特許第5915070号(P5915070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5915070-電動オイルポンプ装置 図000002
  • 特許5915070-電動オイルポンプ装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915070
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20160422BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   F04C2/10 341Z
   F04C15/00 Z
   F04C15/00 L
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-226333(P2011-226333)
(22)【出願日】2011年10月14日
(65)【公開番号】特開2013-87636(P2013-87636A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】中島 真太郎
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−112328(JP,A)
【文献】 特開平09−205289(JP,A)
【文献】 実開平3−77071(JP,U)
【文献】 特開2009−262924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプと、
前記オイルポンプの中心軸方向に隣接して設けられ、前記オイルポンプを回転駆動する電動モータと、
前記中心軸方向に前記電動モータに隣接して設けられたモータ駆動用のコントローラと、を備えた電動オイルポンプ装置において、
前記コントーラは、開口部を備えたケースと、前記開口部を覆うとともに、前記ケース内部と外部の空間を連通し、前記ケース内外の気圧差をなくす複数の空気孔が形成された蓋と、前記ケースに収容される基板と、を備え、前記空気孔は、前記蓋の外部から前記基板に搭載された電子部品までの沿面距離を長く設定するように途中屈曲して延びる経路を有たことを特徴とする電動オイルポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動オイルポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動オイルポンプ装置の具体的一例には、流体(オイル)を循環させるオイルポンプとオイルポンプを駆動する電動モータとを組み合わせたものがある。また、この電動オイルポンプ装置には、オイルポンプの中心軸方向に電動モータと、電動モータに隣接して中心軸方向にモータ制御用のコントローラを設けるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−274921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電動モータを駆動するコントローラの電子部品が実装された基板を収容するケースと、そのケースの開口部を覆う蓋との樹脂体同士を接着する方法として、例えばスピン溶着による溶着が用いられる。このとき、溶着時に生じるケース内外での空気の気圧差を解消し、安定した接着力を維持するため、蓋にケースの内部と外部を貫通する空気孔を設ける場合がある。しかしながら、この空気孔を通して外部から静電気がケース内に侵入する場合がある。このため、基板上に搭載された電子部品までの空気孔の距離が短いと、侵入した静電気が電子部品へ到達し、コントローラが誤動作したり、基板上の電子部品が破損する可能性がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ケース内に侵入した静電気によるコントローラの誤動作および基板に搭載された電子部品の破損を防止できる電動オイルポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、オイルポンプと、前記オイルポンプの中心軸方向に隣接して設けられ、前記オイルポンプを回転駆動する電動モータと、前記中心軸方向に前記電動モータに隣接して設けられたモータ駆動用のコントローラと、を備えた電動オイルポンプ装置において、前記コントーラは、開口部を備えたケースと、前記開口部を覆うとともに、前記ケース内部と外部の空間を連通し、前記ケース内外の気圧差をなくす複数の空気孔が形成された蓋と、前記ケースに収容される基板と、を備え、前記空気孔は、前記蓋の外部から前記基板に搭載された電子部品までの沿面距離を長く設定するように途中屈曲して延びる経路を有たことを要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、オイルポンプの中心軸方向にオイルポンプ、電動モータおよびコントローラが並んで配置された電動オイルポンプ装置において、コントローラの回路部品が実装された基板が、ケースに収容される。ケースの開口部を覆う蓋には、溶着時に生じるケース内外の気圧差を解消、あるいは使用環境の温度変化により発生するケース内外の気圧差を調整するための空気孔が複数設けられている。これらの空気孔は、ケースの外部と内部を連通し、途中屈曲して延びる経路が設けられている。このため、基板上の電子部品までの空気孔の経路長(沿面距離)を長く設定することができるので、静電気が空気孔から侵入しても、電子部品まで到達することが抑制され、電気的に電子部品を保護することが可能となる。この結果、コントローラの基板上に搭載された電子部品に対する耐静電気性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
ケース内に侵入した静電気によるコントローラの誤動作および基板に搭載された電子部品の破損を防止できる電動オイルポンプ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプ装置の要部を示す軸方向の部分断面図。
図2図1におけるコントローラ部分の溶着状態を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプ装置について、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプ装置の要部を示す軸方向の部分断面図である。図1に示すように、電動オイルポンプ装置1は、自動車のトランスミッション用油圧ポンプとして用いられ、オイルポンプ(例えば、内接ギヤポンプ)2とオイルポンプ2を回転駆動する電動モータ3とがハウジング内にユニット化(一体化)されている。また、コントローラ4もハウジング内に組み込まれている。なお、図1に示す電動モータ(以下、ブラシレスモータという)3は、3相巻線を有するブラシレスモータである。
【0011】
オイルポンプ2は、ここではトロコイド曲線型ポンプを用いていて、トロコイド歯形を有する内歯を備えたポンプ用アウタロータ(以下、アウタロータという)16の内周側に、外歯を備えたポンプ用インナロータ(以下、インナロータという)17を噛み合わせ、ポンプハウジング15内にこれらのアウタロータ16およびインナロータ17を偏心して回転自在に配置したものである。
【0012】
インナロータ17は、回転駆動軸7におけるロータ6を形成した部分より一方(図1の左側)に寄った部分に外嵌固着されて、この回転駆動軸7とともに回転するようになっている。アウタロータ16は、このインナロータ17の外歯よりも1歯多い内歯を備え、回転駆動軸7に対して偏心した位置を中心にポンプハウジング15内で回転自在となるように配置されている。また、インナロータ17は、外歯がこのアウタロータ16の内歯に全周の一部で噛み合うとともに、各外歯がこのアウタロータ16の内面に全周の各所でそれぞれほぼ内接しながら回転するようになっている。
【0013】
したがって、ブラシレスモータ3により回転駆動軸7が回転駆動されると、このオイルポンプ2のアウタロータ16およびインナロータ17の間隙の容積がこの回転駆動軸7の1回転の間に拡大と縮小を繰り返すので、これらの間隙に通じるポンププレート14に設けられた図示しないインポートからアウトポートに向けてオイルを送り出すポンプ動作が行われることになる。
【0014】
ブラシレスモータ3は、回転するモータ用ロータ(以下、ロータという)6と、このロータ6の外周面の外側に固定されたモータ用ステータ(以下、ステータという)5とで構成される。ロータ6は、回転駆動軸7の外周面に、例えば、複数個の永久磁石8を周方向に沿って並べて配置し形成したものである。回転駆動軸7は、ブラシレスモータ3とオイルギヤポンプ2とで共用する回転軸であり、両端部をポンプハウジング15とモータハウジング(ケース)13の内部に軸受11,12によって回転自在に軸支されている。
【0015】
ステータ5は、ロータ6の外周面の外側にわずかなエアギャップを介してステータコア9の内向きの突極(ティース)を複数配置している。このステータコア9の各ティースにはそれぞれコイル10が巻回されている。ここで、ステータコア9の軸方向両端から、コイル10をステータコア9から絶縁するための図示しないインシュレータが装着されている。
【0016】
ポンププレート14およびポンプハウジング15は、非磁性材料(例えば、アルミダイカストや炭素鋼)で構成される。モータハウジング13および蓋18は、樹脂材料(熱可塑性樹脂、例えば、強化ポリアミド)により形成される。電動オイルポンプ装置1のハウジングは、上記ポンププレート14,ポンプハウジング15、モータハウジング13、および蓋18により構成されている。
【0017】
モータハウジング13と蓋18とは、固定したモータハウジング13に対し、蓋18を回転させながら当接し、回転による摩擦熱により両者を溶着するスピン溶着により接合される。溶着時に生じるモータハウジング13内の空気の膨張によるモータハウジング13内外の気圧差、および溶着後の使用環境での温度変化によるモータハウジング13内外の気圧差を調整するために、蓋18には、モータハウジング13の外部と内部の空間を連通し、オイルポンプ2の中心軸方向に一方の面から、途中屈曲して垂直方向(径方向)に延びる経路を有して、中心軸方向に反対側の面に抜ける空気孔21が複数設けられている。
【0018】
また、本実施形態の電動オイルポンプ装置1には、ブラシレスモータ3を制御するためのコントローラ4の制御基板(以下、基板という)19がモータハウジング13に取り付けられている。基板19には、直流電源を交流に変換してブラシレスモータ3の各コイル10に駆動電流を供給するインバータ回路と、ホール素子等のセンサが検出したアウタロータ16の回転位置の情報に基づいて、このインバータ回路を制御する制御回路が実装されている。基板19の前面に、コントローラ4を構成する上記回路のコイルやコンデンサ等の電子部品20が搭載されている。
【0019】
そして、上記構成により、基板19によって制御された駆動電流がブラシレスモータ3の各コイル10に供給されるようになっている。これにより、コイル10に回転磁界が発生し、永久磁石8にトルクが生じてロータ6が回転駆動される。このようにして、インナロータ17が回転駆動されると、アウタロータ16がこれに従動して回転し、これらのアウタロータ16の内歯と,インナロータ17の外歯の間隙が拡縮を繰り返すので、インポートおよびアウトポートを通じてオイルを吸入・吐出するポンプ動作が行われる。
【0020】
次に、図2は、図1におけるコントローラ部分の溶着状態を示す概略断面図である。図2に示すモータハウジング13は、円柱形状をしており、蓋18との溶着面には全周にわたり凹部23が形成されている。モータハウジング13の開口部26を覆う蓋18の裏面側には、円環状の溶着用リブ24が形成されている。モータハウジング13および蓋18は、ともに樹脂材料により形成されており、蓋18を回転させながら溶着用リブ24を加熱溶融させ、固定した相手部品のモータハウジング13の凹部23に押し付けることで溶着される。ここでは、この接合方法としてスピン溶着が用いられる。蓋18の表面側の回転中心部には、溶着時に蓋18を回転保持するための位置決め用凹部22が設けられている。
【0021】
蓋18には、溶着時に生じるモータハウジング13内の空気の膨張によるモータハウジング13内外の気圧差、あるいは溶着後の使用環境での温度変化によるモータハウジング13内外の気圧差を調整するために、モータハウジング13の外部と内部を連通し、途中屈曲してオイルポンプ2の中心軸方向に垂直(径方向)に延びる経路を有した空気孔21が複数設けられている。これにより、空気孔21の経路は長い沿面距離を確保できる。また、コントローラ4の電子部品20が搭載された基板19をモータハウジング13内に気密を保って収容するため、蓋18の裏面側には空気孔21をふさぐ防水・防塵用の樹脂製のシール25が固着されている。なお、参考までに静電気の侵入経路を図2(矢印破線)に示している。
【0022】
次に、上記のように構成された本実施形態である電動オイルポンプ装置1の作用および効果について説明する。
【0023】
上記構成によれば、オイルポンプ2の中心軸方向にオイルポンプ2、電動モータ3およびコントローラ4が並んで配置された電動オイルポンプ装置1において、コントローラ4の回路部品である電子部品20が実装された基板19はモータハウジング13に収容され、蓋18がモータハウジング13の開口部26を覆っている。モータハウジング13および蓋18は、樹脂材料により形成されており、例えば、スピン溶着により溶着される。このとき、溶着時に生じるモータハウジング13内外の気圧差を解消、あるいは使用環境での温度変化により発生するモータハウジング13内外の気圧差を調整するための空気孔21が複数設けられている。これらの空気孔21は、モータハウジング13の外部と内部の空間を連通し、オイルポンプ2の中心軸方向に一方の面から、途中屈曲して中心軸方向に垂直(径方向)に延びる経路を有して、中心軸方向に反対側の面に通じるように形成されている。
【0024】
これにより、蓋18の厚みを増すことなく、外部から基板19上に搭載された電子部品20までの空気孔21の経路は、長く沿面距離を設定することができるので、静電気が空気孔21から侵入しても、電子部品20まで到達することが抑制され、電気的に電子部品20を保護することが可能となる。この結果、基板19上に搭載された電子部品20に対する耐静電気性能を向上させることができる。また、静電気対策として、モータハウジング13および蓋18のサイズ変更や別部品(例えば、絶縁シートなど)を新たに設ける必要がなく、コストアップを抑えることができる。
【0025】
以上のように、本実施形態によれば、モータハウジング内に侵入した静電気によるコントローラの誤動作および基板に搭載された電子部品の破損を防止できる電動オイルポンプ装置を提供できる。
【0026】
以上、本発明に係る一実施形態について説明したが、本発明はさらに他の形態で実施することも可能である。
【0027】
上記実施形態では、蓋18にモータハウジング13の内外を連通する複数の空気孔21を設け、蓋18の外側から途中屈曲して中心軸方向に垂直に延びて内側の一箇所から抜ける経路を有するようにしたが、これに限らず、静電気の影響を受けない沿面距離が確保できれば、任意の空気穴の個数、経路であってもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、樹脂材料同士の接着方法として、スピン溶着による場合を示したが、これに限らず、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着、赤外線溶着など、または、接着剤による接着であってもよい。
【0029】
上記実施形態では、オイルポンプ2として内接ギヤ式ポンプを用いる場合を示したが、これに限らず、ベーン駆動や外接ギヤなどを用いた回転ポンプであってもよい。さらに、内接ギヤポンプとして、アウタロータ16の内周側に内歯を設け、外歯を備えたインナロータ17と噛み合わせながら偏心して回転させることにより、アウタロータ16とインナロータ17との間の内接する部分で仕切られた間隙の容積が拡縮変化を繰り返す内接ギヤポンプであれば、必ずしも上述のようなトロコイド曲線型ポンプには限定されない。また、アウタロータ16の内歯やインナロータ17の外歯は、必ずしも明確ないわゆる歯形に形成されたものに限らず、突出部、突起部または係合部であってもよい。
【0030】
また、上記実施形態では、ブラシレスモータ3のロータ6として、回転駆動軸7の外周部に複数個の永久磁石8を配置し固着する場合を示したが、リング状の永久磁石を固着したものを用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1:電動オイルポンプ装置、2:オイルポンプ、3:ブラシレスモータ(電動モータ)、
4:コントローラ、5:モータ用ステータ、6:モータ用ロータ、7:回転駆動軸、
8:永久磁石、9:ステータコア、10:モータコイル、11、12:軸受、
13:モータハウジング(ケース)、14:ポンププレート、15ポンプハウジング、
16:ポンプ用アウタロータ、17:ポンプ用インナロータ、18:蓋、19:基板、
20:電子部品、21:空気孔、22:溶着回転位置決め用凹部、
23:溶着用リブ、24:溶着用凹部、25:シール、26:モータハウジング開口部
図1
図2