(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の特許文献1等の提案例は、動作を中断する場合の制御については詳しく提案されており、加工を再開するときのための条件等についても考慮されている。しかし、再開をどのような指令に基づいて行うかは明記がなく、作業者の判断,再開操作によるものと考えられる。
【0006】
緊急地震速報は、緊急性を要するものであることから、即時性を優先し正確性は多少犠牲にしている面がある。その結果、誤報となることも多い。また、誤報ではなくても、退避制御の対象となる機械の設置されている場所での揺れが小さく、加工に影響しない場合もある。そのため、緊急地震速報の都度、機械の停止や退避を制御し、加工の再開を作業者の判断,再開操作によって行うのでは、作業者の負担が大きく、再開動作が遅れ、稼働率が低下する。特に、自動化が進んだ工場では、一人の作業者が担当する機械の台数が多く、上記の作業者の負担大や再開動作の遅れが著しくなる。再開動作の遅れは、機械停止の間の温度低下による熱変位の変化のために、加工精度の低下にも繋がる。
【0007】
すなわち、加工の進行に伴う切削熱や各部の摩擦熱等で、ベッドや送り機構等の熱変位が生じ、ワーク表面と工具の刃先位置との間に微小ではあるが変位が生じ、これが加工精度の低下に繋がる。そのため、工作機械では、加工の経過時間や計測した温度等に応じて熱変位補正等を行うことが多く、あるいは温度上昇した状態を見込んで適切な工具刃先位置となるように設定するが、不測の加工中断が生じ、その中断時間が長いと、熱変位補正や、熱変位の見込み量が不適切となる。これは、加工精度の低下に繋がる。
【0008】
この発明の目的は、地震によって機械に損傷を生じることを防止すると共に、緊急地震速報が誤報であった場合にも、作業者よる加工再開の操作を必要とせずに加工が再開できて、加工の再開の遅れによる熱変位の変化で加工精度が低下することを抑えることができ、かつワークに加工中断の痕跡を残すことがない工作機械を提供することである。
この発明の他の目的は、ローダについても、地震によって損傷を生じることを防止すると共に、緊急地震速報が誤報であった場合にも、作業者よる加工再開の操作を必要とせずに加工が再開できるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、地震による損傷防止のために加工を停止した間に、機械の温度が低下して加工精度が低下することを軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の工作機械は、
ワーク(W)又は工具(10)を回転させる主軸(7)を有しワーク(W)に工具(10)を接触させてワーク(W)に加工を施す工作機械本体(1)と、この工作機械本体(1)を加工プログラム(41)の実行単位(43)毎に制御する本体制御装置(4)とを備えた工作機械において、緊急地震速報を受信し、または外部から間接的に速報情報を取り込む速報受信手段(61)を設け、前記本体制御装置(4)に、前記速報受信手段(61)による緊急地震速報または前記速報情報の受信・取り込みに応答して、工作機械本体(1)に一連の避難動作を行わせる本体避難制御手段(62)を設けたものである。
この本体避難制御手段(62)は、現在実行中の実行単位(43)の終了後に前記加工プログラム(41)の実行を中断し、前記工作機械本体(1)に定められた退避動作を行わせる本体動作中断部(64)と、前記中断の後、定められた経過時間後に、工作機械本体(1)を前記退避動作前の状態に戻すと共に、前記加工プログラム(41)の実行を再開させる本体動作再開部(66)とを有する。上記の「外部から」とは、この工作機械に対する外部、またはこの工作機械が設置された工場に対する外部を言う。
【0010】
この構成によると、速報受信手段(61)が緊急地震速報を受信すると、本体動作中断部(64)は、現在実行中の実行単位(43)の終了後に前記加工プログラム(41)の実行を中断し、前記工作機械本体(1)に定められた退避動作を行わせる。この「定められた退避動作」の内容
は、工具(10)がワーク(W)から離れるように、ワーク(W)の支持手段と工具(10)の支持手段とを相対的に移動させる動作である。本体動作再開部(66)は、前記の中断の後、定められた経過時間後に、工作機械本体(1)を前記退避動作前の状態に戻すと共に、前記加工プログラム(41)の実行を再開させる。
このように、緊急地震速報の受信により、加工プログラム(41)の実行を中断し、退避動作を行わせるため、地震が発生してその揺れを工作機械が受けたとしても、工作機械に損傷を生じることが防止される。加工プログラム(41)の実行の中断および退避動作は、現在実行中の実行単位(43)の終了後に行うため、ワーク(W)の加工面の途中で加工を中断する場合と異なり、加工を再開したときに加工面の途中に加工中断の痕跡を残すことがない。加工プログラム(41)の実行単位(43)は、一般的には、緊急地震速報を受信してから地震による揺れが工作機械に到達するまでに完了する程度の加工量であるため、現在実行中の実行単位(43)の終了を待って加工の中断を行っても、加工の中断および退避の完了後に揺れの到達を受けることになる。また、本体動作再開部(66)により、前記の中断の後、定められた経過時間後に、工作機械本体(1)を前記退避動作前の状態に戻すと共に、前記加工プログラム(41)の実行を再開させるので、作業者よる加工再開の操作を必要とせずに加工が再開でき、かつ加工の再開の遅れによる熱変位の変化で加工精度が低下することが抑えられる。上記の「定められた経過時間」は、地震の継続する一般的な時間や、稼働率、機械停止時の温度変化等を考量して任意に定めれば良い。
【0011】
この発明において、前記工作機械本体(1)に対してワーク(W)の搬入搬出を行うローダ(2)と、このローダ(2)をローダプログラム(51)の実行単位(53)毎に制御する制御するローダ制御装置(5)とを備える場合、前記ローダ制御装置(5)に、前記速報受信手段(61)による緊急地震速報または前記速報情報の受信・取り込みに応答して、前記ローダ(2)に一連の避難動作を行わせるローダ避難制御手段(63)を設けても良い。
このローダ避難制御手段(63)は、前記ローダプログラム(51)の現在実行中の実行単位(53)の終了後にローダプログラム(51)の実行を中断するローダ動作中断部(67)と、前記中断の後、定められた経過時間後に、前記ローダプログラム(51)の実行を再開させるローダ動作再開部(68)とを有する構成とする。
【0012】
この構成の場合、緊急地震速報の受信により、ローダプログラム(51)の実行を中断させてローダ(2)を停止させるので、ローダ(2)の走行中に地震による揺れを受けた場合のように、ローダ(2)の揺れによってローダ(2)の衝突やガイドからの外れ等の障害が生じることが防止される。ローダ(2)の場合、工具(10)と異なり、ワーク(W)に対して接していないので、退避動作まで行わなくても、停止していれば、地震による揺れで障害が生じることが防止できる。なお、停止だけでなく、何らかの退避動作を行わせても良い。また、ローダ(2)についても、前記中断の後、定められた経過時間後に、前記ローダプログラム(51)の実行を再開させるので、作業者よる再開の操作を必要とせずに動作を再開させることができる。
ローダ付きの工作機械の場合、地震速報によって、工作機械本体(1)とローダとの両方の停止および自動再開を行わせることで、地震による機械損傷が防止され、かつ作業者よる加工再開の操作が不要となる。
【0013】
前記本体避難制御手段(62)は、前記本体動作中断部(64)により前記加工プログラム(41)の実行を中断している間に、前記主軸(7)を含む定められた工作機械駆動部分の動作を、定められた限定条件で継続させる一部動作継続部(64)を有する。
前記定められた限定条件として、前記主軸(7)を加工時よりも低速の回転速度とする条件を含む。
加工プログラム(41)の実行を中断により工作機械本体(1)を停止させているときに、工作機械本体(1)の全てを停止させると、温度低下による熱変位の低下が大きくなる。加工の中断前と中断後とで熱変位の差が大きいと、加工寸法の違いが生じる。主軸(7)や、油圧ポンプ(38)、クーラントポンプ(39)等の駆動系は、直接にワーク(W)に接している工具と異なり、動作中に地震の振動を受けても被害が生じないか、あるいは少ない場合が多い。しかしフル稼働させるのではエネルギの無駄が多い。そこで、主軸(7)等の定められた工作機械駆動部分については、加工の強制中断中も、限られた条件、
具体的には低速で駆動を継続させることにより、機械の温度低下を軽減し、加工再開後の熱変位差による加工精度低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の工作機械は、
ワーク又は工具を回転させる主軸を有しワークに
工具を接触させて加工を施す工作機械本体と、この工作機械本体を加工プログラムの実行単位毎に制御する本体制御装置とを備えた工作機械において、緊急地震速報を受信し、または外部から間接的に速報情報を取り込む速報受信手段を設けると共に、前記本体制御装置に、前記速報受信手段による緊急地震速報または前記速報情報の受信・取り込みに応答して、工作機械本体に一連の避難動作を行わせる本体避難制御手段を設け、この本体避難制御手段は、現在実行中の実行単位の終了後に前記加工プログラムの実行を中断し、前記工作機械本体に定められた退避動作を行わせる本体動作中断部と、前記中断の後、定められた経過時間後に、工作機械本体を前記退避動作前の状態に戻すと共に、前記加工プログラムの実行を再開させる本体動作再開部とを有
し、前記定められた退避動作は、地震による揺れで工具がワークに接触することがない位置まで工具とワークとの距離を離す動作であり、前記本体避難制御手段は、前記本体動作中断部により前記加工プログラムの実行を中断している間に、前記主軸を含む定められた工作機械駆動部分の動作を、定められた限定条件で継続させる一部動作継続部を有し、前記定められた限定条件として、前記主軸を加工時よりも低速の回転速度とする条件を含むため、地震によって機械に損傷を生じることを防止すると共に、緊急地震速報が誤報であった場合にも、作業者よる加工再開の操作を必要とせずに加工が再開でき、加工の再開の遅れによる熱変位の変化で加工精度が低下することを抑えることができ、またワークに加工中断の痕跡を残すことがない。
また、主軸等の定められた工作機械駆動部分については、加工の強制中断中も、限られた条件、具体的には低速で駆動を継続させることにより、機械の温度低下を軽減し、加工再開後の熱変位差による加工精度低下を防止することができる。
【0015】
前記工作機械本体に対してワークの搬入搬出を行うローダと、このローダをローダプログラムの実行単位毎に制御する制御するローダ制御装置とを備える場合に、前記ローダ制御装置に、前記速報受信手段による緊急地震速報または前記速報情報の受信・取り込みに応答して、前記ローダに一連の避難動作を行わせるローダ避難制御手段を設け、このローダ避難制御手段は、前記ローダプログラムの現在実行中の実行単位の終了後にローダプログラムの実行を中断するローダ動作中断部と、前記中断の後、定められた経過時間後に、前記ローダプログラムの実行を再開させるローダ動作再開部とを有するものとした場合は、ローダについても、地震によって損傷を生じることを防止すると共に、緊急地震速報が誤報であった場合にも、作業者よる加工再開の操作を必要とせずに加工が再開できる。
【0016】
前記工作機械本体が、ワーク又は工具を回転させる主軸を有し、前記本体避難制御手段が、前記本体動作中断部により前記加工プログラムの実行を中断している間に、前記主軸を含む定められた工作機械駆動部分の動作を、定められた限定条件で継続させる一部動作継続部を有する場合は、地震による損傷防止のために加工を停止した間に、機械の温度が低下して加工精度が低下することを軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の一実施形態を
図1ないし
図6と共に説明する。この工作機械は、ワークWに加工を施す工作機械本体1と、工作機械本体1に対してワークWの搬入搬出を行うローダ2と、制御盤3とで構成される。制御盤3には工作機械本体1を制御する本体制御装置4と、ローダ2を制御するローダ制御装置5とが備えられている。
【0019】
工作機械本体1は、図示の例ではタレット式の旋盤からなり、ベッド6上に、主軸7を支持した主軸台8と、タレット型の刃物台9とが設けられている。刃物台9は、正面形状が多角形状ないし円形に形成され、外周面に設けられた複数箇所の各工具ステーションに工具10が取付けられている。図では工具10は1個のみを図示し、他の工具は図示を省略している。主軸7は、ワークWを把持するチャック7aを先端に有している。
【0020】
図2に示すように、主軸7は主軸モータ11により回転駆動される。刃物台9は、ベッド6上にベース側および上部側の送り台12,13を介して設置されている。ベース側送り台12は、ベッド6上の横方向(X方向)に延びる案内14上に左右移動自在に設置され、上部側送り台13はベース側送り台12上に前後方向の案内(図示せず)を介して前後方向に進退自在に搭載されている。タレット型の刃物台9は、上部側送り台13にタレット軸15を介して割出回転自在に搭載されている。
【0021】
ベース側送り台12は、モータ16およびこのモータ16の回転を直線動作に変換するボールねじ17とでなるX軸側の送り機構18により進退駆動される。上部側送り台13は、モータ19およびこのモータ19の回転を直線動作に変換するボールねじ21とでなるX軸側の送り機構22により進退駆動される。これら各モータ16,19の駆動により、刃物台9は左右(X軸方向)および前後(Z軸方向)に移動させられる。また、上部側送り台13に搭載された旋回用のモータ(図示せず)により、タレット型の刃物台9の旋回割出が行われる。
【0022】
図1において、工作機械本体1は、上記の主軸7や刃物台9、およびその駆動系からなる主要構成要素の他に、各部の循環用や油圧駆動系(図示せず)の駆動を行うための油圧ポンプ38、およびクーラントを供給するクーラント用ポンプ39等の付属装置が備えられている。
【0023】
ローダ2は、工作機械本体1の上方に左右方向に沿って架設されたレール23上に走行する走行体24に、前後移動台25を介してローダヘッド26を昇降自在に設置し、ワークWを把持するチャック27をローダヘッド26に設けたものである。走行体24は走行用のモータ29により走行駆動される。前後移動台25は走行体24に前後移動自在に搭載され、前後移動用のモータ31により前後移動させられる。ローダヘッド26は、前後移動台25に昇降自在に設置された昇降バー32の下端に設けられ、前後移動台25に搭載された昇降駆動用のモータ33により昇降させられる。
【0024】
制御盤3の本体制御装置4は、コンピュータ式の数値制御装置とプログラマブルコントローラからなり、加工プログラム41を演算制御部42で解読して実行することで、工作機械本体1の各部の制御を行う。演算制御部42は、CPU(中央処理装置)やメモリ等で構成される。加工プログラム41は、NCコードで記述されており、実行単位となるブロック43の並びで構成される。
【0025】
図3に例示するように、一つのブロック43は、シーケンスナンバーワード43a、準備機能ワード43b、座標機能ワード43c、工具機能ワード43d、補助機能ワード43e等を有し、最後にブロック43の終了を示すエンドオブブロックのコードが記述されている。各ブロック43は、そのブロックで行う機能に応じて、
図3に例示したワードの他に、主軸ワード等が記述されたり、また同図のいずれかのワードが省略された内容とされる。
【0026】
一つのブロック43による実行単位となる加工は任意にプログラムされる。例を挙げると、ワークWが
図5のように3つの周面Wa,Wb,Wcを有する段付き円筒状であって、各周面Wa,Wb,Wcの旋削を行う場合、個々の周面Wa,Wb,Wcの加工毎に一つのブロック43が割り当てられる。
【0027】
図1において、ローダ制御装置5は、コンピュータ式のシーケンサ等からなり、ローダプログラム51を演算制御部52で解読して実行することで、ローダ2の各部を制御する。演算制御部52は、CPU(中央処理装置)やメモリ等で構成される。ローダプログラム51についても、実行単位53となる命令群または命令の並びで記述される。一つの実行単位53は、例えばローダヘッド26を工作機械本体1の主軸7に対向する位置から、その真上の設定位置まで上昇させる命令などのように、ローダヘッド26をある位置から、他のある位置へ移動させる命令等で構成される。
【0028】
なお、本体制御装置4とローダ制御装置5とは、図示の例では、共通の制御盤3に設けられたように記載したが、互いに離れて設けられていても良く、またこれとは逆に一つの共通の回路基盤上や、共通のコンピュータに設けられていても良い。本体制御装置4とローダ制御装置5とは、互いに動作の完了信号等の交信を行い、タイミングを取り合って制御を行う。
【0029】
この実施形態の工作機械は、上記基本構成の工作機械において、地震への対処手段として、速報受信手段61を設けると共に、本体制御装置4に本体避難制御手段62を、ローダ制御装置5にローダ避難制御手段63を設けたものである。
【0030】
速報受信手段61は、日本国の発表する緊急地震速報を受信する手段である。速報受信手段61は、緊急地震速報を電波により受信するものであっても、有線で受信するものであっても良い。速報受信手段61は、外部から間接的に速報情報を取り込むものであっても良い。速報受信手段61は、本体制御装置4またはローダ制御装置5に設けても良く、またこれら本体制御装置4やローダ制御装置5が設置された制御盤3に設けられていても良い。速報受信手段61は、この他に、工場内の1か所に設けられて、複数の工作機械の制御盤にLAN(ローカルエリア)等で送信するものであっても良い。
緊急地震速報は、例えば、数秒ないし1〜2分程度の後に地震が発生することを知らせる情報であり、地震が起きる時刻、震源地、マグニチュード等の情報が含まれている。緊急地震速報は、一般的には伝達する過程で、地震による影響を受ける地域のみに流すようにされる。
【0031】
本体避難制御手段62は、速報受信手段61による緊急地震速報または前記速報情報の受信・取り込みに応答して、工作機械本体1に一連の避難動作を行わせる手段であり、例えば、加工プログラム41に対して演算制御部42に割込制御させる割込プログラムとして設けられる。本体避難制御手段62は、次の本体動作中断部64、一部動作継続部65、および本体動作再開部66により構成される。
【0032】
本体動作中断部64は、速報受信手段61による緊急地震速報の受信に応答して、加工プログラム41の現在実行中の実行単位となるブロック43の終了を待ち、終了後に加工プログラム41の実行を中断する。本体避難制御手段62は、さらに、この中断の後、工作機械本体1に定められた退避動作を行わせる。退避動作を行うにつき、復帰に必要な情報は、適宜の記憶手段に記憶しておく。「定められた退避動作」
は、工具10を、地震による揺れでワークWに接触することがない位置までワークWから離す動作とされる。
【0033】
一部動作継続部65は、本体動作中断部64により加工プログラム41の実行を中断している間に、定められた工作機械駆動部分の動作を、定められた限定条件で継続させる手段である。「定められた工作機械駆動部分」は任意に設定すれば良いが、主軸7、つまり主軸モータ11を少なくとも含める。「定められた工作機械駆動部分」には、この他に、油圧ポンプ38やクーラント用ポンプ39を含めても良い。上記の「定められた限定条件」
は、加工時よりも低速の回転速度と
し、任意の回転速度を設定しておく。油圧ポンプ38やクーラント用ポンプ39については、そのポンプ駆動用モータ(図示せず)の回転速度を加工時より低速と回転速度となる任意の速度を設定しておく。
刃物台9に装備された工具10として、ドリルやミーリングヘッド等の回転工具がある場合は、その回転工具についても、一部動作継続部65の制御によって加工時よりも低速で回転を継続させるようにしても良い。
【0034】
本体動作再開部66は、前記中断の後、定められた経過時間後に、工作機械本体1を前記退避動作前の状態に戻すと共に、加工プログラムの41実行を再開させる手段である。「定められた経過時間」はN(Nは任意の値、または任意の自然数)分後、例えば5分後や、10分後など、5分〜15分の範囲が好ましい。経過時間の起算点は、加工プログラム41の実行の中断時や、退避動作の開始時、あるいは緊急地震速報の受信時など、適宜定めれば良い。
【0035】
ローダ避難制御手段63は、ローダ動作中断部67と、ローダ動作再開部68とで構成される。
ローダ動作中断部67は、ローダプログラム51の現在実行中の実行単位53の終了後にローダプログラム51の実行を中断する手段である。ローダ動作中断部67は、中断のみを行う機能としても良いが、さらに退避動作を行わせる機能を持たせても良い。退避動作は、例えば、ローダヘッド26を、定められた位置へ移動される動作である。この定められた位置は、任意に設定すれば良いが、地震による揺れで他の物と衝突しない位置が好ましい。
【0036】
ローダ動作再開部68は、前記中断の後、定められた経過時間後に、ローダプログラム51の実行を再開させる手段である。「定められた経過時間」は、例えば、本体動作再開部66における「定められた経過時間」と同じであっても良く、あるいは工作機械本体1の復帰動作が完了してからローダプログラム51の実行を再開されるように、時間差を持たせて設定しても良い。
ローダ動作再開部68は、ローダ動作中断部67によって退避動作を行わせる場合は、ローダ2を退避動作前の状態に戻した後に、ローダプログラム51の実行を再開させるようにする。
【0037】
次に、上記構成による動作例を説明する。
図4(A)は本体避難制御手段62による制御の流れ図であり、同図(B)はローダ避難制御手段63による制御の流れ図である。
まず、本体避難制御手段62による制御を説明する。
本体避難制御手段62の本体動作中断部64は、速報受信手段61による緊急地震速報の受信を監視する(ステップR1)。緊急地震速報が受信されると、現在実行している実行単位となるブロック43の終了を待ち(R2)、終了すると、演算制御部42による加工プログラム41の実行を中断する(R3)。例えば、現在実行中のブロックが、
図5の段付き円筒状のワークWの中間径の周面Wbを加工しているとすると、この中間径の周面Wbの加工の完了まで待ち、その後に加工プログラム41の実行を中断する。
この中断の間、主軸モータ11や油圧ポンプ38,クーラント用ポンプ39等の定めれれた機器については、定められ限定条件、例えば低速で回転を継続させる(R4)。回転工具(図示せず)を有する場合は、その回転工具についても低速で回転を継続させるようにしても良い。
【0038】
上記中断の後、退避動作を行わせる(R5)。退避動作は、例えば、
図6(B)に示すように、地震による揺れが生じても工具10がワークWに接触することがないと想定して定めた位置まで工具10をワークWから離す動作である。退避動作を行うときは、退避からの復帰に必要となる情報は適宜の記憶部に記憶しておく。
【0039】
退避動作の後、設定時間の経過を待ち(R8)、設定時間が経過すると、工作機械本体1を退避前の状態に戻す(R7)。この後、加工プログラム41の実行の再開による工作機械本体1の動作の再開を行う。
【0040】
図4(B)を参照してローダ避難制御手段63による制御を説明する。
緊急地震速報が受信されると(S1)、現在実行している実行単位53の終了を待ち(S2)、終了すると、演算制御部52によるローダプログラム51の実行を中断する(S3)。例えば、現在実行している実行単位53が、ローダ2の走行体24を走行させる動作、またはローダ2のローダヘッド26を昇降させる動作である場合は、その走行や昇降動作が完了してから、ローダプログラム51の実行を中断する。なお、上記のようにローダ2を退避動作させても良い。
【0041】
退避動作の後、設定時間の経過を待ち(S4)、設定時間が経過すると、ローダプログラム5の実行の再開によるローダ2の動作の再開を行う(S5)。前記の中断時にローダ2の退避を行わせた場合は、ローダ2を退避前の状態に戻してから、ローダプログラム5の実行の再開によるローダ2の動作の再開を行う。
【0042】
この構成の工作機械によると、このように、緊急地震速報の受信により、加工プログラム41の実行を中断し、退避動作を行わせるため、地震が発生してその揺れを受けても、工作機械本体1に損傷を生じることが防止される。加工プログラム41の実行の中断および退避動作は、現在実行中の実行単位となるブロック43の終了後に行うため、ワークWの加工面の途中で加工を中断する場合と異なり、加工を再開したときに加工面の途中に加工中断の痕跡を残すことがない。加工プログラム41の実行単位となるブロック43は、一般的には、緊急地震速報を受信してから地震による揺れが工作機械に到達するまでに完了する程度の加工量てあるため、現在実行中のブロック43の終了を待って加工の中断を行っても、加工の中断および退避の完了後に揺れの到達を待つことになる。
【0043】
また、本体動作再開部66により、前記の中断の後、定められた経過時間後に、工作機械本体1を前記退避動作前の状態に戻すと共に、加工プログラム41の実行を再開させるので、作業者よる加工再開の操作を必要とせずに加工が再開できる。そのため、加工の再開の遅れによる熱変位の変化で加工精度が低下することが抑えられる。
【0044】
加工プログラム41の実行を中断により工作機械本体を停止させているときに、工作機械本体1の全てを停止させると、温度低下による熱変位の低下が大きくなり、加工の中断前と中断後とで熱変位の差が大きいと、加工寸法の違いが生じる。しかし、主軸7や、油圧ポンプ38、クーラントポンプ39等の駆動系は、直接にワークWに接している工具10と異なり、動作中に地震の振動を受けても被害が生じないか、あるいは少ない場合が多い。しかしフル稼働させるのではエネルギの無駄が多い。そこで、主軸7等の定められた工作機械駆動部分については、加工の強制中断中も、限られた条件、例えば低速で駆動を継続させることにより、機械の温度低下を軽減し、加工再開後の熱変位差による加工精度低下を防止することができる。工具10は、上記の退避動作よってワークWから離すため、回転工具についても低速で回転を維持することで、中断中の温度低下の抑制に貢献できる。
【0045】
また、緊急地震速報の受信により、ローダプログラム51についても実行を中断させ、ローダ2を停止させるので、ローダ2の走行中に地震による揺れを受けた場合のように、ローダ2の揺れによってローダ2の衝突やガイドからの外れ等の障害が生じることが防止される。ローダ2の場合、工具と異なり、ワークWに対して接していないので、退避動作まで行わなくても、停止していれば、地震による揺れで障害が生じることが防止できる。なお、停止だけでなく、何らかの退避動作を行わせても良い。また、ローダ2についても、前記中断の後、定められた経過時間後に、ローダプログラム51の実行を再開させるので、作業者よる再開の操作を必要とせずに動作を再開させることができる。
ローダ付きの工作機械の場合、地震速報によって、工作機械本体1とローダ2との両方の停止および自動再開を行わせることで、地震による機械損傷が防止され、かつ作業者よる加工再開の操作が不要となる。
【0046】
なお、上記実施形態は、工作機械が旋盤である場合につき説明したが、この発明は、マシニングセンタや研削盤等、機械加工を行う工作機械一般に適用することができ、板材加工機等の機械加工の他の加工を行う広義の工作機械にも適用することができる。