(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914684
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】MEMSバックプレート、MEMSバックプレートを備えたMEMSマイクロフォン、およびMEMSマイクロフォンの製造方法
(51)【国際特許分類】
H04R 19/04 20060101AFI20160422BHJP
H04R 31/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
H04R19/04
H04R31/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-540328(P2014-540328)
(86)(22)【出願日】2011年11月14日
(65)【公表番号】特表2014-533465(P2014-533465A)
(43)【公表日】2014年12月11日
(86)【国際出願番号】EP2011070067
(87)【国際公開番号】WO2013071950
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2014年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン ライフ ステーン
(72)【発明者】
【氏名】ラフンキルデ, ヤン トゥ
(72)【発明者】
【氏名】ロンバッハ ピルミン
(72)【発明者】
【氏名】ラスムッセン クルト
(72)【発明者】
【氏名】モーテンセン, デニス
【審査官】
松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−243768(JP,A)
【文献】
特開2010−098454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/04
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMSマイクロフォン(MM)であって、
MEMSバックプレート(BP)と、
基板(SU)と、
メンブレン(M)と、
アンカー部材(AE)とを備え、
前記MEMSバックプレート(BP)は、中央領域(CA)と、当該中央領域(CA)における穿孔部(PF)と、当該中央領域(CA)を少なくとも部分的に包囲するサスペンション領域(SUA)と、当該サスペンション領域(SUA)における複数の開口部(AS)とを備え、
前記メンブレンMは、前記基板(SU)と前記アンカー部材(AE)との間に配設されており、
前記MEMSバックプレートの前記サスペンション領域(SUA)は、前記アンカー部材(AE)に結合されており、
前記複数の開口部(AS)のそれぞれは複数の開口(AP)を備え、
前記MEMSバックプレートの前記複数の開口部(AS)のそれぞれは、前記アンカー部材(AE)内に配設されている複数のキャビティ(CV)のそれぞれの上に配設されている、
ことを特徴とするMEMSマイクロフォン。
【請求項2】
前記サスペンション領域(SUA)が前記中央領域(CA)を完全に包囲していることを特徴とする、請求項1に記載のMEMSマイクロフォン。
【請求項3】
前記サスペンション領域(SUA)は、複数の開口(AP)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載のMEMSマイクロフォン。
【請求項4】
前記開口部(AS)は、隣接する開口部(AS)に対して等間隔に配設されていることを特徴とする、請求項3に記載のMEMSマイクロフォン。
【請求項5】
MEMSマイクロフォンの製造方法であって、
基板(SU)を準備するステップと、
前記基板(SU)上のメンブレン(M)をパターニングするステップと、
前記メンブレン(M)上のアンカー部材(AE)をパターニングするステップと、
前記アンカー部材(AE)上のバックプレート(BP)をパターニングして、バックプレートの中央領域(CA)において穿孔部(PF)を形成し、前記バックプレート(BP)のサスペンション領域(SUP)において開口(AP)を形成するステップと、
前記開口(AP)より下の区域の前記アンカー部材(AE)の材料を除去するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
前記アンカー部材(AE)の材料は、VHFエッチング環境を用いて除去されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSバックプレートと、寄生容量が低減されたMEMSバックプレートとに関し、またこのようなマイクロフォンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMSマイクロフォンは、通常、導電性のバックプレートと、このバックプレートから距離を置いて配設された導電性の可撓性膜とを備えている。このバックプレートおよびメンブレンは、コンデンサの電極となっている。バイアス電圧がこれらの電極に印加されると、受信した音響信号信号により生じたメンブレンの振動が電気信号に変換される。さらなる信号処理のために、MEMSマイクロフォンは、ASIC(Application-specific Integrated Circuit)チップを備えてよい。
【0003】
このようなマイクロフォンは、中央部に、音響的活性領域およびサスペンション領域を有する。この中央領域は、音響的に不活性なサスペンション領域で包囲されている。このサスペンション領域内には、バックプレートおよび/またはメンブレンを、機械的および/または電気的に接続するサスペンション手段が、基板材料の上に配設されている。MEMSマイクロフォンを構築するために、層の堆積、フォトレジストフィルムの堆積、フォトレジストフィルムのパターニング、およびパターニングされた層の部分的除去のような半導体デバイスの製造プロセスが用いられてよい。サスペンション手段が必要であるということから、コンデンサは、その中央領域から離れた、マイクロフォンの信号品質を劣化させる音響的不活性領域を有する。この劣化は、寄生容量によるものである。これに対応した信号の減衰H
cは式(1)のようになり、
H
c=C
m/(C
m+C
i+C
p) ... (1)
ここでC
iは、電気信号の処理に適合したASICの入力容量である。C
pは、寄生容量すなわちこのコンデンサの音響的不活性領域の容量である。C
mは、中央領域の容量とサスペンション領域の容量とを含む全容量である。寄生容量を低減することは、信号の劣化を低減することになり、したがってマイクロフォンの信号品質を改善することになる。
【0004】
C
pは主に、音響的に不活性な、サスペンション領域とメンブレンのサスペンション領域に重なるバックプレートの領域に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の課題は、寄生容量が低減されたMEMSマイクロフォンに用いることができるMEMSバックプレートを提供することであり、寄生容量を低減したMEMSマイクロフォンおよびこのようなマイクロフォンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、独立請求項は、MEMSバックプレート、MEMSマイクロフォン、およびこのようなマイクロフォンの製造方法を提供する。従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を記載する。
【0007】
MEMSマイクロフォンは、
MEMSバックプレートと、基板と、メンブレンと、アンカー部材とを備える。このMEMSバックプレートは、中央領域と、この中央領域
における穿孔部と、サスペンション領域と、このサスペンション領域
における複数の開口
部とを備える。このサスペンション領域は、上記の中央領域を少なくとも部分的に包囲している。
メンブレンは、基板とアンカー部材との間に配設されている。MEMSバックプレートのサスペンション領域は上記のアンカー部材に結合されている。上記の複数の開口部のそれぞれは複数の開口を備える。上記のMEMSバックプレートの複数の開口部のそれぞれは、上記のアンカー部材内に配設されている複数のキャビティのそれぞれの上に配設されている。
【0008】
ここでは、「穿孔部」なる表現は、中央領域における(複数の)穴のことであり、「開口」とはMEMSバックプレートのサスペンション領域における(複数の)穴のことである。これらの種類の穴はともに、正方形パターンまたは六角形パターンのような規則的パターンあるいは不規則なパターンで配設されてよい。規則的パターンの穴に加えて、格子位置に不規則に穴を追加することも可能である。このような追加の穴はより大きな穴であっても、より小さな穴であってもよい。開口は穿孔部の穴より大きくてよく、あるいはその逆であってもよい。この開口が穿孔部の穴と同じ大きさの穴を有することも可能である。
【0009】
望ましくない寄生容量は、バックプレートの音響的不活性領域すなわちサスペンション領域とメンブレン領域との総計に依存する。さらに、コンデンサ容量は、これらの電極の間の誘電率に依存する。
【0010】
バックプレートのサスペンション領域の開口は、音響的に不活性ではあるが電気的に活性なバックプレートの導電性領域の総計を低減し、対応するMEMSマイクロフォンの信号品質を改善する結果となる。
【0011】
このサスペンション領域は、このサスペンション領域における2つ以上たとえば複数の開口を備えてよい。
【0012】
このようなMEMSバックプレートが、対応するMEMSマイクロフォンの寄生容量を低減すること、またバックプレートのサスペンション領域は低減するが、機械的に安定なマイクロフォンが得られることが見出された。
【0013】
さらに、バックプレートのサスペンション領域における開口部が、機械的安定性を維持しつつ、さらに寄生容量が低減されたMEMSマイクロフォンの製造方法を可能とすることが見出された。
【0014】
1つの実施形態においては、このサスペンション領域は、中央領域を完全に包囲している。次に、対応するMEMSマイクロフォンの最適な機械的安定性を可能とするMEMSバックプレートが設けられる。
【0015】
このMEMSマイクロフォンおよび/またはこれに対応するメンブレンは、円形または楕円形の形状を有して良い。さらにこのMEMSバックプレートおよびメンブレンが、矩形または正方形の形状を有することも可能である。
【0016】
1つの実施形態においては、このサスペンション領域は複数の開口を備える。
【0017】
1つの実施形態においては、このMEMSバックプレートは、開口部に含まれる複数の開口を備える。このように、これらの開口は開口部に集中しており、このサスペンション領域の他の部分は開口を備えておらず、これらに要求された安定したサスペンションのための機械的剛性を保持している。
【0018】
このようにして、MEMSバックプレートは電気的容量および機械的安定性に関して最適化されることができる。
【0019】
1つの実施形態においては、MEMSバックプレートは、隣接する開口部と等間隔に配設された開口部を有する。こうしてこれらの開口部は、サスペンション領域内で対称的なパターンで配設することができる。
【0020】
MEMSマイクロフォンは、上記のバックプレートを1つ備えてよい。このマイクロフォンはさらに、基板と、メンブレンと、アンカー部材とを備えてよい。このメンブレンは、基板とアンカー部材との間に配設されている。このバックプレートのサスペンション領域は、上記のアンカー部材に結合されている。
【0021】
1つの実施形態においては、アンカー部材は結合部を備える。MEMSバックプレートのサスペンション領域は、複数の開口部を備え、各々の開口部は少なくとも1つの開口を備えている。アンカー部材の結合部は、バックプレートのサスペンション領域に結合されている。次に、バックプレートの開口部が、アンカー部材内のキャビティの上に配設される。サスペンション領域の開口部の対称的な配置に対応して、これと同じ対称性で、ただしこれらの開口部のパターンから相対的にオフセットされて、結合部材が配設されてよい。
【0022】
このアンカー部材内にキャビティを設けることによって寄生容量が低減されることが見出された。このアンカー部材は誘電体材料から成っていてよい。この寄生容量は、このアンカー部材の誘電率に依存する。このキャビティ内にアンカー部材の誘電体材料が無いことで、これより、この寄生容量はアンカー部材の材料より小さな、真空あるいは大気としての誘電率を有する。このアンカー部材は、まだバックプレートのサスペンション領域に結合されている結合部を備えているので、機械的に安定なマイクロフォンが得られる。
【0023】
このように、1つの実施形態においては、これらのキャビティはアンカー部材内に配設されている。
【0024】
MEMSマイクロフォンの製造方法は、以下のステップを備える。
−基板を準備するステップ。
−この基板上のメンブレンをパターニングするステップ。
−このメンブレン上のアンカー部材をパターニングするステップ。
−このアンカー部材上のバックプレートをパターニングして、バックプレートの中央領域において穿孔部を形成し、このバックプレートのサスペンション領域において開口を形成するステップ。
−これらの開口より下の区域のアンカー部材の材料を除去するステップ。
【0025】
このようにして、これらの開口は、バックプレートのサスペンション領域内で、コンデンサの電気的に活性な領域を低減するだけでなく、寄生容量を低減することになる。これらの開口はさらに、これらが、MEMSマイクロフォンの製造中にこの開口の穴を通して、このアンカー部材の材料を除去することを可能とするので、アンカー部材内でキャビティを形成することを可能とする。
【0026】
これらの開口部より下のアンカー部材の材料を除去する間に、バックプレートとメンブレンとの間のアンカー部材の材料を除去することが可能である。
【0027】
この方法の1つの実施形態においては、アンカー部材の材料はVHF(Vapor Hydro-Fluoric)エッチング環境を用いて除去される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の基本的アイデアと実施形態が以下の概略図に示される。
【
図1】MEMSマイクロフォンの上面を示し、断面Aおよび断面Bの位置を示す図である。
【
図4】キャビティを備えたアンカー部材を示す図である。
【0029】
図1は、MEMSマイクロフォンMMの上面を示す。このマイクロフォンMMは、その上にバックプレートBPが配設された基板SUを備える。バックプレートBPは、中央領域CAとサスペンション領域SUAとを備える。このサスペンション領域SUAは、中央領域CAを包囲している。この中央領域CAは、バックプレートBPの音響的活性領域である。これに対しサスペンション領域SUAは音響的不活性部であり、その式(1)の寄生容量C
pの寄与のために、一般的にマイクロフォンの信号品質を劣化させる。しかしながら、このバックプレートBPは、サスペンション領域SUA内に開口部ASを備えている。これらの開口部ASは、
図3に示すように複数の開口を備えている。これらの開口部ASにおける開口のために、音響的不活性部であるが電気的に活性なサスペンション領域SUAが低減される。このようにして寄生容量C
pが低減される。
【0030】
さらに、これらの開口部ASにおける開口は、さらに寄生容量が低減されたMEMSマイクロフォンを形成することを可能とする。これは1つの製造ステップの間に、この開口部の開口を経由して、バックプレートBPより下のアンカー部材の材料を除去することができるからである。これが断面A,Bを示す
図2Aおよび
図2Bに示されている。
【0031】
この開口部ASは、それらの隣接する開口部ASに対して等間隔に配設されている。
【0032】
図2Aは、
図1の断面Aを示す。このMEMSマイクロフォンは、基板SU上に配設されているメンブレンMを備える。アンカー部材AEは、メンブレンM上に配設されている。バックプレートBPは、このアンカー部材AE上に配設されている。このアンカー部材AEの結合部CSは、バックプレートBPのサスペンション領域SUAに結合されている。このようにして、バックプレートBPとマイクロフォンの本体との間の機械的に安定した結合が得られる。バックプレートBPの音響的活性領域の穿孔部PFは複数の穴を備える。
【0033】
図2Bは、
図1の断面Bを示す。断面Bは、サスペンション領域SUA内の開口部ASを横断する。
【0034】
開口部ASは、複数の開口APを備える。
図2Aに示す、この開口APの下のアンカー部材AEの材料が除去される。こうして開口部ASの下の(複数の)キャビティCVが得られる。これに対応して、空気や真空より大きな誘電率を有する誘電体材料がこれらのキャビティCV内で空気または真空と交換されるので、寄生容量が低減される。
【0035】
図3はバックプレートの縁部の拡大図を示す。穿孔部PFは、複数の穴HOを備える。
穴HOは6角形のパターンで配設されている。しかしながら、矩形または正方形のような他のパターンあるいは非規則的なパターンも可能である。開口部ASは、複数の開口APを備える。この開口部AS、およびこれより開口APは、たとえばアンカー部材AEを介してバックプレートBPをMEMSマイクロフォンの本体に結合する結合手段として機能するサスペンション領域SUA内に、配設されている。
【0036】
開口部AS内の開口APもまた、6角形、3角形、矩形のパターンまたは非規則的パターンで配設されてよい。この開口部AS自体は、円形、矩形、正方形または不規則な形状であってよい。
【0037】
穿孔部の穴HOは、上記の開口部内の開口より大きくてよく、あるいはこの逆であってもよい。これらの開口APと穿孔部PFの穴HOとは同じサイズであってもよい。
【0038】
これらの開口APおよび穴HOは、同じ製造ステップの間に形成することが可能である。
【0039】
図4はキャビティCVを備える円形形状のアンカー部材AEを示す。これらのキャビティCVは、アンカー部材AEの平均誘電率を低減し、寄生容量C
pを低減する。キャビティCVの位置およびサイズは、機械的安定性と低減される寄生容量とに関して同時に最適化することができる。
【0040】
MEMSバックプレート、MEMSマイクロフォン、またはこのようなマイクロフォンの製造方法は、本明細書またはこれらの図に記載した実施形態に限定されない。さらなるパターニングされた部材を備えるバックプレート、さらなる層を備えるマイクロフォン、およびさらなる製造ステップを備えるマイクロフォンの製造方法が本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
A:アンカー部材の中空でない部分を通る断面
AE:アンカー部材
AP:開口
AS:開口部
B:開口部を通る断面
BP:バックプレート
CA:中央領域
CS:結合部
CV:キャビティ
HO:穿孔部PFの穴
M:メンブレン
MM:MEMSマイクロフォン
PF:穿孔部
SU:基板
SUA:サスペンション領域