(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記中心軸に垂直な横断面における内周上の一の特徴点を通過して前記中心軸に直交する内径線の前記基準平面に対する角度は、前記中心軸上における当該横断面の移動に対して連続に変化し、
前記横断面の単位量の移動に対する前記内径線の回転角度は、前記中心軸上の位置に応じて相違する
請求項1のバスレフポート。
中心軸に垂直な横断面における内周上の第1特徴点を各横断面について相互に連結した第1軌跡と、前記横断面における内周上で前記第1特徴点とは相違する第2特徴点を各横断面について相互に連結した第2軌跡とは形状が相違する
請求項1から請求項3の何れかのバスレフポート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るスピーカ装置100の断面図である。
図1に示すように、第1実施形態のスピーカ装置100は、筐体(エンクロージャ)10とスピーカユニット20とバスレフポート30Aとを具備し、外部装置(図示略)から供給される音響信号に応じた音響を放射する音響装置である。
【0015】
筐体10は、複数の板材で構成された中空の構造体(典型的には直方体)である。筐体10のうち前面側に位置する板材12には略円形の開口部14および開口部16が形成される。開口部14の内側にはスピーカユニット20が固定される。すなわち、筐体10の板材12はバッフル板として機能する。スピーカユニット20は、外部装置(例えば増幅器等の信号処理装置)から供給される音響信号に応じて振動板を振動させることで音響信号に応じた音響を放射する放音体である。なお、スピーカユニット20の再生帯域の高低や帯域幅は任意であるが、低音域を再生帯域とするスピーカユニット20(例えばサブウーファ)を利用した構成に本発明は特に好適である。
【0016】
バスレフポート(ダクト)30Aは、筐体10の内部に設置されて筐体10の内部と外部とを連通させる略円筒状の管体であり、スピーカユニット20から筐体10の背面側に放射された音響のうち低音域の音響成分を共鳴(ヘルムホルツ共鳴)により増強して放射する。すなわち、筐体10およびバスレフポート30Aは、スピーカユニット20から前面側に放射される音響の下限周波数の近傍の周波数を共鳴周波数とするヘルムホルツ共振器を構成する。
【0017】
図2は、バスレフポート30Aの斜視図および切断図である。
図2の切断図では、中心軸(管軸)Xを含む平面(以下「縦断面」という)でバスレフポート30Aを切断した状態が図示されている。
図1および
図2に示す通り、バスレフポート30Aは、中心軸Xに沿って中間部32と側端部342と側端部344とに区分される。側端部342は中間部32の一端側(前面側の端部)に位置し、側端部344は中間部32の他端側(背面側の端部)に位置する。
図1に示すように、側端部342のうち中間部32とは反対側の端部(以下「先端部」という)が筐体10の前面側の板材12の開口部16の内周縁に連結され、側端部342の内周面(内壁面)42と板材12の前面とが連続する。他方、側端部344のうち中間部32とは反対側の先端部は筐体10の内部に位置する。すなわち、バスレフポート30Aは、中心軸Xが板材12に対して略直交するように板材12の背面側に突出する。なお、中間部32や側端部342および側端部344という区分はバスレフポート30Aの構造に着目した便宜的な区分であり、実際には例えば射出成形等の製造技術によりバスレフポート30Aは一体に構成される。ただし、中間部32と側端部342と側端部344とを個別に製造して各々を相互に連結することも可能である。なお、第1実施形態の側端部342と側端部344とは形状が相互に共通する。そこで、以下の説明では、側端部342および側端部344を側端部34と包括的に表現することで各々の個別的な説明を適宜に省略する。ただし、側端部342と側端部344とで形状を相違させることも可能である。
【0018】
図3は、側端部34の先端部を中心軸Xの方向(すなわちバスレフポート30Aの長手方向)から観察した場合のバスレフポート30Aの正面図である。
図2および
図3から理解される通り、中間部32は、中心軸Xに垂直な断面(以下「横断面」という)内の断面形状が円形(円環状)で内径および外径が中心軸X上の各位置で略一定に維持された直管状の部分である。他方、側端部34(342,344)は、中心軸Xに垂直な横断面内で内周面42により包囲された領域(以下「内周領域」という)Qの面積が中間部32側の端部(以下「基端部」という)から先端部にかけて連続に増加するフレア形状に形成される。内周領域Qは、バスレフポート30A内の空気の流路の断面(管内断面)に相当する。
【0019】
図2および
図3に示すように、側端部34の内周領域Qは、中心軸Xを中心とした回転対称性(N回対称)を有する非円形であり(Nは2以上の自然数)、漏斗形花冠(ヒルガオ等の花弁)に類似する。第1実施形態では、側端部34の内周領域Qを5回対称(N=5)の閉曲線とした場合を例示する。
図2および
図3から理解される通り、内周領域Qの形状は、側端部34の先端部から基端部にかけて5回対称の非円形から徐々に円形に近付き、基端部にて円形となって中間部32の円形の内周領域Qに連続する。すなわち、中心軸X上の各横断面における内周領域Qは相対応する形状である。
【0020】
図3に示すように、横断面と内周面42との交線(すなわち内周領域Qの輪郭線)上の任意の1点と中心軸Xとの距離を側端部34の内径Φと定義すると、側端部34の内周領域Qは、中心軸Xを中心とした円周方向に内径Φが変化する形状とも表現され得る。具体的には、中心軸Xの周囲の72°(360°/N)を単位(周期)として内径Φが周期的かつ連続的に増減する。したがって、内周領域Qの輪郭線上には、内径Φが極大となる5個(N個)の極大点PAと内径Φが極小となる同数の極小点PBとが存在し、中心軸Xを中心とした36°(360°/2N)毎に極大点PAと極小点PBとが円周方向に交互に配列する。
図3から理解される通り、極大点PAは内周面42の谷部の底点に相当し、極小点PBは内周面42の山部の頂点に相当する。したがって、内周領域Qの輪郭線は、5個の山部と5個の谷部とが円周方向に交互に配列する閉曲線とも換言され得る。以上の説明から理解される通り、第1実施形態の内周領域Qは、中心軸Xを中心とした円周方向に曲率を反復的に増減させた形状である。具体的には、内周領域Qの輪郭線の曲率は、円周方向に沿って正数と負数の一方から他方に反復的に変動する。すなわち、内周領域Qは、曲率中心が内周領域Qの内部に位置する範囲と曲率中心が内周領域Qの外部に位置する範囲とが円周方向に沿って交互に反復する。
【0021】
図4は、
図3の縦断面V0における側端部34の断面図である。縦断面V0は、極大点PAおよび極小点PBの双方を通過する。したがって、内周領域Qの極大点PAを中心軸X上の複数の横断面にわたり連結した軌跡RAと、内周領域Qの極小点PBを中心軸X上の複数の横断面にわたり連結した軌跡RBとが縦断面V0内に存在する。軌跡RAは縦断面V0と内周面42との交線に相当し、軌跡RBは縦断面V0と内周面42との交線に相当する。軌跡RAおよび軌跡RBの各々は、側端部34の基端部から先端部にかけて中心軸Xとの距離(内径Φ)が連続に増加する曲線である。
【0022】
前述の通り、側端部34の内周領域Qは、中心軸Xを中心とした円周方向に内径Φが変化する非円形である。したがって、軌跡RAと軌跡RBとは形状が相違する。例えば、
図4に示す通り、軌跡RAおよび軌跡RBの各々が楕円の円弧となるように側端部34の内周面42の形状(フレア形状)を規定すると、楕円の楕円率(長径に対する短径の相対比)が軌跡RAと軌跡RBとで相違する。具体的には、軌跡RAは、長径LA1および短径LA2の楕円EAの円弧であり、軌跡RBは、長径LB1および短径LB2の楕円EBの円弧である。軌跡RAを規定する楕円EAの短径LA2は軌跡RBの楕円EBの短径LB2を上回り(LA2>LB2)、軌跡RAの楕円EAの長径LA1と軌跡RBの楕円EBの長径LB1とは相等しい(LA1=LB1)。したがって、軌跡RAの楕円EAの楕円率(LA2/LA1)は、軌跡RBの楕円EBの楕円率(LB2/LB1)を上回る。すなわち、軌跡RAの曲率(軌跡RAの全長にわたる平均値)が軌跡RBの曲率を上回る。また、軌跡RAの全長が軌跡RBの全長を上回ると換言することも可能である。以上の説明から理解される通り、第1実施形態における側端部34の内周面42は、内周領域Qの輪郭線のうち極大点PAや極小点PB等の特徴点を複数の横断面にわたり連結した軌跡R(RA,RB)の形状が、中心軸Xを中心とした円周方向で反復的に変化する形状とも換言され得る。
【0023】
以上に説明した形状を側端部34の内周面42に採用したのは、バスレフポート30Aから発生する異音を低減するためである。そこで、バスレフポートから発生する異音について以下に詳述する。
図5は、ヘルムホルツ共鳴周波数と同等の周波数の純音(例えば30Hzの正弦波)の音響信号を既存のスピーカ装置に供給した場合の音響信号の周波数特性(破線)と再生音の周波数特性(実線)との関係を示すグラフである。ヘルムホルツ共鳴周波数に近い周波数を再生する場合、バスレフポートの内部を流通する空気の流速が高いと、バスレフポートの内部や先端部の近傍で空気流が乱れて渦輪(vortex ring)が発生する。渦輪は、ヘルムホルツ共鳴周波数を主成分として広帯域にわたる周波数成分を含有する。そして、渦輪に包含される周波数成分のうちバスレフポートや筐体の共鳴周波数に一致または近似する成分(
図5の鎖線部)が共鳴により増強される結果、受聴者に異音として知覚される。
【0024】
以上の現象を考慮して、本願発明者は、バスレフポートの内部を流通する空気流の渦輪(乱流)が異音の原因であると推察し、中心軸Xの方向の全区間にわたり内周領域が円形である既存のバスレフポート(以下「既存ポート」という)を対象として内部の空気流の乱れをシミュレートした。
図6の部分(A)は既存ポートIの解析結果であり、
図6の部分(B)は既存ポートIIの解析結果である。既存ポートIおよび既存ポートIIは、フレア形状が付加されたバスレフポートである。具体的には、既存ポートIは、長径が144mmで短径が48mmの楕円の円弧を縦断面内の内周面として採用したサンプルであり、既存ポートIIは、長径が230mmで短径が48mmの楕円の円弧を縦断面内の内周面として採択したサンプルである。すなわち、既存ポートIの内周面の楕円率(長径に対する短径の相対比)は既存ポートIIの内周面の楕円率を上回る。既存ポートIおよび既存ポートIIの各々を採用したスピーカ装置に対してヘルムホルツ共鳴周波数と同等の周波数の音響信号を供給したところ、再生音から知覚される異音は、既存ポートIIのほうが既存ポートIと比較して顕著である、という傾向が観察された。
【0025】
図6の部分(A)および部分(B)には、既存ポートの内部および近傍のライトヒルボリューム(Lighthill Volume)の分布が図示されている。ライトヒルボリュームは、空気流の乱れ(乱流)の度合を評価するための指標であり、
図6では、ライトヒルボリュームが高い領域(空気流の乱れの度合が大きい領域)ほど高い階調(白色に近い階調)で表現されている。
図6の部分(A)および部分(B)を対比すると、異音が大きい既存ポートII(
図6の部分(B))では、空気流の乱れが大きい領域が先端部の近傍の狭い範囲に局在するのに対し、異音が小さい既存ポートI(
図6の部分(A))では、空気流の乱れが大きい領域が先端部の周辺の広い範囲に分布するという傾向が確認できる。以上の傾向から、空気流の乱れが大きい領域をバスレフポートの中心軸Xに沿う広い範囲に分散させることができれば、バスレフポートからの異音を抑制できると本願発明者は推察した。
図1から
図4を参照して説明した第1実施形態のバスレフポート30Aは、以上の知見を踏まえて採択された形状の好適例である。
【0026】
図7の部分(A)は、内周面が円形のフレア形状である既存ポートにおける空気流の乱れが大きい領域の説明図であり、
図7の部分(B)は、第1実施形態のバスレフポート30Aにおける空気流の乱れが大きい領域の説明図である。
図7の部分(A)から理解される通り、内周領域が全区間にわたり円形に維持される既存ポートでは、中心軸X上の狭い範囲内に、空気流の乱れが大きい領域が内周面42の全周にわたり発生する。すなわち、既存ポートの内部には真円状の渦輪が発生する。他方、第1実施形態のバスレフポート30Aでは、縦断面内での内周面42の形状(軌跡RA,軌跡RB)が円周方向の各位置で相違するから、バスレフポート30Aの内部に発生する渦輪は円周方向に沿って蛇行した形状となる。すなわち、空気流の乱れが大きい領域は中心軸X上の広い範囲に分散される。以上のように空気流の乱れが大きい領域が中心軸Xの方向に分散される結果、第1実施形態によれば、バスレフポート30Aに起因した異音が低減されるのである。
【0027】
図8は、バスレフポートの形状を相違させた複数の場合の各々における再生音の周波数特性であり、
図9は、受聴者に異音として知覚される
図8の帯域B内の音圧(異音レベル)を複数種のバスレフポートの各々について併記したグラフである。
図8および
図9の既存ポートIIIは直管型(フレア形状が付与されない形状)のバスレフポートである。縦断面内の内周面42の形状(軌跡R)を円周方向の各位置で相違させた第1実施形態により、対比例と比較して異音が確かに抑制されることが
図9からも確認できる。また、第1実施形態のように内周領域Qを回転対称性の非円形とした構成によれば、内周領域を単純な真円形とした既存ポートと比較して意匠的な美観(デザイン性)に優れるという利点もある。
【0028】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0029】
図10は、第2実施形態に係るバスレフポート30Bの斜視図および切断図(縦断面での切断図)であり、
図11は、中心軸Xの方向から側端部34(342,344)の先端部を観察した場合のバスレフポート30の正面図である。
図10および
図11から理解される通り、第2実施形態のバスレフポート30Bは、第1実施形態と同様の形状の内周領域Qを中心軸X上の位置に応じて回転させた形状(すなわち、中心軸Xを中心として内周面42を捻った形状)である。すなわち、バスレフポート30Bの内周面42の山部および谷部は中心軸Xに沿って螺線状に延在する。
【0030】
図12は、中心軸X上の位置が相違する複数の横断面C(C1〜C5)の模式図であり、
図13は、
図12の横断面C毎の内周領域Qの模式図である。
図12の横断面C1から横断面C5は、側端部34の先端部(中間部32とは反対側)から基端部にかけて順番に配列する。例えば、横断面C1は側端部34の先端部側に位置し、横断面C5は基端部側に位置する。任意の1個の横断面Cにおける内周領域Qの形状は第1実施形態と同様である。すなわち、側端部34の内周領域Qは、中心軸Xを中心とした円周方向に沿って内径Φが変化する回転対称性の非円形に設定される。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。なお、側端部34の内周領域Qの面積(内径Φ)は第1実施形態と同様に基端部から先端部にかけて増加するが(フレア形状)、
図12および
図13では内周領域Qの面積の変化が便宜的に省略されている。
【0031】
図13に示すように、中心軸Xに垂直な横断面Cにおける内周面42上の任意の1個の極大点PAを通過するとともに中心軸Xに直交する直線(以下「内径線」という)Lを想定する。すなわち、内径線Lは、中心軸Xから半径方向に延在して極大点PAを通過する直線である。
図13に示すように、中心軸Xを含む特定の縦断面(以下「基準平面」という)VREFを想定すると、基準平面VREFに対する内径線Lの角度θは、中心軸X上の横断面Cの位置に応じて連続に変化する。具体的には、中心軸X上における横断面Cの一方向の移動(例えば先端部側から基端部側への移動)に対して内径線Lは一方向に連続に回転する。すなわち、
図13に示すように、例えば横断面C2内の内径線Lの角度θは横断面C1内の内径線Lの角度θを上回り、横断面C3内の内径線Lの角度θは横断面C2内の内径線Lの角度θを上回る。したがって、
図12から理解される通り、各横断面C内で相互に対応する極大点PA(
図12の黒丸)を複数の横断面C1〜C5について相互に連結した軌跡RAは、中心軸Xに沿って中心軸Xの周囲を回転する螺線状となる。同様に、各横断面C内の極小点PB(
図12の白丸)を複数の横断面C1〜C5について相互に連結した軌跡RBも螺線状となる。すなわち、前述の通り、内周面42の谷部(極大点PAの軌跡RA)および山部(極小点PBの軌跡RB)は、中心軸Xに沿って中心軸Xの周囲に螺線状に延在する。また、第2実施形態においては、第1実施形態と同様に、側端部34の内周面42がフレア形状であり、内周領域Qは回転対称性の非円形である。したがって、極大点PAの軌跡RAと極小点PBの軌跡RBとは形状(曲率や全長)が相違する。具体的には、軌跡RAの全長は軌跡RBの全長を上回る。
【0032】
図11に示すように、側端部34の基端部から先端部(すなわち側端部34の両端間の全域)にかけて内径線Lは角度ηだけ回転する。角度ηは任意の適切な数値に設定される。ただし、例えばバスレフポートを射出成形で形成する場合に角度ηが大きいと金型の取出が困難となるから、射出成形用の金型を確実に抜出すことができる角度(例えば20°)を下回る範囲内の角度ηが好適である。例えば角度ηを18°(360°/4N)に設定した構成が好適である。他方、角度ηが過度に大きいと、内周面42の近傍で空気流の乱れ(乱流)が発生し易くなる。したがって、角度ηは、例えば、乱流に起因した異音の発生が知覚されない程度の範囲内で適宜に選定される。具体的には、角度ηの上限値は、空気の乱流に影響する各種の要素(例えばバスレフポート30B内の空気に想定される流速等)を加味して適切に選定される。
【0033】
また、中心軸Xに沿って横断面Cが所定の単位量だけ移動した場合の内径線Lの回転角度(以下「単位角度」という)は中心軸X上の横断面Cの位置に応じて相違する。具体的には、側端部34のうちバスレフポート30Bの先端部側(中間部32とは反対側)のほうが中央側(中間部32側)と比較して単位角度が大きい。すなわち、側端部34の先端部側ほど単位角度は増加する。したがって、
図11に示すように、中心軸Xの方向(バスレフポート30の正面方向)から側端部34の先端部を観察した場合に観察される軌跡RA(すなわち、中心軸Xに垂直な投影面に対する軌跡RAの投影像)は所定の曲率ρの曲線となる。曲率ρは例えば1/50[1/mm](曲率半径:50mm)程度の数値に設定される。
【0034】
第1実施形態で
図7を参照して説明した通り、内周領域Qが円形である既存ポートでは内部に真円形の渦輪が発生することで異音が顕著に知覚される。他方、第1実施形態ではバスレフポート30Aの内部の渦輪を円周方向に蛇行させる(空気流の乱れが大きい領域を中心軸Xの方向の広い範囲に分散させる)ことで異音が低減される。以上の傾向からも推察される通り、中心軸Xを中心とした渦輪の幾何学的な対称性が低下するほど異音が低減される。第2実施形態では、内周面42の谷部(極大点PAの軌跡RA)および山部(極小点PBの軌跡RB)が螺線状となるように側端部34の内周面42の形状が選定されるから、バスレフポート30Bの内部の渦輪の幾何学的な対称性は、既存ポートはもちろん第1実施形態と比較しても低下する。したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態よりも異音を抑制することが可能である。前掲の
図8および
図9には、第2実施形態に係るバスレフポート30Bを採用した場合に観測される異音のレベルが併記されている。第2実施形態による異音低減の効果が第1実施形態を上回ることは
図8および
図9からも確認できる。また、第2実施形態のように内周面42の山部および谷部を螺線状とした構成によれば、内周領域を単純な真円形とした既存ポートや内径線Lが回転しない第1実施形態と比較して意匠的な美観(デザイン性)に優れるという利点もある。
【0035】
<バスレフポートの具体的な形状>
第1実施形態および第2実施形態の説明を基礎として多様な観点からバスレフポート30(30A,30B)の好適な形状を例示する。なお、以下の説明では、第1実施形態で例示したように内周領域Qを回転対称性の非円形とした構成(内径Φを円周方向で変化させた構成)を便宜的に「特徴A」と表記し、第2実施形態で例示したように中心軸X上の横断面Cの位置に応じて内径線Lの角度θを変化させた構成(内周面42の谷部および山部を螺線状とした構成)を便宜的に「特徴B」と表記する。
【0036】
<観点1>
第1実施形態では、バスレフポート30の側端部342および側端部344の双方に特徴Aおよび特徴Bを採用したが、側端部342および側端部344の一方のみに特徴Aおよび特徴Bを採用することも可能である。
【0037】
図14は、側端部342および側端部344の各々における特徴Aおよび特徴Bの有無を相違させた複数のサンプルについて異音のレベルを測定した結果である。
図14の構成M1は、側端部342および側端部344の双方に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成(第2実施形態)である。他方、構成M2は、背面側の側端部344のみに特徴Aおよび特徴Bを採用した構成であり、構成M3は、前面側の側端部342のみに特徴Aおよび特徴Bを採用した構成である。構成M2の側端部342および構成M3の側端部344には、既存ポートIや既存ポートIIと同様に内周領域を真円形としたフレア形状が採用される。
【0038】
図14から把握される通り、側端部342および側端部344の双方に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成M1は、側端部342および側端部344の一方のみに特徴Aおよび特徴Bを採用した場合(M2,M3)と比較して異音の抑制効果が大きい。したがって、第1実施形態や第2実施形態で例示した通り、側端部342および側端部344の双方に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成が、異音低減の効果を最大化する観点からは好適である。
【0039】
他方、特徴Aおよび特徴Bを採用した側端部34を製造するためのコストが、特徴Aや特徴Bを採用しない単純な形状の側端部34を製造するためのコストを上回るという事情が現実には想定される。したがって、製造コストの低減という観点からすると、側端部342および側端部344の一方のみに特徴Aおよび特徴Bを採用した構成が有利である。
図14を参照すると、背面側の側端部344に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成M2は、前面側の側端部342に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成M3と比較して異音の抑制効果が大きいという傾向が観察される。したがって、異音抑制と製造コストの削減とを両立する観点からは、前面側の側端部342に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成M3よりも、背面側の側端部344に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成M2が好適である。他方、筐体10の内部に位置する側端部344は外部から視認し難い。したがって、特徴Aおよび特徴Bの意匠的な美観を優先させる観点からは、外部から視認し易い側端部342に特徴Aおよび特徴Bを採用した構成M3が好適である。
【0040】
<観点2>
前述の各形態では、内周領域Qを5回対称の非円形とした構成を例示したが、
図15に例示される通り、回転対称の次数Nを5以外の数値に変更することも可能である。
図15では3回対称(N=3)から7回対称(N=7)までの内周領域Qが例示されている。
【0041】
図16は、回転対称の次数Nを変化させた複数の構成について異音のレベルを測定した結果である。
図16の記号N-A(N=3〜7)は、内周領域Qを回転対称性の非円形として特徴Bは採用しない構成を意味し、記号N-Bは、内周領域Qを回転対称性の非円形としたうえで特徴Bを採用した構成を意味する。また、
図16では、特徴Bを採用した構成と非採用の構成との異音のレベルの平均値が次数N毎に黒丸で併記されている。
【0042】
回転対称の次数Nが小さいほど異音の抑制効果が大きいという概略的な傾向が
図16から確認できる。したがって、回転対称の次数Nを小さい数値(例えばN=3〜5)に設定した構成が好適である。また、
図16から理解される通り、回転対称の次数Nが奇数である場合に、次数Nを偶数とした場合と比較して異音の抑制効果が大きいという傾向が確認できる。したがって、回転対称の次数Nを奇数に設定した構成が好適である。なお、次数Nが奇数である場合(内周領域Qの幾何学的な対称性が低い場合)に偶数の場合と比較して異音の抑制効果が大きいという傾向は、バスレフポート30の内部に発生する渦輪の幾何学的な対称性が低下するほど異音が低減されるという前述の傾向にも符合する。
【0043】
以上の傾向を総合的に考慮すると、回転対称の次数Nを小さい奇数(例えばN=3,5)とした構成が、異音の低減という観点からは格別に好適である。ただし、本発明において内周領域Qの回転対称の次数Nは任意である。
【0044】
<観点3>
前述の各形態では、内周領域Qの輪郭線が全周にわたり曲線である場合を例示したが、内周領域Qの輪郭線が直線を包含する構成も採用され得る。例えば
図17の部分(A)に例示される通り、回転対称性の多角形(
図17では5角形)の角部を円弧状とした形状(以下「形状II」という)の内周領域Qも採用され得る。形状IIは、内径Φの極小点PB(内周面42の山部)が存在しない形状とも表現され得る。
【0045】
図18は、第1実施形態(
図3または
図11)と同様に内周領域Qを回転対称性の閉曲線(以下「形状I」という)とした構成と、内周領域Qを
図17の部分(A)の形状IIとした構成との各々について異音のレベルを測定した結果のグラフである。なお、
図18では、特徴Bの採用を便宜的に省略した。
図18を参照すると、内周領域Qを形状IIとした構成では、形状Iを採用した構成と比較して異音のレベルが高いという傾向が把握される。したがって、異音の低減という観点からは、第1実施形態で例示した形状Iのように内周領域Qを閉曲線とした構成のほうが、直線を含む形状IIと比較して有利である。
【0046】
ところで、
図6の部分(A)および部分(B)に関連して前述した通り、内周面を規定する楕円の楕円率が小さい既存ポートIIの異音のレベルは、楕円率が大きい既存ポートIの異音のレベルを上回る。すなわち、内周面42を規定する楕円の楕円率が大きいほど異音が低減されるという傾向がある。
図17に例示した形状IIでは、内周面42のうち楕円率が大きい範囲(
図17の破線部のように極大点PAの軌跡RAに形状が近い範囲)が第1実施形態と比較して狭い。したがって、内周領域Qを形状IIとした構成で異音のレベルが高いのは、内周面42のうち楕円率が大きい範囲が狭いからであると推察される。
【0047】
以上の検討を考慮すると、内周面42の楕円率が大きい範囲を充分に確保できる
図17の部分(B)の形状IIIが内周領域Qの形状として好適である。
図18には、形状IIIを採用した構成で知覚される異音のレベルも併記されている。
図18から理解される通り、形状IIIによれば、形状IIはもちろん形状Iと比較しても異音の抑制効果を増強することが可能である。以上の結果は、内周面42を規定する楕円の楕円率が大きいほど異音が低減されるという前述の傾向にも符合する。なお、以上の説明では特徴Bを省略した構成を便宜的に想定したが、内周領域Qの形状に関わらず特徴Bも採用できることは当然である。
【0048】
<変形例>
前述の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0049】
(1)前述の各形態では、側端部34の全区間(両端間の全域)にわたり特徴Aおよび特徴Bを採用したが、側端部34の特定の区間(例えば先端部側の区間)のみに特徴Aおよび特徴Bを採用することも可能である。また、前述の各形態では、側端部342と側端部344との間に中間部32を介在させたが、中間部32は省略され得る。したがって、バスレフポート30の全区間にわたり特徴Aおよび特徴Bを採用することも可能である。
【0050】
(2)第2実施形態では、特徴Aおよび特徴Bの双方を具備するバスレフポート30Bを例示したが、特徴Bにとって特徴Aは必須の要件ではなく、第2実施形態から特徴Aを省略することも可能である。すなわち、内周面42の山部または谷部が螺線状に形成された特徴B(第2実施形態)において内周領域Qの具体的な形状は任意である。ただし、内周領域Qが真円形である場合、横断面Cの位置に応じた内径線Lの回転が観念できないから、特徴Bにおける内周領域Qの形状は当然に非円形である。
【0051】
(3)前述の各形態では、中心軸X上での横断面Cの移動に対して内径線Lが一方向に回転する構成(横断面Cの移動に対して内径線Lの角度θが単調増加または単調減少する構成)を例示したが、横断面Cの移動に対する内径線Lの回転方向は以上の例示に限定されない。例えば、内径線Lの回転方向が側端部34の途中の位置で反転する構成も採用され得る。また、内径線Lの角度θの変化の連続性は必須の要件ではない。すなわち、横断面Cの移動に対して角度θが不連続に変化する構成も採用され得る。以上の説明から理解される通り、本発明の好適な態様は、中心軸X上の横断面(第1横断面)CAにおける内径線Lの角度θと、横断面CAとは中心軸X上の位置が相違する横断面(第2横断面)CBにおける内径線Lの角度θとが相違する構成として包括的に表現される。
【0052】
(4)前述の各形態では、スピーカ装置100に採用されるバスレフポート30を例示したが、前述の各形態のバスレフポート30の特徴はバスレフポート30以外の管体にも適用され得る。本発明を適用可能な管体としては、例えば、二輪車や四輪車等の車輌のマフラーや空調設備の吸排気ダクト等を例示することが可能である。また、金管楽器や木管楽器等の楽器(典型的には管楽器)の管体にも本発明は適用され得る。