【実施例】
【0041】
以下に本発明を具体的に説明する。実施例中の測定方法は以下を用いた。
【0042】
A.ポリ(N−ビニルラクタム)の重量平均分子量
試料をジメチルホルムアミドに溶解し、これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(Waters製Waters2690)で測定した。この時の標品には光散乱法で測定されたポリ(N−ビニルラクタム)を用いた。
【0043】
B.ポリエステルおよび繊維の融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー製DSC−7)を用い、試料20mgを昇温速度10℃/分にて測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
【0044】
C.U%(n)(長手方向の繊度斑)
繊度斑測定装置Zellweger製(UT−4)を用いて、供糸速度200m/分、ツイスター回転数12000rpm、測定長200mの条件で、U%(normal)を測定した。
【0045】
D.繊維の強度,破断伸度およびタフネス
試料を引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100)でJIS L1013(1999) 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定した。この時の掴み間隔は20cm、引張り速度は20cm/分、試験回数10回であった。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。タフネスは以下の式から求めた。
タフネス=強度(cN/dtex)×(伸度(%)
0.5) 。
【0046】
E.吸湿ポリエステル繊維の島成分の平均分散径
繊維の長さ方向に対して垂直に切断した単糸の断面スライスをルテニウム染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)(10万倍)にてブレンド状態を観察・撮影した。連続したマトリックス成分(白色部分)を海成分、略円形状を成して分散した成分(灰色部分)を島成分とする海島構造となっている。島成分を構成するポリ(N−ビニルピロリドン)の分散径を直径換算(島成分を円と仮定し、島成分の面積から換算される直径)して求めたものを島成分分散径とし、20個の島成分の平均値を平均分散径とした。
【0047】
F.吸放湿性ΔMR
吸放湿性は原綿または布帛1〜3gを用い、絶乾時の重量と、恒温恒湿器(タバイ製PR−2G)にて20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下中に24時間放置後の重量との重量変化から、次式で求めた。
吸湿率(%)=(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量×100
上記測定した20℃×65%RHおよび30℃×90%RHの条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を求めた。
【0048】
G.繊維の色調(L/b)
繊維を金属プレートに巻取張力0.2g/dtexで巻き取り、SMカラーコンピュータ(スガ試験機製SM−3)を用いて2回測定し、平均値より求めた。
【0049】
H.ポリエステルおよび繊維中のアンチモン原子含有量測定
波長分散型蛍光X線分析装置(リガク製ZSX)を用いて、ピーク位置の回折角で元素同定、回折X線強度で定量した。分析には付属の半定量分析ソフト(SQX)を用いた。
【0050】
[製造例1](ポリブチレンテレフタレート(チタン系触媒)の製造)
1,4−ブチレングリコール1104g、テレフタル酸1132gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まず、テレフタル酸全量、1,4−ブチレングリコール750g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88g、モノブチルヒドロキシスズオキシド0.7gを精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃、400mmHgの条件下にエステル化反応を開始した後、徐々に昇温するとともに、残りの1,4−ブチレングリコールを連続的に添加した。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において250℃の温度で4時間重縮合反応を行った。
【0051】
[製造例2](ポリブチレンテレフタレート(アンチモン系触媒)の製造)
反応触媒としてチタンテトラ−n−ブトキシドの代わりに、ポリエステルの重合触媒として一般的な三酸化アンチモン0.45gを用いた以外は[製造例1]と同一とした。
【0052】
[製造例3](共重合PET(チタン系触媒)の製造)
エチレングリコール784g、テレフタル酸993g、イソフタル酸331gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まずテレフタル酸全量、イソフタル酸全量、エチレングリコール533g、酢酸カルシウム1.2g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88gを精留塔の付いた反応器に仕込み、130℃から235℃まで3時間で昇温し、エステル交換反応終了後、トリメリット酸メチル0.57gを添加する。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において240℃から285℃の温度で4時間重縮合反応を行なった。
【0053】
[製造例4](共重合PET(アンチモン系触媒)の製造)
反応触媒としてチタンテトラ−n−ブトキシドの代わりに、ポリエステルの重合触媒として一般的な三酸化アンチモン0.45gを用いた以外は[製造例3]と同一とした。
【0054】
[製造例5](ポリトリメチレンテレフタレート(チタン系触媒)の製造)
トリメチレングリコール935g、テレフタル酸1209gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まずテレフタル酸全量、エチレングリコール653g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88gを精留塔の付いた反応器に仕込み、130℃から210℃まで3時間で昇温し、エステル交換反応終了後、重縮合反応缶へ移し、真空下において220℃から250℃の温度で4時間重縮合反応を行なった。
【0055】
[製造例6](PET(チタン系触媒)の製造)
エチレングリコール784g、テレフタル酸1324gを用いてエステル化反応、次いで重縮合反応を行なった。まず、テレフタル酸全量、エチレングリコール533g、チタンテトラ−n−ブトキシド0.88gを精留塔の付いた反応器に仕込み、250℃、400mmHgの条件下にエステル化反応を開始した後、徐々に昇温するとともに、残りのブチレングリコールを連続的に添加した。次に重縮合反応缶へ移し、真空下において285℃の温度で重縮合反応を行った。
【0056】
[実施例1]
[製造例1]のポリブチレンテレフタレートと市販のポリビニルピロリドンK−30(BASF社、重量平均分子量5万)を、それぞれ90:10の割合でハンドブレンドし、二軸押出混練機(同方向2軸、軸径70mm、L/D50)にて混練した。なお、ポリブチレンテレフタレートは100℃、真空下で約5時間乾燥し、水分率を80ppmに調湿した。二軸押出混練機のジャケット温度を240℃、混練時の軸回転数を150rpmとして混練し、ダイから吐出後、水冷、ペレタイズした。このチップを、ホッパーから一軸押出機(シリンダ温度255℃)に仕込み、さらにギアポンプにて計量,排出し、内蔵された紡糸パック(温度260℃)に溶融ポリマーを導き、紡糸口金から紡出した。なお、紡糸パックの口金直上には絶対濾過径10μmのSUS不織布フィルター(不織布厚み:0.6mm)を組み込んだ。紡出後、温度20℃、速度0.4m/秒の冷却風で糸条を冷却固化し、給油装置により油剤を付与した。紡糸油剤にはポリエーテル系油剤15、水85の割合で混合した含水油剤を糸に対して7%付着させた(純油分として1.0%owf)。
さらに第1ロールにて紡糸速度1200m/分で引き取った後、第2加熱ロールの温度を50℃として1206m/分にて引き取り、さらに第3加熱ロールの温度を150℃として5050m/分にて延伸(延伸倍率:4.19倍)を行い、第4ロールにて周速度5050m/分にて糸条を冷却した後、巻取張力5.6g(0.1cN/dtex)、巻取速度5000m/分(弛緩率1.0%)で巻き取った。すなわち、紡糸後巻き取ることなく、連続して延伸した。得られたポリマーアロイ繊維から構成されるマルチフィラメントは、56デシテックス、24フィラメントであった。
得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島成分平均分散径は直径換算で100nmであった。また、得られた繊維の繊維物性および色調は良好であった。
【0057】
[実施例2]
ポリブチレンテレフタレートとポリビニルピロリドンの比率を95:5とした以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で90nmであった。得られた繊維は吸放湿性にやや劣るものの、物性および色調は良好であった。
【0059】
[
比較例9]
二軸押出混練機として、軸径50mm、L/D40のものを用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で400nmとやや大きかった。得られた繊維の物性および色調は実用上問題ないものであったが、長手方向の繊度斑がやや大きかった。
【0060】
[実施例5]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、[製造例3]の共重合PETを用い、第2加熱ロールの温度を90℃とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で100nmであった。得られた繊維の物性および色調は良好であった。
【0061】
[実施例6]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、[製造例5]のポリトリメチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で100nmであった。得られた繊維の物性および色調は良好であった。
【0062】
[実施例7]
原料として、[製造例1]のポリブチレンテレフタレートと[製造例2]のポリブチレンテレフタレートと市販のポリビニルピロリドンK−30(BASF社、重量平均分子量5万)を、それぞれ45:55:10の割合で用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維は灰色で、見た目がやや劣るものの実用可能なものであった。
【0063】
[実施例8]
ポリ(N−ビニルラクタム)として、ポリビニルピロリドンK−17(BASF社、重量平均分子量0.9万)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。混練後のペレタイズ時に、ポリビニルピロリドンが水中に溶出したため、実施例1に比べて得られた繊維の吸放湿性がやや低くなったものの、十分な吸放湿性を有していた。
【0064】
[
比較例10]
ポリ(N−ビニルラクタム)として、ポリビニルピロリドンK−80(BASF社、重量平均分子量85万)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。ポリビニルピロリドンの分子量が高いため、溶融紡糸時の紡糸パック内の圧力がやや高くなったものの、製糸性には問題ないレベルであった。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で330nmとやや大きかった。得られた繊維の物性および色調は実用上問題ないものであったが、長手方向の繊度斑がやや大きかった。
【0065】
[
比較例11]
ポリ(N−ビニルラクタム)として、ポリビニルピロリドンK−85(BASF社、重量平均分子量110万)を用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。ポリビニルピロリドンの分子量が高いため、溶融紡糸時の紡糸パック内の圧力がやや高くなったものの、製糸性には問題ないレベルであった。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で480nmとやや大きかった。得られた繊維の物性および色調は実用上問題ないものであったが、長手方向の繊度斑がやや大きかった。
【0066】
[実施例11]
紡糸油剤としてポリエーテル系油剤15、低粘度鉱物油85の割合で混合した非含水油剤を糸に対して7%付着させた(純油分として1.0%owf)後、第1ロールにて紡糸速度1200m/分で引き取った後、一旦巻き取った。この5日後、糸層が吸湿膨潤していないことを確認した後、延伸機にて、延伸温度50℃、熱セット温度150℃、延伸速度800m/分にて延伸(延伸倍率:4.19倍)した。これ以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の物性および色調は良好であった。
【0067】
[比較例1]
ポリビニルピロリドンを用いなかった以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維は非常に良好であったものの、吸放湿性が全くなかった。
【0068】
[比較例2]
ポリブチレンテレフタレートとポリビニルピロリドンの比率を70:30とした以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で150nmであった。得られた繊維の吸放湿性は非常に高かったものの、強度,タフネスが低く、長手方向の繊度斑が高いため、工程通過性が悪く、衣料としての耐久性も実用上問題となるものであった。
【0069】
[比較例3]
二軸押出混練機として、軸径30mm、L/D30のものを用いた以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。得られた繊維の横断面の島成分平均分散径は直径換算で600nmと非常に大きかった。得られた繊維は長手方向の繊度斑が非常に大きく、このため繊維物性もやや劣るものであり、工程通過性も悪かった。
【0070】
[比較例4]
ポリブチレンテレフタレートとして、[製造例2]のポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして紡糸を行なった。紡出したポリマーが黒く着色しており、紡糸時に酸のような刺激臭が発生し、発煙も多かったため、繊維を得るに至らなかった。
【0071】
[比較例5]
共重合PETとして、[製造例4]のポリマーを用いた以外は実施例5と同様にして紡糸を行なった。紡出したポリマーが黒く着色しており、紡糸時に酸のような刺激臭が発生し、発煙も多かったため、繊維を得るに至らなかった。
【0072】
[比較例6]
ポリブチレンテレフタレートの代わりに、[製造例6]のポリエチレンテレフタレートを用い、二軸押出機および一軸押出機のジャケット温度および紡糸パック温度を295℃、第2加熱ロール温度を90℃とした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。紡糸時にわずかに焦げ臭い異臭と煙の発生が見られたものの、繊維を得ることができた。得られた繊維は実用的な物性を持つものの、黄色い着色がみられ、実用に至るものではなかった。
【0073】
[比較例7]
紡糸油剤として実施例1の含水油剤を用いた以外は実施例6と同様にしてマルチフィラメントを得た。巻き取り開始後数分で、繊維の吸湿膨潤によるとみられる糸層破裂が起こり、長時間にわたり繊維を巻き取ることができなかった。延伸時も繊維の吸湿膨潤によるとみられる解舒不良が起こり、膨潤と解舒不良とによるとみられる長手方向の繊度斑が非常に大きくなった。
【0074】
[比較例8]
紡糸油剤として実施例1の含水油剤を用い、第1ロールでの紡糸速度3500m/分とした以外は実施例6と同様にして巻き取り、延伸せずに部分配向マルチフィラメントを得た。巻き取り開始後数分で、繊維の吸湿膨潤によるとみられる糸層破裂が起こり、長時間にわたり繊維を巻き取ることができなかった。延伸時も繊維の吸湿膨潤によるとみられる解舒不良が起こり、膨潤と解舒不良とによるとみられる長手方向の繊度斑が非常に大きくなった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】