特許第5915273号(P5915273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5915273吸放湿性ポリエステル繊維およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915273
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】吸放湿性ポリエステル繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20160428BHJP
   D01D 1/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   D01F6/92 307D
   D01D1/02
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-51728(P2012-51728)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-185279(P2013-185279A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰崇
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 久人
(72)【発明者】
【氏名】吉宮 隆之
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−273059(JP,A)
【文献】 特開2002−155425(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/137145(WO,A1)
【文献】 特開2004−277911(JP,A)
【文献】 特開2000−008226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96、9/00−9/04
D01D 1/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維中に、ポリビニルピロリドンが3〜20重量%、繊維断面における分散径が300nm以下となるように微分散しており、吸放湿性パラメータ(ΔMR)が1.0%以上、強度2.0cN/dtex以上、タフネス15以上、繊度斑U%(n)1.0以下、色調L値70以上,b値10以下であることを特徴とする吸放湿性ポリエステル繊維。
【請求項2】
繊維中のアンチモン原子含有率が50ppm以下であることを特徴とする請求項1載の吸放湿性ポリエステル繊維。
【請求項3】
融点が255℃以下であることを特徴とする請求項1または2記載の吸放湿性ポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が1万〜100万であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸放湿性ポリエステル繊維。
【請求項5】
融点が255℃以下、アンチモン原子含有量が50ppm以下のポリエステルに、ポリ(N−ビニルラクタム)を、重量比97:3〜75:25、繊維断面における分散径が500nm以下となるように180〜270℃にて溶融混練して、一旦冷却した後チップ化するか、または溶融状態のまま連続して紡糸装置に送り込み、計量した後、口金上に配置された金属不織布からなるフィルターを通し、口金から吐出した繊維を冷却し給油した後、300m/分以上で引き取り、連続して延伸工程に導き、延伸温度30〜140℃にて1段または2段階で延伸して巻き取ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸放湿性ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項6】
融点が255℃以下、アンチモン原子含有量が50ppm以下のポリエステルに、ポリ(N−ビニルラクタム)を、重量比97:3〜75:25、繊維断面における分散径が500nm以下となるように180〜270℃にて溶融混練して、一旦冷却した後チップ化するか、または溶融状態のまま連続して紡糸装置に送り込み、計量した後、口金上に配置された金属不織布からなるフィルターを通し、口金から吐出した繊維を冷却し非含水油剤を給油した後、300m/分以上で引き取り、一旦巻き上げ、延伸温度30〜140℃にて1段または2段階で延伸して巻き取ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸放湿性ポリエステル繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿性を有するポリエステル繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維は機械的強度、耐熱性などに優れるため、衣料用途を主体に広く使用されている。しかしながら、これらのポリエステル繊維は極めて吸放湿性が低いため、インナー,中衣,スポーツ衣料などのように直接的に肌に触れてあるいは肌側に近い状態で着用される分野に使用する場合には、肌からの発汗によるムレ,ベタツキなどを生じ、吸放湿性の高い天然繊維に比較して快適性の点で劣るため、これらの分野への進出は限定されている。
【0003】
このため、例えば特許文献1に記載されているように、ポリエステル繊維からなる布帛に、高次加工で吸放湿性成分を付与する技術が提案されている。しかしながら、この方法では布帛の風合いが硬くなったり、洗濯耐久性に劣ったりする問題があった。
【0004】
そこで、ポリエステル繊維自体に吸放湿性を付与すべく、例えば特許文献2〜4に記載されているように、吸放湿性を持つポリマーを芯成分とし、これを鞘成分であるポリエステルで覆った芯鞘型複合繊維が提案されている。この方法により吸放湿性は向上するものの、染色などの熱水処理時に、芯部の吸湿膨潤による体積膨張により鞘部に歪みがかかり、繊維表面にひびや割れ(鞘割れ)が生じ、商品価値が低下するばかりでなく工程トラブルを生じる等の欠点がある。繊維中に中空部を設けることで芯部の体積膨張を吸収し鞘割れを抑制する試みもなされているが、これにより界面での剥離が生じやすく商品価値を損なうという問題があった。
【0005】
そこで、吸湿ポリマーの膨潤による体積変化の絶対値を小さくすることで鞘割れを抑制すべく、例えば特許文献5に記載されているように、吸湿ポリマーをポリエステル中に分散させる技術が提案されている。しかしながら、該技術ではポリオキシアルキレングリコールとポリエステルとを共重合したポリマーを吸湿ポリマーとして用いているため、吸放湿性を十分に発現させるためには島成分比率を高める必要があり、これにより操業性が不安定になり糸切れが多くなったり、得られた繊維の長手方向の繊度斑が大きくなったりする問題があった。
【0006】
これに対して、例えば特許文献6に記載されているように、吸湿成分を共重合せずに単体で用いてポリエステル中に分散させる技術が提案されている。しかしながら、該技術はポリアミドに関するものであり、ポリエステル特有のハリ,コシを再現することは不可能であった。また、該技術をポリエステルに適用する技術が、例えば特許文献7に記載されている。しかしながら、該文献には繊維に関して具体的な製造方法の記載はなく、実施例もフィルムに関するものである。該文献に基づいて繊維を製造したところ、繊維が黒く着色する,操業中の発煙および繊維の黄味が高くなる,紡糸操業性が糸切れが多発して問題で繊維の長手方向の繊度斑が大きい,巻取中に糸層が破裂する,巻取糸保管中に膨潤し延伸時の解舒性が悪くなるために延伸操業性が悪く繊度斑が大きい、など多くの問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−69846号公報
【特許文献2】特開平5−209316号公報
【特許文献3】特開平6−136620号公報
【特許文献4】特開平9−111579号公報
【特許文献5】特開2004−277911号公報
【特許文献6】特開昭55−4852号公報
【特許文献7】特開2002−155425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、吸放湿性および強度が良好で,長手方向の繊度斑が少なく、機械的物性に優れた特性を有するポリエステル繊維およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、繊維中に、ポリビニルピロリドンが3〜20重量%、繊維断面における分散径が300nm以下で微分散しており、吸放湿性パラメータ(ΔMR)が1.0%以上、強度が2.0cN/dtex以上、タフネスが15以上、繊度斑U%(n)が1.0以下、色調L値が70以上,b値が10以下であることを特徴とする吸放湿性ポリエステル繊維によって解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって得られたポリエステル繊維は、着用快適性を得るのに十分な吸放湿性を有しており、また、繊度斑が小さく、L値が高く、かつb値が低い等の特徴を有していることから、均一染色性および発色性に優れており、衣料用として用いるのに適した繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸放湿性ポリエステル繊維は、ポリエステルとポリ(N−ビニルラクタム)とがアロイ化されたポリマーを繊維化したものである。ここで、アロイ化とは、複数のポリマーを混合し、新たな特性を持たせる操作である。本発明のポリマーアロイ繊維は、ポリエステルを海成分,ポリ(N−ビニルラクタム)を島成分とした海島構造を持つものである。
【0012】
ポリエステルとしては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルのいずれを用いても良い。芳香族ポリエステルとしては、その酸成分がテレフタル酸および/またはイソフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコール,トリメチレングリコール,テトラメチレングリコールなどの脂肪族ジオールのうち少なくとも1種よりなるものがあげられる。これらの中でポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等が好ましい。また、芳香族ポリエステルの一部を共重合成分で置換したものでもよく、共重合成分としては、フタル酸,メチルテレフタル酸,メチルイソフタル酸,スルホイソフタル酸塩,コハク酸,アジピン酸,セバシン酸などが挙げられる。さらに上述の芳香族ポリエステルに分岐成分として、トリメシン酸,トリメリット酸などを共重合したものでもよい。脂肪族ポリエステルとしては、グリコール酸,乳酸などのヒドロキシカルボン酸の単独重合体またはそれらの共重合体があげられる。これらの中で、ポリグリコール酸,ポリ乳酸などが好ましい。
【0013】
また、従来から、このようなポリエステルの重縮合時に用いられる触媒としては、三酸化アンチモンが広く用いられており、この場合ポリエステル中のアンチモン原子含有量は100ppm以上であるが、本発明に用いられるポリエステルはアンチモン原子含有量が50ppm以下であることが好ましく、この場合、吸放湿性ポリエステル繊維のアンチモン原子含有量も50ppm以下となる。より好ましいポリエステル中のアンチモン原子含有量は30ppm以下である。前述の通り、ポリエステルとポリ(N−ビニルラクタム)とをブレンドすることで、アロイポリマーが黒く着色する問題が判明していたが、本発明者らは鋭意検討の結果、この着色の原因がアンチモン原子とポリ(N−ビニルラクタム)との反応による黒色異物であることを突き止め、アンチモン原子の含有量が50ppm以下であるポリエステルを用いることで、アロイポリマーが黒く着色するのを抑制でき、繊維にした際に色調L値を70以上にできることを見出したものである。ポリエステル中のアンチモン原子含有量を50ppm以下とするには、アンチモン系以外の重合触媒(チタン系,スズ系,ゲルマニウム系など)を用いるか、これらとアンチモン系重合触媒とを併用することにより達成できる。また、アンチモン系の重合触媒を用いたポリエステルと、アンチモン以外の重合触媒を用いたポリエステルとをブレンドすることによっても達成できる。
【0014】
さらに、ポリエステルの融点は255℃以下であることが好ましく、150℃以上240℃以下であることがより好ましい。ポリ(N−ビニルラクタム)は高温下で熱劣化により黄変し、繊維の色調b値を悪化させる原因となる。このため、融点が255℃以下のポリエステルを用いることで混練温度や紡糸温度を低く抑えることができ、ポリ(N−ビニルラクタム)の熱劣化を抑制し、繊維の色調b値悪化を抑制できる。一方、ポリ(N−ビニルラクタム)は多くがガラス転移温度170℃程度の非晶であることから、混練時および紡糸時はこれ以上の温度で加工する必要があるため、ポリエステルの融点が150℃であるとポリエステルの熱劣化を抑制でき好ましい。
【0015】
ポリ(N−ビニルラクタム)としては、N−ビニル−2−ピロリドン,N−ビニル−2−ピペリドン,N−ビニルカプロラクタムなどのN−ビニルラクタム類の重合体があげられる。本発明で使用されるポリ(N−ビニルラクタム)としては、立体障害が小さく水分子を吸着,放出しやすいことから、N−ビニル−2−ピロリドンの重合体であるポリビニルピロリドンが好ましい。ポリビニルピロリドンは重量平均分子量0.5万以上250万以下のものが一般的であるが、このうち重量平均分子量1万以上100万以下のものが好ましく、重量平均分子量3万以上50万以下のものがより好ましい。重量平均分子量1万以上であることで、熱安定性が高くなり、また、溶融紡糸時のブリードアウトを抑制でき、さらに、高次加工時や製品として使用する際のポリビニルピロリドンの溶出を抑制でき吸放湿性を向上することができる。また、重量平均分子量100万以下であることで、アロイポリマーの粘度が高くなり、ポリエステル中で凝集して分散性が低下することや、紡糸時に装置にかかるポリマー圧力が高くなることを好適に抑制できる。
【0016】
本発明では、ポリエステルを海、ポリ(N−ビニルラクタム)を微細な島とした海島構造を持つポリマーアロイ繊維とすることが必要である。ポリエステルを海成分とすることで、高い機械特性を持つポリエステルが繊維の機械物性を担うことができ、高い機械物性を持つ繊維とすることができる。また、ポリ(N−ビニルラクタム)を島成分とすることで、耐水溶性の低いポリ(N−ビニルラクタム)の繊維表面への露出を抑制し、高次加工時および製品として使用する際のポリ(N−ビニルラクタム)の溶出を抑制でき、吸放湿性を向上することができる。
【0017】
ポリエステルとポリ(N−ビニルラクタム)の合計量を100重量部としたときの各成分の比率は、ポリエステル75重量部以上97重量部以下,ポリ(N−ビニルラクタム)重量部以上20重量部以下あり、好ましくはポリエステル80重量部以上95重量部以下,ポリ(N−ビニルラクタム)5重量部以上20重量部以下である。
【0018】
ポリ(N−ビニルラクタム)を3重量部以上とすることで吸放湿性を発現する。一方、ポリ(N−ビニルラクタム)を20重量部以下とすることで、繊維製造時のバラス効果により発生する紡糸線のふくらみを原因とする、長手方向の繊度斑を抑制することができる。
【0019】
本発明の繊維は、繊維横断面における島成分の分散径が300nm以下であることが必要であり、10nm以上300nm以下であることが好ましく、20nm以上150nm以下であるとさらに好ましい。分散径を300nm以下とすることで、海島界面の比界面積を十分大きくすることができ、島成分の吸湿膨潤による体積変化に起因した海成分の鞘割れを抑制することができ、また、吸放湿速度が高くなり環境の変化への即応性に優れた吸放湿性を示すものとなる。さらに、島成分ポリマーのうち、繊維表層に露出する部分を持つ島成分ポリマーの割合が小さくなり、高次加工時および製品として使用する際の島成分ポリマーの溶出による吸放湿性低下を抑制することができる。また、島成分の分散径が大きいと、口金吐出時に引き伸ばされた島成分が、吐出後にポリマー間の界面張力により球形に戻ろうとする力も大きくなり、吐出孔直下でバラス効果と呼ばれる吐出孔径の数倍もの直径を有する膨らみが発生する。このため、紡糸での細化変形過程で太細異常が発生しやすく、糸長手方向で繊度斑等の品質の問題が生じたり、太細が大きいときには糸切れが生じたりする。また、分散径を10nm以上とすることで、混練時にポリマーにかけられるせん断を抑えることができ、分子鎖切断による物性低下や色調悪化を抑制でき好ましい。
【0020】
吸放湿性パラメータΔMRは1.0%以上であることが必要である。ここで、ΔMRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォースであり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の30℃×90%RHに代表される衣服内温湿度と20℃×65%RHに代表される外気温湿度との間の吸湿率差である。本発明では吸放湿性評価の尺度としてこのΔMRをパラメータとして用いるが、ΔMRは大きいほど吸放湿性が高く着用時の快適性が良好であることに対応する。ΔMRが1.0%以上であることで、繊維の吸放湿性能および快適性が良好である。ΔMRが1.5%以上であることが好ましく、ΔMR2.0%以上5.0以下であることがより好ましい。一方、ΔMRを高くするにはポリ(N−ビニルラクタム)のブレンド量を高くする必要があるが、ΔMR5.0以下とすることで工程通過性に影響を及ぼさない繊度斑とすることが可能であり好ましい。
【0021】
強度は2.0cN/dtex以上、タフネスは15以上であることが必要である。強度2.5cN/dtex以上4.5cN/dtex以下、タフネス17以上27以下であることが好ましい。強度2.0cN/dtex以上であることで、布帛にした際にその強力も高く、衣料用布帛の薄地化,高密度化,軽量化に適している。強度4.5cN/dtex以下であることで、延伸倍率が高すぎることによる毛羽の発生を抑えることができ工程通過性が良好になる。また、繊維強度を高くするには製造時の延伸倍率を高くするのが一般的であるが、このようにすると強度は高くなるものの伸度が低くなり、毛羽が発生しやすく、製織などの工程通過性が悪くなる。このため、伸度を十分に保ちつつ高い強度を得るにはタフネスが15以上である必要があり、17以上であることが好ましく、20以上であるとさらに好ましい。また、製糸条件の適正化によるタフネスの向上には限界があり、これを超えるタフネスを得るには、原料として分子量が非常に高いポリエステルを用いる必要があることから、タフネスは汎用ポリエステルにて到達可能な27以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の繊維の長手方向の繊度斑U%(n)は1.0%以下である必要があり0.8%以下であることがより好ましい。1.0%以下であると染色後の染め斑を抑制することができる。染色工程において、繊度の大きな部分は分子配向が小さいために染料が多く吸尽されることが知られている。このことから、繊度に斑があると染め斑の原因となる。
【0023】
色調L値は70以上である必要がある。色調L値は繊維の明度を表すパラメータであり、L値が70以上であることで、染色した際の発色性が良好となる。このため、L値は80以上であることが好ましく、85以上であるとより好ましい。
【0024】
色調b値は10以下である必要がある。色調b値は繊維の色度を表すパラメータであり、b値が大きいほど黄味が強い。b値が10以下であることで、黄味が小さく外観的な色調に優れ、衣料用に好適な繊維となる。このため、b値は8以下であることが好ましく、5以下であるとさらに好ましい。
【0025】
このような特徴を有する本発明の吸放湿性ポリエステル繊維は、織物,編物,不織布,パイル織物等の立毛体,詰め綿等といった繊維構造体に加工して用いることができる。繊維構造体の用途としては、衣料,産業用資材,インテリア製品等といったものがあげられる。その中でも特に、インナー,中衣,スポーツ衣料などのように直接的に肌に触れてあるいは肌側に近い状態で着用される分野有効に活用することができる。
【0026】
以下に本発明の吸放湿性ポリエステル繊維の製造方法を示す。
融点が255℃以下、アンチモン原子含有量が50ppm以下のポリエステルと、ポリ(N−ビニルラクタム)を、重量比97:3〜75:25、繊維断面における分散径が500nm以下となるように180℃以上270℃以下にて溶融混練して、一旦冷却した後チップ化した。紡糸装置に送り込む。この際使用する混練装置として好ましいのは、スクリュ径40mm以上、L/D35以上の二軸押出機である。紡糸装置に送り込まれたポリマーを溶融,計量した後、口金上に配置された金属不織布からなるフィルターを通し、口金から吐出した繊維を冷却し給油した後、300m/分以上で引き取り、連続して延伸工程に導き、延伸温度30℃以上140℃以下にて1段または2段階で延伸して巻き取る。
【0027】
各製造工程の詳細は以下の通りである。
原料については、前記したポリエステルとポリ(N−ビニルラクタム)の組み合わせにおいて、ポリエステルとポリ(N−ビニルラクタム)の合計量を100重量部として、ポリエステル75〜97重量部、ポリ(N−ビニルラクタム)25〜3重量部としてそれぞれ計量し、ブレンドすることが必要である。この際、吸湿しやすいポリエステルおよびポリ(N−ビニルラクタム)は予め80〜150℃、減圧下、もしくは窒素雰囲気下で乾燥しておき、乾燥後は吸湿防止容器等にストックしておく。溶融混練前の吸湿率は、好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0.02重量%以下、最も好ましくは0.008重量%以下である。
【0028】
混練工程で用いられる装置として好ましいのは、スクリュ径40mm以上、L/D35以上の二軸押出機である。前述の理由から、本発明の吸放湿性ポリエステル繊維は、繊維横断面内の島成分分散径が500nm以下である必要があり、これを達成できる混練装置であれば、これ以外の二軸押出機でもよく、一軸押出機でもよい。一方、ニーディングロールやバンバリーミキサーを用いて繊維横断面における島成分分散径を500nm以下にすることは困難である。また、混練後は、一旦チップ化してもよいし、そのまま連続して紡糸装置に送り込んでもよい。
【0029】
溶融押出における混練時のジャケット温度は、ポリエステルの融点(以下Tmと記載)を基準に、Tm+5以上Tm+40℃以下で行い、混練の剪断速度を300(1/sec)以上9800(1/sec)以下とすることが好ましく、二軸押出混練機(同方向2軸、軸径40mm、L/D35)では軸回転数を100rpm以上にすることが好ましい。この範囲のジャケット温度および剪断速度とすることで、均一性の高いアロイ相構造とすることが可能となり、かつ島成分のドメインサイズを十分小さくすることが可能になる。また、ジャケット温度は樹脂の着色を抑制するためにも低い方が好ましく、特に本発明で用いるポリ(N−ビニルラクタム)は高温下で熱劣化したり、黄色に着色し、あるいは発煙することもあるので、Tm+5℃以上Tm+25℃以下であることがより好ましい。同様に、上記のアロイ相構造を維持しつつ、かつ着色を防止するために、紡糸温度はできるだけ低温で行うことが好ましく、Tm+20℃以上Tm+50℃以下の範囲で行うことが好ましい。また、ポリ(N−ビニルラクタム)として、非晶でガラス転移温度の低い粉体状のものを用いる場合は、投入部を冷却することが好ましい。投入部の冷却により、投入部内で粉体が融着し安定供給できなくなるトラブルを防止することができる。
【0030】
紡糸工程においては、紡糸パック内での島ドメインの再凝集を抑制して島成分の分散径を制御するために、ハイメッシュの濾層(#100〜#200)や濾過径の小さい不織布フィルター(濾過径5〜30μm)を口金上に配置してもよい。中でも、複数の線径の金属不織布からなる多層フィルターが島成分の分散径の制御に最も効果的である。
【0031】
吐出したフィラメントは、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであっても良い。口金吐出孔の形状は、通常の丸断面、Y断面、三角断面、四角断面、扁平断面あるいはこれらの中空断面等、公知のものを用いることができ、用途に応じたものを選択することができる。このうち、丸断面以外の異形断面であると、繊維の比表面積が大きくなるため吸放湿速度が速くなり好ましい。
【0032】
口金下の冷却方法は、一方向から冷却するユニフロータイプのチムニーでも、糸条の内側から外側へ、もしくは糸条の外側から内側へ冷却風を当てる環状チムニーでもよいが、好ましくは糸条の内側から外側へ冷却する環状チムニーが、均一冷却できる点で好ましい。この際に、冷却風はマルチフィラメントに直交する方向から、マルチフィラメントに冷却気体を当てて冷却することが望ましい。このときの冷却風の速度は、0.2m/秒以上1m/秒以下が好ましく、0.3m/秒以上0.8m/秒以下がより好ましい。また、冷却風の温度は、均一冷却するために低い方が好ましいが、冷却風の温調コストとの兼ね合いから、15℃以上25℃以下にすることが現実的であり好ましい。
【0033】
紡出したマルチフィラメントは公知の紡糸油剤を給油して表面被覆するが、このときの油剤の付着量は、糸に対し、純油分として0.3重量%以上3重量%以下付着させる。紡糸油剤には、衣料用ポリエステル繊維の油剤として広く用いられている含水油剤を用いてもよいし、非含水油剤を用いてもよい。ただし、後述のように、本発明の吸放湿性ポリエステル繊維では、繊維製造方法によって使い分ける必要がある。
【0034】
引取工程では、紡糸速度は300m/分以上で引取り、一旦巻き取るか、連続して延伸を行う。300m/分以上で巻き取ることで生産性を高めることができる。好ましい紡糸速度は500m/分以上3000m/分以下である。3000m/分以下で紡糸することで、紡糸時の糸切れを抑制し、生産性を高めることができる。
【0035】
引取後一旦巻き取る場合は、前述の紡糸油剤として、衣料用ポリエステル繊維に用いられる油剤としては一般的でない、非含水油剤を用いる必要がある。通常衣料用ポリエステル繊維の製造には、油剤成分を水エマルジョン化した含水油剤を用いるのが一般的であるが、非含水油剤は油剤成分を希釈するための希釈剤成分に有機溶剤を用いた油剤である。非含水油剤中の水分の含有量は、5重量%以下が好ましく、より好ましくは3重量%以下である。本発明者らは鋭意検討の結果、繊維構造が充分に形成されていない未延伸糸の状態であっても、非含水油剤を用いることで、巻取中の吸湿膨潤による糸層破裂や、未延伸糸パッケージの吸湿膨潤による延伸時の解舒不良および長手方向の繊度斑を抑制することができることを見出した。
【0036】
一方、引取後連続して延伸を行う場合は、前述の紡糸油剤として、衣料用ポリエステル繊維の油剤として広く用いられている含水油剤を用いることができる。本発明者らは鋭意検討の結果、引取後連続して延伸することで繊維構造が形成され、巻取後の油剤中の水分吸収による膨潤を抑制できるため、含水油剤を用いても巻取中の糸層破裂および長手方向の繊度斑を抑制することができることを見出した。
【0037】
ただし、本発明のポリマーアロイ繊維は未延伸の状態で放置すると吸湿膨潤しやすく、延伸するまでの時間差があると、未延伸糸パッケージ間で容易に繊維の強伸度特性や熱収縮特性のバラツキが生じたり、延伸時に解舒不良が発生したりする。そのため、1工程で紡糸、延伸までを行う直接紡糸延伸法を採用することが好ましい。
【0038】
延伸は、1段でもよいし、2,3段でもよいが、2,3段延伸することでより強度を高めることができ好ましい。延伸温度としては、未延伸糸のガラス転移温度付近である30℃以上140℃以下で行なう必要がある。30℃以上とすることで均一延伸でき、140℃以下とすることで延伸ロールへの融着や繊維の自発伸長による操業性悪化を防ぐことができる。また、各段階の延伸倍率を掛け合わせた総合延伸倍率は、得られる延伸糸の伸度が25%以上100%以下になる様に設定することが好ましく、例えば2.5倍以上5倍以下が好ましい。伸度25%以上とすることで延伸による毛羽の発生を抑制また延伸操業性向上でき。一方、伸度100%以下とすることで強度を高くでき、また、巻取時の吸湿膨潤を抑制できる。また、延伸後には、未延伸糸の結晶速度が最大となる温度で熱セットすることが好ましく、100℃以上220℃以下が好ましく、より好ましくは120℃以上200℃以下である。熱セットすることで繊維の結晶化を促進し、強度を高くでき、吸湿膨潤を抑制することができる。また、熱セットロールと巻取機との間に複数のローラーを配置することが好ましく、ここでリラックスを与えることがより好ましい。リラックスとすることで、巻取後の繊維の自己収縮により紙管がスピンドルから抜けなくなる、いわゆる巻き締まりや物性斑を抑制することができる。
【0039】
上記の条件で延伸することで、繊維構造が形成され、巻取時および保管時の吸湿膨潤を抑制することができる。また、工程安定性が高く、かつ高強度で長手方向の繊度斑の小さい延伸糸にすることができる。
【0040】
本発明の繊維の提供形態としては、本発明の吸放湿性ポリエステル繊維が紙管や金属管に巻きつけられた繊維パッケージでもよいし、本発明の繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体であってもよい。繊維パッケージ1つあたりの繊維量は4〜10kg以上とすることが好ましく、6〜10kg以上とすることがより好ましい。4kg以上とすることで繊維製造時の紙管や金属管の交換周期を少なくすることができ、生産性が向上する。また、10kg以下とすることで、作業者が繊維パッケージを運搬する際の負担を減らすことができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を具体的に説明する。実施例中の測定方法は以下を用いた。
【0042】
A.ポリ(N−ビニルラクタム)の重量平均分子量
試料をジメチルホルムアミドに溶解し、これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(Waters製Waters2690)で測定した。この時の標品には光散乱法で測定されたポリ(N−ビニルラクタム)を用いた。
【0043】
B.ポリエステルおよび繊維の融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー製DSC−7)を用い、試料20mgを昇温速度10℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
【0044】
C.U%(n)(長手方向の繊度斑)
繊度斑測定装置Zellweger製(UT−4)を用いて、供糸速度200m/分、ツイスター回転数12000rpm、測定長200mの条件で、U%(normal)を測定した。
【0045】
D.繊維の強度,破断伸度およびタフネス
試料を引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100)でJIS L1013(1999) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は20cm、引張り速度は20cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。タフネスは以下の式から求めた。
タフネス=強度(cN/dtex)×(伸度(%)0.5) 。
【0046】
E.吸湿ポリエステル繊維の島成分の平均分散径
繊維の長さ方向に対して垂直に切断した単糸の断面スライスをルテニウム染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)(10万倍)にてブレンド状態を観察・撮影した。連続したマトリックス成分(白色部分)を海成分、略円形状を成して分散した成分(灰色部分)を島成分とする海島構造となっている。島成分を構成するポリ(N−ビニルピロリドン)の分散径を直径換算(島成分を円と仮定し、島成分の面積から換算される直径)して求めたものを島成分分散径とし、20個の島成分の平均値を平均分散径とした。
【0047】
F.吸放湿性ΔMR
吸放湿性は原綿または布帛1〜3gを用い、絶乾時の重量と、恒温恒湿器(タバイ製PR−2G)にて20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下中に24時間放置後の重量との重量変化から、次式で求めた。
吸湿率(%)=(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量×100
上記測定した20℃×65%RHおよび30℃×90%RHの条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を求めた。
【0048】
G.繊維の色調(L/b)
繊維を金属プレートに巻取張力0.2g/dtexで巻き取り、SMカラーコンピュータ(スガ試験機製SM−3)を用いて2回測定し、平均値より求めた。
【0049】
H.ポリエステルおよび繊維中のアンチモン原子含有量測定
波長分散型蛍光X線分析装置(リガク製ZSX)を用いて、ピーク位置の回折角で元素同定、回折X線強度で定量した。分析には付属の半定量分析ソフト(SQX)を用いた。
【0050】
[製造例1](ポリブチレンテレフタレート(チタン系触媒)の製造)
1,4−ブチレングリコール1104g、テレフタル酸1132gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まず、テレフタル酸全量、1,4−ブチレングリコール750g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88g、モノブチルヒドロキシスズオキシド0.7gを精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃、400mmHgの条件下にエステル化反応を開始した後、徐々に昇温するとともに、残りの1,4−ブチレングリコールを連続的に添加した。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において250℃の温度で4時間重縮合反応を行った。
【0051】
[製造例2](ポリブチレンテレフタレート(アンチモン系触媒)の製造)
反応触媒としてチタンテトラ−n−ブトキシドの代わりに、ポリエステルの重合触媒として一般的な三酸化アンチモン0.45gを用いた以外は[製造例1]と同一とした。
【0052】
[製造例3](共重合PET(チタン系触媒)の製造)
エチレングリコール784g、テレフタル酸993g、イソフタル酸331gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まずテレフタル酸全量、イソフタル酸全量、エチレングリコール533g、酢酸カルシウム1.2g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88gを精留塔の付いた反応器に仕込み、130℃から235℃まで3時間で昇温し、エステル交換反応終了後、トリメリット酸メチル0.57gを添加する。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において240℃から285℃の温度で4時間重縮合反応を行なった。
【0053】
[製造例4](共重合PET(アンチモン系触媒)の製造)
反応触媒としてチタンテトラ−n−ブトキシドの代わりに、ポリエステルの重合触媒として一般的な三酸化アンチモン0.45gを用いた以外は[製造例3]と同一とした。
【0054】
[製造例5](ポリトリメチレンテレフタレート(チタン系触媒)の製造)
トリメチレングリコール935g、テレフタル酸1209gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まずテレフタル酸全量、エチレングリコール653g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88gを精留塔の付いた反応器に仕込み、130℃から210℃まで3時間で昇温し、エステル交換反応終了後、重縮合反応缶へ移し、真空下において220℃から250℃の温度で4時間重縮合反応を行なった。
【0055】
[製造例6](PET(チタン系触媒)の製造)
エチレングリコール784g、テレフタル酸1324gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まず、テレフタル酸全量、エチレングリコール533g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88gを精留塔の付いた反応器に仕込み、250℃、400mmHgの条件下にエステル化反応を開始した後、徐々に昇温するとともに、残りのブチレングリコールを連続的に添加した。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において285℃の温度で重縮合反応を行った。
【0056】
[実施例1]
[製造例1]のポリブチレンテレフタレートと市販のポリビニルピロリドンK−30(BASF社、重量平均分子量5万)を、それぞれ90:10の割合でハンドブレンドし、二軸押出混練機(同方向2軸、軸径70mm、L/D50)にて混練した。なお、ポリブチレンテレフタレートは100℃、真空下で約5時間乾燥し、水分率を80ppmに調湿した。二軸押出混練機のジャケット温度を240℃、混練時の軸回転数を150rpmとして混練し、ダイから吐出後、水冷、ペレタイズした。このチップを、ホッパーから一軸押出機(シリンダ温度255℃)に仕込み、さらにギアポンプにて計量,排出し、内蔵された紡糸パック(温度260℃)に溶融ポリマーを導き、紡糸口金から紡出した。なお、紡糸パックの口金直上には絶対濾過径10μmのSUS不織布フィルター(不織布厚み:0.6mm)を組み込んだ。紡出後、温度20℃、速度0.4m/秒の冷却風で糸条を冷却固化し、給油装置により油剤を付与した。紡糸油剤にはポリエーテル系油剤15、水85の割合で混合した含水油剤を糸に対して7%付着させた(純油分として1.0%owf)。
さらに第1ロールにて紡糸速度1200m/分で引き取った後、第2加熱ロールの温度を50℃として1206m/分にて引き取り、さらに第3加熱ロールの温度を150℃として5050m/分にて延伸(延伸倍率:4.19倍)を行い、第4ロールにて周速度5050m/分にて糸条を冷却した後、巻取張力5.6g(0.1cN/dtex)、巻取速度5000m/分(弛緩率1.0%)で巻き取った。すなわち、紡糸後巻き取ることなく、連続して延伸した。得られたポリマーアロイ繊維から構成されるマルチフィラメントは、56デシテックス、24フィラメントであった。
得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島成分平均分散径は直径換算で100nmであった。また、得られた繊維の繊維物性および色調は良好であった。
【0057】
[実施例2]
ポリブチレンテレフタレートとポリビニルピロリドンの比率を95:5とした以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で90nmであった。得られた繊維は吸放湿性にやや劣るものの、物性および色調は良好であった。
【0059】
比較例9
二軸押出混練機として、軸径50mm、L/D40のものを用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で400nmとやや大きかった。得られた繊維の物性および色調は実用上問題ないものであったが、長手方向の繊度斑がやや大きかった。
【0060】
[実施例5]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、[製造例3]の共重合PETを用い、第2加熱ロールの温度を90℃とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で100nmであった。得られた繊維の物性および色調は良好であった。
【0061】
[実施例6]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、[製造例5]のポリトリメチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で100nmであった。得られた繊維の物性および色調は良好であった。
【0062】
[実施例7]
原料として、[製造例1]のポリブチレンテレフタレートと[製造例2]のポリブチレンテレフタレートと市販のポリビニルピロリドンK−30(BASF社、重量平均分子量5万)を、それぞれ45:55:10の割合で用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維は灰色で、見た目がやや劣るものの実用可能なものであった。
【0063】
[実施例8]
ポリ(N−ビニルラクタム)として、ポリビニルピロリドンK−17(BASF社、重量平均分子量0.9万)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。混練後のペレタイズ時に、ポリビニルピロリドンが水中に溶出したため、実施例1に比べて得られた繊維の吸放湿性がやや低くなったものの、十分な吸放湿性を有していた。
【0064】
比較例10
ポリ(N−ビニルラクタム)として、ポリビニルピロリドンK−80(BASF社、重量平均分子量85万)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。ポリビニルピロリドンの分子量が高いため、溶融紡糸時の紡糸パック内の圧力がやや高くなったものの、製糸性には問題ないレベルであった。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で330nmとやや大きかった。得られた繊維の物性および色調は実用上問題ないものであったが、長手方向の繊度斑がやや大きかった。
【0065】
比較例11
ポリ(N−ビニルラクタム)として、ポリビニルピロリドンK−85(BASF社、重量平均分子量110万)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。ポリビニルピロリドンの分子量が高いため、溶融紡糸時の紡糸パック内の圧力がやや高くなったものの、製糸性には問題ないレベルであった。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で480nmとやや大きかった。得られた繊維の物性および色調は実用上問題ないものであったが、長手方向の繊度斑がやや大きかった。
【0066】
[実施例11]
紡糸油剤としてポリエーテル系油剤15、低粘度鉱物油85の割合で混合した非含水油剤を糸に対して7%付着させた(純油分として1.0%owf)後、第1ロールにて紡糸速度1200m/分で引き取った後、一旦巻き取った。この5日後、糸層が吸湿膨潤していないことを確認した後、延伸機にて、延伸温度50℃、熱セット温度150℃、延伸速度800m/分にて延伸(延伸倍率:4.19倍)した。これ以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の物性および色調は良好であった。
【0067】
[比較例1]
ポリビニルピロリドンを用いなかった以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維は非常に良好であったものの、吸放湿性が全くなかった。
【0068】
[比較例2]
ポリブチレンテレフタレートとポリビニルピロリドンの比率を70:30とした以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で150nmであった。得られた繊維の吸放湿性は非常に高かったものの、強度,タフネスが低く、長手方向の繊度斑が高いため、工程通過性が悪く、衣料としての耐久性も実用上問題となるものであった。
【0069】
[比較例3]
二軸押出混練機として、軸径30mm、L/D30のものを用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で600nmと非常に大きかった。得られた繊維は長手方向の繊度斑が非常に大きく、このため繊維物性もやや劣るものであり、工程通過性も悪かった。
【0070】
[比較例4]
ポリブチレンテレフタレートとして、[製造例2]のポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして紡糸を行なった。紡出したポリマーが黒く着色しており、紡糸時に酸のような刺激臭が発生し、発煙も多かったため、繊維を得るに至らなかった。
【0071】
[比較例5]
共重合PETとして、[製造例4]のポリマーを用いた以外は実施例5と同様にして紡糸を行なった。紡出したポリマーが黒く着色しており、紡糸時に酸のような刺激臭が発生し、発煙も多かったため、繊維を得るに至らなかった。
【0072】
[比較例6]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、[製造例6]のポリエチレンテレフタレートを用い、二軸押出機および一軸押出機のジャケット温度および紡糸パック温度を295℃、第2加熱ロール温度を90℃とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。紡糸時にわずかに焦げ臭い異臭と煙の発生が見られたものの、繊維を得ることができた。得られた繊維は実用的な物性を持つものの、黄色い着色がみられ、実用に至るものではなかった。
【0073】
[比較例7]
紡糸油剤として実施例1の含水油剤を用いた以外は実施例6と同様にしてマルチフィラメントを得た。巻き取り開始後数分で、繊維の吸湿膨潤によるとみられる糸層破裂が起こり、長時間にわたり繊維を巻き取ることができなかった。延伸時も繊維の吸湿膨潤によるとみられる解舒不良が起こり、膨潤と解舒不良とによるとみられる長手方向の繊度斑が非常に大きくなった。
【0074】
[比較例8]
紡糸油剤として実施例1の含水油剤を用い、第1ロールでの紡糸速度3500m/分とした以外は実施例6と同様にして巻き取り、延伸せずに部分配向マルチフィラメントを得た。巻き取り開始後数分で、繊維の吸湿膨潤によるとみられる糸層破裂が起こり、長時間にわたり繊維を巻き取ることができなかった。延伸時も繊維の吸湿膨潤によるとみられる解舒不良が起こり、膨潤と解舒不良とによるとみられる長手方向の繊度斑が非常に大きくなった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】