(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  前記のような多心ケーブルには、電線束の種類を識別することができるように、
図13に示すように、各電線束91に識別テープ92が巻き付けられているものがある。しかし、この識別テープ92が多心ケーブルの寿命に影響を与えることがある。
  すなわち、識別テープ92は、電線90のばらけ防止を目的として電線90の撚り方向と反対方向に螺旋状となって各電線束91に巻き付けられているが、この識別テープ92は、例えば樹脂製からなり伸縮性に乏しいことから、
図15に示すように、多心ケーブルの湾曲により電線束91が湾曲すると、この湾曲範囲に含まれる識別テープ92に張力が生じることがある。
【0007】
  そして、電線束91が湾曲すると、前記のとおり、部分的に電線90が横方向に飛び出そうとし、張力が生じている識別テープ92によってこれが拘束された場合、この電線90に局所的に強い曲げが発生する。これは、識別テープ92の撚り方向が電線90の撚り方向と反対であることから、飛び出そうとする電線90のうち識別テープ92と接触する範囲は部分的となるためである。このような強い曲げが電線90に繰り返し発生すると、想定されている寿命よりも実際の寿命が短くなることがある。
【0008】
  また、多心ケーブルの寿命に大きな影響を与える要因として、前記のような識別テープ92の他に、電線束91自体の構成によるものがある。
  すなわち、多心ケーブルが湾曲し、部分的に電線90が横方向に飛び出そうとすると、前記のとおり電線束91は複数本の電線90が撚られて構成されていることから、電線同士が絡み合ってこの飛び出そうとする電線90を拘束する。このため、飛び出そうとする電線90の一部に局所的な強い曲げが発生する場合がある。このような強い曲げが電線90に繰り返し発生すると、想定されている寿命よりも実際の寿命が短くなることがある。
【0009】
  このように、各電線束91において、電線90が識別テープ92によって拘束されたり、他の電線と絡み合ったりすることで、多心ケーブルの寿命が短くなることがある。
  そこで、本発明は、複数本の電線を纏めて構成した多心ケーブルの寿命が低下するのを抑制することを目的とする。
 
【課題を解決するための手段】
【0010】
  (1)本発明は、複数本の電線を撚って構成した電線束を複数備え、これら電線束が一体として湾曲するとこれら電線束が横断面において偏平化する多心ケーブルであって、前記電線の撚り方向と同方向に螺旋状となって当該電線束に巻かれている線状部材を備えていることを特徴とする。
【0011】
  前記のとおり、識別テープのような線状部材が電線束に対して電線の撚り方向と反対の方向に螺旋状に巻かれていると、電線束の湾曲によって飛び出そうとする電線のうち線状部材と接触する範囲は部分的となり、局所的に強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、本発明によれば、線状部材は、電線の撚り方向と同方向に螺旋状となって電線束に巻かれていることから、線状部材は電線の長手方向に沿いやすくなり、線状部材は電線に広い範囲で接触し、局所的な強い曲げが電線に生じ難くすることが可能となる。このため、電線の寿命、すなわち、多心ケーブルの寿命が線状部材によって短くなるのを抑制することができる。
【0012】
  (2)また、本発明は、複数本の電線を撚って構成した電線束を複数備え、これら電線束が一体として湾曲するとこれら電線束が横断面において偏平化する多心ケーブルであって、前記電線の撚り方向と反対方向に螺旋状となって当該電線束に巻かれている線状部材を備え、前記線状部材の撚りピッチが、以下の式の関係を満たすように設定されていることを特徴とする。
    Pt/2>γ×H
        但し、Ptは、線状部材の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
【0013】
  前記のとおり、多心ケーブルが湾曲することにより、電線束に含まれる電線が横方向に飛び出そうとする。そして、この飛び出そうとする電線が、張力の生じている識別テープのような線状部材によって拘束されると、この電線に局所的に強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、本発明のように、前記式の関係を満たすように線状部材の撚りピッチが設定され、その撚りピッチを大きくすることにより、多心ケーブルが湾曲しても、線状部材には張力が生じ難くなる。このため、横方向に飛び出そうとする電線は線状部材によって拘束され難くなり、この電線に局所的な強い曲げが生じるのを防ぐことができる。この結果、電線の寿命、すなわち、多心ケーブルの寿命が線状部材によって短くなるのを抑制することができる。
【0014】
  (3)また、本発明は、複数本の電線を撚って構成した電線束を複数備え、これら電線束が一体として湾曲するとこれら電線束が横断面において偏平化する多心ケーブルであって、前記電線の撚りピッチが、以下の式の関係を満たすように設定されていることを特徴とする。
    Pc/2>γ×H
        但し、Pcは、電線の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
【0015】
  前記のとおり、多心ケーブルが湾曲することにより、電線束に含まれる電線が横方向に飛び出そうとすると、電線同士が絡み合ってこの電線を拘束する。このため、この飛び出そうとする電線の一部に局所的な強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、本発明のように、前記式の関係を満たすように電線の撚りピッチが設定され、その撚りピッチを大きくすることにより、電線同士の絡み合いによる電線の拘束が生じ難くなる。この結果、局所的な強い曲げが電線に生じ難くすることが可能となり、電線の寿命、すなわち、多心ケーブルの寿命が短くなるのを抑制することができる。
【0016】
  (4)また、前記(1)に記載の多心ケーブルにおいて、前記線状部材の撚りピッチが、以下の式の関係を満たすように設定されているのが好ましい。
    Pt/2>γ×H
        但し、Ptは、線状部材の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
  この場合、前記(2)に記載したのと同様に、線状部材には張力が生じ難くなる。このため、横方向に飛び出そうとする電線は線状部材によって拘束され難くなり、この電線に局所的な強い曲げが生じるのをより一層効果的に防ぐことが可能となる。
【0017】
  (5)また、前記(1)(2)及び(4)のいずれか一項に記載の多心ケーブルにおいて、前記電線の撚りピッチが、以下の式の関係を満たすように設定されているのが好ましい。
    Pc/2>γ×H
        但し、Pcは、電線の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
  前記のとおり、多心ケーブルが湾曲することにより、電線束に含まれる電線が横方向に飛び出そうとすると、電線同士が絡み合ってこの電線を拘束する。このため、この飛び出そうとする電線の一部に局所的に強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、前記式の関係を満たすように電線の撚りピッチが設定され、その撚りピッチを大きくすることにより、電線同士の絡み合いによる電線の拘束が生じ難くなる。この結果、電線に局所的な強い曲げが生じるのをより一層効果的に防ぐことが可能となる。
 
【発明の効果】
【0018】
  本発明によれば、局所的な強い曲げが電線に生じ難くすることが可能となり、電線の寿命、すなわち、多心ケーブルの寿命が短くなるのを抑制することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0020】
  以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔1.  多心ケーブルについて〕
  
図1は、本発明の多心ケーブル7の説明図である。多心ケーブル7は、例えば数十本以上の電線10を纏めて構成したものであり、本実施形態では、複数本の電線10を撚って構成した電線束20を複数備えている。そして、これら電線束20を一纏めにして電線集合体30とし、この電線集合体30は筒状のシース40により覆われている。
 
【0021】
  本実施形態の多心ケーブル7は内視鏡用のケーブルとして用いられ、このために、多心ケーブル7は柔軟性を有している必要がある。そこで、シース40は、柔軟性を有するチューブ(例えば、シリコンゴムなどの弾性体)により構成されている。さらに、
図2(A)に示すように、電線集合体30とシース40との間には環状の空間(隙間)8が設けられており、各電線束20の自由な湾曲がシース40によって抑制されないように構成されている。
 
【0022】
  このような多心ケーブル7を所定の曲率半径で湾曲させると、
図2(B)に示すように、横断面においてシース40が偏平化(楕円化)すると共に、電線集合体30も偏平化する。つまり、
図2(A)の状態から(B)の状態へと変化するように、複数の電線束20の配置が元の円形状態から崩れて偏平した状態となる。
  なお、本発明の説明において、多心ケーブル7を所定の曲率半径で湾曲させた場合に、この多心ケーブル7に含まれる複数の電線束20のうち、最も径方向内側に位置する電線束20(
図2(B)では20b)の曲率半径を「R」とする。
 
【0023】
  更には、各電線束20に含まれる電線10は撚られていることから(
図1参照)、各電線束20に含まれている電線同士が絡み合い、多心ケーブル7を湾曲させると、この絡み合いが原因となって部分的に電線10が横方向に飛び出すことがある。なお、横方向とは、電線束20の長手方向に交差する方向(直交する方向)である。
 
【0024】
  以上のように、本発明の多心ケーブル7は、複数本の電線10を撚って構成した電線束20を複数備えており、これら電線束20が一体として湾曲すると、これら電線束20が横断面において偏平化すると共に、各電線束20において、電線10が部分的に横方向に飛び出すことがある。すなわち、本発明の多心ケーブル7は、電線集合体30(電線束20)が硬質の樹脂等によって隙間無く被覆されるものではなく、湾曲の際に電線集合体30が偏平化しないケーブルとは異なり、また、湾曲の際に、電線10が飛び出すことが無いケーブルとは異なる。
 
【0025】
  また、
図1に示す多心ケーブル7は、電線束20の種類を識別するために、電線束20毎に線状部材が巻きつけられている。本実施形態の線状部材は、電線束20毎に色が異なる識別テープ(識別線部材)9であり、この識別テープ9は、電線10以外の線部材である。なお、識別テープ9は、図示しないが、横断面が平坦形状や円形等であってもよく、また、複数の素線が一つに集められて(編まれて)構成した線部材であってもよい。本実施形態の識別テープ9は、横断面が平坦形状であり、その幅方向の寸法は、電線10の直径よりも大きいが、その直径の3倍の寸法よりも小さい。
  なお、
図3に示すように、多心ケーブル7には、識別テープ9が存在していないものもある。
 
【0026】
  〔1.1  電線の寿命低下について(識別テープ無しの場合)〕
  
図3に示すように、複数本の電線10を撚って束ねた電線束20を複数備えている多心ケーブル7は、各電線束20の湾曲を抑制しないように、これら電線束20からなる電線集合体30とシース40との間に空間8が設けられている。このような多心ケーブル7が湾曲すると(
図2参照)、電線集合体30が全体として偏平化すると共に、各電線束20において、電線10が部分的に横方向に飛び出す。特に線長が余る径方向内側に位置する部分で電線10は横方向に飛び出す。
 
【0027】
  ここで、
図4(A)に示すように、仮に電線束20に含まれる電線10が撚られていない場合、電線10同士が絡み合うおそれがない。このため、多心ケーブル7が湾曲して電線束20が湾曲しても、この電線束20に含まれる電線10は横方向に自由に広がることができるので、電線束20とほぼ同じ曲率半径により電線10も湾曲する。なお、
図4(A)及び後に説明する
図4(B)では、一つの電線束20に含まれる代表的な二本の電線10のみを示している。
 
【0028】
  しかし、本実施形態では、電線束20に含まれる複数の電線10は撚られており、湾曲の有無に関わらず電線同士が絡まった状態にある。そして、電線10の撚りピッチPc(
図3参照)以上の範囲で、電線束20が一定の曲率半径で湾曲したとする。なお、電線10の撚りピッチPcとは、電線10が360°回転するのに要する距離(電線束20に沿った長手方向の距離)のことである。
  この場合、
図4(B)に示すように、電線同士の絡み合いが原因となって、この電線束20に含まれている電線10が部分的に横方向に飛び出そうとするが、その際、この電線10には、電線束20の前記一定の曲率半径による湾曲以外に、この湾曲の方向とは異なる方向の曲げ(以下、「横曲げ」ともいう)が加えられる。すなわち、電線10の曲率Kには、電線束20の前記一定の曲率半径による湾曲に基づく曲率Kbの他に、横曲げに基づく曲率Kcが更に加えられる。
 
【0029】
  前記一定の曲率半径による湾曲に基づく曲率Kbに、横曲げに基づく曲率Kcを合成した曲率Kは、次の式(1)により表される。
【数1】
 
 
【0030】
  以上のように、多心ケーブル7内で、ケーブル湾曲時に電線同士が絡み合うことにより電線10には強い曲げが発生する。なお、「強い曲げ」とは、曲率半径が小さい曲げ(曲率が大きな曲げ)を意味する。例えば、多心ケーブル7を通常の仕様に従って使用して湾曲させた場合の曲率半径よりも、小さい曲率半径を有する曲げである。
 
【0031】
  そして、一般的に、電線の曲率Kと電線の寿命Nとの間には次の式(2)に示す関係がある。すなわち、曲率Kが大きくなると寿命Nは低下する。
【数2】
 
 
【0032】
  そこで本発明の各実施形態に係る多心ケーブル7は、寿命の低下をできるだけ抑制することを目的として、曲率Kを可能な限り小さくするための構成を備えている。
 
【0033】
  ここで、前記曲率Kb、Kcについて説明する。
  多心ケーブル7を湾曲させた際の電線束20の曲率半径をRとした場合、電線束20の湾曲に基づく曲率Kbは、次の式(3)により表される。
【数3】
 
 
【0034】
  そして、電線束20に含まれる電線10が、他の電線と絡み合うことにより、その電線10上の2点で拘束された場合に、この2点(拘束点)の間隔(拘束間隔)をXとし、電線10の圧縮率をβとすると、横曲げに基づく曲率Kcは、次の式(4)により表される。なお、以下において、前記間隔Xを拘束間隔とも呼び、この拘束間隔Xは、電線束20の長手方向に沿った長さである。
【数4】
 
 
【0035】
  この式(4)によれば、拘束間隔Xが短くなる程、大きな曲率Kcが生じ、圧縮率βが大きくなる程、大きな曲率Kcが生じることがわかる。なお、この式は、例えば、有限要素法等の解析により求めることができ、また、圧縮率βについての説明を
図5に示す。
 
【0036】
  〔1.2  電線の寿命低下について(識別テープ有りの場合)〕
  次に、前記のような電線10が撚られているという条件に加えて、電線束20に識別テープ9が巻かれている場合について説明する。識別テープ9が、電線束20に対して、電線10の撚り方向(巻き方向)と反対方向となって螺旋状に巻かれる場合、電線10がばらけるのを防止する作用も奏することができる。
 
【0037】
  このように識別テープ9が電線10の撚り方向と反対方向に螺旋状として電線束20に巻かれている場合、この電線束20が湾曲すると、以下に説明するように、識別テープ9によって電線10の寿命を低下させることが起こりえる。なお、電線10の寿命を低下させることが起こりえる場合としては、識別テープ9の撚りピッチPt(
図1参照)以上の範囲で電線束20が所定の曲率半径で湾曲しており、この識別テープ9に強い張力が発生する場合である。
 
【0038】
  図6に示すように、電線10の撚り方向と反対の方向に巻かれている識別テープ9は、電線束20に含まれる多くの電線10と交差して接触し、さらに、識別テープ9の撚りピッチPtよりも長い範囲で電線束20が湾曲していると、その識別テープ9は電線束20の外周側へ(最外周に)押し出される。
  さらに、電線束20が湾曲することにより偏平化(楕円化)すると、元の円形状であった電線束20の外周長L
1(式(5))よりも、偏平化した電線束20の外周長L
2(式(6))の方が長くなる(L
1<L
2)。
【数5】
 
【数6】
 
 
【0039】
  なお、式(5)(6)のφは、円形状にある電線束20の直径であり、この直径φは、湾曲前(偏平化前)の状態、つまり、電線束20に含まれる外周側の複数の電線10が円に沿って配置された状態で、これら外周側の電線10の外接円の直径である。そして、式(6)のaとbとは、この外接円が偏平化した楕円の長径と短径である。
 
【0040】
  このように、湾曲により電線束20が偏平化(楕円化)すると、識別テープ9の必要長も長くなる。しかし、識別テープ9は大きく伸びないため、結果として識別テープ9には張力が働くこととなる。
 
【0041】
  そして、張力が作用した識別テープ9が、湾曲によって飛び出そうとする電線10の一部分(電線飛び出し部)と偶発的に重なると(
図7(A)参照)、その電線10の拘束間隔X′は、電線同士が絡み合うことによって電線10上の2点(点P1、P2)で拘束される場合の拘束間隔X(
図7(B)参照)よりも短くなることがある。例えば、拘束間隔X′は、拘束間隔Xの半分未満(X′<X/2)になることがある。なお、拘束間隔X′(X)とは、前記のとおり、一本の電線10が2点で拘束された場合、この拘束された2点間の距離をいう。
 
【0042】
  つまり、
図7(A)の場合、多心ケーブル7が湾曲することで、横方向に飛び出そうとする電線10は、電線束20内の最も径方向内側の位置(点P1)において、湾曲による電線束20の圧縮力(圧力)と摩擦とにより動きが拘束される。そして、識別テープ9には張力が発生していることから、この識別テープ9が、横方向に飛び出そうとするこの電線10を拘束する。これにより拘束間隔X′が小さくなる。
 
【0043】
  そして、前記式(4)によれば、拘束間隔X′が小さくなると、曲率Kcは大きくなり、例えば、拘束間隔が半分になると、曲率Kcは二倍に増大し、局部的に強い曲げが電線10に発生する。この結果、前記式(1)(2)により、電線10の寿命が極端に低下する。
 
【0044】
  以上のように、識別テープ9が、電線10の撚り方向(巻き方向)と反対方向となって螺旋状に巻かれる場合、識別テープ9の撚りピッチPt以上の範囲で電線束20が所定の曲率半径で湾曲すると、識別テープ9に張力が発生し、電線10における拘束間隔が、より一層短くなることがあり、強い曲げが発生する。
 
【0045】
〔2.  第一実施形態〕
  〔2.1  識別テープ9が設けられていない多心ケーブル7〕
  前記のとおり、識別テープ9が設けられていない多心ケーブル7(
図3参照)であっても、各電線束20に含まれる複数の電線10は撚られていることで、多心ケーブル7の寿命が低下することが起こりえるが、本発明の第一実施形態に係る多心ケーブル7により、このような寿命の低下を抑制することが可能となる。以下、この多心ケーブル7に関して説明する。
 
【0046】
  図8(A)(B)に示すように、湾曲前の(偏平化前の)電線束20の直径がφであり電線10の撚りピッチがPcである多心ケーブルを、曲率半径Rにより湾曲させ、さらに、角度ψについて電線束20を湾曲させた場合について説明する。なお、この場合において、
図8(B)に示すように、電線束20自体が偏平化してその径がα倍(α<1)に変化したとする。
  電線束20が湾曲した際の、その湾曲範囲の長さHは、次の式(7)により表される。
【数7】
 
 
【0047】
  図9において、電線束20が湾曲している部分(長さHの部分)では、電線同士が絡み合うことで、横方向に飛び出そうとする電線10は、電線束20内の最も径方向内側の位置(点P1)において、湾曲による電線束20の圧縮力(圧力)と摩擦とにより動きが拘束される。そして、この横方向に飛び出そうとする電線10の最も径方向外側の位置(点P2)が、仮に電線束20が湾曲している部分(長さHの部分)に存在している場合、この点(P2)において、電線10は曲げによる張力により動きが拘束される。しかし、
図9(B)に示すように、横方向に飛び出そうとする電線10の最も径方向外側の位置(点P2)は、電線束20が湾曲している部分(長さHの部分)に存在していない。この場合、この電線10の一部(余長部分)はその電線10の長手方向に逃げることができる。
 
【0048】
  つまり、2つの拘束点(点P1、P2)の双方が共に、湾曲している部分(長さHの部分)に含まれなければ、横方向に飛び出そうとする電線10の一部(余長部分)はその電線10の長手方向に逃げることができ、この結果、このような電線10では、飛び出そうとすることによって発生する横曲げに基づく曲率Kcの増加は生じ難くなる。
 
【0049】
  したがって、2つの拘束点(点P1、P2)の双方が共に、湾曲している部分(長さHの部分)に含まれないようにするためには、電線10の撚りピッチPcを大きくすればよい。そこで、電線10の撚りピッチPcを、次の式(8)が満たされるように設定すればよい。
[数8]
    Pc/2>γ×H            ・・・・・・・・・(8)
        但し、Pcは、電線10の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径Rで電線束20が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
 
【0050】
  この式(8)が満たされる電線10の撚りピッチPcにより電線10を撚った電線束20を有する多心ケーブル7とすれば、横曲げに基づく曲率Kcの増加は生じ難くなり、この結果、寿命が低下するのを抑制することが可能となる。
 
【0051】
  なお、式(8)において、γは1以上の係数であるが、このγは安全率であり、γ=1.5とするのが好ましく、さらには、γ=2とすることもできる。
  また、Hは、前記式(7)により表される。なお、式(7)に関して、φは電線束20の直径であり、Rは電線束20の曲率半径であり、これらφとRとの間には次の式(9)に示す関係を有している。
[数9]
    (0.5×R)≦φ≦(0.8×R)            ・・・・・・(9)
 
【0052】
  さらに、式(7)中のφは、電線束20が曲率半径Rで湾曲している領域の角度であるが、本実施形態では、多心ケーブル7を通常の仕様に従って使用する場合、この角度ψの最大値は「π/2ラジアン(90°)」となる。したがって、電線10の撚りピッチPcを前記式(8)により設定する場合、角度ψをこの最大値「π/2ラジアン(90°)」とすればよい。なお、この角度ψ(最大値)は多心ケーブル7に応じて決定されている仕様に基づく。
 
【0053】
  〔2.2  具体例〕
  電線10の撚りピッチPcが25ミリとされた多心ケーブル(その1)と、撚りピッチPcが60ミリとされた多心ケーブル(その2)との寿命を、シミュレーションにより求めた。その結果を表1に示す。なお、前記式(8)における安全率γを1としている。また、(その1)及び(その2)の双方とも、電線束20の直径φを4.5ミリ、曲率半径Rを7.5ミリ、湾曲している領域の角度ψをπ/2ラジアン(90°)としている。
 
【0055】
  この表1(「実測曲率」の項目)に示すように、(その1)の寿命を基準とすると、(その2)の場合、寿命が1.7倍となる。すなわち、電線10の撚りピッチPcを、前記式(8)を満たすように設定して、撚りピッチPcを大きくすることにより、電線10の寿命、すなわち、多心ケーブル7の寿命を長くすることが可能となる。
  なお、表1の右欄には、「推定曲率」と、その場合の寿命を示しているが、「推定曲率」の計算式は、本明細書の最後に説明している。
 
【0056】
  以上より、多心ケーブル7が湾曲することにより、電線束20に含まれる電線10が横方向に飛び出そうとすると、小さいピッチで撚られている電線同士が絡み合ってこの電線10を拘束する。このため、この飛び出そうとする電線10の一部に局所的な強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、本実施形態に係る多心ケーブル7では、前記式(8)の関係を満たすように電線10の撚りピッチPcが設定され、その撚りピッチPcを大きくしている。これにより、電線同士の絡み合いによる電線10の拘束が生じ難くなる。この結果、局所的な強い曲げが電線10に生じ難くすることが可能となり、電線10の寿命、すなわち、多心ケーブル7の寿命が短くなるのを抑制することができる。
 
【0057】
〔3.  第二実施形態〕
  電線束20に識別テープ9が螺旋状に巻かれている場合の多心ケーブル7について説明する。
図1に示すように、第二実施形態に係る多心ケーブル7では、識別テープ(線状部材)9が、電線10の撚り方向と反対方向に螺旋状となって電線束20に巻かれているが、この識別テープ9の撚りピッチPtは、以下の式(10)の関係を満たすように設定されている。なお、識別テープ9の撚りピッチPtとは、識別テープ9が360°回転するのに要する距離(電線束20に沿った長手方向の距離)のことである。
 
【0058】
[数10]
    Pt/2>γ×H            ・・・・・・・・・(10)
        但し、Ptは、識別テープ9の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
 
【0059】
  なお、この式(10)において、γは1以上の係数であるが、このγは安全率であり、γ=1.5とするのが好ましく、さらには、γ=2とすることもできる。
  また、Hは、前記式(7)により表される。なお、式(7)に関して、φは電線束20の直径であり、Rは電線束20の曲率半径であり、これらφとRとの間には次の式(11)に示す関係を有している。
[数11]
    (0.5×R)≦φ≦(0.8×R)            ・・・・・・(11)
 
【0060】
  さらに、式(11)中のφは、電線束20が曲率半径Rで湾曲している領域の角度であるが、多心ケーブル7を通常の仕様に従って使用する場合、この角度ψの最大値は「π/2ラジアン(90°)」となる。したがって、電線10の撚りピッチPcを式(10)により設定する場合、角度ψをこの最大値「π/2ラジアン(90°)」とすればよい。なお、この角度ψ(最大値)は多心ケーブル7に応じて決定されている仕様に基づく。
 
【0061】
  このように、識別テープ9の撚り方向が、電線10の撚り方向と反対であっても、識別テープ9の撚りピッチPtを、前記式(10)を満たすようにして、長くすることにより、識別テープ9に作用する張力を緩和することができる。
  これは、すなわち、
図10(A)に示すように、識別テープ9が、電線束20の最も径方向内側の位置(点P3)と最も径方向外側の位置(点P4)とで接触しており、これら点P3と点P4との双方が、仮に電線束20が湾曲している部分(長さHの部分)に含まれている場合、これら点P3と点P4とのそれぞれにおいて、識別テープ9は、湾曲する電線束20との摩擦により動きが拘束される。このため、点P3と点P4との間において識別テープ9に張力が発生する。このように張力が発生している識別テープ9によって、横方向に飛び出そうとする電線10が拘束される場合、前記のとおり、この電線10に局所的な曲げが生じ、横曲げに基づく曲率Kcが増加する。
 
【0062】
  したがって、二つの点P3と点P4との双方が共に、湾曲している部分(長さHの部分)に含まれないようにするためには、識別テープ9の撚りピッチPtを大きくすればよい。つまり、
図10(B)に示すように、湾曲範囲の長さHに、識別テープ9が拘束される二つの点P3と点P4(少なくとも一方)が存在しないようにすればよく、湾曲範囲(H)に拘束点が1点のみ又はゼロであれば、張力自体発生しにくくなる。
  そこで、識別テープ9の撚りピッチPtを、前記式(10)が満たされるように設定すればよい。
 
【0063】
  以上より、多心ケーブル7が湾曲することにより、電線束20に含まれる電線10が横方向に飛び出そうとする。そして、この飛び出そうとする電線10が、張力の生じている識別テープ9によって拘束されると、この電線10に局所的に強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、本実施形態に係る多心ケーブル7では、前記式(10)の関係を満たすように識別テープ9の撚りピッチPtが設定され、その撚りピッチPtを大きくしている。これにより、多心ケーブル7が湾曲しても、識別テープ9には張力が生じ難くなる。このため、横方向に飛び出そうとする電線10は識別テープ9によって拘束され難くなり、この電線10に局所的な強い曲げが生じるのを防ぐことができる。この結果、電線10の寿命、すなわち、多心ケーブル7の寿命が線状部材によって短くなるのを抑制することができる。
 
【0064】
  さらに、この第二実施形態の多心ケーブル7では、電線10の撚りピッチPcが、次の式(12)の関係を満たすように設定されているのが好ましい。
[数12]
    Pc/2>γ×H            ・・・・・・・・・(12)
        但し、Pcは、電線10の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束20が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
 
【0065】
  なお、γは、1以上の係数であるが、このγは安全率であり、γ=1.5とするのが好ましく、さらには、γ=2とすることもできる。
  また、Hは、前記式(7)により表される。なお、式(7)に関して、φは、電線束20の直径であり、Rは、電線束20の曲率半径であり、これらφとRとの間には、前記のとおり関係を有する。
 
【0066】
  この式(12)の関係を満たすように電線10の撚りピッチPcが設定され、その撚りピッチPcを大きくすることにより、前記第一の実施形態で説明したのと同様に、電線同士の絡み合いによる電線10の拘束が生じ難くなる。この結果、電線10に局所的な強い曲げが生じるのを、より一層効果的に防ぐことが可能となる。
 
【0067】
〔4.  第三実施形態〕
  電線束20に識別テープ9が螺旋状に巻かれている場合の、他の多心ケーブル7について説明する。
図11に示すように、第三実施形態に係る多心ケーブル7では、識別テープ(線状部材)9が、電線10の撚り方向と同方向に螺旋状となって電線束20に巻かれている。
 
【0068】
  このように、識別テープ9を電線10の撚り方向と同方向として電線束20に巻き付けると、
図12に示すように、識別テープ9と電線10との、多心ケーブル単位長さ当たりの接触本数を(
図6の反対方向巻きの場合と比較すると)少なくすることができる。
  例えば、
図6の場合では、識別テープ9の撚りピッチPtの半分の間に、識別テープ9は5本の電線10と接触するが、
図12の場合では、3本の電線10と接触する。
  このため、電線10の撚り方向と反対方向に撚った場合(
図6の場合)では、電線束20の外周側へと押し出されていた識別テープ9が、同方向に撚った場合(
図12の場合)では、限られた電線10と並走することができ、電線10とともに電線束20の内側にショートカットすることが可能となり、識別テープ9の必要長を短くすることができる。
 
【0069】
  このため、識別テープ9を電線10の撚り方向と同方向に撚った場合、多心ケーブル7が湾曲した際に、識別テープ9に絡む電線10の数が少なくなり、識別テープ9に張力が作用し難くなる。
  つまり、
図6の場合、多くの電線10が識別テープ9を押すこととなり、識別テープ9に与える力大きくなり、識別テープ9は延び難いことから、識別テープ9に張力が発生する。これに対して、
図12の場合、少数の電線10が識別テープ9を押すこととなり、また、電線10の移動に識別テープ9が追従し、識別テープ9に与える力は小さい。しかも、識別テープ9と電線10とは広い範囲で接触していることから、識別テープ9に張力が作用し難い。
 
【0070】
  そして、識別テープ9を電線10の撚り方向と同方向に撚った場合(
図12の場合)、電線10と識別テープ9との接触範囲が、反対方向に撚った場合(
図6の場合)と比較して、増えることとなり、識別テープ9による電線10の接触面圧は小さくなり、電線10には局所的な強い曲げが生じにくくなる。
 
【0071】
  以上のように、識別テープ9が電線束20に対して電線10の撚り方向と反対の方向に小さいピッチで螺旋状に巻かれていると、電線10のうち識別テープ9と接触している範囲は部分的であり局所的に強い曲げが発生する場合がある。
  しかし、本実施形態に係る多心ケーブル7によれば、識別テープ9は、電線10の撚り方向と同方向に螺旋状となって電線束20に巻かれていることから、識別テープ9は電線10の長手方向に沿いやすくなり、識別テープ9は電線10に広い範囲で接触し、局所的な強い曲げが電線10に生じ難くすることが可能となる。このため、電線10の寿命、すなわち、多心ケーブル7の寿命が線状部材によって短くなるのを抑制することができる。
 
【0072】
  また、この第三実施形態の多心ケーブル7では、識別テープ9の撚りピッチPtが、以下の式(13)の関係を満たすように設定されているのが好ましい。
[数13]
    Pt/2>γ×H            ・・・・・・・・・(13)
        但し、Ptは、識別テープ9の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径Rで電線束20が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
 
【0073】
  このように識別テープ9の撚りピッチPtを大きく設定することにより、前記第二実施形態で説明したように、識別テープ9には張力が生じ難くなる。この結果、電線10に局所的な強い曲げが生じるのを、より一層効果的に防ぐことが可能となる。
 
【0074】
  さらに、この第三実施形態の多心ケーブル7では、電線10の撚りピッチPcが、次の式(14)の関係を満たすように設定されているのが好ましい。
[数14]
    Pc/2>γ×H            ・・・・・・・・・(14)
        但し、Pcは、電線10の撚りピッチ
              γは、1以上の係数
              Hは、単一の曲率半径で電線束20が湾曲した際のその湾曲範囲の長さ
 
【0075】
  なお、前記式(13)(14)において、γは1以上の係数であるが、このγは安全率であり、γ=1.5とするのが好ましく、さらには、γ=2とすることもできる。
  また、Hは、前記式(7)により表される。なお、式(7)に関して、φは電線束20の直径であり、Rは電線束20の曲率半径であり、これらφとRとの間には、前記のとおり関係を有する。
 
【0076】
  この式(14)の関係を満たすように電線10の撚りピッチPcが設定され、その撚りピッチPcを大きくすることにより、前記第一の実施形態で説明したのと同様に、電線同士の絡み合いによる電線10の拘束が生じ難くなる。この結果、電線10に局所的な強い曲げが生じるのを、より一層効果的に防ぐことが可能となる。
 
【0077】
〔5.  その他〕
  前記表1に示した推定曲率について説明する。
図9において、電線束20が一定の曲率半径Rで湾曲した場合に、その湾曲した領域における拘束点間の平均圧縮率β、湾曲長さHが拘束間隔Xを下まわる場合の補正圧縮率β′は、次の式(15)となる。
【数15】
 
 
【0078】
  そして、この場合の電線10の曲率Kcは、次の式(16)となる。この式に示すように、曲率Kcは、電線10の撚りピッチPcに反比例し、電線束20の直径φに比例することから、撚りピッチPcを大きくすることで、表1(推定曲率の項目)に示すように、多心ケーブル7の長寿命化に貢献することができる。
【数16】
 
 
【0079】
  今回開示した各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
  例えば、多心ケーブルに含まれる電線束20の数、一つの電線束20に含まれる電線10の数は、変更自在である。