特許第5915263号(P5915263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915263
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20160422BHJP
   D21C 9/10 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   D21C3/02
   D21C9/10 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-45968(P2012-45968)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-181258(P2013-181258A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】陶山 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
(72)【発明者】
【氏名】田上 歩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 加奈
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−096680(JP,A)
【文献】 特開2006−342462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹材を蒸解温度130℃以上150℃未満、蒸解時間240分以上の条件でクラフト蒸解し、カッパー価が16〜25、ヘキセンウロン酸含有量が50〜70mmol/kgである未漂白パルプを得るパルプの製造方法。
【請求項2】
前記未漂白パルプを酸素脱リグニン処理、酸処理、さらに多段漂白工程で処理して漂白パルプを得ることを特徴とする請求項1記載のパルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広葉樹材を蒸解してパルプを製造する方法に関する。特に、漂白が容易であり紙の原料として有用な製紙用パルプを高収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース物質を製紙原料として多くの用途に使用するためには、蒸解処理して化学パルプとするか、あるいはリファイナー等を用いて機械的に処理して機械パルプとする必要がある。これらのパルプは、必要に応じて漂白処理され、所望の白色度に調整された後、製紙原料として使用される。現在、所望の白色度、パルプ特性に調整しやすいことから化学パルプ化法が主として用いられ、特にクラフト法と呼ばれる蒸解法は、薬品の再生が可能であり、使用原料の制限も少ない等の理由から化学パルプ化法の主流となっている。
【0003】
しかしながら、クラフト法はパルプ収率が低く、収率の向上のため蒸解液にアントラキノンスルホン酸塩、アントラキノンやテトラヒドロアントラキノン等の環状ケト化合物であるキノン化合物を蒸解助剤として添加する蒸解法(例えば、特許文献1(特公昭55−1398号公報)、特許文献2(特公昭57−19239号公報)、特許文献3(特公昭53−45404号公報)、特許文献4(特開昭52−37803号公報))が用いられてきた。キノン化合物は、脱リグニンの選択性を向上させ、蒸解パルプのカッパー価の低減、すなわち薬品の削減やパルプ収率の向上に寄与する。
【0004】
また、特許文献5(特開平7−189153号公報)には、キノン化合物とポリサルファイドを含むアルカリ性蒸解液とを併用する蒸解が開示されている。
【0005】
ところで、1970年代の終りから1980年代の初めにかけてスウェーデンのSTFI研究所の先駆的業績(非特許文献1(Svensk Papperstidning,87(10):30(1984))によってアルカリ推移の「平準化」という技術が導入された。「白液分割添加」と向流処理とを特徴とするこの方法は、「修正クラフト蒸解」として知られ、1980年代パルプ工業界に広く採用された。例えば、この方法および関連機器は、MCCとして知られている。後に、この向流方法は、ハイ・ヒート洗浄ゾーンとして知られる向流洗浄ゾーンへの白液の添加にも拡張され、「拡大修正クラフト蒸解」(EMCC)として知られている。
【0006】
さらに1990年代に、Lo−Solids蒸解法とその関連機器が導入されたが、これはクラフト蒸解法の次の劇的な改良法となった。この方法では、パルプ製造プロセスの最初の段階で廃蒸解液を選択的に抜き出し、蒸解液と希釈液、例えば、溶解物を低濃度しか含まない洗浄機濾過液とを補給することによって、強くてきれいなセルロースパルプを製造することが可能になった。
【0007】
特許文献6(特開2000−336586号公報)、特許文献7(特開2000−336587号公報)には、上述の新しい蒸解法に呼応するパルプ収率向上技術が提案されている。これらの技術では、広葉樹または針葉樹のチップを用い、硫黄として3〜20g/Lの濃度のポリサルファイドサルファを含み、かつ蒸解系へ導入されるアルカリ性蒸解液に含まれる全蒸解活性な硫黄分および全アルカリに対し45〜100質量%の硫黄分と45〜79質量%の有効アルカリとを含むアルカリ性蒸解液が前記蒸解釜の頂部で添加され、さらに絶乾チップ当り0.01〜1.5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を前記蒸解釜に供給することを特徴とするリグノセルロース材料の蒸解法が提供されている。
【0008】
しかしながら、さらなるパルプ収率の向上や、薬品原単位の削減が求められている。
【0009】
一方、紙パルプ工場の漂白工程から排出される物質が環境に与える影響に関心が集まる中、従来の塩素及び/または塩素系薬品を主に用いた漂白方法から、元素状の塩素を使わないECF漂白や更に進んで塩素系薬品を全く使用しないTCF漂白が全世界的に主流となりつつある。
【0010】
しかしながら、ECF漂白やTCF漂白で主に使用されている、二酸化塩素や過酸化水素、酸素、オゾンなどの薬品類のほとんどが従来の塩素や次亜塩素酸ナトリウムなどの漂白薬品よりも高価であり、ECF漂白やTCF漂白の処理コストが高くなるという問題がある。
【0011】
この現状から、ECF漂白やTCF漂白において漂白薬品の使用量を減少することが可能で、漂白コストを低減できるパルプの漂白方法の開発が求められている。
【0012】
パルプの漂白薬品を消費する物質として、リグニン以外にヘキセンウロン酸が大きく関与していることが知られている。このヘキセンウロン酸は、蒸解工程においてヘミセルロース中のメチルグルクロン酸から脱メチルすることで生成し、二重結合を有することから、過マンガン酸カリウムと反応しカッパー価としてカウントされると同時に、漂白薬品とも反応し漂白薬品を消費してしまう。従って、ヘキセンウロン酸を除去することができれば、漂白薬品の効率を改善することができる。
【0013】
このヘキセンウロン酸を除去する方法の一つとして、比較的高温の酸処理技術が提示されている。これは、漂白前のパルプを高温且つ酸性下で処理することにより、このヘキセンウロン酸を酸加水分解し除去するものであり、これによりカッパー価を低下させ、所望の白色度までパルプを漂白するのために要する漂白薬品を削減できることが知られている。例えば、特許文献8(特表平10−508346号公報)には、約85〜150℃で約2〜5のpHで処理し、パルプ中のヘキセンウロン酸の少なくとも約50%を除去し、パルプのカッパー価を2〜9単位減少させる技術が開示されている。この中で、好ましいpHは針葉樹パルプで2.5〜3.5、広葉樹パルプで3〜5であると記載されている。使用する酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などの鉱酸や、蟻酸、酢酸などの有機酸が挙げられている。
【0014】
しかし、この技術ではパルプを85〜150℃以上の高温で処理しなければならず、昇温及び反応温度保持のために多量の蒸気を必要とし、また、100℃以上の場合には、反応容器内で圧力が高まるため高圧用の設備が必要であり、多額の投資を要するなどの実用上の問題がある。しかしながら、この加温酸処理法により、ヘキセンウロン酸を、塩素漂白で得られるパルプと同等のレベル(例えば、1mmol/kg絶乾パルプ)にまで分解・除去しようとすると、パルプを低pH、高温下で長時間処理する必要があり、ヘキセンウロン酸のみではなくセルロースも一部加水分解され、パルプ繊維が損傷するという問題がある。
【0015】
また、特許文献9(特開2003−96680号公報)には、広葉樹材を蒸解してカッパー価が18〜23で、ヘキセンウロン酸量が35〜45mmol/絶乾パルプkgの未漂白パルプを製造し、これをさらに漂白処理して、ヘキセンウロン酸量を10mmol/絶乾パルプkg未満とすることで退色性が改善された製紙用パルプを製造する方法が開示されている。
【0016】
以上のように、ECF漂白やTCF漂白において、漂白薬品を消費するヘキセンウロン酸をパルプから効率良く除去することにより、漂白薬品の消費を最小限に抑え、退色性が改善されたパルプの漂白処理技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特公昭55−1398号公報
【特許文献2】特公昭57−19239号公報
【特許文献3】特公昭53−45404号公報
【特許文献4】特開昭52−37803号公報
【特許文献5】特開平7−189153号公報
【特許文献6】特開2000−336586号公報
【特許文献7】特開2000−336587号公報
【特許文献8】特表平10−508346号公報
【特許文献9】特開2003−96680号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Svensk Papperstidning,87(10):30(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、さらなるパルプ収率の向上や、漂白薬品の使用量の削減が求められている。本発明の課題は、広葉樹材を原料とし高収率でありながら、漂白が容易な未晒パルプを得ることができるクラフト蒸解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、高収率でありながら、漂白が容易な未晒パルプのクラフト蒸解方法を鋭意検討した結果、広葉樹材を蒸解温度130℃以上150℃未満、蒸解時間240分以上の条件でクラフト蒸解を行い、カッパー価が16〜25、ヘキセンウロン酸含有量が50〜70mmol/kgである未漂白パルプを得ることにより上記課題が解決できることを見出した。
【0021】
本発明の未漂白パルプのヘキセンウロン酸含有量は比較的高いが、酸素脱リグニン処理後に酸処理を行うことによって、ヘキセンウロン酸含有量を問題がないレベルまで低減できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、広葉樹材を原料として高収率でありながら、漂白が容易な未漂白パルプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明において、蒸解工程でクラフト蒸解される広葉樹材は特に限定はなく、いずれの材でも使用できる。
【0024】
本発明におけるクラフト蒸解としては、通常のクラフト蒸解の他、クラフト−アントラキノン蒸解法、クラフト−ポリサルファイド蒸解法、クラフト−ポリサルファイド−アントラキノン蒸解法を含む。さらにクラフト蒸解法については、修正法として、MCC、EMCC、ITC、Lo−solid、Compact Cooking法等が知られているが、これらにも本発明を適用することができる。例えば、木材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解白液の硫化度は5〜75%、好ましくは20〜35%、有効アルカリ添加率は、木材絶乾質量に対して5〜30%、好ましくは10〜25%である。また、必要に応じて蒸解助剤を添加してもよい。
【0025】
蒸解助剤としては、キノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。
【0026】
蒸解温度は130℃以上150℃未満とする必要があり、好ましくは135℃以上145℃以下である。カッパー価が16〜25の範囲になるよう蒸解した場合において、蒸解温度が130℃未満ではパルプ化が不十分で粕の量が多くなり、150℃以上になるとパルプ収率が低下するために好ましくない。
【0027】
本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間である。蒸解時間は240分以上である必要があり、好ましくは240分以上480分以下である。蒸解時間が240分未満ではパルプ化が進行せず、480分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。液比は2.5〜10が好ましい。液比が2.5未満では木材チップに対して蒸解薬液量が少なすぎるために蒸解が不十分となり、液比10を超えると生産効率が低下するために好ましくない。
【0028】
本発明において、得られた未漂白パルプのカッパー価が16〜25、かつヘキセンウロン酸含有量が50〜70mmol/kgとなるようにクラフト蒸解を行う。カッパー価が16未満になるまで蒸解を進めると収率の低下が大きくなり、25を超えると蒸解粕が多くなる。また、ヘキセンウロン酸含有量が50mmol/kg未満になるまで蒸解を進めると収率の低下が大きくなり、70mmol/kgを超えると長期間保存した際の白色度の低下が大きくなる。なお、パルプ中のヘキセンウロン酸の含有量は、pH1.8、95℃にて4時間、酸加水分解処理し、たパルプスラリーをろ過し、ろ過液中の2−フランカルボン酸(2−furan carboxylic acid)及び5−ホルミル−2−フランカルボン酸(5−formyl−2−furan carboxylic acid)(ともに、ヘキセンウロン酸の酸加水分解物である。)の量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて測定し、そのモル量の合計からパルプ中のヘキセンウロン酸含有量を求めることができる。
【0029】
クラフト蒸解はH−ファクター(HF)を指標として、蒸解温度及び蒸解時間を設定することができる。H−ファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、本発明では下記式によって表す。H−ファクターは積分記号より右側の項をチップとアルカリ性蒸解液が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0030】
HF=∫ln−1(43.20−16113/T)dt
(式中、HFはH−ファクターを、Tはある時点の絶対温度を表し、dtは蒸解釜内の温度プロファイルにより経時的に変化する時間の関数である。)
【0031】
従来、同じ組成の蒸解薬液においてH−ファクターが同程度であれば、蒸解温度、蒸解時間が異なっても、同程度のカッパー価、収率を有するパルプが得られると考えられていたが、本発明の蒸解温度130℃以上150℃未満の範囲では、蒸解温度が150℃以上の場合と比較すると、カッパー価が低く、収率の高いパルプが得られることが判明した。
【0032】
本発明においては、蒸解後得られた未漂白パルプは、必要に応じて、公知の酸素脱リグニン処理を行う。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法或いは高濃度法がそのまま適用できるが、現在、汎用的に用いられているパルプ濃度が8〜15質量%で行われる中濃度法が好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0033】
前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され、混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。酸素脱リグニン処理の反応条件は従来から実施されている条件であれば良く、特に限定はないが、酸素圧は3〜9kg/cm、より好ましくは4〜7kg/cm、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、温度は80〜120℃、より好ましくは85〜105℃、処理時間は30〜180分、より好ましくは50〜90分、パルプ濃度は8〜15質量%であり、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。
【0034】
酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理することもできる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0035】
本発明において、酸処理を酸素脱リグニン処理後に行うことによって、多段漂白での漂白薬品の使用量を低下できるので好ましい。酸処理によってヘキセンウロン酸量を効果的に低減できる。使用する酸の種類は、硫酸、塩酸、硝酸、亜硫酸、亜硝酸、二酸化塩素発生装置の残留酸などの鉱酸を使用できる。好適には硫酸である。
【0036】
酸処理時のpHは2.0〜4.0が好適である。pHが2.0未満の場合はヘキセンウロン酸と有害金属の除去は十分であるが、酸が過剰でありパルプ粘度の低下が大きくなる。一方、pHが4.0を超えると酸濃度が低く、ヘキセンウロン酸と有害金属の除去が不十分となる。酸処理時のpHを2.0〜3.0とすることにより、酸処理時の温度を下げることが可能であり、蒸気使用量を低減でき、酸処理コストを低減できる。
【0037】
酸処理の反応温度は80〜95℃の範囲である。温度が90℃未満では金属除去の面では効果はあるが、ヘキセンウロン酸の除去効果が低い。一方、95℃を超える場合は金属除去、ヘキセンウロン酸除去の効果は高くなるが、反応温度までの昇温と保持に多量の蒸気が必要になり、処理コストが増大する。更に100℃以上になると反応容器中の圧力が高くなり、酸素処理用の高圧容器が必要で、設備投資が多大となるので好ましくない。
【0038】
反応時間は30分間〜5時間、好ましくは30分間〜4時間、更に好ましくは1〜3時間である。30分間未満では酸による反応が充分ではなく、5時間を超えて処理しても酸処理効果の上昇は小さい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
・パルプのカッパー価:JIS P 8221に従って、測定した。
・収率:蒸解前の木材チップの絶乾重量と蒸解後に得られた未漂白パルプの絶乾重量より算出した。
・粕率:蒸解後に得られた未漂白パルプを6カットのフラットスクリーンで精選し、スクリーンを通過しなかった物の絶乾重量を粕として算出した。
・パルプ中のヘキセンウロン酸の定量方法:完全洗浄したパルプより調製したpH1.8(希硫酸により調整)、10質量%の濃度のパルプスラリー50gを、耐熱性プラスチックバッグに入れ、95℃にて4時間、酸加水分解処理した。処理後、パルプスラリーをろ過し、ろ過液中の2−フランカルボン酸(2−furan carboxylic acid)及び5−ホルミル−2−フランカルボン酸(5−formyl−2−furan carboxylic acid)(ともに、ヘキセンウロン酸の酸加水分解物である。)の量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー、株式会社島津製作所製、LC−10シリーズ)にて測定し、そのモル量の合計から元のヘキセンウロン酸量を求めた。また、ヘキセンウロン酸の除去率を下記の式より求めた。
100−(反応後のヘキセンウロン酸量/反応前のヘキセンウロン酸量)×100(%)
・パルプの白色度測定:パルプを離解し、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って坪量60g/m2のシートを作製し、JIS P 8148に準じて、白色度計(株式会社色彩技術研究所製、商品名:CMS−35SPX)にてパルプのISO白色度を測定した。
【0040】
[実施例1]
ユーカリ材と国内広葉樹材からなる混合広葉樹チップ(混合比85:15)を、活性アルカリ添加率18%、硫化度25%、液比2.5(L/kg)、蒸解時間417分、最高温度140℃、H−ファクター(HF)=478で回転式オートクレーブによる蒸解を行った。得られたパルプのカッパー価、収率、粕率、ヘキセンウロン酸量、白色度を測定し、結果を表1に示した。
【0041】
[実施例2]
蒸解時間を262分、最高温度を145℃とした以外は、実施例1と同様にして蒸解を行った。
【0042】
[実施例3]
蒸解時間を704分、最高温度を135℃、HF=478とした以外は、実施例1と同様にして蒸解を行った。
【0043】
[比較例1]
蒸解時間を156分、最高温度を150℃とした以外は、実施例1と同様にして蒸解を行った。
【0044】
[比較例2]
蒸解時間を186分、最高温度を145℃、HF=346とした以外は、実施例1と同様にして蒸解を行った。
【0045】
[比較例3]
蒸解時間を400分、最高温度を150℃、HF=1148とした以外は、実施例1と同様にして蒸解を行った。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示されるように、カッパー価が16〜25、ヘキセンウロン酸含有量が50〜70mmol/kgの範囲となるように蒸解を行った場合、実施例1〜3においては、収率が高く、粕率が低い未漂白パルプが得られた。ただし、蒸解時間を長くした実施例3では白色度が低下した。これに対して、蒸解温度が150℃以上である比較例1では収率が低い上に粕率が高かった。また、蒸解時間が240分未満である比較例2では粕率、カッパー価が高かった。蒸解温度が150℃以上で蒸解時間を長くすると、粕率は低下するが、収率の低下が大きくなる。
【0048】
[実施例4]
実施例1で製造した未漂白パルプを、酸素脱リグニン処理−酸処理−D段処理−E/P−D段処理の多段漂白処理を下記の条件にて行い、漂白パルプを得た。得られた漂白パルプの白色度、ヘキセンウロン酸量を測定し、結果を表2に示した。
・酸素脱リグニン処理:パルプ濃度10%、酸素圧6kg/cm、水酸化ナトリウム添加量2%(対絶乾パルプ質量当たり)、温度98℃、処理時間60分。
・酸処理条件:パルプ濃度10%、硫酸添加量10%(対絶乾パルプ質量当たり)、温度88℃、処理時間120分、開始pH3.0。
・D段処理条件:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量0.85%(対絶乾パルプ質量当たり)、温度58℃、処理時間40分。
・E/P処理条件:パルプ濃度10%、水酸化ナトリウム添加量1.1%(対絶乾パルプ質量当たり)、過酸化水素添加量0.4%(対絶乾パルプ質量当たり)、温度60℃、処理時間60分。
・D段処理条件:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量0.25%(対絶乾パルプ質量当たり)、温度70℃、処理時間180分。
【0049】
[実施例5]
実施例2で製造した未漂白パルプを実施例3と同様に多段漂白処理を行い、漂白パルプを得た。
【0050】
[実施例6]
実施例3で製造した未漂白パルプを実施例3と同様に多段漂白処理を行い、漂白パルプを得た。
【0051】
[比較例4]
比較例1で製造した未漂白パルプを実施例3と同様に漂白処理を行い、漂白パルプを得た。
【0052】
[比較例5]
比較例2で製造した未漂白パルプを実施例3と同様に漂白処理を行い、漂白パルプを得た。
【0053】
[比較例6]
比較例3で製造した未漂白パルプを実施例3と同様に漂白処理を行い、漂白パルプを得た。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示されるように、実施例4〜6では高白色度でヘキセンウロン酸含有量が問題のないレベルまで低下した漂白パルプが得られた。