(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不溶化剤が、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=37°±1°と2θ=43°±1°にピークを有し、2θ=37°±1°におけるピークの半値幅が0.3°〜0.4°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピークの半値幅が0.2°〜0.4°である酸化マグネシウムを含む、請求項1〜3の何れか1項記載の不溶化方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0023】
本発明は、重金属汚染土壌の不溶化方法であって、不溶化方法が、不溶化剤または不溶化剤組成物と、重金属汚染土壌とを混合する工程を含む。最初に、本発明の不溶化方法に好適に用いることのできる不溶化剤および不溶化剤組成物について説明する。
【0024】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上であり、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gであることを特徴とする不溶化剤である。
【0025】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、水溶性苦土含有率が1.0〜2.0質量%である。また、この不溶化剤は、SiO
2含有率が0.5質量%以下、Al
2O
3含有率が0.1質量%以下、Fe
2O
3含有率が0.4質量%以下、CaO含有率が1.0質量%以下および硫化物硫黄含有率が0.2〜1.0質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=37°±1°と2θ=43°±1°にピークを有し、2θ=37°±1°におけるピークの半値幅が0.3°〜0.4°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピークの半値幅が0.2°〜0.4°であることが好ましい。
【0027】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、ハンターLab表色系におけるL値が90以上である、不溶化剤であることが好ましい。
【0028】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤組成物は、上記不溶化剤と、CaO含有率が50質量%以上であり、かつBET比表面積が0.5〜2.0m
2/gである炭酸カルシウムとを含む。なお、本明細書中の「炭酸カルシウム」中の「CaO含有率」とは、蛍光X線分析方法を用いて測定した炭酸カルシウム中のCaO成分の含有率を意味する。
【0029】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法は、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成し、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上であり、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gである不溶化剤を得ることを特徴とする。
【0030】
なお、上記不溶化剤または不溶化剤組成物を、廃石膏ボード、焼却灰、煤塵、ガラス、陶磁器くず、建設廃材、スラッジ、金属くずおよび鉱滓から選ばれる少なくとも一種以上である廃棄物100質量部に対して、1〜30質量部添加し、混合して、廃棄物に含まれる有害物質を不溶化する、有害物質の不溶化方法にも用いることができる。
【0031】
上述の不溶化剤およびその製造方法によれば、重金属汚染土壌および/または廃棄物等からの有害物質の溶出を抑制することができ、特に重金属汚染土壌および/または廃棄物等からの砒素、フッ素、ホウ素の有害物質の溶出量を、短時間で環境基準値未満に低減することができ、これらの有害物質を効果的に不溶化(無害化)することができる。また、上述の不溶化剤によれば、掘削除去処理に代わる封じ込め・不溶化処理を可能とし、環境負荷を低減し、最終処分場の延命化やブラウンフィールド問題の解決にも繋げることができる。
【0032】
次に、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤および不溶化剤組成物について、さらに詳しく説明する。
【0033】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム(MgO)含有率が75質量%以上であり、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gであることを特徴とする不溶化剤である。
【0034】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上と高く、BET比表面積が20〜50m
2/gと大きいため、不溶化剤からマグネシウムイオン(Mg
2+イオン)および水酸化物イオン(OH
−イオン)が汚染土壌および/または廃棄物等に供給されやすく、汚染土壌および/または廃棄物等の処理対象物に含まれる有害物質を効率的に不溶化(無害化)することができる。
【0035】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウムを主成分とするものであり、汚染土壌および/または廃棄物等の処理対象物に含まれる水と、不溶化剤の主成分である酸化マグネシウムとが、下記式(1)および(2)
に示すように反応して、水酸化マグネシウムが生成され、この水酸化マグネシウムからマグネシウムイオン(Mg
2+イオン)および水酸化物(OH
−イオン)が処理対象物に供給される。そして、Mg
2+イオンおよびOH
−イオンにより、処理対象物に含まれる鉛、六価クロム、水銀、カドミウム等の重金属類、並びに砒素、セレン、フッ素およびホウ素等の有害物質が不溶化(無害化)され、有害物質の溶出量を環境基準値以下に低減することができる。
MgO + H
2O ⇔ Mg(OH)
2 (1)
Mg(OH)
2 ⇔ Mg
2+ + 2OH
− (2)
【0036】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウムの含有率が75質量%以上である。不溶化剤の酸化マグネシウム含有率が75質量%未満であると、マグネシウムイオン(Mg
2+)および水酸化物イオン(OH
−)の供給が十分ではないので、汚染土壌および/または廃棄物等からの有害物質の溶出量を環境基準値以下に低減することが困難となる。このため、有害物質の溶出量を環境基準値以下にするために、不溶化剤の酸化マグネシウムの含有率が75質量%未満であると、有害物質の溶出量を環境基準値以下にするために不溶化剤の添加量を多くする必要が生じ、処理コストが高くなる場合があり、所望の不溶化効果を十分に発揮できない場合がある。
【0037】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、BET比表面積が20〜50m
2/gである。不溶化剤のBET比表面積が20m
2/g未満であると、不溶化剤の水和活性が低下するため有害物質を不溶化する効果が不十分となる場合があるので、不溶化剤の添加量を多くする必要が生じ、有害物質を不溶化するための処理コストが高くなるため好ましくない。一方、不溶化剤のBET比表面積が50m
2/gを超えると、不溶化剤である粉体や不溶化剤を含むスラリーの流動性が低下し、作業性が低下するため好ましくない。
【0038】
本発明者らは、不溶化剤中に存在する未燃カーボンが、汚染土壌および/または廃棄物等に含まれる有害物質を不溶化する性能を阻害する要因となることを見出した。不溶化剤中に存在する未燃カーボンは、出発原料である水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成して酸化マグネシウムを主成分として含む不溶化剤を得る際に、重油、灯油、ペトロコークス等の燃料を燃焼させることによって発生する高分子炭化水素に由来する。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、未燃カーボンの含有率を1.0質量%以下まで低減した。不溶化剤の未燃カーボン含有率が1.0質量%を超えると、有害物質を不溶化するマグネシウムイオンや水酸化物イオンが不溶化剤から供給されにくくなり、有害物質を不溶化する効果が低下する。最も好ましいのは、未燃カーボン含有率が0質量%である不溶化剤である。
【0039】
このようなことから、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム含有率が100質量%であり、未燃カーボン含有率が0質量%であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gであることが最も好ましい。しかしながら、不溶化剤には不可避的な不純物も含まれるため、酸化マグネシウム含有率が100質量%である不溶化剤を得ることは困難である。そのため、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム含有率が80〜99質量%であり、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gであることがより好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム含有率が85〜98質量%であり、未燃カーボンの含有率が0.8質量%以下であり、かつBET比表面積が22〜47m
2/gであることが更に好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、酸化マグネシウム含有率が85〜97質量%であり、未燃カーボンの含有率が0.3質量%以下であり、かつBET比表面積が25〜45m
2/gであることが特に好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤が未燃カーボンを含む場合であっても、不溶化剤は、未燃カーボン含有率が0.01〜1.0質量%であり、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gであることが好ましい。
【0040】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の酸化マグネシウム含有率は、JIS M 8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」を参考にして測定することができる。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の未燃カーボン含有率は、例えば高周波燃焼−赤外吸収法による炭素硫黄同時分析装置(LECO製,CS−400型)等を用いて定量することができる。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤のBET比表面積は、例えば高精度ガス吸着装置(日本ベル社製,BELSORP−mini)を用いて、定容量型ガス吸着法により測定することができる。
【0041】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、水溶性苦土含有率が1.0〜2.0質量%であることが好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の水溶性苦土含有率は、より好ましくは1.1〜1.9質量%、更に好ましくは1.2〜1.8質量%、特に好ましくは1.3〜1.7質量%である。本発明において、水溶性苦土とは、水溶性マグネシウムのことをいい、水溶性苦土含有率は、水に溶けやすいマグネシウムの量を示すものである。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の水溶性苦土含有率は、肥料分析法(農林水産農業環境技術研究所法)に準拠して測定することができる。水溶性苦土含有率は、不溶化剤から溶出するマグネシウム溶出量と密接に関連し、不溶化剤の水溶性苦土含有率が1.0〜2.0質量%であることによって、汚染土壌および/または廃棄物等からの有害物質の溶出量をより抑制することができる。
【0042】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤に含まれる不純物は、より少量であることが好ましい。不溶化剤に含まれる不純物としては、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、硫化物硫黄等が挙げられる。硫化物硫黄は、原料である炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを焼成する際に用いる燃料(重油、灯油、ペトロコークス等)に由来する。
【0043】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、SiO
2含有率が0.5質量%以下、Al
2O
3含有率が0.1質量%以下、Fe
2O
3含有率が0.4質量%以下、CaO含有率が1.0質量%以下および硫化物硫黄含有率が0.2〜1.0質量
%であることが好ましい。これらの不純物は、不溶化剤に不可避的に含まれるものであるが、これらの不純物の中でも特に、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤のCaO含有率は1.0質量%以下であることが好ましい。これは不溶化剤のCaO含有率が1.0質量%を超えると、処理対象物(汚染土壌および/または廃棄物等)のpHが11近くまで上昇し、処理対象物に含まれる鉛等の両性金属の溶出量が増大するため好ましくない。不溶化剤のCaO含有率が1.0質量%以下、具体的には0.2質量%未満であると、不溶化剤を適用した処理対象物のpHが上昇することはないが、CaO含有率のさらなる低減、例えばCaO含有率が0.02質量%以下であると不溶化剤を製造するためのコストを増加させるため好ましくない。また不溶化剤に含まれる硫化物硫黄は、鉛、六価クロム、水銀等の重金属類の不溶化に好適であるため、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の硫化物硫黄含有率は、0.2質量%以上であることが好ましく、不純物の悪影響を抑えるために1.0質量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤のSiO
2含有率、Al
2O
3含有率、Fe
2O
3含有率およびCaO含有率はJIS M 8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」を参考にして測定し、硫化物硫黄含有率はJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」の中に記載されている「硫化物硫黄の定量方法」に準拠して測定することができる。
【0045】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、SiO
2含有率が0.4質量%以下、Al
2O
3含有率が0.09質量%以下、Fe
2O
3含有率が0.35質量%以下、CaO含有率が0.8質量%以下および硫化物硫黄含有率が0.25〜0.8質量%であることがより好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、SiO
2含有率が0.35質量%以下、Al
2O
3含有率が0.08質量%以下、Fe
2O
3含有率が0.3質量%以下、CaO含有率が0.7質量%以下および硫化物硫黄含有率が0.3〜0.7質量%であることが更に好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、SiO
2含有率が0.3質量%以下、Al
2O
3含有率が0.08質量%以下、Fe
2O
3含有率が0.28質量%以下、CaO含有率が0.6質量%以下および硫化物硫黄含有率が0.3〜0.6質量%であることが特に好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤に不純物としてSiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaOが含まれる場合であっても、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤のSiO
2含有率が0.1〜0.5質量%、Al
2O
3含有率が0.01〜0.1質量%、Fe
2O
3含有率が0.01〜0.4質量%、CaO含有率が0.2〜1.0質量%および硫化物硫黄含有率が0.2〜1.0質量%であることが好ましい。また、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤中の不純物は含まれないことが望ましいが、工業的に大量生産する場合の採算性の観点から、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤中の不純物の下限値として、SiO
2含有率は0.11質量%以上、Al
2O
3含有率は0.01質量%以上、Fe
2O
3含有率は0.02質量%以上、CaO含有率は0.25質量%以上がより好ましい。不純物の下限値として、SiO
2含有率は0.12質量%以上、Al
2O
3含有率は0.02質量%以上、Fe
2O
3含有率は0.03質量%以上、CaO含有率は0.28質量%以上が更に好ましい。不純物の下限値として、SiO
2含有率は0.13質量%以上、Al
2O
3含有率は0.04質量%以上、Fe
2O
3含有率は0.04質量%以上、CaO含有率は0.3質量%以上が特に好ましい。
【0046】
不溶化剤の強熱減量は、不溶化剤の出発原料となる水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムの脱炭酸の量を示すものであり、強熱減量が多いほど、不溶化剤に残存する水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムが多いことを示す。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の強熱減量は少ないほど好ましく、不溶化剤の強熱減量は好ましくは20質量%以下、より好ましくは19質量%以下、更に好ましくは18.5質量%以下である。強熱減量は0にすることが困難であるので、強熱減量は1〜20質量%であることが好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の強熱減量は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準拠して測定することができる。
【0047】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルが、2θ=37°±1°と2θ=43°±1°にピークを有し、2θ=37°±1°におけるピークの半値幅が0.3°〜0.4°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピークの半値幅が0.2°〜0.4°であることが好ましい。このような結晶特性を有する不溶化剤であると、汚染土壌および/または廃棄物等からの有害物質の溶出を抑制することができ、特に汚染土壌および/または廃棄物等からの砒素、フッ素、ホウ素の有害物質の溶出量を環境基準値以下に低減することができる。
【0048】
また、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルは、2θ=37°±1°におけるピークの半値幅が0.30°〜0.39°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピークの半値幅が0.24°〜0.39°であることがより好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の粉末X線回折スペクトルは、2θ=37°±1°におけるピークの半値幅が0.30°〜0.38°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピークの半値幅が0.26°〜0.38°であることが更に好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の粉末X線回折スペクトルは、2θ=37°±1°におけるピークの半値幅が0.30°〜0.37°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピークの半値幅が0.28°〜0.37°であることが特に好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の粉末X線回折スペクトルは、例えば粉末X線回折装置(例えばRINT−2500 リガク社製等)を用いて測定することができる。また、粉末X線回折スペクトルの特定ピークの半値幅は、例えばRietvelt解析ソフト(「X線総合解析ソフトJADE6.0」、Materials Inc.社製等)を用いて測定することができる。
【0049】
更に、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤のハンターLab表色系におけるL値は90以上であることが好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤のハンターLab表色系におけるL値は、92以上であることがより好ましく、93以上であることが更に好ましく、94以上であることが特に好ましい。不溶化剤に残存する未燃カーボンの量が多いと、ハンターLab表色系のL値は低い値を示す。そのため、不溶化剤に残存する未燃カーボンを示す指標として、ハンターLab表色系のL値を用いることも可能である。不溶化剤の出発原料として、水酸化マグネシウムを用いると、炭酸マグネシウムに比べて、ハンターLab表色系のL値は高い値を示す傾向がある。ハンターLab表色系のa値およびb値は、不溶化剤の特性に影響を及ぼすものではないが、不溶化剤のハンターLab表色系のa値は、通常、−1.0〜2.0程度であり、b値は、通常、−1.0〜15.0程度である。
【0050】
また、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、本来の酸化マグネシウムの有害物質の不溶化効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、石灰石粉、珪石粉、高炉スラグ、製鋼スラグ、脱硫スラッジ、硫化カルシウム、シリカ、フライアッシュ、ベントナイト、カオリン、バーミュキュライト、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト、硬焼マグネシア
、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、パーライト、珪藻土、ゼオライト、セピオライト、アパタイト、アタパルジャイト、活性炭、ホワイトカーボン、各種石膏、アルミナセメント、キレート、鉄粉等の各種添加剤と任意に混合して不溶化剤組成物にすることができる。各種添加剤の混合量は、特に限定されないが、通常、不溶化剤組成物全量に対して、好ましくは5〜90質量%であり、より好ましくは10〜80質量%であり、更に好ましくは20〜70質量%であり、特に好ましくは30〜65質量%であり、最も好ましくは40〜60質量%である。
【0051】
特に不溶化させる対象となる有害物質がフッ素である場合、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤と混合する添加剤は、炭酸カルシウムであることが好ましい。有害物質がフッ素である場合に、添加剤として炭酸カルシウムを用いた不溶化剤組成物は、不溶化剤の主成分である酸化マグネシウムの不溶化効果を損なうことなく、フッ素の溶出量を抑制することができ、フッ素の不溶化効果を向上させることができる。不溶化剤組成物に添加する添加剤として炭酸カルシウムを用いる場合には、炭酸カルシウム中のCaO含有率が50質量%以上であるものを用いることが好ましく、より好ましくは52質量%以上であり、さらに好ましくは54質量%以上であり、特に好ましくは55.3質量%以上である。また、不溶化剤の添加剤である炭酸カルシウム中のCaO含有率の上限は55.8質量%以下であることが好ましい。さらに、不溶化剤組成物の添加剤としての炭酸カルシウムは、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=29.5°±1°にピークを有し、この2θ=29.5°±1°におけるピークの半値幅が、好ましくは0.135°〜0.245°、より好ましくは0.145°〜0.235°、更に好ましくは0.155°〜0.225°、特に好ましくは0.158°〜0.222°であるものを用いる。波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルにおいて2θ=29.5°±1°にピークを有し、このピークにおける半値幅が0.135°〜0.245°の炭酸カルシウムを添加剤として用いた場合には、有害物質の溶出量を環境基準値未満にするのみならず、有害物質の溶出量をより低減し、不溶化効果をより向上することができる。炭酸カルシウムを不溶化剤組成物の添加剤として用いる場合には、炭酸カルシウムの混合量は特に制限されないが、不溶化剤全量に対して、好ましくは5〜90質量%であり、より好ましくは10〜80質量%であり、更に好ましくは20〜70質量%であり、特に好ましくは30〜65質量%であり、最も好ましくは40〜60質量%である。
【0052】
不溶化剤組成物の添加剤が炭酸カルシウムである場合には、炭酸カルシウムのBET比表面積は、好ましくは0.5〜2.0m
2/g、より好ましくは0.6〜1.4m
2/g、さらに好ましくは0.7〜1.4m
2/gである。不溶化剤組成物の添加剤である炭酸カルシウムのBET比表面積が0.5〜2.0m
2/gであると、不溶化剤組成物を用いてフッ素汚染度土壌からのフッ素溶出量を低減する効果が期待できる。
【0053】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の粉末度は、10000cm
2/g以上であることが好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の粉末度は12000cm
2/g以上であることがより好ましく、14000cm
2/gであることが更に好ましく、16000cm
2/g以上であることが特に好ましい。粉末度は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に従い、ブレーン空気透過装置を用いて測定することができる。
【0054】
次に、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法について説明する。
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法は、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成し、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上であり、かつ未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gである不溶化剤を得る方法である。
【0055】
不溶化剤の主成分となる酸化マグネシウムは、一般に、出発原料として水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを使用し、それらを所定の温度で焼成し、脱炭酸または脱水することにより酸化マグネシウムを得ている。
【0056】
水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成して得られる酸化マグネシウムは、焼成条件によって、燃料の燃焼によって発生する高分子炭化水素(高沸点化合物)が燃焼しきれず、酸化マグネシウム表面に凝縮し残存し、酸化マグネシウムを主成分とする不溶化剤に含まれる未燃カーボンの量が多くなる。そのため、酸化マグネシウムに未燃カーボンが残存しないように、出発原料、燃料、焼成設備、並びに焼成温度および焼成時間等の焼成条件を選定することが好ましい。
【0057】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法において、出発原料に主として水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを用いることが好ましい。水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成することにより、下記式(3)および(4)に示すように、不溶化剤の主成分となる酸化マグネシウムを得ることができる。
Mg(OH)
2 → MgO + H
2O (3)
MgCO
3 → MgO + CO
2 (4)
【0058】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法において、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成する設備としては、ロータリーキルンを用いることが好ましい。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤を得るためには、ロータリーキルンに供給される原料投入量、燃料使用量、空気量を適切に調節することが好ましい。更に、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成して得られる酸化マグネシウムの未燃カーボンを抑制するためには、燃料を細かな霧状にし、酸素との混合が均一になる噴霧装置を用いることが好ましい。また、空気量を調整するために、PSA酸素発生装置等を用いて高濃度の酸素をロータリーキルンに供給してもよい。
【0059】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法において、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを焼成する燃料としては、重油、灯油、ペトロコークス等が挙げられる。燃料は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。燃料としてC重油およびペトロコークスを併用する場合には、通常、C重油とペトロコークスとの重量比は100:0〜70:30であることが好ましい。
【0060】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の出発原料としては、水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムが挙げられるが、炭酸マグネシウムよりも低温で焼成することができる水酸化マグネシウムを炭酸マグネシウムよりも多く用いるか、水酸化マグネシウムを単独で用いることが好ましい。
【0061】
水酸化マグネシウムとしては、天然に存在するブルース石を用いてもよく、海水を原料として合成される海水マグネシアを用いてもよい。多量に入手可能であることから、海水マグネシアを用いることが好ましい。海水マグネシアは、海水に石灰乳(消石灰(水酸化カルシウム)の懸濁液)を添加し、水酸化マグネシウムを沈降させて得ることができる。
【0062】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤の製造方法の焼成工程において、不溶化剤の未燃カーボンの含有率を1.0質量%に抑えるために、出発原料として水酸化マグネシウムを単独で用いる場合には、550〜700℃の比較的低温で焼成することができる。水酸化マグネシウムの脱水領域温度は400〜550℃程度と比較的低いため、それ以上の温度、すなわち、水酸化マグネシウムを550〜700℃で焼成することができる。焼成工程における温度は、好ましくは550〜650℃であり、より好ましくは550〜600℃であり、特に好ましくは550〜590℃である。焼成時間は、好ましくは10〜60分間であり、より好ましくは15〜50分間であり、更に好ましくは20〜40分間である。なお、出発原料として炭酸マグネシウムを単独で用いる場合は、700〜1000℃で焼成することができる。
【0063】
本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤は、主な出発原料となる水酸化マグネシウムを、550〜700℃程度の比較的低温で焼成することにより、酸化マグネシウム結晶の成長と収縮が抑制され、BET比表面積を大きく(水和活性を高く)することができる。更に不溶化剤を製造するための出発原料として水酸化マグネシウムを用いた場合には、550〜700℃程度の比較的低温で焼成することができ、未燃カーボン含有率を低減した不溶化剤を得ることができる。
【0064】
すなわち、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤においては、出発原料として水酸化マグネシウムおよび/または炭酸マグネシウムを用いて、好ましくは出発原料として水酸化マグネシウムを用いて、燃料、焼成設備および焼成時間等の焼成条件を選定し、550〜700℃程度の比較的低温で出発原料を焼成して、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gである不溶化剤を得ることができる。
【0065】
次に、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤と添加剤とを混合した不溶化剤組成物の製造方法について説明する。本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤と、本来の酸化マグネシウムの有害物質の不溶化効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、石灰石粉、珪石粉、高炉スラグ、製鋼スラグ等の各種添加剤とを混合して不溶化剤組成物とする場合において、添加剤を混合する方法は特に限定されないが、例えばリボンミキサー、ナウターミキサー、ドラムブレンダー、ロッキングミキサー等の装置を用いて混合することができる。
【0066】
次に、本発明の不溶化方法に用いる不溶化剤(以下、「所定の不溶化剤」という。)または不溶化剤組成物(以下、「所定の不溶化剤組成物」という。)を使用して、汚染土壌および/または廃棄物等に含まれる有害物質の不溶化する方法について説明する。
【0067】
本発明の不溶化方法は、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物と、重金属汚染土壌とを混合する工程を含む。
【0068】
所定の不溶化剤を用いた処理対象物中の有害物質の不溶化方法としては、処理対象物が汚染土壌の場合には、土壌1m
3に対して、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を30〜300kg添加し、混合して、土壌中の有害物質を不溶化する。所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物の添加量は、処理対象の汚染土壌の種類や汚染度合によって添加量が選定されるものであり、特に限定されるものではない。処理対象である土壌1m
3に対して、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を30〜300kg添加することにより、土壌中の有害物質を十分に不溶化(無害化)する効果が得られる。以下、所定の不溶化剤の添加量は、土壌1m
3に当りに添加する所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物の重量(kg/m
3)で示す。所定の不溶化剤の汚染土壌に対する添加量が、30kg/m
3未満であると、所定の不溶化剤と土壌との混合が不十分になる可能性がある。一方、添加量が300kg/m
3超えると、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物の添加量が多用になることから処理コストが高くなり、経済的に好ましくない。所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物の添加量は、30〜200kg/m
3であることが好ましく、30〜100kg/m
3であることがより好ましく、30〜50kg/m
3であることが更に好ましい。なお、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物の添加量は、事前に処理対象物である汚染土壌について室内配合試験を行い、その結果を考慮して決定するか、あるいは現地で土壌混合機を使用して行った配合試験の結果によって決定することが好ましい。
【0069】
所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を汚染土壌および/または廃棄物等の処理対象物に添加する方法としては、粉体状の所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物をそのまま処理対象物に添加するか、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物と水とを混合してスラリーの状態にして、処理対象物に添加する方法が挙げられる。所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物は、粉体状またはスラリー状のいずれでも使用することができるが、廃棄物等へは、粉体状の所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を添加することが好ましい。土壌への添加は、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物が粉体状であっても、スラリー状であってもよい。
【0070】
所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物と処理対象物との混合は、バックホウ、ミキシングバケット装着バックホウ、スタビライザー、自走式土質改良機、定置式ミキサー、トレンチャー型撹拌混合機、深層混合処理機、パワーブレンダー等のプラント混合に通常使用される装置を使用して混合することができる。
【0071】
本発明の不溶化方法において、混合する工程は、不溶化混合機を用いて不溶化剤または不溶化剤組成物と、重金属汚染土壌とを、供給速度をそれぞれ制御しながら供給し、混合することが好ましい。不溶化混合機を用いることにより、不溶化剤または不溶化剤組成物と、重金属汚染土壌とを供給する際に、供給速度をそれぞれ制御しながら供給し、混合することができるので、不溶化剤または不溶化剤組成物と、重金属汚染土壌との混合比の調節を確実に行うことができる。そのため、重金属汚染土壌からの有害物質の溶出量を環境基準値以下に低減することができ、土壌中の有害物質の不溶化(無害化)を確実に行うことができる。
【0072】
図1に、不溶化混合機を用いた重金属汚染土壌2の不溶化方法の一例の模式図を示す。本発明の不溶化方法に用いることのできる不溶化混合機は、薬剤供給部10と、重金属汚染土壌供給部20と、混合部30とを含む。
【0073】
薬剤供給部10は、
図1に示すように、不溶化剤または不溶化剤組成物(以下、単に「薬剤1」ともいう。)を混合部30へ供給するように構成される。
図1では、薬剤1の移動の様子を、矢印付きの点線で示している。
図1に示す例では、サイロ12に貯蔵された薬剤1は、薬剤供給路14を通り薬剤供給部10へと供給される。薬剤供給部10は、不溶化剤または不溶化剤組成物(薬剤1)の、混合部30への供給速度を制御するための第一の供給速度制御装置を有する。薬剤1は、第一の供給速度制御装置により制御された供給速度で、混合部30へと供給される。
【0074】
薬剤供給部10の第一の供給速度制御装置として、例えば、スクリュー19の回転速度が可変のスクリューフィーダーを用いることができる。スクリューフィーダーのスクリュー19は、モータ18により回転するので、モータ18の回転速度をモータ制御器17により調節することにより、薬剤供給部10から混合部30への、薬剤1の供給速度を制御することができる。
【0075】
重金属汚染土壌供給部20は、
図1に示すように、重金属汚染土壌2を混合部30へ供給するように構成される。
図1では、重金属汚染土壌2の移動の様子を、矢印付きの実線で示している。
図1に示す例では、バックホウ(油圧ショベル)26により集められた重金属汚染土壌2をホッパー22に集積する。ホッパー22から排出された重金属汚染土壌2は、ベルトコンベア24により運搬され、重金属汚染土壌供給部20へと供給される。重金属汚染土壌供給部20は、重金属汚染土壌2の、混合部30への供給速度を制御するための第二の供給速度制御装置を有する。重金属汚染土壌2は、第二の供給速度制御装置により制御された供給速度で、混合部30へと供給される。
【0076】
重金属汚染土壌供給部20の第二の供給速度制御装置として、例えば、スクリュー29の回転速度が可変のスクリューフィーダーを用いることができる。この場合、重金属汚染土壌供給部20内のスクリュー29は、モータ28により回転するので、モータ28の回転速度をモータ制御器27により調節することにより、重金属汚染土壌供給部20から混合部30への、重金属汚染土壌供給部20の供給速度を制御することができる。
【0077】
混合部30は、不溶化剤または不溶化剤組成物(薬剤1)と、重金属汚染土壌2とを混合するように構成される。混合部30の例として
図1に例示するように、撹拌羽根32が取り付けられた回転軸31を回転させることにより、薬剤1と、重金属汚染土壌2とを混合することができる。回転軸31は、回転軸31に接続されたモータ38により回転させることができる。モータ38の回転速度は、モータ制御器37によって制御することができる。
【0078】
混合部30において、薬剤1と重金属汚染土壌2とが混合された後、この混合物は、処理土壌3として、混合部30より排出され、ベルトコンベア34等により、所定の貯蔵場所まで運搬される。
図1では、処理土壌3の移動の様子を、矢印付きの一点鎖線で示している。その後、処理土壌3は、場合により、敷均し、締固め等の工程を行い、改良土として有効利用することができる。
【0079】
不溶化混合機を構成するサイロ12、薬剤供給部10、重金属汚染土壌供給部20および混合部30等の装置は移動可能である。そのため、重金属汚染土壌2が存在する現場に不溶化混合機を設置し、土壌処理をすることが可能である。本発明の不溶化方法を用いるならば、処理前の重金属汚染土壌2を運搬することなく現場での処理が可能であるため、経済的であり、運搬に伴う環境汚染を防止することができる。
【0080】
所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物は、処理対象が汚染土壌の場合だけではなく、廃棄物等からの有害物質を不溶化して溶出を抑制するために用いることができる。所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を廃棄物等の処理対象物に対して用いることにより、処理対象物からの砒素、フッ素、ホウ素の有害物質の溶出量を、短時間で検出限界値未満または環境基準値未満まで低減することができる。
【0081】
所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を用いた処理対象物中の有害物質の不溶化方法としては、処理対象が廃棄物の場合には、廃棄物100質量部に対して、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を1〜30質量部添加し、混合して、廃棄物中の有害物質を不溶化する。所定の不溶化剤の添加量は、処理対象となる廃棄物の種類や汚染度合によって添加量が選定されるものであり、特に限定されるものではない。処理対象である廃棄物100質量部に対して、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物を1〜30質量部添加することにより、廃棄物中の有害物質を十分に不溶化(無害化)する効果が得られる。廃棄物に含まれる有害物質の不溶化方法として、所定の不溶化剤または所定の不溶化剤組成物の添加量は、廃棄物100質量部に対して、2〜25質量部であることが好ましく、3〜20質量部であることがより好ましく、3〜15質量部であることが更に好ましい。ここで、廃棄物とは、廃石膏ボード、焼却灰、煤塵、ガラス、陶磁器くず、建設廃材、スラッジ、金属くずおよび鉱滓から選ばれる少なくとも1種以上をいう。一般的に、例えば鉱滓からの鉛の溶出量を環境基準値以下に抑制するために好適な添加量は2〜5質量部であり、また、廃石膏ボード粉からのフッ素の溶出量を環境基準値以下に抑制するために好適な添加量は3〜10質量部である。
【0082】
汚染土壌および/または廃棄物等の処理対象物に含まれる有害物質は、鉛、六価クロム、水銀、カドミウム、砒素、セレン、フッ素およびホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の物質である。所定の不溶化剤は、処理対象物に含まれる砒素、フッ素およびホウ素を不溶化する効果に優れ、処理対象物からの砒素、フッ素、ホウ素の有害物質の溶出量を、短時間で検出限界値未満または環境基準値未満まで低減することができる。
【実施例】
【0083】
以下に、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
〔不溶化剤の製造〕
不溶化剤A〜Fは、出発原料として水酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを使用し、それらをロータリーキルンで焼成して、得られたものである。不溶化剤G〜Jは、市販品の酸化マグネシウムであり、炭酸マグネシウムを出発原料とするものである。なお、不溶化剤A〜Fは、出発原料の種類以外に、焼成条件が異なるものである。不溶化剤A〜Fは、焼成用燃料としてC重油、またはC重油とペトロコークス(以下、「PC」という。)との混合比率を変えたものも使用した。以下に不溶化剤の種別A〜Jごとに用いた出発原料を示し、焼成用燃料が明らかである場合には、焼成用燃料を示す。
【0085】
不溶化剤A:水酸化マグネシウム、C重油
不溶化剤B:水酸化マグネシウム、C重油およびPC(重量比 90:10)
不溶化剤C:水酸化マグネシウム、C重油
不溶化剤D:水酸化マグネシウム、C重油およびPC(重量比 90:10)
不溶化剤E:水酸化マグネシウム、C重油およびPC(重量比 90:10)
不溶化剤F:水酸化マグネシウム、C重油およびPC(重量比 0:100)
不溶化剤G:炭酸マグネシウム
不溶化剤H:炭酸マグネシウム
不溶化剤I:炭酸マグネシウム
不溶化剤J:炭酸マグネシウム
【0086】
〔不溶化剤の特性測定〕
表1に示す製造条件によって製造した不溶化剤A〜Jの(i)酸化マグネシウム含有率、(ii)BET比表面積、(iii)未燃カーボン含有率、(iv)水性苦土含有率、(v)ハンターLab表色系のL値を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0087】
〔測定方法〕
(i)酸化マグネシウム(MgO)含有率
不溶化剤の酸化マグネシウム(MgO)含有率は、JIS M 8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」を参考にして測定した。MgOの測定は、不溶化剤を炭酸ナトリウムで融解し、塩酸に溶解し、蒸発乾固した後、塩酸で可溶性塩類を溶解した溶液を用い、原子吸光分析装置を用いて行った。
(ii)BET比表面積
不溶化剤のBET比表面積は、高精度ガス吸着装置(日本ベル社製,BELSORP−mini)を用いて、定容量型ガス吸着法にて測定した。吸着ガスには超高純度窒素を使用した。
(iii)未燃カーボン含有率
各種不溶化剤2gに(1+1)HCl(濃度35%)溶液を30ml添加し、蒸留水で200mLにフィルアップした後、30分間撹拌した。撹拌後の溶液はメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過し、フィルター上の残渣を105℃、1時間乾燥し、高周波燃焼−赤外吸収法による炭素硫黄同時分析装置(LECO製,CS−400型)を用いて未燃カーボンを定量した。
(iv)水溶性苦土含有率
不溶化剤に含まれる水溶性苦土含有率は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)の4.6.2の原子吸光測光法に準拠して測定した。
(v)ハンターLab表色系におけるL値
ハンターLab表色系におけるL値は、分光色差計(日本電色工業製,SE6000)にて測定した。なお、この測定方法により測定した不溶化剤A〜JのハンターLab表色系におけるa値は−0.5〜1.8であり、b値は−0.2〜12.6であった。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示すように、不溶化剤A〜Eは、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上であり、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下であり、かつBET比表面積が20〜50m
2/gの数値を満たしていた。不溶化剤F〜Jは、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下、BET比表面積が20〜50m
2/gのいずれかの数値を満たしていなかった。また、不溶化剤A〜Eは、水溶性苦土含有率が1.0〜2.0質量%の数値範囲を満たすが、不溶化剤F〜Jは、水溶性苦土含有率が1.0質量%未満であった。また、不溶化剤A〜Eは、ハンターLab表色系のL値が90以上であったが、不溶化剤F〜Jは、ハンターLab表色系のL値が90未満であった。
【0090】
〔不溶化剤の不純物測定〕
不溶化剤A〜Jの不純物を以下の方法によって測定した。
【0091】
〔測定方法〕
(i)強熱減量
不溶化剤の強熱減量は、箱型電気炉内で950℃で不溶化剤を加熱して、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」の中に記載されている「強熱減量の定量方法」に準拠して測定した。
(ii)SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3およびCaOの測定
不溶化剤のSiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3およびCaOは、JIS M 8853:1998「セラミックス用アルミノけい酸塩質原料の化学分析方法」を参考にして測定した。すなわち、SiO
2は不溶化剤を炭酸ナトリウムで融解した後、塩酸で可溶性塩類を溶解し、ろ過して得られた固形物中の酸化けい素(IV)を強熱減量によって求め、一方のろ液中の溶存酸化けい素(IV)の量をモリブデン酸青吸光光度法によって求め、両者の合量から算出した。また、Al
2O
3およびCaOの測定は、上記SiO
2測定時に作製した試料溶液の一部を用い、原子吸光分析装置を用いて行った。更に、Fe
2O
3の測定は、上記SiO
2測定時に作製した試料溶液の一部を分取し、塩酸ヒドロキシルアミンで鉄を還元し、1,10−フェナントロリンを加え、酢酸アンモニウムでpHを調整して呈色させた後、原子吸光分析装置を用いて行った。
(iii)硫化物硫黄の測定
不溶化剤の硫化物硫黄は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」の中に記載されている「硫化物硫黄の定量方法」に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
表2に示すように、不溶化剤A〜Eは、SiO
2含有率が0.5質量%以下、Al
2O
3含有率が0.1質量%以下、Fe
2O
3含有率が0.4質量%以下、CaO含有率が1.0質量%以下および硫化物硫黄含有率が0.2〜1.0質量%の数値を満たしていた。一方、不溶化剤F〜Jは、これらの数値のうちのいずれかを満たしていなかった。
【0094】
次に、酸化マグネシウム含有率が比較的近い不溶化剤Eと不溶化剤Jについて、粉末X線回折測定を行った。測定には、粉末X線回折装置RINT−2500(リガク社製)を用い、管電圧35kV、管電流110mA、測定範囲2θ=10〜60°、ステップ幅0.02°、計数時間2秒間、発散スリット:1°、および受光スリット:0.15mm、波長1.5405Åの条件で行った。半値幅は、Rietvelt解析ソフト「X線総合解析ソフトJADE6.0」(Materials Inc.社製)を使用して求めた。結果を表3および
図2に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
表1、3および
図2に示すように、不溶化剤Eは酸化マグネシウム(MgO)含有率が92.7質量%、不溶化剤Jは酸化マグネシウム(MgO)含有率が90.2質量%であり、両者の酸化マグネシウム含有率は同程度であるが、出発原料および焼成条件等の違いにより、不溶化剤Eと不溶化剤Jの結晶構造は異なる。不溶化剤Eは、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=37°±1°におけるピーク(回折線ピーク(1))の半値幅が0.3°〜0.4°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピーク(回折線ピーク(2))の半値幅が0.2°〜0.4°の数値を満たしていた。一方、不溶化剤Jは、酸化マグネシウム含有率は不溶化剤Eと同程度であるものの、波長1.5405Åにおける粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=37°±1°におけるピーク(回折線ピーク(1))の半値幅が0.144°であり、かつ2θ=43°±1°におけるピーク(回折線ピーク(2))の半値幅が0.158°であった。この結果から、不溶化剤Eは、不溶化剤Jよりも結晶性が低いことが確認できる。
【0097】
次に、不溶化剤A〜Jを使用して、処理対象物に含まれる有害物質の不溶化試験を行った。処理対象物である模擬汚染土壌および廃石膏ボード粉は、以下のように調製した。
【0098】
〔模擬汚染土壌の調製〕
試料土壌には、山口県山口市で採取した土を使用し、まず自然含水比を40℃加熱処理により半分程度に調整した。次いで、この蒸発水量に相当する水分に所定量の重金属試薬を溶解した水溶液を調製し、試料土に添加した後、ソイルミキサーを使用して低速で2.5分間練り混ぜ、容器やパドルに付着した土を掻き落とした後、更に低速で2.5分間練り混ぜることにより模擬汚染土壌を作製した。砒素模擬汚染土壌には、砒酸水素二ナトリウム七水和物(Na
2HAsO
4・7H
2O)を所定量添加した。砒素模擬汚染土壌の砒素溶出量は、0.24mg/Lであった。ホウ素模擬汚染土壌には、メタホウ酸ナトリウム四水和物(NaBO
2・4H
2O)を所定量添加した。ホウ素模擬汚染土壌のホウ素溶出量は、5mg/Lであった。砒素溶出量およびホウ素溶出量は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。
【0099】
模擬汚染土壌に添加した重金属試薬を以下に示す。
〔重金属試薬〕
砒酸水素二ナトリウム七水和物:和光純薬工業社製,試薬1級
メタホウ酸ナトリウム四水和物:和光純薬工業社製,試薬1級
【0100】
模擬汚染土壌の使用した土の性状を、表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
砒素模擬汚染土壌の性状を表5に示し、ホウ素模擬汚染土壌の性状を表6に示す。
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
〔廃石膏ボード粉の調製〕
石膏ボード廃材から紙類等の不純物を除去し、目開き0.15mmの篩いを用いて最大粒子径が0.15mm以下となるように分級し、二水石膏粉を得た後、箱型電気炉内を用いて300℃で30分間加熱し、地盤改良材用途として知られる半水石膏型の廃石膏ボード粉を作製した。廃石膏ボード粉の性状を表7に示す。なお、強熱減量およびCaO含有率は、不溶化剤A〜Jと同様にして測定し、SO
3含有率は、JIS R 9101:1995[セッコウの化学分析方法]に準拠して測定した。廃石膏ボード粉からのフッ素および砒素溶出量は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。
【0106】
【表7】
【0107】
次に、試験例1〜4のようにして、模擬汚染土壌または廃石膏ボード粉に不溶化剤A〜Jを添加し、混合して、模擬汚染土壌または廃石膏ボートからの有害物質の溶出量を測定した。
【0108】
(I)試験例1:模擬汚染土からの砒素およびホウ素の不溶化試験(添加後1日で評価)
砒素模擬汚染土壌またはホウ素模擬汚染土壌に、不溶化剤を50kg/m
3添加し、ソイルミキサーにて低速で2.5分間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、更に低速で2.5分間練り混ぜた。このようにして得られた処理土壌を、φ5(直径5cm)×10cmのモールドに3層に分けて充填し、円柱供試体を作製した。この円柱供試体を20℃で材齢1日まで密封養生した。1日間養生した円柱供試体をJIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠し一軸圧縮強さを測定した。一軸圧縮強さ試験の終了した円柱供試体を2mm以下に解砕して、環境庁告示46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液の砒素濃度およびホウ素濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。なお、いずれの検液もpHは10.2〜10.7の範囲であった。結果を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
表8の実施例1〜5に示すように、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下、BET比表面積が20〜50m
2/gの数値を満たしす不溶化剤A〜Eを使用して不溶化処理を行った砒素模擬汚染土壌からの砒素溶出量は、いずれも検出限界未満であり、模擬汚染土壌中の砒素が不溶化されていることが確認できた。一方、表8の比較例1〜5に示すように、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下、BET比表面積が20〜50m
2/gのいずれかの数値を満たしていない不溶化剤F〜Jを使用して不溶化処理を行った砒素模擬汚染土壌からの砒素溶出量は、不溶化剤H〜Jを使用した場合には砒素溶出量が環境基準値である0.01mg/L以上であり、不溶化剤Gを使用した場合には環境基準値である0.01mg/L未満ではあるものの、検出限界以下まで砒素溶出量が低減されてはいなかった。なお、不溶化剤Fを使用した場合には、砒素溶出量が検出限界未満であるものの、次のようにホウ素溶出量が環境基準値である1.0mg/Lを超えていた。
【0111】
また、表8の実施例1〜5に示すように、不溶化剤A〜Eを使用して不溶化処理を行ったホウ素模擬汚染土壌からのホウ素溶出量は、いずれも環境基準値未満であり、模擬汚染土壌中のホウ素が効果的に不溶化されていることが確認できた。一方、表8の比較例1〜5に示すように、不溶化剤F〜Jを使用して不溶化処理を行ったホウ素模擬汚染土壌からは、すべてホウ素溶出量が環境基準値を超えており、所望の数値までホウ素が不溶化されていなかった。
【0112】
なお、本発明の不溶化方法に用いることのできる不溶化剤A〜Eのみならず、比較例の不溶化剤F〜Jを使用して不溶化処理を行った模擬汚染土壌から作製された検液は、いずれもpHは10.2〜10.7の範囲であるため、土壌中に鉛や亜鉛等の両性金属が汚染物質として含有されていた場合であっても、この両性金属が処理後に溶出することがなく、鉛等の重金属類の有害物質を効果的に不溶化できることが推測できる。但し、上記したように、砒素、ホウ素で汚染された土壌を不溶化できるのは、本発明の不溶化方法に用いることのできる不溶化剤である。
【0113】
(II)試験例2:廃石膏ボード粉からのフッ素および砒素の不溶化試験(添加後6時間で評価)
廃石膏ボード粉100質量部に不溶化剤10質量部を均一に混合した試料から環境庁46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液の重金属濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。結果を表9に示す。なお、表9中、フッ素溶出量および砒素溶出量の両方が環境基準値未満である場合には、判定を「○」とし、フッ素溶出量または砒素溶出量のいずれか一方が環境基準値以上である場合には、判定を「×」とした。
【0114】
【表9】
【0115】
表9の実施例6〜10に示すように、不溶化剤A〜Eを使用して不溶化処理を行った廃石膏ボード粉からはフッ素溶出量および砒素溶出量の両方が環境基準値未満であり、廃石膏ボード粉のフッ素および砒素が効果的に不溶化されていた。一方、表9の比較例6〜10に示すように、不溶化剤F〜Jを使用して不溶化処理を行った廃石膏ボード粉からの砒素溶出量は検出限界以下まで低減されているものの、廃石膏ボード粉からのフッ素溶出量は、環境基準値である0.8mg/Lを超えており、所望の数値までフッ素が不溶化されていなかった。
【0116】
(III)試験例3:模擬汚染土からの砒素の不溶化試験試験(添加後2時間で評価)
試験例1と同様に、砒素模擬汚染土壌に不溶化剤を50kg/m
3添加した。本試験においては、不溶化剤を模擬汚染土壌に添加後2時間で模擬汚染土壌を2mm以下に解砕して、環境庁告示46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液の砒素濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定し、砒素を不溶化する固化速度を評価した。なお、添加1日後の試験は試験例1と同様に実施した。結果を表10に示す。なお、表10中、不溶化剤を添加後2時間および添加後1日の両方において、砒素溶出量が環境基準値未満である場合には、判定を「○」とし、不溶化剤を添加後2時間および添加後1日の一方または両方において、砒素溶出量が環境基準値以上である場合には、判定を「×」とした。
【0117】
【表10】
【0118】
表10の実施例11〜15に示すように、不溶化剤A〜Eを使用して不溶化処理を行った砒素模擬汚染土壌からの砒素溶出量は、不溶化剤を添加後2時間および添加後1日の両方において、検出限界以下まで低減していた。この結果から、不溶化剤A〜Eは、汚染土壌および/または廃棄物等に含まれる砒素を不溶化する固化速度が速いことが確認できた。一方、表10の比較例11〜15に示すように、不溶化剤F〜Jを使用して不溶化処理を行った砒素模擬汚染土壌からの砒素溶出量は、添加後1日で検出限界以下まで低減されている例(比較例11)もあるが、添加後2時間ではいずれも砒素溶出量が環境基準値である0.01mg/L未満まで低減されておらず、砒素を不溶化する固化速度が遅いことが分かった。
【0119】
(IV)試験例4:模擬汚染土からのホウ素の不溶化試験(添加後2時間で評価)
試験例1と同様に、ホウ素模擬汚染土壌に不溶化剤を100kg/m
3添加した。試験例3と同様にして、不溶化剤を添加後2時間および添加後1日の検液のホウ素濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定し、ホウ素を不溶化する固化速度を評価した。なお、表11中、不溶化剤を添加後2時間および添加後1日の両方において、ホウ素溶出量が環境基準値未満である場合には、判定を「○」とし、不溶化剤を添加後2時間および添加後1日の一方または両方において、ホウ素溶出量が環境基準値以上である場合には、判定を「×」とした。
【0120】
【表11】
【0121】
表11の実施例16〜20に示すように、不溶化剤A〜Eを使用して不溶化処理を行ったホウ素模擬汚染土壌からのホウ素溶出量は、不溶化剤の添加後2時間および添加後1日の両方において、環境基準値未満まで低減していた。この結果から、不溶化剤A〜Eは、汚染土壌および/または廃棄物等に含まれるホウ素を不溶化する固化速度が速いことが確認できた。一方、表11の比較例16〜20に示すように、不溶化剤F〜Jを使用して不溶化処理を行ったホウ素模擬汚染土壌からのホウ素溶出量は、添加後2時間および添加後1日の両方ともホウ素溶出量が環境基準値である1mg/L未満まで低減されていなかった。
【0122】
試験例1〜4の結果に示すように、酸化マグネシウム含有率が75質量%以上、未燃カーボン含有率が1.0質量%以下、BET比表面積が20〜50m
2/gの数値を満たす不溶化剤A〜Eを用いることにより、汚染土壌および/または廃棄物等からの砒素、フッ素、ホウ素の有害物質の溶出量を、短時間で環境基準値以下に低減し、これらの有害物質を効果的に不溶化(無害化)することができることが確認できた。また、不溶化剤A〜Eを用いた場合には、添加後2時間という短時間で、砒素およびホウ素溶出量が検出限界値未満あるいは環境基準値未満まで低減することができた。更に、試験例1〜4において不溶化剤Eと不溶化剤Jとを使用した結果を考慮すると、ある程度結晶性の低い不溶化剤Eのほうが、不溶化剤Eよりも結晶性の高い不溶化剤Fよりも、砒素、フッ素、ホウ素溶出量が低減し、有害物質を不溶化する効果に優れていることから、不溶化剤の結晶性も不溶化に影響していると推測することができる。
【0123】
次に、不溶化剤Eに、以下の添加剤1〜3を混合した不溶化剤組成物E−1、E−2、E−3を製造した。
【0124】
添加剤1:炭酸カルシウム(半値幅 0.222°)
添加剤2:炭酸カルシウム(半値幅 0.159°)
添加剤3:炭酸カルシウム(半値幅 0.158°)
不溶化剤組成物E−1:不溶化剤E、添加剤1(配合割合 50:50)、不溶化剤組成物全量に対する添加剤1の含有量50質量%
不溶化剤組成物E−2:不溶化剤E、添加剤2(配合割合 50:50)、不溶化剤組成物全量に対する添加剤2の含有量50質量%
不溶化剤組成物E−3:不溶化剤E、添加剤3(配合割合 50:50)、不溶化剤組成物全量に対する添加剤3の含有量50質量%
【0125】
〔添加剤の特性測定〕
添加剤1〜3の特性を以下の方法によって測定した。
【0126】
〔測定方法〕
(i)SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaOおよびMgO含有量の測定
添加剤のSiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaOおよびMgO含有量は蛍光X線分析方法を用いて測定した。
(ii)BET比表面積
添加剤のBET比表面積は、高精度ガス吸着装置(日本ベル社製,BELSORP−mini)を用いて、定容量型ガス吸着法にて測定した。吸着ガスには超高純度窒素を使用した。結果を表12に示す。
【0127】
【表12】
【0128】
添加剤1〜3について、粉末X線回折測定を行った。測定には、粉末X線回折装置RINT−2500(リガク社製)を用い、管電圧35kV、管電流110mA、測定範囲2θ=10〜60°、ステップ幅0.02°、計数時間2秒間、発散スリット:1°、および受光スリット:0.15mm、波長1 . 5 4 0 5 Åの条件で行った。半値幅は、Rietvelt解析ソフト「X線総合解析ソフトJADE6.0」(Materials Inc.社製)を使用して求めた。結果を表13および
図3に示す。
【0129】
【表13】
【0130】
次に不溶化剤組成物E−1〜E−3を使用して、処理対象物に含まれる有害物質の不溶化試験を行った。処理対象物である模擬汚染土は以下のように調製をした。
【0131】
〔模擬汚染土壌の調製〕
試料土壌には、山口県山口市で採取した土を使用し、室温20℃の室内にて乾燥処理を施した。次いで、この乾燥処理をした土の含水比が30%となる水分に所定量の重金属試薬を溶解させることにより重金属水溶液を調製した。この重金属水溶液を試料土に添加した後、ソイルミキサーを使用して低速で2.5分間練り混ぜ、容器やパドルに付着した土を掻き落とした後、更に低速で2.5分間練り混ぜることにより模擬汚染土壌を作製した。フッ素模擬汚染土壌には、フッ化カリウム二水和物(KF・2H
2O)を所定量添加した。フッ素模擬汚染土壌のフッ素溶出量は、6.4mg/Lであった。フッ素溶出量は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。
【0132】
模擬汚染土壌に添加した重金属試薬を以下に示す。
〔重金属試薬〕
フッ化カリウム二水和物:和光純薬工業社製,試薬1級
【0133】
模擬汚染土壌の使用した土の性状を、表14に示す。
【0134】
【表14】
【0135】
フッ素模擬汚染土壌の性状を表15に示す。
【0136】
【表15】
【0137】
(V)試験例5:模擬汚染土からのフッ素の不溶化試験(1)(添加後1日)
フッ素模擬汚染土壌に、不溶化剤および/または不溶化剤組成物を50kg/m
3または100kg/m
3添加し、ソイルミキサーにて低速で2.5分間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、更に低速で2.5分間練り混ぜた。このようにして得られた処理土壌を、20℃で材齢1日まで密封養生した。所定の材齢に達した処理土壌を2mm以下に解砕して、環境庁告示46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液のフッ素濃度をJIS K0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。結果を表16に示す。
【0138】
各例に用いた不溶化剤と添加量は以下の通りである。
実施例21:不溶化剤Eを100kg/m
3添加した。
実施例22:不溶化剤Eを50kg/m
3添加した。
実施例23:不溶化剤組成物E−1を100kg/m
3添加した。
実施例24:不溶化剤組成物E−2を100kg/m
3添加した。
実施例25:不溶化剤組成物E−3を100kg/m
3添加した。
【0139】
【表16】
【0140】
表16の実施例21〜22に示すように、不溶化剤Eを使用して不溶化処理を行ったフッ素模擬汚染土壌からのフッ素溶出量は、不溶化剤添加後1日において環境基準値未満まで低減していた。また、実施例23〜25に示すように、不溶化剤Eに添加剤1〜3を混合した不溶化剤組成物E−1〜E−3を使用して不溶化処理を行ったフッ素模擬汚染土壌からのフッ素溶出量は環境基準値未満まで低減していた。更に汚染土壌に対する添加量が同量である実施例21と実施例23〜25とを比較すると、添加剤を混合した不溶化剤組成物E−1〜E−3を使用して不溶化処理を行ったフッ素模擬汚染土壌からのフッ素溶出量は、添加剤を混合していない不溶化剤Eより低減していた。また、表16の実施例23〜25に示すように、半値幅の値が小さい炭酸カルシウム(
図3参照)を添加剤として混合した不溶化剤のほうが、フッ素溶出量がより低減していた。これらの結果から、不溶化剤Eに添加剤(炭酸カルシウム)を混合した不溶化剤組成物は、不溶化剤Eの不溶化性能を損なわず、フッ素模擬汚染土壌からのフッ素溶出量を低減できることが確認できた。
【0141】
(VI)試験例6:模擬汚染土からのフッ素の不溶化試験(2)(添加後1日)
試験例5と同様のフッ素模擬汚染土壌に、不溶化剤Eに添加剤3の混合割合を変えて調整した不溶化剤組成物を100kg/m
3添加し、ソイルミキサーにて低速で2.5分間練り混ぜた後、容器やパドルに付着した土を掻き落とし、更に低速で2.5分間練り混ぜた。このようにして得られた処理土壌を、20℃で材齢1日まで密封養生した。所定の材齢に達した処理土壌を2mm以下に解砕して、環境庁告示46号法(平成3年8月23日)に準拠して検液を作製した。その検液のフッ素濃度をJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。結果を表17に示す。
【0142】
【表17】
【0143】
表17の実施例26〜28に示すように、不溶化剤Eに添加剤3を40〜60質量%の割合で混合した不溶化剤組成物(E−3−1〜E−3−3)により、不溶化処理を行ったフッ素模擬汚染土壌からのフッ素溶出量は環境基準値未満まで低減していた。
【0144】
本発明の不溶化方法では、
図1に示すような不溶化混合機を用いて、不溶化剤または不溶化剤組成物と、汚染土壌とを混合することができる。
図1に示すような不溶化混合機を用いることにより、不溶化剤または不溶化剤組成物と、重金属汚染土壌との混合比を調節することができる。したがって、上述の模擬汚染土壌を用いた試験例1および3〜5の結果から、
図1に示すような不溶化混合機を用いた場合には、さらに確実に汚染土壌からの有害物質の溶出量を環境基準値以下に低減することができるものと推測できる。