(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る搬送補助装置を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
一実施形態に係る搬送補助装置は、キャスタを有する移動可能なベッドを一人の搬送者(例えば、看護師)が搬送する際に使用され、一人の搬送者によるベッドの搬送を補助する。この搬送補助装置は、搬送する際にベッドに装着され、搬送するとき以外はベッドから取り外される。搬送者は、ベッドの後端側でベッドを押しながら搬送するとともに、搬送補助装置の操作を行う。したがって、従来は二人の搬送者で搬送しなければならないベッドを後端側の一人の搬送者によって搬送することができ、従来の前端側の搬送者の役割を搬送補助装置が果たす。
【0018】
なお、ベッドの長手方向を前後方向とし、搬送者側を後方向とし、その他方側を前方向とする。この前後方向に直交する方向を左右方向(横方向)とし、搬送者の左手側を左方向とし、搬送者の右手側を右方向とする。ベッドの移動には、ベッドを前後方向に移動させる前進と後退がある。また、ベッドを左右方向に移動させる左横移動(左方向の真横への移動)と右横移動(右方向の真横への移動)がある。また、ベッドを旋回させる左旋回(反時計回りにその場での旋回)と右旋回(時計回りにその場での旋回)がある。
【0019】
図1を参照して、一実施形態に係る搬送補助装置1について説明する。
図1は、一実施形態に係る搬送補助装置1がベッドBに装着された状態を模式的に示す図である。
【0020】
搬送補助装置1は、操作ハンドル2と駆動ユニット3を備えており、操作ハンドル2がベッドBの後端部に装着され、駆動ユニット3がベッドBの前端部に装着される。搬送補助装置1は、搬送者Pによって操作ハンドル2に各操作が入力されると、その各操作に応じて駆動ユニット3を駆動制御及び操舵制御する。また、搬送補助装置1は、搬送中に障害物(例えば、人、壁、搬送路に置かれている物体)に駆動ユニット3が当たるのを防止するために、駆動ユニット3を減速制御及び停止制御する。特に、搬送補助装置1は、エレベータ内や病室内等の狭い場所で駆動ユニット3(ひいては、ベッドB)の壁への出来る限りの接近を可能とするために、上記の停止制御をキャンセルして駆動ユニット3をアプローチ制御する。なお、この実施形態では、操作ハンドル2が特許請求の範囲に記載の操作部に相当し、駆動ユニット3が特許請求の範囲に記載の駆動部に相当する。
【0021】
ベッドBについて説明する。ベッドBは、ベッド本体Baの下側にベッド高さ調整機構Bbが設けられ、ベッド高さ調整機構Bbの下部の4隅にキャスタBcが取り付けられている。ベッド高さ調整機構Bbは、従来の周知の機構であり、ベッド本体Baの高さ位置を調整できる。キャスタBcは、シャフトと車輪を有し、シャフトが鉛直軸周りに回転可能に取り付けられ、車輪がシャフトの下部に水平軸周りに回転可能に取り付けられている。ベッド本体Baには、長手方向の前端部と後端部にボードBd,Beが取り付けられている。また、ベッド本体Baの上面には、マットレスBfが設置されている。
【0022】
図1に加えて
図2及び
図3も参照して、操作ハンドル2について説明する。
図2は、操作ハンドル2であり、(a)が平面図であり、(b)が斜視図である。
図3は、搬送補助装置1の制御構成を示すブロック図である。
【0023】
操作ハンドル2は、ベッドBの後端のボードBeの上部に装着され、搬送者Pの左手LHと右手RHで把持される。操作ハンドル2には、搬送者PがベッドBを搬送しているときに、左手LHと右手RHによって駆動ユニット3に対する各操作が入力される。この各操作には、左手LHと右手RHによる押す力及び引く力の操作、各スイッチに対するON/OFF操作がある。
【0024】
操作ハンドル2は、本体2aとクランプ部2b,2bを有する。本体2aは、略板状であり、人の左右の手の間隔を考慮した所定の長さを有している。クランプ部2b,2bは、本体2aとの間でボードBeをクランプするための略L状の部材であり、本体2aの前方側の面の左右の各端部に取り付けられている。この本体2aと左右のクランプ部2b,2bでボードBeの上方から挟み込んだ状態でクランプして、操作ハンドル2がボードBeに装着される。
【0025】
操作ハンドル2の上面における左右の各端部(本体2aの上面とクランプ部2b,2bの上面とに跨る部分)には、左操作グリップ2cと右操作グリップ2dが設けられている。左操作グリップ2cは、搬送者Pの左手LHで把持され、左手LHによる操作が入力される。右操作グリップ2dは、搬送者Pの右手RHで把持され、右手RHによる操作が入力される。各操作グリップ2c,2dは、人の手で把持し易い形状かつ大きさを有している。各操作グリップ2c,2dの表面は、所定の強度かつ柔軟性を有し、例えば、ゴム、樹脂、布で形成される。
【0026】
左操作グリップ2cの内部には、左操作検知センサ2eが設けられている。右操作グリップ2dの内部には、右操作検知センサ2fが設けられている。各操作検知センサ2e,2fは、搬送者Pの各手LH,RHによって各操作グリップ2c,2dに加えられる押す力及び引く力(前後方向の操作力)の大きさを検知するセンサであり、例えば、歪ゲージを用いたセンサである。検知される力の大きさは、例えば、押す力がプラス値、引く力がマイナス値で示される。
【0027】
搬送者Pが左操作グリップ2cと右操作グリップ2dに同程度の押す力を加えた場合には駆動ユニット3が真っ直ぐに前進し、左操作グリップ2cよりも右操作グリップ2dに大きな押す力を加えた場合には駆動ユニット3が反時計回りに操舵しながら前進し、右操作グリップ2dよりも左操作グリップ2cに大きな押す力を加えた場合には駆動ユニット3が時計回りに操舵しながら前進する。また、搬送者Pが左操作グリップ2cと右操作グリップ2dに同程度の引く力を加えた場合には駆動ユニット3が真っ直ぐに後退し、左操作グリップ2cよりも右操作グリップ2dに大きな引く力を加えた場合には駆動ユニット3が時計回りに操舵しながら後退し、右操作グリップ2dよりも左操作グリップ2cに大きな引く力を加えた場合には駆動ユニット3が反時計回りに操舵しながら後退する。
【0028】
左操作グリップ2cの内側の側部には、左移動スイッチ2gが設けられている。右操作グリップ2dの内側の側部には、右移動スイッチ2hが設けられている。各移動スイッチ2g,2hは、各操作グリップ2c,2dを把持している各手LH,RHの指(特に、親指)が届く位置に配置されている。各移動スイッチ2g,2hは、駆動ユニット3を左右方向の真横に移動させるためのスイッチであり、従来の周知のON/OFFのメカスイッチである。左移動スイッチ2gがONの場合には駆動ユニット3が左方向の真横に移動し、右移動スイッチ2hがONの場合には駆動ユニット3が右方向の真横に移動する。
【0029】
搬送者Pが左移動スイッチ2gをONした場合、前端部の駆動ユニット3が左方向の真横方向に移動する。このときに、後端部の搬送者Pも左方向に移動するとベッドBが左横移動し、後端部の搬送者Pが右方向に移動するとベッドBがその場で左旋回する。搬送者Pが右移動スイッチ2hをONした場合、前端部の駆動ユニット3が右方向の真横方向に移動する。このときに、後端部の搬送者Pも右方向に移動するとベッドBが右横移動し、後端部の搬送者Pが左方向に移動するとベッドBがその場で右旋回する。
【0030】
本体2aの上面における左操作グリップ2cの直近には、アプローチスイッチ2iが設けられている。アプローチスイッチ2iは、左操作グリップ2cを把持している左手LHの指(特に、親指)が届く位置に配置されている。アプローチスイッチ2iは、上記した停止制御をキャンセルして駆動ユニット3(ひいては、ベッドB)を病室内やエレベータ内等で壁に接近させるためのスイッチであり、従来の周知のON/OFFのメカスイッチである。なお、この実施形態では、アプローチスイッチ2iが特許請求の範囲に記載の接近操作入力部に相当する。
【0031】
本体2aの内部には、送信機(図示せず)が設けられている。送信機は、駆動ユニット3の受信機に各信号を送信するための送信機であり、無線でもよいし、有線でもよい。送信機から送信する各信号としては、左操作検知センサ2eで検知した力の大きさを示す信号、右操作検知センサ2fで検知した力の大きさを示す信号、左移動スイッチ2gのON/OFFを示す信号、右移動スイッチ2hのON/OFFを示す信号、アプローチスイッチ2iのON/OFFを示す信号等がある。
【0032】
図1及び
図3に加えて
図4も参照して、駆動ユニット3について説明する。
図4は、駆動ユニット3に備えられる3個の超音波センサと1個の近距離超音波センサの検知範囲及び閾値距離を模式的に示す図である。
【0033】
駆動ユニット3は、ベッドBの前端のボードBdの前側に装着される。駆動ユニット3は、搬送者Pによる操作ハンドル2への各操作に応じて駆動及び操舵する。また、駆動ユニット3は、ベッドBの搬送中に障害物に駆動ユニット3が当たるのを防止するために、超音波センサを用いて、障害物までの距離に応じて減速し、障害物の手前で停止する。特に、搬送者Pがアプローチスイッチ2iをON操作した場合、駆動ユニット3は、エレベータ内や病室内等で壁に出来る限り接近することを可能とするために、超音波センサを用いての停止制御を中断して、速度を制限しての駆動を可能とし、近距離超音波センサを用いて壁の直前で停止する。
【0034】
駆動ユニット3は、本体3aを有している。本体3aは、所定の形状を有しており、前面側が曲面であり、後面側が平面である。本体3aは、ボードBdの高さよりも高い高さかつボードBdの幅より狭い幅であり、下記する各部材を収納できる所定の厚さを有している。本体3aの後面部には、装着アーム(図示せず)が設けられている。駆動ユニット3のベッドBへの装着時には、装着アームが本体3aの後面に対して垂直に配置され、装着アームがベッドBの本体2aの下方に入れられて、本体2aの下面に取り付けられたアタッチメントに装着される。本体3aの下端部の前側には、バンパ3bが取り付けられている。バンパ3bは、駆動ユニット3の最も前端に位置しており、接触センサ3cが設けられている。接触センサ3cは、物体に接触したことを検知するセンサであり、例えば、リミットスイッチである。接触センサ3cでは、物体に接触したか否かをON/OFFで示すON/OFF情報を制御装置4に出力する。
【0035】
本体3aの前面部には、前方超音波センサ3d、左側方超音波センサ3e、右側方超音波センサ3fが設けられている。前方超音波センサ3dは、本体3aの前面部における左右方向の中央の所定の高さ位置に配置され、駆動ユニット3の前側の正面方向に存在する物体(障害物)を検知するためのセンサである。左側方超音波センサ3eは、本体3aの前面部における前方超音波センサ3dの左側に同じ高さ位置で配置され、駆動ユニット3の前側の左側方向に存在する物体を検知するためのセンサである。右側方超音波センサ3fは、本体3aの前面部における前方超音波センサ3dの右側に同じ高さ位置で配置され、駆動ユニット3の前側の右側方向に存在する物体を検知するためのセンサである。各超音波センサ3d〜3fは、従来の周知の超音波センサであり、前方の検知可能距離が数mかつ左右方向の検知可能角度が数10°の検知範囲を有するセンサである。各超音波センサ3d〜3fでは、検知範囲内に存在する物体の検知を行い、物体を検知できた場合にはその物体までの距離を演算する。そして、各超音波センサ3d〜3fでは、その距離情報を制御装置4に出力する。なお、この実施形態では、前方超音波センサ3d、左側方超音波センサ3e、右側方超音波センサ3fが特許請求の範囲に記載の複数個の距離検知部に相当する。
【0036】
バンパ3bの前面部には、近距離超音波センサ3gが設けられている。近距離超音波センサ3gは、バンパ3bの前面部における左右方向の中央の下方部に配置され、駆動ユニット3の前側の近距離に存在する物体を検知するためのセンサである。近距離超音波センサ3gは、従来の周知の超音波センサであり、前方の検知可能距離が数10cmかつ左右方向の検知可能角度が数10°の検知範囲を有するセンサである。近距離超音波センサ3gは、超音波センサ3d〜3fよりも近距離を高精度に検知できる超音波センサである。近距離超音波センサ3gでは、検知範囲内に物体に存在する物体(特に、壁)の検知を行い、物体を検知できた場合にはその物体までの距離を演算し、その距離が閾値距離L
E2以下の物体が存在する場合にはON、それ以外の場合にはOFFを示すON/OFF情報を制御装置4に出力する。この検知距離と閾値距離L
E2との判定について制御装置4で行ってもよく、その場合には近距離超音波センサ3gで検知した距離情報を制御装置4に出力する。なお、この実施形態では、近距離超音波センサ3gが特許請求の範囲に記載の近距離検知部に相当する。
【0037】
図4に示すように、前方超音波センサ3dの検知範囲A
Fは正面方向を中心として±数10°で数m先までの範囲であり、左側方超音波センサ3eの検知範囲A
Lは正面方向から数10°左回転方向を中心として±数10°で数m先までの範囲であり、右側方超音波センサ3fの検知範囲A
Rは正面方向から数10°右回転方向を中心として±数10°で数m先までの範囲である。近距離超音波センサ3gの検知範囲A
Nは正面方向を中心として±数10°で数10cm先までの範囲である。
【0038】
この検知方向の異なる3個の超音波センサ3d〜3fを用いて減速制御及び停止制御が行われる。この減速制御で使用される閾値距離L
Sは、搬送者Pによる操作に応じた速度で移動中の駆動ユニット3を障害物の手前で安全に減速して停止させることができる距離であり、数mである。超音波センサ3d〜3fの検知可能距離は、この閾値距離L
Sよりも長い距離である。停止制御で使用される閾値距離L
E1(<L
S)は、減速制御時の速度で移動中の駆動ユニット3を障害物の手前で停止させることができる距離であり、数10cmである。また、近距離超音波センサ3gを用いて停止制御(アプローチ制御の一部)が行われる。この停止制御で使用される閾値距離L
E2は、閾値距離L
E1よりも短い距離であり、アプローチ制御時の制限速度で移動中の駆動ユニット3を障害物の直前で即時に停止させることができる距離であり、数cm〜数10cmである。なお、この実施形態では、閾値距離L
E1が特許請求の範囲に記載の第1閾値距離に相当し、閾値距離L
E2が特許請求の範囲に記載の第2閾値距離に相当する。
【0039】
本体3aの内部には、駆動車輪3h、操舵モータ3i、駆動モータ3j、制御装置4、バッテリ(図示せず)、受信機(図示せず)等を収納している。駆動車輪3hは、床面に接地するように、本体3aの内部の最下部に配置されている。駆動車輪3hは、水平軸周りに回転可能に取り付けられている。バッテリは、操舵モータ3i、駆動モータ3j、制御装置4等に電力を供給するためのバッテリである。受信機は、操作ハンドル2の送信機から送信された各信号を受信する受信機である。なお、この実施形態では、制御装置4が特許請求の範囲に記載の制御部に相当する。
【0040】
操舵モータ3iは、シャフト(図示せず)を介して駆動車輪3hに連結されている。操舵モータ3iでは、制御装置4における操舵制御により、駆動車輪3hを鉛直軸周りに回転させる操舵トルクを発生させる。操舵モータ3iには、操舵角センサ3kが取り付けられている。操舵角センサ3kは、駆動車輪3hの操舵角(ひいては、駆動ユニット3の進行方向)を検知するためのセンサであり、例えば、エンコーダを用いたセンサである。操舵角センサ3kでは、検知した操舵角情報を制御装置4に出力する。
【0041】
駆動モータ3jは、ベルト(図示せず)を介して駆動車輪3hに連結されている。駆動モータ3jでは、制御装置4における駆動制御により、駆動車輪3hを水平軸周りに回転させる駆動トルクを発生させる。駆動モータ3jには、速度センサ3lが取り付けられている。速度センサ3lは、駆動車輪3hの車輪速度(ひいては、駆動ユニット3の速度)を検知するためのセンサであり、例えば、エンコーダを用いたセンサである。速度センサ3lでは、検知した速度情報を制御装置4に出力する。
【0042】
図1〜
図4を参照して、制御装置4について説明する。なお、
図3では各検知センサ2e,2f、各スイッチ2g〜2iと制御装置4とを直接接続して描いているが、実際には各検知センサ2e,2f、各スイッチ2g〜2iからの各信号は操作ハンドル2の送信機と駆動ユニット3の受信機を介して制御装置4に入力される。
【0043】
制御装置4は、駆動ユニット3を制御するための電子制御装置であり、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read OnlyMemory]やRAM[Random Access Memory]等のメモリ、入出力回路等からなる。制御装置4では、ROMに格納されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することにより、操舵制御部4a、駆動制御部4b、減速制御部4c、停止制御部4d、アプローチ制御部4eが構成される。制御装置4は、操作ハンドル2の各検知センサ2e,2fや各スイッチ2g〜2iの各信号に示される情報が入力されるとともに、駆動ユニット3の各超音波センサ3d〜3g、操舵角センサ3kや速度センサ3lの各情報が入力される。そして、制御装置4では、この入力される各情報を用いて各部4a〜4eの処理を行い、操舵モータ3i及び駆動モータ3jを制御する。
【0044】
操舵制御部4aについて説明する。操舵制御部4aでは、左操作検知センサ2eで検知した左操作グリップ2cに加えられた力と右操作検知センサ2fで検知した右操作グリップ2dに加えられた力との差を演算する。そして、操舵制御部4aでは、この力の差がプラス値かあるいはマイナス値かによって駆動車輪3hの操舵方向(駆動ユニット3の進行方向)を決定するとともに力の差の絶対値から目標操舵角を演算し、この操舵方向で目標操舵角になるように操舵モータ3iを制御する。また、操舵制御部4aでは、左移動スイッチ2gがONされている場合、駆動車輪3hが正面方向から左回転方向(反時計回り)に90°になるように操舵モータ3iを制御する。また、操舵制御部4aでは、右移動スイッチ2hがONされている場合、駆動車輪3hが正面方向から右回転方向(時計回り)に90°になるように操舵モータ3iを制御する。この操舵制御では、操舵角センサ3kで検知した実操舵角を用いて、フィードバック制御を行う。
【0045】
駆動制御部4bについて説明する。駆動制御部4bでは、左操作検知センサ2eで検知した左操作グリップ2cに加えられた力と右操作検知センサ2fで検知した右操作グリップ2dに加えられた力との和を演算する。そして、駆動制御部4bでは、この力の和がプラス値かあるいはマイナス値かによって駆動車輪3h(駆動ユニット3)の前進方向かあるいは後退方向かを決定するとともに力の和の絶対値から目標速度を演算し、この前進方向又は後退方向で目標速度になるように駆動モータ3jを制御する。この駆動制御では、速度センサ3lで検知した実速度を用いて、フィードバック制御を行う。なお、駆動モータ3jに対する制御については、減速制御部4c、停止制御部4d又はアプローチ制御部4eの処理が実施されている場合にはその制御のほうが優先される。
【0046】
減速制御部4cについて説明する。減速制御部4cでは、操舵角センサ3kで検知した操舵角が正面方向から左回転方向に閾値角度α以内か否かを判定するとともに右回転方向に閾値角度α以内か否かを判定する。この閾値角度αは、3個の超音波センサ3d〜3fのうちのいずれのセンサを用いるかを判定するための閾値であり、超音波センサ3d〜3fの検知方向の各角度に基づいて設定される。減速制御部4cでは、操舵角が正面方向から左右回転方向に閾値角度α以内の場合には前方超音波センサ3dで検知した距離を用い、操舵角が左回転方向に閾値角度αを超える場合には左側方超音波センサ3eで検知した距離を用い、操舵角が右回転方向に閾値角度αを超える場合には右側方超音波センサ3fで検知した距離を用いて、この検知距離が閾値距離L
S以下か否かを判定する。減速制御部4cでは、検知距離が閾値距離L
S以下と判定した場合、駆動車輪3h(駆動ユニット3)の上限速度を設定し、上限速度になるように駆動モータ3jを制御する。この上限速度は、障害物までの距離が短くなるほど段階的に低い速度が設定され、例えば、各段階の速度がそれぞれ数km/hである。
【0047】
停止制御部4dについて説明する。停止制御部4dでは、3個の超音波センサ3d〜3fでそれぞれ検知した各距離が閾値距離L
E1以下か否かをそれぞれ判定する。停止制御部4dでは、3個の超音波センサ3d〜3fのうちのいずれかの検知距離が閾値距離L
E1以下と判定した場合、駆動車輪3h(駆動ユニット3)が停止するように駆動モータ3jを制御する。なお、上記したようにバンパ3bには接触センサ3cが設けられており、停止制御部4dでは、接触センサ3cからのON/OFF情報がON(物体に接触したことを検知)の場合、駆動車輪3h(駆動ユニット3)が停止するように駆動モータ3jを制御する。
【0048】
なお、減速制御部4c及び停止制御部4dの処理は、駆動ユニット3の前進移動中にのみ実施され、後退移動中、横移動中、停止中には実施されない。また、停止制御部4dの処理は、アプローチスイッチ2iがONされている場合、一定時間は実施されない。したがって、アプローチスイッチ2iがONされている場合、駆動ユニット3が障害物に閾値距離L
E1より近づいても、駆動ユニット3は停止しない。
【0049】
アプローチ制御部4eについて説明する。アプローチスイッチ2iがONされている場合、一定時間の間、停止制御部4fの処理を中断し、アプローチ制御部4eを実施する。この一定時間は、駆動ユニット3を閾値距離L
E1より近づけることを許可する時間であり、例えば、数10秒である。アプローチ制御部4eでは、駆動車輪3h(駆動ユニット3)の制限速度を設定し、制限速度になるように駆動モータ3jを制御する。制限速度は、駆動車輪3h(駆動ユニット3)を即時に停止させることができる速度であり、減速制御部4cでの上限速度よりも低い速度であり、例えば、数km/h、コンマ数km/hである。さらに、アプローチ制御部4eでは、近距離超音波センサ3gからのON/OFF情報を用いて、ON(近距離超音波センサ3gの検知距離が閾値距離L
E2以下)の場合、駆動車輪3h(駆動ユニット3)が停止するように駆動モータ3jを制御する。なお、アプローチ制御部4eをアプローチスイッチ2iがONされて一定時間の間だけ実施する構成としているが、アプローチスイッチ2iがOFFされるまで実施する構成としてもよい。
【0050】
閾値距離L
E2は、上記したように停止制御部4dの閾値距離E
1よりも短い距離であり、駆動ユニット3を壁の直前まで近づけて停止させるための距離である。病院では、エレベータ等の壁には手すりが取り付けられている。手すりは壁よりも出っ張っているので、駆動ユニット3を壁に近づけているときに本体3aに手すりが当たってしまう虞がある。そこで、手すりが本体3aに当たらないように、閾値距離L
E2を設定するようにするとよい。例えば、壁から手すりが出っ張っている分の距離を計測し、その距離に数cm程度の余裕度を加算して閾値距離L
E2を設定する。このように閾値距離L
E2を設定しておくことになり、駆動ユニット3が手すりに当たることを防止でき、手すりを直接検知する必要もない。なお、病院内に手すり以外に壁から出っ張っている部材がある場合には、その部材も考慮して閾値距離L
E2を設定するようにするとよい。
【0051】
なお、アプローチ制御部4eが実施されている有効期間内でも、3個の超音波センサ3d〜3fのうちのいずれかの検知距離が閾値距離L
E1以下と判定された後に3個の超音波センサ3d〜3fの全ての検知距離が閾値距離L
E1超えると判定された場合、アプローチ制御部4eの処理を停止し、減速制御部4cを実施するようにしてもよい。
【0052】
図1〜
図4を参照して、搬送補助装置1における動作(特に、減速制御、停止制御、アプローチ制御)の流れについて説明する。ベッドBの後端のボードBeに操作ハンドル2が装着され、前端のボードBdに駆動ユニット3が装着されると、搬送者Pは、操作ハンドル2の左右の操作グリップ2c,2dを把持して操作する。この左右の操作グリップ2c,2dへの各操作や各移動スイッチ2g,2hへの各操作に応じて制御装置4で制御すると、駆動ユニット3が操舵し、所定の速度で駆動する。これによって、ベッドBの後端側の搬送者Pと前端側の駆動ユニット3によりベッドBを搬送できる。
【0053】
この搬送中、各超音波センサ3d〜3fでは、各方向の検知範囲の障害物の検知を行い、障害物を検知できた場合にはその障害物までの距離を演算し、その距離情報を制御装置4に出力する。また、操舵角センサ3kでは、駆動車輪3hの操舵角を検知し、その操舵角情報を制御装置4に出力する。
【0054】
制御装置4では、駆動車輪3hの操舵角に基づいて3個の超音波センサ3d〜3fの中から駆動ユニット3の進行方向を向いている超音波センサを選択し、その選択した超音波センサで検知した距離が閾値距離L
S以下か否かを判定する。検知距離が閾値距離L
S以下と判定した場合、制御装置4では、障害物までの距離に応じて上限速度を設定し、上限速度になるように駆動モータ3jを制御する。この制御により、駆動モータ3jでは、上限速度になるような駆動トルクを発生する。これによって、駆動ユニット3が障害物に閾値距離L
Sより近づくと、駆動ユニット3が障害物に近づくほど徐々に減速する。また、駆動ユニット3の進行方向に合った超音波センサで検知した距離を用いているので、駆動ユニット3が直進している場合だけでなく、駆動ユニット3がカーブしている場合でもそのカーブ方向に存在する障害物に近づくと減速することができる。
【0055】
また、制御装置4では、3個の超音波センサ3d〜3fでそれぞれ検知した各距離が閾値距離L
E1以下か否かをそれぞれ判定する。いずれかの検知距離が閾値距離L
E1以下と判定した場合、制御装置4では、駆動車輪3hが停止するように駆動モータ3jを制御する。この制御により、駆動モータ3jでは、駆動トルクの発生を停止する。これによって、駆動ユニット3が障害物に閾値距離L
E1まで近づくと、駆動ユニット3が停止することになる。この停止制御と上記の減速制御により、駆動ユニット3が障害物に近づくと、減速しながら安全に障害物の手前で停止することができ、駆動ユニット3が障害物に当たるようなことはない。
【0056】
近距離超音波センサ3gは、超音波センサ3d〜3fよりも近距離の検知範囲の障害物(特に、壁)の検知を高精度に行い、障害物を検知できた場合にはその障害物までの距離を演算し、その距離が閾値距離L
E2以下か否かを示すON/OFF情報を制御装置4に出力する。
【0057】
ベッドBをエレベータ内に入れるときなどに、搬送者Pは、操作ハンドル2のアプローチスイッチ2iをONする。アプローチスイッチ2iがONされている場合、制御装置4では、一定時間の間、超音波センサ3d〜3fを用いた停止制御を中断する。そして、制御装置4では、減速制御時の上限速度よりも低い制限速度を設定し、制限速度になるように駆動モータ3jを制御する。この制御により、駆動モータ3jでは、制限速度になるような駆動トルクを発生する。これによって、駆動ユニット3が微低速度となり、駆動ユニット3が装着されたベッドBを微低速で壁に近づけることができる。また、制御装置4では、近距離超音波センサ3gからのON/OFF情報を用いて、ON(検知距離が閾値距離L
E2以下)になった場合、駆動車輪3hが停止するように駆動モータ3jを制御する。この制御により、駆動モータ3jでは、駆動トルクの発生を停止する。これによって、駆動ユニット3が壁に閾値距離L
E2まで近づくと、駆動ユニット3が直ちに停止する。このアプローチ制御により、搬送者Pによる操作グリップ2c,2dへの押す操作に応じて(特に、制限速度よりも高い速度となる押す操作を行っている場合でも)駆動ユニット3をゆっくりと壁に近づけて、停止させることができる。また、搬送者Pが操作グリップ2c,2dへの停止操作が遅れた場合でも、駆動ユニット3が壁に当たるのを防止できる。
【0058】
この搬送補助装置1によれば、アプローチスイッチ2iがONされている場合、超音波センサ3d〜3fを用いた停止制御を中断して近距離超音波センサ3gを用いた停止制御を行うとともに駆動ユニット3の速度を制限することにより、駆動ユニット3を制限された速度で壁等に出来るだけ接近させて停止させることができ、壁等に当たるのを防止できる。また、搬送補助装置1によれば、閾値距離L
E2をベッドBが搬送される環境に応じて設定可能としているので、病院等の環境下で駆動ユニット3が手すり等に当たるのを防止できる。このように、アプローチスイッチ2iをON/OFFすることにより、廊下等の速く搬送したい場所とエレベータ内や病室等の狭い場所とで、速度に合わせた超音波センサを用いた制御の使い分けが可能である。
【0059】
また、搬送補助装置1によれば、検知方向が異なる3個の超音波センサ3d〜3fのうちで駆動ユニット3の進行方向に合った検知方向の超音波センサの検知距離を用いて制御を行うことにより、駆動ユニット3が直進している場合でもカーブしている場合でも、高精度な障害物までの距離を得ることができ、障害物に対する高精度な制御ができ、駆動ユニット3が障害物に当たるのを防止できる。特に、カーブしている場合に、搬送者Pから死角になるような障害物でも各側方超音波センサ3e,3fで検知でき、障害物に対する制御が可能である。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0061】
例えば、上記実施形態では搬送の対象物としてキャスタを有するベッドに適用したが、キャスタを有する荷台(例えば、食事、医療器具、物品等を積載して搬送し得るもの)、キャスタを有する機器(例えば、医療機器)等の他のものでよい。
【0062】
また、上記実施形態では駆動ユニット(駆動部)と操作ハンドル(操作部)を別体として、対象物の前後端部にそれぞれ装着する構成としたが、駆動部と操作部とが一体でもよい。
【0063】
また、上記実施形態では距離検知部として3個の超音波センサを備える構成したが、1個、2個あるいは4個以上の超音波センサを備える構成としてもいし、超音波センサ以外の距離検知可能なセンサを用いてもよいし、広い検知範囲をカバーするエリア設定可能な1個のセンサ(例えば、レーザスキャナ)で構成し、駆動ユニットの進行方向に応じて検知エリアを切り替えるようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では近距離検知部として近距離超音波センサを備える構成したが、超音波センサ以外の近距離検知可能なセンサを用いてもよいし、上記した距離検知部として用いられるエリア設定可能なセンサと共用とし、近い検知エリアに切り替えるようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では3個の超音波センサ及び1個の近距離超音波センサが設けられる位置の一例を示したが、これらの各超音波センサの位置は適宜変更してよい。例えば、前方超音波センサや近距離超音波センサが左右方向の中央からずれた位置でもよい。
【0066】
また、上記実施形態では超音波センサで検知した距離を用いた閾値距離L
E1に応じた停止制御を中断する場合には停止制御部の処理を中断する構成としたが、超音波センサによる検知を無効として中断する構成としてもよいし、閾値距離L
E1を閾値距離L
E2以下にして(例えば、0にして)中断する構成としてもよい。