特許第5915144号(P5915144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5915144摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915144
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
   B23K20/12 344
   B23K20/12 310
   B23K20/12 340
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-275025(P2011-275025)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2013-123745(P2013-123745A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100087527
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 光雄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】大岩 直貴
(72)【発明者】
【氏名】山中 聡
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−142845(JP,A)
【文献】 特許第3735298(JP,B2)
【文献】 特開2004−025296(JP,A)
【文献】 特開2009−190040(JP,A)
【文献】 特開2009−202212(JP,A)
【文献】 特表2009−537325(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0040006(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0042292(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き合わせて接合するワークの板厚寸法よりも長尺のプローブと、該プローブの軸心方向の一端側に設けてワークの一方の面に接触させるためのショルダーを回転駆動可能に備えると共に、
上記ワークの他方の面に接触させるための固定式ショルダーを備え、
該固定式ショルダーは、上記プローブを挿通させるための開口部と、該固定式ショルダーにおけるワーク接触面側で上記開口部に連通する溶材ガイドを備えてなり、
更に、棒状の溶材を、上記固定式ショルダーの開口部の内側に配置されているプローブに向けて上記溶材ガイドを通して付勢して供給するための溶材供給手段を備える構成を有すること
を特徴とする摩擦撹拌接合ツール。
【請求項2】
溶材供給手段は、棒状の溶材のプローブに対する押し付け圧が一定になるように圧力制御する機能を備えるようにした
請求項1記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項3】
溶材供給手段を固定式ショルダーに連結して固定するようにした
請求項1又は2記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項4】
プローブとショルダーを回転駆動させるための回転駆動軸を、固定式ショルダーの開口部に挿通配置させた上記プローブの軸心方向の他端側に取り付けるようにした
請求項1、2又は3記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項5】
突き合わせて接合するワークの板厚寸法よりも長尺のプローブと、該プローブの軸心方向の一端側に設けたショルダーを回転駆動させ、
ワークの一方の面に、上記回転するショルダーを接触させると共に、該ワークの他方の面に、上記プローブの軸心方向の他端側を挿通させる開口部を備えた固定式ショルダーを接触させた状態で、上記回転するプローブをワークの接合部に没入させると共に、接合線に沿って移動させるときに、
溶材供給手段より、棒状の溶材を、上記固定式ショルダーにワーク接触面側で上記開口部に連通するよう備えた溶材ガイドを通して、該開口部の内側に配置されているプローブに向けて付勢して供給すること
を特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合に用いる摩擦撹拌接合ツール、及び、摩擦撹拌接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合は、摩擦撹拌接合ツールに装備されたプローブ(棒状突起物、ピン)を、ワークの接合部に回転させながら押し付けてワーク内に没入させることにより、該ワークの接合部に摩擦熱を発生させ、該接合部を軟化させると共に、上記プローブの回転力により、該プローブの周囲にワークの素材の塑性流動領域を形成させて撹拌混合して、複数のワークを一体に接合する手法であり、摩擦撹拌接合時に生じる接合反力が小さいアルミ合金材の薄板(10mm以下)の接合を中心に利用されてきている。
【0003】
上記摩擦撹拌接合に用いる摩擦撹拌接合ツールは、上記ワークの接合部に没入させるためのプローブの基端側に、該プローブよりも大径としてワークの接合部近傍の表面に接触させるためのショルダーを一体に設けて、該ショルダーを上記プローブと一体に回転させる形式のものが主として用いられていた。
【0004】
上記ショルダーは、回転しながらワークの表面に接触することで摩擦熱を発生させて、該ワークにおける上記プローブが没入される接合部の近傍を加熱するという機能を備えているが、その他に、上記回転するプローブによってワークの接合部に形成される塑性流動領域が、ワークの表面より外へはみ出さないように押さえ付ける機能を発揮していることが、近年判明してきた。
【0005】
そこで、摩擦撹拌接合ツールの1つの形式としては、プローブの基端側に、該プローブの回転駆動軸を挿通させる貫通孔を有する固定式のショルダーを備えた構成として、上記プローブを回転させながらワークに没入させる際、該ショルダーはワークに対して回転させずに単に押し付けるようにする形式の摩擦撹拌接合ツールが提案されてきている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
又、摩擦撹拌接合ツールは、更に別の形式として、プローブの軸心方向の両側に一対のショルダーを備えた構成のいわゆるボビンツールが開発されてきている。かかるボビンツールとしては、ショルダー同士の間隔を、ワークの板厚寸法よりも所定量小さく設定することで、該各ショルダーが、外部の力を要することなくワークの両面に所定の押し付け力で押し付けられるようになるものと、ワークの板厚の変動に対応できるようにするために、プローブの軸心方向両端側の一対のショルダーの間隔を可変とするものが従来提案されている(たとえば、特許文献3参照)。
【0007】
更に、ワークの接合部に隙間が存在している場合は、摩擦撹拌接合ツールのプローブにより該接合部に塑性流動領域を形成させても、塑性流動されるワークの素材自体の量が、上記隙間を塞ぐには元々不足しているのであるから、接合不良が発生する。そこで、摩擦撹拌接合を行う際に、溶材(溶加材)を供給することが考えられてきている。
【0008】
上記溶材の供給手法としては、回転するショルダーとプローブによって加熱される接合部付近の領域の表面に、溶材の粉末を供給したり、プローブの内部に設けた溶材供給通路を通して溶材を供給する手法が従来提案されている(たとえば、特許文献4参照)。
【0009】
又、溶材の別の供給手法としては、ワーク(被接合材)の接合部の摩擦撹拌接合を行う際に、該接合部に形成される隙間に、溶材(フィラー)を供給するようにすることが従来提案されている(たとえば、特許文献5参照)。
【0010】
上記のように、摩擦撹拌接合の際にワークの接合部の隙間を埋めるために溶材を供給する場合は、接合部分に特殊な機能が必要とされる場合を除いては、通常、ワークと同材質の溶材を、又、異なる材質のワーク同士を接合する場合は、いずれか一方のワークと同材質の溶材を使用することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2009−537325号公報
【特許文献2】特許第4240579号公報
【特許文献3】特許第3735298号公報
【特許文献4】特開2007−7729号公報
【特許文献5】特開2005−111533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記特許文献4に示された手法のうち、回転するショルダーとプローブによって加熱されて接合部付近の領域の表面に粉末状の溶材を配置する手法は、たとえ、溶材の粉末の一部が上記ショルダーとの摩擦熱によって軟化するとしても、該軟化した溶材の粉末を上記ワークと該ワークに押し付けられて回転しているショルダーとの隙間を通してプローブの周囲の塑性流動が生じている領域まで確実に送り込むための手段がない。そのために、上記手法では、摩擦撹拌接合の際にワーク同士の接合部に存在する隙間を上記溶材で埋めることは困難である。
【0013】
又、上記特許文献4に示された手法のうち、プローブの内部に設けた溶材供給通路を通して溶材を供給する手法は、プローブを、上記溶材供給通路を貫通させて備えた構造とする必要があることのほか、該プローブの溶材供給通炉内で軟化した溶材を、該溶材供給通路からプローブの周囲の塑性流動領域へ押し出すための機構が必要になることから、摩擦撹拌接合装置の装置構成が複雑化するという問題がある。更には、該手法は、上記溶材の供給管理が困難になるという問題がある。
【0014】
上記特許文献5に記載された手法は、摩擦撹拌接合時に、ワークの接合線に形成される隙間に、溶材を供給するというものであるが、上記溶材は、プローブよりもツール進行方向前方におけるワークの表面よりショルダーが離れた部分、すなわち、ワークにてショルダーとの摩擦熱が発生していない部分に供給されているに過ぎないため、該溶材を軟化させること自体が難しい。
【0015】
しかも、上記特許文献5に示された手法では、たとえ、上記溶材が軟化するとしても、該軟化した溶材は、上記回転するショルダーと接触すると、該ショルダーの外周に押し出される可能性が大きい。よって、該手法では、軟化した溶材をプローブの周囲の塑性流動領域まで確実に送り込むことが困難である。
【0016】
なお、上記特許文献1、特許文献2には、摩擦撹拌接合の実施時に溶材を供給する考えは全く示されておらず、示唆する記載すら全くない。
【0017】
しかも、特許文献1、特許文献2に示されたものは、プローブの基端側にのみ固定式のショルダーを設けたものであるため、ワークについて、ショルダーとの摩擦による摩擦熱での加熱を行うことができず、よって、ワークに対する入熱量が小さいことから、板厚の厚いワークの接合に適用することは困難である。
【0018】
上記特許文献3には、摩擦撹拌接合の実施時に溶材を供給する考えは全く示されておらず、示唆する記載すら全くない。又、ボビンツールは、ワークの表裏両面に回転するショルダーが接触しているため、該回転するショルダーの外側からプローブの周囲の塑性流動領域へ溶材を供給することは困難である。
【0019】
したがって、従来は、板厚の厚いワークの接合部に隙間が生じている場合に、溶材を供給しながら良好な摩擦撹拌接合を実現するための装置構成、及び、方法が提案されていないというのが実状である。
【0020】
そこで、本発明は、板厚の厚いワークの接合部に隙間が生じている場合であっても、溶材を確実に供給しながら良好な摩擦撹拌接合を実施することができる摩擦撹拌接合ツール、及び、摩擦撹拌接合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、突き合わせて接合するワークの板厚寸法よりも長尺のプローブと、該プローブの軸心方向の一端側に設けてワークの一方の面に接触させるためのショルダーを回転駆動可能に備えると共に、上記ワークの他方の面に接触させるための固定式ショルダーを備え、該固定式ショルダーは、上記プローブを挿通させるための開口部と、該固定式ショルダーにおけるワーク接触面側で上記開口部に連通する溶材ガイドを備えてなり、更に、棒状の溶材を、上記固定式ショルダーの開口部の内側に配置されているプローブに向けて上記溶材ガイドを通して付勢して供給するための溶材供給手段を備える構成を有する摩擦撹拌接合ツールとする。
【0022】
又、上記構成において、溶材供給手段は、棒状の溶材のプローブに対する押し付け圧が一定になるように圧力制御する機能を備えるようにした構成とする。
【0023】
更に、上記各構成において、溶材供給手段を固定式ショルダーに連結して固定するようにした構成とする。
【0024】
更に又、上記各構成において、プローブとショルダーを回転駆動させるための回転駆動軸を、固定式ショルダーの開口部に挿通配置させた上記プローブの軸心方向の他端側に取り付けるようにした構成とする。
【0025】
又、請求項5に対応して、突き合わせて接合するワークの板厚寸法よりも長尺のプローブと、該プローブの軸心方向の一端側に設けたショルダーを回転駆動させ、ワークの一方の面に、上記回転するショルダーを接触させると共に、該ワークの他方の面に、上記プローブの軸心方向の他端側を挿通させる開口部を備えた固定式ショルダーを接触させた状態で、上記回転するプローブをワークの接合部に没入させると共に、接合線に沿って移動させるときに、溶材供給手段より、棒状の溶材を、上記固定式ショルダーにワーク接触面側で上記開口部に連通するよう備えた溶材ガイドを通して、該開口部の内側に配置されているプローブに向けて付勢して供給するようにする摩擦撹拌接合方法とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)突き合わせて接合するワークの板厚寸法よりも長尺のプローブと、該プローブの軸心方向の一端側に設けてワークの一方の面に接触させるためのショルダーを回転駆動可能に備えると共に、上記ワークの他方の面に接触させるための固定式ショルダーを備え、該固定式ショルダーは、上記プローブを挿通させるための開口部と、該固定式ショルダーにおけるワーク接触面側で上記開口部に連通する溶材ガイドを備えてなり、更に、棒状の溶材を、上記固定式ショルダーの開口部の内側に配置されているプローブに向けて上記溶材ガイドを通して付勢して供給するための溶材供給手段を備える構成を有する摩擦撹拌接合ツールとしてあるので、回転駆動するプローブを、ワークの板厚の全体に亘り没入させることができる。又、ワークは、回転駆動するショルダーを該ワークの一方の面側に接触させて発生する摩擦熱により、入熱を増加させることができる。したがって、ワークの板厚が厚い場合でも、良好な摩擦撹拌接合が実施できる。
(2)溶材供給手段より固定式ショルダーの溶材ガイドを通して付勢して供給される棒状の溶材は、該固定式ショルダーの開口部の内側に配置されている回転駆動状態のプローブとの接触による摩擦熱で、該溶材の先端部を確実に軟化させることができる。この状態で、ワークの接合部に隙間が生じていない場合は、上記軟化した溶材の行き場がないが、ワークの接合部に隙間が存在していた場合は、上記軟化した溶材を、その直下でプローブの外周に形成されているワークの素材の塑性流動領域に送り込むことができる。この軟化した溶材の上記塑性流動領域への送り込みは、上記ワークの両面側に配置されている固定式ショルダーとショルダーとの間に該塑性流動領域が充填されるまで継続して行わせることができる。よって、上記ワークの接合部に隙間が存在していても、接合不良のない摩擦撹拌接合を実施することができる。
(3)突き合わせて接合するワークの板厚寸法よりも長尺のプローブと、該プローブの軸心方向の一端側に設けたショルダーを回転駆動させ、ワークの一方の面に、上記回転するショルダーを接触させると共に、該ワークの他方の面に、上記プローブの軸心方向の他端側を挿通させる開口部を備えた固定式ショルダーを接触させた状態で、上記回転するプローブをワークの接合部に没入させると共に、接合線に沿って移動させるときに、溶材供給手段より、棒状の溶材を、上記固定式ショルダーにワーク接触面側で上記開口部に連通するよう備えた溶材ガイドを通して、該開口部の内側に配置されているプローブに向けて付勢して供給するようにする摩擦撹拌接合方法としてあるので、上記(1)(2)と同様の効果を得ることができる。

【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌接合方法の実施の一形態を示すもので、(a)は一部切断概略側面図、(b)は(a)のA−A方向矢視図、(c)は(a)のB−B方向矢視図である。
図2】(a)(b)(c)はそれぞれ図1の摩擦撹拌接合ツールにおける溶材供給手段の別の例を示す図1(a)に対応する図である。
図3】本発明の実施の他の形態を示す一部切断概略側面図である。
図4】本発明の実施の更に他の形態を示す一部切断概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0029】
図1(a)(b)(c)及び図2(a)(b)(c)は本発明の摩擦撹拌接合ツールの実施の一形態を示すものである。
【0030】
すなわち、本発明の摩擦撹拌接合ツールは、図1(a)(b)(c)に符号1で示す如く、接合対象となるワーク10の板厚寸法よりも長尺のプローブ2と、該プローブ2の軸心方向の一端側に連結してワーク10の一方の面に接触させるためのショルダー3と、該プローブ2及びショルダー3に図示しない回転駆動装置による回転駆動力を伝達するための回転駆動軸4と、ワークの他方の面に接触させるための固定式ショルダー5を備える。
【0031】
上記固定式ショルダー5は、上記プローブ2を挿通配置させるための開口部6と、該固定式ショルダー5におけるワーク10に接触させる面側で上記開口部6に連通させた溶材ガイドとしてのガイド溝7を備えた構成とする。
【0032】
更に、本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7を通して棒状の溶材(溶加材)9を上記開口部6の内側に配置されるプローブ2に向けて付勢した状態で供給するための溶材供給手段8を備えた構成とする。
【0033】
詳述すると、上記プローブ2は、その軸心方向の長さ寸法が、接合対象として想定されるワーク10の板厚寸法よりも、少なくとも上記棒状の溶材9の太さの寸法分、長くなるように設定してある。
【0034】
又、上記プローブ2の軸心方向の向きは、たとえば、水平面内に配置した2つのワーク10同士を突き合わせて接合を行う場合には、軸心方向が鉛直方向となるようにしてある。
【0035】
更に、上記プローブ2には、図1(a)で下端側となる軸心方向の一端側に、該プローブ2よりも大径の円盤状としてあるショルダー3が、同心状の配置で一体に連結されている。
【0036】
上記ショルダー3が一体に連結された上記プローブ2の他端側(図1(a)では上端側)には、上下方向に延びる回転駆動軸4の一端(下端)が一体に連結されている。該回転駆動軸4の他端側(図1(a)では上端側)には、図示しない回転駆動装置が接続してある。これにより、回転駆動軸4が回転駆動装置によって回転駆動されると、上記プローブ2及びショルダー3は一緒に回転駆動できるようにしてある。
【0037】
上記固定式ショルダー5は、ワーク接触面(図1(a)では下面)がフラットな平板状としてあり、その中央付近に、上記プローブ2の外径よりもわずかに大きな内径を有する開口部6が、図1(a)において上下方向に貫通させて設けられている。これにより、該固定式ショルダー5は、上記プローブ2の軸心方向の一端側に設けてあるショルダー3をワーク10の一方の面としての下面に接触させて、上記プローブ2の他端側の部分を、上記開口部6に挿通させることにより、ワーク10の上面に沿わせて配置できるようにしてある。
【0038】
又、上記固定式ショルダー5は、ワーク10側とは反対側の面(図1(a)では上面)に取り付けた支持部材11を介して固定式ショルダー用の昇降機構(図示せず)に取り付けられている。
【0039】
更に、上記回転駆動軸4の上端側は、該回転駆動軸4を上記図示しない回転駆動装置による回転を妨げることなく昇降させるための回転駆動軸用の昇降機構(図示せず)に接続されている。
【0040】
上記別々の昇降機構は、図1(a)に示すように、上記回転駆動軸4の下端側にプローブ2を介して取り付けられた上記ショルダー3の上面がワーク10の下面に接触し、且つ上記固定式ショルダー5の下面がワーク10の上面に接触する位置より、上記ショルダー3は引き上げる方向へ、又、上記固定式ショルダー5は押し下げる方向へそれぞれ付勢できるようにしてある。すなわち、上記各昇降機構は、上記ショルダー3の上面と固定式ショルダー5の下面との間隔が狭くなる方向へ付勢できるようにしてある。これにより、上記ショルダー3の上面と固定式ショルダー5の下面との間の隙間にワーク10が挿入配置されるときに、該ワーク10の下面と上面に、上記ショルダー3と固定式ショルダー5をそれぞれ所定の押し付け圧で押し付けることができるようにしてある。更に、上記各昇降機構は、上記ショルダー3と固定式ショルダー5のワーク10に対する押し付け圧を自在に制御できるようにしてある。
【0041】
なお、上記ショルダー3と固定式ショルダー5の各昇降機構は、共通の1つの支持フレームに取り付ける構成とすることが好ましい。かかる構成では、該各昇降機構同士で、上記ショルダー3をワーク10の下面に押し付けるときの反力と、上記固定式ショルダー5をワークの上面に押し付けるときの反力とを上記支持フレームを介して相互に伝えて相殺できるため、摩擦撹拌接合装置における上記各昇降機構の支持フレーム以外の個所に、上記反力が作用しないようにすることができる。
【0042】
更に、上記固定式ショルダー5には、ワーク10との接触面となる下面に、たとえば、該固定式ショルダー5の摩擦撹拌接合時に本発明の摩擦撹拌接合ツール1の進行方向の前方側の側面に開口する溶材入口12から、上記開口部6に連通する溶材出口13まで直線状に延びる配置で上記ガイド溝7が設けられている。
【0043】
上記ガイド溝7は、その長手方向と直交する面での断面形状が、上記溶材9の長手方向に直交する断面形状に対応するようにしてある。
【0044】
上記溶材供給手段8は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7の延長線上となる位置に配置されていて、棒状の溶材9の基端側を掴んで保持するようにしてある。
【0045】
棒状の溶材9は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7に溶材入口12から溶材出口13まで挿通させて、先端となる長手方向の一端が上記固定式ショルダー5の開口部6の内側で上記プローブ2に突き当たるように配置してある。
【0046】
上記溶材供給手段8は、上記棒状の溶材9の基端寄りとなる長手方向の他端寄りを保持し、該溶材9を上記プローブ2に向けて押し付けるように付勢できるようにしてある。
【0047】
上記溶材供給手段8の溶材9を上記プローブ2に向けて付勢するための付勢手段は、たとえば、図1(a)に示すように、上記溶材9の長手方向他端寄り個所を着脱自在に保持するクランプ14と、該クランプ14と固定側となる支持構造15との間に介装させた伸縮可能な空気圧や油圧等の流体圧シリンダ16とを備え、該流体圧シリンダ16によりクランプ14を介して溶材9を長手方向に移動させるようにしてある。
【0048】
又、上記付勢手段は、図2(a)に示すように、上記溶材9の長手方向他端寄り個所を保持する上記と同様のクランプ14と、該クランプ14と固定側となる支持構造15との間に介装させた伸縮可能なばね部材17とを備えた構成や、図2(b)に示すように、上記溶材9の長手方向他端寄り個所を保持する上記と同様のクランプ14に、該溶材9の長手方向に沿う方向に動作するボールねじ機構18に取り付けた構成としてもよい。なお、該ボールねじ機構18は、図示しない固定側の支持構造に設置されているものとする。
【0049】
更に、上記溶材9の付勢手段の他の形式として、図2(c)に示すように、上記溶材9の長手方向他端寄り個所を挟持するための一対のローラ19を備え、且つ該各ローラ19のうち、少なくとも一方のローラ19を、モータ等の図示しない回転駆動装置に連結した駆動ローラとして、一対のローラ19間に挟持した上記溶材9を上記プローブ2に向けて送り出すようにした構成としてもよい。
【0050】
なお、上記溶材供給手段8の付勢手段は、上記プローブ2に先端が突き当たるように配置された状態の溶材9に対し、上記プローブ2に向けて付勢しながら供給するときの供給圧力、すなわち、該溶材9の上記プローブ2に対する押し付け圧を一定になるよう圧力制御できる機能を備えることが好ましい。この圧力制御の機能としては、たとえば、図1(a)に示した如き流体圧シリンダ16にて、該流体圧シリンダ16を溶材9送り出し方向へ動作させる側の圧力室、図では伸長動作側の圧力室へ供給する流体圧を、一定に保持するようにすればよい。
【0051】
又、上記圧力制御の機能としては、図2(c)に示したように溶材9の送り出し用のローラ19を備えた構成の溶材供給手段8にて、上記プローブ2に先端が突き当たるように溶材9が配置された状態にて、図示しない回転駆動装置より駆動ローラとなる少なくとも一方のローラ19に対して一定の駆動トルクを付与させるようにしてもよい。
【0052】
なお、上記溶材供給手段8は、図示しない連結部材を介して、上記固定式ショルダー5、又は、該固定式ショルダー5の支持部材11に連結して、固定式ショルダー5との相対位置を固定した構成とすることが好ましい。かかる構成にすれば、上記固定式ショルダー5を、ワーク10の接合線の位置に対応させるため等の目的で移動させる場合にも、上記溶材供給手段8を、該固定式ショルダー5のガイド溝7の延長線上に位置するようにすることができる。これにより、別途位置決めする作業を不要にできるため、摩擦撹拌接合を実施する際の手間の削減化を図ることができる。
【0053】
更に、上記固定式ショルダー5には、上記ガイド溝7における開口部6より離反する側の端部寄り部分、すなわち、該ガイド溝7における溶材入口12寄り部分の上側に、該固定式ショルダー5の上面側に連通する切欠き20が設けてあると共に、該切欠き20に、上記ガイド溝7と直交する方向の回転軸を備えた押さえローラ21が配置されている。該押さえローラ21は、回転軸がホルダ22に回転自在に保持されている。更に、該ホルダ22は、図示しない昇降機構に接続されている。これにより、上記固定式ショルダー5の切欠き20の部分では、上記ガイド溝7に溶材入口12から溶材出口13まで挿通して上記棒状の溶材9が配置された状態のときに、上記図示しない昇降機構により上記押さえローラ21を上方より下降させることで、上記溶材9を所定の圧力でワーク10の上面に対して押さえ付けることができるようにしてある。
【0054】
以上の構成としてある本発明の摩擦撹拌接合ツール1を使用して摩擦撹拌接合を実施する場合は、先ず、ワークの接合線の一端側にて、プローブ2を、ワーク10の端面の近傍又は接するように配置させる。
【0055】
次に、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、ショルダー3と固定式ショルダー5を、ワーク10を両側より挟み込むように配置させる。この際、上記ショルダー3と固定式ショルダー5は、それぞれ対応する昇降機構を位置制御又は圧力制御して、ワーク10に対して所定の圧力で押し付けるようにする。たとえば、上記固定式ショルダー5は、該固定式ショルダー5の下面がワーク10の上面に接するように対応する昇降機構を位置制御することにより位置決めする。その後、上記ショルダー3は、上記回転駆動軸4の上端側に接続してある昇降機構により引き上げるようにし、この際、該昇降機構の圧力制御を行って、該ショルダー3が上記ワーク10下面に所定の圧力を印加した状態で押し付けられるように位置決めするようにする。
【0056】
次いで、上記溶材供給手段8より送り出される棒状の溶材9は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7に溶材入口12より溶材出口13へ挿通されて、該溶材9の先端が、該固定式ショルダー5の開口部6の内側に配置されているプローブ2、すなわち、上記ワーク10の上面より上方に突出しているプローブ2の上端寄りの部分に接するように配置させておく。
【0057】
更に、上記押さえローラ21は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7に挿通配置されている上記溶材9を、ワーク10上面に対して所定の圧力で押さえ付けるように配置させておく。
【0058】
上記プローブ2及びショルダー3は、後述するように、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1のワーク10の接合線に沿う相対移動を開始させる前の任意の時点で、図示しない回転駆動装置による回転駆動軸4と一体の回転駆動を開始させておく。
【0059】
この状態で、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、ワーク10の接合線に沿う相対移動を開始させる。この相対移動は、位置固定された摩擦撹拌接合ツール1に対して、図示しない移動テーブル上に固定されたワーク10が移動テーブルと一緒に該ワーク10の接合線に沿う方向に移動するようにしてもよく、あるいは、位置固定されたワーク10の接合線に沿って、上記摩擦撹拌接合ツール1を移動させるようにしてもよい。
【0060】
これにより、上記ワーク10は、上記回転駆動されるショルダー3との摩擦熱により該ワーク10の接合線付近が下面側より加熱された状態で、上記回転駆動されるプローブ2が、上記接合線位置の端面に押し付けられるようになる。このため、該回転するプローブ2に接する部分のワーク10の素材が、塑性流動させられるようになり、該プローブ2が、ワーク10の接合部に没入させられるようになる。
【0061】
上記のように、ワーク10の接合部は、上記ショルダー3との摩擦熱により加熱される部分に、回転する上記プローブ2が没入することにより、該プローブ2の周囲に該ワーク10の板厚の全体に亘って塑性流動領域が形成され、これにより、該ワーク10の接合部の摩擦撹拌接合が開始される。
【0062】
上記のようにして摩擦撹拌接合が開始されるときには、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、上記溶材供給手段8により、上記固定式ショルダー5のガイド溝7に配置されている上記棒状の溶材9を、上記固定式ショルダー5の開口部6の内側で回転している上記プローブ2に向けて付勢する。この付勢は、たとえば、上記溶材9が、一定の押し付け圧で上記プローブ2に対して押し付けられるように供給圧力を制御する。これにより、上記溶材9は、上記プローブ2に接する先端が該プローブ2との摩擦により発生する摩擦熱で加熱されるため、該溶材9の先端部が軟化されるようになる。
【0063】
その後、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1が、ワーク10の接合線に沿って相対移動することに伴って、該ワーク10の接合線に沿う摩擦撹拌接合が連続的に行われる。
【0064】
この摩擦撹拌接合が行われる際、ワーク10の接合部に隙間がない場合は、上記ショルダー3と固定式ショルダー5との間には、上記プローブ2の周囲で塑性流動する軟化したワーク10の素材が充填されるように存在している。この場合は、上記したように、溶材供給手段8より固定式ショルダー5のガイド溝7に供給されている溶材9は、その先端側が軟化した状態で上記プローブ2に向けて付勢されているとしても、該ガイド溝7と溶材9の断面形状が対応しており、開口部6の内側には上記プローブ2が存在しており、しかも、上記固定式ショルダー5の下方におけるプローブ2の周囲の塑性流動している領域には上記したように軟化したワーク10の素材が充填されているため、行き場がない。よって、上記溶材9は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7にそのまま保持される。
【0065】
一方、摩擦撹拌接合が行われる際、ワーク10の接合部に隙間が存在していた場合は、上記プローブ2の周囲で塑性流動する軟化したワーク10の素材の量が、上記ショルダー3と固定式ショルダー5との間に充填される量に不足するようになる。
【0066】
よって、この場合は、上記溶材供給手段8により付勢される圧力により、上記固定式ショルダー5のガイド溝7に供給されている溶材9の先端側の軟化した部分が、その直下に位置する上記プローブ2の周囲の塑性流動領域に送り込まれて、軟化したワーク10の素材と一緒に塑性流動させられるようになる。
【0067】
上記溶材9は、上記溶材供給手段8により付勢されているため、上記したように、該溶材9の先端側の軟化した部分が、プローブ2の周囲の塑性流動領域に送り込まれると、その送り込まれた分、溶材9が順次上記ガイド溝7へ供給されると共に、新たに先端となる部分は、上記回転するプローブ2との摩擦による摩擦熱で軟化した状態となる。よって、上記溶材9は、上記プローブ2の周囲の塑性流動領域に、上記プローブ2の周囲で塑性流動する軟化したワーク10の素材の量が、上記ショルダー3と固定式ショルダー5との間に充填される量に達するまで、該塑性流動領域に順次送り込まれるようになる。
【0068】
その後、上記プローブ2の周囲で塑性流動する軟化したワーク10の素材の量が、上記ショルダー3と固定式ショルダー5との間に充填される量に達すると、上記溶材9は、行き場がなくなるため、該溶材9の上記塑性流動領域への送り込みは、自動的に停止される。
【0069】
上記プローブ2の周囲の塑性流動領域に送り込まれた溶材9の量は、ワーク10の接合部に存在していた隙間の容積に対応していることから、上記溶材9が送り込まれた状態で摩擦撹拌接合された部分は、上記隙間に起因した接合不良が生じることはない。
【0070】
その後、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1が、ワーク10の接合線の全長に亘り相対移動するときに、ワーク10の接合部に隙間が存在していない個所では、ワーク10の接合部の摩擦撹拌接合が行われ、ワーク10の接合部に隙間が存在している個所では、上記したと同様の溶材9の自動的な送り込みによる隙間を充填した状態での摩擦撹拌接合が行われるようになる。
【0071】
このように、本発明の摩擦撹拌接合ツール1によれば、摩擦撹拌接合を行うワーク10の接合部に隙間が存在している場合は、プローブ2の外周に形成される塑性流動領域に、上記隙間を埋める量の溶材9を確実に供給することができる。したがって、摩擦撹拌接合された領域に、上記ワーク10の接合部に存在していた隙間に起因する接合不良が生じる虞を解消することができる。
【0072】
更に、上記溶材9が、上記プローブ2の外周におけるワーク10の素材の塑性流動領域に送り込まれるときは、該塑性流動領域の上下両側には、上記固定式ショルダー5と上記ショルダー3が配置されているため、該塑性流動領域に上記溶材9が過剰に供給される虞はない。よって、上記本発明の摩擦撹拌接合ツール1では、上記溶材9の供給管理を容易なものとすることができる。
【0073】
上記溶材供給手段8が、溶材9の上記プローブ2に対する押し付け圧を一定に制御する機能を備えていれば、上記ワーク10の接合部における隙間が存在している個所に上記溶材9が送り込まれて消費されても、その消費量にかかわらず、上記ワーク10の接合部に隙間が存在している個所の摩擦撹拌接合を行う際には、上記溶材9を定量供給することができる。よって、該溶材9の供給管理をより容易なものとすることができる。
【0074】
本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、プローブ2により上記ワーク10の板厚の全体に亘り塑性流動領域を形成させることができる。更に、本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、上記プローブ2の軸心方向の一端側に設けて該プローブ2と一体に回転させるショルダー3により、上記ワーク10の接合部を下面側から摩擦熱によって加熱することができるため、該ワーク10の接合部に対する入熱を増加させることができる。これにより、本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、板厚の厚いワーク10であっても摩擦撹拌接合することができると共に、該ワーク10の接合された部分にキッシングボンドのような欠陥を生じさせることのない良好な摩擦撹拌接合を実施することができ、更には、摩擦撹拌接合の施工の高速化が可能になる。
【0075】
上記プローブ2とショルダー3を回転駆動するための回転駆動軸4が、固定式ショルダー5の開口部6に配置される上記プローブ2の軸心方向の他端側(上端側)に取り付けてあるため、該回転駆動軸4を介して上記プローブ2及びショルダー3を昇降させるための昇降機構を、上記固定式ショルダー5を昇降させるための昇降機構と共に、ワーク10の片面側としての上方に配置させることができる。したがって、上記各昇降機構は、上記ワークの片面側に集約させて設けることができるため、上記ショルダー3を対応する昇降機構によりワーク10の下面に所定の接触圧力で接触させるときの反力と、上記固定式ショルダー5を対応する昇降機構によりワーク10の上面に所定の接触圧力で接触させるときの反力を、該各昇降機構同士で相互に伝える構成を容易に構築することができる。よって、摩擦撹拌接合装置に大きな反力受けが不要になり、装置構成の小型化を図ることが可能になる。
【0076】
上記実施の形態においては、棒状の溶材9を挿通配置させるための溶材ガイドとして、該固定式ショルダー5の下面に沿うようにガイド溝7を備えた構成を示した。かかる構成は、加工が容易という点では好ましいが、溶材出口13が該固定式ショルダー5における開口部6のワーク接触面側端部である下面側端部に配置されるようにしてあれば、図3に示すように、上記固定式ショルダー5の側面や上面に設けた溶材入口12(図では側面の場合が示してある)より、上記溶材出口13まで斜めに延びる貫通孔を固定式ショルダー5に穿設して、該貫通孔を溶材ガイド7aとした構成としてもよい。上記溶材ガイド7aの断面形状は、上記棒状の溶材9の断面形状と対応するように設定しておけばよい。又、図示してないが、上記溶材供給手段8は、上記固定式ショルダー5の溶材ガイド7aの延長線上となる位置に配置されるようにすればよい。
【0077】
上記各実施の形態では、棒状の溶材9をガイドするためのガイド溝7や溶材ガイド7aは、固定式ショルダー5における開口部6に対し、ツール進行方向の前方側へ延びる配置として示したが、上記ガイド溝7や溶材ガイド7aは、上記開口部6より周方向のいずれの方向に延びる配置で設けてもよい。この場合も、溶材供給手段8は、上記固定式ショルダー5のガイド溝7や溶材ガイド7aの延長線上となる位置に配置させるようにすればよい。
【0078】
上記実施の形態においては、押さえローラ21が、ホルダ22に接続された図示しない昇降機構によって固定式ショルダー5とは独立して昇降できる構成として示したが、上記押さえローラ21は、図4に示すように、その回転軸を固定式ショルダー5に直接取り付けて、該固定式ショルダー5と一体に昇降する構成としてもよい。
【0079】
更に、上記押さえローラ21は、装備することが望ましいが、たとえば、上記したように固定式ショルダー5に斜め方向に延びる貫通孔である溶材ガイド7aを備える場合等には、該押さえローラ21を省略した構成としてもよい。
【0080】
上記実施の形態においては、プローブ2と一体に回転するショルダー3と、固定式ショルダー5を、それぞれ個別の昇降機構により昇降可能な構成として示した。かかる構成は、上記ショルダー3と固定式ショルダー5の間隔を調整することで、板厚の異なるワーク10に容易に対応できるという点で好ましい。これに対し、板厚が一定のワーク10のみを接合対象とする形式の摩擦撹拌接合装置に適用する場合は、本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、図示してないが、上記固定式ショルダー5の開口部6に、ベアリング等を介して上記プローブ2及びショルダー3の回転駆動軸4の軸心方向の所定個所を回転自在に保持させてなる構成として、上記ショルダー3と固定式ショルダー5との間隔を、接合対象となるワーク10の板厚に対応させた間隔で固定してもよい。
【0081】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、上記棒状の溶材9は、丸棒状のものとして示したが、角棒状等、断面が多角形の溶材9を使用するようにしてもよい。
【0082】
固定式ショルダー5を対応する昇降機構に接続できるようにしてあれば、該固定式ショルダー5に対する支持部材11の取り付け個所は、適宜変更してもよい。又、該支持部材11は、形状を適宜変更してもよい。
【0083】
溶材供給手段8は、固定式ショルダー5のガイド溝7や溶材ガイド7aに挿通配置された棒状の溶材9を、該固定式ショルダー5の開口部6に配置されているプローブ2に向けて付勢することができれば、流体圧シリンダ16(図1(a))、ばね部材17(図2(a))、ボールねじ機構18(図2(b))、送り出し用のローラ19(図2(c))以外の任意の付勢手段を備えるようにしてもよい。
【0084】
図示した本発明の摩擦撹拌接合ツール1における各構成部材のサイズや構成部材同士の寸法比は、図示するための便宜上のものであり、実際のサイズや寸法比を反映するものではない。
【0085】
本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、上下を反転させた姿勢、90度横向きの姿勢、その他、接合対象のワーク10の姿勢に応じて、任意の姿勢で使用してもよい。
【0086】
又、本発明の摩擦撹拌接合ツール1は、ワーク10に対してツール移動方向へ相対移動させる際に、プローブ2及びショルダー3と、固定式ショルダー5の相対位置を維持できるようにしてあれば、プローブ2及びショルダー3を回転駆動するための回転駆動軸4は、上記ショルダー3におけるプローブ2取付側と逆側の軸心方向端面に取り付けるようにしてもよい。
【0087】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0088】
1 摩擦撹拌接合ツール
2 プローブ
3 ショルダー
4 回転駆動軸
5 固定式ショルダー
6 開口部
7 ガイド溝(溶材ガイド)
7a 溶材ガイド
8 溶材供給手段
9 溶材
10 ワーク
図1
図2
図3
図4