(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記排水区間における前記開口部の総開口面積をAw、前記排水区間における前記排水用部材の投影面積をAtとすると、Aw≧0.004Atを満たすことを特徴とする請求項1に記載の排水機能付鋼材。
地盤から前記排水路に流入する水の流入量を多く期待できる地層に対応する流入区間における単位長さあたりの前記開口部の開口面積が、水の流水量を多く見込めない流入区間における単位長さあたりの前記開口部の開口面積より大きいことを特徴とする請求項3に記載の排水機能付鋼材。
【背景技術】
【0002】
軟弱な砂層地盤など地震時に液状化の発生が懸念される地盤上に構造物を構築する場合、もしくは既存の構造物に液状化対策を施す場合には、従来から各種工法が開発されている。
例えば、地盤が液状化しないように地盤強度(密度)を増大させる締固め工法(サンドコンパクションパイル工法など)、薬液注入などによる地盤改良工法などが幅広く適用されている。
しかし、同工法では周辺地盤をかなり広い領域にわたって対策する必要があるため用地確保が必要なことや、確実に効果を発揮するためには構造物直下地盤を改良することが肝要である。既設構造物への適用を考えた場合、一旦構造物を撤去し、地盤を改良した後に再び構造物を設置するか、構造物周辺地盤から構造物直下地盤の改良を施す必要がある。しかし、施工スペースの制限や、低騒音・低振動施工が求められるなど適用の制限を受けることが考えられる。さらに、対策工法や地盤の改良範囲によっては多大な工期、工費が必要となり非合理的となることも考えられる。
【0003】
このような問題を解決するための技術として特許文献1および特許文献2に記載の発明が知られている。
特許文献1に記載の発明は、矢板本体の長手方向に沿った所定区間に、多数の開口部と該開口部からの地盤の土砂の浸入を防ぐためのフィルターを備えた排水用部材を1条または複数条、少なくとも前記矢板本体の片面に設けたことを特徴とする。
また、特許文献2に記載の発明は、矢板本体に該矢板本体の長手方向に沿った排水路を形成する排水用部材を1条または複数条、該矢板本体の所定区間に設け、該排水用部材に多数の孔(開口部)を穿設し、軸方向に貫通孔を有し該貫通孔内にフィルターを設けてなる栓を、前記排水用部材に穿設した前記各孔に取付けたことを特徴とする。
このような発明では、排水用部材を取り付けた矢板を打設するようにしているため施工時間の短縮が可能であり、効果的かつ経済的である。
【0004】
【特許文献1】特開平02−225712号公報
【特許文献2】特開平04−289315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、地盤から排水用部材内に流入した水は、当該排水用部材内の排水路を通り排水用部材の上端部に設けられた排水区間から排水される。したがって、排水区間での排水量が十分でないと、地震により地盤の過剰間隙水圧が高まっている状態で時々刻々と地盤から排水用部材へ流入する水を排水区間から十分に排水できなくなり、排水効果が十分に発揮されないという問題がある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、排水効果を十分に発揮できる排水機能付鋼材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の排水機能付鋼材は、鋼材に、当該鋼材との間に排水路を形成する排水用部材が前記鋼材の長手方向に沿って設けられ、
前記排水用部材に水を流通可能とする複数の
円形の開口部が2列設けられ、これら開口部に当該開口部から前記排水路への土砂の侵入を防ぐためのフィルターが設けられた排水機能付鋼材であって、
前記排水用部材がその長手方向に複数の区間に分けられており、
前記排水路から地盤に排水する排水区間における単位長さあたりの前記開口部の開口面積が、前記地盤から前記排水路に流入する流入区間における単位長さあたりの前記開口部の開口面積より大きくなっており、
前記排水区間における前記開口部の総開口面積が、前記排水路の通水断面積以上であ
り、
前記排水区間の深度方向の区間長さをXとすると、以下の式を満たすことを特徴とする。
【数1】
但し、
Ac:排水用部材の通水断面積
p:開口部の深度方向ピッチ
D:開口部の径
H:液状化層厚
【0008】
本発明においては、排水路から地盤に排水する排水区間における単位長さあたりの開口部の開口面積が、地盤から排水路に流入する流入区間における単位長さあたりの開口部の開口面積より大きくなっているので、地震時に過剰間隙水圧が高まって、液状化層から排水用部材に流入する水が排水路を通って前記排水区間から十分に排水される。
また、排水区間における前記開口部の総開口面積が、排水路の通水断面積以上であるので、地盤から排水用部材内に流入し、排水路を通った水は排水区間から十分に排水される。
このように、流入区間から排水用部材内に流入し、排水路を通った水を排水区間から十分に排水できるので、排水効果を十分に発揮できる。
【0009】
本発明の上記構成において、前記排水区間における前記開口部の総開口面積をAw、前記排水区間における前記排水用部材の投影面積をAtとすると、
Aw≧0.004Atを満たすのが好ましい。
【0010】
ここで、排水区間に充填される水が外部へ排水される場合、排水されるのは排水区間における開口部(総開口面積Aw)からであり、排水区間における排水用部材の投影面積(At)全てから排水される場合に比べて排水流量が少なくなる。これは、総開口面積Awが排水用部材の投影面積Atに占める排水面積比(開口率)α(=Aw/At)が支配的であるからである。
開口率が0.4%程度あれば、鋼板が無い場合の流量の約90%程度が通水される結果が得られており、開口率20%程度あれば、ほぼ100%に近い通水結果が得られている。
これらより、排水区間の排水面積比(開口率)α(=Aw/At)は、α≧0.4%であることが望ましい。すなわち、排水区間には、Aw≧0.004Atを満足する開口部を設けることが好ましい。さらには、0.20At≧Aw≧0.004Atを満足する開口部を設けることが好ましく、0.10At≧Aw≧0.01Atを満足する開口部を設けることがより好ましい。
【0011】
このような構成によれば、排水区間における開口部の総開口面積を適切な値に設定でき、この結果、排水効果を十分に発揮しながら、開口部を開ける加工コストを軽減できる。
【0012】
また、本発明の上記構成において、地盤の地層が複数層に分かれている場合において、
前記排水用部材の流入区間が複数存在し、
各流入区間が前記複数層の各層に対応させて設けられているのが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、地盤の各層に合わせて、適切な流入区間を設けることができるので、地盤に合わせた適切な排水用部材を使用できる。
つまり、地層が複数層で構成され、液状化層も複数層に分かれている場合、透水係数など地盤特性が異なることで水の流入量に差異が生じるが、地盤の各層に合わせて、適切な流入量の流入区間を設けることによって、地盤に合わせた適切な排水用部材を使用できる。
例えば、必要排水性能(流入性能)を地盤の各層毎に得るために、排水用部材長手方向に一様な開口部を有する流入区間を設けようとすると、最も流入量が期待できない条件の地盤の層に設置する排水区間に統一する必要があり不経済、不適切となるが、本発明では地盤に合わせた適切な流入区間を有する排水用部材を使用できる。
【0014】
また、本発明の構成において、地盤から前記排水路に流入する水の流入量を多く期待できる地層に対応する流入区間における単位長さあたりの前記開口部の開口面積が、水の流水量を多く見込めない流入区間における単位長さあたりの前記開口部の開口面積より大きいのが望ましい。
【0015】
このような構成によれば、排水用部材の多くの流入量が必要な流入区間に、開口部を密に、必要性の低い流入区間に、開口部を疎に配置することが可能であり、排水性能と加工コストのバランスが良好になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流入区間から排水用部材内に流入し、排水路を通った水を排水区間から十分に排水できるので、排水効果を十分に発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1および
図2は本実施の形態にかかる排水機能付鋼材を示すもので、
図1は斜視図、
図2(a)は正面図、
図2(b)は横断面図、
図2(c)は排水機能付鋼材を地盤に設置した状態を模式的に示す図、
図2(d)は排水用部材の横断面図である。
【0019】
排水機能付鋼材1は、鋼矢板として使用されるもので、鋼材(矢板)2と、この鋼材2に当該鋼材2の長手方向に沿って所定区間に設けられた排水用部材3とを備えている。なお、
図2(a)においては排水機能付鋼材1の長さを実際のものに比して短く図示している。したがって、実際の排水機能付鋼材1では、後述する流入区間16が上下に長くなっている。
鋼材2はU形鋼矢板であり、ウェブ2aと、ウェブ2aの両側縁からそれぞれ互いに広がるように斜めに延出する一対のフランジ2bと、左右のフランジ2bの先端からウェブ2aと平行に左右に延出する一対のアーム2cと、アーム2cの先端に設けられた継手2dとを備えている。
【0020】
排水用部材3は溝形鋼で形成された横断面コ字形のものであり、そのフランジ3b,3bが排水用部材3のウェブ2aに溶接によって固定されている。これによって、排水用部材3と鋼材2との間に排水路4が排水用部材3の長手方向に沿って形成されている。
なお、排水用部材3はウェブ2aの幅方向中央部に固定されている。
【0021】
排水用部材3のウェブ3aには、水を流通可能とする多数の開口部5が設けられている。この開口部5は円形状のものであり、当該開口部5には、
図3に示すように、軸方向に貫通孔6dを有し該貫通孔6d内にフィルター7およびフィルター防護部材8を内設した栓6が取付けられている。
すなわち、栓6は、軸部6a、栓離脱防止部6b,6c、およびフィルター防護部材8から構成され、軸部6aに軸方向に貫通する貫通孔6dが形成されている。そして、その貫通孔6dにフィルター防護部材8が設けられ、このフィルター防護部材8の内面側に通水性を有するフィルター7が取り付けられている。フィルター防護部材8は栓6の軸部6aと一体的に設けられているのが望ましく、このフィルター防護部材8には通水性を確保するため、多くの小孔が設けられている。
【0022】
前記排水用部材3の下端部には、
図1および
図2(a)に示すように、排水機能付鋼材1の施工時に土砂の侵入を防ぎ、貫入性を増すために、先端部材9が取り付けられている。この先端部材9は、下方に向かうほど鋼材2のウェブ2aに近づくように、排水用部材3のウェブ3aに対して傾斜した傾斜板9aと、この傾斜板9aの両側縁部とウェブ2aとの間に設けられて、当該間を塞ぐ三角形板9bとから構成されている(
図1参照)。
また、排水機能付鋼材1の施工時に栓6の損傷を避けるため、排水用部材3の下端部には、フィルター保護プレート10が取り付けられている。このフィルター保護プレート10は、矩形板状のものであり、その上面はフィルター7が設けられた栓6の上面より突出している。これによって、排水機能付鋼材1の施工時に土砂が栓6の上面に干渉するのを防止している。
また、排水用部材3の上端部には、その上端開口を塞ぐ蓋部材11が取り付けられている(
図1参照)。
【0023】
前記排水用部材3はその長手方向に複数の区間に分けられている。すなわち、
図2(a)に示すように、排水用部材3は、排水路4から地盤に排水する排水区間15と、地盤から水が排水路4に流入する流入区間16とに分けられている。
排水区間15においては、多数の開口部5が密に配置されており、流入区間16においては、多数の開口部5が疎に配置されている。
すなわち、排水区間15における単位長さあたり(排水用部材3の長手方向における単位長さあたり)の開口部5の開口面積が、流入区間16における単位長さあたり(排水用部材3の長手方向における単位長さあたり)の開口部6の開口面積より大きくなっている。つまり、排水区間15における単位長さあたりの複数の開口部5の開口面積の総和が、流入区間16における単位長さあたりの複数の開口部6の開口面積の総和より大きくなっている。
したがって、地盤から排水用部材3の排水路4に流入する水が排水路4を通って排水区間15から十分に排水されることになる。
なお、排水区間15および流入区間16のいずれにおいても、開口部5は排水用部材3の長手方向(
図2(a)において上下方向)に沿って、かつ横方向に2列平行に配置されている。
【0024】
排水機能付鋼材1は、地震時に過剰間隙水圧が高まることで、液状化層から排水用部材に流入する水が排水用部材上部から排水される構造である。この時、
図2(c)に示すように、排水区間15の周囲には通水性の良い単粒度砕石層Sが設けられることが多い。
排水区間15は、地中部から流入した水が十分に排水されるだけの開口面積が必要であり、その区間を網羅するように単粒度砕石層Sを設置する必要がある。
この時、砕石を設置する費用を考えると、出来る限り単粒度砕石層Sの厚さを薄くする方が材料・施工面で経済性に優れる。それには、できるだけ排水用部材上部に近い排水区間15に面積の大きい開口部を設けることが効果的である。
開口面積を向上させる構造としては、開口部の断面積を大きくする方法や、開口部の長手方向ピッチを狭くする方法、排水用部材3のウェブ3aに加えてフランジ3bにも開口部を設ける方法等がある。また、開口部は円形や楕円形、矩形のものなど開口部の形状は限定されない。
【0025】
また、本実施の形態の排水機能付鋼材1においては、排水区間15における開口部5の総開口面積Awが、排水路4の通水断面積Ac以上になっている。
ここで、
図2(d)に示すように、通水断面積Acは横断面コ字形の排水用部材3の内側断面積(流路断面積)であり、排水区間15の総開口面積Awは排水区間15に設けられた複数の開口部5の総開口面積である。
流入区間16において、地盤から排水用部材3の排水路4に流入した水は、排水路4を通り排水区間15から排水される。この時、排水区間15の総開口面積Awが、排水路4の通水断面積Acよりも小さいと、流入した水が排水用部材3の外側へ排水されないことになる。これは、地震により地盤の過剰間隙水圧が高まっている状態に時々刻々と地盤から排水用部材3の排水路4へ流入する水が、排水性能に応じた水量に達しないことを示しており、排水効果がフルに発揮されないことが懸念される。
そのため、排水区間15における総開口面積Awは少なくとも通水断面積Acよりも大きいこと(Aw≧Ac)が、期待する排水性能を発揮する上では必要である。
【0026】
ここで,排水用部材3の幅W、高さh、板厚t(一定)と仮定し、開口部5を直径Dの円形,もしくはl
1、l
2を2辺とする矩形と仮定すると、開口孔の直径Dもしくはl
1、l
2は以下の式を満たすことが必要となる。
【0028】
また、前記排水用部材3では、上述したように、排水区間15における開口部5の総開口面積をAw、排水区間15における排水用部材3の投影面積(以下、部材投影面積という)をAtとすると、Aw≧0.004Atを満たしている。
ここで、排水区間15における排水用部材3の投影面積とは、
図4に示すように、排水区間15における排水用部材3のウェブ3aの表面積のことをいう。また、ウェブ3aに加えてフランジ3bにも開口部5が形成されている場合、排水区間15におけるフランジ3bの表面積をウェブ3aの表面積に加えた面積のことをいう。
【0029】
排水区間15に充填される水が外部へ排水される場合、排水されるのは排水区間15に存在する複数の開口部5(総開口面積Aw)からであり、部材投影面積(At)全てから排水される場合に比べて排水流量が少なくなる。これは、総開口面積Awが部材投影面積Atに占める排水面積比α(=Aw/At)が支配的であるからである。
ここで、透水孔が設けられた鋼板の左右に水位差を設けた条件で浸透流解析を行い、鋼板の開口率が通水流量に与える影響を調べた調査結果を以下に示す。
【0030】
すなわち、
図5に示すグラフに示すように、開口率が0.4%程度あれば、鋼板が無い場合の流量の約90%程度が通水される結果が得られており、開口率5%程度あれば、ほぼ100%に近い通水結果が得られている。なお、前記グラフにおいては、プロット点の割線を記載し、勾配変化点を0.4%(0.004)としている。
これらにより、排水区間15の排水面積比α(=Aw/At)は、α≧0.4%であることが望ましく、排水区間15には、Aw≧0.004×Atを満足する開口部5を設けることが望ましい。
【0031】
また、同様の解析で、同じ開口率でも、開口部の配置が密な方が、疎に配置するよりも通水量が増加する知見が得られている。これは、例えば、開口部が円形の場合を仮定し、排水用部材の幅方向に2列の円形開口部を密に設ける場合と、一つの開口部が大きく1列に配置するがピッチが疎である、もしくは、同2列に配置し一つの開口部が大きいがピッチが疎である場合とを比較すると、2列の円形開口部を密に配置する方がより排水量を確保できることを示唆しており、このような形態が望ましい。
【0032】
また、地盤中で地震時に土圧や水圧が排水用部材に作用することを考えた場合,耐圧性の観点から,一つの開口部の開口面積が大きすぎると開口部のフィルターが損傷することが懸念される。
一方、開口部が小さすぎると、必要排水面積を確保するには多数の開口部を設ける必要があり、加工コストの面で経済性に劣る。これらより、最適な実施形態としては、2列の開口孔を密に配置することが望ましい。
この時、排水用部材の幅Wと開口部の直径D(円形の場合)の関係は、W≧2Dを満たすことが望ましい。これは、W<2Dの場合,2列に並ぶ開口部がラップすることになり、開口部の加工コストに対する排水面積が低下することや、開口部に設置するフィルター形状が非常に歪になり、加工コストが増大し、耐圧性の観点からも劣る。そのため、W≧2Dを満足する排水用部材3および開口部5であることが望ましい。
【0033】
排水区間の深度方向(上下方向)の範囲については、地震時に地盤が液状化し体積圧縮が生じ地盤が沈下することを考慮して余裕長を設けることが望ましい。以下に、一例として、排水用部材3に2列の円形の開口部5を設け排水フィルター(フィルター7を有する栓6)が設置される排水機能付鋼材の場合の、排水区間の深度方向の範囲の目安を記載する。
【0034】
ここで、排水用部材の通水断面積Ac(=(W−2
t)・(h−t))
W:排水用部材の幅,h:排水用部材の高さ,t: 鋼製チャンネルの板厚,
排水フィルターの深度方向ピッチ(開口部の深度方向ピッチ):p
開口部の径:D
液状化層厚:H
排水用部材の深度方向区間長さ:X
と定義する。
最適な排水区間範囲は以下で示される。
【0036】
図6に示すように、排水用部材3の排水区間15の開口部5の総開口面積Awは、Aw=π・(D/2)
2 ×n×2となる(n:開口部段数(開口部の深度方向における個数)、「×2」:2列あることを意味する)。
上述したように、排水区間15の総開口面積Awは通水断面積Acよりも大きいことが望ましく、Aw=Ac=π・(D/2)
2×n×2が成り立つ。
開口部5を排水用部材3の天端(上端)から排水フィルターがそれぞれラップしないように配置することを考えると、最小範囲Xとしては開口部の径Dが2列×n段並ぶことになるので、
X=Ac/(2π・(D/2)
2)×D=2Ac/(π・D)となる。
【0037】
排水区間15はこれ以上(X以上)であることが望ましいが、区間が長いほど排水区間に設ける砕石層が厚くなり施工コストの増加に繋がるので範囲の上限を設ける。
図7に示すように、開口孔径D,長手方向のピッチp,孔段数n(=Ac(2π・(D/2)
2))とすると,排水区間は、
X=(Ac/(2π・(D/2)
2))・p=(2Ac/(π・D
2))・pとなる。
また,地盤が液状化し体積圧縮することで地盤が沈下することについて,液状化層厚の5%程度のひずみが生じることが知られている。これを考慮して、液状化層厚Hの5%である、0.05H分は安全しろとして排水区間を設定しても良い。
これを上限とすると、X=2Ac/(π・D
2)・p+0.05Hと考えられる。
【0038】
また、本実施の形態の排水機能付鋼材では、地盤の地層が複数層に分かれている場合において、排水用部材3の流入区間16が複数存在し、各流入区間16が複数層の各層に対応させて設けられているのが望ましい。
【0039】
すなわち、排水機能付鋼材1は、地震時に鋼材周辺の過剰間隙水圧を消散させる効果を保有する。
この時、地層が複数層で構成され、液状化層も複数層に分かれるとみなす場合、透水係数など地盤特性が異なることで排水効果に差異が生じる。
分かれた層毎に同様の排水性能を得るには必要な開口面積が異なるため、排水用部材に設ける開口部を排水用部材3の長手方向に変化させることで効果的な配置が可能となる。
【0040】
例えば、
図8に示すような液状化性地盤(液状化層L1,L2)上に設置される地中構造物Kの液状化対策を考える場合、排水機能付鋼材1と地中構造物Kの間の地盤の液状化を抑制することが、地中構造物Kの変状抑制には効果的である。このエリアAの排水効果は、地盤の透水係数や体積圧縮係数といった地盤条件と、地震動の強さ、継続時間などの地震動条件と、地盤から排水用部材3へ水が流入する孔面積(流入区間における開口部の面積)に依存する。そのため、必要排水性能を各層毎に得るために、排水用部材3の長手方向に一様な孔面積を設置しようとすると、最も排水効果(流入効果)が期待できない条件の層に設置する開口部に統一する必要があり不経済である。これらにより、排水用部材3に設ける開口部を排水用部材3の長手方向に変化させて配置することが非常に効果的である。
【0041】
したがって、本実施の形態では、地盤の地層が例えば、液状化層L1,L2の2つの層に分かれている場合に、排水用部材3の流入区間16が2つ存在し(
図8において16a,16bで示す)、各流入区間16a,16bが2つの液状化層L1,L2に対応して設けられている。なお、L3は非液状化層を示す。
この場合、液状化層L1に対応する流入区間16aにおける開口部の大きさ、形状、配置と、液状化層L2に対応する流入区間16bにおける開口部の大きさ、形状、配置を異ならせるようにする。
1つの液状化層に対応する流入区間16の開口部5の形状、配置は、一様な排水効果を発揮する観点から、統一されていることが望ましい。
【0042】
前記のように、地盤の地層が複数層に分かれており、排水用部材3の各流入区間16を複数層の各層に対応させて設ける場合、地盤から排水路4に流入する水の流入量を多く期待できる地層に対応する流入区間16における単位長さあたりの開口部5の開口面積が、水の流水量を多く見込めない流入区間16における単位長さあたりの開口部5の開口面積より大きいのが望ましい。
【0043】
例えば、
図9に示すように、透水係数が比較的良く多くの排水量(地盤から排水路4に流入する水の流入量)が期待できる流入区間16cにおいては、単位長さあたりの開口部5の開口面積を大きくし、逆に、透水係数が悪く多くの排水量が望めない流入区間16dにおいては、単位長さあたりの開口部5の開口面積を小さくする、もしくは開口部を設けないのが望ましい。
また、
図10に示すように、開口部5は円形のものや楕円形、矩形のものなど開口部5の形状は限定されず、一つの流入区間16における開口部5の形状は統一されていなくても良い。
【0044】
また、排水用部材3の全ての流入区間16に同一の排水性能(流入性能)を求めたい場合、
図11に示すように、透水係数の良好な流入区間16cにおいては、単位長さあたりの開口部5の開口面積を小さくし、逆に、透水係数が悪く多くの排水量が望めない流入区間16dにおいては、単位長さあたりの開口部5の開口面積を大きくする。
【0045】
以上のように本実施の形態によれば、排水用部材3の排水区間15における単位長さあたりの開口部5の開口面積が、流入区間16における単位長さあたりの開口部5の開口面積より大きくなっているので、地震時に過剰間隙水圧が高まって、液状化層から排水用部材3に流入する水が排水路4を通って排水区間15から十分に排水される。
また、排水区間15における開口部5の総開口面積が、排水路4の通水断面積以上であるので、地盤から排水用部材3内に流入し、排水路4を通った水は排水区間15から十分に排水される。
このように、流入区間16から排水用部材3内に流入し、排水路4を通った水を排水区間15から十分に排水できるので、排水効果を十分に発揮できる。
【0046】
また、排水区間15における開口部5の総開口面積をAw、排水区間15における排水用部材3の投影面積をAtとすると、Aw≧0.004Atを満たしているので、排水区間15における開口部5の総開口面積Awを適切な値に設定でき、この結果、排水効果を十分に発揮しながら、開口部5を開ける加工コストを軽減できる。
さらに、排水用部材3の流入区間16が複数存在し、各流入区間16(16a,16b)が複数層の各層L1,L2に対応させて設けられているので、地盤の各層に合わせて、適切な流入区間16を設けることができ、よって、地盤に合わせた適切な排水用部材3を使用できる。
【0047】
加えて、地盤から排水路4に流入する水の流入量を多く期待できる地層に対応する流入区間16cにおける単位長さあたりの開口部5の開口面積が、水の流水量を多く見込めない流入区間16dにおける単位長さあたりの開口部5の開口面積より大きいので、排水用部材3の多くの流入量が必要な流入区間16cには、開口部5を密に、必要性の低い流入区間16dには、開口部5を疎に配置することが可能であり、排水性能と加工コストのバランスが良好になる。
【0048】
なお、本実施の形態では、本発明をU形鋼矢板である鋼材2の凹部側の面に、排水部材3を設けた場合を例にとって説明したが、本発明はこれに限ることなく、鋼材2の凸部側の面に排水部材3を設けてもよいし、排水用部材3は鋼材2に複数設けてもよい。
また、鋼材としても、U形鋼矢板に限ることなく、ハット形矢板、鋼管矢板、鋼管杭、H形鋼、さらにはこれら組み合わせた鋼材であってもよい。