特許第5915824号(P5915824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915824
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】体外蛋白質生合成の調製法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20160422BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C12N15/00 A
【請求項の数】2
【外国語出願】
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2005-191711(P2005-191711)
(22)【出願日】2005年6月30日
(65)【公開番号】特開2006-20632(P2006-20632A)
(43)【公開日】2006年1月26日
【審査請求日】2008年6月25日
【審判番号】不服2012-19732(P2012-19732/J1)
【審判請求日】2012年10月5日
(31)【優先権主張番号】102004032460.3
(32)【優先日】2004年6月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】500106031
【氏名又は名称】キアゲン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ストレイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルムート メルク
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフガング スティエッジ
【合議体】
【審判長】 鈴木 恵理子
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平3−503479(JP,A)
【文献】 特開平10−80295(JP,A)
【文献】 国際公開第02/24939パンフレット(WO,A1)
【文献】 特開2002−335959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N15/00-15/90
C12P21/02
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
(a’)反応容器中で、折り畳みヘルパー蛋白質である第一発現生成物のための第一制御配列を含む転写/翻訳装置成分、第一発現生成物とは異なるインビトロ合成蛋白質のための第二制御配列を含む転写/翻訳装置成分、アミノ酸及びエネルギー供与と合成に必要な代謝成分からなる合成用物質を含む反応溶液を作成し、
(b')消費した合成用物質を加えることなしに、第一発現生成物の合成を反応容器中で
第一の特定時間に行い、
(c')生成低分子代謝産物を溶液から分離し、
(d')特定時間終了後、反応溶液に消費した合成用物質を補填し、
(e')生成物質を分離することなしに、かつ、消費した合成用物質を加えることなしに、インビトロ合成蛋白質の合成を反応容器中で第二の特定時間に行う、を含む、無細胞転写/翻訳系でのインビトロ合成蛋白質の調製方法であって、 前記ステップ(a')での第一発現生成物と異なるインビトロ合成蛋白質のための転写/翻訳装置成分からなる実施形態で、第二制御配列がステップ(b')で抑制され、第一制御配列がステップ(e')で抑制される、調整方法。
【請求項2】
第一発現生成物のための転写/翻訳装置がコード化第一遺伝子配列を含み、インビトロ合成蛋白質のための転写/翻訳装置がコード化第二遺伝子配列を含み、第一発現生成物用のコード化第一遺伝子配列が第一制御配列により制御され、インビトロ合成蛋白質用のコード化第二遺伝子配列が第二制御配列により制御される請求項1に記載の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【発明分野】
【0001】
本発明は以下のステップからなる無細胞転写/翻訳系での体外蛋白質生合成の調製法に関する。a)反応容器中で蛋白質用転写/翻訳装置成分、アミノ酸及びエネルギー供給と蛋白質合成に必要な代謝成分をからなる合成用物質を含む反応溶液を作成し、b)合成を特定時間反応容器中で行い、c)特定時間終了後反応溶液を分離段階にして、生成代謝産物を溶液から分離(及び抽出)する。本特許での蛋白質合成と云う用語は蛋白質発現を意味する。
【既存技術】
【0002】
蛋白質の無細胞発現法は例えば公文書欧州特許0312617B1、欧州特許0401369B1及び欧州特許0593757B1の技術で知られている。
【0003】
それによると転写及び/又は翻訳の必要成分を目的蛋白質コード化用核酸鎖と一緒に反応容器中で培養し、発現後ポリペプチド/蛋白質を反応溶液から単離する。転写と同様翻訳の必要成分は30,000g又は10,000gで遠心分離後、容易に原核又は真核細胞可溶化液の上澄みから抽出出来る。所謂S−30或いはS−10抽出物は低分子成分以外の転写及び翻訳の必要成分全部を含む。
【0004】
多くの場合蛋白質用コード化遺伝子又は核酸鎖はT7プロモーターで制御される。これはリファンピシンを用いて既存大腸菌RNAポリメラーゼを抑制でき、S30抽出物又はベクター標品を起源とするいかなる内在性大腸菌DNAも転写されないという利点がある。しかしもし大腸菌プロモーター制御下の遺伝子が発現すると、抽出物中に存在しない場合には大腸菌ポリメラーゼが使用され、任意の内在性大腸菌ポリメラーゼが同時発現し、好ましくない内在性蛋白質をもたらす。この発現は通常は37℃で起こるが、17℃から45℃の温度でも可能である。複雑な二次/三次構造が生成する蛋白質表現には温度の調節が特に推奨される。温度を下げると合成速度は低下し、その結果機能的/活性蛋白質を得るために蛋白質に正しい折り畳みの機会が与えられる。更に例えばジチオスレイトール(DTT)及び/又は酸化/還元グルタチオンを加えると反応溶液の還元電位が低下し、発現蛋白質内のジスルフィド結合形成よる影響が生ずる。
【0005】
全ての新規蛋白質合成以前に各系は理想的に最適化されねばならない。その結果基質とし
て働くRNA/DNAポリメラーゼ及びコード化核酸鎖の二価マグネシウムイオン(Mg2+)濃度が変化する。
【0006】
蛋白質の無細胞発現に関する公文書欧州特許0312617B1に開示の方法では、蛋白質用コード化核酸鎖を伝令RNAとして反応溶液に添加する。従って無細胞系でのポリペプチド合成には、翻訳因子、特にリボソーム、開始因子、伸長因子、終結因子に必要な翻訳装置成分及びアミノアシル転移RNA合成酵素、更にはエネルギー供給物質としてのアミノ酸、アデノシン三リン酸及びグアノシン三リン酸のみを反応容器に入れる必要がある。それに続くポリペプチド/蛋白質合成では、ポリペプチド/蛋白質生成に加えて、エネルギー供給物質のアデノシン三リン酸やグアノシン三リン酸及びアミノ酸消費によるアデノシン二リン酸、アデノシン一リン酸、グアノシン二リン酸、グアノシン一リン酸及び無機リン酸塩のような低分子物質が生成する。これによりある時間後アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸又はアミノ酸消費後に或いは生成低分子物質が阻害剤として働き反応停止をもたらす。これを避けるため公文書欧州特許0312617B1では翻訳中に消費した物質を翻訳時に運び出し、同時にエネルギー供給物質とアミノ酸を導入して初期濃度を維持する事を開示している。
【0007】
これとは対照的に公文書欧州特許0401369B1に蛋白質用コード化核酸鎖を伝令RNA又はDNAとして反応溶液に加える方法が開示されている。後者はDNAが伝令RNAより遙かに安定であり、反応前にDNAのRNAへの必要転写プロセスが不必要であり、むしろDNAを即ちベクター又は直線コンストラクトとして直接使用できる利点がある。DNAを用いることで無細胞表現系は上記翻訳因子に加えて、RNAポリメラーゼ、シグマ因子、ロー蛋白質及びヌクレチドアデノシン三リン酸、ウリジン三リン酸、グアノシン三リン酸及びシチジン三リン酸のようなDNAのRNA転写に必要な転写因子を含まねばならない。ここで又転写/翻訳時に消費するアデノシン二リン酸、アデノシン一リン酸、グアノシン二リン酸、グアノシン一リン酸及び無機リン酸塩のような低分子物質を翻訳時に運び出さねばならず、同時にエネルギー供給物質、ヌクレオチド及びアミノ酸を導入して初期濃度を維持しなければならない。公文書欧州特許0593757B1より消費した低分子物質以外に、発現ポリペプチドも又翻訳時に限外濾過隔壁により反応溶液から分離する事が知られている。それ故これらの方法は連続合成法である。
【0008】
連続合成法での長い使用反応時間はそれ自体収率の点で有利であるが、代わりに不都合も又ある。先ず第一に新規合成蛋白質の品質が長い保持時間により、例えば分解、(再)沈殿或いは同位元素標識アミノ酸使用時には他アミノ酸種への同位元素の好ましくない分配
(アミノ酸代謝により起こる)によるマイナスの影響を受ける。他方(連続的)消費物質の添加に関しては、膜や類似物での輸送勾配を予期しなければならず、この目的のためにエネルギー成分のような高価な低分子物質を比較的大量に使用せねばならない。
【0009】
実践的には無細胞蛋白質生合成用のバッチ法は既存技術で知られており、反応時間中に蛋白質生成物は分離されず又消費した物質も添加されない。初期動力学条件は速いが、しかし継続時間は短くその結果比較的少量の蛋白質しか得られない。それ故これらバッチ法は分析目的だけに利用され合成目的には用いられない。
【発明の技術目的】
【0010】
本発明の技術目的は連続系に比し高品質の発現蛋白質と高価(エネルギー)な成分の消費の削減と同時に高速動力学、高収率(高生産性)を保証する体外蛋白質合成の調製法を提供する事である。
【発明と好ましい実施形態の基本】
【0011】
この技術目的達成のため本発明は無細胞転写/翻訳系での発現生成物の体外蛋白質合成における調製法を教示し、この系は、a)反応容器中で発現生成物のための転写/翻訳装置成分、アミノ酸及びエネルギー供給と蛋白質合成に必要な代謝成分からなる反応溶液を作成し、b)合成を生成物質の分離なしで且つ特定時間内に消費した合成用物質の添加なしに特定時間反応容器中で行い、c)特定時間終了後反応溶液を分離ステップに付して、生成低分代謝産物及び/又は反応阻害剤を溶液から分離し、(d)ステップ(c)の直前、直後又は同時に消費した合成用物質を補填し、(e)ステップ(b)、(c)及び(d)を少なくとも一回ステップ(d)の反応溶液を用いて繰り返し、ステップ(b)の最終実施の際にステップ(c)及びステップ(d)を省くステップからなる。
【0012】
発現生成物は主として蛋白質である。反応阻害剤は反応溶液中に含まれ且つ/又は合成中に生成し、反応阻害剤の無い反応溶液に比べ反応速度(合成動力学)を低下するか完全に合成を阻止する物質である。しかし反応阻害剤と云う用語は本発明の意味では他の理由で好ましくない成分も含む。
【0013】
おおむねステップ(c)の最終実施で得た溶液は既に種々の目的、例えば分析目的に適する。しかし発現生成物が精製した形で必要なら、ステップ(c)の溶液又はそれに続くステップ(e)の溶液から分離しても良い。これは例えば移動性又は固定性基質を用いて行う。このような基質機能形態はイオン交換、アフィニティ、抗原/抗体相互作用及び疎水性/親水性相互作用のような発現生成物の結合に関する任意の既知精製法に基づく。そこに適する分子が基質表面と結合する。特に有効な分離では一個又は数個のマーカー、例えば数個の窒素又は炭素末端連続ヒスティジンの形で、又は所謂融合蛋白質として一個又は数個の他蛋白質、例えばグルタチオンで同時発現出来る。基質はキメラ融合蛋白質がマーカー/融合パートナーにより基質と効果的に結合出来る本マーカー/本蛋白質に特異的な結合パートナーを含む。基質はアニオン又はカチオン交換材又はヒドロキシアパタイトを含む。もし蛋白質が融合蛋白質として発現され且つ融合パートナーが窒素か炭素末端になるか又は発現蛋白質内にあるならば、融合パートナーと特異的に結合する基質が使用できる。蛋白質は窒素又は炭素末端の数個の連続ヒスチジン、特に3乃至12個、好ましくは5乃至9個、最も好ましくは6個を含み、基質は特に二価金属イオン好ましくは銅及び/又はニッケルイオンとの金属キレート化合物を有する。蛋白質は融合パートナーとして窒素又は炭素末端グルタチオンーS−トランスフェラーゼを含む事ができ、ついでグルタチオンは基質と連結できる。蛋白質はストレプトアビジンと結合できるアミノ酸配列、好ましくはアミノ酸配列AWRHPQFGG、最も好ましくはアミノ酸配列WSHPQFEKを含有でき、ついでストレプトアビジンが基質と連結できる。
【0014】
おおむね使用成分は既存技術で知られている。翻訳装置は特にリボゾーム、開始因子、伸長因子、終結因子及びアミノアシル転移RNA合成酵素からなる。これ等と共に(更なる成分と共に)合成する蛋白質用コード化伝令RNAの翻訳を実施する。合成する蛋白質用コード化DNAを用いるときには、更に例えばRNAポリメラーゼ、シグマ因子、ロー蛋白質及びヌクレオチドアデノシン三リン酸、ウリジン三リン酸、グアノシン三リン酸及びシチジン三リン酸のようなDNAのRNA転写用転写因子が必要である。反応の必要代謝成分は非閉鎖的集団の“ヌクレオチドアデノシン三リン酸、ウリジン三リン酸、グアノシン三リン酸及びシチジン三リン酸、ピロリン酸塩、アミノ酸及びこれら物質の混合物”から選ぶ。使用アミノ酸は天然アミノ酸でも良いが、化学誘導非天然アミノ酸や同位体標識アミノ酸でも良い。再循環ステップ(c)で部分的又は完全に(代謝産物種と共に代謝産物の全体性と関連する)分離又は還元される低分子代謝産物は例えばアデノシン二リン酸、アデノシン一リン酸、グアノシン二リン酸、グアノシン一リン酸及び無機リン酸塩である。低分子代謝産物は分子量10,000ダルトン以下、好ましくは8,000ダルトン以下、最も好ましくは5,000ダルトン以下である。これらは分子量2,000ダルトン以上を有する。
【0015】
合成用物質が高分子合成用物質の場合分離段階以前に消費の合成用物質を添加できる。これらは上述低分子代謝産物の分子量以上の分子量を有する。
【0016】
本発明に従う方法はおおむね原核系及び真核系で同様に実施できる。転写/翻訳の必要成分は30,000g又は10,000gでの遠心分離により原核又は真核細胞可溶化液の上澄みから容易に抽出出来る。所謂S−30或いはS−10抽出物は転写及び翻訳必須成分全部を含む。
【0017】
ステップ(b)、(c)及び(d)は一回乃至十回、好ましくは一回乃至五回繰り返す事ができる。特定時間は0.1と10時間の間、好ましくは0.5と3時間の間である。ステップ(c)はゲル濾過、限外濾過、透析及びダイアフィルトレーション又は低分子代謝産物及び/又は反応阻害剤と選択的結合性のある基質により実施できる。ゲル濾過、限外濾過、透析及びダイアフィルトレーション法はこの技術を熟知した者にはよく知られている。例えばリン酸分離には塩酸セベラマー(登録商標)(Sevelamer)やレナジェル(登録商標)(Renagel)が基質として使用できる。反応阻害剤はこれら反応阻害剤と選択的に結合する基質であり、発現生成物の分離に関する上記の説明が類似に適用される。
【0018】
基本的には本発明による方法は繰り返しバッチ法であり、低分子代謝産物を反応溶液から分離し消費した物質を添加する介入型再循環段階後に、同じ反応溶液でバッチを繰り返す。他方本発明により連続法反応時間に比べ反応時間は短くなる。これにより製品蛋白質の品質が改善する。更に濃度勾配の必要性がないので、比較的少量の低分子物質、特にエネルギー供与物が使用される。補填、例えば特定の初期濃度に達するまで添加が必要である。それにもかかわらず高速動力学での高収率とその結果高生産性が得られる。
【0019】
独自に重要な本発明の変形は以下のステップからなる無細胞転写/翻訳系での体外蛋白質合成の調製法に関する。そのステップは(a')反応容器中で第一発現生成物のための転写/翻訳装置成分、任意に第一発現生成物とは異なる第二発現生成物のための転写/翻訳装置成分、アミノ酸及びエネルギー供与と合成に必要な代謝産物を含む合成用物質からなる反応溶液を作成し、(b')第一蛋白質の合成を第一の特定時間内に消費の合成用物質を加えること無しに反応容器中で第一の特定時間行い、(c')任意に生成低分子代謝産物を溶液から分離し、(d')特定時間終了後反応溶液に消費の合成用物質を補填し、ステップ(a)で既に添加しない限り第二発現生成物のための転写/翻訳成分と反応し、(e')第二蛋白質の合成を生成物質を分離せずに且つ特定時間に消費の合成用物質を加えること無しに反応容器中で第二の特定時間に行う事からなる。
【0020】
続いて発現生成物を溶液から分離するか、又はこのような分離無しに発現生成物含有溶液
を直ちに他目的、例えば分析に或いは物質ライブラリーの篩い分けに用い事もできる。しかしおおむね請求項1乃至5の方法に従い、ついでステップ(c)で始める。ステップ(e)は省略される。請求項1乃至5の一つに従う方法で与えた説明が同様に適用される。
【0021】
本発明のこの変形では種々の“プログラミング”が可能である。これは種々な発現生成物の合成が種々の段階での制御される方法を意味する。
【0022】
第一発現生成物及び第二発現生成物のための転写/翻訳装置は種々の第一及び第二制御配列を含む事ができ、第一発現生成物のコード化第一遺伝子配列は第一制御配列により制御され、第二発現生成物のコード化第二遺伝子配列は第二制御配列により制御される。
【0023】
ステップ(a')の第一発現生成物とは異なる定義の第二発現生成物のための転写/翻訳成分からなる実施形態では、第二制御配列はステップ(b')で抑制され、第一制御配列はステップ(e')で抑制される。ステップ(d')で定義の第二発現生成物のための転写/翻訳成分を添加することからなる実施形態では、第一制御配列はステップ(e')で抑制される。
【0024】
本発明のこの変形でも又繰り返しのバッチ法が使用されるが、種々の発現生成物、例えば蛋白質が種々の段階で得られる。第二発現生成物は通常実際に希望の製品蛋白質である。しかし第一発現生成物は翻訳因子、折り畳みヘルパー蛋白質、相互作用パートナー或いは転移RNAのような補助物質である。このような物質は製品蛋白質産出に、例えば収率、溶解度又は機能性に関して役立つ。第一発現生成物は例えば蛋白質製品の溶解度を促進する監視役である。この点では合成と云う用語は蛋白質成熟と云う用語を含む。
【0025】
おおむね溶液はステップ(c)又は(c')で例えばポリエチレングリコール溶液に対する透析により濃縮できる。
【0026】
以下に本発明を実施形態により代表される実施例だけ基づいて更に詳細に説明する。
実施例1 一回再循環ステップによる単一繰り返し
【0027】
S−混合物175μl、T−混合物150μl、E混合物40μl(ドイツ、ベルリン、リナ社(RiNA GmBH)、カタログ番号P−1102−14の“リナ体外PBSキット“(RiNa in Vitro PBS kit)成分として入手可能)、炭素14標識化ロイシン(100dpm/pmol)63μM、大腸菌の伸長因子Tコード化用プラスミドDNA5nM及びRNA分解酵素無含有添加水0.5mlを含む無細胞蛋白質生合成用反応溶液0.5mlを培養(1.5時間、37℃)後、限外濾過(10キロダルトン膜)により50%(250μl)に減らし、その後以下成分の補填混合物250μlと反応した。混合物はHEPES(pH7.6)100mM、酢酸カリウム200mM、酢酸アンモニュウム100mM、塩化マグネシウム46mM、エチレンジアミン四酢酸0.2mM、0.04%アジ化ナトリウム(w/v)、ジチオスレイトール10mM、グアノシン二リン酸20μM、8%ポリエチレングリコール3000(w/v)、葉酸200μM、20の全アミノ酸1.2mMずつ、炭素14標識化ロイシン126μM、アデノシン三リン酸とグアノシン三リン酸2mMずつ、ウリジン三リン酸とシチジン三リン酸1mMずつ、ホスホエノールピルビンサン塩60mM、アセチルリン酸20mMからなる。続く第二回合成を1.5時間37℃で行った。伸長因子Tの取得量は(合計で)第一回合成後114μgであり第二回合成後は221μgであった。その定量は適用放射性標識化炭素14ロイシンを積算して決定した。
実施例2.四回再循環ステップによるバッチ反応の四回繰り返し
【0028】
S−混合物350μl、E混合物80μl(ドイツ、ベルリン、リナ社(RiNa GmbH)、カタログ番号P−1102−14、“リナ体外PBSキット“(RiNa in Vitro PBS Kit)成分として入手可能)、HEPES(pH7.6)35mM、酢酸カリウム70mM、酢酸アンモニュウム35mM、塩化マグネシウム10mM、エチレンジアミン四酢酸0.07mM、0.014%アジ化ナトリウム(w/v)、ジチオスレイトール5mM、葉酸100μM、20の全アミノ酸1.2mMずつ、炭素14標識化ロイシン63μM、大腸菌の伸長因子T用コード化プラスミドDNA5nM及びRNA分解酵素無含有添加水1mlを含む無細胞蛋白質生合成用反応溶液1mlを培養(1.5時間、37℃)後セファデックス(Sephadex)基質(G−25)でゲル濾過し、限外濾過(10キロダルトン膜)により初期体積の50%(500μl)に減じ、以下成分の補填混合物500μlと反応した。混合物はHEPES(pH7.6)100mM、酢酸カリウム200mM、酢酸アンモニュウム100mM、塩化マグネシウム26mM、エチレンジアミン四酢酸0.2mM、0.04%アジ化ナトリウム(w/v)、ジチオスレイトール10mM、グアノシン二リン酸20μM、葉酸200μM、20の全アミノ酸2.4mMずつ、炭素14標識化ロイシン126μM、アデノシン三リン酸とグアノシン三リン酸2mMずつ、ウリジン三リン酸とシチジン三リン酸1mMずつ、ホスホエノールピルビンサン塩60mM及びアセチルリン酸20mMからなる。それに続く第二回合成を1.5時間、37℃で行った。再循環ステップ(ゲル濾過、限外濾過、補填)及び合成ステップを数回繰り返した。(再循環:別に3回=全部で4回;合成:別に3回=全部で5回)。伸長因子Tの取得量は(全体で)第一回合成後171μg、第二回合成後315μg、第三回合成後447μg、第四回合成後561μg及び第五回合成後650μgである。その定量は適用放射性標識化14炭素ロイシンを積算して決定した。
実施例3.二回再循環ステップによる高収率バッチ反応の二回繰り返し
【0029】
無細胞蛋白質生合成用反応溶液1.8mlを以下の様に作成した。イージーエックスプレス(登録商標)反応緩衝液(EasyXPress Reaction Buffer)720μlを大腸菌抽出物630μl(ドイツ、ヒルデン、キアーゲン社(Qiagen GmbH)、カタログ番号32506、イージーエックスプレス(登録商標)蛋白質合成マクシキット(EasyXPress Protein Synthesis Maxi Kit)に含まれる両成分)、炭素14標識化ロイシン(100dpm/pmol)63mM、大腸菌の伸長因子T用コード化プラスミドDNA10mM及びRNA分解酵素無含有添加水1.8mlと反応した。この反応物を限外濾過(10キロダルトン膜)により1mlに濃縮し、1時間37℃で培養した。この第一回合成段階後、このバッチをナップー10(Nap-10)カラム(セファデックスG−25(Sephadex G-25)上でゲル濾過し、HEPES(pH7.6)300mM、600mM酢酸カリウム、酢酸アンモニュウム300mM、塩化マグネシウム114mM、エチレンジアミン四酢酸0.6mM、0.12%アジ化ナトリウム(w/v)、ジチオスレイトール6mM、グアノシン二リン酸60μM、24%ポリエチレングリコール3000(w/v)、葉酸600μM、20の全アミノ酸7.2mMずつ、炭素14標識化ロイシン380μM、アデノシン三リン酸とグアノシン三リン酸10.2mMずつ、ウリジン三リン酸とシチジン三リン酸5.1mMずつ、ホスホエノールピルビンサン塩306mM、102mMアセチルリン酸を含む溶液300μlを補填した。続く第二回合成を1時間37℃で行った。この後再循環ステップ(ゲル濾過、補填)及び合成ステップをもう一度繰り返し、且つこの補填混合物は以下組成からなる。HEPES(pH7.6)300mM、酢酸カリウム600mM、酢酸アンモニュウム300mM、塩化マグネシウム78mM、エチレンジアミン四酢酸0.6mM、0.12%アジ化ナトリウム(w/v)、ジチオスレイトール6mM、グアノシン二リン酸60μM、24%ポリエチレングリコール3000(w/v)、葉酸600μM、20の全アミノ酸7.2mMずつ、炭素14標識化ロイシン380μM、アデノシン三リン酸とグアノシン三リン6mMずつ酸、ウリジン三リン酸とシチジン酸リン酸3mMずつ、ホスホエノールピルビンサン塩180mM及びアセチルリン酸60mM。全体で三回の合成ステップと二回の再循環ステップを通した。伸長因子Tの取得量は(全体で)第一回合成後563μg、第二回合成後1,804μg及び第三回合成後2,487μgである。それ故二回繰り返すことにより第一回合成ステップの4.4倍の収率が得られた。その定量は適用放射性標識化14炭素ロイシンを積算して決定した。図1にこの実施例での蛋白質生成物のドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミド電気泳動分析を示す。左側にクーマシー染色が見られ、右側にオートラジオグラムを示す。トラックMは分子量標準であり、トラックS1からS3は三回の合成ステップに相当する。伸長因子Tの理論値は31.6キロダルトンである。
実施例4.翻訳系のプログラミング/条件付け
【0030】
第一回合成ステップで第二回合成ステップで生成する製品蛋白質の合成又は品質用遺伝子、例えば監視(製品蛋白質の溶解度促進)用遺伝子を用いる。監視役遺伝子は大腸菌プロモーターの制御下にある。第一回合成ステップ完了後、再循環ステップを実施し、ここでは発現生成物(監視者)を分離せずに、補填だけと製品蛋白質用T7プロモーター制御下で遺伝子を添加する。更に大腸菌RNAポリメラーゼの阻害剤、例えばリファンピシンを添加する。それ故第二回合成ステップでは実際には全く製品蛋白質発現のみが起こり、第一回合成ステップで監視役が存在するため、後者の溶解度がかなり改善されることになる。第一回合成ステップで用いたRNAポリメラーゼの阻害の代わりに、このステップで用いる遺伝子又は鋳型濃度を第二回合成ステップで、例えば分離又は希釈により減少する事ができる。
実施例5.本発明に従う方法用の装置
【0031】
図2に本発明に適した装置を示す。反応モジュール1、再循環モジュール2、溶液移動用手段3及び循環ライン4を示す。反応モジュール1ではステップ(b)、(b')及び/又は(e')を実施する。再循環モジュール2ではステップ(c)、(d)、(c') 及び/又は(d')が行われる。溶液移動手段3は決めた時間後本発明に従う各ステップを続いて行うように制御する。更に分離モジュール5があり、ここで発現生成物を溶液から分離する。又分離モジュール5をバイパス7で循環ライン4と連結する切り替え手段6を備える。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例3での蛋白質生成物のドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミド電気泳動分析を示す。
図2】本発明に適した装置を示す。
図1
図2