特許第5914780号(P5914780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5914780
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】アクリル繊維処理剤及びその用途
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/53 20060101AFI20160422BHJP
   C10M 105/18 20060101ALI20160422BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20160422BHJP
   C10M 129/16 20060101ALI20160422BHJP
   C10M 129/70 20060101ALI20160422BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20160422BHJP
   C10M 155/02 20060101ALI20160422BHJP
   D01F 6/18 20060101ALI20160422BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20160422BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   D06M15/53
   C10M105/18
   C10M107/34
   C10M129/16
   C10M129/70
   C10M133/16
   C10M155/02
   D01F6/18 E
   D01F9/22
   D06M13/17
   D06M15/643
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-558275(P2015-558275)
(86)(22)【出願日】2015年7月14日
(86)【国際出願番号】JP2015070131
【審査請求日】2015年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-164045(P2014-164045)
(32)【優先日】2014年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菊田 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 武圭
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−211240(JP,A)
【文献】 特開2010−174409(JP,A)
【文献】 特開2007−113141(JP,A)
【文献】 特開2005−264361(JP,A)
【文献】 特開平7−9444(JP,A)
【文献】 特開2000−336577(JP,A)
【文献】 特開2000−234264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 105/18
C10M 107/34
C10M 129/70
C10M 133/16
C10M 155/02
C10N 40/00
D01F 1/00−6/96
D01F 9/00−9/32
D06M 13/00−15/715
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル繊維処理剤であって、
下記一般式(1)で示される化合物(A)及び重量平均分子量8000〜25000のポリエーテル化合物(B)を含有し、
処理剤の不揮発分に占める、前記化合物(A)及び前記ポリエーテル化合物(B)の合計の重量割合が50〜99重量%である、アクリル繊維処理剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。m及びnは、それぞれ独立して、1以上の数である。)
【請求項2】
前記化合物(A)と前記ポリエーテル化合物(B)との重量比(A/B)が90/10〜20/80である、請求項1に記載のアクリル繊維処理剤。
【請求項3】
下記一般式(2)で示される非イオン性界面活性剤(C)をさらに含有する、請求項1又は2に記載のアクリル繊維処理剤。
【化2】
(式(2)中、Rは炭素数8〜20の炭化水素基である。−X−は、−O−、−COO−又は−CONH−である。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基である。a及びbは平均付加モル数を表わし、aは3〜20、bは0〜6である。なお、EO群とPO群の付加形態はブロックでもランダムでもよい。Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【請求項4】
処理剤の不揮発分に占める前記非イオン性界面活性剤(C)の重量割合が0.5〜15重量%である、請求項3に記載のアクリル繊維処理剤。
【請求項5】
窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(D)をさらに含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル繊維処理剤。
【請求項6】
処理剤の不揮発分に占める前記変性シリコーン(D)の重量割合が5〜40重量%である、請求項5に記載のアクリル繊維処理剤。
【請求項7】
炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸した、炭素繊維製造用アクリル繊維。
【請求項8】
炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸する製糸工程と、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含む、炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル繊維処理剤及びその用途に関する。より詳しくは、アクリル繊維を製造する際に使用する処理剤と、該処理剤を用いた炭素繊維製造用アクリル繊維(以下、プレカーサーと称することがある)と、該処理剤を用いた炭素繊維の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維はその優れた機械的特性を利用して、マトリックス樹脂と称されるプラスチックとの複合材料用の補強繊維として、航空宇宙用途、スポーツ用途、一般産業用途等に幅広く利用されている。
炭素繊維を製造する方法としては、プレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換し、続いて300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭素化する方法が一般的である。これらの高熱による焼成時には、単繊維同士の融着が発生し、得られた炭素繊維の品質、品位を低下させるという問題がある。
【0003】
この融着を防止するため、シリコーン化合物を主成分とし、優れた耐熱性及び繊維−繊維間の平滑性による優れた剥離性を有するシリコーン系処理剤、特に架橋反応により耐熱性をさらに向上できるアミノ変性シリコーン系処理剤をプレカーサーに付与する技術が多数提案され(例えば、特許文献1等)、工業的に広く利用されている。
【0004】
しかしながら一方で、付着処理したシリコーン系処理剤は、繊維から脱落して粘着物となり、それがプレカーサー製造工程における乾燥ローラーやガイド等に堆積し、繊維が捲き付いたり断糸したりする等の操業性低下を引き起こす原因になるという問題があった。また、耐炎化工程の酸化性雰囲気中でその一部が酸化ケイ素を生成し、炭素化工程の不活性雰囲気中で不活性ガスとして窒素が使用される場合は窒化ケイ素を生成し、これらスケールが堆積して、操業性や稼働性を低下させたり、焼成炉の損傷を招いたりするという問題を有していた。
さらに、シリコーン系処理剤の持つ繊維−繊維間平滑性による優れた剥離性は、単繊維間の融着防止には有効に働く一方で、非常に多数の繊維束が同時に平行に走行する焼成工程においては、各々の繊維束幅がシリコーン系処理剤の平滑性で拡がることにより、隣接する繊維束との間隔が狭くなり、場合によってはその干渉により毛羽が生じるという不都合がある。
【0005】
これらの問題を回避するため、シリコーン系化合物の含有量を低減した処理剤や、シリコーン系化合物を使用しない処理剤等が提案されている。たとえば、ビスフェノールA系のアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステルを主成分とし、アミノ変性シリコーンの含有量を低減した処理剤(例えば、特許文献2等)や、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステルを主成分とし、シリコーン系化合物を使用しない処理剤(例えば、特許文献3等)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2002−371477号公報
【特許文献2】日本国特開2005−89884号公報
【特許文献3】日本国特開2004−143645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらこれらの処理剤は、シリコーン系化合物に起因する上記の操業性等の問題を抑制することには効果があるが、プレカーサー製糸工程での巻取り時及び解舒時の繊維束の集束性、並びに耐炎化工程での耐炎化炉の入口及び出口における繊維束の集束性が不足するという欠点があった。
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立させることができるアクリル繊維処理剤と、該処理剤を用いた炭素繊維製造用アクリル繊維と、該処理剤を用いた炭素繊維の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の脂肪酸エステルを含む従来の処理剤は、当該エステルを水系に乳化するために多量の非イオン性界面活性剤(乳化剤)が必要とされ、この多量の乳化剤の影響により、プレカーサー製糸工程や耐炎化工程での繊維束の集束性が悪化していることを突き止めた。そして、特定の成分を主成分として含む処理剤であれば、処理剤中の乳化剤として用いる非イオン性界面活性剤及びシリコーン系化合物の含有量を低減できること、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立させることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明のアクリル繊維処理剤は、下記一般式(1)で示される化合物(A)及び重量平均分子量8000〜25000のポリエーテル化合物(B)を含有し、処理剤の不揮発分に占める、前記化合物(A)及び前記ポリエーテル化合物(B)の合計の重量割合が50〜99重量%である。
【0010】
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。m及びnは、それぞれ独立して、1以上の数である。)
【0011】
前記化合物(A)と前記ポリエーテル化合物(B)との重量比(A/B)は、90/10〜20/80であることが好ましい。
【0012】
本発明のアクリル繊維処理剤は、下記一般式(2)で示される非イオン性界面活性剤(C)をさらに含有することが好ましい。
【0013】
【化2】
(式(2)中、Rは炭素数8〜20の炭化水素基である。−X−は、−O−、−COO−又は−CONH−である。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基である。a及びbは平均付加モル数を表わし、aは3〜20、bは0〜6である。なお、EO群とPO群の付加形態はブロックでもランダムでもよい。Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。)
【0014】
処理剤の不揮発分に占める前記非イオン性界面活性剤(C)の重量割合は0.5〜15重量%であることが好ましい。
【0015】
本発明のアクリル繊維処理剤は、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(D)をさらに含有することが好ましい。
処理剤の不揮発分に占める前記変性シリコーン(D)の重量割合が5〜40重量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維は、炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、上記のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸したものである。
【0017】
本発明の炭素繊維の製造方法は、炭素繊維製造用アクリル繊維の原料アクリル繊維に、上記のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸する製糸工程と、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアクリル繊維処理剤は、これを予めプレカーサーに付着させる処理を行うことによって、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立させることができる。
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維を用いれば、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止および安定した操業性を両立させることができる。また、本発明の炭素繊維の製造方法によれば、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立させることができ、高品質の炭素繊維を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造に用いられるアクリル繊維(炭素繊維のプレカーサー)に付与することを目的とした処理剤であり、特定の化合物(A)及び特定のポリエーテル化合物(B)を主成分として特定量含有するものである。以下、詳細に説明する。
【0020】
(化合物(A))
本発明のアクリル繊維処理剤に用いられる化合物(A)は、上記一般式(1)で示されるものであって、ビスフェノール型骨格からなる中心部の両端にアルキレンオキサイドが付加した構造を有するものである。このように、化合物(A)を後述のポリエーテル化合物(B)と併用することにより、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止および安定した操業性を両立させることができる。さらに、化合物(A)は水溶性を有するため、乳化剤としての非イオン性界面活性剤を用いずに水と混合させることができる。その結果、プレカーサー製糸工程での巻取り時及び解舒時の繊維束の集束性、並びに耐炎化工程での耐炎化炉の入口及び出口における繊維束の集束性が不足するという乳化剤多用による弊害を防ぐことができる。
【0021】
上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。アルキル基の炭素数は1〜2が好ましく、1がさらに好ましい。AOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、炭素数2〜3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基、オキシプロピレン基)が好ましく、炭素数2のオキシエチレン基がさらに好ましい。m及びnは、それぞれ独立して、1以上の数であり、4〜20が好ましく、4〜15がより好ましく、4〜10がさらに好ましい。さらに、本発明の効果をより発揮させる点から、m及びnは、m+n=8〜50を満たす数であることが好ましい。m+nは、8〜40が好ましく、8〜30がより好ましく、8〜20がさらに好ましく、10〜20が特に好ましい。
【0022】
化合物(A)において、ビスフェノール型骨格からなる中心部の両端に付加しているアルキレンオキサイドの付加量は、中心部の左、右で一致している必要はないが、上記の化合物(A)が、一般的にビスフェノール化合物にアルキレンオキサイドを付加して得られるものであるために、ビスフェノール型骨格からなる中心部の両端に付加しているアルキレンオキサイドの付加量は、中心部の左、右での付加量があまり相違するものではなくなることが多い。
【0023】
[ポリエーテル化合物(B)]
本発明のアクリル繊維処理剤に用いられる化合物(B)は、重量平均分子量8000〜25000のポリエーテル化合物である。このように、ポリエーテル化合物(B)を前記化合物(A)と併用することにより、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止および安定した操業性を両立させることができる。さらに、ポリエーテル化合物(B)は水溶性を有するため、乳化剤としての非イオン性界面活性剤を用いずに水と混合させることができる。その結果、プレカーサー製糸工程での巻取り時及び解舒時の繊維束の集束性、並びに耐炎化工程での耐炎化炉の入口及び出口における繊維束の集束性が不足するという乳化剤多用による弊害を防ぐことができる。
【0024】
ポリエーテル化合物(B)は、エチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)等のアルキレンオキサイド(AO)を付加重合させたポリアルキレングリコールであり、その中でもプロピレンオキサイド(PO)とエチレンオキサイド(EO)とを付加重合させたポリアルキレングルコール共重合体が好ましい。ポリエーテル化合物(B)は、1種または2種以上を併用してもよい。ポリアルキレングルコール共重合体は、PO、EOのランダム型又はブロック型の共重合であることが好ましい。ポリアルキレングルコール共重合体の片末端又は両末端は、1価以上のアルコール類や塩基酸類等により、エーテル結合やエステル結合を介して封鎖されていてもよい。かかるポリアルキレングルコール共重合体は、公知の方法によりPO、EO等を共重合することで得られる。
【0025】
ポリエーテル化合物(B)のPO/EOのモル比は、20/80〜50/50が好ましく、20/80〜40/60がより好ましい。ポリエーテル化合物(B)の重量平均分子量は、10000〜20000が好ましく、11000〜19000がより好ましく、12000〜18000がさらに好ましい。なお、本発明でいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定方法により、下記の測定条件で測定してポリスチレン換算した値をいう。
【0026】
(GPC測定条件)
装置:装置名「HPLC LC−6A SYSTEM」(SHIMAZU社製)
カラム:「KF−800P(10mm×4.6mmφ)」、「KF−804(300mm×8mmφ)」、「KF−802.5(300mm×8mmφ)」、「KF−801(300mm×8mmφ)」(以上、SHODEX社製)
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
サンプル量:100μl(100倍希釈)
カラム温度:50℃
検量線作成標準物質:ポリスチレン(PSt)
【0027】
[非イオン性界面活性剤(C)]
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造における繊維束に対して、均一付着性を付与できる、上記一般式(2)で示される非イオン性界面活性剤(C)をさらに含有することが好ましい。
非イオン性界面活性剤(C)としては、一般式(2)を満たす、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
式(2)中、Rは炭素数8〜20の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等を挙げることができ、アルキル基、アルケニル基が好ましい。炭化水素基の炭素数としては、10〜18が好ましく、12〜18がさらに好ましい。
「−X−」は、「−O−」、「−COO−」又は「−CONH−」であり、「−O−」又は「−COO−」が好ましく、「−O−」がさらに好ましい。
EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基である。a及びbは平均付加モル数を表わす。aは3〜20であり、5〜18が好ましく、7〜12がさらに好ましい。bは0〜6であり、り、0〜3が好ましく、0がさらに好ましい。なお、EO群とPO群の付加形態はブロックでもランダムでもよい。
は水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、を挙げることができる。Rはとしては、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基が好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0028】
[窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(D)]
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造における繊維間の融着防止の点から、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(D)をさらに含有することが好ましい。本発明のアクリル繊維処理剤は、前述の化合物(A)とポリエーテル化合物(B)の合計を主成分として含有することから、変性シリコーン(D)を主成分として用いずに、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立させることができる。
【0029】
変性シリコーン(D)は窒素原子を含む変性基であれば変性基の種類は特に限定されない。窒素原子を含む変性基としては、アミノ結合やイミノ結合を含有する変性基(即ち、アミノ基)や、アミド結合を含有する変性基(即ち、アミド基)などが挙げられ、アミノ結合とアミド結合など異なる結合が複数存在する変性基でもよい。窒素原子を含む変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、また両方と結合していてもよい。また、分子中にポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等)を有していてもよい。
【0030】
窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(D)としては、例えば、アミノ変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アミド変性シリコーン、アミドポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられ、一種類の変性シリコーンを用いてもよいし、複数の変性シリコーンを併用してもよい。
【0031】
また、変性シリコーン(D)における窒素原子の含有量は、0.35〜3.2重量%が好ましく、0.37〜2.2重量%がより好ましく、0.40〜1.3重量%がさらに好ましい。窒素原子の含有量が0.35重量%より低い場合、水系乳化した際にエマルジョンの乳化安定性が悪くなることがある。一方、窒素原子の含有量が3.2重量%より高い場合、熱架橋により変性シリコーン(D)の粘着性が高くなり、ガムアップの原因となる。
【0032】
水系乳化した際のエマルジョンの乳化安定性に優れ、また化合物(A)との併用による効果が優れる点から、これら変性シリコーン(D)の中でも、アミノ変性シリコーンが好ましい。
【0033】
変性シリコーン(D)がアミノ変性シリコーンである場合、そのアミノ変性シリコーンの構造は特に限定されるものではない。即ち、変性基であるアミノ基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、また両方と結合していてもよい。また、そのアミノ基は、モノアミン型であってもポリアミン型であってもよく、1分子中に両者が併存していてもよい。
【0034】
アミノ変性シリコーンにおけるアミノ基(NH)の含有量(以下、「アミノ重量%」という)は、0.4〜3.7重量%が好ましく、0.42〜2.5重量%がより好ましく、0.46〜1.5重量%が更に好ましい。アミノ重量%が0.4重量%より低いと、水系乳化した際にエマルジョンの乳化安定性が悪くなることがある。一方、3.7重量%より高い場合、熱架橋によりアミノ変性シリコーンの粘着性が高くなり、ガムアップの原因となる。
【0035】
アミノ変性シリコーンの25℃における粘度については、特に限定はないが、低粘度過ぎると、処理剤が飛散しやすくなり、また水系乳化した際にエマルジョンの乳化安定性が悪くなり、処理剤を繊維へ均一に付与することが出来なくなる。その結果、繊維の融着を防止できないことがある。また逆に高粘度すぎると、粘着性に起因するガムアップが問題となることがある。これらの問題を防止する観点から、アミノ変性シリコーンの25℃での粘度は、50〜15,000mm/sが好ましく、500〜10,000mm/sがより好ましく、1,000〜5,000mm/sがさらに好ましい。
【0036】
[界面活性剤]
本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、乳化剤、制電剤等として使用される。界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン性界面活性剤(但し、上記非イオン性界面活性剤(C)を除く)、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0037】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等のポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテル;ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル;ポリオキシエチレン1−ヘキシルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−オクチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−ヘキシルオクチルエーテル、ポリオキシエチレン1−ペンチルへプチルエーテル、ポリオキシエチレン1−へプチルペンチルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル;ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジステアレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル;ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレート等のソルビタンエステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノパルミテート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンひまし油エーテル等のポリオキシアルキレンひまし油エーテル;ポリオキシエチレン硬化ひまし油エーテル等のポリオキシアルキレン硬化ひまし油エーテル;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端アルキルエーテル化物;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端ショ糖エーテル化物;ポリオキシエチレンラウリルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド等のポリオキシアルキレンアルキルアミド;等を挙げることができる。なお、ここで例示する非イオン性界面活性剤は、上記一般式(2)で示される非イオン界面活性剤(C)を除くものをいう。また、非イオン性界面活性剤は、ポリエーテル化合物(B)を除くものである。非イオン性界面活性剤の重量平均分子量は、2000以下が好ましく、200〜1800がより好ましく、300〜1500がより好ましく、500〜1000がさらに好ましい。
【0038】
これら非イオン性界面活性剤の中でも、エステル及びシリコーン化合物の水系乳化力に特に優れるという理由で、ポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル、ポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体の末端アルキルエーテル化合物、ポリオキシアルキレンアルキルアミドが好ましく、更に焼成工程で、繊維上でタール化して繊維に損傷を与え難いという理由で、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合体の末端アルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンアルキルアミドがより好ましい。
【0039】
上記ポリオキシアルキレンアルキルアミドとは、カルボン酸とアミン化合物との縮合物である酸アミドにポリオキシアルキレンを付加させた化合物である。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等を挙げることができる。アミン化合物としては、例えば、モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアミン等を挙げることができる。アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド(BO)等を挙げることができる。ポリオキシアルキレンアルキルアミドとしては、例えば、カルボン酸モノエタノールアミドのアルキレンオキサイド付加物、カルボン酸ジエタノールアミドのアルキレンオキサイド付加物等を挙げることができる。これらポリオキシアルキレンアルキルアミドは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらポリオキシアルキレンアルキルアミドの中でも、エステル及びシリコーン化合物の水系乳化力に特に優れるという理由で、ポリオキシエチレンラウリルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミドが好ましい。
【0040】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸、パルミチン酸、オレイン酸ナトリウム塩、パルミチン酸カリウム塩、オレイン酸トリエタノールアミン塩等の脂肪酸(塩);ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ酢酸カリウム塩、乳酸、乳酸カリウム塩等のヒドロキシル基含有カルボン酸(塩);ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸(塩);トリメリット酸カリウム、ピロメリット酸カリウム等のカルボキシル基多置換芳香族化合物の塩;ドデシルベンゼンスルホン酸(ナトリウム塩)等のアルキルベンゼンスルホン酸(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルスルホン酸(カリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸(塩);ステアロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ラウロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ミリストイルメチルタウリン(ナトリウム)、パルミトイルメチルタウリン(ナトリウム)等の高級脂肪酸アミドスルホン酸(塩);ラウロイルサルコシン酸(ナトリウム)等のN−アシルサルコシン酸(塩);オクチルホスホネート(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸(塩);フェニルホスホネート(カリウム塩)等の芳香族ホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルホスホネートモノ2−エチルヘキシルエステル(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸アルキルリン酸エステル(塩);アミノエチルホスホン酸(ジエタノールアミン塩)等の含窒素アルキルホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルサルフェート(ナトリウム塩)等のアルキル硫酸エステル(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルサルフェート(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレン硫酸エステル(塩);ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ジナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩;等を挙げる事ができる。
【0041】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オレイルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジエチルメチルアンモニウムサルフェート、等のアルキル第四級アンモニウム塩;(ポリオキシエチレン)ラウリルアミノエーテル乳酸塩、ステアリルアミノエーテル乳酸塩、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアミノエーテルジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)硬化牛脂アルキルエチルアミンエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアンモニウムジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ステアリルアミン乳酸塩等の(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩;N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N-ジメチル−N−ステアロイルアミドプロピルアンモニウムナイトレート、ラノリン脂肪酸アミドプロピルエチルジメチルアンモニウムエトサルフェート、ラウロイルアミドエチルメチルジエチルアンモニウムメトサルフェート等のアシルアミドアルキル第四級アンモニウム塩;ジパルミチルポリエテノキシエチルアンモニウムクロライド、ジステアリルポリエテノキシメチルアンモニウムクロライド等のアルキルエテノキシ第四級アンモニウム塩;ラウリルイソキノリニウムクロライド等のアルキルイソキノリニウム塩;ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のベンザルコニウム塩;ベンジルジメチル{2−[2−(p−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトオキシ]エチル}アンモニウムクロライド等のベンゼトニウム塩;セチルピリジニウムクロライド等のピリジニウム塩;オレイルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート、ラウリルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート等のイミダゾリニウム塩;N−ココイルアルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩、N−ラウロイルリジンエチルエチルエステルクロライド等のアシル塩基性アミノ酸アルキルエステル塩;ラウリルアミンクロライド、ステアリルアミンブロマイド、硬化牛脂アルキルアミンクロライド、ロジンアミン酢酸塩等の第一級アミン塩;セチルメチルアミンサルフェート、ラウリルメチルアミンクロライド、ジラウリルアミン酢酸塩、ステアリルエチルアミンブロマイド、ラウリルプロピルアミン酢酸塩、ジオクチルアミンクロライド、オクタデシルエチルアミンハイドロオキサイド等の第二級アミン塩;ジラウリルメチルアミンサルフェート、ラウリルジエチルアミンクロライド、ラウリルエチルメチルアミンブロマイド、ジエタノールステアリルアミドエチルアミントリヒドロキシエチルホスフェート塩、ステアリルアミドエチルエタノールアミン尿素重縮合物酢酸塩等の第三級アミン塩;脂肪酸アミドグアニジニウム塩;ラウリルトリエチレングリコールアンモニウムハイドロオキサイド等のアルキルトリアルキレングリコールアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0042】
両性界面活性剤としては、例えば、2−ウンデシル−N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤;2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等のベタイン系両性界面活性剤;N−ラウリルグリシン、N−ラウリルβ−アラニン、N−ステアリルβ−アラニン等のアミノ酸型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
これらの界面活性剤のなかでも、経時安定性に優れ、乳化力にも優れるという理由から、非イオン性界面活性剤が好ましい。イオン性界面活性剤は、非イオン性界面活性剤と比較し、静電気発生による繊維束のバラケを抑制することができる制電性に優れるという利点があるため、非イオン界面活性剤と併用することが好ましい。イオン性界面活性剤としては、上記のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を挙げることができるが、これの中でもカチオン性界面活性剤が好ましく、カチオン界面活性剤の中でも、アルキル第四級アンモニウム塩、(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩、アシルアミノアルキル第四級アンモニウム塩、アルキルエテノキシ第四級アンモニウム塩、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩等がさらに好ましい。
【0044】
[その他成分]
本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記した成分以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、酸性リン酸エステル、フェノール系、アミン系、硫黄系、リン系、キノン系等の酸化防止剤;高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルのリン酸エステル塩、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤、アミン塩型カチオン系界面活性剤等の制電剤;高級アルコールのアルキルエステル、高級アルコールエーテル、ワックス類等の平滑剤;抗菌剤;防腐剤;防錆剤;および吸湿剤等が挙げられる。
【0045】
酸化防止剤は、耐炎化処理工程における加熱によってアクリル繊維処理剤の熱分解を効果的に抑制し、繊維−繊維間の融着防止効果を高める成分である。
酸化防止剤としては、特に限定はないが、焼成炉汚染防止の観点から、有機酸化防止剤、酸性リン酸エステルが好ましく、酸性リン酸エステルがさらに好ましい。有機酸化防止剤としては、たとえば、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール、トリオクタデシルフォスファイト、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、ジオレイル−チオジプロピオネート等を挙げることができる。これらの有機酸化防止剤は1種または2種以上を併用してもよい。
酸性リン酸エステルとしては、例えば、国際公開WO2013/129115号の請求項に記載されている酸性リン酸エステルを挙げることができる。また、酸性リン酸エステルは、国際公開WO2013/129115号の0036段落に記載されているように、公知の方法で製造することができる。例えば、無水リン酸Pなどの無機リン酸を、アルコールやポリオキシアルキレン付加のアルキルエーテルなどのアルコール性水酸基を分子中にもつ化合物(以下、単に原料アルコールということがある)と、任意のモル比で反応させることで得られる。得られた酸性リン酸エスエルには、副生された酸性ピロリン酸エステル(塩を形成していない未中和のピロリン酸エステル)、酸性トリリン酸エステル等の酸性ポリリン酸エステル(塩を形成していない未中和のポリリン酸エステル)が含有されていてもよい。
【0046】
また、本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン(D)以外のシリコーン成分を含んでいてもよい。具体的には、ジメチルシリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキレンオキサイド変性シリコーン(ポリエーテル変性シリコーン)、エポキシポリエーテル変性シリコーン(例えば、特許4616934号参照)、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、メタクリレート変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等が挙げられる。
【0047】
また、本発明のアクリル繊維処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、エステル化合物を含有してもよい。エステル化合物としては、例えば、再公表WO2007/066517号公報に記載されている、分子内に3個以上のエステル基を有するエステル化合物や、国際出願PCT/JP2013/75081に記載されている含硫黄エステル化合物等を挙げることができる。
【0048】
[アクリル繊維処理剤]
本発明のアクリル繊維処理剤は、上記一般式(1)で示される化合物(A)及び重量平均分子量8000〜25000のポリエーテル化合物(B)を必須に含有するものである。処理剤の不揮発分に占める、化合物(A)とポリエーテル化合物(B)の合計の重量割合は、50〜99重量%であることが好ましく、55〜95重量%がより好ましく、60〜90重量%がさらに好ましく、65〜80重量%が特に好ましい。なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0049】
炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止および安定した操業性を両立させることができる点から、化合物(A)とポリエーテル化合物(B)との重量比(A/B)は、90/10〜20/80が好ましく、75/25〜35/65がより好ましく、65/35〜45/55がさらに好ましい。
【0050】
本発明のアクリル繊維処理剤が非イオン性界面活性剤(C)を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める非イオン性界面活性剤(C)の重量割合は、0.5〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%がより好ましく、1〜8重量%がさらに好ましく、3〜5重量%が特に好ましい。
【0051】
本発明のアクリル繊維処理剤が変性シリコーン(D)を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める変性シリコーン(D)の重量割合は、5〜40重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましく、15〜25重量%が特に好ましい。
【0052】
本発明のアクリル繊維処理剤は、乳化剤としての非イオン界面活性剤の使用量を低減することができる。その結果、非イオン界面活性剤の総量を低減することができる。具体的には、処理剤の不揮発分に占める非イオン性界面活性剤(総量)の重量割合を20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下にすることができる。該重量割合が20重量%を超えると、多量の非イオン界面活性剤の影響により、プレカーサー製糸工程や耐炎化工程での繊維束の集束性が悪化する場合がある。本発明のアクリル繊維処理剤が非イオン性界面活性剤(C)を含有する場合、処理剤の不揮発分に占める非イオン性界面活性剤(総量)の重量割合は、1〜20重量%が好ましく、2〜15重量%がより好ましく、3〜10重量%がさらに好ましい。
【0053】
本発明のアクリル繊維処理剤は、化合物(A)、ポリエーテル化合物(B)、必要に応じて非イオン性界面活性剤(C)、変性シリコーン(D)が水に溶解、可溶化、乳化又は分散された状態であることが好ましい。
アクリル繊維処理剤全体に占める水の重量割合、不揮発分の重量割合については、特に限定はない。例えば、本発明のアクリル繊維処理剤を輸送する際の輸送コストや、エマルジョン粘度に因るところの取扱い性等を考慮して適宜決定すればよい。アクリル繊維処理剤全体に占める水の重量割合は、0.1〜99.9重量%が好ましく、10〜99.5重量%がさらに好ましく、50〜99重量%が特に好ましい。アクリル繊維処理剤全体に占める不揮発分の重量割合(濃度)は、0.01〜99.9重量%が好ましく、0.5〜90重量%がさらに好ましく、1〜50重量%が特に好ましい。
【0054】
耐炎化処理工程における耐熱性および繊維−繊維間の融着防止効果の点から、本発明のアクリル繊維処理剤における空気中250℃にて1時間加熱処理後の重量減少率については、40重量%未満が好ましく、30重量%未満がより好ましく、25%未満がさらに好ましい。重量減少率が40%以上の場合、耐炎化処理工程において繊維上に残存する処理剤皮膜が少なくなり、繊維−繊維間の融着防止効果が十分に得られないことがある。
【0055】
本発明のアクリル繊維処理剤は、上記で説明した成分を混合することによって製造することができる。上記で説明した成分を乳化・分散させる方法については特に限定されず、公知の手法が採用できる。このような方法としては、たとえば、アクリル繊維処理剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散する方法や、アクリル繊維処理剤を構成する各成分を混合し、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
【0056】
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)の処理剤(プレカーサー処理剤)として好適に使用できる。プレカーサー以外のアクリル繊維の紡糸油剤として使用してもよい。
【0057】
プレカーサー製糸工程や耐炎化工程における良好な繊維束の集束性を付与できる点から、本発明のアクリル繊維処理剤の不揮発分の50℃における粘度は、350〜25000mPa・sが好ましく、1000〜20000mPa・sがより好ましく、1500〜15000mPa・sがさらに好ましい。該粘度が350mPa・s未満になると、プレカーサー製糸工程や耐炎化工程における繊維束の集束性が悪化する場合がある。また、該粘度が25000mPa・sを超えると、プレカーサー製糸工程や耐炎化工程における良好な繊維束の集束性を付与できても、処理剤の粘度が高くなり過ぎ、処理剤の取扱い性が悪化する場合がある。なお、該粘度の測定方法は、実施例で記載している方法によるものである。
【0058】
[炭素繊維製造用アクリル繊維、その製造方法及び炭素繊維の製造方法]
本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維(プレカーサー)は、プレカーサーの原料アクリル繊維に上記のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸したものである。本発明のプレカーサーの製造方法は、プレカーサーの原料アクリル繊維に上記のアクリル繊維処理剤を付着させて製糸する製糸工程を含むものである。
本発明の炭素繊維の製造方法は、プレカーサーの原料アクリル繊維に上記のアクリル繊維処理剤を付着させて、プレカーサーを製糸する製糸工程と、その製糸工程で製造されたプレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程とを含むものである。
【0059】
製糸工程は、プレカーサーの原料アクリル繊維にアクリル繊維処理剤を付着させてプレカーサーを製糸する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。
付着処理工程は、プレカーサーの原料アクリル繊維を紡糸した後、アクリル繊維処理剤を付着させる工程である。つまり、付着処理工程でプレカーサーの原料アクリル繊維にアクリル繊維処理剤を付着させる。またこのプレカーサーの原料アクリル繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気をもちいた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーをもちいた乾熱延伸法でもよい。
【0060】
プレカーサーは、少なくとも95モル%以上のアクリロニトリルと、5モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維から構成される。耐炎化促進成分としては、アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。プレカーサーの単繊維繊度については、特に限定はないが、性能と製造コストのバランスから、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、プレカーサーの繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能と製造コストのバランスから、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0061】
アクリル繊維処理剤は、製糸工程のどの段階でプレカーサーの原料アクリル繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。延伸工程前の段階であればどの段階でも、例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよく、例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。その付着方法に関しては、ローラー等を使用して付着してもよいし、浸漬法、スプレー法等で付着してもよい。
【0062】
付着処理工程において、アクリル繊維処理剤の付与率は、繊維−繊維間の膠着防止効果や融着防止効果を得ることと、炭素化処理工程において処理剤のタール化物によって炭素繊維の品質低下を防止することとのバランスからは、プレカーサーの重量に対して好ましくは0.1〜2重量%であり、さらに好ましくは0.3〜1.5重量%である。アクリル繊維処理剤の付与率が0.1重量%未満であると、単繊維間の膠着、融着を十分に防止できず、得られる炭素繊維の強度が低下することがある。一方、アクリル繊維処理剤の付与率が2重量%超であると、アクリル繊維処理剤が単繊維間を必要以上に覆うため、耐炎化処理工程において繊維への酸素の供給が妨げられ、得られる炭素繊維の強度が低下することがある。なお、ここでいうアクリル繊維処理剤の付与率とは、プレカーサー重量に対するアクリル繊維処理剤の付着した不揮発分重量の百分率で定義される。
【0063】
耐炎化処理工程は、アクリル繊維処理剤が付着したプレカーサーを200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する工程である。酸化性雰囲気とは、通常、空気雰囲気であればよい。酸化性雰囲気の温度は好ましくは230〜280℃である。耐炎化処理工程では、付着処理後のアクリル繊維に対して、延伸比0.90〜1.10(好ましくは0.95〜1.05)の張力をかけながら、20〜100分間(好ましくは30〜60分間)にわたって熱処理が行われる。この耐炎化処理では、分子内環化および環への酸素付加を経て、耐炎化構造を持つ耐炎化繊維が製造される。
【0064】
炭素化処理工程は、耐炎化繊維をさらに300〜2000℃の不活性雰囲気中で炭化させる工程である。炭素化処理工程では、まず、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、300℃から800℃まで温度勾配を有する焼成炉で、耐炎化繊維に対して、延伸比0.95〜1.15の張力をかけながら、数分間熱処理して、予備炭素化処理工程(第一炭素化処理工程)を行うのが好ましい。その後、より炭素化を進行させ、且つグラファイト化を進行させるために、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で、第一炭素化処理工程に対して延伸比0.95〜1.05の張力をかけながら、数分間熱処理して、第二炭素化処理工程を行い、耐炎化繊維が炭素化される。第二炭素化処理工程における熱処理温度の制御については、温度勾配をかけながら、最高温度を1000℃以上(好ましくは1000〜2000℃)とすることがよい。この最高温度は、所望する炭素繊維の要求特性(引張強度、弾性率等)に応じて適宜選択して決定される。
【0065】
本発明の炭素繊維の製造方法では、弾性率がさらに高い炭素繊維が所望される場合は、炭素化処理工程に引き続いて、黒鉛化処理工程を行うこともできる。黒鉛化処理工程は、通常、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、炭素化処理工程で得られた繊維に対して張力をかけながら、2000〜3000℃の温度で行われる。
【0066】
このようにして得られた炭素繊維には、目的に応じて、複合材料とした時のマトリックス樹脂との接着強度を高めるための表面処理を行うことができる。表面処理方法としては、気相または液相処理を採用でき、生産性の観点からは、酸、アルカリなどの電解液による液相処理が好ましい。さらに、炭素繊維の加工性、取り扱い性を向上させるために、マトリックス樹脂に対して相溶性の優れる各種サイジング剤を付与することもできる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)、部は特に限定しない限り、「重量%」、「重量部」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
【0068】
<処理剤の付与率>
アクリル繊維処理剤の付与率は、ソックスレー抽出器によるエタノール抽出法により算出した。但し、変性シリコーン(D)を含む実施例、比較例については、以下の方法で付与率を算出した。
処理剤付与後のプレカーサーを水酸化カリウム/ナトリウムブチラートでアルカリ溶融した後、水に溶解して塩酸でpH1に調整した。これを亜硫酸ナトリウムとモリブデン酸アンモニウムを加えて発色させ、ケイモリブデンブルーの比色定量(波長815mμ)を行い、ケイ素の含有量を求めた。ここで求めたケイ素含有量と予め同法で求めた処理剤中のケイ素含有量の値を用いて、アクリル繊維処理剤の付与率(重量%)を算出した。
【0069】
<粘度>
直径φ60mmのアルミカップ上に各処理剤を、その不揮発分の重量が1gになるように採取し、温風乾燥機にて105℃×3時間処理して水分を除去した。得られた試料(1g)をICIコーンプレート粘度計(RESEACH EQUIPMENT(LONDON)LTD.製)を用いて行った。
より具体的には、プレートの温度を50℃に設定し、次に、プレート上に設けられた試料投入口に試料を投入し、次に、コーンプレートを試料投入口に降ろした後、90秒後にモーターのスイッチを入れて、測定を開始した。数値が安定した際の値を測定値とした。
【0070】
<製糸操業性(ローラー汚れ)>
プレカーサー50kgに処理剤を付与した後の乾燥ローラーの汚染度合い(ガムアップ)を下記の評価基準で判定した。
◎ :ガムアップによるローラー汚染が無く、製糸操業性問題無し
○ :ガムアップによるローラー汚染が少なく、製糸操業性問題無し
△ :ガムアップによるローラー汚染があり、やや製糸操業性に劣る
× :ガムアップによるローラー汚染が著しく、製糸時に単糸取られ、捲き付きあり
【0071】
<繊維束の集束性>
プレカーサー製糸工程での巻取り時、解舒時、および耐炎化工程での耐炎化炉の入口、出口において、繊維束の集束度合いを観察し、総合して下記の評価基準で目視判定した。
◎:均一な太さの繊維束で、単繊維のバラケも全く見られない。
○:均一な太さの繊維束で、単繊維のバラケもほぼ見られない。
△:均一な太さの繊維束であるが、バラケた単繊維がやや見られる。
×:バラケた単繊維も多く、単糸切れもみられる。
【0072】
<融着防止性>
炭素繊維から無作為に20カ所を選び、そこから長さ10mmの短繊維を切り出し、その融着状態を観察し、下記の評価基準で判定した。
◎:融着無し
○:ほぼ融着無し
△:融着少ない
×:融着多い
【0073】
<炭素繊維強度>
JIS-R-7601に規定されているエポキシ樹脂含浸ストランド法に準じ測定し、測定回数10回の平均値を炭素繊維強度(GPa)とした。
【0074】
(変性シリコーン(D)乳化物の調製)
下記変性シリコーンD1〜D4をそれぞれ非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン7mol付加アルキルエーテル(アルキル基の炭素数は12〜14)、ポリオキシエチレン12mol付加トリスチレン化フェニルエーテル及びエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(50/50)ブロック共重合体)により水系乳化して、不揮発分組成として、下記変性シリコーン/前記非イオン性界面活性剤=80/20の重量比率よりなる、不揮発分20重量%の変性シリコーンの乳化物を得た。
D1:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:1300mm/s、アミノ当量:2000g/mol、変性タイプ:ジアミン)
D2:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:90mm/s、アミノ当量:2200g/mol、変性タイプ:両末端)
D3:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:250mm/s、アミノ当量:7600g/mol、変性タイプ:ジアミン)
D4:アミノ変性シリコーン(25℃粘度:90mm/s、アミノ当量:8800g/mol、変性タイプ:モノアミン)
【0075】
(エステル系化合物(E)乳化物の調製)
下記エステル系化合物E1、E2をそれぞれ非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレン7mol付加アルキルエーテル(アルキル基の炭素数は12〜14)、ポリオキシエチレン12mol付加トリスチレン化フェニルエーテル及びエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(50/50)ブロック共重合体)により水系乳化して、不揮発分組成として、下記エステル系化合物/前記非イオン性界面活性剤=70/30の重量比率よりなる不揮発分20重量%のエステル系化合物の乳化物を得た。
E1:ビスフェノールAのエチレンオキシド2モル付加物のジラウリルエステル
E2:トリメリット酸トリイソデシル
【0076】
〔実施例1〜28、比較例1〜13〕
下記の化合物A1〜A3、ポリエーテル化合物B1〜B3、非イオン性界面活性剤C1〜C3、上記で調製した変性シリコーンD1〜D4の水系乳化物、エステル系化合物E1〜E2の水系乳化物及び水を用いて、表1〜3に示す不揮発分組成になるよう混合撹拌し、処理剤に占める不揮発分の割合が20重量%であるアクリル繊維処理剤をそれぞれ調製した。なお、表の数値は、処理剤の不揮発分に占める各成分の重量割合を示す。例えば、表の化合物A1〜A3の数値は、処理剤の不揮発分に占める化合物A1〜A3の重量割合を示す。また、表1〜3の「非イオン性界面活性剤」の数値は、不揮発分に占める非イオン性界面活性剤(総量)の重量割合(重量%)を示す。
次いで、調製した処理剤をさらに水で希釈し、不揮発分濃度が3.0重量%である処理液をそれぞれ得た。
各処理液をプレカーサー(単繊維繊度0.8dtex,24,000フィラメント)に付与率1.0重量%となるように付着させ、100〜140℃で乾燥して水分を除去した。処理液付着後のプレカーサーを250℃の耐炎化炉にて60分間耐炎化処理し、次いで窒素雰囲気下300〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換した。各特性値の評価結果を表1〜3に示す。
【0077】
A1:POE(8)ビスフェノールAエーテル
A2:POE(10)ビスフェノールAエーテル
A3:POE(17.5)ビスフェノールAエーテル
なお、上記のPOE(X)ビスフェノールAエーテルは、一般式(1)において、R及びRが水素原子、m+n=X、AOが炭素数2であるオキシエチレン基であることを示す。
【0078】
B1:PO/EO=25/75ポリエーテル(重量平均分子量13000):ジエチレングリコールに、PO/EO=25/75の重量比率でPO及びEOをランダム付加させたもので、重量平均分子量が12000であるポリエーテル化合物。
B2:PO/EO=25/75ポリエーテル(重量平均分子量15000):ジエチレングリコールに、PO/EO=25/75の重量比率でPO及びEOをランダム付加させたもので、重量平均分子量が15000であるポリエーテル化合物。
B3:PO/EO=25/75ポリエーテル(重量平均分子量18500):ジエチレングリコールに、PO/EO=25/75の重量比率でPO及びEOをランダム付加させたもので、重量平均分子量が18500であるポリエーテル化合物。
【0079】
C1:炭素数12〜14の直鎖第1級アルコールに、EOを平均7モル付加した非イオン性界面活性剤
C2:炭素数12〜14の第2級アルコールに、EOを平均7モル付加した非イオン性界面活性剤
C3:炭素数12〜14の直鎖第1級アルコールに、EOを平均5モル、POを平均2モル、EOを平均3モルの順にブロック付加した非イオン性界面活性剤
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
表1〜3にあるように、いずれの実施例においても炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立できていることがわかる。
一方、比較例では、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立できていないことがわかる。比較例1〜3、8〜10のように製糸操業性は比較的良好であるが、繊維束の集束性が悪化し炭素繊維強度が劣る場合や、比較例4〜7、11〜13のように繊維間の融着防止は比較的良好であるが、製糸操業性が悪化することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のアクリル繊維処理剤は、炭素繊維製造用アクリル繊維を製造する際に使用される処理剤であり、高品位の炭素繊維を製造するために有用である。本発明の炭素繊維製造用アクリル繊維は、本発明の処理剤が処理されており、高品位の炭素繊維を製造するために有用である。本発明の炭素繊維の製造方法によって、高品位の炭素繊維が得られる。
【要約】
本発明の目的は、炭素繊維製造における繊維束の集束性、繊維間の融着防止及び安定した操業性を両立させることができるアクリル繊維処理剤を提供することにある。
本発明のアクリル繊維処理剤は、下記一般式(1)で示される化合物(A)及び重量平均分子量8000〜25000のポリエーテル化合物(B)を含有し、前記化合物(A)及び前記ポリエーテル化合物(B)の合計の重量割合が50〜99重量%である。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。m及びnは、それぞれ独立して、1以上の数である。)