(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5914744
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】水田用水位調整装置、ダム機構および田んぼのダム化方法
(51)【国際特許分類】
A01G 25/00 20060101AFI20160422BHJP
E02B 13/02 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
A01G25/00 501A
E02B13/02 F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-248279(P2015-248279)
(22)【出願日】2015年12月21日
【審査請求日】2015年12月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511095089
【氏名又は名称】アゼックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126402
【弁理士】
【氏名又は名称】内島 裕
(72)【発明者】
【氏名】川田 勝儀
【審査官】
木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−120510(JP,A)
【文献】
特開2011−160685(JP,A)
【文献】
実開昭56−068025(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3136112(JP,U)
【文献】
実開昭49−057415(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00
E02B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置して前記一対の側壁に縦溝を設け、前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、かつ、水田側とは反対側に開放して前記略コ字状をなす向きで前記縦溝に挿嵌することにより、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出する水田用水位調整装置。
【請求項2】
排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置し、
前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構であって、
前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、前記一対の側壁に設けた縦溝に挿嵌されることにより、前記ダム板に取り付けられた切替装置のストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態では、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出し、
前記切替装置のストッパーにより前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態では、前記水田水を前記排水穴から排出するダム機構であって、
前記ダム板の水田側とは反対側の板面に設けられる前記切替装置は、上方先端が略直角に曲げられた棒状体の前記ストッパーと、一対の上部係止具および下部係止具と、前記ストッパーを上下方向に移動可能としつつ前記ダム板から離間しないように押さえる複数の押さえ具とを備え、前記ストッパーの前記上方先端が前記上部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも高い位置にあり前記ストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態となり、前記ストッパーの前記上方先端が前記下部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも低い位置にあり前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態となるダム機構。
【請求項3】
排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記水位調整板より背高に形成し、下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板を、前記後壁と前記水位調整板との間に配設し、前記ダム板に取り付けられた切替装置のストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態では、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出し、
前記切替装置のストッパーにより前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態では、前記水田水を前記排水穴から排出する水田用水位調整装置であって、
前記ダム板の水田側とは反対側の板面に設けられる前記切替装置は、上方先端が略直角に曲げられた棒状体の前記ストッパーと、一対の上部係止具および下部係止具と、前記ストッパーを上下方向に移動可能としつつ前記ダム板から離間しないように押さえる複数の押さえ具とを備え、前記ストッパーの前記上方先端が前記上部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも高い位置にあり前記ストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態となり、前記ストッパーの前記上方先端が前記下部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも低い位置にあり前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態となる水田用水位調整装置。
【請求項4】
排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置して前記一対の側壁に縦溝を設け、前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、かつ、水田側とは反対側に開放して前記略コ字状をなす向きで前記縦溝に挿嵌し、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出する田んぼのダム化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水位調整器に田んぼダム機構を持たせることにより水田をダム化し、また水田水の放出を抑制して下流側の水害を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水田は稲の生育時期に応じて水位を調整する必要があることから、水位調整器(水位調整桝ともいう。)を畦に設置している。水位調整器には種々のものが知られているが、一例として、桝本体内に土圧を受ける受圧板と、受圧板が圧接することで高さ位置が規制される水位調整板とから構成されている技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4817159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、異常気象が常態化して各地で局地的豪雨に見舞われる事象が起きている一方、山林の保水力が低下していることから土砂の流出や水害の多発が問題化している。そこで、水田の貯水能力を降雨時にダムとして機能させ、また水田に降る雨が一度に流下して下流側に水害や土砂流災害が起きることを防止する田んぼダムによる災害の発生防止を目的とする技術が求められている。
【0005】
しかし、従来の水位調整器は水田の水位調整が目的で、水田に大量の雨が降った場合の対応について考慮していないため、水田に降った大量の雨は水位調整板を越流させて桝本体の排水穴から放出させており、排水穴の放出量が対応できない場合には桝本体から畦に溢れさせているのが現状である。
【0006】
そして、田んぼに貯水能力を持たせてダムとして機能させるとしても、従来の水田用水位調整器では雨水を貯留して少しずつ放出する構成にはなっていない。このため、大雨の場合は、水位調整板を最大限引き上げて高くする、別途長い板を水位調整器に設置するといった対応しかできないのが現状である。
しかし、降雨時の作業は危険が伴うこと、面倒であるとしてダム化に非協力的な人や兼業農家のように不在の人もいることから実効性が担保されないという問題がある。
そこで、水田をダム化する提案がなされており、一例として堰板の片側に咬ませをして片方を浮かせ三角形状の開口から排水する方法がある。しかし、水田水を一次貯留して少しずつ放出する構成ではないため、水の放出量の設定が面倒であるといった問題点がある。
【0007】
本発明の目的は、畦に設置する水位調整器に低コストでガタつきが少なく強度のあるダム機構を組み合わせ、水田水を一旦貯留して少しずつ放出することで田んぼの貯水量を増加して田んぼをダム化し、また放水量を抑制して水害を防止することができる水田用水位調整装置、ダム機構および田んぼのダム化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の水田用水位調整装置は、排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置して前記一対の側壁に縦溝を設け、前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、
かつ、水田側とは反対側に開放して前記略コ字状をなす向きで前記縦溝に挿嵌することにより、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出する。
【0009】
このように構成することにより、
(1)畦に設置する水位調整器に田んぼダム機構を設けることにより、水田に雨水を貯えるダム機能を持たせ、かつ貯留する水を少しずつ放出するようにしたので下流側の水害を防止するし、水田を水害の防止に有効活用することができる。
(2)水位調整器にダム機構を一度組み付けるだけで、工事を行うことなく田んぼダム機能を簡単に、安価に、また長年に亘り持たせることができる。
(3)ダム機構をコストを安く、簡単に製作するためには、平板状のダム板のみにすれば手間も掛からず簡単にできる。しかし、この平板状のダム板を現状の水位調整器の溝に収納したとしても、厚み寸法が小さいので、水圧に耐えることができる強度が得られない。また、溝の厚み寸法と平板状のダム板の厚み寸法に差があり余裕がありすぎる(例えば、溝は20mm、平板状のダム板は3mm、余裕は17mmなど。)とガタつきが発生し、寄せては返す水田水の微振動による金属疲労により平板状のダム板が劣化破損する可能性がある。これらの問題を解決するために、ダム機構を平板状のダム板の両側面を折り曲げたような形状の、平面視で略コ字状に形成して、本体の強度を増し、ガタつかずに使えるようにした。なお、溝の厚み寸法を小さく(例えば5mm程度まで)することも考えられるが、コンクリート製桝の製法では難しく、手間やコストが掛かる。
(4)ダム機構は、平面視で略コ字状としたから、材料の分量も最小限で済み低コスト化を図れ、製作作業も安価であり、水位調整器の縦溝に嵌装することで簡単に組み付けることができる。
(5)水位調整板とダム機構という本来的にはそれぞれ異なる機能を有している2つの別体のものを水位調整器に収納して一体型で提供しているので、農家も面倒なくダム化に取り組むことができる。
(6)水位調整器にダム板からなるダム機構を一度組み付けることでダム化できるから、大雨予報があっても見回りをする必要がない、降雨時の危険な作業を不要にできる、多忙な農家等の負担を軽減する、水田をダム化することに消極的な農家が実施する割合が増加する、といった多くの利点がある。
【0010】
本発明のダム機構は、排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置し、
前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構であって、
前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、前記
一対の側壁に設けた縦溝に挿嵌されることにより、
前記ダム板に取り付けられた切替装置のストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態では、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出
し、
前記切替装置のストッパーにより前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態では、前記水田水を前記排水穴から排出するダム機構
であって、
前記ダム板の水田側とは反対側の板面に設けられる前記切替装置は、上方先端が略直角に曲げられた棒状体の前記ストッパーと、一対の上部係止具および下部係止具と、前記ストッパーを上下方向に移動可能としつつ前記ダム板から離間しないように押さえる複数の押さえ具とを備え、前記ストッパーの前記上方先端が前記上部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも高い位置にあり前記ストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態となり、前記ストッパーの前記上方先端が前記下部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも低い位置にあり前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態となる。
【0011】
本発明の第2の水田用水位調整装置は、排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記水位調整板より背高に形成し、下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板を、前記後壁と前記水位調整板との間に配設し、前記ダム板に取り付けられた切替装置のストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態では、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出し、
前記切替装置のストッパーにより前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態では、前記水田水を前記
排水穴から排出する水田用水位調整装置
であって、
前記ダム板の水田側とは反対側の板面に設けられる前記切替装置は、上方先端が略直角に曲げられた棒状体の前記ストッパーと、一対の上部係止具および下部係止具と、前記ストッパーを上下方向に移動可能としつつ前記ダム板から離間しないように押さえる複数の押さえ具とを備え、前記ストッパーの前記上方先端が前記上部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも高い位置にあり前記ストッパーによる規制が解除され前記ダム板の下端部が前記底板に当接した状態となり、前記ストッパーの前記上方先端が前記下部係止具に係合するときは、前記ストッパーの下端は前記ダム板の下端よりも低い位置にあり前記ダム板の下端部が前記排水穴より高い位置に規制された状態となる。
【0012】
本発明の田んぼのダム化方法は、排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置して前記一対の側壁に縦溝を設け、前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、
かつ、水田側とは反対側に開放して前記略コ字状をなす向きで前記縦溝に挿嵌し、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、畦に設置する水位調整器に、低コストでガタつきが少なく強度のあるダム機構を組み合わせ、水田水を一旦貯留して少しずつ放出することで田んぼの貯水量を増加して田んぼをダム化し、また放水量を抑制して水害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における水田用水位調整装置の斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態におけるダム機構の斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態における水田用水位調整装置の平面図である
【
図4】本発明の第1の実施の形態における水田用水位調整装置の断面図である
【
図5】本発明の第1の実施の形態における切替装置の例を示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態における切替装置の変形例を示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態における蓋体の例を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態における水田用水位調整装置の斜視図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態におけるダム機構の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施の形態の水田用水位調整装置を
図1乃至
図6を参照しつつ説明する。
【0016】
水田用水位調整器1は、桝本体2と、受圧板3と、水位調整板4と、ダム機構5と、切替装置10とから構成されている。
【0017】
桝本体2はコンクリート製であり、底板2Aと、底板2Aの幅方向両端に起立した一対の側壁2Bと、一対の側壁2Bに幅方向両端を連結して底板2Aの後端に起立した後壁2Cと、後壁2Cに設けられた直径約150mmの排水穴2Dと、一対の側壁2Bの内面に対向して縦方向に設けられたガイド溝2Eと、ガイド溝2E´の位置に対応して底板2Aの上面に設けられた受圧板支持溝2Fとから構成されている。
【0018】
受圧板3は、桝本体2の略下半分に設置されており、平板からなる板本体3Aの上端側に後向きに係止ストッパー3Bを突設した形状からなり、幅方向両端側をガイド溝2Eに嵌入し、下端を受圧板支持溝2Fに嵌合している。
【0019】
水位調整板4は、受圧板3の上方に位置して桝本体2に挿装されており、平板からなる板本体4Aと、板本体4Aの下端側に突設し、係止ストッパー3Bと接離する係合ストッパー4Bと、板本体4Aの上端に前向きに突設した操作用突状部4Cとからなり、幅方向両端側をガイド溝2Eに摺動可能に嵌入してあり、係合ストッパー4Bが係止ストッパー3Bに当接する状態を上限として昇降することで水位調整を行うようになっている。
【0020】
ダム機構5は、アルミニウム製又は繊維強化合成樹脂製などであり、ダム板6と一対の支持体7とを備え、水田用水位調整装器1の後壁2Cと水位調整板4との間に設けられ、幅方向両端側をガイド溝2E´に嵌入し、下端を底板2Aの上面に当接している。
ダム板6は、水位調整板4を最も引き上げた場合の上端4Dより背高の高さ寸法に設定した平板からなる板体6Aの下端側に直径約50mmの放水穴6Bが形成されている。なお、放水穴6Bの直径は上記数値に限定されるものではなく、後壁2Cの排水穴2Dより小径で、排水穴2Dからの排水量よりも放水穴6Bからの放水量が少なくして貯留槽8に水田水を貯留することができる寸法であればよい。
一対の支持体7は、ダム板6の幅方向両端にダム板6と併せた平面視において略コ字状をなすように設けられている。一対の支持体7はダム板6と同じ高さ寸法である。
略コ字状であるので、後述する略H字状と比較して必要な部材の量が低減され、コストダウンのメリットがある。
なお、ダム機構5は、水田用水位調整器1に組み込まれて一体として、水田用水位調整装置として販売されても、ダム機構5単体で販売されて既存の水田用水位調整器1に組み込んで使用することであってもいずれの態様でもよい。
【0021】
ダム機構5には、切替装置10が付設されている。切替装置10は、例えば、
図5に示すように上方先端が略直角に曲げられた棒状体(ストッパー)10Aと、一対の上部係止具10Bと、下部係止具10Cと、押さえ具10D、10Eから構成されている。棒状体10Aの上方先端が上部係止具10Bに係合している場合は、ダム機構5は規制されておらず、一方で、棒状体10Aの上方先端が下部係止具10Cに係合している場合は、棒状体10Aの下部がつっかえ部となり、ダム機構5は配置位置を上方に移動するように規制される。すなわち、切替装置10の棒状体10Aによる規制が解除されダム機構5の下端部が底板2Aに当接した状態では、水田水を放水穴6Bから少しずつ排出し、切替装置10Aの棒状体10Aによりダム機構5の下端部が排水穴2Dの上端より高い位置に規制された状態では、水田水を排水穴2Dから排出する。
その他、切替装置10は、
図6に模式的に例示するように種々の公知の仕組みにより実現可能である。
また、切替装置10は、ダム機構5のダム板6の田んぼ側と反対側の面に付設されていると、農家等が畦から手を伸ばして容易に切替作業を実施することができる。
【0022】
例えば、溝切りなどで水田水をすべて排出する際には、切替装置10でダム機構5の配置位置を上方に移動してダム機構5の下方をすべて開放する。すると桝本体2の直径の大きい排水穴2Dから水田水は直接排水され短時間で効率的に排水することができる。
切替装置10がない場合には、ダム機構5を外して一旦、畦に置いておくことが必要となり、紛失や邪魔になったり、傷んだりすることが考えられるが、そのような不都合が回避される。
溝切りの後、そのまま冬季などで水田を使用しない場合には、切替装置10でダム機構5の配置位置を上方に移動してダム機構5の下方をすべて開放したままにしておけば、冬季の田んぼの融雪水等も桝本体2の直径の大きい排水穴2Dから直接排水されることとなるし、ダム機構5をわざわざ納屋等に収納する煩雑さや、保管時に傷んでしまう事態も回避され好都合である。
【0023】
次に、本実施の形態の水田用水位調整装置の作用および田んぼのダム化方法について説明する。
【0024】
水田用水位調整器1とダム機構5により、桝本体2の底板2Aと一対の側壁2B、受圧板3と水位調整板4およびダム板6により空間を画成している。ダム板6の放水穴6Bは桝本体2の排水穴2Dより小径に形成されているので、空間は水位調整板4を越流して流入する水田水の貯留槽8として機能する。
このことを
図4を参照して説明すると、水位調整板4を最も引き上げた場合の水位調整器1の水位はAであるが、水位調整板4を越流して貯留槽8に流入する水田水はダム板6の上端6Cまで貯留することから田んぼの水位はBの高さになり田んぼの貯水量が増加することでダム機能を持つこととなる。このように田んぼのダム化方法が実現される。
そして、放水穴6Bから水田水を少しずつ放出することで、降雨が止んだ後は水位調整板4の本来の高さまで貯留水は制御されるから、ダム板6を操作する必要はない。
【0025】
また、水田用水位調整器1内でダム板6の後側の空間は溢れ水処理槽9として機能し、大量降雨でダム板6を越流する水が畔を超えることなくすべて水位調整器1内で排水させることができ、また、ダム板6の放水穴6Bがゴミ詰まりで放水できなくなった場合の溢れ水を処理することができる。
【0026】
また、
図7に示すように、水田用水位調整装置の上方の開口部に鉄製等の蓋体を落とし蓋方式等で設置することであってもよい。このようにすれば、農家等が誤って水田用水位調整装置に落ちるリスクを回避することができる。なお、水田用水位調整装置のダム板6の後ろ側(桝本体2の後壁2C側)の上方の開口部に鉄製等の蓋体を落とし蓋方式等で設置することであってもよい。このようにすれば、蓋体を設置したままダム板6の取付け・取外しが可能となる。
【0027】
上記の本実施の形態によれば、
(1)畦に設置する水位調整器に田んぼダム機構を設けることにより、水田に雨水を貯えるダム機能を持たせ、かつ貯留する水を少しずつ放出するようにしたので下流側の水害を防止するし、水田を水害の防止に有効活用することができる。
(2)水位調整器にダム機構を一度組み付けるだけで、工事を行うことなく田んぼダム機能を簡単に、安価に、また長年に亘り持たせることができる。
(3)ダム機構をコストを安く、簡単に製作するためには、平板状のダム板のみにすれば手間も掛からず簡単にできる。しかし、この平板状のダム板を現状の水位調整器の溝に収納したとしても、厚み寸法が小さいので、水圧に耐えることができる強度が得られない。また、溝の厚み寸法と平板状のダム板の厚み寸法に差があり余裕がありすぎる(例えば、溝は20mm、平板状のダム板は3mm、余裕は17mmなど。)とガタつきが発生し、寄せては返す水田水の微振動による金属疲労により平板状のダム板が劣化破損する可能性がある。これらの問題を解決するために、ダム機構を平板状のダム板の両側面を折り曲げたような形状の、平面視で略コ字状に形成して、本体の強度を増し、ガタつかずに使えるようにした。なお、溝の厚み寸法を小さく(例えば5mm程度まで)することも考えられるが、コンクリート製桝の製法では難しく、手間やコストが掛かる。
(4)ダム機構は、平面視で略コ字状としたから、材料の分量も最小限で済み低コスト化を図れ、製作作業も安価であり、水位調整器の縦溝に嵌装することで簡単に組み付けることができる。
(5)水位調整板とダム機構という本来的にはそれぞれ異なる機能を有している2つの別体のものを水位調整器に収納して一体型で提供しているので、農家も面倒なくダム化に取り組むことができる。一方で、ダム機構単体で提供される場合は、種々の既存の水位調整器に取り付けられることにより、上記と同様の効果を奏するものとなる。
(6)水位調整器にダム板からなるダム機構を一度組み付けることでダム化できるから、大雨予報があっても見回りをする必要がない、降雨時の危険な作業を不要にできる、多忙な農家等の負担を軽減する、水田をダム化することに消極的な農家が実施する割合が増加する。
(7)切替装置により、水田水を放水穴6Bから少しずつ排出するか、排水穴2Dより一気に排水するか、簡易に切り替えることができる、といった多くの利点がある。
【0028】
次に、本発明の第2の実施の形態の水田用水位調整装置を
図8および
図9を参照しつつ説明する。基本的な構成は上記の第1の実施の形態の水田用水位調整装置と同様であるので重複する説明は省略する。
【0029】
ダム機構50は、ダム板60と、ダム板60の幅方向両端にダム板60と併せた平面視において略H字状をなすように設けられた一対の支持板と70から構成されている。一対の支持体70はダム板60と同じ高さ寸法であり、後壁2Cと水位調整板4との間に嵌合する前後幅に設定されている。
【0030】
ダム機構50には、上記の第1の実施の形態と同様の切替装置10が付設されている。切替装置10は、ダム機構50のダム板60の田んぼ側と反対側の面に付設されていると農家等が畦から手を伸ばして容易に切替作業を実施することができる。
【0031】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されてよい。
例えば、放水穴6Bは型抜きできるように下方が開放する逆U字状に形成することであってもよい。このようにすれば、ダム機構5を容易かつ安価に製作することができる。
なお、上記各実施の形態においては、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、一対の支持部がダム板の左右方向に位置する向きで、ガイド溝(縦溝)に挿嵌する態様(加工の容易さ、微振動に耐える強度に優れる)を説明したが、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、一対の支持部がダム板の上下方向に位置する向きで、ガイド溝(縦溝)に挿嵌する(切替装置の付設方向も変更される)態様であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 水位調整器
2 桝本体
2A 底板
2B 側壁
2C 後壁
2D 排水穴
3 受圧板
4 水位調整板
5、50 ダム機構
6、60 ダム板
6B 放水穴
7、70 支持体
8 貯留槽
9 溢れ水処理槽
10 切替装置
【要約】
【課題】畦に設置する水位調整器に低コストでガタつきが少なく強度のあるダム機構を組み合わせ、水田水を一旦貯留して少しずつ放出することで田んぼの貯水量を増加して田んぼをダム化し、また放水量を抑制して水害を防止することができる水田用水位調整装置等を提供すること。
【解決手段】排水穴を有する後壁および一対の側壁を底板に平面視で略匚字状に立設してなる桝本体内に高さの可変な水位調整板を設置して水田の水位調整を行う水位調整器において、前記後壁と前記水位調整板との間に位置して前記一対の側壁に縦溝を設け、前記水位調整板より背高に形成されて板本体の下部側に前記排水穴より小径の放水穴を設けたダム板と、該ダム板の幅方向両端に設けられた一対の支持部とから、平面視で略コ字状に構成してあるダム機構を、前記一対の支持部が前記ダム板の左右方向又は上下方向に位置する向きで、前記縦溝に挿嵌することにより、前記水位調整板を越流する水田水を前記水位調整器内に貯留しつつ前記放水穴から前記排水穴側に少しずつ排出する水田用水位調整装置。
【選択図】
図1