ1次空間的収束項と3次空間的収束項の効果を相殺するために導入され、その結果、前記1次空間的収束項と、前記3次空間的収束項と、前記5次空間的収束項との組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減し、
前記第5次空間的収束デバイスは、前記ソース領域内に第3段を、またはリフレクトロン内に、もしくは前記ソース領域とリフレクトロンとの間に更なる段を、含み、前記第3段または前記更なる段は、加速段もしくは減速段またはフィールドフリー領域を含む
質量分析計。
【請求項2】
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を備える質量分析計であって、
前記ソース領域は、引出し段と第1の加速段とを含み、
使用時に、前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a0+a1(Δx)T’+a2(Δx)2T”+a3(Δx)3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a2(Δx)2T”は2次空間的収束項であり、前記a3(Δx)3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記飛行時間質量分析器は、非ゼロ4次空間的収束項を導入するように配置および適合される4次空間的収束デバイスをさらに備え、前記第4次空間的収束項は、非ゼロ2次空間的収束項の効果を相殺するために導入され、その結果、前記2次空間的収束項と前記4次空間的収束項との組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減し、
前記第4次空間的収束デバイスは、前記ソース領域内に第3段を、またはリフレクトロン内に、もしくは前記ソース領域とリフレクトロンとの間に更なる段を、含み、前記第3段または前記更なる段は、加速段もしくは減速段またはフィールドフリー領域を含む
質量分析計。
【請求項3】
前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、前記ソース領域内に前記第3段を含み、前記第3段は、(i)第2の加速段、(ii)減速段、または(iii)フィールドフリー領域のいずれかを含む、請求項1または2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記ソース領域内の前記第3段は、使用時に、前記引出し段と同期してパルス状になる、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記飛行時間質量分析器は、第1の段と第2の段とを有する前記リフレクトロンをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項6】
前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、前記リフレクトロンを備えた第3の減速段または加速段を含む、請求項5に記載の質量分析計。
【請求項7】
使用時に、第1電場勾配E1は、前記第1の減速段または加速段の全域で維持され、第2電場勾配E2は、前記第2の減速段または加速段の全域で維持され、第3電場勾配E3は、前記第3の減速段または加速段の全域で維持され、前記E1と前記E2と前記E3とは等しくない、請求項6に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記リフレクトロンは、多重リフレクトロンを含む、請求項5、6または7に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記飛行時間質量分析器は、前記ソース領域と前記リフレクトロンとの中間にドリフト領域をさらに含み、前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、前記ドリフト領域内に設けられた減速段または加速段を含む、請求項5から8のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項10】
1次空間的収束項を導入し、初期速度分布を有するイオンを補償するように配置および適合されるデバイスをさらに備える、請求項1〜9のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項11】
1次空間的収束項を導入し、空間的収束を向上させるように配置および適合されるデバイスをさらに備える、請求項1〜10のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項12】
前記ソース領域の上流に配置されたビームエクスパンダーをさらに備え、前記ビームエクスパンダーは、前記ソース領域内における到達イオンの初期速度分布を低減するように配置および適合される、請求項1〜11のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項13】
前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、ミリメートル単位での前記位置の初期分布Δxの関数としての、ナノ秒単位での前記イオン到達時間分布ΔTが、(i)<0.9ns、(ii)<0.8ns、(iii)<0.7ns、(iv)<0.6ns、(v)<0.5ns、(vi)<0.4ns、(vii)<0.3ns、(viii)<0.2ns、(ix)<0.1nsからなる群から選択されるように配置および適合される、請求項1〜12のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項14】
前記飛行時間質量分析器は、直線飛行時間質量分析器または直交加速式飛行時間質量分析器を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項15】
前記飛行時間質量分析器は、多重飛行時間質量分析器を含む、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項16】
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を準備することを含む質量分析法であって、
前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a0+a1(Δx)T’+a2(Δx)2T”+a3(Δx)3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a2(Δx)2T”は2次空間的収束項であり、前記a3(Δx)3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記方法は、非ゼロ1次空間的収束項と3次空間的収束項の効果を相殺するために非ゼロ5次空間的収束項を導入し、その結果、前記1次空間的収束項と、前記3次空間的収束項と、前記5次空間的収束項との組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減することをさらに含む質量分析法。
【請求項17】
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を準備することを含む質量分析法であって、
前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a0+a1(Δx)T’+a2(Δx)2T”+a3(Δx)3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a2(Δx)2T”は2次空間的収束項であり、前記a3(Δx)3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記方法は、非ゼロ2次空間的収束項の効果を相殺するために非ゼロ4次空間的収束項を導入し、その結果、前記2次空間的収束項と前記4次空間的収束項との組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減することをさらに含む質量分析法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2011年1月14日に提出された米国仮特許出願第61/432837号および2010年12月23日に提出された英国特許出願第1021840.2号の優先権および利益を主張する。これらの出願の内容は、参考のためにすべて本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
本発明は、質量分析計および質量分析法に関する。
【0003】
ワイリー(Wiley)およびマクラーレン(McLaren)(Time−of−Flight Mass Spectrometer with Improved Resolution(理化学機器の考察 26、1150(1955)、WC Wiley,IH McLaren)(非特許文献1)は、2段引出し飛行時間質量分析計を説明する基本方程式を立案した。その原理は、連続軸方向引出し飛行時間質量分析器と、直交加速式飛行時間質量分析器と、時間差収束機器とに同様に適用される。
【0004】
図1は、2次空間的(または空間)収束の原理を示す。この原理では、初期空間的分布を有するイオンは、イオン検出器の面で収束され、これによって機器の分解能を向上させる。
【0005】
初期エネルギーΔVoを有し、初期位置偏差を有さないイオンビームは、第1の加速段Lp(直交加速式飛行時間機器においては、「プッシャー(pusher)」と呼ばれる)において、以下の式で表される飛行時間を有する。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、質量mおよび電荷qのイオンは、電位Vpによりレートaで加速される。
【0008】
初期速度voは、以下の式によって初期エネルギーΔVoに関連づけられる:
【0009】
【数2】
【0010】
式1のかぎ括弧内の第2項は、「ターンアラウンドタイム(turnaround time)」と呼ばれ、これは、飛行時間機器における主要な限界収差(major limiting aberration)である。ターンアラウンドタイムの概念は
図2に示される。同じ方向のものもあれば反対の方向のものも含む速度で(with equal and opposite velocities)、同じ位置から出発するイオンは、飛行管においては、以下の式で示される同一のエネルギーを有する。
【0011】
【数3】
【0012】
しかし、これらのイオンは、より急峻な加速フィールドほど短くなる(即ち、Δt2<Δt1である)ターンアラウンドタイムΔtによって分離される。これは、しばしば、飛行時間機器の設計において主要な限界収差となるため、機器の設計者は、この項を最小限に抑えるためにはどんな苦労も惜しまない。
【0013】
この収差を最小限に抑えるための最も一般的なアプローチとして、イオンをできるだけ強制的に加速することが挙げられる。即ち、電場(即ち、比Vp/Lp)を最大にすることによって加速項aをできるだけ大きくすることが挙げられる。これは、通常、プッシャー電圧Vpを大きくし、加速段長Lpを短くすることによって成し遂げられる。しかし、こうしたアプローチは、2段幾何学的配置においては実用上限界がある。なぜなら、ワイリー−マクラーレン型空間的収束解では、物理的機器がより短くなり、
図3に示されるように飛行時間が非常に短くなるからである。飛行時間が非常に短くなれば、実現不可能な超高速高帯域検出システムが必要になるであろう。
【0014】
この問題の公知の解決法としては、リフレクトロンを加えることが挙げられる。この解決法では、空間的フォーカスの第1の位置は、
図4に示されるように、イオン検出器で再イメージ化(re-image)される。これによって、比較的高い分解能を可能にする、より長い実用的な飛行時間機器が得られる。
【0015】
従来の反射型飛行時間機器では、リフレクトロンは、単一段リフレクトロンまたは2段リフレクトロンのいずれかを含み得るが、反射型および非反射型の飛行時間機器では共に、引出し領域は、通常、ワイリー/マクラーレン2段ソースを含む。通常、これらの幾何学的配置では、物体は、完璧な1次空間収束または2次空間収束を成し遂げるか、または、小さな1次項を再導入して空間収束をさらに向上させる。
【0016】
様々なイオン転送構成において得られる線形前引出し速度−位置相関関係(linear pre-extraction velocity-position correlations)を補償するために、小さな1次項が配置され得ることは知られている。
【0017】
空間収束への公知のアプローチにもかかわらず、公知の飛行時間機器の実用的な実施は、空間収束特性によって制限される。これらの制限は、分解能と感度との関係において最も明白である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】ワイリー(Wiley)およびマクラーレン(McLaren)、「Time−of−Flight Mass Spectrometer with Improved Resolution」、理化学機器の考察 26、WC Wiley,IH McLaren、1955年、p.1150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
改善された飛行時間質量分析計を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様によると、
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を備える質量分析計であって、
使用時に、前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a
0+a
1(Δx)T’+a
2(Δx)
2T”+a
3(Δx)
3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a
1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a
2(Δx)
2T”は2次空間的収束項であり、前記a
3(Δx)
3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記飛行時間質量分析器は、前記1次空間的収束項および/または前記3次空間的収束項および/または前記5次空間的収束項の組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減するように、非ゼロ5次空間的収束項を導入するように配置および適合される5次空間的収束デバイスをさらに備える質量分析計が提供される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態によると、好ましくは非ゼロ3次空間的収束項の効果を相殺する5次空間的収束項が導入される。この質量分析計の分解能を向上させる好ましい実施形態によると、イオン検出器におけるイオン到達時間の分布はかなり低減される。
【0022】
本発明の一態様によると、
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を備える質量分析計であって、
使用時に、前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a
0+a
1(Δx)T’+a
2(Δx)
2T”+a
3(Δx)
3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a
1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a
2(Δx)
2T”は2次空間的収束項であり、前記a
3(Δx)
3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記飛行時間質量分析器は、前記2次空間的収束項と前記4次空間的収束項との組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減するように、非ゼロ4次空間的収束項を導入するように配置および適合される4次空間的収束デバイスをさらに備える質量分析計が提供される。
【0023】
本発明の好ましさが劣る一実施形態によると、好ましくは非ゼロ2次空間的収束項の効果を相殺する4次空間的収束項が導入される。この質量分析計の分解能を向上させる好ましさが劣る実施形態によると、イオン検出器におけるイオン到達時間の分布はかなり低減される。
【0024】
前記ソース領域は、好ましくは、引出し段と第1の加速段とを含み、前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、好ましくは、前記ソース領域内に第3段を含み、前記第3段は、(i)第2の加速段、(ii)減速段、または(iii)フィールドフリー領域のいずれかを含む。
【0025】
前記ソース領域内の前記第3段は、好ましくは、使用時に、前記引出し段と同期してパルス状になる。
【0026】
前記飛行時間質量分析器は、好ましくは、第1の減速段または加速段と第2の減速段または加速段とを有するリフレクトロンをさらに含む。
【0027】
前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、好ましくは、前記リフレクトロン内に設けられた第3の減速段または加速段を含む。
【0028】
一実施形態によると、第1電場勾配E1は、前記第1の減速段または加速段の全域で維持され、第2電場勾配E2は、前記第2の減速段または加速段の全域で維持され、第3電場勾配E3は、前記第3の減速段または加速段の全域で維持される。一実施形態によると、前記E1と前記E2と前記E3とは等しくない。
【0029】
前記リフレクトロンは、好ましくは、多重(multi-pass)リフレクトロンを含む。即ち、イオンは、1回より多くイオン検出器に向かって反射される。一実施形態によると、イオンは、ソース領域からイオン検出器へとドリフト領域を通ってW形状の経路を辿る。
【0030】
前記飛行時間質量分析器は、好ましくは、前記ソース領域と前記リフレクトロンとの中間にドリフト領域をさらに含み、前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、好ましくは、前記ドリフト領域内に設けられた減速段または加速段を含む。
【0031】
前記質量分析計は、好ましくは、1次空間的収束項を導入し、初期速度分布を有するイオンを補償するように配置および適合されるデバイスをさらに備える。
【0032】
前記質量分析計は、好ましくは、1次空間的収束項を導入し、空間的収束を向上させるように配置および適合されるデバイスをさらに備える。
【0033】
前記質量分析計は、好ましくは、前記ソース領域の上流に配置されたビームエクスパンダーをさらに備え、前記ビームエクスパンダーは、前記ソース領域内における到達イオンの初期速度分布を低減するように配置および適合される。
【0034】
前記4次空間的収束デバイスおよび/または前記5次空間的収束デバイスは、好ましくは、ミリメートル単位での前記位置の初期分布Δxの関数としての、ナノ秒単位での前記イオン到達時間分布ΔTが、(i)<0.1ns、(ii)<0.9ns、(iii)<0.8ns、(iv)<0.7ns、(v)<0.6ns、(vi)<0.5ns、(vii)<0.4ns、(viii)<0.3ns、(ix)<0.2ns、(x)<0.1nsからなる群から選択されるように配置および適合される。
【0035】
前記飛行時間質量分析器は、好ましくは、直線飛行時間質量分析器または直交加速式飛行時間質量分析器を含む。
【0036】
前記飛行時間質量分析器は、好ましくは、多重飛行時間質量分析器を含む。
【0037】
本発明の一態様によると、
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を準備することを含む質量分析法であって、
前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a
0+a
1(Δx)T’+a
2(Δx)
2T”+a
3(Δx)
3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a
1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a
2(Δx)
2T”は2次空間的収束項であり、前記a
3(Δx)
3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記方法は、前記1次空間的収束項および/または前記3次空間的収束項および/または前記5次空間的収束項の組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減するように、非ゼロ5次空間的収束項を導入することをさらに含む質量分析法が提供される。
【0038】
本発明の一態様によると、
ソース領域とイオン検出器とを含む飛行時間質量分析器を準備することを含む質量分析法であって、
前記イオン検出器に到達するイオンが、多項式:ΔT=a
0+a
1(Δx)T’+a
2(Δx)
2T”+a
3(Δx)
3T’’’+...によって前記ソース領域内の前記イオンの位置の初期分布Δxに関連づけられるイオン到達時間分布ΔTを有し、
前記a
1(Δx)T’は1次空間的収束項であり、前記a
2(Δx)
2T”は2次空間的収束項であり、前記a
3(Δx)
3T’’’は3次空間的収束項であり、前記Tは特定の質量電荷比を有するイオンの平均飛行時間であり、
前記方法は、前記2次空間的収束項と前記4次空間的収束項との組合せ効果が、前記イオン到達時間分布ΔTを低減するように、非ゼロ4次空間的収束項を導入することをさらに含む質量分析法が提供される。
【0039】
好ましい実施形態は、最終的な空間収束が改善された分解能および/または感度を成し遂げるように援助する、より高次の空間収束収差の確定的な導入(deterministic introduction)に関する。
【0040】
質量分析計は、好ましくは、(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザー脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザー脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気サンプリンググロー放電イオン化(「ASGDI」)イオン源、および(xx)グロー放電(「GD」)イオン源からなる群から選択されるイオン源をさらに含む。
【0041】
質量分析計は、好ましくは、(i)衝突誘起解離(「CID」)フラグメンテーションデバイス、(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーションデバイス、(iii)電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーションデバイス、(iv)電子捕獲解離(「ECD」)フラグメンテーションデバイス、(v)電子衝突または衝撃解離フラグメンテーションデバイス、(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーションデバイス、(vii)レーザー誘起解離フラグメンテーションデバイス、(viii)赤外線誘起解離デバイス、(ix)紫外線誘起解離デバイス、(x)ノズル−スキマー・インターフェース・フラグメンテーションデバイス、(xi)インソース・フラグメンテーションデバイス、(xii)インソース衝突誘起解離フラグメンテーションデバイス、(xiii)熱または温度源フラグメンテーションデバイス、(xiv)電界誘起フラグメンテーションデバイス、(xv)磁場誘起フラグメンテーションデバイス、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーションデバイス、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーションデバイス、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーションデバイス、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーションデバイス、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーションデバイス、(xxiii)イオンを反応させて付加物または生成物イオンを形成するためのイオン−イオン反応デバイス、(xxiv)イオンを反応させて付加物または生成物イオンを形成するためのイオン−分子反応デバイス、(xxv)イオンを反応させて付加物または生成物イオンを形成するためのイオン−原子反応デバイス、(xxvi)イオンを反応させて付加物または生成物イオンを形成するためのイオン−準安定イオン反応デバイス、(xxvii)イオンを反応させて付加物または生成物イオンを形成するためのイオン−準安定分子反応デバイス、(xxviii)イオンを反応させて付加物または生成物イオンを形成するためのイオン−準安定原子反応デバイス、および(xxix)電子イオン化解離(「EID」)フラグメンテーションデバイスからなる群から選択される1つまたはそれ以上の衝突、フラグメンテーションまたは反応セルをさらに含む。
【0042】
質量分析計は、使用時にイオンを透過させる開口部を有する複数の電極を備える積層リングイオンガイドをさらに含み得る。これらの電極の間隔は、イオン経路の長さに沿って増加する。イオンガイドの上流セクションにある電極内の開口部は、第1の直径を有し得、イオンガイドの下流セクションにある電極内の開口部は、第1の直径よりも小さい第2の直径を有し得る。逆位相のAC電圧またはRF電圧は、好ましくは、連続した電極に印加される。
【0043】
以下、本発明の様々な実施形態を、例示のみを目的としたその他の実施形態と共に添付の図面を参照しながら、例示目的のみで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、従来のワイリー/マクラーレン2段ソース飛行時間幾何学的配置を示す。
【
図2】
図2は、ターンアラウンドタイムの概念を示す。
【
図3】
図3は、飛行時間質量分析器の2段ソースにおける初期引出しフィールドがどれほど高ければ、実現不可能なより短い分析器となるのかを示す。
【
図4】
図4は、直交加速式飛行時間質量分析器に1段リフレクトロンを加えることによって、どのようにして高い引出しフィールドおよびより長い飛行時間の組合せが可能になるのかを示す。
【
図5】
図5は、リウヴィユの定理を例示し、各素子が、位相空間の形状を変化させるが、その面積を変化させない、N個の光学素子を含む光学システムを示す。
【
図6A】
図6Aは、2段ソース幾何学的配置および2段リフレクトロンを有する従来の飛行時間質量分析器を示す。
【
図6B】
図6Bは、3段ソースを含む飛行時間質量分析器を含む本発明の実施形態を示す。
【
図7A】
図7Aは、2段ソースおよび2段リフレクトロンを含む従来の飛行時間質量分析器の空間収束特性を示す。
【
図8A】
図8Aは、3段ソースおよび2段リフレクトロンを含む好ましい実施形態による飛行時間分析器の空間収束特性の奇項を示す。
【
図8B】
図8Bは、前記好ましい実施形態による飛行時間質量分析器の空間収束特性の偶項を示す。
【
図9】
図9は、3段ソースおよび2段リフレクトロンを含む本発明の実施形態による、より大きなビームの空間収束残存収差を示す。
【
図10】
図10は、前記好ましい実施形態により達成され得る分解能の向上を示す。
【
図11】
図11は、前引出し速度−位置(位相空間)のより高次の相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0046】
式1を速度voについて書き換えると、式1は、以下のようなターンアラウンドタイムt’についての関係になる。
【0048】
mv項は、イオンビームの運動量であり、領域長Lpは、本質的に、プッシャ−におけるビームの広がりに対して直線関係を有する。
【0049】
イオン光学における基本定理としては、「リウヴィユの定理」が挙げられ、この定理は、以下のことを規定している。「移動する雲状の(a cloud of)粒子については、位相空間における粒子密度ρ(x、p
x、y、p
y、z、p
z)は可変である」(Geometrical Charged−Particle Optics、Harald H.Rose、Springer Series in Optical Sciences 142)ここで、p
x、p
yおよびp
zは、3つのデカルト座標系方向の運動量を示す。
【0050】
リウヴェユの定理によると、位相空間における特定の容量を満たす、時間t
1における雲状の粒子は、後の時間t
nにおいてその形状を変化させ得るが、その容量の程度を変化させない。次の操作の前にビームを孔に通過させる(aperture)(収束できないイオンを拒否する)ことによって、位相空間の所望の領域をサンプリングすることは可能であるが、電磁場を用いてこの容量を減少させようとする試みは効果的ではない。1次近似によって、リウヴェユの定理は、3つの独立した空間座標x、yおよびzに分離される。そして、イオンビームは、3つの独立した位相空間の領域に関して描写され得る。その形状は、イオンビームがイオン光学システムを通って前進するにつれて変化するが、それぞれの合計の面積自体は変化しない。
【0051】
この概念は、
図5に例示される。
図5は、N個の光学素子を含む光学システムを示し、各素子は、位相空間の形状を変化させるが、その面積を変化させない、。位相空間の保持とは、Δxp
x項が一定であるため、ビームを拡大することによってより低い速度分布が得られることを意味する。なぜなら、Δxp
xは、式4におけるLp
*mv項に比例するからである。これらのより低い速度分布は、最終的には、一定の引出しフィールドに対して、比例して短いターンアラウンドタイムとなり得る。
【0052】
従って、より大きな位置分布Δxを空間的に収束させる能力をもつ直交加速式飛行時間質量分析計では、引出し領域の前にビームがさらに拡大され、引出し領域におけるフィールドが一定のままである場合には、ターンアラウンドタイムが減少し、これによって、より高い分解能が得られる。あるいは、引出し領域の前にビームが開口部によって切り取られる場合には、開口部のサイズを増加させることができ、ビームがさらに拡大されない場合には、同じ分解能について改善された伝送および感度が得られる。
【0053】
図6Aは、ワイリー/マクラーレン2段ソース、中間フィールドフリー領域および2段リフレクトロンを含む従来の飛行時間幾何学的配置を示す。
【0054】
図6Aに示される従来の飛行時間質量分析器についての典型的な空間収束アプローチは、
図7Aおよび
図7Bに例示される。幾何学的配置は、
図7Aに例示される対向する(opposing)1次項と共に2次収束を提供するように構成される。得られる残差は、3次項または1次項のそれぞれよりも、より低い絶対時間分布を有する(
図7B)。
【0055】
図6Bは、公知のワイリー/マクラーレン2段ソースが3段ソースに置き換えられた、本発明の好ましい実施形態を示す。ソースの第1段は、
図6Aに示される公知のワイリー/マクラーレン2段ソースの引出し領域と同じ引出しフィールドを有する。好ましい実施形態によると、幾何学的配置は、好ましくは、より高次の空間収束項を導入するように構成される。これらのより高次の空間収束項は、好ましくは、奇数乗(
図8Aを参照)を組合せて残差全体を最小限に抑え、また、偶数乗(
図8Bを参照)も組合せて残差全体を最小限に抑えるように配置される。組合せた残差は、
図8Cにおいて、
図7Bと同じスケール上でプロットされ、好ましい実施形態によると、どのように実質的に改善された空間収束が得られるのかを例示している。
【0056】
図8Cに例示される、好ましい実施形態による改善された空間フォーカスは、
図9に示されるビームの拡大を可能にする。
図9において、イオンビーム幅は、
図7Bと比較して1.5倍に拡大されているが、絶対時間分布は、同等である。一実施形態によると、より幅の広いビームにおけるイオンは、速度分布が低減されており、イオン検出器におけるイオン到達時間の分布の低減が可能になり、これによって分解能が向上する。
【0057】
図6Aおよび
図6Bに示される2つの異なる幾何学的配置を比較したシミュレーションを行った。好ましい実施形態による分解能の改善は、
図10に例示される。
【0058】
図10に示される破線のピークは、好ましい実施形態により得られる向上した分解能を示し、これは、幅が1.5倍で、それに比例してより低い速度分布を有するイオンビームを受け取る、好ましい3段ソースに対応する。分解能の向上は、実線のピークによって示される従来技術によって得られる分解能と比較される。垂直スケールは、比較用に正規化されているが、実際には、2つのピークの面積は同じである。
【0059】
このシミュレーションにおけるイオンビームの初期条件は、バッファガスの存在下での積層リングRFイオンガイド(「SRIG」)によって定義された。イオンは、通常、ビーム断面が1〜2mmであるガス分子の熱運動によりRF素子から排出される際、マクスウェルの速度分布を取る。
【0060】
速度分布のシミュレーションは、SIMION(RTM)および剛体球モデルを用いて実施された。剛体球モデルは、積層リングRFイオンガイドにおける残存ガス分子との衝突をシミュレートした。その後、これらのイオン条件を、異なる幾何学的配置のタイプについての入力ビームパラメータとして用いた。
【0061】
線形(1次)速度−位置相関関係の補正に用いられる原理と同様の原理を用いて、前引出し位相空間を、
図11に示されるように、非線形(>1次)奇数乗項を含むように配置することも可能である。これらのより高次の項は、絶対時間分布をさらに低減するより高次の奇数乗空間フォーカス項を補償するために用いられ得る。
【0062】
好ましい実施形態は、飛行時間質量分析器のソース領域に3またはそれ以上の段を設けることに関するが、ソースとリフレクトロンとの間の中間フィールドフリー領域内にさらなる加速領域または減速領域が設けられ得る他の実施形態も考えられる。さらなる加速領域、減速領域またはフィールドフリー領域にリフレクトロンが設けられ得る他の実施形態も考えられる。1つまたはそれ以上のさらなる領域がソース領域および/またはフィールドフリー領域および/またはリフレクトロン内に設けられる実施形態も考えられる。
【0063】
好ましい実施形態は、主に、4次空間的収束項および/または5次空間的収束項を導入するように配置および適合されるデバイスに関するが、6次および/または7次および/または8次および/または9次および/またはそれよりも高次の空間的収束項が導入され得るさらなる実施形態も考えられる。
【0064】
本発明を好ましい実施形態を参照しながら説明したが、形式および詳細の様々な変更が、添付の請求の範囲によって定義される発明の範囲から逸脱しないようになされ得ることは、当業者に明白であろう。