特許第5914922号(P5914922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914922
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】半導体熱処理用ヒーター
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/40 20060101AFI20160422BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20160422BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   H05B3/40 Z
   H05B3/14 F
   H05B3/12 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-231083(P2012-231083)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-82168(P2014-82168A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2014年8月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】392012951
【氏名又は名称】アユミ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 泰三
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智之
【審査官】 宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−102195(JP,A)
【文献】 特開2001−189250(JP,A)
【文献】 特開2007−201037(JP,A)
【文献】 米国特許第06134386(US,A)
【文献】 特開平01−081186(JP,A)
【文献】 実開昭57−097813(JP,U)
【文献】 特開平03−156875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/40
H05B 3/12
H05B 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力が印加されることにより熱放射を発生する長尺状の発熱体と、
前記発熱体との間で空隙が保たれ、前記空隙を介して前記発熱体が発生する熱放射により昇温される熱板と、を有し、
前記熱板は、前記熱板に設けられた柱状の穴の中に設けられた前記発熱体との間で前記空隙が保たれるように支持手段により支持された前記発熱体により貫通され、前記空隙を介して前記発熱体が発生する熱放射により昇温されることを特徴とする半導体熱処理用ヒーター。
【請求項2】
前記発熱体は、炭素、タングステン、モリブデン、BNコンポジット、ニクロム線、および、カンタル線の少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項1に記載の半導体熱処理用ヒーター。
【請求項3】
前記熱板には前記発熱体が互いに平行に複数貫通されており、または、前記発熱体が前記熱板を介して互いに交差するように複数貫通されていることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体熱処理用ヒーター。
【請求項4】
前記発熱体は絶縁材により被覆されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体熱処理用ヒーター。
【請求項5】
前記絶縁材は、石英、サファイア、アルミナ、ホウケイ酸ガラス、または耐熱ガラスの少なくともいずれかからなることを特徴とする請求項4に記載の半導体熱処理用ヒーター。
【請求項6】
前記熱板はモリブデン、ニッケル、窒化アルミ、アルミナ、タングステン、タンタル、チタン、カーボン、ステンレス、銅、アルミニウム、および鉄の少なくともいずれかを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体熱処理用ヒーター。
【請求項7】
前記発熱体が前記熱板を貫通することにより前記熱板から突出した前記発熱体の軸方向の両端部のうち前記電力が印加される部分の断面積は、前記発熱体の前記熱板との間で前記空隙が保たれている部分の断面積より大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の半導体熱処理用ヒーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒーターに関し、例えば半導体製品の製造工程における熱処理に用いられるヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製品の製造工程においては、一般的に、ウエハを加熱して行う熱処理工程がなされる。例えば、半田バンプ同士を接合させる接合工程では、真空雰囲気においてウエハを400℃程度まで昇温させる必要があり、熱酸化工程では、酸化雰囲気においてウエハを1100℃程度まで昇温させる必要がある。
【0003】
ウエハの昇温に用いられるヒーターは、工程時間短縮のために昇温レートの増大が要求されるとともに、コスト低減のために長寿命化が要求される。さらに、製品歩留を向上させるためにヒーター表面における温度バラツキの低減が要求される。
【0004】
ヒーターの昇温レートの増大とともに長寿命化を実現する従来技術としては、下記特許文献に記載されたものがある。すなわち、金属製のプレート本体に矩形断面の溝を設け、当該溝の断面形状と同一の断面形状を有するカートリッジヒーターを当該溝に収納し、プレート本体とカートリッジヒーターとに密着するように金属製の蓋板により蓋をすることによりヒーターを構成する。これにより、通常円柱形状を有するカートリッジヒーターをプレート本体に埋没させることによる加工上の困難性を回避し、カートリッジヒーターとプレート本体とを面接触させることで熱伝導性を向上させ、ヒーターの寿命を向上させるというものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−113967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術は、カートリッジヒーターとプレート本体を面接触させるため、カートリッジヒーター表面の凹凸や製造バラツキに起因してカートリッジヒーターとプレート本体との間の局所的な隙間が生じる。そのため、当該局所的な隙間において熱伝導がなされないことでカートリッジヒーターの温度が当該隙間において局所的に上昇しヒーターの寿命が低下するとともに、ヒーター表面における温度バラツキを増大させる。この場合に、ヒーターの寿命を向上させようとすると、ヒーターのワット密度を低下させなければならず、ヒーターの温度の増大および昇温レートの向上が困難になるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、熱板に対し発熱体を熱板との間で空隙が保たれるように配置し、発熱体に電力が印加されることで発生する熱放射により熱板を昇温することによりヒーターを構成する。これにより、熱板の昇温に寄与する熱放射の割合を増大させることができるため、ヒーターの目標温度によらず、ヒーター表面における温度バラツキを低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る半導体処理用ヒーターは、電力が印加されることにより熱放射を発生する長尺状の発熱体と、発熱体との間で空隙が保たれ、当該空隙を介して発熱体が発生する熱放射により昇温される熱板と、を有する。熱板は、当該熱板に設けられた柱状の穴の中に設けられた発熱体との間で空隙が保たれるように支持手段により支持された発熱体により貫通され、空隙を介して発熱体が発生する熱放射により昇温される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るヒーターによれば、熱板に対し発熱体を熱板との間で空隙が保たれるように配置し、発熱体に電力が印加されることで発生する熱放射により熱板を昇温する。これにより、熱板の昇温に寄与する熱放射の割合を増大させることができるため、ヒーターの目標温度によらず、ヒーター表面における温度バラツキを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るヒーターの正面図である。
図2図1のAA’における断面図である。
図3図1のBB’における断面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るヒーターの上面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るヒーターの側面図である。
図6】ヒーターに供給される交流電力を発生する電源回路を示す図である。
図7】本発明の実施例によるヒーターの温度、および最大温度差の時間依存性の測定結果を、比較例と比較して示す図である。
図8】第1実施形態に係るヒーターに対し上熱板および下熱板の構成を変えた第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係るヒーターの第1実施形態の図2に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係るヒーターについて詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るヒーターの正面図である。図2は、図1のAA’における断面図である。図3は、図1のBB’における断面図である。図4は、ヒーターの上面図である。図5は、ヒーターの側面図である。
【0013】
なお、図1においては、ヒーターを設置するための基準板200、絶縁シール210、211、支柱220、およびヒーターにより加熱処理されるウエハ300も併せて図示されている。また、図5においては、第1電極板130、第2電極板131、第1電極140、および第2電極141は省略されている。
【0014】
図1〜5を参照して本実施形態に係るヒーター10の構成について説明する。
【0015】
ヒーター10は、カーボンロッド150、熱板100、保温板110、111、第1ヒーター電極120、第2ヒーター電極121、第1電極板130、第2電極板131、第1電極140、および第2電極141を有する。
【0016】
熱板100は、互いに対応する位置に半円柱状の窪みを複数有する上熱板100aと下熱板100bとが重ね合わされることにより構成される。対応する窪み同士が互いに対面するように上熱板100aと下熱板100bとが重ね合わさることにより、熱板100には複数の円柱状の穴101が設けられる。上熱板100aと下熱板100bとは、重ね合わされた状態で複数のネジ102により固定される。
【0017】
なお、熱板100は、一枚の板に当該穴を貫通する複数の円柱状の穴101が設けられることにより構成されてもよい。
【0018】
熱板100は、基準板200に複数の支柱220により固定される。各支柱220は、一端が熱板100の底面に、他端が基準板に固定されることにより、基準板200を基準として熱板100を支持することができる。各支柱220は、例えば、ネジにより一端が熱板100の底面に、他端が基準板に固定されることができる。
【0019】
熱板100に設けられた円柱状の各穴101には円柱状のカーボンロッド150がそれぞれ貫通される。これにより、熱板100にはカーボンロッド150が互いに平行に複数貫通される。この際、カーボンロッド150は、熱板100との間で空隙103が保たれるように熱板100を貫通する。このため、熱板100の円柱状の穴101の直径は、円柱状のカーボンロッド150の直径より大きくなるように設けられる。なお、熱板100にはカーボンロッド150が互いに前記熱板100を介して交差するように複数貫通されてもよい。
【0020】
熱板100はモリブデン(Mo)により構成されることが望ましい。ウエハ300の接合工程によってはウエハ300を加熱しつつ加圧する場合があり、熱板100の素材として高融点で高い硬度を有するモリブデンを用いることにより、長時間にわたる高温高圧条件により生じ得る熱板100の変形を防止することができる。なお、熱板100は、ニッケル(Ni)、窒化アルミ(AlN)、アルミナ(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、カーボン、ステンレス、銅、アルミニウム、および鉄の少なくともいずれかにより構成されてもよい。また、熱板100は、モリブデン、ニッケル、窒化アルミ、アルミナ、タングステン、タンタル、チタン、カーボン、ステンレス、銅、アルミニウム、または鉄の少なくともいずれかを主要材料とすればよく、他の材料が含まれていてもよい。すなわち、これらの材料が50重量%以上含まれていればよい。
【0021】
カーボンロッド150は、固体の炭素からなる円柱状の発熱体であり、電力が供給されることにより熱を発生させる。なお、カーボンロッド150は、例えば、グラファイトまたはカーボンの焼結体により構成されることができ、炭素以外の元素が含まれてもよい。なお、カーボンロッドの形状は長尺状であればよく、円柱状に限定されない。
【0022】
なお、カーボンロッド150は、絶縁材により被覆されることにより、カーボンロッド150と熱板100との間で空隙103が保たれるようにしてもよい。これにより、カーボンロッド150と熱板100との位置関係がずれてもカーボンロッド150と熱板100との間に絶縁材が存在することでカーボンロッド150と熱板100との間で空隙103が保たれることができる。絶縁材としては、例えば、石英、サファイア、アルミナ(Al)、ホウケイ酸ガラス、または耐熱ガラスを用いることができる。絶縁材として放射熱の透過率が高い石英を用いることにより、カーボンロッド150が発生する放射熱の強度が絶縁材により減衰されることを防止することができる。
【0023】
なお、カーボンロッド150が絶縁材により被覆される場合は、絶縁材と熱板100との間で空隙が保たれるようにしてもよいことは勿論である。
【0024】
カーボンロッド150は、タングステン、モリブデン、BNコンポジット、ニクロム線、および、カンタル線の少なくともいずれかの発熱体と代替されることができる。カーボンロッド150は、酸素雰囲気中での熱処理を行う場合、1000℃に達すると燃焼するため、1000℃を超える昇温には用いることができない。しかし、例えば、発熱体としてカンタル線を用いることにより、酸素雰囲気中でも少なくとも1400℃まで昇温することができる。
【0025】
また、カーボンロッド150は、炭素以外の材料を含んでもよい。例えば、炭素以外の材料としてセラミックを含ませることによりコスト低減を実現できる。ただし、発熱効率を向上させるためにカーボンロッド150における炭素の比率を50重量%以上とすることが望ましい。同様に、タングステン、モリブデン、BNコンポジット、ニクロム線、または、カンタル線を発熱体とする場合も、発熱効率の観点から、これらの材料の比率を50重量%以上とすることが望ましい。
【0026】
第1ヒーター電極120は、互いに対応する位置に半円柱状の窪みを複数有する上ヒーター電極板120aと下ヒーター電極板120bとが重ね合わされることにより構成される。対応する窪み同士が互いに対面するように上ヒーター電極板120aと下ヒーター電極板120bとが重ね合わさることにより、第1ヒーター電極120には複数の円柱状の穴120hが設けられる。第1ヒーター電極120に設けられる円柱状の穴120hの中心は熱板100に設けられる円柱状の穴101の中心と一致している。上ヒーター電極板120aと下ヒーター電極板120bとは、互いに重ね合わされた状態で複数のネジ120sにより固定される。
【0027】
第1ヒーター電極120は、第1ヒーター電極120に設けられた円柱状の穴120hにおいて円柱状のカーボンロッド150の一端部150epにより貫通される。この際、カーボンロッド150の一端部150epは、熱板100との間で隙間が空かないように熱板100を貫通する。このため、第1ヒーター電極120に設けられる円柱状の穴121の直径は、円柱状のカーボンロッド150の直径と略同一となるように設けられている。カーボンロッド150の一端部150epを、熱板100との間で隙間が空かないように熱板100を貫通させるのは、カーボンロッド150と第1ヒーター電極120との接触面積を大きくして電気的な接続性を向上させるためである。カーボンロッド150の一端部105epを上ヒーター電極板120aと下ヒーター電極板120bとで挟み込んだ状態で上ヒーター電極板120aと下ヒーター電極板120bとをネジ120sにより固定する。これにより、第1ヒーター電極120は、カーボンロッド150と第1ヒーター電極120との間で隙間が生じないようにカーボンロッド150の一端部150epを支持することができる。
【0028】
第1ヒーター電極120は、例えば銅により構成されることができる。
【0029】
第2ヒーター電極121も第1ヒーター電極120と同様な構成を有する。すなわち、第2ヒーター電極121は、第2ヒーター電極121に設けられた円柱状の穴121hにおいて、円柱状のカーボンロッド150の他端部150emにより、第2ヒーター電極121との間で隙間が空かないように貫通されている。
【0030】
熱板100と第1ヒーター電極120との間には保温板110が設けられる。保温板110は断熱性と絶縁性を有し、第1ヒーター電極120に印加される電力が熱板100に伝わることを防止するとともに、カーボンロッド150を覆うことでカーボンロッド150の温度低下を防止する。保温板110は、例えばセラミックにより構成されることができる。なお、保温板110を省略し、熱板100と第1ヒーター電極120との間に空隙を設けるようにしてもよい。
【0031】
熱板100と第2ヒーター電極121との間にも、熱板100と第1ヒーター電極120との間に設けられる保温板110と同様の構成で保温板111が設けられる。なお、保温板111を省略し、熱板100と第2ヒーター電極120との間に空隙を設けるようにしてもよい。
【0032】
第1電極板130は、第1ヒーター電極120の、保温板110が設けられる側と反対側の側面を覆うように、当該側面に固定される。第1電極板130は、例えばネジにより第1ヒーター電極120の側面に固定されることができる。
【0033】
第1電極板130は、第1ヒーター電極120の側面を覆うことにより、第1電極140から供給される電力を均一に第1ヒーター電極120に伝達することができる。
【0034】
第1電極板130は、例えば銅により構成されることができる。
【0035】
第2電極板131も第1電極板130と同様な構成を有する。すなわち、第2ヒーター電極121の、保温板111が設けられる側と反対側の側面を覆うように、当該側面に固定される。
【0036】
第1電極140は、基準板200に設けられた貫通穴201を通って延伸され、ヒーター10に供給される電力Pを発生する電源回路に電源導入材料を介して接続される。
【0037】
第1電極140は、基準板200の貫通穴201において、基準板200との間に絶縁シール201が充填されることにより基準板200との絶縁が保たれつつ基準板200に固定される。
【0038】
第1電極140は、例えば銅により構成されることができる。
【0039】
第2電極141も第1電極140と同様な構成を有する。すなわち、第2電極141は、基準板200に設けられた貫通穴202を通って延伸され、ヒーター10に供給される電力Pを発生する電源回路に電源導入材料を介して接続される。また、第2電極141は、基準板200の貫通穴202において、基準板200との間に絶縁シール211が充填されることにより基準板200との絶縁が保たれつつ基準板200に固定される。
【0040】
絶縁シール210、211は、例えば絶縁セラミックにより構成されることができる。
【0041】
なお、ヒーター10には、熱板100の適当な位置にヒーター温度を外部でモニタリングするための図示しない温度センサーが設けられる。温度センサーは、例えば、熱電対により構成されることができる。
【0042】
上述したように、ヒーター10は基準板200に設置されるが、その際、カーボンロッド150が熱板100との間で空隙が保たれつつ熱板100を貫通するように、熱板100とカーボンロッド150との位置関係が調整される。
【0043】
第1電極板130および第2電極板131は、それぞれ第1ヒーター電極120および第2ヒーター電極121に固定され、第1ヒーター電極120および第2ヒーター電極121は、それぞれカーボンロッド150の一端部150epおよび他端部150emを支持する。また、第1電極板130および第2電極板131は、それぞれ第1電極140および第2電極141に固定され、第1電極140および第2電極140は基準板200に固定される。従って、カーボンロッド150の位置は、第1電極140および第2電極141が基準板200に固定される位置を調整することにより調整されることができる。
【0044】
また、熱板100の位置は、熱板100を支持する支柱220の基準板200に固定される位置を調整することにより調整される。
【0045】
従って、第1電極140および第2電極140が基準板200に固定される位置、および熱板100を支持する支柱220の基準板200に固定される位置の少なくとも一方を調整することにより、熱板100とカーボンロッド150との相対的な位置関係が調整される。このため、熱板100との間で空隙が保たれつつカーボンロッド150が熱板100を貫通するように、熱板100とカーボンロッド150との位置関係を調整することができる。
【0046】
次に、本実施形態に係るヒーター10の作用について説明する。
【0047】
ヒーター10に供給される交流電力Pは、温度センサーによりモニタリングされたヒーター10の温度が一定の目標温度に保たれるようにフィードバック制御がなされる。
【0048】
図6はヒーターに供給される交流電力を発生する電源回路を示す図である。図6には電源回路60とともにヒーター10が併せて示されている。
【0049】
電源装置600は、交流電力Pinを出力する。
【0050】
電力調整器601は、コントローラー603から受信した制御信号に基づいて電力Pinを調整し調整後の電力P’をトランス602に出力する。電力調整器601は、例えば、サイリスタまたはSSR(Solid State Relay)により構成されることができる。
【0051】
トランス602は、サイリスタ601により入力された電力P’を適当な電圧値を有するように変圧し、変圧後の電力Pをヒーター10に供給する。トランス602は、例えば、真空チャンバにおけるウエハ300に対する熱処理において、放電が発生しない電圧となるように変圧を行うことができる。なお、本実施形態に係るヒーター10は、真空中での使用に限定されないことは勿論である。
【0052】
ヒーター10は、供給された電力Pを複数のカーボンロッド150に並列に印加する。ヒーター10は、電力Pを熱放射に変換し熱板100を熱放射により昇温させる。
【0053】
温度センサー11は、ヒーター10の熱板100の適当な場所に設けられ、ヒーター10の温度をモニタリングする。温度センサー11は、モニタリングした温度を電流信号、または、電圧信号としてコントローラー603に出力する。
【0054】
コントローラー603は、温度センサー11から受信した電圧信号に基づいて、ヒーター10の温度が一定の目標温度に保たれるように、サイリスタ601に電力Pinを調整させるための制御信号を生成し、生成した制御信号をサイリスタ601に出力する。コントローラー603は、例えば、交流電力の位相角によりサイリスタ601の導通を制御する位相制御を行うための制御信号を生成することができる。
【0055】
ヒーター10の第1電極140および第2電源141には電源回路60から交流電力Pが供給され、それぞれ第1電極板130および第2電極板131を介して交流電力Pが伝達され、第1ヒーター電極120と第2ヒーター電極121との間に交流電力Pが供給される。
【0056】
カーボンロッド150には、第1ヒーター電極120および第2ヒーター電極121を介して交流電力Pが並列に印加される。カーボンロッド150は交流電力Pが印加されることにより放射熱を発生させる。
【0057】
カーボンロッド150と熱板100との間には空隙103が保たれているため、ヒーター10の目標温度の高低によらず、熱板100はカーボンロッド150が発生する熱放射により昇温される。すなわち、ヒーター10の目標温度によらず、熱伝導による熱板100の昇温の割合を低下させ、熱放射による熱板100の昇温の割合を増大させることができる。このように、熱板100が熱放射により昇温されることにより、熱板100に供給される熱エネルギーの面内分布が均一化される。従って、目標温度によらず、ヒーター10の面内温度バラツキを低減することができる。
【0058】
また、カーボンロッド150と熱板100との間には空隙103が保たれる一方、カーボンロッド150は高融点かつ低蒸気圧という特性を有する。従って、クリアランスが問題となることがなく、熱放射体であるカーボンロッドのワット密度を増大させてヒーターの温度範囲を拡大することができるとともに、高寿命化を実現できる。
【0059】
ここで、クリアランスとは、製造バラツキを考慮したときの発熱体と熱板との距離の最大値をいい、発熱体と熱板との密着度を示す値である。一般的に、例えば、シースヒーターでは、クリアランスが大きくなると、発熱体と熱板との距離が最も大きい箇所において熱伝導が妨げられることにより温度が上昇し、その箇所において発熱体が溶融等により破損する可能性が生じる。従って、ヒーターの寿命を維持するためには、クリアランスが大きくなるに従い発熱体に印加されるワット密度を小さくしなければならない。
【0060】
しかし、本実施形態においては、カーボンロッド150と熱板100との間で空隙103が保たれることによりカーボンロッド150からの熱伝導は全体的に妨げられるが、カーボンロッド150は高融点かつ低蒸気圧という特性を有するため、温度上昇による溶融や昇華による破損が問題となることはほとんどない。
【0061】
(実施例)
本実施形態の実施例について説明する。
【0062】
ヒーターの熱板の複数個所における温度、および最大温度差の時間依存性を測定し、ヒーターの昇温レートおよび温度バラツキについて、本実施形態による実施例と従来例との比較を行った。
【0063】
[条件と方法]
本実施例および従来例のヒーターの実施条件および方法は、次の通りである。
1.本実施例の実施条件および方法
・ヒーターの発熱体として直径3.8mmのカーボンの焼結体からなる円柱状のカーボンロッドを26本用いた。
・カーボンロッドを1.1mm厚の石英で被覆した。
・一辺の長さが320mmの略正方形の上面を有し、厚さが10mmの銅製の熱板に直径6.5mmの円柱状の穴を設け、熱板とカーボンロッドを被覆している石英の表面との間に0.25mmの空隙を有するように、当該穴をカーボンロッドにより貫通させた。
図6の電源回路により、目標温度を260℃として、カーボンロッドに最大値25.3kVAの交流電力を印加した。
・熱板の均等に離隔した17箇所における温度および最大温度差の時間依存性を測定した。
2.従来例の実施条件
・ヒーターの発熱体として直径6.5mmの円柱状のシースヒーターを26本用いた。
・一辺の長さが320mmの略正方形の上面を有し、厚さが10mmの銅製の熱板に直径6.5mmの円柱状の穴を設け、熱板とシースヒーターの表面とが密着するように、当該穴をシースヒーターにより貫通させた。
図6の電源回路により、目標温度を260℃として、シースヒーターに最大値1kVAの交流電力を印加した。なお、シースヒーターへの印加電力を1kVAとしたのは、シースヒーターに信頼性の面から許容されているワット密度は4W/cmであり、これを超えるワット密度となる電力をシースヒーターに印加することができないからである。
・熱板の均等に離隔した4箇所における温度および最大温度差の時間依存性を測定した。
【0064】
[結果]
図7は、本発明の実施例によるヒーターの温度、および最大温度差の時間依存性の測定結果を、比較例と比較して示す図である。図7のAは比較例による測定結果を示し、図7のBは実施例による測定結果を示している。
【0065】
図7から判るように、比較例においては、目標温度である260℃に至るまでに18〜30分以上の時間を要している。一方、実施例においては、2.5〜2.7分程度の時間で目標温度である260℃に至っている。従って、実施例の昇温レートは比較例よりも少なくとも6倍の昇温レートであり、本実施形態により昇温レートの向上を実現できることが実証された。
【0066】
また、図7から判るように、比較例においては、昇温時の最大温度差が40℃で、均熱時の最大温度差が22℃程度である。一方、実施例においては、比較例の4倍以上の測定箇所における測定にもかかわらず、昇温時の最大温度差が10℃で、均熱時の最大温度差が4℃程度である。従って、実施例の温度バラツキは、比較例よりも、昇温時で25%に低減され、均熱時で18%に低減されており、本実施形態により温度バラツキの低減を実現できることが実証された。
【0067】
なお、本実施例においては、カーボンロッドに最大値25.3kVAの交流電力を印加したが、最大値40kVAの交流電力を印加することによりさらに昇温レートの向上を実現できることを確認している。
【0068】
以上、本発明の第1実施形態に係るヒーターについて説明したが、本実施形態は以下の効果を奏する。
【0069】
熱板に対し発熱体を熱板との間で空隙が保たれるように貫通させ、発熱体に電力が印加されることで発生する熱放射により熱板を昇温する。これにより、熱板の昇温に寄与する熱放射の割合を増大させることができるため、ヒーターの目標温度によらず、ヒーター表面における温度バラツキを低減することができる。
【0070】
また、発熱体としてカーボンロッドを使用することにより、カーボンロッドの高融点かつ低蒸気圧という特性を利用することで、熱放射体であるカーボンロッドのワット密度を増大させてヒーターの温度範囲を拡大し、昇温レートを向上させ、かつ、寿命を向上させることができる。
【0071】
また、熱板に複数のカーボンロッドを互いに平行に貫通させることにより、ヒーター表面における温度バラツキをより低減することができるとともに、ヒーター表面積を増大させることができる。
【0072】
また、発熱体が絶縁材により被覆されることにより、発熱体と熱板との位置関係がずれても発熱体と熱板との間に絶縁材が存在することで発熱体と熱板との間で空隙が保たれることができる。
【0073】
また、熱板をモリブデンにより構成することにより、熱処理工程においてウエハが加圧される場合であっても熱板が変形することを防止することができる。
【0074】
また、発熱体を被覆する絶縁材に石英を用いることにより、発熱体が発生する放射熱の強度が絶縁材により減衰されることを防止することができる。
【0075】
以上、本発明の第1実施形態に係るヒーターについて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0076】
図8は、第1実施形態に係るヒーターに対し上熱板および下熱板の構成を変えた第1実施形態の変形例を示す断面図である。図8は、図3の断面図と対応する図面である。
【0077】
図8に示すように、熱板100は、U字状の溝を複数有する上熱板100a’と平板状の下熱板100b’とが重ね合わされることにより構成されてもよい。上熱板100a’のU字状の溝の上に平板状の下熱板100bが重ね合わさることにより、熱板100には複数の柱状の穴101’が設けられる。
【0078】
熱板100をこのような構成としても、カーボンロッド150と熱板100との間で空隙103を保つことができる。従って、本変形例も第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0079】
さらに、本変形例によれば、下熱板100b’に対する加工が簡易化されるため、コスト低減を実現することができる。
【0080】
また、上記実施形態においては、カーボンロッドが長尺状の形状を有するものとして説明したが、カーボンロッドは板状の形状を有してもよい。
【0081】
また、上記実施形態においては、熱板に対しカーボンロッドを熱板との間で空隙が保たれるように貫通させ、当該空隙を介してカーボンロッドが発生する熱放射により熱板を昇温している。しかし、例えば、熱板の底面との間で空隙が保たれるように熱板の下方にカーボンロッドを配置し、当該空隙を介してカーボンロッドが発生する熱放射により熱板を昇温してもよい。
【0082】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るヒーターについて説明する。本実施形態と第1実施形態とで異なる点は、第1実施形態におけるカーボンロッドは断面積が一定の円柱状を有するのに対し、本実施形態におけるカーボンロッドは、両端部の断面積が熱板との間で空隙が保たれている部分の断面積より大きい点である。これ以外の点については、本実施形態は第1実施形態と同様であるので重複となる説明は省略する。
【0083】
図9は、本発明の第2実施形態に係るヒーターの第1実施形態の図2に対応する断面図である。
【0084】
図9に示すように、本実施形態においては、カーボンロッド150は、両端部150ep、150emの断面積が熱板との間で空隙が保たれている部分より大きくなるように構成される。すなわち、第1ヒーター電極120および第2ヒーター電極121と接触して電力Pが印加される部分におけるカーボンロッド150の断面積は、熱板100を貫通している部分におけるカーボンロッド150の断面積より大きくされる。
【0085】
カーボンロッド150の両端部である電力Pが印加される部分により発生される放射熱は熱板100の昇温にほとんど寄与しない。従って、電力Pのエネルギーをより効率的に熱板100の昇温に寄与させるためには、当該両端部から発生する放射熱の量を小さくする必要がある。
【0086】
また、ヒーターの昇温レートの向上のためには、カーボンロッド150とカーボンロッド150に電力Pを供給する電極との接触抵抗を下げる必要がある。
【0087】
本実施形態においては、カーボンロッド150の両端部である電力Pが印加される部分におけるカーボンロッド150の断面積を、熱板との間で空隙が保たれている部分におけるカーボンロッド150の断面積より大きくする。これによりカーボンロッド150の両端部150ep、150emにおけるワット密度を低下させることができるため、当該両端部150ep、150emで発生する放射熱の量を低下させ、ヒーター10のエネルギー効率を向上させることができる。
【0088】
また、カーボンロッド150と電極との接触抵抗を下げることができるため、ヒーター10の昇温レートをさらに向上させることができる。
【0089】
以上、本発明の第2実施形態に係るヒーターについて説明したが、本実施形態は第1実施形態が奏する効果に加え以下の効果を奏する。
【0090】
電力が印加されるカーボンロッドの両端部の断面積を当該両端部以外の部分より大きくする。これにより、当該両端部における電力消費を抑制しヒーターのエネルギー効率を向上させるとともに、電極との接触抵抗を低下させることでヒーターの昇温レートをさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0091】
10 ヒーター、
100 熱板、
103 空隙、
110、111 保温板、
120 第1ヒーター電極、
121 第2ヒーター電極、
130 第1電極板、
131 第2電極板、
140 第1電極、
141 第2電極、
150 カーボンロッド、
200 基準板、
210、211 絶縁シール、
220 支柱、
300 ウエハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図8
図9
図7