特許第5915164号(P5915164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915164
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ステアリング制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/187 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
   B62D1/187
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-284354(P2011-284354)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-132987(P2013-132987A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】田中 英治
(72)【発明者】
【氏名】増田 実栄
【審査官】 三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−202674(JP,A)
【文献】 特開平11−070880(JP,A)
【文献】 特開昭62−039363(JP,A)
【文献】 特開2010−178546(JP,A)
【文献】 特開平04−278880(JP,A)
【文献】 特開2009−090713(JP,A)
【文献】 特開平04−237673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18 − 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールのチルト角を変更するチルト機構と、このチルト機構を駆動する電動モーターとを有するステアリング装置のための制御装置であり、前記電動モーターの供給電流を制御するステアリング制御装置において、
前記チルト角と前記電動モーターの供給電流との関係が予め規定された演算手段を備え、この演算手段を用いて前記電動モーターの供給電流を制御し、
前記演算手段は、前記チルト角および前記電動モーターの供給電流の関係が定められたマップを含み、
前記マップは、前記チルト角を増加させるときに用いられる第1モーター電流マップ、および、前記チルト角を減少させるときに用いられる第2モーター電流マップを含み、
前記第2モーター電流マップに基づき定められる前記電動モーターの供給電流は、前記第1モーター電流マップに基づき定められる前記電動モーターの供給電流よりも小さい
ステアリング制御装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記チルト角に基づいて前記電動モーターの供給電流を算出するための演算式を含む
請求項1に記載のステアリング制御装置。
【請求項3】
前記ステアリング装置は、前記ステアリングホイールを支持する支持部材と、この支持部材の回転角度である前記チルト角の変更可能範囲を定める規制部材とを備えるものであり、
前記ステアリング制御装置は、前記チルト角の変更可能範囲における両端の角度をそれぞれ第1限界角および第2限界角とし、前記チルト角と前記第1限界角または前記第2限界角との差が所定角以下となる範囲を限界付近範囲とし、前記変更可能範囲のうちの前記限界付近範囲以外の範囲を通常範囲とするものであり、
前記演算手段は、前記チルト角が前記限界付近範囲内にあるときの前記チルト機構の動作速度を動作速度VAとし、前記チルト角が前記通常範囲内にあるときの前記チルト機構の動作速度を動作速度VBとして、前記動作速度VAが前記動作速度VB未満となるように予め規定された前記チルト角および前記電動モーターの供給電流の関係を有するものである
請求項1または2に記載のステアリング制御装置。
【請求項4】
前記電動モーターに電流を供給しているとき、かつ前記チルト角が変化しない期間が所定期間を超えて継続されているとき、そのときのチルト角を基準チルト角として学習する
請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【請求項5】
前記電動モーターの誘起電圧に基づいて前記チルト角を推定する
請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールのチルト角を変更するチルト機構と、このチルト機構を駆動する電動モーターとを有するステアリング装置のための制御装置であり、電動モーターの供給電流を制御するステアリング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のステアリング制御装置は、チルトスイッチの操作に応じて電動モーターを駆動することによりチルト角を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動モーターの回転に伴いチルト機構に作用する力の大きさは、チルト角に応じて変化する。このため、運転者の要求に応じてチルト角を変更し始めたときのチルト機構の動作速度と、その後のチルト角の変更過程におけるチルト機構の動作速度とを比較したとき、前者と後者とは必ずしも等しくならない。
【0005】
一方、運転者はチルト角を変更するとき、自身が要求するチルト角に達したときにチルト角の変更指示を停止する。しかし、上記のようにチルト機構の動作速度が増加する場合には、チルト角が要求する位置に達したタイミングでチルト角の変更指示を停止することが難しくなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、チルト角を調整するときの操作性が高いステアリング制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、ステアリングホイールのチルト角を変更するチルト機構と、このチルト機構を駆動する電動モーターとを有するステアリング装置のための制御装置であり、前記電動モーターの供給電流を制御するステアリング制御装置において、前記チルト角と前記電動モーターの供給電流との関係が予め規定された演算手段を備え、この演算手段を用いて前記電動モーターの供給電流を制御し、前記演算手段は、前記チルト角および前記電動モーターの供給電流の関係が定められたマップを含み、前記マップは、前記チルト角を増加させるときに用いられる第1モーター電流マップ、および、前記チルト角を減少させるときに用いられる第2モーター電流マップを含み、前記第2モーター電流マップに基づき定められる前記電動モーターの供給電流は、前記第1モーター電流マップに基づき定められる前記電動モーターの供給電流よりも小さいことを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、予め定められたチルト角と電動モーターの供給電流との関係を用いて電動モーターの供給電流を制御するため、チルト機構の動作速度をチルト角に応じて制御することができる。このため、チルト角の調整が困難となるチルト機構の動作速度の変化が生じないように上記関係を定めることにより、チルト角を調整するときの操作性を高めることができる。また、予め定められた関係を用いて電動モーターの供給電流を制御するため、フィードバック制御により電動モーターの供給電流を制御する構成と比較して、制御装置の演算負荷が小さくなる。また、その時々のチルト角をマップに適用することにより電動モーターの供給電流を算出することができる。このため、演算式を用いて電動モーターの供給電流を算出する構成と比較して、制御装置の演算負荷が小さくなる。
【0011】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、前記演算手段は、前記チルト角に基づいて前記電動モーターの供給電流を算出するための演算式を含む請求項1に記載のステアリング制御装置であることを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、その時々のチルト角を演算式に適用することにより電動モーターの供給電流を算出することができる。このため、マップを予め記憶して電動モーターの供給電流を算出する構成と比較して、制御装置に必要とされる記憶容量が小さくなる。
【0013】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、前記ステアリング装置は、前記ステアリングホイールを支持する支持部材と、この支持部材の回転角度である前記チルト角の変更可能範囲を定める規制部材とを備えるものであり、前記ステアリング制御装置は、前記チルト角の変更可能範囲における両端の角度をそれぞれ第1限界角および第2限界角とし、前記チルト角と前記第1限界角または前記第2限界角との差が所定角以下となる範囲を限界付近範囲とし、前記変更可能範囲のうちの前記限界付近範囲以外の範囲を通常範囲とするものであり、前記演算手段は、前記チルト角が前記限界付近範囲内にあるときの前記チルト機構の動作速度を動作速度VAとし、前記チルト角が前記通常範囲内にあるときの前記チルト機構の動作速度を動作速度VBとして、前記動作速度VAが前記動作速度VB未満となるように予め規定された前記チルト角および前記電動モーターの供給電流の関係を有するものである請求項1または2に記載のステアリング制御装置であることを要旨とする。
【0014】
チルト機構の動作速度が大きい状態で支持部材の回転が規制部材により規制されるとき、支持部材と規制部材の接触に伴いこれら部材の一方または両方が変形する恐れがある。上記発明ではこの点に着目し、チルト角が限界付近範囲内にあるときのチルト機構の動作速度を小さくしている。このため、支持部材および規制部材の少なくとも一方が変形するおそれが小さくなる。
【0015】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、前記電動モーターに電流を供給しているとき、かつ前記チルト角が変化しない期間が所定期間を超えて継続されているとき、そのときのチルト角を基準チルト角として学習する請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング制御装置であることを要旨とする。
【0016】
ステアリング装置においては、チルト機構におけるずれの積算や経年劣化などに起因して、制御装置が認識するチルト角が実際のチルト角からずれることもある。一方、チルト機構の動作が他の部材との接触により規制されているときには、電動モーターに電流を供給してもチルト角が変化しない状態が継続される。上記発明ではこれらの点に着目し、基準チルト角を学習している。このため、制御装置が認識するチルト角と実際のチルト角とのずれが解消される可能性が高くなる。
【0017】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、前記電動モーターの誘起電圧に基づいて前記チルト角を推定する請求項1〜のいずれか一項に記載のステアリング制御装置であることを要旨とする。
【0018】
この発明では、電動モーターの誘起電圧に基づいてチルト角を算出するため、チルト角を測定するセンサが設けられていないステアリング装置において、電動モーターへの供給電流をチルト角に応じて決定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、チルト角を調整するときの操作性が高いステアリング制御装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態の電子制御装置について、同電子制御装置を含むステアリング装置の構造を示す模式図。
図2】実施形態のステアリング装置について、(a)はチルト角が下限角のときのチルトスクリュー軸力の分力を示す模式図、(b)はチルト角が上限角のときのチルトスクリュー軸力の分力を示す模式図。
図3】実施形態のステアリング装置について、チルトスクリュー軸力の鉛直分力とチルト角との関係を示すグラフ。
図4】実施形態のステアリング装置について、チルト角とその動作速度との関係を示すグラフ。
図5】実施形態の電子制御装置に記憶されているチルト角とモーター電流との関係を示すマップ。
図6】実施形態の電子制御装置により実行されるモーター電流決定処理の手順を示すフローチャート。
図7】実施形態の電子制御装置により実行される基準回転角学習処理の手順を示すフローチャート。
図8】本発明のその他の実施形態について、(a)は電子制御装置に記憶されているチルト角とモーター電流との関係を示すマップ、(b)はステアリング装置におけるチルト角とその動作速度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照して、ステアリング装置1の全体構成について説明する。
ステアリング装置1には、ステアリングホイール2、ステアリングシャフト11、コラムチューブ12、コラムブラケット13、保持部材21、およびチルトスクリュー軸22が設けられている。またステアリング装置1には、チルトスクリューナット23、回転角センサ24、フレキシブルシャフト25、伝達機構26、電動モーター31、減速機構32、電子制御装置33、および操作部34が設けられている。
【0022】
ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト11の一端に連結されている。ステアリングシャフト11は、コラムチューブ12に挿通されている。コラムチューブ12は、その長手方向の中心軸Ta周りに回転可能にステアリングシャフト11を支持している。ステアリングシャフト11のステアリングホイール2側に対する他方側は、転舵機構(図示略)に連結されている。転舵機構は、ステアリングホイール2の操作に応じて転舵輪の方向を変更する。
【0023】
コラムチューブ12には、径方向外側に突出した第1コラムリブ17が車両前方側の外面に設けられている。コラムチューブ12は、第1コラムリブ17を介して車両の取り付けリブ16に対してチルト中心軸Pを中心として回転可能に連結される。また、コラムチューブ12には、中心軸Taを中心として第1コラムリブ17と略正対する外面上に径方向外側に突出した第2コラムリブ18が設けられている。また、コラムチューブ12には、第2コラムリブ18が設けられている位置から中心軸Taに平行な車両後方側の位置に、コラムチューブ12の径方向外側に突出した第3コラムリブ19が設けられている。
【0024】
なお、図1の符号Qは、チルト中心軸Pを通る中心軸Taの垂線と、この中心軸Taとの交点を示す。また、以下では、コラムチューブ12のステアリングホイール2側の一端がチルト中心軸Pを中心として重力方向上側を向くように回転したときにチルト角θtが増加し、重力方向下側を向くように回転したときにチルト角θtが減少するものとして説明を続ける。
【0025】
コラムブラケット13の天板は、取り付けボルト14により車両の取り付けステー15に固定されている。コラムブラケット13の下端には、チルト中心軸Pと平行な中心軸S周りに回転可能に保持部材21が取り付けられる。保持部材21は、チルトスクリュー軸22の挿通口が設けられている。また、チルトスクリューナット23および回転角センサ24が、保持部材21の内部に保持される。
【0026】
チルトスクリュー軸22の円筒面上には螺旋状の溝が形成されている。チルトスクリュー軸22の溝は、一端側から他端側の端部の直前まで形成されている。したがって、チルトスクリュー軸22は、溝が形成されている第1円筒部と、溝が形成されていない第2円筒部とを有する。第1円筒部は、チルトスクリューナット23に挿入される。第1円筒部の端部には、かさ歯車が取り付けられている。第1円筒部のかさ歯車が、伝達機構26に挿入されている。チルトスクリュー軸22の溝の向きは、正回転することによって保持部材21からコラムブラケット13に近づく向きである。チルトスクリュー軸22が正回転するときとは、その長手方向の中心軸Tbに沿ってコラムチューブ12側から平面視したときに時計回りに回転しているときである。また、チルトスクリュー軸22が逆回転するときとは、中心軸Tbに沿ってコラムチューブ12側から平面視したときに反時計回りに回転しているときである。チルトスクリュー軸22の溝は、チルトスクリュー軸22の軸方向の移動量と、軸方向周りの回転角θk(以下、単に回転角θkと称する)の変化量との比(以下、単に回転移動比と称する)が所定値になるように形成されている。なお、図1の符号Rは、チルトスクリュー軸22の長手方向の中心軸Tbと、中心軸Taとの交点を示す。
【0027】
チルトスクリューナット23は、チルトスクリュー軸22の溝と噛み合う溝が内面に形成されている。
回転角センサ24は、チルトスクリュー軸22の中心軸Tb周りの回転角を0°〜359°の範囲で回転角θkとして検出する。
【0028】
フレキシブルシャフト25は、チルトスクリュー軸22に取り付けられているかさ歯車と噛み合うかさ歯車が一端に取り付けられている。
伝達機構26は、チルト中心軸Pと平行な軸(図示略)周りに回転可能にコラムブラケット13に取り付けられている。伝達機構26には、チルトスクリュー軸22のかさ歯車およびフレキシブルシャフト25のかさ歯車が挿入される。伝達機構26の内部において、チルトスクリュー軸22およびフレキシブルシャフト25は、それぞれのかさ歯車が互いに直角に噛み合い、回転可能なように図示しない軸受けにより支持されている。
【0029】
電動モーター31は、フレキシブルシャフト25の電動モーター31側の端部の中心軸と、この電動モーター31のローターの回転中心軸が垂直に交わるように第2コラムリブ18に取り付けられている。電動モーター31は、減速機構32を介して第2コラムリブ18に取り付けられている。減速機構32は、電動モーター31の回転トルクτをフレキシブルシャフト25に伝達する。
【0030】
操作部34には、チルト角θtの増加を指示するための増加ボタンおよび減少を指示するための減少ボタンが設けられている。増加ボタンが使用者によって押されたときに、チルト角θtを増加する指示を示す指示信号Ssが操作部34によって生成される。一方、減少ボタンが使用者によって押下されたときに、チルト角θtを減少する指示を示す指示信号Ssが操作部34によって生成される。
【0031】
電子制御装置33は、第2コラムリブ18に取り付けられている。電子制御装置33は、操作部34および回転角センサ24から出力される信号に基づいて電動モーター31を制御する。また、電子制御装置33は各種情報を記憶する記憶部(図示略)を有している。なお、図1に示す符号PQ〜RSは、符号P〜符号Sをそれぞれ結ぶ実線であり、ステアリング装置1に設けられた実在する部材ではない。
【0032】
ステアリング装置1の動作について説明する。
使用者が操作部34を操作することによりチルト角θtを増加させる指示を示す指示信号Ssが生成されたとき、電子制御装置33は、正のモーター電流Imを電動モーター31に供給する。一方、使用者が操作部34を操作することによりチルト角θtを減少させる指示を示す指示信号Ssが生成されたとき、負のモーター電流Imを電動モーター31に供給する。
【0033】
電動モーター31は、正のモーター電流Imが供給されているときに正回転し、負のモーター電流Imが供給されているときに逆回転する。電動モーター31の回転トルクτは、減速機構32、フレキシブルシャフト25、および伝達機構26を介して、チルトスクリュー軸22に伝達される。電動モーター31が正回転しているときにチルトスクリュー軸22は正回転し、電動モーター31が逆回転しているときにチルトスクリュー軸22は逆回転する。チルトスクリュー軸22がチルトスクリューナット23に対して回転することにより、電動モーター31の回転トルクτが、チルトスクリュー軸22の軸力Jf(以下、チルトスクリュー軸力Jfと称する)に変換される。
【0034】
チルトスクリュー軸力Jfは、チルトスクリュー軸22を軸線方向に移動させる。チルトスクリュー軸22が移動することにより、伝達機構26、第2コラムリブ18、コラムチューブ12、ステアリングシャフト11、およびステアリングホイール2が一体となってチルト中心軸Pを中心として回転し、チルト角θtが変更される。チルトスクリュー軸22の軸線方向の移動量とチルト角θtとの幾何的な関係(以下、幾何関係と称する)は所定の演算式で示される。そして、チルトスクリュー軸22が正回転することにより、チルト角θtが増加する。チルトスクリュー軸22が逆回転することにより、チルト角θtが減少する。なお、以下では、チルトスクリュー軸22が軸線方向に下降することにより伝達機構26が保持部材21に接触し、下限に達しているときのチルト角θtを0°の基準チルト角θtsとする。
【0035】
図2および図3を参照して、チルトスクリュー軸力Jfの鉛直方向の分力Ef(以下、鉛直分力Efと称する)とチルト角θtとの関係について説明する。図2(a)および図2(b)の符号P〜Sは、それぞれ図1に示す符号P〜Sに対応する。また、図2(a)および図2(b)の符号PQ〜RSは、それぞれ図1に示す符号PQ〜RSに対応する。また、図2(a)および図2(b)に示す軸Kjは、基準チルト角θtsを示す。また、図2(a)および図2(b)に示す符号Sjは、水平方向の軸(以下、水平軸Sjと称する)を示す。
【0036】
図2(a)は、伝達機構26がチルトスクリューナット23に接触してチルト角θtが基準チルト角θtsとなっている状態を示す。図2(b)は、図2(a)に示す状態からチルト角θtが増加し、チルトスクリュー軸22の第2円筒部がチルトスクリューナット23の溝に接触することにより上限に達した状態を示す。チルト角θtが増加すると、図2(b)に示すように、チルトスクリュー軸力Jfが水平軸Sjに対してなす角度θf(以下、単にチルトスクリュー軸角度θfと称する)が増加するため、鉛直分力Efは増加する。すなわち、チルト角θtが増加するにしたがって、チルトスクリュー軸力Jfに占める鉛直分力Efの割合は図3に示すように大きくなる。このため、チルト角θtが増加するにしたがって、チルトスクリュー軸力Jfを減少させると、鉛直分力Efの変化は小さくなる。
【0037】
また、チルト角θtを減少させるときのチルトスクリュー軸力Jfには、チルトスクリュー軸22によって支持される部材の重さによる重力方向の降下力Kfが寄与する。このため、チルト角θtを減少させるときのチルトスクリュー軸力Jfを、チルト角θtを増加させるときよりも小さくすると、チルト角θtを増加させる動作および減少させる動作を切り替えるときの鉛直分力Efの変化は小さくなる。
【0038】
図4および図5を参照して、モーター電流マップについて説明する。
電子制御装置33には、チルト角θtに対して鉛直分力Efを一定にし、図4に示すようにチルト角θtに対して動作速度Vが一定となるように、モーター電流をチルト角θtに応じて図5に示すように予め定めた第1モーター電流マップIp1および第2モーター電流マップIp2が記憶部に記憶されている。第1モーター電流マップIp1は、チルト角θtを増加させるときに用いられるモーター電流マップであり、第2モーター電流マップIp2は、チルト角θtを減少させるときに用いられるモーター電流マップである。図5に示すように、第2モーター電流マップIp2によって定められるモーター電流Imは、第1モーター電流マップIp1によって定められるモーター電流Imよりも小さい。
【0039】
図1を参照して、電子制御装置33の動作について説明する。
電子制御装置33は、操作部34から指示信号Ssを取得する。また、電子制御装置33は、回転角センサ24から回転角θkを取得する。電子制御装置33は、チルトスクリュー軸22が正回転するときの回転角θkの変化量を正の変化量とする。また、電子制御装置33は、チルトスクリュー軸22が逆回転するときの回転角θkの変化量を負の変化量とする。電子制御装置33の記憶部には、下限のチルト角θtに対応する回転角θkが基準回転角θsとして記憶されている。電子制御装置33は、基準回転角θsの回転角θkからの正の変化量または負の変化量の合計値を計算することによってチルトスクリュー軸22の中心軸Tb周りの総回転角度θdを計算する。
【0040】
電子制御装置33は、回転移動比および総回転角度θdに基づいてチルトスクリュー軸22の軸線方向の移動量を計算する。そして、チルトスクリュー軸22の軸線方向の移動量および幾何関係に基づいてチルト角θtを測定する。操作部34から取得した指示信号Ssに基づいて、第1モーター電流マップIp1および第2モーター電流マップIp2のいずれかが電子制御装置33によって選択される。選択されたモーター電流マップにおいて、チルト角θtの測定値に対応するモーター電流Imが、電動モーター31に供給する電流として、電子制御装置33により決定される。
【0041】
また、電子制御装置33は、モーター電流Imを決定する動作と平行して、電動モーター31に負のモーター電流Imを供給し、チルト角θtを減少させる変更を開始してから回転角θkが変化しない期間が所定期間txを超えたとき、この回転角θkを基準回転角θsとして学習する動作も行う。
【0042】
図6を参照して、電子制御装置33のモーター電流決定処理の流れについて具体的に説明する。電子制御装置33は図6のモーター電流決定処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0043】
ステップS11では、操作部34によって指示信号Ssが生成されたか否かを判定する。ステップS11において否定判定した場合、モーター電流決定処理を終了する。一方、ステップS11において肯定判定した場合、ステップS12では、回転角センサ24によって検出された回転角θkに基づいて、チルト角θtを測定する。
【0044】
ステップS13では、ステップS12におけるチルト角θtの測定値に対応するモーター電流Imを、指示信号Ssに応じて選択したモーター電流マップを参照して決定する。
ステップS14では、ステップS13において決定したモーター電流Imを電動モーター31に供給する。
【0045】
図7を参照して、電子制御装置33の基準回転角学習処理の流れについて具体的に説明する。電子制御装置33は図7の基準回転角学習処理を、モーター電流決定処理と平行して所定の周期で繰り返し実行する。
【0046】
ステップS21では、モーター電流Imの供給を開始してから回転角θkが変化しない期間が所定期間txを超えるか否かを判定する。ステップS21において否定判定した場合、基準回転角学習処理を終了する。
【0047】
ステップS21において肯定判定した場合、ステップS22では、回転角θkが変化しない期間が所定期間txを超えたのが、チルト角θtの減少を開始してからか否かを判定する。ステップS22において肯定判定した場合、ステップS23では回転角センサ24によって検出された回転角θkを基準回転角θsに再設定する。ステップS22において否定判定した場合、ステップS24の処理へ進む。ステップS24では、モーター電流Imの供給を停止する。
【0048】
(実施形態の効果)
本実施形態のステアリング装置1によれば以下の効果が得られる。
(1)ステアリング装置1は、チルト角θtと電動モーター31のモーター電流Imとの関係が予め規定された電子制御装置33を備え、この電子制御装置33を用いて電動モーター31のモーター電流Imを制御する。
【0049】
この構成によれば、予め定められたチルト角θtと電動モーター31のモーター電流Im(供給電流)との関係を用いて電動モーター31のモーター電流Imを制御するため、チルト機構の動作速度Vをチルト角θtに応じて制御することができる。このため、チルト角θtの調整が困難となるチルト機構の動作速度Vの変化が生じないように上記関係を定めることにより、チルト角θtを調整するときの操作性を高めることができる。また、予め定められた関係を用いて電動モーター31のモーター電流Imを制御するため、フィードバック制御により電動モーター31のモーター電流Imを制御する構成と比較して、電子制御装置33の演算負荷が小さくなる。
【0050】
(2)電子制御装置33は、チルト角θtおよび電動モーター31のモーター電流Imの関係が定められたマップを含む。
この構成によれば、その時々のチルト角θtをモーター電流マップに適用することにより電動モーター31のモーター電流Imを算出することができる。このため、演算式を用いて電動モーター31のモーター電流Imを算出する構成と比較して、電子制御装置33の演算負荷が小さくなる。
【0051】
(3)電子制御装置33は、チルト角θtが減少するように電動モーター31にモーター電流Imを供給しているとき、かつチルト角θtが変化しない期間が所定期間txを超えて継続されているとき、そのときの回転角θkを基準回転角θsとして学習する。
【0052】
ステアリング装置においては、チルト機構におけるずれの積算や経年劣化などに起因して、電子制御装置33が認識するチルト角θtが実際のチルト角θtからずれることもある。一方、チルト機構の動作が他の部材との接触により規制されているときには、電動モーター31にモーター電流Imを供給してもチルト角θtが変化しない状態が継続される。上記構成ではこれらの点に着目し、基準回転角θsを学習している。このため、電子制御装置33が基準回転角θsに基づいて認識するチルト角θtと実際のチルト角θtとのずれが解消される可能性が高くなる。
【0053】
(4)電子制御装置33は、電動モーター31にモーター電流Imを供給してチルト角θtを変化させているとき、かつ回転角θkが変化しない期間が所定期間txを超えるときに、モーター電流Imの供給を停止する。
【0054】
電動モーター31にモーター電流Imを供給して回転させているときに回転角θkが変化しない期間が所定期間txを超えるときとは、以下の2つの状態である可能性が高い。
(A)チルト角θtが減少するように電動モーター31を駆動しているが、伝達機構26が保持部材21に接触している。
(B)チルト角θtが増加するように電動モーター31を駆動しているが、チルトスクリューナット23の内面に形成された溝が、第2円筒部に接触している。
【0055】
上記構成によれば、上記(A)または(B)の場合に電動モーター31を停止させ、伝達機構26、チルトスクリュー軸22、およびチルトスクリューナット23が接触してから変形することを抑制することができる。
【0056】
本発明は、上記実施形態以外の実施形態を含む。以下、本発明のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
【0057】
・上記実施形態(図6)では、チルト角θtに応じたモーター電流Imをモーター電流マップを参照することにより決定した。しかし、電子制御装置33は、チルト角θtに基づいて電動モーター31のモーター電流Imを算出するための演算式を記憶することもできる。これにより、その時々のチルト角θtを演算式に適用することにより電動モーター31のモーター電流Imを算出することができる。このため、モーター電流マップを予め記憶して電動モーター31のモーター電流Imを算出する構成と比較して、電子制御装置33に必要とされる記憶容量が小さくなる。
【0058】
・上記実施形態(図1)では、1つのモーター電流マップを用いてモーター電流Imを決定した。また、伝達機構26およびチルトスクリューナット23のそれぞれを、チルトスクリュー軸22の回転を規制し、チルト角θtの変更可能範囲を定める規制部材とした。また、チルトスクリュー軸22を、伝達機構26、コラムチューブ12、ステアリングシャフト11、およびステアリングホイール2を支持する支持部材とした。しかし、図8(a)および図8(b)に示すように、チルト角θtの変更可能範囲における両端の角度をそれぞれ第1限界角および第2限界角とし、チルト角θtと第1限界角または第2限界角との差が所定角以下となる範囲を限界付近範囲とし、変更可能範囲のうちの限界付近範囲以外の範囲を通常範囲とすることもできる。この場合、電子制御装置33は、図8(b)に示すようにチルト角θtが限界付近範囲内にあるときのチルト機構の動作速度Vを動作速度VAとし、チルト角θtが通常範囲内にあるときのチルト機構の動作速度Vを動作速度VBとする。そして、動作速度VAが動作速度VB未満となるように予め規定されたチルト角θtおよび電動モーター31のモーター電流Imの関係を示す図8(a)に示すようなモーター電流マップを記憶する。チルト機構の動作速度Vが大きい状態で上記支持部材の回転が上記規制部材により規制されるとき、支持部材と規制部材の接触に伴いこれら部材の一方または両方が変形するおそれがある。この構成ではこの点に着目し、チルト角θtが限界付近範囲内にあるときのチルト機構の動作速度Vを小さくしているため、支持部材および規制部材の少なくとも一方が変形する恐れが小さくなる。
【0059】
・上記実施形態(図6)では、チルト角θtが減少するように電動モーター31にモーター電流Imを供給しているとき、かつチルト角θtが変化しない期間が所定期間txを超えて継続されているときに、そのときのチルト角θtを基準チルト角θtsとして学習する。しかし、チルト角θtが増加するように電動モーター31にモーター電流Imを供給しているとき、かつチルト角θtが変化しない期間が所定期間を超えて継続されているときに、そのときの回転角θkを基準回転角θsとして学習することもできる。
【0060】
この構成によれば、上記実施形態と同様に、電子制御装置33が認識するチルト角θtと実際のチルト角θtとのずれが解消される可能性が高くなる。
・上記実施形態(図7)では、使用者による操作に応じてチルト角θtを調整しているときに基準回転角θsを学習したが、使用者の車両への搭乗を容易にするためにチルト角θtを自動的に上限まで上昇させ、ステアリングホイール2が使用者の搭乗動作の妨げとならないように待避させたときに、基準回転角θsを学習してもよい。
【0061】
・上記実施形態(図1)では、チルトスクリュー軸22の回転角θkを検出したが、電動モーター31の各相の誘起電圧(逆起電圧)などに基づいてローターの回転角を推定し、この推定結果に基づいてチルト角θtを計算することもできる。これにより、チルト角θtを検出するためのセンサを用いなくとも、電動モーター31へ供給するモーター電流Imをチルト角θtに応じて決定することができる。
【0062】
・上記実施形態(図1)では、ステアリングシャフト11と転舵機構とが機械的に連結されたステアリング装置1とした。しかし、ステアリングシャフト11と転舵機構とが独立しており、電動モーターなどを動力源とする転舵機構をステアリングシャフト11の回転に応じて制御するステアバイワイヤ方式のステアリング装置にも本発明を適用することができる。
【0063】
・上記実施形態(図1)では、チルトスクリュー軸22の回転角θkを回転量として検出することによりチルト角θtを測定したが、チルトスクリュー軸22の中心軸Tb方向の変位量を測定する位置センサを設け、この位置センサによって検出される変位量に基づいてチルト角θtを測定することもできる。
【0064】
・上記実施形態(図1)では、チルト角θtを調整することができるチルト機構のみを有するステアリング装置1であるものとしたが、ステアリングホイール2の中心軸Ta方向の位置を調整することができるテレスコピック機構をさらに有するステアリング装置にも本発明を適用することができる。
【0065】
・上記実施形態(図1)では、チルト角θtを測定するための検出手段として回転角センサ24を用いたが、電動モーター31のローターの回転角を検出する回転角センサまたはチルト中心軸P周りの回転角度をチルト角θtとして直接検出する回転角センサを検出手段として用いることもできる。
【0066】
・上記実施形態(図7)では、基準回転角θsを学習したが、チルト角θtを直接検出する検出手段を用いる場合には、支持部材が規制部材に接触しているときの基準チルト角θtsを学習することもできる。
【0067】
・上記実施形態(図1)では、チルト角θtを変更するための支持部材としてチルトスクリュー軸22をチルトスクリューナット23に対して回転させることによりチルト角θtを変更した。しかし、ステアリングシャフト11を回転可能に支持するコラムチューブ12を支持部材として直接回転させることによって、チルト角θtを変更することもできる。
【0068】
・上記実施形態(図1)では、チルトスクリュー軸22でコラムチューブ12を支持した。しかし、ラックアンドピニオン機構のラック軸でコラムチューブ12を支持し、ピニオンギアを回転部材として回転させることによりチルト角θtを変更することもできる。
【0069】
・上記実施形態(図1)では、チルトスクリュー軸22が軸線方向に下降することにより伝達機構26が保持部材21に接触し、下限に達しているときのチルト角θtを0°の基準チルト角θtsとした。しかし、コラムチューブ12が水平方向に平行している状態のときのチルト角θtを0°の基準チルト角θtsとすることもできる。
【符号の説明】
【0070】
1…ステアリング装置、2…ステアリングホイール、11…ステアリングシャフト(支持部材)、12…コラムチューブ(支持部材)、13…コラムブラケット、14…取り付けボルト、15…取り付けステー、16…取り付けリブ、17…第1コラムリブ、18…第2コラムリブ、19…第3コラムリブ、21…保持部材(規制部材)、22…チルトスクリュー軸(支持部材)、23…チルトスクリューナット(規制部材)、24…回転角センサ(検出手段)、25…フレキシブルシャフト、26…伝達機構(規制部材)、31…電動モーター、32…減速機構、33…電子制御装置(ステアリング制御装置、演算手段)、34…操作部。
図1
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図8