特許第5915170号(P5915170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915170
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】音場制御装置および音場制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04S 5/02 20060101AFI20160422BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   H04S5/02 P
   H04S7/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-287794(P2011-287794)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-138307(P2013-138307A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】増田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】片山 真樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博之
【審査官】 菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−229738(JP,A)
【文献】 特開2009−017137(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/001857(WO,A1)
【文献】 特開2005−236502(JP,A)
【文献】 特表2003−526300(JP,A)
【文献】 特開2009−010475(JP,A)
【文献】 特開2008−178000(JP,A)
【文献】 特開2007−266772(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/135283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00− 7/00
H04R 1/20− 1/40
H04R 3/00− 3/14
G10K 15/00−15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数チャンネルのオーディオ信号に対して信号処理を施し複数のスピーカにそれぞれ供給して、聴取地点での音場を制御する音場制御装置であって、
端末装置が有する通信機能および測位機能のうち、前記測位機能を用いて測定されるとともに、前記端末装置から前記通信機能で送信された、前記複数のスピーカの位置情報および前記聴取地点に応じた位置情報を、それぞれ受信する通信部と、
前記通信部により受信された位置情報をそれぞれ記憶する位置情報記憶部と、
前記位置情報記憶部に記憶された各位置情報に基づいて前記信号処理の内容を設定する音場設定部と、
を具備することを特徴とする音場制御装置。
【請求項2】
前記位置情報記憶部は、
前記聴取地点を含む空間の形状を特定する位置情報を記憶し、
前記音場設定部は、前記空間の形状を特定する位置情報から、前記空間の形状を推定して、当該推定した空間に応じて前記信号処理の内容を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の音場制御装置。
【請求項3】
複数オーディオ信号に対し信号処理を施し、筐体内に配列した複数のスピーカに供給し、直接音および反射音によって当該聴取地点の音場を制御する音場制御装置であって、
端末装置が有する通信機能および測位機能のうち、前記測位機能を用いて測定されるとともに、前記端末装置から前記通信機能で送信された、前記筐体の位置情報と、前記聴取地点に応じた位置情報と、前記聴取地点を含む空間の形状を特定する位置情報と、をそれぞれ受信する通信部と、
前記通信部により受信された位置情報をそれぞれ記憶する位置情報記憶部と、
前記位置情報記憶部に記憶された各位置情報に基づいて前記信号処理の内容を設定する音場設定部と、
を具備することを特徴とする音場制御装置。
【請求項4】
複数チャンネルのオーディオ信号に対して信号処理を施し複数のスピーカにそれぞれ供給して、聴取地点での音場を制御する音場制御方法であって、
端末装置が有する通信機能および測位機能のうち、前記測位機能を用いて測定されるとともに、前記端末装置から前記通信機能で送信された、前記複数のスピーカの位置情報および前記聴取地点に応じた位置情報を、それぞれ受信し、
前記受信された位置情報をそれぞれ記憶し、
記憶された各位置情報に基づいて前記信号処理の内容を設定する
ことを特徴とする音場制御方法。
【請求項5】
複数オーディオ信号に対し信号処理を施し、筐体内に配列した複数のスピーカに供給し、直接音および反射音によって当該聴取地点の音場を制御する音場制御方法であって、
端末装置が有する通信機能および測位機能のうち、前記測位機能を用いて測定されるとともに、前記端末装置から前記通信機能で送信された、前記筐体の位置情報と、前記聴取地点に応じた位置情報と、前記聴取地点を含む空間の形状を特定する位置情報と、をそれぞれ受信し、
前記受信された位置情報をそれぞれ記憶し、
記憶された各位置情報に基づいて前記信号処理の内容を設定する
ことを特徴とする音場制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末装置で測定したスピーカやリスナーの位置情報を用いて、音場を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数個のスピーカを備えたオーディオシステムにおいて、各スピーカから聴取地点までの距離が互いに異なると、当該聴取地点において各スピーカから発生した音を聴いたときに音量や位相などが異なってしまう。
そこで、スピーカから発生させたテスト音等を聴取地点で検出して音圧差や位相差などを求め、各スピーカに供給する信号の音量や位相を制御する技術が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。位置測定については、無線システムを用いる技術(例えば特許文献3参照)もあれば、スピーカから発せられた電波をリスナーで反射させるとともに当該反射波をスピーカに設けられた受信器によって受信する技術(例えば特許文献4参照)もある。また、聴取地点に設けられたカメラのフォーカス機能を用いてスピーカまでの距離を測定する技術(例えば特許文献5参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−331999号公報
【特許文献2】特開2003−032799号公報
【特許文献3】特開2006−229738号公報
【特許文献4】特開2006−313980号公報
【特許文献5】特開2007−043320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、いずれも各スピーカから聴取地点までの距離を測定することはできるが、精度的に劣る、または、位置測定のために無線やカメラなどの付加的な構成を必要とする。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、高い精度の音場を簡易な構成で制御することが可能な音場制御装置および音場制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明に係る音場制御装置は、複数チャンネルのオーディオ信号に対して信号処理を施し複数のスピーカにそれぞれ供給して、聴取地点での音場を制御する音場制御装置であって、端末装置によって測定された、前記複数のスピーカの位置情報および前記聴取地点に応じた位置情報を、それぞれ記憶する位置情報記憶部と、前記位置情報記憶部に記憶された各位置情報に基づいて前記信号処理の内容を設定する音場設定部と、を具備することを特徴とする。本発明によれば、スピーカの位置および聴取地点が端末装置の位置測定機能(測位機能)によって測定される。このため、スピーカから聴取地点までの距離のみならず、スピーカと聴取地点との位置関係も特定できるので、形成する音場の精度を高めることが可能になる。また、これらの位置情報を取得するにあたって、オーディオ信号とは無関係のテスト音を発生させる必要もないし、リスナーが端末装置を携帯すれば、リスナーの移動に伴って音場をほぼリアルタイムに制御することも可能になる。また、この発明は、音場制御装置のみならず、音場制御方法として概念することも可能である。
【0006】
本発明において、前記位置情報記憶部は、前記聴取地点を含む空間の形状を特定する位置情報を記憶し、前記音場設定部は、前記空間の形状を特定する位置情報から、前記空間の形状を推定して、当該推定した空間に応じて前記信号処理の内容を設定する構成としても良い。この構成によれば、聴取地点を含む室内の形状を反映させて音場を形成することができる。
【0007】
また、上記目的は、複数オーディオ信号に対し信号処理を施し、筐体内に配列した複数のスピーカに供給し、直接音および反射音によって当該聴取地点の音場を制御する音場制御装置であって、端末装置によって測定された、前記筐体の位置情報と、前記聴取地点に応じた位置情報と、前記聴取地点を含む空間の形状を特定する位置情報と、をそれぞれ記憶する位置情報記憶部と、前記位置情報記憶部に記憶された各位置情報に基づいて前記信号処理の内容を設定する音場設定部と、を具備する音場制御装置に係る発明によっても達成することができる。この発明についても、音場制御方法として概念することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る音場制御装置を含むシステムの構成を示す図である。
図2】スピーカやリスナーなどの位置関係を示す図である。
図3】同音場制御装置の動作を示すフロチャートである。
図4】同音場制御装置における位置情報の取得を示す図である。
図5】同音場制御装置における部屋形状の取得例を示す図である。
図6】同音場制御装置における音場設定を示す図である。
図7】第2実施形態に係る音場制御装置の構成を示す図である。
図8】同音場制御装置を含むシステムの構成を示す図である。
図9】スピーカやリスナー等の位置関係を示す図である。
図10】同音場制御装置における位置情報の取得を示す図である。
図11】音場制御装置における位置関係を示す図である。
図12】音場制御装置における位置関係を示す図である。
図13】音場制御装置における位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、第1実施形態に係る音場制御装置40aを含むオーディオシステムの概略構成を示すブロック図である。
この図に示されるように、オーディオシステムは、測位機能を有する端末装置10と、再生信号を生成する再生部20と、モニタ30と、再生信号に音場を付与する音場制御装置40aと、音場が付与された各チャンネルのオーディオ信号を音響変換して出力するスピーカ51〜55とを含んでいる。
【0011】
端末装置10は、例えば携帯電話機であり、詳細な構成については割愛するが、CPUや、メモリ、表示装置、タッチパネルなどを含み、利用者が表示画面にタッチ操作等することで、必要な情報の入力や各種の指示がなされる構成となっている。また、端末装置10は、音場制御装置40aから例えば十数メートルの範囲内で短距離無線通信を行う通信機能のほか、GPS(Global Positioning System)によって端末装置10の位置を測定する測位機能を有する。そして、端末装置10は、予めインストールされた所定のプログラムを実行することによって、音場制御装置40aから受信した情報に基づいた画面を表示させて、測位すべき地点を表示したり、測位した位置情報を音場制御装置40aに送信したりする。
【0012】
なお、端末装置10で測位される位置情報は経度および緯度であるが、後述するように高度を加えても良い。また、測位機能としてはGPSのほか、GPSの測定誤差を位置情報が既知の基準点で補正するD−GPS(Differential GPS)を用いても良い。また、複数の基準点から受信した電波の位相差を測定する方式や、複数の基準点による電波強度や電波到達時間などを比較する方式などを用いても良いし、これらを適宜組み合わせた方式を用いても良い。くわえて、加速度センサーやジャイロセンサーなどを用いて既知点からの移動方向・移動距離によって位置を特定する方式でも良い。
また、端末装置10は、携帯電話機に限られず、上記通信機能や測位機能を有するのであれば、タブレット型のコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)、ポータブルナビゲーション装置などでも良い。
【0013】
再生部20は、CD(compact disk)や、DVD(digital versatile disk)、BD(blu-ray disk)などの各種媒体を再生することによって、または、放送電波を受信することによって、再生信号を生成する。なお、再生信号には音声信号のほか、再生媒体によっては映像信号が含まれる場合がある。
モニタ30は、液晶表示装置やプラズマディスプレイなどであり、再生信号に含まれる映像信号に基づいた映像を表示する。
【0014】
音場制御装置40aは、再生信号に含まれる音声信号を、複数のチャンネルのオーディオ信号にデコードし、音場を付与して出力するものであり、通信部41、位置情報記憶部42、音場設定部43、音場付与部44および増幅部45を含んでいる。
このうち、通信部41は、端末装置10と短距離無線通信を行うものである。位置情報記憶部42は、端末装置10から通信部41を介して、位置情報を取得して記憶する。
【0015】
音場設定部43は、端末装置10との送受信を制御したり、付与すべき音場に対応した信号処理の内容を決定して、音場付与部44に設定したりする。音場付与部44は、音場設定部43で設定された内容の信号処理を、オーディオ信号の各チャンネルにそれぞれ施す。音場設定部43および音場付与部44は、例えばDSP(Digital Signal Processor)機能を持ったマイコンによって実現される。
増幅部45は、チャンネル毎のアンプの集合体であり、信号処理が施されたオーディオ信号をチャンネル毎に増幅して、スピーカ51〜55にそれぞれ出力する。
なお、図においては、通信部41と音場付与部44を直結した相互の矢印も設けてあるが、これは端末装置10側で位置情報による音場設定を行い、通信部41を介して音場付与部44に音場パラメーターの指示を行うケースを想定しているためである。
【0016】
図2は、スピーカ51〜55およびリスナーLの位置関係について、当該スピーカが設置されるリスニングルーム60を平面視した状態で示した図である。
この図に示されるようにスピーカ51〜55の各々は、順番にフロントレフト(FL)、センター(C)、フロントライト(FR)、サラウンドレフト(SL)、サラウンドライト(SR)のチャンネルにそれぞれに対応している。詳細には、モニタ30の表示面のほぼ中心にCチャンネルのスピーカ52が設置され、リスナーLからみて、モニタ30の左側にFLチャンネルのスピーカ51が、同右側にFRチャンネルのスピーカ53がそれぞれ設置され、リスナーLからみて、後方左側にSLチャンネルのスピーカ54が、後方右側にSRチャンネルのスピーカ55が、それぞれ設置される。
なお、サブウーファは省略されているが、他のスピーカと同様に時間軸および音量の調整対象としても良い。
【0017】
次に、音場制御装置40aにおける音場制御処理の動作について説明する。図3は、音場制御処理の動作を示すフロチャートである。
この音場制御処理は、例えば音場制御装置40aにおいて電源が投入された状態で、端末装置10において所定のプログラムが起動し、音場制御装置40aと近距離無線通信が確立したときに、当該音場制御装置40aで実行される。
まず、音場制御装置40aにおいて音場設定部43は、スピーカ51〜55の位置情報が位置情報記憶部42に記憶されているか否かを判別する(ステップSa11)。
【0018】
スピーカの位置情報が記憶されていない場合(ステップSa11の判別結果が「No」の場合)、音場設定部43は、通信部41を介して端末装置10にスピーカ51〜55の位置情報を要求し、その応答としての位置情報を当該端末装置10から取得し、位置情報記憶部42に記憶させる(ステップSa12)。具体的には、例えば次のようにしてスピーカ51〜55の位置情報が音場制御装置40aで取得・記憶される。
【0019】
端末装置10では、音場制御装置40aからスピーカ51〜55の位置情報の要求があると、ユーザー(リスナーL)に対して、当該端末装置10をスピーカ51〜55が設置された地点に移動させて所定の操作をすべき旨を表示部に表示させる。この表示にしたがって、ユーザーが、実際に端末装置10をスピーカ51〜55のいずれかが設置された地点に移動させて所定の操作をすると、例えば測位開始を指示するソフトウェアキーのボタンをタッチ操作すると、端末装置10は当該地点を測位して、その位置情報を得たときに、その旨を表示部に表示する。この動作を、スピーカ51〜55の各々について実行して、各地点の位置情報を得る。
このとき、端末装置10を移動させる順番を指定しても良い。例えば図4において、ユーザーに対して、端末装置10を移動させるべき地点の順番がa→b→c→d→eであることを表示で促して、ユーザーが当該表示にしたがって端末装置10を順番に移動させても良い。
なお、ユーザーが端末装置10をランダムまたは任意の順番で移動させても、スピーカ51〜55の配置は規則性があるので、取得した位置情報の配列(前後左右)から、1〜5番目に測位したスピーカの位置情報がスピーカ51〜55のうち、どのスピーカに対応しているかを判別するようにしても良い。
このようにして得たスピーカ51〜55の位置情報を、端末装置10は、音場制御装置40aに送信する一方、音場設定部43は、通信部41を介してスピーカ51〜55の位置情報を取得し、位置情報記憶部42に記憶させる。
なお、スピーカを移動させるなどした場合にも、ステップSa12を実行することによって、スピーカが設置された地点が測位される。
【0020】
一方、スピーカの位置情報がすでに記憶されている場合(ステップSa11の判別結果が「Yes」の場合)、ステップSa12がスキップされる。
次に、音場設定部43は、リスニングルーム60の形状を規定する地点の位置情報が位置情報記憶部42に記憶されているか否かを判別する(ステップSa13)。
【0021】
リスニングルーム60の形状を特定する地点の位置情報が記憶されていない場合(ステップSa13の判別結果が「No」の場合)、音場設定部43は、通信部41を介して端末装置10に、リスニングルーム60の形状を特定する地点の位置情報を要求し、その応答としての位置情報を当該端末装置10から取得し、位置情報記憶部42に記憶させる(ステップSa14)。具体的には、例えば次のようにしてリスニングルーム60の形状を特定する地点の位置情報が音場制御装置40aで取得・記憶される。
【0022】
端末装置10では、音場制御装置40aから形状を特定する地点の位置情報の要求があると、ユーザーに対して、リスニングルーム60の隅または頂点の地点に当該端末装置10を移動させて、所定の操作をすべき旨を表示部に表示させる。この表示にしたがって、ユーザーが、実際に端末装置10を当該地点に移動させて、所定の操作をすると、端末装置10は当該地点を測位して、その位置情報を得たときに、その旨を表示部に表示する。この動作を、リスニングルーム60の形状が平面視で例えば長方形であれば、リスニングルーム60の四隅の各々について実行して、それぞれ地点を測位する。測位し終えると、端末装置10は、リスニングルーム60の形状を特定する地点の位置情報を音場制御装置40aに送信する一方、音場設定部43は、通信部41を介して受信した位置情報を位置情報記憶部42に記憶させる。
【0023】
このとき、端末装置10を移動させる順番を指定しても良い。例えば図4において、ユーザーに対して、端末装置10を移動させるべき地点の順番がf→g→h→iであることを表示で促して、ユーザーが当該表示にしたがって端末装置10を順番に移動させても良い。
また、ここではリスニングルーム60の形状を図5の(a)で示されるような長方形として説明したが、同図の(b)や(c)で示されるような形状であっても、隅または頂点に相当する「★」の地点を測位すれば良い。
なお、オーディオシステムの設置部屋を変更したり、引っ越したりして、リスニングルームが変更された場合も、ステップSa14を実行することによって、リスニングルーム60の形状を特定する地点を測位する。
このように、リスニングルーム60の形状については、測位された地点の頂点としたときに、最短の頂点同士を結んだ形状として推定できる。すなわち、多角形形状の部屋であれば、多角形の各頂点位置を到達順に測位して、全頂点で測位が完了したことを入力すれば、各頂点を測定順に直線で連結した多角形を部屋形状と推定することができる。
一方、リスニングルーム60の形状を特定する地点の位置情報がすでに記憶されている場合(ステップSa13の判別結果が「Yes」の場合)、ステップSa14がスキップされる。
【0024】
次に、音場設定部43は、通信部41を介して端末装置10に、現時点において当該端末装置10を携行するリスナーLの聴取地点の位置情報を要求し、その応答としての位置情報を当該端末装置10から取得し、位置情報記憶部42に記憶させる(ステップSa15)。具体的には、例えば次のようにして現時点における端末装置10の位置情報が音場制御装置40aで取得・記憶される。
【0025】
端末装置10では、音場制御装置40aから現時点における位置情報の要求があると、ユーザーに対し、聴取地点に当該端末装置10を移動すべき旨を表示部に表示させる。この表示にしたがって、ユーザーが、聴取地点、厳密にいえば、図4においてリスニング時において頭部中央に相当する地点jに端末装置10を移動させると、端末装置10は当該地点を測位する。測位し終えると、端末装置10は、聴取地点の位置情報を音場制御装置40aに送信し、音場設定部43は、通信部41を介して受信した当該位置情報を位置情報記憶部42に記憶させる。
【0026】
続いて、音場設定部43は、位置情報で形状を推定したリスニングルーム60において、位置情報で規定される地点にスピーカ51〜55が配置された場合に、位置情報で規定された聴取地点でリスナーLが聴取するときの音場の処理内容(各種パラメータや調整量)などを決定して、音場付与部44に設定する(ステップSa16)。
例えば位相差については、音場設定部43は、第1に、位置情報記憶部42に記憶された位置情報を読み出して、スピーカ51〜55の各設置地点と聴取地点との距離をそれぞれ算出し、第2に、これらの距離に対応して、スピーカ51〜55に対応するオーディオ信号の時間軸の調整量をそれぞれ決定する。また、このほかにも音場設定部43は、各スピーカと聴取地点との距離に応じた減衰量が相殺されるように、各スピーカによる再生音量の調整量を決定する。さらに、ステップSa14で推定された部屋形状から壁面と各スピーカ・聴取者との位置関係や部屋の容積などを算出し、リスニングルームの壁面の反射や遮蔽による周波数特性や、残響特性、位相特性を推定し、これに応じた音場処理を決定することも可能である。具体的な音場処理としては、壁の間隔によって推測される定在波周波数帯域の補正、スピーカと壁との距離関係によって生じる周波数ディップの補正、部屋形状・寸法から算出される部屋容積から残響時間を推測し、残響パラメータ(残響量、残響時間など)を補正するなどの処理が考えられる。
そして、音場設定部43は、決定した処理内容を音場付与部44に設定する。
これにより、再生部20による再生信号は、スピーカ51〜55の配置、リスニングルーム60の形状、および、リスナーLの聴取地点に対して適切な音場が付与されて出力される。
【0027】
音場設定部43は、音場を設定してから所定期間(例えば30秒)経過した否かを判別する(ステップSa17)。所定期間が経過していなければ、処理手順が再びステップSa17に戻される。一方、音場を設定してから所定期間経過すると、音場設定部43は、前回から今回に至るまでに電源オフまたは音場設定処理終了の指示がなされたか否かを判別する(ステップSa18)。指示がなされていれば、この音場制御処理は終了する一方、指示がなされていなければ、処理手順がステップSa15に戻る。
このため、電源オフ等の指示がなされなければ、ステップSa15、Sa16が所定期間毎に繰り返し実行される。
【0028】
本実施形態において、ステップSa15で取得される聴取地点の位置情報は、前回に取得された聴取地点の位置情報と異なっている場合もあれば、同じ場合もある。
異なっている場合、それは、リスナーLが前回の測位時(ステップSa15の実行時)から今回の測位時かけて移動したことを示している。この場合、位置情報記憶部42に記憶された位置情報のうち、聴取地点の位置情報は、今回、測位し直された位置情報に更新され、次のステップSa16では、更新された位置情報に基づき音場が決定・設定される。このため、例えば図4において、端末装置10を携行するリスナーLが前回測位した地点jから今回測位した地点jaに移動したとき、図6に示されるように、再生信号に付与される音場が、移動後の地点jaにおける聴取地点に応じて変更される。
【0029】
本実施形態において、ステップSa15、Sa16は、電源オフ等の指示がなされなければ、所定期間毎に繰り返し実行されるので、リスナーLが端末装置10を携行して移動すると、移動後の聴取地点が測位されて、当該位置情報に応じた音場に変更されることになる。このとき、リスナーLは、音場の変更に際して音場制御装置40aに対し何ら操作を加えないし、また、聴取地点にマイクをセットしてテスト音等をスピーカから発生させる必要もない。このため、本実施形態によれば、音楽の再生や映画の視聴に際して聴取地点が変更されたとき、再生や視聴を中断することなく、変更後の聴取地点に応じた音場に再設定することができる。
【0030】
なお、ステップSa15で取得された位置情報が前回に取得された位置情報と同じ場合、リスナーLが移動しない状態を示している。この場合、位置情報記憶部42に記憶された位置情報が変更されないので、次のステップSa16においても音場についても変更されないことになる。
【0031】
第1実施形態において、リスニングルーム60の形状については取得しないでも良い場合がある。例えば音場の設定にあたって壁面による反射や残響を考慮せずに、スピーカからリスナーLへの直接音の位相差や音量を調整するのであれば、必ずしもリスニングルーム60の形状を特定するための位置情報を取得しないでも良い。
【0032】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、聴取地点を囲むように5台のスピーカ51〜55を配置させたシステムによって音場を付与したが、第2実施形態では、スピーカアレイを用いた音場制御装置によって音場を付与する。
図7は、スピーカアレイを用いた音場制御装置40bの構成を示す図であり、図8は、当該音場制御装置40bを含むシステムの構成を示すブロック図である。
図8に示されるように、音場制御装置40bでは、筐体内に上述した通信部41、位置情報記憶部42、音場設定部43、音場付与部44、増幅部45および複数のスピーカ46を有する。このうち、スピーカ46は、例えば図7に示されるように筐体においてライン状に配置する。なお、図7では、スピーカ46がライン状に配列した例を示したが、複数ラインで面状に配列した例でも良い。
【0033】
音場制御装置40bでは、複数のスピーカ46から同じオーディオ信号に係る音が、空間上の焦点に同時に到達するように、少しずつ異なる遅延時間を与えられて出力される。具体的には、音場付与部44が、例えばFL、C、FR、SL、SRチャンネルのオーディオ信号の各々に対し、上記のような遅延処理を施した上で、各チャンネルにおいて遅延処理した信号を加算して出力する。これにより、焦点周辺の音響エネルギーは同相加算により強められるので、焦点方向に強い指向性を有する音のビームがチャンネル毎に作り出される。
【0034】
図9は、音場制御装置40bの設置状況を示す平面図である。この図に示されるように、音場制御装置40bは、モニタ30の表示面とほぼ平行方向に、スピーカ46の配列面がリスナーLに対向するように配置され、各チャンネルに係る音のビームをリスニングルーム60の壁面に反射させてリスナーLに到達させる。このため、リスナーLからみれば、音像が壁面方向で定位しているかのように知覚される。詳細には同図に示されるように、壁面における反射点461、463、464、465から、あたかもFL、FR、SL、SRチャンネルの再生音が発生しているかのように知覚されるので、良好なサラウンド効果を得ることができる。なお、Cチャンネルの再生音は音場制御装置40bのほぼ中心で定位する。
【0035】
このような音場制御装置40bでは、第1実施形態と比較して、スピーカ51〜55を配置させないで済む一方で、リスニングルーム60の壁面での反射音を積極的に用いるので、リスニングルーム60に対する音場制御装置40bと聴取地点との位置関係が重要となる。
このため、第2実施形態では、端末装置10による測定位置の対象を図10に示されるように、聴取地点jとリスニングルーム60の形状を特定するための地点f、g、h、iとに加えて、音場制御装置40bにおける左端の地点Aと右端の地点Bとする。
第2実施形態では、地点A、Bを結ぶ直線を、スピーカ46の配列面とし、当該直線の中点をCチャンネルの放出点としている。
【0036】
第2実施形態では、図3のフロチャートにおけるスピーカの位置情報を音場制御装置40bの位置情報と読み替える。すなわち、音場設定部43は、位置情報で推定されたリスニングルーム60の形状において、位置情報で規定される向き、および、位置で音場制御装置40aが配置された場合に、位置情報で規定された聴取地点に各チャンネルの音のビームが向かうように、音場の処理内容を決定し、音場付与部44に設定する。
【0037】
第2実施形態では、スピーカの位置情報とルーム位置情報により、音場制御装置40bの位置とリスニングルーム60の壁の位置や対面角度が判るため、ビームをどの方向にすればリスナーに到達する壁反射が得られるかを予め計算することができる。
図9も示した例は、リスニングルーム60の形状と音場制御装置40bの配置が理想的な場合であるが、各チャンネルの音のビームの方向はリスナーLに到達する壁反射となる放射方向を幾何学的に計算すればよい。
しかし、スピーカアレイとマイクロホンを用いた従来のビーム自動調整(例えば特開2006−013711号公報参照)に示されるように、壁反射による各チャンネル音のビーム形成が困難な場合がある。例えば、図12に示されるように、部屋の角に音場制御装置が設置されているため、FL、FRチャンネルの壁反射が得られないケースや、図13に示されるように、リスナーLから左右の壁の距離が非対称で音声のバランスが崩れるケースがある。図12に示されるケースであれば、FL、FRチャンネルについては壁反射とせずにリスナーLに直接放射する方向とし、SL、SRチャンネルについてはリスナーLに到来する反射方向を計算すれば良い。図13に示される例であれば、バランスの崩れるチャンネルは、他のチャンネルのビームに成分を分けてファントム(仮想)音源を形成するようなビーム方向を計算すれば良い。
【0038】
リスナーLが携行する端末装置10によって、現在地点が、聴取地点として測定されて、音場制御装置40bに送信される点は、第1実施形態と同様である。このため、第2実施形態においても、端末装置10を携行するリスナーLの聴取地点に応じた音場が適切に設定される。
ところで、通信部41と音場付与部44を直結した相互の矢印も設けてあるが、これは端末装置10側で位置情報による音場設定を行い、通信部41を介して音場付与部44に音場パラメーターの指示を行うケースを想定している。
【0039】
なお、第2実施形態において地点A、Bについては、音場制御装置40bの向き、リスニングルーム60に対する位置を把握するために測定している。このため、これらの向き、位置を把握することができるのであれば、これ以外の2地点を測定しても良いし、音場制御装置40bの向きを以下に示すような方法で確定できれば、中心部1地点のみの測定でも良い。すなわち、向きの確定方法には、(a)端末装置10の方位情報を利用する、(b)音場制御装置40bが必ず聴取者の正面に向けて設置されることを前提とする、(c)スピーカアレイとマイクロホンを用いた、上記従来のビーム自動調整の情報を利用、などの手法をとることが可能である。
【0040】
本発明は、上述した第1実施形態や第2実施形態に限定されるものではなく、例えば次に述べるような各種の応用・変形が可能である。また、次に述べる応用・変形の態様は、任意に選択された一または複数を適宜に組み合わせることもできる。
【0041】
上述した第1および第2実施形態では、リスニングルーム60の高さ(室内高)については言及しなかったが、例えば端末装置10で床面および天井の高度を測定して、あるいは、数値入力することによって室内高の情報を取得するとともに、床面、天井で反射して聴取地点に到達する経路も加味して音場を決定しても良い。また、同様に、スピーカ51〜55の設置地点a〜e(音場制御装置40aの向き、位置)の高さ、聴取地点jの高さについても測定して、音場を決定する際に考慮しても良い。
【0042】
実施形態において、端末装置10が携帯電話機であれば、リスナーの胸ポケットなどに収納することによって、端末装置10の位置イコール聴取地点と考えることができる。
ただし、端末装置10がタブレット型などのように比較的大きい場合、例えば図11に示されるように、リスナーLが端末装置10を手の平で操作する場合、端末装置10で測定された位置情報をモニタ30(スピーカ52、または、音場制御装置40b)とは反対側に距離Pだけ離れた地点にオフセットして、当該オフセットした地点を聴取地点とみなしても良い。
【0043】
実施形態では、ステップSa15、Sa16が、電源オフ等の指示がなされなければ、所定期間毎に繰り返し実行される構成としたが、リスナーが聴取位置の移動を端末装置10にタッチ操作等により入力して、当該入力があったときに、当該端末装置10が測位するようにしても良い。このようにすれば、測位機能の実行による端末装置10の電力消費を抑えることができる。
【0044】
付与する音場の処理内容を音場制御装置40aではなく、端末装置10が決定して、決定した処理内容を音場制御装置40aに送信する一方、受信した処理内容を音場付与部44に設定する構成としても良い。
また、端末装置10の位置情報だけで音場を決定したが、聴取地点にマクロフォンを設置するとともに、各スピーカからテスト音を発生させて、マイクフォンに受信されるまでの時間や応答特性などの測定結果と、端末装置10で測定した位置情報と、を併用することによって付与すべき音場を決定しても良い。
【符号の説明】
【0045】
10…端末装置、20…再生部、30…モニタ、40a、40b…音場制御装置、42…位置情報記憶部、43…音場設定部、44…音場付与部、46…スピーカ、51〜55…スピーカ、60…リスニングルーム。
図1
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