(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩、および被験物質を、哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に接触させた場合の応答を測定し、該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を、被験物質の非存在下で該哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に接触させた場合の応答と比較し、比較の結果、応答が抑制される場合の被験物質を、該ペプチドのインスリン分泌促進活性を阻害する候補物質として選択することを特徴とする、該ペプチドのインスリン分泌促進活性を阻害する物質のスクリーニング方法。
請求項1記載のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩、および被験物質を、哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に接触させた場合の応答を測定し、該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を、被験物質の非存在下で該哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に接触させた場合の応答と比較し、比較の結果、応答が亢進される場合の被験物質を、該ペプチドのインスリン分泌促進活性を亢進する候補物質として選択することを特徴とする、該ペプチドのインスリン分泌促進活性を亢進する物質のスクリーニング方法。
非ヒト哺乳動物に対し、予防的又は治療的有効量の請求項1記載のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を投与することを含む、該非ヒト哺乳動物における糖尿病の予防又は治療方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.インスリン分泌促進活性を有するペプチドおよびその薬理学的に許容される塩>
本発明で用いられるペプチド(本発明のペプチドともいう。)としては、以下の(a)〜(d)のいずれかのペプチドがあげられる。
(a)配列番号8で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号8で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列において、1以上5以下のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列を含むペプチド;
(c)配列番号8で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチド;及び
(d)式(I)
【0019】
(式中、R
1は水素原子、置換もしくは非置換のアルカノイル、置換もしくは非置換のアロイル、置換もしくは非置換のヘテロアリールカルボニル、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアリールオキシカルボニル、または置換もしくは非置換のヘテロアリールオキシカルボニルを表し、R
2はヒドロキシ、置換もしくは非置換のアルコキシ、または置換もしくは非置換のアミノを表し、Aは上記(a)〜(c)のいずれかのペプチドのペプチド残基を表す)で表されるペプチド。
【0020】
配列番号8で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列としては、配列番号7で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列が好ましく、配列番号6で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列がさらに好ましく、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列が特に好ましい。
【0021】
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、ヒトVGFのアミノ酸配列(NCBIアクセション番号:NP_003369(配列番号3))における485−503番目のアミノ酸、並びにラットおよびマウスVGFのアミノ酸配列(ラット:NCBIアクセション番号:NP_112259(配列番号4)、マウス:NCBIアクセション番号:NP_001034474(配列番号5))における489−507番目のアミノ酸、に相当するアミノ酸配列である。
【0022】
配列番号8で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列において、1以上5以下のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加されたとは、同一配列中の任意かつ一もしくは複数の位置において、1以上5以下のアミノ酸残基の置換、欠失もしくは付加があることを意味し、置換、欠失もしくは付加が同時に生じてもよい。当該アミノ酸配列中の1以上5以下のアミノ酸残基が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列としては、例えば、(1)該アミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)該アミノ酸配列に1〜5個(好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、(3)該アミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(4)上記(1)〜(3)の変異が組み合わされたアミノ酸配列(この場合、変異したアミノ酸の総和が1〜5個(好ましくは1〜3個、より好ましくは1または2個))があげられる。
【0023】
置換または付加されるアミノ酸としては、例えば、蛋白質を構成するアミノ酸として知られる20種類のL-アミノ酸、すなわちL−アラニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−アルギニン、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリンおよびL−システインがあげられるが、これに限定されるものではなく、例えば、tert-ロイシン、ノルロイシン、ノルバリン、2−アミノブタン酸、O−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、ホモセリン等の他のアミノ酸でもよく、またD−アミノ酸あるいはβ−アミノ酸でもよい。
【0024】
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、N末端側から2番目のアミノ酸残基がアラニンであるため、DPP−IVで分解される可能性を有する。よって哺乳動物の膵臓に含まれる細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性、インスリン分泌を亢進する活性および/または血清グルコース濃度を低下させる活性を有する限りにおいて、N末端側から2番目のアミノ酸残基をアラニンおよびプロリン以外のアミノ酸に置換することが、DPP−IV耐性とするために好ましい。
【0025】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、O−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン、tert-ロイシン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0026】
配列番号8で表されるアミノ酸配列またはその一部の配列からなり、かつ配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列とは、相同性解析プログラムBLAST 2 Sequences〔FEMS Microbiol Lett. 174, 247 (1999)〕を用いてデフォルトの条件(program: blastp、matrix: BLOSUM62、open gap: 11 penalties、extension gap: 1 penalty、gap x_dropoff: 50、expect: 10.0、word size: 3)で計算し、アラインメントをしたときに、同一性(対象の配列と該ペプチドの配列のうちの相同性解析を行った配列との間で同一のアミノ酸数/該ペプチドのうちの相同性解析を行った配列の全体のアミノ酸数+アラインメント時に挿入されたギャップの数)が80%以上、好ましくは90%以上であるアミノ酸配列をいう。アミノ酸配列の同一性はより高いほうが好ましいが、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩が哺乳動物の膵臓に含まれる細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性、インスリン分泌を亢進する活性および/または血清グルコース濃度を低下させる活性を有する限り、同一性は低くてもよい。
【0027】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩に用いられるペプチドの長さは、哺乳動物の膵臓に含まれる細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性、インスリン分泌を亢進する活性および/または血清グルコース濃度を低下させる活性を有する限りとくに制限されず、使用目的に応じて所望の長さのペプチドを選択することができる。本発明のペプチドの長さは、68アミノ酸以下であることが好ましく、48アミノ酸以下であることがより好ましく、33アミノ酸以下であることがさらに好ましい。
【0028】
好ましいペプチドとしては、配列番号6〜8のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチド、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等をあげることができる。
【0029】
上記式(I)において、R
1は上記(a)〜(c)のいずれかのペプチドのN末端のアミノ基に、R
2は上記(a)〜(c)のいずれかのペプチドのC末端のカルボキシル基に、それぞれ配置される。具体的には、R
1はN末端のアミノ基における一方または両方の水素原子と置換され、R
2はC末端のカルボキシル基におけるヒドロキシ基と置換される。
【0030】
上記式(I)の各基の定義において、アルカノイルとしては、例えば直鎖または分枝状の炭素数1〜20のアルカノイル、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、ラウロイル、エイコサノイル等があげられる。
【0031】
アロイルおよびアリールオキシカルボニルのアリール部分としては、例えば炭素数6〜15のアリール、例えばフェニル、ナフチル等があげられる。
【0032】
ヘテロアリールカルボニルおよびヘテロアリールオキシカルボニルのヘテロアリール部分としては、例えばフリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、ベンズイミダゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、ナフチリジニル等があげられる。
【0033】
アルコキシカルボニルおよびアルコキシのアルキル部分としては、例えば直鎖または分枝状の炭素数1〜20のアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、デシル、ドデシル、エイコシル等があげられる。
【0034】
置換アルカノイル、置換アルコキシカルボニルおよび置換アルコキシにおける置換基としては、同一または異なって置換数1〜3の、例えばヒドロキシ、カルボキシ、炭素数3〜8の、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の脂環式アルキル、置換もしくは非置換のフェニル、フルオレニル等があげられる。置換フェニルの置換基としては、同一または異なって置換数1〜3の、例えばアルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ニトロ、スルホ、シアノ、ハロゲン等があげられ、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子があげられる。置換フェニルの置換基としてのアルキル、アルコキシのアルキル部分は、前記アルコキシカルボニルおよびアルコキシのアルキル部分と同義である。
【0035】
置換アロイル、置換アリールオキシカルボニル、置換ヘテロアリールカルボニルおよび置換ヘテロアリールオキシカルボニルにおける置換基は、同一または異なって置換数1〜3であり、上記の置換フェニルの置換基と同義である。
【0036】
置換アミノにおける置換基としては、同一または異なって置換数1〜2の、例えば置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアリール等があげられる。アルキルは、前記アルコキシ等のアルキル部分と同義であり、置換アルキルの置換基は、前記置換アルコキシ等の置換基と同義である。アリールは、前記アロイルまたはアリールオキシカルボニルのアリール部分と同義であり、置換アリールの置換基は、前記アロイルまたはアリールオキシカルボニルの置換基と同義である。
【0037】
また、式(I)においてAのペプチド残基を構成するアミノ酸残基の側鎖の官能基が化学的に修飾または保護されたものであってもかまわない。そのように側鎖官能基が化学的に修飾または保護されたアミノ酸残基としては、例えば、側鎖カルボキシ基がベンジルエステルで保護されたアスパラギン酸残基もしくはグルタミン酸残基、側鎖チオール基がカルボキシメチル化されたシステイン残基等があげられる。
【0038】
本発明のペプチドは修飾されていてもよい。該修飾としては、脂質鎖の付加(脂肪族アシル化(パルミトイル化、ミリストイル化等))、プレニル化(ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化等)、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、アミド化、糖鎖の付加(Nグリコシル化、Oグリコシル化)等をあげることができる。
【0039】
例えば配列番号1で表されるアミノ酸配列は前述のように、N末端側から2番目のアミノ酸残基がアラニンであるため、DPP−IVで分解される可能性を有する。よって哺乳動物の膵臓に含まれる細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性、インスリン分泌を亢進する活性および/または血清グルコース濃度を低下させる活性を有する限りにおいて、該ペプチドのN末端側を水素以外の官能基で修飾することがDPP−IV耐性とするためにとくに好ましい。DPP−IV耐性とすることによって、哺乳動物の血中における半減期を延長することが期待できる。
【0040】
またペプチドのC末端をアミド化することで、膵臓に含まれる細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性、インスリン分泌を亢進する活性および/または血清グルコース濃度を低下させる活性の上昇が期待できる場合は、C末端をアミド化することが望ましい。
【0041】
このようなペプチドの好ましい例としては、配列番号9または10で表されるアミノ酸配列からなるペプチド等をあげることができる。
【0042】
本発明のペプチドは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:
125I、
131I、
3H、
14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、アフィニティタグ(例:ビオチン等)などで標識されていてもよい。
【0043】
また、本発明のペプチドの薬理学的に許容される塩としては、例えば、酸付加塩、金属塩、有機塩基付加塩等があげられる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩および酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩があげられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられる。有機塩基付加塩としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、アニリン等の一級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン等の二級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン等の三級アミン等とで形成される塩、アンモニウム塩等があげられる。
【0044】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩は単離または精製されていることが好ましい。「単離または精製」とは、目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離または精製された本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の純度(ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の全重量に対する、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば100%)である。
【0045】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩は、インスリン分泌促進活性を有することが好ましい。インスリン分泌促進活性とは、哺乳動物の膵臓からインスリンの分泌を促進する活性を意味する。
【0046】
哺乳動物には、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等が包含されるが、これらに限定されるものではない。哺乳動物は、好ましくは、霊長類(ヒト等)またはげっ歯類(ラット等)である。
【0047】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩がインスリン分泌促進活性を有していることは、以下の方法により確認することができる。
【0048】
マウスより単離した膵島を、測定対象のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩および16.7mmol/Lグルコースを含むHepes Krebs−Ringer bicarbonate(HKRB)バッファー中、37℃、5%CO
2にて1時間培養する(測定対象群)。測定対象のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の濃度は、1pmol/L〜10μmol/Lの範囲内である。コントロールとして、測定対象のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩をHKRBに添加しないことを除き、測定対象群と同一の操作を行う。1時間培養後の培養液中のインスリン濃度を免疫学的測定方法により測定する。上記範囲の濃度の少なくとも1点において、測定対象群における培養液中のインスリン濃度がコントロールよりも有意に高い場合には、当該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩はインスリン分泌促進活性を有すると判定される。
【0049】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩が有するインスリン分泌促進活性は、グルコース濃度依存的であり得る。グルコース濃度依存的とは、グルコース濃度とインスリン分泌促進活性との間に正の相関があることを意味する。即ち、生理的に起こりうるグルコース濃度の範囲(0〜30mmol/L)において、哺乳動物の膵臓が曝露されるグルコース濃度が高いほど、本発明のペプチド又はその薬理学的に許容される塩により発揮されるインスリン分泌促進活性が高くなる。
【0050】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩がグルコース濃度依存的なインスリン分泌促進活性を有していることは、上述のインスリン分泌促進活性の確認試験において、HKRBに添加するグルコース濃度を5.5mmol/Lとすることを除き、測定対象群と同一の操作を行う群(低グルコース濃度群)を設けることにより行うことができる。この場合、低グルコース濃度コントロールとして、測定対象のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩をHKRBに添加しないことを除き、低グルコース濃度群と同一の操作を行う。1時間培養後の培養液中のインスリン濃度を免疫学的測定方法により測定し、測定対象群のインスリン分泌促進活性(測定対象群のインスリン濃度/コントロールのインスリン濃度)及び、低グルコース濃度群のインスリン分泌促進活性(低グルコース濃度群のインスリン濃度/低グルコース濃度コントロールのインスリン濃度)をそれぞれ算出する。測定対象群のインスリン分泌促進活性が低グルコース濃度群のそれを上回る場合には、当該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩はグルコース濃度依存的なインスリン分泌促進活性を有すると判定される。
【0051】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩は、血清グルコース濃度を低下させる活性を有することが好ましい。
【0052】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩が血清グルコース濃度、好ましくは哺乳動物の血清グルコース濃度を低下させる活性を有することは、例えば正常ラットにおける静脈内の糖負荷試験により確認することができる。
【0053】
約16時間絶食させた正常ラットの尾静脈に、PBS(Phosphate-buffered saline)に溶解した測定対象のペプチドまたはその薬理的に許容される塩を投与し、5分後にグルコース溶液(1g/kg)を静脈内に投与する。グルコース溶液投与5分後および10分後に血清グルコース濃度を測定する(測定対象群)。測定対象のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の濃度は、1pmol/L〜10μmol/Lの範囲内である。コントロールとして、測定対象のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩をPBSに添加しないことを除き、測定対象群と同一の操作を行う。
【0054】
測定対象群における血清グルコース濃度がコントロールよりも有意に低い場合には、当該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩は血清グルコース濃度を低下させる活性を有すると判定される。
【0055】
<2.インスリン分泌促進活性を有する本発明のペプチドの製造方法>
(1)化学的合成による製造方法
本発明のペプチドは、例えば泉屋信夫、加藤哲夫ら,「ペプチド合成の基礎と実験」,丸善,(1985年)、相本三郎ら,「実験化学講座」,第4版,第22巻,「有機合成IV 酸・アミノ酸・ペプチド」,丸善,(1999年)、Int. J. Pept. Protein Res. 35, 161-214 (1990)、Fields, G. B., Solid-Phase Peptide Synthesis, Methods in Enzymology, vol. 289, Academic Press, (1997)、Pennington, M. W. and Dunn, B. M., Peptide Synthesis Protocols, Methods in Molecular Biology, vol. 35, Humana Press, (1994) 等に記載の公知のペプチド合成法により合成後、精製することによって得ることができる。具体的な合成法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、ジクロロメタン法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等があげられる。また、その合成は、固相合成法および液相合成法のいずれをも適用することができる。すなわち、本発明のペプチドを構成するアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするペプチドを合成することができる。
【0056】
また本発明のペプチドは、自動ペプチド合成機を用いて合成することもできる。ペプチド合成機によるペプチドの合成は、島津製作所製ペプチド合成機、アドバンスト・ケムテック社(Advanced ChemTech, Inc.)製ペプチド合成機等の市販のペプチド合成機上で、適当に側鎖を保護したNα−Fmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)−アミノ酸あるいはNα−Boc(t−ブチルオキシカルボニル)−アミノ酸等を用い、それぞれの合成プログラムに従って実施することができる。原料となる保護アミノ酸および担体樹脂は、アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems, Inc.)、島津製作所、国産化学株式会社、EMDバイオサイエンシズ社(EMD Biosienses, Inc.)、渡辺化学株式会社、アドバンスト・ケムテック社、アナスペック社(AnaSpec, Inc.)またはペプチド研究所株式会社等から入手することができる。
【0057】
さらに、本発明のペプチドが、ペプチドを構成するアミノ酸残基の側鎖および/またはペプチドのアミノ末端(N末端ともいう)および/またはペプチドのカルボキシ末端(C末端ともいう)が化学修飾や保護されているものである場合には、ペプチド合成後に化学修飾する方法、化学修飾されたアミノ酸を用いてペプチド合成する方法、またはペプチド合成の最終脱保護の反応条件を適当に選ぶ方法等、ペプチド合成化学の分野において従来公知の方法[泉屋信夫ら,「ペプチド合成の基礎と実験」,丸善,(1985年)、矢島治明監修, 「続医薬品の開発」,第14巻,「ペプチド合成」,広川書店,(1991年)、日本生化学会編「生化学実験講座」,第1巻, 「タンパク質の化学IV−化学修飾とペプチド合成」,東京化学同人、大野素徳ら,「生物化学実験法」,第12, 13巻,「蛋白質の化学修飾(上)(下)」,学会出版センター,(1981年)]によって製造することができる。
【0058】
本発明のペプチドの精製は、通常の精製法、例えば溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶等を組み合わせて行なうことができる。
【0059】
(2)遺伝子工学的手法による製造方法
本発明のペプチドが、蛋白質を構成する20種類のL−アミノ酸からなり、側鎖、N末端またはC末端の修飾を受けていない場合は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載された方法等を用い、例えば以下の方法により、該ペプチドをコードするDNAを宿主細胞中で発現させて、製造することができる。
【0060】
本発明のペプチドをコードするDNAは、本発明のペプチドのアミノ酸配列から、これをコードする塩基配列を設計し、DNA合成機により合成することができる。またヒト、ラットあるいはマウスの脳または膵臓の細胞のcDNAを鋳型としたPCRにより、単離することもできる。本発明のペプチドをコードするDNAを、本発明のペプチドの製造に用いる場合は、本発明のペプチドをコードする領域の末端は終止コドンになるようにする。
【0061】
以下に本発明のペプチドのN末端を、あらかじめメチオニンとして発現させる場合の製造方法を記載する。
上記で得られた本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製し、該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入する。
宿主細胞としては、例えば細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
【0062】
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自律複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明のペプチドをコードするDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
【0063】
細菌等の原核生物を宿主細胞として用いる場合は、本発明のペプチドをコードするDNAを含有してなる組換えベクターは原核生物中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、および転写終結配列を含めて構成されたベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0064】
発現ベクターとしては、例えば、pSE420(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol. Chem., 48, 669 (1984)〕、pLSA1〔Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 82, 4306 (1985)〕、pBluescript II SK(-)(ストラタジーン社)、pTrs30〔形質転換大腸菌株(FERM BP-5407)より調製〕、pTrs32〔形質転換大腸菌株(FERM BP-5408)より調製〕、pGHA2〔形質転換大腸菌株(FERM BP-400)より調製〕、pGKA2〔形質転換大腸菌株(FERM P-6798)より調製〕、pTerm2(特開平3-22979号公報)、pGEX-2T(GEヘルスケア社製)、pET(ノバジェン社製)、pKK223-2(GEヘルスケア社製)、pMAL-c2X(ニュー・イングランド・バイオラブズ社製)等をあげることができる。
【0065】
プロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーターをあげることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0066】
リボソーム結合配列であるシャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0067】
本発明の組換えベクターにおいては、本発明のDNAの発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0068】
宿主細胞としては、エシェリヒア(
Escherichia)属、セラチア(
Serratia)属、バチルス(
Bacillus)属、ブレビバクテリウム(
Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(
Corynebacterium)属、ミクロバクテリウム(
Microbacterium)属、シュードモナス(
Pseudomonas)属等に属する微生物、例えば、
Escherichia coli XL1-Blue、
Escherichia coli XL2-Blue、
Escherichia coli DH1、
Escherichia coli MC1000、
Escherichia coli KY3276、
Escherichia coli W1485、
Escherichia coli JM109、
Escherichia coli HB101、
Escherichia coli No.49、
Escherichia coli W3110、
Escherichia coli TB1、
Serratia ficaria、
Serratia fonticola、
Serratia liquefaciens、
Serratia marcescens、
Bacillus subtilis、
Bacillus amyloliquefacines、
Brevibacterium ammoniagenes、
Brevibacterium immariophilumATCC14068、
Brevibacteriumsaccharolyticum ATCC14066、
Brevibacterium flavum ATCC14067、
Brevibacterium lactofermentum ATCC13869、
Corynebacterium glutamicum ATCC13032、
Corynebacterium glutamicum ATCC13869、
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC13870、
Microbacterium ammoniaphilum ATCC15354、
Pseudomonas putida、
Pseudomonas sp. D-0110等をあげることができる。
【0069】
組換えベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-2483942号公報)、またはGene, 17, 107 (1982)やMolecular & General Genetics, 168, 111 (1979)に記載の方法等をあげることができる。
【0070】
酵母を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、pHS19、pHS15等をあげることができる。
【0071】
プロモーターとしては、酵母菌株中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター等をあげることができる。
【0072】
宿主細胞としては、サッカロミセス(
Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(
Schizosaccharomyces)属、クルイベロミセス(
Kluyveromyces)属、トリコスポロン(
Trichosporon)属、シュワニオミセス(
Schwanniomyces)属、ピキア(
Pichia)属、カンディダ(
Candida)属等に属する微生物、例えば、
Saccharomyces cerevisiae、
Schizosaccharomyces pombe、
Kluyveromyces lactis、
Trichosporon pullulans、
Schwanniomyces alluvius、
Candida utilis等をあげることができる。
【0073】
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Methods Enzymol., 194, 182 (1990)〕、スフェロプラスト法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)〕、酢酸リチウム法〔J. Bacteriology, 153, 163 (1983)〕、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)記載の方法等をあげることができる。
【0074】
動物細胞を宿主として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pcDNA3.1(+)(インビトロジェン社製)、pAGE107〔特開平3-22979号公報、Cytotechnology, 3, 133 (1990)〕、pAS3-3(特開平2-227075号公報)、pCDM8〔Nature, 329, 840 (1987)〕、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103〔J. Biochem., 101, 1307 (1987)〕等をあげることができる。
【0075】
プロモーターとしては、動物細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等をあげることができる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0076】
宿主細胞としては、ヒトの細胞であるナマルバ(Namalwa)細胞、サルの細胞であるCOS細胞、チャイニーズ・ハムスターの細胞であるCHO細胞、HBT5637(特開昭63-299号公報)等をあげることができる。
【0077】
動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Cytotechnology, 3, 133 (1990)〕、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)〕、Virology, 52, 456 (1973)記載の方法等をあげることができる。
【0078】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、例えばカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual, W. H. Freeman and Company, New York(1992)、Bio/Technology, 6, 47 (1988)等に記載された方法によって、ペプチドを発現することができる。
即ち、組換え遺伝子導入ベクターおよび欠損型バキュロウイルスゲノムを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、ペプチドを発現させることができる。
【0079】
該方法において用いられる遺伝子導入ベクターとしては、例えば、pVL1392、pVL1393(ベクトン・ディッキンソン社製)、pBlueBac4.5(インビトロジェン社製)等をあげることができる。
【0080】
バキュロウイルスとしては、例えば、ヤガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
【0081】
昆虫細胞としては、例えば、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manual, W. H. Freeman and Company, New York(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHigh 5(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
【0082】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への上記組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)〕等をあげることができる。
【0083】
植物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、Tiプラスミド、タバコモザイクウイルスベクター等をあげることができる。
【0084】
プロモーターとしては、植物細胞中で発現できるものであればいずれのものを用いてもよく、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター、イネアクチン1プロモーター等をあげることができる。
【0085】
宿主細胞としては、例えばタバコ、ジャガイモ、トマト、ニンジン、ダイズ、アブラナ、アルファルファ、イネ、コムギ、オオムギ等の植物細胞等をあげることができる。
【0086】
組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(
Agrobacterium)(特開昭59-140885号公報、特開昭60-70080号公報、国際公開第94/00977号パンフレット)、エレクトロポレーション法(特開昭60-251887号公報)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許第2606856号公報、特許第2517813号公報)等をあげることができる。
【0087】
以上のようにして得られる形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明に係るペプチドを生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、本発明に係るペプチドを製造することができる。
形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0088】
形質転換体が大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主として得られた形質転換体である場合、該形質転換体を培養する培地として、該形質転換体が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、該形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0089】
炭素源としては、該形質転換体が資化し得るものであればよく、例えばグルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を用いることができる。
【0090】
窒素源としては、例えばアンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、ならびに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
【0091】
無機塩としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
【0092】
培養は、振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことが好ましい。培養温度は15〜40℃が好ましく、培養時間は、通常16時間〜7日間が好ましい。培養中のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。pHの調整は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行うことができる。
【0093】
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0094】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加するのが好ましい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0095】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えばRPMI1640培地〔The Journal of the American Medical Association, 199, 519 (1967)〕、Eagleのミニマル・エッセンシャル培地(MEM)〔Science, 122, 501 (1952)〕、ダルベッコ改変イーグル培地〔Virology, 8, 396 (1959)〕、199培地〔Proceeding of theSociety for the Biological Medicine, 73, 1 (1950)〕またはこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等があげられる。
【0096】
培養は、通常、5%CO
2存在下で行うのが好ましく、pHは6〜8、温度は30〜40℃が好ましく、1〜7日間行うのが好ましい。
【0097】
また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0098】
また、特開平2-227075号公報に記載されている方法に準じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を用いた遺伝子増幅系を利用して生産量を上昇させることもできる。
【0099】
昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているTNM−FH培地(ベクトン・ディキンソン社製)、Sf−900 II SFM培地(インビトロジェン社製)、ExCell400、ExCell405(いずれもJRHバイオサイエンシズ社製)、グレース(Grace)の昆虫培地〔Nature, 195, 788 (1962)〕等を用いることができる。
培養は、通常、pHは6〜7、温度は25〜30℃が好ましく、1〜5日間行うのが好ましい。
【0100】
また、培養中必要に応じて、ゲンタマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0101】
植物細胞を宿主として得られた形質転換体は、細胞として、または植物の細胞や器官に分化させて培養することができる。該形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているムラシゲ・アンド・スクーグ培地、ホワイト(White)培地、またはこれら培地にオーキシン、サイトカイニン等、植物ホルモンを添加した培地等を用いることができる。
【0102】
培養は、通常、pHは5〜9、温度は20〜40℃が好ましく、3〜60日間行うのが好ましい。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。上記のとおり、本発明に係るペプチドをコードするDNAを組み込んだ組換え体ベクターを保有する微生物、動物細胞、あるいは植物細胞由来の形質転換体を、通常の培養方法に従って培養し、該ペプチドを生成蓄積させ、該培養物より該ペプチドを採取することにより、該ペプチドを製造することができる。
【0103】
本発明のペプチドは、宿主細胞内での分解を避けるため、任意のポリペプチド(以下、ポリペプチドXとよぶ)と本発明のペプチドとの融合蛋白質を製造した後、本発明のペプチドを融合蛋白質から単離して製造してもよい。融合蛋白質を発現する発現ベクターは、上記の本発明のペプチドをコードするDNAを作製する際に、その5’末端に特定のプロテアーゼの認識配列またはメチオニンをコードするDNAを付加して作製し、ポリペプチドXの発現ベクターの、ポリペプチドXをコードするDNAとフレームを合わせて連結して作製することができる。ただし、メチオニンをコードするDNAを付加するのは、本発明のペプチドがメチオニンを含んでいない場合に限る。ポリペプチドXとしては任意のポリペプチドを用いることができるが、例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、マルトース結合蛋白質、DsbA、DsbC、プロテインA等があげられる。特定のプロテアーゼの認識配列としては、ファクターXa認識配列(Ile-Glu-Gly-Arg)、エンテロキナーゼ認識配列(Asp-Asp-Asp-Asp-Lys)等があげられる。ポリペプチドXの発現ベクターは、上記の本発明のペプチドの発現ベクターに準じて、本発明のペプチドをコードするDNAの代わりにポリペプチドXをコードするDNAを挿入して作製できる。また、市販の融合蛋白質発現用ベクター、例えば、グルタチオンS−トランスフェラーゼとの融合蛋白質発現用ベクターpGEX-3(GEヘルスケア社製)、マルトース結合蛋白質との融合蛋白質発現ベクターpMAL-c2X、pMAL-p2E(ニュー・イングランド・バイオラブズ社製)、DsbAとの融合蛋白質発現ベクターpET-39b(+)(EMDバイオサイエンシズ社製)等を利用してもよい。ポリペプチドXに特定のプロテアーゼの認識配列を介して本発明のペプチドが融合している場合は、認識配列に対応するプロテアーゼ処理により、本発明のペプチドを融合蛋白質から切断することができる。ポリペプチドXのC末端にメチオニンを介して本発明のペプチドが融合している場合は、特開平1-102096号公報に記載の方法に準じて、臭化シアン処理することにより、該ペプチドを融合蛋白質から切断することができる。プロテアーゼまたは臭化シアンで処理した後、ゲルろ過、逆相HPLC、アフィニティークロマトグラフィー等を組み合わせることにより、該ペプチドを単離精製することができる。
【0104】
文献〔J. Biol. Chem.,264, 17619 (1989); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 8227 (1989); Genes Develop., 4, 1288(1990); 特開平5-336963号公報; 国際公開第94/23021号パンフレット〕の記載に準じて、上記の該ペプチドをコードするDNAを作製する際に、その5’末端に分泌蛋白質のシグナルペプチドをコードするDNAを付加して作製し、該DNAを用いて、上記と同様にして組換えベクターを作製し、宿主細胞に導入することにより、該ペプチドを培地中に分泌させて製造することができる。
【0105】
本発明のペプチドのN末端をアスパラギンとするには、上記の融合蛋白質を製造した後に単離する方法または培地中に分泌させる方法で製造することができる。例えば、配列番号2で表される塩基配列からなるDNAおよび配列番号2と相補的な塩基配列からなるDNAをDNA合成機で化学合成した後、両者をアニーリングして2本鎖DNAを調製する。該2本鎖DNAと
Xmn Iで切断したpMAL-c2Xを連結させて、pMAL-c2Xの
XmnIサイトに該2本鎖DNAを挿入したプラスミドを作製する。得られたプラスミドは、マルトース結合蛋白質のC末端に、ファクターXa認識配列(Ile-Glu-Gly-Arg)および配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる本発明のペプチドが融合した融合蛋白質をコードする。得られたプラスミドで
Escherichia coliを形質転換する。得られた形質転換体を培地中に培養して、形質転換体の細胞内に融合蛋白質を発現させる。培養後の菌体を遠心分離により単離した後、菌体を破砕して、融合蛋白質を含む溶液を得る。得られた溶液から、マルトースを固定化したカラムによるアフィニティークロマトグラフィーにより、融合蛋白質を単離した後、ファクターXaで融合蛋白質を処理し、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを融合蛋白質から切り離す。ゲルろ過あるいは逆相HPLC等で配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを単離、精製することができる。
【0106】
形質転換体により製造されたペプチドを単離精製するためには、通常の蛋白質の単離精製法を用いることができる。
【0107】
例えば本発明のペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の蛋白質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0108】
また、本発明のペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてペプチドの不溶体を回収する。回収したペプチドの不溶体を蛋白質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析し、該可溶化液中の蛋白質変性剤の濃度を下げることにより、該ペプチドを正常な立体構造に戻す。該操作の後、上記と同様の単離精製法により該ペプチドの精製標品を得ることができる。
【0109】
本発明のペプチドが細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ペプチドを回収することができる。すなわち、該培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0110】
<3.本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を含有する医薬>
本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩は、哺乳動物の膵臓からのインスリン分泌を促進する活性を有する。したがって本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩は、糖尿病(例、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病等)、耐糖能不全または糖尿病性合併症(例、神経障害、腎症、網膜症、白内障、大血管障害、糖尿病性壊疽)の予防または治療薬、あるいはインスリン分泌促進剤の有効成分として用いることができる。さらに本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩は、悪液質などの代謝異常症の予防または治療薬の有効成分としても用いることができる。
【0111】
とりわけ、本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩は、高濃度グルコースの存在下において優れたインスリン分泌促進作用を発揮する、グルコース濃度依存性インスリン分泌促進剤として有用である。したがって、本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩は、インスリンの弊害である血管合併症や低血糖誘発などの危険性の低い、安全な糖尿病の予防・治療剤などとして特に有用である。
【0112】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を含有する医薬は、活性成分として該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0113】
医薬製剤中の本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の含量は、剤形、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の投与量などにより異なるが、例えば約0.01〜100重量%である。また、医薬製剤中の薬理学的に許容される担体の含有量は、剤形、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の投与量などにより異なるが、例えば0〜99.9重量%である。
【0114】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば脳室内や静脈内等の非経口で投与される。
投与形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等がある。
経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビット、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。また、錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニット等の賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。
【0115】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。
また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、フレーバー類、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤等から選択される1種もしくはそれ以上の補助成分を添加することもできる。
【0116】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を含有する医薬は、哺乳動物(例、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対して、安全に投与することができる。哺乳動物の膵臓からのインスリン分泌を促進するのに十分な量の本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩を、上述の疾患を発症している、又は発症する可能性のある該哺乳動物に対して投与することにより、該疾患を予防又は治療することができる。
【0117】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常経口の場合、成人一人当り0.01mg〜1g、好ましくは0.05〜50mgを1日1回ないし数回投与する。静脈内投与等の非経口投与の場合、成人一人当り0.001〜100mg、好ましくは0.01〜10mgを1日1回ないし数回投与する。しかしながら、これら投与量および投与回数に関しては、前述の種々の条件により変動する。
【0118】
また本発明のペプチドを発現する組換えベクターや、該組換えベクターを導入した所定の細胞を体内へ移植することにより、体内で該ペプチドを発現させることができる。体内で発現された本発明のペプチドは、それ自体あるいはその薬理学的に許容される塩を体外から投与した場合と同様な効果を期待できる。該ペプチドを発現する組換えベクターや、該組換えベクターを導入した所定の細胞は、前記「2.インスリン分泌促進活性を有する本発明のペプチドの製造方法、(2)遺伝子工学的手法による製造方法」に記載の方法などにより製造することができる。
【0119】
<4.本発明のペプチドを特異的に認識する抗体>
本発明のペプチドを特異的に認識する抗体は、本発明のペプチドのアミノ酸配列中に存在するエピトープと結合する抗体であり、本発明のペプチドを特異的に認識することができる。ここで、「特異的に認識する」とは、ある抗体の特定の抗原に対する親和性が、他の抗原に対する親和性よりも高いことを意味する。本抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、本抗体には、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体から調製されるFab、Fab’、F(ab’)
2等の抗体断片も含まれる。また、モノクローナル抗体には、非ヒト動物で作製したモノクローナル抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域からなるヒト型キメラ抗体、非ヒト動物で作製したモノクローナル抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体のフレームワーク領域に挿入した可変領域と、ヒト抗体の定常領域からなるヒト型CDR移植抗体も含まれる。
【0120】
(1)ポリクローナル抗体の作製
本発明のペプチドのアミノ酸配列の全部又は一部を有するアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として、非ヒト動物の皮内、静脈内、腹腔内または筋肉内等に投与することにより、配列番号1で表されるアミノ酸配列中に存在するエピトープと結合するポリクローナル抗体を作製することができる。またペプチドの溶解性等の問題で抗体がつくりにくい場合は、ペプチドをポリエチレングリコール等の親水性修飾基で修飾したエピトープを用いることも可能である。このポリクローナル抗体は、本発明のペプチドに特異的に結合することができる。この場合、抗原とするペプチドをキーホール・リンペット・ヘモシアニン、ウシチログロブリン、オボアルブミン等のキャリア蛋白質に共有結合させたものを、アジュバントと共に投与するのが望ましい。抗原とするペプチドのキャリア蛋白質への共有結合は、マレイミド、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いた反応により行うことができる。マレイミドの反応を行う場合は、抗原とするペプチドのアミノ酸配列のN末端またはC末端にシステイン残基を付加したペプチドを上記2に記載の方法で作製し、システインを介して共有結合させる。アジュバントとしては、例えばフロイントの完全アジュバント、水酸化アルミニウムゲル、百日咳菌ワクチン等があげられる。抗原を投与する非ヒト動物として、ウサギ、ヤギ、ラット、マウス、ハムスター等を用いることができ、投与量は動物1匹に1回当たり、抗原とするペプチドを50〜200μg含有する量が好ましい。
【0121】
該抗原の投与は、例えば1回目の投与の後1〜3週間おきに、血清の抗体価が十分に上昇するまで3〜10回行うのが好ましい。血清の抗体価は、各投与後3〜7日目に採血して血清を調製し、酵素免疫測定法、ラジオイムノアッセイ法等により測定できる。酵素免疫測定法は、文献〔酵素免疫測定法、医学書院 (1976); Antibodies-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1988)〕に基づき、(i)抗原としたペプチドを抗原に用いたものとは別のキャリア蛋白質と共有結合させたものを適当なプレートに固定化し、(ii)ブロッキングを行って洗浄し、(iii)免疫した動物から調製した血清を反応させた後、洗浄し、(iv)免疫に用いた動物のIgGに対する酵素標識した抗体と反応させて洗浄し、(v)標識酵素により発色または発光する基質を用いた反応を行い、発色量または発光量を測定して抗体価の指標とする、という手順で行うことができる。
【0122】
その血清が抗原としたペプチドに対して十分な抗体価を示した非ヒト動物より、血液を採取して血清を調製する。この血清、すなわち抗血清をポリクローナル抗体として使用することもできるし、該抗血清からポリクローナル抗体を精製することもできる。
【0123】
抗血清からポリクローナル抗体を精製する方法としては、例えば遠心分離、40〜50%飽和硫酸アンモニウムによる塩析、カプリル酸沈殿〔Antibodies, A Laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (1988)〕、またはDEAE−セファロースカラム、陰イオン交換カラム、プロテインAまたはG−カラムあるいはゲル濾過カラム等を用いるクロマトグラフィー等を、単独または組み合わせて処理する方法があげられる。
【0124】
(2)モノクローナル抗体の作製
本発明のペプチドのアミノ酸配列中に存在するエピトープと結合するモノクローナル抗体を作製することができる。またペプチドの溶解性等の問題で抗体がつくりにくい場合は、ペプチドをポリエチレングリコール等の親水性修飾基で修飾したエピトープを用いることも可能である。このモノクローナル抗体は、本発明のペプチドに特異的に結合することができる。
【0125】
(a)抗体産生細胞の調製
マウスまたはラットを抗原を投与する動物として用い、(1)のポリクローナル抗体の作製と同様の抗原の投与を行い、その血清が抗原としたペプチドに対して十分な抗体価を示したマウスまたはラットを、抗体産生細胞の供給源とすることができる。抗体産生細胞としては、脾細胞を用いることができる。抗体産生細胞は、十分な抗体価を示したマウスまたはラットから、例えば以下のようにして調製することができる。
【0126】
該抗体価を示したマウスまたはラットに抗原を最終投与した後3〜7日目に、脾臓を摘出する。脾臓をMEM中で細断し、ピンセットでほぐし、遠心分離した後、上清を捨て、沈殿の脾細胞を回収する。得られた脾細胞をトリス−塩化アンモニウム緩衝液(pH7.65)で1〜2分間処理し赤血球を除去した後、MEMで3回洗浄したものを抗体産生細胞として用いることができる。
【0127】
(b)骨髄腫細胞の調製
骨髄腫細胞としては、マウスまたはラットの骨髄腫細胞から樹立した株化細胞を用いることができる。株化骨髄腫細胞としては、例えば、8−アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3−X63Ag8−U1〔Curr. Topics. Microbiol. Immunol., 81, 1 (1978); Europ. J. Immunol., 6, 511 (1976)〕、SP2/0−Ag14〔Nature, 276, 269 (1978)〕、P3−X63−Ag8653〔J. Immunol., 123, 1548 (1979)〕、P3−X63−Ag8〔Nature, 256, 495 (1975)〕等があげられる。これらの細胞株は、8−アザグアニン培地〔RPMI−1640培地にグルタミン(1.5mmol/L)、2−メルカプトエタノール(5×10
−5mol/L)、ジェンタマイシン(10μg/mL)およびウシ胎児血清(10%)を加えた培地(以下、正常培地という)に、さらに8−アザグアニン(15μg/mL)を加えた培地〕で継代するのが好ましく、また細胞融合の3〜4日前には正常培地で培養するのが好ましい。融合には該細胞を2×10
7個以上用いるのが好ましい。
【0128】
(c)ハイブリドーマの作製
(a)で取得した抗体産生細胞と(b)で取得した骨髄腫細胞を、例えば、以下のようにしてポリエチレングリコールを用いて細胞融合させることにより、ハイブリドーマを作製できる。(a)で取得した抗体産生細胞と(b)で取得した骨髄腫細胞を、MEMまたはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)でよく洗浄し、細胞数が、抗体産生細胞:骨髄腫細胞=5〜10:1になるよう混合し、1,200rpmで5分間遠心分離した後、上清を捨てる。得られた沈殿画分の細胞群をよくほぐし、該細胞群に、攪拌しながら、37℃で、10
8抗体産生細胞あたり、ポリエチレングリコール−1000 2g、MEM 2mLおよびジメチルスルホキシド0.7mLを混合した溶液を0.2〜1mL添加し、さらに1〜2分間ごとにMEM 1〜2mLを数回添加する。添加後、MEMを加えて全量が50mLになるように調製する。該調製液を900rpmで5分間遠心分離後、上清を捨てる。
【0129】
細胞融合後の細胞は、例えば、以下のように培養し、抗体の生産量の高いハイブリドーマを選択することができる。得られた沈殿画分の細胞を、ゆるやかにほぐした後、メスピペットによる吸込み、吹出しでゆるやかにHAT培地〔正常培地にヒポキサンチン(10
−4mol/L)、チミジン(1.5×10
−5mol/L)およびアミノプテリン(4×10
−7mol/L)を加えた培地〕100mL中に懸濁する。該懸濁液を96穴培養用プレートに100μL/穴ずつ分注し、5%CO
2インキュベーター中、37℃で7〜14日間培養するのが好ましい。培養後、培養上清の一部を採取し、血清の代わりに該培養上清を用いて(1)で上述した抗体価の測定を行い、抗体価の高い培養上清に対応するハイブリドーマを、抗体の生産量の高いハイブリドーマとして選択することができる。
【0130】
該ハイブリドーマは、クローニングを行い、得られた各ハイブリドーマのクローンから、抗体を高生産するものを選択することにより、安定して抗体を高生産するハイブリドーマ細胞を得ることができる。クローニングは、例えば、限界希釈法等により行うことができ、2回繰り返す〔1回目は、HT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いた培地)、2回目は、正常培地を使用する〕のが好ましい。クローニングにより得られた各クローンの培養上清を用いて、上述の抗体価の測定を行い、強い抗体価の認められた培養上清に対応するハイブリドーマのクローンを、安定して抗体を高生産するハイブリドーマ細胞として選択することができる。
【0131】
(d)モノクローナル抗体の調製
モノクローナル抗体は、例えば、以下のように(c)で選択されたハイブリドーマをヌードマウス内で腹水癌として増殖させた後、腹水から調製することができる。2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン(プリスタン)0.5mLを腹腔内投与し、2週間飼育した8〜10週齢のマウスまたはヌードマウスに、(c)で取得した本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞5〜20×10
6細胞/匹を腹腔内に注射するのが好ましい。10〜21日後に、ハイブリドーマが腹水癌化したマウスから腹水を採取し、3,000rpmで5分間遠心分離して固形分を除去する。得られた腹水の上清より、ポリクローナル抗体で用いた方法と同様の方法でモノクローナル抗体を精製、取得することができる。
【0132】
抗体のサブクラスの決定は、マウスモノクローナル抗体タイピングキットまたはラットモノクローナル抗体タイピングキットを用いて行うことができる。ペプチド量は、ローリー法あるいは280nmでの吸光度より算出することができる。
【0133】
(3)本発明のペプチドの測定方法
上記抗体を用いて、本発明のペプチドを免疫学的に検出または定量することができる。免疫学的な検出または定量方法としては、競合法、サンドイッチ法、免疫組織化学、ウェスタンブロット、凝集法(単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック、1987;続生化学実験講座5、免疫生化学研究法、東京化学同人、1986)等があげられる。
【0134】
競合法は、本発明の抗体に、試料溶液および一定量の競合物質(測定対象の本発明のペプチドを酵素、ビオチン、放射性同位元素、蛍光物質等で標識したもの)を反応させて、試料溶液中の本発明のペプチドおよび競合物質を競合的に抗体と結合させた後、抗体と結合した競合物質の量を標識を利用して測定し、その結合量から本発明のペプチドを定量する方法である。例えば抗体をプレートやビーズ等の固相に固定化し、本発明のペプチドおよび競合物質を競合的に抗体と結合させた後、固相を洗浄し、固相上の抗体への競合物質の結合量を測定する方法、本発明のペプチドおよび競合物質を競合的に抗体と結合させた後、γ−グロブリンおよびポリエチレングリコールにより免疫複合体を沈殿させて抗体と結合していない競合物質と分離し、抗体と結合した競合物質の量を測定する方法等があげられる。例えば、5〜10点の濃度を決めた本発明のペプチドの溶液を調製し、この溶液を試料溶液とした場合の競合物質の抗体への結合量を測定して、ペプチドの濃度と競合物質の結合量をプロットした検量線を作成し、本発明のペプチドを定量する試料溶液についての、競合物質の結合量を検量線にあてはめることにより、試料溶液の本発明のペプチドを定量することができる。
【0135】
サンドイッチ法は本発明のペプチドと特異的に結合する2種類の抗体を使用する方法であり、例えば、片方の抗体をプレートやビーズ等の固相に固定化したものに試料溶液を反応させ、試料中の本発明のペプチドを固相上の抗体と結合させた後、酵素、ビオチン、放射性同位元素、蛍光物質等で標識したもう一方の抗体を反応させて、固相上の抗体と結合した本発明のペプチドにさらに該標識抗体を結合させ、該標識抗体の結合量を標識物質を利用して測定し、その結合量から本発明のペプチドを定量する方法があげられる。例えば、5〜10点の濃度を決めた本発明のペプチドの溶液を調製し、この溶液を試料溶液とした場合の、標識抗体への結合量を測定して、ペプチドの濃度と標識の結合量をプロットした検量線を作成し、本発明のペプチドを定量する試料溶液についての、標識抗体の結合量を検量線にあてはめることにより、試料溶液の本発明のペプチドを定量することができる。
【0136】
酵素免疫測定法は、上記の競合法、サンドイッチ法において、競合物質あるいは抗体をアルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素で標識し、該標識酵素により発色または発光する試薬を反応させ、その発色または発光量から競合物質または標識抗体の結合量を測定する定量方法である。また、ラジオイムノアッセイは、上記の競合法、サンドイッチ法において、競合物質あるいは抗体を放射性同位元素で標識し、その放射活性から競合物質または標識抗体の結合量を測定する定量方法である。
【0137】
免疫組織化学は、組織や細胞を凍結またはパラフィンに包埋して作製した切片に対し、酵素、ビオチン、放射性同位元素、蛍光物質、金コロイド等で標識した本発明の抗体を反応させた後、本発明の抗体を標識物質を利用して検出し、組織または細胞における本発明のペプチドを検出する方法である。
【0138】
ウェスタンブロットは、試料に含まれる蛋白質およびペプチドをSDS−ポリアクリルアミドゲルで分離した後、ゲルからポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜、ニトロセルロース膜等に蛋白質およびペプチドをブロットし、酵素、ビオチン、放射性同位元素等で標識した本発明の抗体を反応させた後、標識物質を利用して本発明の抗体を検出し、膜上の本発明のペプチドを検出する方法である。
【0139】
凝集法は、本発明の抗体を固定化したラテックス等の粒子と、試料溶液とを反応させて、試料中の本発明のペプチドに粒子上の抗体が結合することにより生ずる粒子の凝集を、吸光度の測定により検出または定量する方法である。
【0140】
<5.本発明のペプチドの活性を阻害または亢進する物質のスクリーニング方法>
本発明のペプチドのインスリン分泌促進活性を阻害する物質は、(i)哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株に、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩および被験物質を接触させた場合の応答を測定し、(ii)該哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に被験物質の非存在下で、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を接触させた場合の応答と比較し、(iii)比較の結果、被験物質の存在下で応答が抑制される場合にその被験物質を本発明のペプチドのインスリン分泌活性を阻害する候補物質として選択すること、によりスクリーニングできる。
【0141】
また同様に、(i)哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株に、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩および被験物質を接触させた場合の応答を測定し、(ii)該哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に被験物質の非存在下で、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を接触させた場合の応答と比較し、(iii)比較の結果、被験物質の存在下で応答が促進される場合にその被験物質を本発明のペプチドのインスリン分泌促進活性を亢進する候補物質として選択すること、により本発明のペプチドのインスリン分泌促進活性を亢進する物質をスクリーニングできる。
【0142】
哺乳動物としては、上記1.の項において列挙したものが挙げられる。哺乳動物は、好ましくは、霊長類(ヒト等)またはげっ歯類(ラット等)である。
【0143】
膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株への本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質の接触は、インビボ又はインビトロにおいて行われる。
【0144】
インビボ試験は、非ヒト哺乳動物に、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質を、膵臓、膵島又は膵細胞に到達し得るように投与することにより実施することが可能である。本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質を投与する際に、グルコース負荷を行い、ベーサルなインスリン分泌を誘導することもまた好ましい(国際公開第00/01388号パンフレット)。
【0145】
インビトロ試験は、哺乳動物から単離された膵臓、膵島又は膵細胞、又は樹立された膵β細胞株を、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質を含む適切な培地中で培養することにより実施することが可能である。培養条件としては、哺乳動物組織や細胞の通常の培養条件を用いることができ、当業者は容易にこれを設定することができる。
【0146】
膵臓からの膵島の単離は、例えば、Transplantation, 43, 725 (1987)に記載された方法に従い実施することができる。
【0147】
膵細胞には、膵島を構成するあらゆる細胞が含まれる。膵細胞としては、α細胞、β細胞、δ細胞、PP細胞等が挙げられる。膵細胞は、好ましくは膵β細胞である。インビトロ試験においては、インスリン分泌能を有する初代培養膵β細胞が好ましく用いられる。膵β細胞の調製方法は、実施例に示した方法以外にも、例えば胚性幹細胞(ES細胞)などから膵β細胞を分化誘導して調製してもよい〔Proc. Natl. Acad. Sci., 99, 16105 (2002)〕。
【0148】
膵β細胞株としては例えば、BRIN-BD11細胞〔Diabetes, 45, 1132 (1996)〕、INS-1細胞〔Endocrinology, 130, 167 (1992)〕、βTC細胞〔Proc. Natl. Acad. Sci., 85, 9037(1988)〕、あるいはMIN6細胞〔Endocrinology, 127, 126 (1990)〕、RINm5F細胞〔Diabetes, 31, 521 (1982)〕、HIT-T15(ATCC CRL-1777)細胞などをあげることができる。
【0149】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩は、インスリン分泌促進効果を誘導するのに十分な濃度が、膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株において達成されるように、哺乳動物に投与され、又は培地に添加される。そのような濃度は、通常1pmol/L〜10μmol/Lの範囲であり、好ましくは0.001〜1μmol/Lの範囲である。
【0150】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩が有するインスリン分泌促進効果は、グルコース濃度依存的であるので、グルコースの存在下で哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株に、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩および被験物質を接触させることが好ましい。グルコース濃度は、例えば10mmol/L以上、好ましくは16.7mmol/L以上である。また、グルコース濃度が高すぎると、細胞毒性が発現する可能性があるため、グルコース濃度は、通常50mmol/L以下、好ましくは30mmol/L以下である。従って、インビボ試験においては、膵臓、膵島又は膵細胞におけるグルコース濃度が上記範囲となるように、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質の投与の前又は後に、グルコース負荷をかけることが好ましい。インビトロ試験においては、グルコースを上記の濃度範囲となるように、培地に添加することが好ましい。
【0151】
応答としては、膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を接触させたときに起こる、測定可能な生物学的応答であれば、いかなる応答でもかまわないが、例えば細胞内カルシウムイオン濃度の変化、細胞内cAMP濃度の変化、あるいはインスリン分泌量の変化などがあげられる。好ましくは、細胞内カルシウムイオン濃度の変化又はインスリン分泌量の変化であり、より好ましくは、インスリン分泌量の変化である。
【0152】
細胞内カルシウムイオン濃度は、例えば、以下の(i)又は(ii)に記載した方法により測定することができる。
(i)アポエクオリン発現トランスジェニックマウスの利用
アポエクオリン遺伝子の発現ベクターを受精卵に導入して作製した、全身にアポエクオリンを発現するトランスジェニックマウス(国際公開第2002/010371号パンフレット)から、膵臓、膵島又は膵細胞を採取する。得られた膵臓、膵島又は膵細胞をセレンテラジンを含む培地に懸濁して培養し、細胞内にセレンテラジンを取り込ませてエクオリン(アポエクオリンとセレンテラジンの複合体)を形成させる。エクオリンは、細胞内カルシウムイオンと結合して発光するので、ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を含む培地を添加する前と添加後の細胞の毎秒の相対発光量をルミノメーターで経時的に測定し、細胞内カルシウムイオン濃度の指標とする。被験物質の添加により、相対発光量が増加する場合に、該被験物質が細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有することが確認できる。インビトロ試験の場合には、アポエクオリン発現トランスジェニックマウスに本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質を投与し、膵臓、膵島又は膵細胞における蛍光を経時的に測定する。
【0153】
(ii)カルシウム結合性蛍光試薬の利用
膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株を、カルシウムイオンの有無で、励起波長、蛍光波長あるいは蛍光強度が変化するようなFura−2、Indo−1、Fluo−3等のカルシウムイオン結合性の蛍光試薬を含む緩衝液に懸濁して培養し、細胞内に取り込ませる。Fura−2はカルシウムイオンと結合することにより、蛍光励起波長のピークが380nmから340nmにシフトするので、被験物質を添加する前と添加後に、380nmの波長で励起した時の蛍光強度に対する340nmの波長で励起した時の蛍光強度の比を蛍光測定装置で測定し、細胞内カルシウムイオン濃度の指標とする。被験物質の添加により、蛍光強度の比が増加する場合に、該被験物質が細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有することが確認できる。Indo−1はカルシウムイオンと結合することにより、蛍光波長が480nmから400nmにシフトするので、被験物質を添加する前と添加後に、480nmの波長の蛍光強度に対する400nmの波長の蛍光強度の比を蛍光測定装置で測定し、細胞内カルシウムイオン濃度の指標とする。被験物質の添加により、蛍光強度の比が増加する場合に、該被験物質が細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有することが確認できる。Fluo−3はカルシウムイオンと結合することにより、520nmの波長における蛍光強度が大きく増加するので、被験物質を添加する前と添加後に、520nmの波長の蛍光強度の比を蛍光測定装置で測定し、細胞内カルシウムイオン濃度の指標とする。被験物質の添加により、蛍光強度の比が増加する場合に、該被験物質が細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有することが確認できる。
【0154】
細胞内cAMP及びインスリン分泌量は、ELISA等の周知の免疫学的手法を用いて測定することが出来る。
【0155】
インスリン分泌量の変化以外の応答を評価に用いた場合には、スクリーニングの結果得られた候補物質が、実際に本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩のインスリン分泌促進効果を阻害(又は亢進)するか否かを確認することが好ましい。この場合、得られた候補物質を再度上記スクリーニング方法に付し、応答としてインスリン分泌量の変化を採用することにより、候補物質が、実際に本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩のインスリン分泌促進効果を阻害(又は亢進)するか否かを判断することが出来る。
【0156】
上記のスクリーニング方法で得られる本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩のインスリン分泌促進活性を亢進する候補物質は、糖尿病あるいは悪液質等の予防または治療剤の候補物質として医薬の開発に有用である。従って、本スクリーニング方法は、糖尿病あるいは悪液質等の予防または治療剤の候補物質のスクリーニング方法としても有用である。本発明はこのような糖尿病あるいは悪液質等の予防または治療剤の候補物質のスクリーニング方法をも提供するものである。この場合、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩のインスリン分泌促進活性を亢進する候補物質が、糖尿病あるいは悪液質等の予防または治療剤の候補物質として選択される。
【0157】
この場合、得られた候補物質が実際に糖尿病あるいは悪液質等を予防又は治療するか否かを確認することが好ましい。例えば、糖尿病を予防又は治療する活性の有無は、例えば、糖尿病モデル非ヒト哺乳動物に対して、候補物質を投与し、投与から一定時間が経過した後、該非ヒト哺乳動物における血糖値等の糖尿病の症状を評価し、これを候補物質を投与しない場合と比較することにより、決定することができる。悪液質の場合も同様である。
【0158】
糖尿病モデル非ヒト哺乳動物としては、KKマウス(例えば、KK/Taマウス、KK/Snkマウス)、KK-A
yマウス(例えば、KK-A
y/Taマウス)、C57BL/KsJ db/dbマウス、C57BL/6J db/dbマウス、ob/obマウス、高脂肪食負荷マウス等の2型糖尿病モデルマウス、およびGKラット、ZDFラット、高脂肪食負荷ラット等の2型糖尿病モデルラット等を挙げることができる。また、糖尿病モデル非ヒト哺乳動物として、ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病モデル動物やmultiple low doses of STZモデル等の1型糖尿病モデル動物等も挙げられる。
【0159】
そして、糖尿病を予防又は治療する活性を有することが確認された候補物質を、糖尿病を予防又は治療する物質(或いはその候補物質)として選択することができる。
【0160】
このようにして得られた物質は、本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩と同様に、糖尿病(例、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病等)、耐糖能不全、糖尿病性合併症(例、神経障害、腎症、網膜症、白内障、大血管障害、糖尿病性壊疽)の予防または治療薬、インスリン分泌促進剤の有効成分として用いることができる可能性がある。さらに悪液質などの代謝異常症の予防または治療薬の有効成分としても用いることができる可能性がある。
【0161】
とりわけ、本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩は、高濃度グルコースの存在下において優れたインスリン分泌促進作用を発揮する、グルコース濃度依存性インスリン分泌促進剤として有用である。したがって、上記スクリーニング方法により得られた物質は、本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩と同様に、インスリンの弊害である血管合併症や低血糖誘発などの危険性の低い、安全な糖尿病の予防・治療剤などとして特に有用である可能性がある。
【0162】
一方で本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩のインスリン分泌促進活性を阻害する物質は、例えばインスリン過多による低血糖等の予防または治療剤の候補物質として医薬の開発に有用である。従って、本スクリーニング方法は、インスリン過多による低血糖等の予防または治療剤の候補物質のスクリーニング方法としても有用である。本発明はこのようなインスリン過多による低血糖等の予防または治療剤の候補物質のスクリーニング方法をも提供するものである。この場合、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩のインスリン分泌促進活性を阻害する候補物質が、インスリン過多による低血糖等の予防または治療剤の候補物質として選択される。
【0163】
この場合、得られた候補物質が実際にインスリン過多による低血糖等を予防又は治療するか否かを確認することが好ましい。例えば、インスリン過多による低血糖を予防又は治療する活性の有無は、例えば、インスリン過多による低血糖のモデル非ヒト哺乳動物に対して、候補物質を投与し、投与から一定時間が経過した後、該非ヒト哺乳動物における血糖値等の低血糖の症状を評価し、これを候補物質を投与しない場合と比較することにより、決定することができる。
【0164】
そして、インスリン過多による低血糖を予防又は治療する活性を有することが確認された候補物質を、インスリン過多による低血糖を予防又は治療する物質(或いはその候補物質)として選択することができる。
【0165】
<6.本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニング方法>
本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストまたはアンタゴニストは、(i)哺乳動物の膵細胞若しくは膵β細胞株、またはこれらの細胞の細胞膜画分に、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩および被験物質を接触させた場合の該細胞または該細胞の細胞膜画分に対する該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の結合量を測定し、(ii)該細胞または該細胞の細胞膜画分に被験物質の非存在下で、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩を接触させた場合の該細胞または該細胞の細胞膜画分に対する該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の結合量と比較し、(iii)比較の結果、被験物質の存在下で該ペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の結合量が低下する場合にその被験物質を本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストまたはアンタゴニストの候補物質として選択すること、によりスクリーニングできる。
【0166】
哺乳動物の膵細胞及び膵β細胞株としては、上記5.の項において記載したものを使用することができる。
【0167】
細胞膜画分は、膵細胞又は膵β細胞株をホモジナイズし、低速遠心により細胞デブリスを除去した後、上清を高速遠心して細胞膜含有画分を沈澱させることにより得ることが出来る。必要に応じて密度勾配遠心などにより細胞膜画分を精製してもよい。
【0168】
膵細胞若しくは膵β細胞株、または該細胞の細胞膜画分は、適当な緩衝液に懸濁する。緩衝液は、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩とこれらの細胞またはこれらの細胞の細胞膜画分との結合を阻害しない緩衝液であればいずれでもよく、例えばpH4〜10(望ましくはpH6〜8)のリン酸緩衝液やTris−HCl緩衝液等が用いられる。また、非特異的結合を低減させる目的で、CHAPS、Tween−80、ジギトニン、デオキシコール酸等の界面活性剤やウシ血清アルブミンやゼラチン等の各種蛋白質を緩衝液に加えることもできる。さらに、プロテアーゼによる本発明のペプチドやリガンドの分解を抑える目的でPMSF、ロイペプチン、E−64、ペプスタチン等のプロテアーゼ阻害剤を添加することもできる。
【0169】
例えば、10μL〜10mLの該細胞または該細胞の細胞膜画分の懸濁液に、
125I、
3H等の放射性同位元素で標識した一定の放射能量を有する本発明のペプチドを共存させて結合実験を行う。反応は0〜50℃、好ましくは4〜37℃で、20分〜24時間、好ましくは30分〜3時間行なう。反応後、ガラス繊維濾紙等で濾過し、適量の同緩衝液で洗浄した後、ガラス繊維濾紙に残存する放射活性をγ−カウンターまたは液体シンチレーションカウンターで計測する。この時の結合量を全結合量(A)とする。大過剰の非標識の同化合物を加えた条件で同様の反応を行い、その時の結合量を非特異的結合量(B)とする。試験物質を加えた条件で同様の反応を行い、その時の結合量をCとする。試験物質の結合阻害率は下記の式で求めることができる。
【0171】
そして、被験物質の存在下で本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩の結合量が低下する場合に、その被験物質を本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストまたはアンタゴニストの候補物質として選択することができる。
【0172】
更に、得られた候補物質が、本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストまたはアンタゴニストであることを確認してもよい。
【0173】
アゴニストであることの確認は、得られた候補物質が本発明のペプチドと同様のインスリン分泌促進活性を有しているか否かを試験することにより実施することが出来る。例えば、(i)哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株に、候補物質を接触させた場合のインスリン分泌量を測定し、(ii)該哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞又は膵β細胞株に候補物質を接触させない場合のインスリン分泌量と比較し、(iii)比較の結果、候補物質の存在下でインスリン分泌が促進される場合に、その候補物質を本発明のペプチドの受容体に対するアゴニスト(又はその候補物質)として選択することができる。
【0174】
この試験において使用することができる、哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞、膵β細胞株は、上記5.の項で記載したものと同一である。
【0175】
また、哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株への候補物質の接触も、上記5.のスクリーニング方法において、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質を哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株へ接触させる場合と同一の方法により、インビボ又はインビトロにおいて実施することが出来る。
【0176】
本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩が有するインスリン分泌促進効果は、グルコース濃度依存的であるので、本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストが有するインスリン分泌促進効果も同様にグルコース濃度依存的である可能性がある。そこで、本確認試験においては、グルコースの存在下で哺乳動物の膵臓、膵島、膵細胞または膵β細胞株に、アゴニストの候補物質を接触させることが好ましい。グルコース濃度は、例えば10mmol/L以上、好ましくは16.7mmol/L以上である。また、グルコース濃度が高すぎると、細胞毒性が発現する可能性があるため、グルコース濃度は、通常50mmol/L以下、好ましくは30mmol/L以下である。従って、インビボ試験においては、膵臓、膵島又は膵細胞におけるグルコース濃度が上記範囲となるように、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩及び被験物質の投与の前又は後に、グルコース負荷をかけることが好ましい。インビトロ試験においては、グルコースを上記の濃度範囲となるように、培地に添加することが好ましい。
【0177】
アンタゴニストであることの確認は、得られた候補物質が本発明のペプチドのインスリン分泌促進活性を阻害するか否かを、上記5.の本発明のペプチドの活性を阻害する物質のスクリーニング方法により試験することにより実施することが出来る。該候補物質が本発明のペプチドの活性を阻害した場合は、その候補物質を本発明のペプチドの受容体に対するアンタゴニスト(又はその候補物質)として選択することができる。
【0178】
上記本発明のスクリーニング方法で得られる本発明のペプチドの受容体に対するアゴニスト(又はその候補物質)は、本発明のペプチドまたはその薬理学的に許容される塩と同様に、インスリン分泌亢進活性を有するので、糖尿病、悪液質等の予防または治療剤の候補物質として医薬の開発に有用である。本発明のペプチドの受容体に対するアゴニストは、本発明のペプチドおよびその薬理学的に許容される塩と同様に、糖尿病(例、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病等)、耐糖能不全、糖尿病性合併症(例、神経障害、腎症、網膜症、白内障、大血管障害、糖尿病性壊疽)の予防または治療薬、インスリン分泌促進剤の有効成分として用いることができる可能性がある。さらに悪液質などの代謝異常症の予防または治療薬の有効成分としても用いることができる可能性がある。
【0179】
また本発明のペプチドの受容体に対するアンタゴニストは、本発明のペプチドが有する、インスリン分泌亢進活性を阻害するので、低血糖等の予防または治療剤の候補物質として医薬の開発に有用である。
【0180】
以下に本発明の実施例を示す。ただし本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0181】
実施例1:マウス膵島でのインスリン分泌実験
コラゲナーゼ(新田ゼラチン社)を1mg/mlとなるようにHanks’ Balanced Salt Solution(HBSS)に溶解した。麻酔下のC57BL6マウス(8週齢)を開腹し、肝臓側を結紮した膵管に十二指腸開口部より口径を調整したプラスチック管を挿入した。コラゲナーゼ液を約1.5mL注入した後、マウスを放血致死させた。コラゲナーゼ液を満たした膵臓をはさみで切り出し、コラゲナーゼ液約1.5mLを含む50mLチューブに移し、細切後、37℃で15分間インキュベートした。インキュベート後、約40mLのHBSSを加え、1分間強く撹拌した後に、氷冷下で15分間静置し、上清を捨てた。HBSSを約40mL加え、軽く撹拌した後に10分間静置後、上清を捨て、これをもう一度繰り返した。沈殿物を実体顕微鏡下で観察し、膵島をピペットマンで分離回収した。
単離した膵島を10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で37℃、CO
2インキュベーター内で2〜3時間培養した。培養後、単離した膵島を0.5mg/mLのグルコースを含むHepes Krebs−Ringer bicarbonate(HKRB)バッファー中に移してさらに1時間培養し、その後HKRBバッファーに移した。
24ウエルプレートに、1ウエル当たり200μLのHKRBバッファーを加えた後に、単離した膵島5個をHKRBバッファー100μLとともにマイクロピペットで採取し、各ウエルに加えた。その後HKRBバッファー、または5倍濃度の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドA)の溶液を終濃度が0.1μmol/Lとなるように各100μLずつ加えた。さらに、5.0または15mg/mLのグルコース溶液を100μLずつ加え、グルコース終濃度が5.5または22mmol/Lとなるようにした。添加後、37℃のCO
2インキュベーター内で1時間反応させた。反応終了後、上清を採取し、Mouse Insulin ELISAキット(メルコディア社)にてインスリン量を定量した。
【0182】
その結果、ペプチドAは低グルコース条件(5.5mmol/L)ではインスリン分泌を促進しなかったが、高グルコース条件(22mmol/L)では有意にインスリン分泌を亢進した(
図1)。ペプチドAはグルコース濃度依存的に、高グルコース条件でのみインスリン分泌を促進することが明らかとなった。
【0183】
実施例2:麻酔下ラットでの糖負荷試験
18時間絶食後のWistar系雄性ラット(11〜13週齢)にペントバルビタール(25mg/ラット)を腹腔内投与して麻酔をかけた。麻酔下のラットの大腿内側の皮膚を切開し、股静脈を露出させた。200mgグルコースおよび50μgペプチドAを、400μLの生理食塩水に溶解し、股静脈から投与した。比較対照として200mgグルコースのみを400μLの生理食塩水に溶解した液を用いた。それぞれの糖負荷20分前、15分前、10分前、5分前、および糖負荷後1、3、5、10、20、30、40、50、60分の各時点で採血し、血中インスリン濃度を測定した。インスリン濃度は、採血した血液を血清分離後、ラット超高感度インスリン測定キット(モリナガ社)を用いて、製造者のインストラクションに従って測定した。
【0184】
その結果、ペプチドAおよびグルコース同時投与群では負荷1、3、5および10分後の血中インスリン濃度の上昇が、グルコースのみの投与群に比較して有意に亢進されることが明らかとなった。
【0185】
実施例3:ペプチドAの誘導体ペプチドの作製
ペプチド1(配列番号6)、ペプチド2(配列番号7)およびペプチド5(配列番号8)はペプチド自動合成機PSSM-8(島津製作所製)を使用して合成した。具体的には、必要に応じて側鎖が保護されたFmocアミノ酸(渡辺化学工業)をC末端側からレジン(渡辺化学工業)に導入し、レジン上にペプチド鎖を合成した。ペプチド鎖の合成は、アミノ酸を導入後、未反応のアミノ酸を除去するためにレジン洗浄を行い、さらに側鎖が保護されたFmocアミノ酸からFmoc基を除去するためにピペリジンで処理し、ピペリジンを除去するためにレジン洗浄を行うという操作を繰り返すことで行った。
【0186】
カップリング試薬には0.5 mol/L HBTU [2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3- Tetramethyluronium]/HOBT (1-hydroxybenzotriazole) 溶液、1 mol/L DIEA (N,N-di isopropyl ethylamine) 溶液を用いた。Fmocアミノ酸はレジン導入量(レジン置換率×レジン量)の10倍量を用いた。なお試薬量はペプチド合成機PSSM-8の使用基準に従って算出した。合成後の側鎖が保護されたペプチド付きレジンが入った反応容器にDMF (N,N-dimethyl formamide) 1 mLを加え、窒素を吹き付けてDMFを素通りさせた。同様の洗浄操作をDMF 1 mLにて計5回、メタノール 1 mLにて3回、ブチルエーテル 1 mLにて2回行った後、減圧真空機で一晩乾燥させた。乾燥物にクリベージカクテル(90 % TFA、5 % Thioanisol、5 % 1,2-ethanedithiol)1 mLを加え、室温で2時間反応させ、ペプチドの切断、および側鎖保護基の除去を行った。窒素を吹き付けた後、溶媒を15 mLチューブに移し、ジエチルエーテルを10 mL添加し、攪拌した後に、遠心分離(5000rpm、室温、5min)を行い、沈殿物を得た。再び、沈殿物にジエチルエーテルを加え、上記のエーテル沈殿の操作を計3回繰り返した。沈殿物は真空減圧機で一晩乾燥させ、粗ペプチドを得た。粗ペプチドは90 % 酢酸1mlに溶解させた後に、2 mol/L の酢酸を4 mL添加、混合し、粗ペプチド溶液とした。粗ペプチド溶液を逆相HPLCにて分析し、合成純度を確認した。逆相HPLCを用いてMALDI-TOF-MSの正イオン測定でクロマトピークを同定することにより、ペプチド1、2および5をそれぞれ分取精製した。
【0187】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端をアセチル化したペプチド3(配列番号9)は、上記のように合成したペプチド付きレジンをDMF 1 mLで5回洗浄し、無水酢酸(20当量)/DMFを添加して室温で1時間撹拌して反応させた。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドのC末端をアミド化したペプチド4(配列番号10)については、アミド化レジンRink amide MBHA Resin (Nova Biochem) を用いて上記のように合成した。DMF 1 mLにて5回、メタノール 1 mLにて3回、ブチルエーテル 1 mLにて2回の洗浄操作を行った後、減圧真空機で一晩乾燥させた。乾燥物を上記のペプチド1、2および5と同様な方法で処理し、ペプチド3および4の分取精製を行った。
【0188】
実施例4:ペプチドAの誘導体ペプチドを用いたマウス膵島でのインスリン分泌実験
コラゲナーゼ(和光純薬工業社)、およびディスパーゼ(インビトロジェン社)それぞれを1 mg/mLとなるようにHanks’ Balanced Salt Solution(HBSS)で溶解して酵素溶液を調製した。頚椎脱臼を施した8〜10週齢オスマウスを開腹し、総胆管から膵側に向けて約1mLの酵素溶液を注入した。膨らんだ膵臓を腸等から剥離して切り出し、細部用剪刀を用いて約1 mm
3の大きさに細かく切断した。酵素溶液を新たに5 mL添加し、37℃で15分間インキュベートした。インキュベート後、HBSSを10 mL添加して1分間程度激しく撹拌し、組織を分離させた後、15 mLチューブ2本に分注した。1,000 rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。沈渣はそれぞれ4 mLのHBSSにサスペンドさせ、1,000 rpmで5分間遠心分離し、上清を回収した。同様の操作を一回繰り返して、上清を回収した。それぞれの上清から繊維状の塊を回収し、あわせて酵素溶液2 mlに移して37℃で50分間インキュベートした。インキュベート後、1,600 rpmで5分間遠心分離した。上清を除き、膵島を含む沈渣を10 % (v/v) ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地に懸濁させ、CO
2インキュベーター内37℃で一時間インキュベートした。
【0189】
37℃で培養した膵島を含む培養液を回収し、1,600 rpmで5分間遠心分離した。上清を除き、0.01 % (w/v) ウシ血清アルブミン(和光純薬工業社)を含むHBSSで一回洗浄した。1,600 rpmで5分間遠心、上清を除いた後、0.01 % (w/v) ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝食塩水で一回洗浄した。1,600 rpmで5分間遠心し上清を除いた。3.7 mmol/Lグルコースおよび0.01 % (w/v) ウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝食塩水に懸濁させ、24ウエルプレートへ200μL/ウエルとなるように分注した。
【0190】
CO
2インキュベーター内で30分間プレインキュベートした後、リン酸緩衝食塩水を200μL/ウエルで添加し、終濃度16.7 mmol/L のグルコース、ペプチドAおよび1〜4が、それぞれ終濃度1μmol/Lとなるように調製した。CO
2インキュベーター内で60分間インキュベートした後、上清を回収し5,000 rpmで5分間遠心分離し、その上清を回収した。
【0191】
上清中のインスリン量をMouse Insulin ELISA(メルコディア社)を用い、インストラクションに従って定量した。その結果は
図3に示すとおり、ペプチドA、ペプチド1およびペプチド2は顕著にインスリン分泌を亢進し、ペプチド3もインスリン分泌を亢進した。また、
図4に示すとおり、ペプチド4についてもインスリン分泌を亢進した。
【0192】
実施例5:正常ラットにおける静脈内糖負荷試験
雄性Sprague Dawley ラット(日本チャールス・リバー)を約16時間絶食させ体重を測定した後、尾静脈から採血を実施したときの血清グルコース濃度をプレ値とした。ペプチド3およびペプチド4を、それぞれ50 nmol/mLの濃度になるようにPBS(Phosphate-buffered saline)に溶解した。調製した上記ペプチド3およびペプチド4のPBS溶液をそれぞれ2 mL/kgの用量で尾静脈に投与し、5分後に50 w/v%グルコース溶液を2 mL/kgの用量で尾静脈に投与した(グルコースの投与用量: 1 g/kg)。グルコース溶液投与5分および10分後に尾静脈から採血した血液は血清分離用チューブに回収し、1,850×g (冷却遠心機 日立05PR-22、日立工機社製)、4℃、20分間遠心分離して血清を回収した。血清グルコース濃度の測定にはグルコースCIIテストワコー(和光純薬工業)を用いた。
【0193】
その結果は
図5に示すとおり、ペプチド3およびペプチド4のPBS溶液は、溶媒(PBS)を投与したコントロールに比べて、グルコース静脈内投与5分後および10分後の血清グルコース濃度をいずれも低下させた。