(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のシリンダー潤滑剤であって、アルコキシル化脂肪族アミンのBN(ASTM D−2896スタンダードに基づいて求められる)が、1グラムあたりの水酸化カリウム量で、120から500ミリグラムの範囲にある、シリンダー潤滑剤。
請求項1または2に記載のシリンダー潤滑剤であって、潤滑剤の全重量に対するアルコキシル化脂肪族アミンの質量パーセンテージは、この化合物により付与されるBNが、シリンダー潤滑剤の全BN(ASTM D-2896スタンダードに基づいて求められる)に対し、潤滑剤1グラム当たりの水酸化カリウム量で3から7ミリグラムの範囲となるように選択される、シリンダー潤滑剤。
【背景技術】
【0002】
2ストローククロスヘッドエンジンに使用される船舶用オイルには、二種類のタイプがある。一方のシリンダーオイルは、シリンダー/ピストン集合部材における潤滑を保証し、他方のシステムオイルは、シリンダー/ピストン集合部材以外の全ての可動部品の潤滑を保証する。シリンダー/ピストン集合部材においては、酸性ガスを含む燃焼残渣が潤滑オイルと接触する。
【0003】
酸性ガスは、燃料油の燃焼により形成される、具体的には、硫黄酸化物(SO
2,SO
3)などであり、これらは燃焼ガスまたはオイル中に含まれる水分によって加水分解される。加水分解により、亜硫酸(HSO
3)や硫酸(H
2SO
4)が生成する。
【0004】
ピストンライナーの表面を保護し、過剰な腐食摩耗を回避するためには、これらの酸を中和する必要がある。中和は通常、潤滑剤に含まれる塩基サイトとの反応により行われる。
【0005】
オイルの中和キャパシティは、オイルの塩基特性に依存する塩基価(BN)により測定される。BNは、ASTM D−2896スタンダードに基づいて測定され
、オイル1グラム当たり
の、水酸化カリウム
としての、ミリグラム単位の当量で表示される(mgKOH/g、BNポイントという呼び方もする)。BNを基準として、使用される燃料油の硫黄含有量に対する、シリンダーオイルの塩基性が調整され、燃料中に含まれ、燃焼と加水分解により硫酸に転化する可能性のある、全ての硫黄分を中和することができる。
【0006】
このように、燃料油の硫黄含有量が多いほど、船舶オイルのBNも高くしなければならない。そのため、5〜100mgKOH/gのBNを有する船舶オイルが市場で見受けられる。この塩基性は、不溶性の金属塩、特に金属炭酸塩によって過塩基化された清浄剤(detergents)により付与される。
【0007】
清浄剤は主に、陰イオンタイプ、例えば、サリチル酸塩、フェネート、スルホン酸塩、またはカルボン酸塩タイプの金属石鹸からなる。通常、過塩基化清浄剤は、標準的に、清浄剤1グラムあたり、150〜700mgKOH/gのBNを有する。潤滑剤に清浄剤が何質量%含まれるかは、所望のBNレベルの関数として特定される。
【0008】
BNの一部は、BN値が通常150未満となる、非過塩基化(中性)清浄剤により付与することもできる。しかしながら、船舶エンジン用のシリンダーオイルを製造する際、BNをすべて中性清浄剤で付与するのは好ましくない。その場合、中性清浄剤を多量に投与せねばならないために、潤滑剤の他の特性を劣化させる可能性があり、経済的観点からも現実的ではないからである。
【0009】
従って、過塩基化清浄剤の不溶性金属塩、例えば、炭酸カルシウムが、通常の潤滑剤のBNに大きく寄与することになる。シリンダー潤滑剤のBNの、少なくとも約50%、例えば75%が、このように不溶性の塩によって付与されると考慮される。
【0010】
残余のBNは、通常、中性清浄剤と過塩基化清浄剤の両方に見られる実際の清浄剤部分、または金属石鹸によって付与される。
【0011】
いくつかの地域、特に沿岸部の地域において、環境への配慮から、船舶に使用される燃料油中の硫黄含有量の制限が要求されている。
【0012】
かくして、IMO(国際海事機関)から発行されたMARPOL条約付属書(船舶からの大気汚染防止のための規則)が2005年5月に発効した。これは、重質燃料油の硫黄含有量について、4.5% m/mという上限を世界的に設けるとともに、SECAsと呼ばれる、硫黄酸化物排出制限区域を設けるものである。この区域に進入する船舶は、硫黄の含有量が最大値で1.5% m/mとなる燃料油を用いるか、SO
x排出量が特定の制限値に従うような代替手段を用いなければならない。なお、% m/mという表記は、化合物の含有量を、それが含まれる燃料油または潤滑組成物の全重量に対する質量%で示したものである。
【0013】
さらに近年、海洋環境保護委員会(MEPC)は2008年4月に会合を持ち、MARPOL条約付属規則6の改正案について合意した。それらの提案は、下記の表にまとめられている。委員会は、硫黄含有量の最大値に関する制限を厳格化し、2012年より世界的な上限を4.5%から3.5%に低下させる計画を提言している。また硫黄排出規制区域(SECAs)は、排出規制区域(ECAs)となり、硫黄の許容濃度を2010年より1.5% m/mから1.0% m/mに低下させるとともに、NO
xと粒子の含有量についても新な規制が設けられる。
【0014】
【表1】
【0015】
大陸間航路を航行する船舶では、すでにローカルな環境規制に準拠するいくつかの種類の重質燃料油を使用しており、航行にかかるコストを最適化している。この状況は、燃料油の硫黄含有量の最大許容値が最終目標に達したとしても継続するものと考慮される。
【0016】
従って、目下建造中のコンテナ船の多くは、一方で硫黄含有量の高い公海用燃料油に対応し、他方では硫黄含有量が1.5% m/m以下となるSECA用燃料油に対応するいくつかの燃料タンクを装備している。
【0017】
この二種類の燃料オイル間の転換は、エンジンの作動条件の適合化、特に適切なシリンダー潤滑剤の利用を必要とする可能性がある。
【0018】
目下、高硫黄含有量(3.5% m/m以上)の燃料油の存在下では、BNが70台の船舶用潤滑剤が用いられている。
【0019】
低硫黄含有量(1.5% m/m以下)の燃料油の存在下では、BNが40台の船舶用潤滑剤が用いられている。
【0020】
この二つのケースにおいて過塩基化清浄剤により、必要な塩基サイトの濃度に達すれば、十分な中和キャパシティを得ることができるが、燃料油を換える毎に、潤滑剤も換える必要がある。
【0021】
しかも、これらの潤滑剤の利用には、以下の理由により限度がある。低硫黄濃度(1.5% mm以下)の燃料オイルの存在下で、かつ所定の潤滑レベルにおいて、BN70のシリンダー潤滑剤の使用は、過剰の塩基サイトを多量に生成し(高BN)、不溶性の金属塩を含む未使用の過塩基化清浄剤のミセルを不安定化する危険がある。この不安定化により、主にピストンクラウン上に、不溶性の金属塩(例えば炭酸カルシウム)が沈着し、結果としてリニア研磨タイプの過剰な摩耗が生じる危険性がある。
【0022】
よって、低速2ストロークエンジンのシリンダーの潤滑を最適化するためには、燃料油とエンジンの駆動条件にあったBNを有する潤滑剤を選択する必要がある。この最適化は、エンジン駆動の自由度を失わせるとともに、あるタイプの潤滑剤から別のタイプの潤滑剤への入れ替えが必要となる条件を判断しうるだけの、高度の技術的な習熟度を船員に要求する。
【0023】
よって、運転を簡便化するためには、2ストローク船舶エンジン用のシリンダー潤滑剤として、高硫黄燃料油と低硫黄燃料油の両方と併用し得る、単一のシリンダー潤滑剤を得ることが望ましい。
【0024】
特に、過塩基化清浄剤にかわり、他の化合物でBNを付与する場合にも、中和すべき硫酸の量に比して過剰に存在する場合には、金属沈着物の生成を生じないように配合する必要がある。
【0025】
特許文献1(WO2009/153453)は、高硫黄燃料油及び低硫黄燃料油の両方とともに使用しうるシリンダー潤滑剤を開示している。この潤滑剤組成物は、BNが15以上であり、1以上の船舶エンジン用基油と、少なくとも1種の過塩基化清浄剤を、必要に応じ中性清浄剤と、1以上の油溶性脂肪族アミンとともに含む。脂肪族アミンは、潤滑剤に少なくとも10以上のBNポイントを付与し、過塩基化清浄剤は、最大で20のBNポイントを付与する。
【0026】
この潤滑剤組成物は、50台のBNを有し、酸の中和のカイネティクスについては、より大きなBN(通常70)を有し、特に高硫黄燃料油用に設計されたシリンダー潤滑剤と同様の効果を奏する。これらでは、過塩基化清浄剤の量が減らされているため、低硫黄含有量に対しても対応することができる。
【0027】
しかし、このタイプの組成物では、BN(少なくとも10mgKOH/g)のかなりの部分が脂肪族アミンによって付与される。この高レベルの脂肪族アミンは、確実に組成物に毒性を付与する。その上、熱的挙動(具体的には、下記に説明するECB test: Elf Coking Bench Testにおける沈着物生成能力で計測される)の劣化にもつながる。
【0028】
これらのオイルの抗摩耗能力にはさらに改善の余地がある。また、シリンダー中の滞留時間を通じてオイルの性能を維持する上でも、問題を生じる。
【0029】
特許文献2(FR2094182)は、0.001〜5%の酸中和促進剤、例えば、脂肪族ジアミンエトキシレート、および0.5〜100mgKOH/gのBNを付与するために十分な量のアルカリ土類金属炭酸塩を含む潤滑剤組成物を開示している。これらの炭酸塩は、フェネートまたはスルホン酸塩により、潤滑剤中に分散させることができる。
【0030】
これらの組成物において、実質的にすべてのBNがアルカリ土類金属炭酸塩によって付与される。アミン、清浄剤、金属炭酸塩のそれぞれによって付与されるBNの内訳については、何も記載されていない。また、これらの組成物においては、中性清浄剤の存在については、何ら記載されていない。
【0031】
これらの組成物が発揮する熱的挙動(特にECBTテストにおける堆積形成の能力で測定される)は平凡なものである。
【0032】
よって、高硫黄燃料油及び低硫黄燃料油の両方とともに使用でき、先行技術の潤滑剤に比して熱的挙動と耐摩耗効果が改善された、2ストローク船舶エンジン用シリンダー潤滑剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0034】
本発明は、高硫黄燃料油及び低硫黄燃料油の両方とともに使用でき、上記の欠点を改善しうる、2ストローク船舶エンジン用シリンダー潤滑剤組成物に関する。
【0035】
本発明の潤滑剤組成物は、限定された量のアルコキシル化脂肪族アミンと、これに組み合わされた特定の比率の中性清浄剤および過塩基化清浄剤を含んでいる。
【0036】
これらは、酸中和カイネティクスの観点から見れば、高硫黄燃料用に配合された、より高いBN(具体例としては70)を有するシリンダー潤滑剤と同様の効果を有し、過塩基化清浄剤の含有レベルの低さにより、低硫黄燃料に対しても適用することが可能である。
【0037】
本発明の組成物は、きわめて良好な耐摩耗特性を発揮し、先行技術の組成物に比べて良好な熱的挙動を示す。これらの組成物は、経時劣化に良好な耐性を示し、上記の特性を船舶エンジンのシリンダーにおける滞留時間を通じて保持することができる。
【0038】
本発明は2ストローク船舶エンジン用シリンダー潤滑剤であって、ASTM D−2896スタンダードに従って求められるBNが潤滑剤1グラムあたり、
水酸化カリウム15ミリグラム以上であり、
(a)1種以上の船舶エンジン用潤滑剤基油;
(b)金属炭酸塩で過塩基化された少なくとも一種の、アルカリ金属系またはアルカリ土類金属系の清浄剤;
(c)少なくとも一種の中性清浄剤;
(d)ASTM D−2896スタンダードに従って求められるBNが、1グラム当たりの
水酸化カリウムで100〜600ミリグラムとなる油溶性のアルコキシル化脂肪族アミン一種以上を含有するシリンダー潤滑剤であって、
潤滑剤の全重量に対するアルコキシル化脂肪族アミンの質量パーセンテージは、これによって付与されるBNが、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウムで2〜8ミリグラムの寄与を示すように選択され、金属炭酸塩によって付与されるBNは、シリンダー潤滑剤の全BN(ASTM D2896スタンダードで測定される)に対し最大で65%までの寄与を示す、潤滑剤に関する。
【0039】
好ましくは、本発明に係るシリンダー潤滑剤において、アルコキシル化脂肪族アミンのBN(ASTM D−2896スタンダードに基づいて求められる)は、1グラム当たりの
水酸化カリウムのミリグラム値で、120〜500であり、より好ましくは150〜400、より好ましくは200〜300である。
【0040】
本発明にかかるシリンダー潤滑剤において、潤滑剤の全重量に対するアルコキシル化脂肪族アミンの質量パーセンテージは、これによって付与されるBNが、ASTM D2896スタンダードに基づいて求められる、シリンダー潤滑剤の全BNに対し、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム3〜7ミリグラム、より好ましくは3.5〜5ミリグラムの寄与を示すように選択されることが好ましい。
【0041】
一実施形態において、本発明に係るシリンダー潤滑剤が有するBNは、ASTM D2896スタンダードに基づいて求められる数値で、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム量が、20ミリグラム以上、より好ましくは30ミリグラムを超え、さらに好ましくは40ミリグラムを超えることが好ましい。
【0042】
本発明に係るシリンダー潤滑剤は、ASTM D2896スタンダードに基づいて求められる数値で、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム55ミリグラム未満のBNを有することが好ましい。
【0043】
一実施形態において、本発明に係るシリンダー潤滑剤が有するBNは、ASTM D2896スタンダードに基づいて求められる数値で、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム40〜50ミリグラムの範囲、より好ましくは、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム42〜45ミリグラムの範囲にあることが好ましい。
【0044】
別の実施形態において、本発明に係るシリンダー潤滑剤が有するBNは、ASTM D2896スタンダードに基づいて求められる数値で、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム50〜55ミリグラムの範囲、より好ましくは、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウム51〜53ミリグラムの範囲にあることが好ましい。
【0045】
本発明に係るシリンダー潤滑剤において、金属炭酸塩によって付与されるBNは、シリンダー潤滑剤の全BNに対し、10%から60%の範囲、より好ましくは20%から55%の範囲、さらに好ましくは30%から50%の範囲の寄与を示すことが好ましい。
【0046】
好ましい一実施形態において、本発明のシリンダー潤滑剤における、油溶性のアルコキシル化脂肪族アミン一種または複数種は、パーム油、オリーブ油、ピーナツ油、標準またはオレイン酸質アブラナ油、標準またはオレイン酸質ひまわり油、大豆油または綿油、牛脂、パルミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などから得ることができる。
【0047】
本発明のシリンダー潤滑剤において、一種または複数種のアルコキシル化脂肪族アミンは、炭素数が16から18の脂肪酸より得ることが好ましい。
【0048】
特に好ましくは、本発明のシリンダー潤滑材において、一種または複数種のアルコキシル化脂肪族アミンは、下記の一般式(I)に該当する。
【0050】
ここで、
R
1は、エチレン、プロピレン、ブチレン、好ましくはエチレン基であり、
R
2は、12〜22の炭素原子、好ましくは16〜18の炭素原子を有する飽和または不飽和脂肪酸の脂肪鎖、好ましくはオレイン酸の脂肪鎖であり、
R
3は、2から3の炭素原子を有するアルキレン基であり、
qは、0または1で、qが0の時、pは0であり、
n、m、pは、0〜12の範囲、好ましくは0〜5の範囲、より好ましくは0〜2の範囲の整数であり、
n+m+pは、ゼロより厳密に大きく、好ましくは1〜15、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは3〜7、なお好ましくは3〜4の範囲にある。
【0051】
本発明のシリンダー潤滑剤において、アルコキシル化脂肪族アミン(一種または複数種)は、上記一般式(I)に該当し、かつ、そこで
・q=P=0であり、
・m+nは2から5、好ましくは3から4の範囲にあり、
・mとnはゼロではない、ことがなお好ましい。
【0052】
一実施形態によれば、本発明のシリンダー潤滑剤において、過塩基化清浄剤(b)および中性清浄剤(c)は、カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、フェネート(石炭酸塩)、および、これらの清浄剤の少なくとも二種を組み合わせた清浄剤から選択される。
【0053】
好ましい一実施形態によれば、本発明のシリンダー潤滑材において、少なくとも一種の過塩基化清浄剤(b)は、スルホン酸塩である。
【0054】
特に好ましい一実施形態によれば、本発明のシリンダー潤滑剤において、少なくとも一種の中性清浄剤(c)は、フェネートまたはスルホン酸塩、好ましくはフェネートである。
【0055】
一実施形態によれば、本発明に係るシリンダー潤滑剤はまた、以下に列挙される化合物から選択される一種以上を質量%で、0.1〜10%、好ましくは0.2〜2%、より好ましくは0.3〜1.5%、なお好ましくは0.4〜1%、特に好ましくは0.5〜1%含む。
・飽和または不飽和の、直鎖状または分岐鎖状で、少なくとも12の炭素原子、好ましくは12〜24の炭素原子、さらに好ましくは16〜18の炭素原子を有するアルキル鎖を有する、第1級、第2級、または第3級の脂肪族モノアルコール、好ましくは、飽和直鎖状のアルキル鎖を有する第1級モノアルコール、および
・少なくとも14の炭素原子を有するモノ脂肪酸と炭素原子数が最大で6のアルコールとのエステル。前記エステルは好ましくはモノエステル、ジエステルであり、さらに好ましくはモノアルコールのモノエステル、一方のエステル基の酸素側からカウントして最大で4炭素原子だけ、他のエステル基が離間したジエステル。
【0056】
好ましい一実施形態において、本発明に係るシリンダー潤滑剤は、ASTM D445に基づいて測定される、100℃における動粘度が12.5〜26.1cStの範囲、好ましくは16.3〜21.9cStの範囲にある。
【0057】
本発明はまた、2ストローク船舶用エンジンにおいて、硫黄含有量1.5% m/m未満の燃料油、および硫黄含有量が3.5% m/mを超える燃料油のいずれとともにも使用し得る、単一のシリンダー潤滑剤としての、上記潤滑剤の使用に関する。
【0058】
本発明はまた、2ストローク船舶用エンジンにおいて、硫黄含有量1% m/m未満の燃料油、および硫黄含有量が3% m/mを超える燃料油のいずれとともにも使用し得る、単一のシリンダー潤滑剤としての、上記潤滑剤の使用に関する。
【0059】
本発明はまた、2ストローク船舶用エンジンにおいて、0.1% m/mから3.5% m/mの範囲の硫黄含有量を有する燃料とともにも使用し得るシリンダー潤滑剤としての、上記潤滑剤の使用に関する。
【0060】
本発明はまた、硫黄含有量が4.5% m/m未満のいかなるタイプの燃料が燃焼する際にも、2ストローク船舶用エンジンにおける腐食を防止および/または不溶性金属塩の沈着物の形成を低減するための、上記潤滑剤の使用に関する。
【0061】
本発明はまた、ASTM D−2896スタンダードに基づいて求められるBNが、潤滑剤1グラム当たり、ミリグラム単位の
水酸化カリウムで、15以上、好ましくは20を超え、さらに好ましくは30を超え、有利には40をこえる潤滑剤作成のための、添加物の濃縮物(concentrate)に関し、前記濃縮物は、BNの範囲が180〜250であり、ASTM D-2896に基づいて求められるBNがアミン1g当たり
水酸化カリウム量で、100〜600mgとなるアルキル化脂肪族アミン一種以上を含み、濃縮物中における、前記アルキル化脂肪族アミンの質量パーセント濃度は、ASTM D-2896に基づいて求められる濃縮物1グラム当たりのミリグラム単位の
水酸化カリウム量で、10〜40、好ましくは12〜30、さらに好ましくは15〜25、通常20ミリグラム台のBN値を濃縮物に付与し得るように選択される。
【発明を実施するための形態】
【0063】
[発明の詳細な説明]
[アルコキシル化脂肪族アミンおよびその他の中和速度促進剤]
本発明に係る潤滑剤に使用される脂肪族アミンは、アルコキシル化脂肪族アミン、好ましくは、一以上の脂肪族鎖を有するモノアミンまたはジアミンである。
【0064】
これらの化合物は、固有の塩基性を有し、発明にかかる潤滑剤のBNに寄与する。本発明において使用されるアルコキシル化脂肪族アミンの固有BN値は、ASTM D-2896スタンダードに基づいて求められる値で、通常1グラム当たりの
水酸化カリウムが100〜600ミリグラムの範囲、好ましくは1グラム当たりの
水酸化カリウムが120〜500ミリグラムの範囲、さらに好ましくは1グラム当たりの
水酸化カリウムが150〜400ミリグラムの範囲、より好ましくは1グラム当たりの
水酸化カリウムが200〜300ミリグラムの範囲にある。
【0065】
これらは、(弱)陽イオンタイプの界面活性剤であって、極性頭部は、窒素原子およびアルコキシル化によって付与される1以上の酸素原子からなり、親油性部分は、(一または複数の)脂肪族鎖からなる。よって、界面活性剤としての特性を得るためには、好ましくはこの極性頭部は、互いに遠く離間していない(通常炭素原子2、3個分離れた)アミン基からなり、好ましくは数量が限定的であり(通常1または2のアミン基からなる)、好ましくは、限定的な数量、通常1から15、好ましくは2から10、より好ましくは3から7、さらに好ましくは3から4のアルキレン酸化物、好ましくは2〜4個の炭素原子を有するアルキレン酸化物によってアルコキシル化されている。これは、コンパクトな極性頭部の形成を可能とし、よってこれらのアルコキシル化脂肪族アミンの界面活性特性の形成を可能とする。
【0066】
その(弱)界面活性特性およびその(強)親油特性によって、これらの化合物は、オイル基質の液中で安定化し、本発明に係る潤滑剤中に存在する過塩基化清浄剤中の化学平衡をシフトさせる。よって、過塩基化清浄剤によって付与される塩基性サイト(不溶性金属塩)へアクセスしやすくなり、前記塩基性サイトによる硫酸中和反応がより効果的となる。
【0067】
アルコキシル化脂肪族アミンは、例えばFR2094182に記載されているような既知のアルコキシル化プロセスによって、NaOH、KOH、NaOCH
3などの塩基性触媒の存在下、例えば100〜200℃の温度範囲で、脂肪族アミンとアルキレン酸化物を接触させることにより得ることができる。
【0068】
出発物質としての脂肪族アミンは、主にカルボキシル酸より得られる。これらの酸はニトリルを製造するためアンモニアの存在下で脱水され、次いで第1級、第2級、または第3級アミンを製造するため接触水素化(catalytic hydrogentation)に付される。
【0069】
脂肪族アミンを得るための出発物質としての脂肪酸は、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、ヘンエイコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、リグノセリン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、ノナコサン酸、メリシン酸、ヘントリアコンタン酸、ラセロン酸、またはパルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、α―リノレン酸、β―リノレン酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸である。
【0070】
好ましい脂肪酸は、コプラ油、パーム油、オリーブ油、ピーナツ油、アブラナ油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、亜麻仁油、牛脂などの植物油または動物油中のトリグリセリドの加水分解により得られる。天然油は、オレイン酸質アブラナ油やオレイン酸質ひまわり油などのように、特定の脂肪酸を高濃度にするための遺伝子組み換えを経たものでもよい。
【0071】
本発明に係る潤滑剤のアルコキシル化脂肪族アミンを作製するために用いられる脂肪族アミンは、好ましくは、植物性または動物性の天然資源から得られる。天然オイルからの脂肪族アミンの製造を可能とする処理は、第1級、第2級、および第3級モノアミンとポリアミンの混合物を生じ得る。
【0072】
例えば、本発明に係る潤滑剤のアルコキシル化アミンを作製するために、部分的にまたは全体が下記の一般式を満たす脂肪族アミンを各種の割合で含有する製品を使用してもよい。
R
1NH
2、
R
1-NH-R、
R
1-NHCH
2-R、
R
1-[NH(CH
2)
3]
2-NH
2、
R
1-[NH(CH
2)
r]
q-NH
2
ここで、qは1以上の整数であり、好ましくは1から12の範囲、または1から5の範囲、または1から2の範囲にあり、rは2から3の範囲の整数であり、RとR
1は、出発物質オイルに存在する脂肪酸から得られる。
【0073】
これらの製品を、主に単一タイプのアミンを含む、例えば、主にモノアミンを含む、精製された形態で用いてもよい。
【0074】
式R
1NH
2の第1級モノアミンから構成される製品を用いると有利である。ここで、R
1は、例えば牛脂、または大豆油、またはココナツ油、または(オレイン酸化)ひまわり油などの天然資源から得られる複数の脂肪酸を表すものとできる。
【0075】
式R
1-[NH(CH
2)
3]-NH
2のジアミンから構成される製品も有利に用いることができる。ここで、R
1は、例えば牛脂、または大豆油、またはココナツ油、または(オレイン酸化)ひまわり油などの天然資源から得られる複数の脂肪酸を表すものとできる。
【0076】
また、精製された製品を用いてもよい。特に、オレイン酸から得られるアミン、特に式R
1NH
2の第1級モノアミンまたは式R
1-[NH(CH
2)
3]-NH
2のジアミンで、R
1がオレイン酸の脂肪鎖であるもの、を有利に用いることができる。
【0077】
本発明に係る潤滑剤のアルコキシル化アミンは、酸中和カイネティクスを促進するために、オイル基質中での溶解性が高くなければならない。
【0078】
この点に関し、これらは実際、オイル基質中に分散した酸の液的の直接的中和、および過塩基化清浄剤のミセルを不安定化して過塩基化清浄剤の塩基性サイトの効力を増進するという二通りの働きをする。
【0079】
アルコキシル化脂肪族アミンの溶解性は、まず、その脂肪鎖により得られる。これらのアミンは、含有するアルキレンオキサイドの数が限定されるほど、溶解性が高くなる。出願人はまた、窒素原子が第3級であれば(その場合、いかなるN-H結合も存在しない)、アルコキシル化アミン、好ましくは第3級窒素を有するモノアミンは溶解しやすくなることを見出した。よって、本発明に係る組成物においては、下記の式(I)のアルコキシル化脂肪族アミンを用いることが好ましい。
【0081】
ここで、R
1、R
2、R
3は上記の意味を有し、n、m、pはn+m+pが1から15の範囲となるゼロ以外の整数である。好ましい実施形態によれば、q=p=0で、m、nはm+nが1から5、好ましくは2から4の範囲となるゼロ以外の整数である。
【0082】
故に、これらのアルコキシル化アミンは、オイル基質中でよく分散され、溶解しているほど、効果的である。
【0083】
このように、本発明に係る潤滑剤の脂肪族アミンは、エマルジョンまたはマイクロエマルジョンの形態はとらず、オイル基質中によく分散している。故に、本発明に係る脂肪族アミンは、好ましくは少なくとも12の炭素原子、より好ましくは少なくとも14の炭素原子、さらに好ましくは少なくとも16の炭素原子、なお好ましくは少なくとも18の炭素原子から構成される脂肪族鎖を少なくとも1つ含むものであることが好ましい。
【0084】
驚くべきことに、出願人は、これらのアルコキシル化アミン、主にエトキシ化脂肪族モノアミン(好ましくは上記式(I)を満たし、p=q=0、m、nはゼロ以外の整数で、好ましくはm+nが1から5、好ましくは2から4の範囲となる)がそれらを含むシリンダー潤滑剤に顕著な耐摩耗特性を付与し得ることを見出した。
【0085】
しかし、これらが過剰な量で含有されている場合、これらを含む潤滑剤の熱的挙動特性は劣化する。
【0086】
(弱い)界面活性特性および(強い)親油特性を示す他の分子も、上記アルコキシル化脂肪族アミンとの組み合わせで用いることができる。これらの化合物は、潤滑剤による酸中和の速度を増加させる。
【0087】
これらは、溶液中、オイル基質中で安定化できるとともに、本発明に係る潤滑剤中に存在する過塩基化清浄剤中の化学平衡をシフトさせる。それゆえ、過塩基化清浄剤により付与される塩基性サイト(不溶性金属塩)により接触しやすくなり、この塩基性サイトによる硫酸の中和がより効果的となる。
【0088】
これらの化合物は含有量が質量%で、0.1から10%、好ましくは0.1から2%、より好ましくは0.1から2%、より好ましくは0.3から1.5%、さらに好ましくは0.4から1%、なお好ましくは0.5から1%の範囲で、アルコキシル化アミンとともに用いることができる。
【0089】
これらの具体例としては、第1級、第2級、または第3級の脂肪族モノアルコールであって、そのアルキル鎖が飽和または不飽和、直鎖状または分岐鎖状で、少なくとも12以上、好ましくは12から24、より好ましくは16から18の炭素原子を有する物を挙げることができる。
【0090】
これらはまた、少なくとも14の炭素原子を有し、最大で6の炭素原子を有するアルコールで構成された飽和モノ脂肪酸エステル、好ましくはモノエステルとジエステルから選択され、好ましくはモノアルコールモノエステル、および一方のエステル基の酸素側からカウントして最大で4炭素原子だけ、他方のエステル基が離間したジエステルであってもよい。
【0091】
[本発明に係る潤滑剤のBN]
本発明に係る潤滑剤のBNは、アルカリ金属系またはアルカリ土類金属系の過塩基化清浄剤、および一以上のアルコキシル化脂肪族アミンによって付与される。
【0092】
ASTM D−2896スタンダードに従って測定されるBN値は、潤滑剤の場合、0.5から100mgKOH/gの間で変化でき、これを超えてもよい。
【0093】
船舶エンジン用潤滑剤のBNは、それらの潤滑剤を使用する条件の関数として選択され、特にシリンダーにおいて前記潤滑剤とともに使用される燃料油の硫黄含有量に従って選択される。
【0094】
本発明に係る潤滑剤は、エンジン燃料に用いられる燃料油の硫黄含有量にかかわらず、シリンダー潤滑剤として好適に用いられる。
【0095】
それゆえ、本発明に係る2ストローク船舶エンジン用シリンダー潤滑剤は、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウムのミリグラム量で示されるBN
が15以上、好ましくは20を超え、より好ましくは30を超え、有利には40を超える値となる。
【0096】
好ましい実施形態によれば、本発明に係るシリンダー潤滑剤のBNは、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウムのミリグラム量で示される値で、55未満、通常40から55の範囲、好ましくは40から50の範囲、より好ましくは40から55、さらに好ましくは40から50、なお好ましくは42から45の範囲、典型例としては43台または44台の値となる。これは、従来技術における、特に低硫黄燃料油のみとともに用いられるシリンダー潤滑剤成分のBN(ここでは、実質的に全部のBNが過塩基化清浄剤によって付与される)と整合的である。
【0097】
他の好ましい実施形態においては、本発明に係る潤滑剤は、潤滑剤1グラム当たり
水酸化カリウムのミリグラム量で示される値で、50から55の範囲、典型的には51から53の範囲のBN値を有する。これは、従来技術において、特に低硫黄燃料油のみとともに用いられる従来成分のBN(ここでは、実質的に全部のBNが過塩基化清浄剤によって付与される)、および高硫黄燃料油とともに用いられる従来成分のBNとの中間的な値となる。
【0098】
本発明に係る潤滑剤のBNにおいて、アルコキシル化脂肪族アミンによって付与されるBNは、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウムのミリグラム量で示される値(またはBNポイント)で、2から8、好ましくは3から7、より好ましくは3.5から5の範囲である。
【0099】
アルコキシル化脂肪族アミンによって付与され、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウムのミリグラム量で示されるBN(またはBNポイント)が、本発明に係る潤滑剤のBNにおいて占める量は、ASTMD−2896スタンダードに基づいて測定されるその固有BN値と、調製済み潤滑剤におけるその質量%から、以下のように計算される。
BN
lub amine = x・BN
amine/100
ここで、BN
lub amine は、調整済み潤滑剤のBNに対するアミンの寄与、xは、調整済み潤滑剤におけるアミンの質量%、BN
amineは、アミン単体の固有BN(ASTM D−2896)である。
【0100】
本発明に係る潤滑剤のアルコキシル化アミンの固有BNは、100から600の範囲、このましくは120から500の範囲、より好ましくは150から400の範囲、さらに好ましくは200から300の範囲にある。
【0101】
従って、本発明に係る潤滑剤において、アルコキシル化脂肪族アミンは、全BN値の0.33%(BN600のアミンによる2BNポイントの付加)から8%(BN100のアミンによる8BNポイントの付加)、好ましくは全BN値の0.4%(BN500のアミンによる2BNポイントの付加)から6.7%(BN120のアミンによる8BNポイントの付加)、また好ましくは全BN値の0.43%(BN400のアミンによる2BNポイントの付加)から6.7%(BN150のアミンによる8BNポイン
トの付加)、また好ましくは全BN値の0.7%(BN300のアミンによる2BNポイントの付加)から4%(BN200のアミンによる8BNポイントの付加)の範囲のBNを付与する。
【0102】
アルコキシル化脂肪族アミンの含有量が一定値未満となると、酸中和カイネティクスにおいて何らの改良も得られない。
【0103】
他方、脂肪族アミンの高濃度での添加は、顕著な粘性の低下をもたらし、脂肪族アミンの最大限度%を超えると、多量の増粘剤を添加しない限り、シリンダー潤滑剤として使用される際に要求される粘性度を有する潤滑剤の調製が不可能となる。多量の増粘剤を添加した場合は、経済的観点から見て成分が現実的ではなくなり、潤滑剤の他の特性に対しても有害である。
【0104】
高濃度のアミンの添加は、また、毒性に係る問題を生じさせる。
【0105】
さらに、発明者は、高濃度のアルコキシル化アミンの添加は、熱的挙動の劣化に帰結することを見出している。
【0106】
過塩基化または非過塩基化清浄剤
本発明に係る潤滑剤組成物に用いられる清浄剤は、当業者に周知のものである。
【0107】
潤滑剤組成物の調整に一般的に用いられる清浄剤は、通常、長い脂肪族炭化水素鎖と親水性の頭部を持つ陰イオン化合物である。これに付属する陽イオンは、通常、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属イオンである。
【0108】
清浄剤は、好ましくは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属塩、カルボキシル酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、またフェネートから選択することが好ましい。
【0109】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属は、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、またはバリウムである。
【0110】
これらの金属塩は、金属をほぼ化学量論組成量で含むことができる。その場合、清浄剤は、依然、一定の塩基性を付与するもいのではあるが、非過塩基化、または「中性」の清浄剤と称される。これらの中性清浄剤は、通常、ASTM D2896に基づく測定値で、150mgKOH/g未満、ま
たは100mgKOH/g未満、または80mgKOH/g未満のBN値を有する。
【0111】
このタイプのいわゆる中性清浄剤は、本発明に係る潤滑剤のBNに一部寄与することができる。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えば、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、またはバリウムのカルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、フェネート、ナフテン酸塩などが用いられる。
【0112】
金属が過剰に(化学量論量を超える量で)存在する場合、扱われるものは、いわゆる過塩基化清浄剤である。これらのBNは、150mgKOH/g超えと高く、通常200から700mgKOH/gの範囲、一般的には250から450mgKOH/gの範囲である。
【0113】
清浄剤に過塩基化特性を付与する過剰な金属は、オイルに不溶性の金属塩、例えば炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、好ましくは炭酸塩の形態で存在する。
【0114】
同じ過塩基化清浄剤中において、これらの不溶性塩の金属は、油溶性の清浄剤の金属と同じものでもよく、異なるものでもよい。これらの金属は、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、バリウムなどから選択できる。
【0115】
よって、過塩基化清浄剤は、不溶性の金属塩からなるミセルの形態で存在し、油溶性の金属塩の形態の清浄剤によって、潤滑組成物中に懸濁されている。
【0116】
これらのミセルは、1以上のタイプの清浄剤によって安定化された1以上のタイプの不溶性金属塩を含むことができる。
【0117】
1タイプの可溶性清浄剤金属塩を含む過塩基化清浄剤は、通常後者の清浄剤の疎水鎖の特性に従って命名される。
【0118】
よって、これらは、清浄剤が石炭酸か、サリチル酸か、スルホン酸か、ナフテン酸かによって、フェネートタイプ、サリチル酸塩タイプ、スルホン酸塩タイプ、またはナフテン酸塩タイプと呼ばれる。
【0119】
ミセルに疎水鎖の特性が相互に異なる数種類の清浄剤が含まれる場合には、過塩基化清浄剤は混合タイプと呼ばれる。
【0120】
本発明に係る潤滑組成物中で使用するためには、油溶性の金属塩は、好ましくは、フェネート、スルホン酸塩、サリチル酸塩、フェネートとスルホン酸塩および/またはサリチル酸塩の混合物、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、またはバリウムのフェネートおよび/またはスルホン酸塩であり、より好ましくは、カルシウムのフェネートおよび/またはスルホン酸塩である。
【0121】
過塩基化特性を付与する不溶性の金属塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩であり、好ましくは炭酸カルシウムである。
【0122】
本発明に係る潤滑組成物に用いられる過塩基化清浄剤は、好ましくは、炭酸カルシウムによって過塩基化されたフェネート、スルホン酸塩、サリチル酸塩、フェネートスルホン酸塩―サリチル酸塩清浄剤であり、好ましくは炭酸カルシウムによって過塩基化されたスルホン酸塩とフェネートである。
【0123】
[本発明に係る潤滑剤中で、清浄剤により付与されるBN]
本発明に係る潤滑剤中で、BNの一部は過塩基化清浄剤の不溶性金属塩、特に、金属炭酸塩により付与される。
【0124】
金属炭酸塩により付与されるBN(あるいは炭酸塩BN、BN
CaCO3)は、過塩基化清浄剤単独について、および/または最終製品の潤滑剤について、実施例1に記載の方法に従って分析される。過塩基化清浄剤においては、通常、金属炭酸塩により付与されるBNは、過塩基化清浄剤単独の全BNの50〜95%を示す。
【0125】
一定の中性清浄剤は、一定量(過塩基化洗浄剤よりもごく少ない)の不溶性金属塩(カルシウム炭酸塩)を含有し、これら自体も炭酸塩BNに寄与することは注意すべきである。
【0126】
本発明に係る潤滑剤では、潤滑剤の全重量に対する過塩基化(および中性)清浄剤の質量パーセンテージは、金属炭酸塩により付与されるBNが、前記シリンダー潤滑剤の(ASTM D−2896に基づく)全塩基価の最大65%、好ましくは最大60%の寄与を示すように選択される。
【0127】
実際、シリンダー潤滑剤の全BNに対する炭酸塩BNの寄与が大きすぎる場合、潤滑剤の熱的挙動に顕著な劣化が認められる。
【0128】
これらの不溶性金属塩は、その上、潤滑剤中で安定したミセルとして分散状態が保たれている場合、好ましい耐摩耗性効果を有する(駆動中に中和されるべき硫酸の量に対し、これらが過剰にみられる場合には、そのかぎりではない)。
【0129】
よって、本発明の潤滑剤においては、不溶性金属塩(カルシウム炭酸塩)による付与される炭酸塩BNは、好ましくは潤滑剤の全BN(ASTM D−2896)の好ましくは10%から60%、より好ましくは20から55%、より好ましくは30%から50%の範囲にある。
【0130】
よって、BN(ASTM D−2896)が潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウム量で、通常40ミリグラム台から50ミリグラム台、典型的には45ミリグラム台となる本発明に係る潤滑剤に対し、過塩基化清浄剤の不溶性金属塩により付与されるBNの寄与は、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウム量で20から25ミリグラム台、典型的には、潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウム量あるいは「BNポイント」で22から24ミリグラムである。
【0131】
なお、基本的にフェネート、スルホン酸塩、またはサリチル酸塩タイプの金属石鹸からなる実際の清浄化剤もまた、本発明に係る潤滑剤のBNに寄与する。
【0132】
よって、ASTM D2896に従って測定される、本発明に係る潤滑剤のBNは数種類の別箇の成分を含み、それらは少なくとも以下を含む:
1)修飾語をつけて「炭酸塩BN」または「BN
CaCO3」と呼ばれ、下記実施例1記載の方法により測定される、過塩基化清浄剤の不溶性金属塩により付与されるBN;
2)以下により付与され、ASTM D−2896による潤滑剤の全BNとその炭酸塩BNの差として測定される残余のBN(以下、「有機BN」と呼ぶ)。
・過塩基化清浄剤および場合によって中性清浄剤の金属石鹸、
・アルコキシル化脂肪族アミン(このアミンBNは、ASTM D−2896により測定されるアミンのBNと脂肪族アミンの質量パーセンテージの関数として求められる)。
【0133】
[基油(ベースオイル)]
一般的に、本発明に係る潤滑剤の作製に用いられる基油は、鉱物油でもよく、合成油でもよく、あるいは植物油でもよく、またはこれらの混合物でもよい。
【0134】
本願で用いられる鉱物油または合成油は、以下の表にまとめられるAPI分類に定義されるクラスの一つに属する。
【0136】
グループIの鉱物油は、ナフテン系原油、パラフィン系原油の蒸留と、溶媒抽出、溶媒脱ロウ、または接触脱ロウ、水素化精製、水素添加等の方法による蒸留物の精製により、得られる。
【0137】
グループIIとグループIIIのオイルは、より厳密な精製法、例えば、水素化精製、水素化分解、水素添加と接触脱ロウの組み合わせにより得ることができる。
【0138】
グループIV、Vにおける合成基油の例には、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリブテン、ポリイソブテン、及びアルキルベンゼンが含まれる。
【0139】
これらの基油は、単独でまたは、混合物として用いることができる。鉱物油を合成油を組み合わせてもよい。
【0140】
2ストローク船舶ディーゼルエンジン用のシリンダーオイルは、SAE−40からSAE−60、一般にSAE−50の粘度を有し、これは100℃での動粘度16.3から21.9mm
2/sに相当する。
【0141】
グレード40のオイルは、100℃において12.5から16.3cStの動粘度を有する。
【0142】
グレード50のオイルは、100℃において16.3から21.9cStの動粘度を有する。
【0143】
グレード60のオイルは、100℃において21.9から26.1cStの動粘度を有する。
【0144】
工業的な実施では、100℃における動粘度が18から21.5、好ましくは19から21.5 mm
2/s (cSt)となる、2ストローク船舶ディーゼルエンジン用シリンダーオイルを配合することが好ましい。
【0145】
この粘度は、添加物と例えばグループIの鉱物性基油を含む基油の混合、例えば中性溶剤(例えば500NSまたは600NS)とブライトストック基油(Bright Stocj Bases)の混合により得ることができる。また他のいかなる鉱物系や合成系の基油、植物起源の基油の組み合わせで、添加物との混合によりSAE50のグレードに相当する粘度が得られるものを用いることができる。
【0146】
通常、低速の2ストローク船舶エンジン用のシリンダー潤滑剤はSAE40からSAE60、好ましくはSAE50(SAE J300の分類法による)の粘度グレードを有し、少なくとも50重量%の、船舶エンジンでの使用に適した、鉱物および/または合成起源の潤滑性基油、例えばAPI分類のグループIの基油、すなわち、選択された原油の蒸留と、溶媒抽出、溶媒または接触脱ロウ、水素化精製、または水素添加などの方法による蒸留物の精製によって得られる基油を有する。これらの粘性指数(VI)は80から120であり、これらの硫黄含有量は、0.03%より多く、飽和炭化水素量は90%未満である。
【0147】
典型的には、低速2ストローク船舶エンジン用のシリンダー潤滑剤の標準的な配合は、潤滑剤の全重量に対し、18から25重量%のBBSタイプのグループI基油(100℃での動粘度がおよそ30mm
2/s、典型的には28から32mm
2/s、15℃での密度が895から915kg/m
3となる蒸発残渣)、潤滑剤の全重量に対し50から60重量%となるSN600タイプのグループI基油(15℃での密度が880から900kg/m
3の範囲、100℃での動粘度がおよそ12mm
2/sとなる蒸留物)を含む。
【0148】
[分散剤添加物]
分散剤は、潤滑剤組成物、特に船舶分野で用いられる潤滑剤組成物の配合に用いられるよく知られた添加物である。それらの一次的な役割は、潤滑剤組成物中に元から存在するか、または現れる粒子を懸濁状態に保つことにある。これらは、立体障害の作用をなして、粒子の凝集を阻害する。またこれらは中和において相乗効果を与える。
【0149】
潤滑剤の添加物として用いられる分散剤は、典型的には、比較的長い(通常50から40の炭素原子を含む)炭化水素鎖をともなう極性基を含む。極性基は、典型的には、窒素、酸素、またはリン元素のすくなくとも一種を含む。
【0150】
コハク酸から得られる化合物は、特に潤滑性添加物として用いられる分散剤である。特に、無水コハク酸とアミンの凝縮から得られるスクシンイミド、および無水コハク酸とアルコールまたはポリオールの凝縮により得られるコハク酸エステルが用いられる。
【0151】
これらの化合物は、例えば、ホウ酸化スクシンイミド、または亜鉛ブロックスクシンイミドを製造するために、各種の化合物、特に硫黄、酸素、ホルムアルデヒド、カルボキシル酸、およびホウ素または亜鉛を含有する化合物とともに処理される。
【0152】
アルキルに置換されたフェノール、ホルムアルデヒド、および一次または二次アミン基の複合凝縮で得られるマンニッヒ塩基もまた、潤滑剤において分散剤として用いられる化合物である。
【0153】
本願発明の実施形態によれば、少なくとも0.1質量%の分散剤添加物、典型的には0.5から2%、典型的には1から1.5質量%の分散剤が用いられる。例えば、ホウ酸化または亜鉛ブロック化したPIBスクシンイミドのファミリーから選択される分散剤を用いることができる。
【0154】
[他の機能性添加剤]
本発明に係る潤滑剤の配合は、また使用に適したいかなる機能性添加剤も含むことができる。例えば、清浄化剤の効果に対抗するための発泡防止添加剤(例えばポリメチルシロキサン、ポリアクリレートなどの極性ポリマー);抗酸化剤および/または防錆剤(例えば有機金属清浄剤またはチアジアゾール)を含有してもよい。後者は、当業者に知られている。これらの添加物は通常、0.1から5重量%の含有量で存在する。
【0155】
本発明によれば、記載される潤滑剤の組成は、混合前の化合物について記載しているが、これらの化合物が混合の前後で同じ化学形態を保つものもあれば保たないものもあることには留意すべきである。好ましくは、個別に化合物の混合により得られる本発明に係る潤滑剤は、エマルジョンまたはマイクロエマルジョンの形態にはない。
【0156】
船舶用潤滑剤用の添加物濃縮物
本発明に係る潤滑剤に含有されるアルコキシル化脂肪族アミンは、特に、個別の添加剤として潤滑材に導入することができる。しかし、これらはまた、複数の添加物の濃縮物として船舶用潤滑剤に導入してもよい。
【0157】
船舶用シリンダー潤滑剤用の標準的な添加物濃縮物は、通常、上記の構成物、清浄剤、分散剤、他の機能性添加物、蒸留前基油などの混合物として構成され、各成分はシリンダー潤滑剤の基油に希釈された後に、ASTM D−2896スタンダードにより求められるBNが、潤滑剤1グラムあたりの
水酸化カリウムミリグラム数で、15以上、好ましくは20より大、好ましくは30より大、有利には40ミリグラムより大となるような割合で配合される。
この混合物は、通常濃縮物の全重量に対し、重量%として、清浄剤含有量が70%より多く、好ましくは80%より多く、好ましくは90%より多く、分散剤添加物含有量が2から15%、好ましくは5から10%、他の機能性添加剤の含有量が0から5%、好ましくは0.1から1%である。この濃縮物のASTMD−2896で測定されるBNは、通常濃縮物1グラム当たりの
水酸化カリウム量で、250から300ミリグラム、典型的には275ミリグラム台である。
【0158】
本発明の主題はまた、ASTM D−2896に従って求められるBNが潤滑剤1グラム当たりの
水酸化カリウムミリグラム量で、15以上、好ましくは20より大きく、好ましくは30より大きく、有利には40より大きいシリンダー潤滑剤を準備するための、添加物濃縮物に関する。この濃縮物は180から250の範囲のBNを有し、ASTM D−2896によるアミン1グラム当たりの
水酸化カリウム量が100から600mgとなるBNを有するアルコキシル化脂肪族アミンを一以上含有し、濃縮物中でのアルコキシル化脂肪族アミンの質量%は、ASTM D−2896スタンダードにより求められるBNが、濃
縮物1グラム当たりの
水酸化カリウムミリグラム数で、10から40ミリグラム、好ましくは12から30ミリグラム、好ましくは15から25ミリグラム、典型的には20ミリグラム台のBNを濃縮物に付与するように選択される。
【0159】
本発明に係る濃縮物のアルコキシル化脂肪族アミンは上記に説明され、下記の実施例にも記載される。
【0160】
本発明に係る濃縮物は、また、微量(典型的には0から5質量%の範囲)ではあるが、添加剤濃縮物の利用を容易にするに十分な基油を含むことができる。
【0161】
本発明に係る濃縮物は、本発明に係るシリンダー潤滑剤を得るために、基油または基油の混合物により4倍から5倍に希釈される。
【0162】
本発明はまた、本発明に係るシリンダー潤滑剤の調製方法に関し、かかる濃縮物を一以上の基油、好ましくはグループIの基油に、濃縮物がシリンダー潤滑剤中で20から30質量%、典型的には25質量%台となるよう、混合する段階を含む。
【0163】
[従来の比較潤滑剤と本発明に係る潤滑剤の機能差の測定]
この測定は、実施例に詳細に記載されるエンタルピー試験方法に従って測定される、中和効率指数で特徴づけられ、該試験では、塩基性サイトを含む潤滑剤が硫酸の存在下におかれた際の温度上昇によって、発熱中和反応がモニターされる。
【0164】
本発明は、記述され示される実施例や実施形態に限定されず、技術分野の者が試み得る多様な変形が可能であることはもちろんである。
【実施例】
【0165】
[実施例1]
この実施例は、過塩基化清浄剤中の不溶性金属塩が、該過塩基化清浄剤を含有する潤滑剤組成物のBNに及ぼす寄与の測定を可能とする方法を記述することを目的とする。
【0166】
完成品としての潤滑性オイルまたは過塩基化清浄剤の全塩基価(BNまたは塩基数と呼ぶ)の測定は、ASTM D2896法を用いて行われた。このBNは、以下の2つの異なる形を含んでいる。
・炭酸塩BN(以下「BN
CaCO3」と記載):金属炭酸塩(一般的には炭酸カルシウム)による清浄剤の過塩基化により付与される。
・いわゆる有機BN:本質的にフェネート、サリチル酸塩、またはスルホン酸塩タイプの清浄剤の金属石鹸により付与される。
【0167】
以下BN
CaCO3と記載される炭酸塩BNは、下記の手法により、完成品のオイルまたは過塩基化清浄剤単体について測定される。後者は、サンプルの(カルシウム)炭酸塩による過塩基化を硫酸で攻撃するという原理に基づく。この炭酸塩は、下記の反応により二酸化炭素に転換される。
【0168】
【化3】
【0169】
反応容器の容積一定の条件下で、CO
2の増加に比例して圧力は上昇する。
【0170】
方法:
示差圧力計を設置したストッパーを備える容積100mlの反応容器に、BN
CaCO3を測定する製品を、示差圧力計の測定限界(600mbの圧力上昇)を超えないように必要量秤量する。この量は、
図2のグラフから求められる。図では、製品の各質量(図の右から左へ1から10グラム)について、示差圧力計で求められる圧力(CO
2の放出に起因する圧力上昇に対応する)がサンプルのBN
CaCO3の割合の関数として示されている。BN
CaCO3の結果が未知の場合には、適量、およそ4g程度の製品を秤量する。すべての場合について、サンプルの質量(m)を記載する。
【0171】
反応容器は、パイレックス(登録商標)、ガラス、ポリカーボネート等からなるものであってもよい。あるいは、容器内部の温度が、周囲の媒質との熱平衡に到達するよう、周囲の媒質との熱交換を促進する、他のいかなる材料からなるものであってもよい。
【0172】
少量のSN600タイプの流体基油を小さな棒磁石を収納する反応容器に導入する。濃硫酸約2mlを、この段階では媒質を撹拌しないよう注意しつつ、反応容器に導入する。
【0173】
ストッパーと圧力計の組立体を反応容器にねじ込む。スクリューねじを潤滑してもよい。完全に密閉されるように、締め付ける。
【0174】
撹拌を開始し、圧力が安定化し、温度が周囲の媒質と平衡に到達するまえで継続する。時間は30分で十分である。圧力Pの上昇と、周囲の温度σ(
oC)を記載する。
組立体は、ヘプタンタイプの溶剤で洗浄する。
【0175】
[計算方法]
圧力計算のため、理想気体の式PV=nRTを用いる。
Pを、CO
2の分圧(Pa)(1Pa=10
−2mb)、
Vを、容器の容積(m
3)、
R=8.32(J)、
Tを、T=273+σ(℃)で示される絶対温度(
oK)、
nを、放出されるCO
2のモル数とすると、下記の式が得られる。
【0176】
【数1】
【0177】
CO
2のモル数の計算
m* 炭酸塩BNは等価KOH量(mg)
、
mは、製品の質量(グラム)、
炭酸塩BNは、1グラム当たりの等価KOH量(mg)として、放出されるCO
2のグラム量、すなわちCO
2のモル数は下記の式で表される。
【0178】
【数2】
【0179】
【数3】
【0180】
炭酸塩BNの関数としての、CO
2分圧の計算式
【0181】
【数4】
【0182】
CO
2の分圧から炭酸塩BNを計算する式
【0183】
【数5】
【0184】
試験条件にリンクされる値を固定することにより、簡略化した式が得られる。
PCO
2は、示差圧力計のミリバール単位の読取値、P読取値、
Vは、容器の立方メータ単位の容積、0.0001、
Rは、R=8.32(J)、
Tは、273+σ(℃)で示される絶対温度(
oK)、σは読み取られる周囲温度、
mは、容器に導入される製品の質量として、下記の式が成り立つ。
【0185】
【数6】
【0186】
【数7】
【0187】
結果として、mgKOH/gで示されるBN
CaCO3が得られる。
清浄剤の金属石鹸により付与されるBN(有機BNとも呼ぶ)は、ASTM D2896による全BNと測定されるBN
CaCO3の差として得られる。
【0188】
[実施例2]
本実施例は、潤滑剤の硫酸に対する中和効率を計測可能とするエンタルピーテストを記述することを目的とする。
【0189】
2ストローク船舶エンジン用潤滑剤に含まれる塩基性サイトの、酸分子に対する利用可能性あるいはアクセス可能性は、中和の速度またはカイネティクスを観察する動的試験によって定量できる。
【0190】
[原理]
酸塩基中和反応は、通常発熱的であり、テストされる潤滑剤と硫酸の反応により得られる熱の放出を測定することが可能である。この熱放出は、デュワー型の断熱反応器における温度の経時変化により監視できる。
【0191】
測定に基づき、本発明に係る潤滑剤を比較例として用いられる潤滑剤に対する効率を定量する指数、および中和されるBNの数を示す酸の添加量を計算することができる。テストされる潤滑剤のBNは好ましくは、添加される酸の中和に要するBNに対し、過剰に存在することが好ましい。例えば、下記の実施例に示されるBN70の添加剤をテストするためには、BNポイント55の中和量に相当する酸を用いる。
【0192】
よって、効率指数は、数値100の対照オイルに対比して計算される。これは、対照オイルの中和反応時間(S対照値)と測定されるサンプルの中和反応時間(S測定値)との比として計算される。
中和効率指数=S対照値/S測定値×100
【0193】
この中和反応時間は、数秒のオーダーであるが、中和反応時に時間の関数としてえられる温度上昇曲線から求めることができる(
図1のカーブ参照)。
【0194】
ここで、反応時間Sは、反応終結時の時刻と反応開始時の時刻の差、tf-tiとして求めることができる。
【0195】
反応開始時の温度に対応する時刻t
iは、撹拌開始後の温度上昇が始まる時点に対応する。
【0196】
反応終結時の温度に対応する時刻t
fは、それ以後は、温度信号が反応時間の半分以上にわたって安定となる時刻である。
【0197】
潤滑剤は、反応時間が短く、指数が高くなるほど効率が高い。
【0198】
[使用装置]
反応器、攪拌機の寸法、作動条件等は、化学的に、油相の拡散抑制効果が無視しうる範囲となるように選択される。
【0199】
従って、使用される装置構成においては、流体の深さは、反応器の内径に等しくなるべきであり、ヘリカル攪拌機が流体の底部から1/3程度の箇所に設置されるべきである。
【0200】
装置は、シリンダータイプの300ml断熱反応器からなり、内径は52mm、内部の高さは185mm、螺旋状の斜め刃をそなえた、直径22mmの撹拌棒を備える、刃の直径はデュワーフラスコの直径の0.3から0.5倍、すなわち15.6〜26mmである。
【0201】
螺旋の位置は、反応容器の底から15mmの位置に置かれた。撹拌システムは、10〜5000rpmの可変モーターで駆動した。装置は、温度の経時変化測定システムも備えていた。
【0202】
このシステムは、5から20秒程度の反応時間、20℃から35℃、好ましくはおよそ30℃からの数十℃の温度上昇の測定に適したものである。温度測定システムの位置は、デュワーフラスコ中で固定された。
【0203】
撹拌システムを制御し、反応が化学反応の範囲内で生じるように制御した。本実施例の構成では、回転速度は2000rpmとし、システムの位置は固定した。
【0204】
反応の化学範囲は、また、デュワーフラスコに注入されたオイルの深さ(これはフラスコの直径と同じとなるべきである)にも依存し、これは実施例の条件では、試験される潤滑剤の質量約86gに対応する。
【0205】
BN70の潤滑剤を試験するためには、BNポイント55の中和に対応する量の酸を反応器に導入する。
【0206】
BN70の潤滑剤を試験するため、試験対象の潤滑剤85.6gと、95%濃硫酸41.3gを反応器に導入した。
【0207】
酸と潤滑剤がよく混ざり、2つのテスト間で条件を再現しうるように撹拌装置を反応器内に設置した後、化学範囲内での反応を監視すべく、撹拌を開始した。温度測定装置は常設していた。
【0208】
[エンタルピー試験の実施−較正]
上記の方法を用い、本発明に係る潤滑剤の効率指数を計算するため、本発明に係る脂肪族アミンを含まない、BN70(ASTM D−2896による測定で)の2ストローク船舶エンジンシリンダーオイルを中和反応の対照例として用いた。
【0209】
このオイルは、15℃での密度が880〜900Kg/m
3の蒸留物と、密度895から915Kg/m
3の蒸留残渣(ブライトストック)を蒸留物/蒸留残渣の比が3となるよう混合して得た鉱物性基油である。
【0210】
BNが400mgKOH/gの過塩基化スルホン酸カルシウム、分散剤、BNが250mgKOH/gの過塩基化石炭酸カルシウムを含む濃縮物をこの基油に添加した。このオイルは、特の高硫黄含有量の燃料との併用に適した中和容量、すなわち、3%あるいは3.5%のS比を有していた。
【0211】
対照潤滑剤は、この濃縮物を25.50質量%含有していた。そのBN70は、専ら、濃縮物中の過塩基化清浄剤(過塩基化フェネートと過塩基化スルホン酸塩)により付与されるものである。
【0212】
この対照潤滑剤は、100℃での粘度が18から21.5mm
2/sとなる。
【0213】
このオイルの中和反応時間(以下Hrefと記載)は、10.59秒であり、その中和反応指数を100とした。
【0214】
[実施例3:潤滑剤組成物]
下記の化合物から数種類の潤滑剤組成物を準備した。
・20cSt台のKV100と、225から240cSt台のKV40を組成物に付与するためのグループI基油、
・中性フェネート清浄剤
・過塩基化フェネート清浄剤
・過塩基化スルホン酸塩清浄剤
・エトキシ化オレイン酸モノアミン
・オレイルプロピレンジアミン
・脂肪族アルコール(C16からC18の脂肪鎖を有する脂肪族モノアルコールの混合物)
【0215】
調整された組成物のそれぞれについて、全BNがASTM D−2896に従って測定され、炭酸塩BNが実施例1記載の方法で測定され、中和効率指数が実施例2記載の方法によって測定された。
【0216】
またこれらの組成物の耐摩耗特性が、Falex摩耗試験(μm単位で摩耗を測定する)に従って測定された。摩耗点数が小さいほど耐摩耗特性はすぐれている。
【0217】
この試験には、ピンと複数のブロックを有する、Falex製のトライボメータを用いる。試験される潤滑剤は、容器の中に配置され、容器は所望の温度まで加熱される。ブロックは、チャックに固定された顎部とピンの間隙におかれる。ピン−ブロック集合体は、油槽の中に沈められる。固定値(本実施例では3760N)の負荷が顎部と空気圧シリンダーにより、ピン−ブロック集合体に加えられる。シリンダーに付設した距離計が、常時両顎部の間隔を測定し、これにより、ピンとブロックの摩耗を測定する。この摩耗は記録され、最終的な摩耗結果が試験結果として報告される。
【0218】
また、これらの組成物の熱的挙動を連続ECBT試験により測定した。ここでは、所定条件下で生じた沈着物の質量(mg)を測定した。この質量が小さいほど、熱的挙動は優れている。
【0219】
この試験は、船舶用潤滑剤の熱的安定性と清浄化特性の両方のシュミレーションを可能とするものである。この試験には、ピストン形状のアルミニウム製ビーカーを用いる。これらのビーカーは、ガラス容器内に配置され、60℃台の制御温度に保持される。潤滑剤は、容器内に配置され、容器に付属する金属ブラシが、部分的に潤滑剤に沈められる。このブラシは、1000rpmの速度で回転され、潤滑剤をビーカーの内面に散布する。ビーカーは熱電対で制御される電気抵抗加熱器により310℃に保持される。
【0220】
使用した方法(連続ECBTと呼ばれる)では、テストには12時間を要し、その間、潤滑剤の散布は連続的に行われた。結果として得られるのは、ビーカーに付着した沈着物の重量である。
【0221】
この試験の詳細な説明は、「ELF ANTAR フランスにおける船舶用潤滑剤の研究と開発−実用時の性能の試算における室内実験の適合」、ジャンーフィリップ ローマン、船舶推進カンファレンス2000(MARINE PROPULSION CONFERENCE 2000)、アムステルダム、2000年3月29−30日に記載されている。
【0222】
組成物B、F、G、Hは本発明に係る組成物であり、それらのBNは43から44程度であった。
【0223】
これらの中和効率は対照例とした、高硫黄含有燃料と併用しうるBN70のシリンダーオイルと同等または、より高いことが認められた。よって本発明に係る組成物は、例えば、硫黄含有量が4.5%m/mの燃料とともに、2ストローク船舶エンジン用のシリンダーオイルとして利用できる。このように可能となった過塩基化清浄剤(従って、不溶性金属塩含有量)の低減は、また、1.5%m/m台の低い硫黄含有量の燃料とともに、2ストローク船舶エンジン用のシリンダーオイルとして利用できる。
【0224】
アルコキシル化アミンを含まない組成物A、Cと比較すると、本発明に係る組成物では耐摩耗性の大きな向上が認められた。
【0225】
アミンにより付与されるBNが高い(BNポイントが10から15程度なる)組成物DとEにおいては、本発明に係る組成物に比べ、熱的挙動の劣化が認め
られた。
【0226】
炭酸塩により付与されるBNのパーセンテージが高い(70%台またはそれを超える)組成物I、J、Kにおいては、本発明に係る組成物に比し、熱的挙動の劣化が認められた。
【0227】
よって、本発明に係る組成物は、優れた耐摩耗性と熱挙動特性を保持しつつ、高硫黄燃料、低硫黄燃料の両方とともに使用され得る中和効率を持つという利便性を有している。
【0228】
【表3】
【0229】
[実施例4]
本発明に係る他の組成物について、実施例3と同様の条件で実験を行った。これらの潤滑剤組成物は、以下の化合物より調整した。
・グループI基油と、グループII基油の混合物:組成物Lに20cSt台のKV100と、225から240cSt台のKV40を付与するために用いる。
・中性カルボン酸清浄剤(組成物M)、
・過塩基化フェネート清浄剤と、過塩基化炭酸塩清浄材の混合物(組成物N)、
・ビス(2−ヒドロキシエチル)ココアルキルアミン(組成物O):下記の表2の割合に従って添加される。
・組成物L、N、Oに用いた中性清浄剤は、実施例3に用いたものと同じである。
・組成物L、M、Oに用いた過塩基化清浄剤は、実施例3に用いたものと同じである。
【0230】
本発明に係る組成物LからOは、基油の使用(組成物L)、中性清浄剤の使用(組成物M)、過塩基化清浄剤の使用(組成物N)、エトキシル化アミンの使用(組成物O)にかかわりなく、良好な中和効率、良好な耐摩耗性、良好な熱挙動特性を有することが認められた。
【0231】
【表4】