(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含む。
【0022】
1.化学機械研磨用水系分散体
本発明の一実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)スルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するシリカ粒子(以下、単に「(A)シリカ粒子」ともいう)と、(B)酸性化合物と、を含有することを特徴とする。以下、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体に含まれる各成分について、詳細に説明する。
【0023】
1.1.(A)シリカ粒子
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、砥粒として(A)スルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するシリカ粒子を含有する。すなわち、本実施の形態において使用されるシリカ粒子は、その表面にスルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基が共有結合を介して表面に固定されたシリカ粒子であり、その表面にスルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物が物理的あるいはイオン的に吸着したようなものは含まれない。また、本発明において、「スルホ基の塩」とは、スルホ基(−SO
3H)に含まれている水素イオンを金属イオンやアンモニウムイオン等の陽イオンで置換した官能基のことをいう。
【0024】
本実施の形態において使用されるシリカ粒子は、以下のようにして製造することができる。
【0025】
まず、シリカ粒子を用意する。シリカ粒子としては、例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等が挙げられるが、スクラッチ等の研磨欠陥を低減する観点から、コロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカは、例えば、特開2003−109921号公報等に記載されているような公知の方法で製造されたものを使用することができる。このようなシリカ粒子の表面を修飾することにより、本実施の形態で使用可能な(A)スルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するシリカ粒子を製造することができる。以下にシリカ粒子の表面を修飾する方法を例示するが、本発明はこの具体例により何ら限定されるものではない。
【0026】
シリカ粒子の表面の修飾は、特開2010−269985号公報や、J.Ind.Eng.Chem.,Vol.12,No.6,(2006)911−917等に記載されているような公知の方法を適用することが可能である。例えば前記シリカ粒子とメルカプト基含有シランカップリング剤を酸性媒体中で十分に撹拌することにより、前記シリカ粒子の表面にメルカプト基含有シランカップリング剤を共有結合させることで達成できる。メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
次に、さらに過酸化水素を適量添加して十分に放置することにより、スルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するシリカ粒子を得ることができる。
【0028】
(A)シリカ粒子の平均粒子径は、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体を動的光散乱法で測定することによって得られる。かかる場合、(A)シリカ粒子の平均粒子径は、15nm以上100nm以下であることが好ましく、30nm以上70nm以下であることがより好ましい。(A)シリカ粒子の平均粒子径が前記範囲であると、実用的な研磨速度を達成することができる場合がある。さらに、シリコン酸化膜の研磨速度が抑制できる傾向がある。動的光散乱法による粒子径測定装置としては、ベックマン・コールター社製のナノ粒子アナライザー「DelsaNano S」、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」等が挙げられる。なお、動的光散乱法を用いて測定した平均粒子径は、一次粒子が複数個凝集して形成された二次粒子の平均粒子径を表している。
【0029】
(A)シリカ粒子のゼータ電位は、化学機械研磨用水系分散体のpHが1以上6以下の場合、化学機械研磨用水系分散体中において負電位であり、その負電位は−20mV以下であることが好ましい。負電位が−20mV以下であると、粒子間の静電反発力によって効果的に粒子同士の凝集を防ぐと共に、化学機械研磨の際に正電荷を帯びる基板を選択的に研磨できる場合がある。なお、ゼータ電位測定装置としては、大塚電子株式会社製の「ELSZ−1」、Malvern社製の「Zetasizer nano zs」等が挙げられる。(A)シリカ粒子のゼータ電位は、前述したメルカプト基含有シランカップリング剤の添加量を増減することにより適宜調整することができる。
【0030】
(A)シリカ粒子の含有量は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは1質量%以上10質量%以下、より好ましくは2質量%以上8質量%以下、特に好ましくは3質量%以上6質量%以下である。
【0031】
1.2.(B)酸性化合物
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(B)酸性化合物を含有する。(B)酸性化合物としては、有機酸および無機酸が挙げられる。したがって、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、有機酸および無機酸から選択される少なくとも1種を使用することができる。(B)酸性化合物は、(A)シリカ粒子との相乗効果により、特にシリコン窒化膜の研磨速度を大きくする作用効果を奏する。
【0032】
有機酸としては、特に制限されないが、例えば、マロン酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、乳酸等、およびこれらの塩が挙げられる。
【0033】
無機酸としては、特に制限されないが、例えば、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸等、これらの塩および誘導体が挙げられる。
【0034】
前記例示した(B)酸性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(B)酸性化合物としては、シリコン窒化膜を研磨する用途においては、有機酸が好ましく、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸がより好ましく、酒石酸が特に好ましい。前記例示した酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸は、分子内に2以上のカルボキシル基および1以上のヒドロキシル基を有している。このヒドロキシル基は、シリコン窒化膜中に存在する窒素原子と水素結合することができるので、シリコン窒化膜の表面に前記例示した有機酸が多く存在するようになる。これにより、前記例示した有機酸中のカルボキシル基がエッチング作用することで、シリコン窒化膜の研磨速度を大きくすることができる。
【0036】
以上のように、(B)酸性化合物として前記例示した酒石酸、リンゴ酸、クエン酸を使用することで、シリコン窒化膜に対する研磨速度をより大きくすることができる。
【0037】
(B)酸性化合物の含有量は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上1質量%以下であり、特に好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下である。
【0038】
1.3.分散媒
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、分散媒を含有する。分散媒としては、水、水およびアルコールの混合媒体、水および水との相溶性を有する有機溶媒を含む混合媒体等が挙げられる。これらの中でも、水、水およびアルコールの混合媒体を用いることが好ましく、水を用いることがより好ましい。
【0039】
1.4.その他の添加剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて界面活性剤、水溶性高分子、防蝕剤、pH調整剤等の添加剤を添加してもよい。以下、各添加剤について説明する。
【0040】
1.4.1.界面活性剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤には、化学機械研磨用水系分散体に適度な粘性を付与する効果がある。化学機械研磨用水系分散体の粘度は、25℃において0.5mPa・s以上10mPa・s未満となるように調製することが好ましい。
【0041】
界面活性剤としては、特に制限されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸塩;アルキルリン酸エステル等のリン酸エステル塩;パーフルオロアルキル化合物等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族アンモニウム塩等が挙げられる。
【0044】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレンアルコール等の三重結合を有する非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール型界面活性剤等が挙げられる。また、ポリビニルアルコール、シクロデキストリン、ポリビニルメチルエーテル、ヒドロキシエチルセルロース等を用いることもできる。
【0045】
前記例示した界面活性剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムがより好ましい。
【0046】
これらの界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
界面活性剤の含有量は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以上0.2質量%以下である。
【0048】
1.4.2.水溶性高分子
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて水溶性高分子を添加してもよい。水溶性高分子には、シリコン窒化膜の表面に吸着し研磨摩擦を低減させる効果がある。この効果により、シリコン窒化膜のディッシングの発生を低減することができる。
【0049】
水溶性高分子としては、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0050】
水溶性高分子の含有量は、化学機械研磨用水系分散体の粘度が10mPa・s未満となるように調整することができる。
【0051】
1.4.3.防蝕剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じて防蝕剤を添加してもよい。防蝕剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体が挙げられる。ここで、ベンゾトリアゾール誘導体とは、ベンゾトリアゾールの有する1個または2個以上の水素原子を、例えば、カルボキシル基、メチル基、アミノ基、ヒドロキシル基等で置換したものをいう。ベンゾトリアゾール誘導体としては、4−カルボキシルベンゾトリアゾールおよびその塩、7−カルボキシベンゾトリアゾールおよびその塩、ベンゾトリアゾールブチルエステル、1−ヒドロキシメチルベンゾトリアゾールまたは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0052】
防蝕剤の添加量は、化学機械研磨用水系分散体の全質量に対して、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以上0.1質量%以下である。
【0053】
1.4.4.pH調整剤
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、さらに必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、例えば、水酸化カリウム、エチレンジアミン、TMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)、アンモニア等の塩基性化合物が挙げられる。本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、前述したように(B)酸性化合物を含有しているので、通常前記例示した塩基性化合物を用いてpHの調整を行うことができる。
【0054】
1.5.pH
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体のpHは、特に制限されないが、好ましくは1以上6以下、より好ましくは2以上4以下である。pHが前記範囲にあると、シリコン窒化膜の研磨速度をより大きくすることができる一方で、シリコン酸化膜の研磨速度をより小さくすることができる。その結果、シリコン窒化膜を選択的に研磨することができる。さらに、pHが2以上4以下であると、化学機械研磨用水系分散体の貯蔵安定性が良好となるためより好ましい。
【0055】
1.6.用途
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、主として半導体装置を構成する複数の基板のうち、化学機械研磨の際に正電荷を帯びる基板を研磨するための研磨材として使用することができる。化学機械研磨の際に正電荷を帯びる代表的な基板としては、シリコン窒化膜、ドープされたポリシリコン等が挙げられる。本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、これらの中でもシリコン窒化膜を研磨する用途に特に適している。
【0056】
なお、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体のシリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の研磨速度比は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜のそれぞれを同一の研磨条件で研磨した際に、[シリコン窒化膜の研磨速度/シリコン酸化膜の研磨速度]の値が3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましいといえる。
【0057】
1.7.化学機械研磨用水系分散体の調製方法
本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、水等の分散媒に前述した各成分を溶解または分散させることにより調製することができる。溶解または分散させる方法は、特に制限されず、均一に溶解または分散できればどのような方法を適用してもよい。また、前述した各成分の混合順序や混合方法についても特に制限されない。
【0058】
また、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、濃縮タイプの原液として調製し、使用時に水等の分散媒で希釈して使用することもできる。
【0059】
2.化学機械研磨方法
本実施の形態に係る化学機械研磨方法は、前述した本発明に係る化学機械研磨用水系分散体を用いて、半導体装置を構成する複数の基板のうち、化学機械研磨の際に正電荷を帯びる基板(例えば、シリコン窒化膜)を研磨することを特徴とする。以下、本実施の形態に係る化学機械研磨方法の一具体例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0060】
2.1.被処理体
図1は、本実施の形態に係る化学機械研磨方法の使用に適した被処理体を模式的に示した断面図である。被処理体100は、以下の工程(1)ないし(4)を経ることにより形成される。
【0061】
(1)まず、シリコン基板10を用意する。シリコン基板10には、(図示しない)トランジスタ等の機能デバイスが形成されていてもよい。
【0062】
(2)次に、シリコン基板10の上に、CVD法または熱酸化法を用いて第1酸化シリコン膜12を形成する。さらに、第1シリコン酸化膜12の上に、CVD法を用いてシリコン窒化膜14を形成する。
【0063】
(3)次に、シリコン窒化膜14をパターニングする。それをマスクとして、リソグラフィー法またはエッチング法を適用してトレンチ20を形成する。
【0064】
(4)次に、トレンチ20を充填するように、第2シリコン酸化膜16を高密度プラズマCVD法により堆積させると、被処理体100が得られる。
【0065】
2.2.化学機械研磨方法
2.2.1.第1研磨工程
まず、
図1に示すような被処理体100のシリコン窒化膜14上に堆積した第2シリコン酸化膜16を除去するために、シリコン酸化膜の選択比が大きい化学機械研磨用水系分散体を用いて第1研磨工程を行う。
図2は、第1研磨工程終了時の被処理体を模式的に示した断面図である。第1研磨工程では、シリコン窒化膜14がストッパーとなり、シリコン窒化膜14の表面で研磨を停止することができる。このとき、酸化シリコンが充填されたトレンチ20では、ディッシングが発生する。これにより、
図2に示すように、シリコン窒化膜14が残るが、シリコン窒化膜14上には第2シリコン酸化膜16の研磨残渣がしばしば残存する。この研磨残渣は、その後のシリコン窒化膜14の研磨に影響を及ぼす場合がある。
【0066】
2.2.2.第2研磨工程
次に、
図2に示すシリコン窒化膜14を除去するために、前述した本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体を用いて、第2研磨工程を行う。
図3は、第2研磨工程終了時の被処理体を模式的に示した断面図である。本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の研磨速度比が十分に大きく、シリコン酸化膜の研磨速度が極端に低すぎないために、シリコン酸化膜の研磨残渣の影響を受けることなく、シリコン窒化膜14を円滑に研磨除去することができる。このようにして、
図3に示すようなトレンチ20に酸化シリコンが埋め込まれた半導体装置を得ることができる。本実施の形態に係る化学機械研磨方法は、例えば、トレンチ分離(STI)等に適用することができる。
【0067】
2.3.化学機械研磨装置
前述した第1研磨工程および第2研磨工程には、例えば、
図4に示すような化学機械研磨装置200を用いることができる。
図4は、化学機械研磨装置200を模式的に示した斜視図である。各研磨工程は、スラリー供給ノズル42からスラリー(化学機械研磨用水系分散体)44を供給し、かつ、研磨布46が貼付されたターンテーブル48を回転させながら、半導体基板50を保持したキャリアーヘッド52を当接させることにより行う。なお、
図4には、水供給ノズル54およびドレッサー56も併せて示してある。
【0068】
キャリアーヘッド52の押し付け圧は、10〜1,000hPaの範囲内で選択することができ、好ましくは30〜500hPaである。また、ターンテーブル48およびキャリアーヘッド52の回転数は10〜400rpmの範囲内で適宜選択することができ、好ましくは30〜150rpmである。スラリー供給ノズル42から供給されるスラリー(化学機械研磨用水系分散体)44の流量は、10〜1,000mL/分の範囲内で選択することができ、好ましくは50〜400mL/分である。
【0069】
市販の研磨装置として、例えば、株式会社荏原製作所製、形式「EPO−112」、「EPO−222」;ラップマスターSFT社製、型式「LGP−510」、「LGP−552」;アプライドマテリアル社製、型式「Mirra」、「Reflexion」等が挙げられる。
【0070】
3.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0071】
3.1.コロイダルシリカを含む水分散体の調製
容量2000cm
3のフラスコに、25質量%濃度のアンモニア水70g、イオン交換水40g、エタノール175gおよびテトラエトキシシラン21gを投入し、180rpmで撹拌しながら60℃に昇温した。60℃のまま1時間撹拌した後冷却し、コロイダルシリカ/アルコール分散体を得た。次いで、エバポレータにより、80℃でこの分散体にイオン交換水を添加しながらアルコール分を除去する操作を数回繰り返すことにより分散体中のアルコールを除き、固形分濃度15%の水分散体を調製した。この水分散体の一部を取り出しイオン交換水で希釈したサンプルについて、動的光散乱式粒子径測定装置(株式会社堀場製作所製、形式「LB550」)を用い、算術平均径を平均粒子径として測定したところ、35nmであった。
【0072】
他の平均粒子径(10nm、50nm、70nm、130nm)のコロイダルシリカ水分散体は、上記の方法と同様の方法でテトラエトキシシランの添加量および撹拌時間を適宜調整することにより作製した。
【0073】
なお、表中において、上記のようにして得られた通常のコロイダルシリカを含む水分散体を「シリカタイプB」と称する。
【0074】
3.2.スルホ基修飾コロイダルシリカを含む水分散体の調製
イオン交換水50gに酢酸5gを投入し、撹拌しながらさらにメルカプト基含有シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製、商品名「KBE803」)5gを徐々に滴下した。30分後、「3.1.コロイダルシリカを含む水分散体の調製」において調製された水分散体を1000g添加し、さらに1時間撹拌を継続した。その後、31%過酸化水素水を200g投入し、48時間室温にて放置することにより、スルホ基およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するコロイダルシリカを得た。この水分散体の一部を取り出しイオン交換水で希釈したサンプルについて、動的光散乱式粒子径測定装置(株式会社堀場製作所製、形式「LB550」)を用い、算術平均径を平均粒子径として測定したところ35nmであった。
【0075】
他の平均粒子径(10nm、50nm、70nm、130nm)のコロイダルシリカ水分散体についても、上記の方法と同様にしてコロイダルシリカの表面をスルホ基にて修飾することができた。上記以外のスルホ基修飾コロイダルシリカ水分散体の平均粒子径についても上記の方法と同様にして測定したところ、平均粒子径の増減は確認できなかった。
【0076】
なお、表中において、上記のようにして得られたスルホ基修飾コロイダルシリカを含む水分散体を「シリカタイプA」と称する。
【0077】
3.3.化学機械研磨用水系分散体の調製
「3.2.スルホ基修飾コロイダルシリカを含む水分散体の調製」において調製された水分散体の所定量を容量1000cm
3のポリエチレン製の瓶に投入し、これに表記載の酸性物質を表記載の含有量となるようにそれぞれ添加し十分に撹拌した。その後、撹拌しながらイオン交換水を加え、所定のシリカ濃度となるように調節した後、さらにアンモニアを使用して表に記載の所定のpHとした。その後、孔径5μmのフィルタで濾過し、実施例1〜10及び比較例1〜5の化学機械研磨用水系分散体を得た。
【0078】
得られた化学機械研磨用水系分散体について、ゼータ電位測定装置(大塚電子株式会社製、形式「ELSZ−1」)を用いてスルホ基修飾コロイダルシリカのゼータ電位を測定した。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0079】
3.4.化学機械研磨試験
「3.3.化学機械研磨用水系分散体の調製」において調製した化学機械研磨用水系分散体を用いて、直径8インチのシリコン窒化膜またはシリコン酸化膜付きシリコン基板を被研磨体として、下記の研磨条件1でそれぞれの膜について化学機械研磨を行った。
<研磨条件1>
・研磨装置:株式会社荏原製作所製、形式「EPO−112」
・研磨パッド:ロデール・ニッタ株式会社製、「IC1000/K−Groove」
・化学機械研磨用水系分散体供給速度:200mL/分
・定盤回転数:90rpm
・研磨ヘッド回転数:90rpm
・研磨ヘッド押し付け圧:140hPa
【0080】
3.4.1.研磨速度の算出
被研磨体である直径8インチのシリコン窒化膜またはシリコン酸化膜付き基板のそれぞれについて、研磨前の膜厚をナノメトリクス・ジャパン株式会社製の光干渉式膜厚計「NanoSpec 6100」を用いて予め測定しておき、上記の条件で1分間研磨を行った。研磨後の被研磨体の膜厚を、同様に光干渉式膜厚計を用いて測定し、研磨前と研磨後の膜厚の差、すなわち化学機械研磨により減少した膜厚を求めた。そして、化学機械研磨により減少した膜厚および研磨時間から研磨速度を算出した。この結果を表1〜2に併せて示す。
【0081】
3.4.2.貯蔵安定性の評価
「3.3.化学機械研磨用水系分散体の調製」の項で作製した化学機械研磨用水系分散体を、500ccのポリ瓶に500cc入れ、25℃の環境下で2週間貯蔵した。貯蔵前後の平均粒子径の変化について、動的光散乱式粒子径測定装置(株式会社堀場製作所製、形式「LB550」)を用い、算術平均径を平均粒子径として測定した。貯蔵前の粒子径に対し、貯蔵後の平均粒子径が5%未満の増大である場合には貯蔵安定性が非常に良好と判断し「◎」、5%以上10%未満の増大である場合は良好と判断し「○」、10%以上の増大である場合は不良と判断し「×」と表に記載した。
【0082】
3.4.3.評価結果
実施例1〜10では、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の研磨速度比が3以上に高められている。
【0083】
比較例1は、スルホ基修飾コロイダルシリカを用いているが、酸性物質を含まない例である。この場合には、研磨速度比が不十分であり適用できない。
【0084】
比較例2〜4は、通常のコロイダルシリカを用い、酸性物質の種類を変更した例である。いずれの比較例においても、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の研磨速度比が小さく、貯蔵安定性が不良であるため適用できない。
【0085】
比較例5は、平均粒子径の小さい通常のコロイダルシリカを用いた例である。研磨速度比は高められているが、研磨速度が小さすぎ、貯蔵安定性が不良であるため適用できない。
【0088】
3.5.実験例
あらかじめシリコン窒化膜が埋め込まれたテスト用ウエハを用いて、化学機械研磨を行った。具体的には、被処理体300として、864CMP(アドバンスマテリアルズテクノロジー社製のテスト用ウエハであり、
図5に示すような断面構造を有するもので、ベアシリコン110上に第1シリコン酸化膜112、シリコン窒化膜114を順次堆積させた後、リソグラフィー加工により溝加工を行い、さらに第2シリコン酸化膜116を高密度プラズマCVD法により堆積させたもの)を用いた。
【0089】
前記テスト用ウエハは、あらかじめJSR株式会社製のCMS4301およびCMS4302を使用して、下記の研磨条件2でシリコン窒化膜114の上面が露出するまで予備研磨を行った。シリコン窒化膜114の露出は、研磨機のテーブルトルク電流の変化を終点検出器により検知することで確認した。
<研磨条件2>
・研磨装置:株式会社荏原製作所製、形式「EPO−112」
・研磨パッド:ロデール・ニッタ株式会社製、「IC1000/K−Groove」
・化学機械研磨用水系分散体供給速度:200mL/分
・定盤回転数:100rpm
・キャリアーヘッド回転数:110rpm
・キャリアー押し付け圧:210hPa
【0090】
図6は、予備研磨後の被処理体(864CMP)の状態を模式的に示す断面図である。化学機械研磨後の被研磨面は、
図6に示すように、シリコン窒化膜114上に形成された第2シリコン酸化膜116が完全に除去されていた。光干渉式膜厚計「NanoSpec 6100」によりパターン密度50%の100μmピッチ内におけるシリコン窒化膜114の厚さを測定したところ、シリコン窒化膜114の厚さは約150nmであった。
【0091】
また、シリコン窒化膜114に対する第2シリコン酸化膜116のディッシングの深さを触針式段差測定装置「HRP240」により測定したところ、ディッシングの深さは約40nmであった。
【0092】
最後に、実施例1で使用した化学機械研磨用水系分散体を使用して、前記研磨条件1で150秒間本研磨を行った。
図7は、本研磨後の被処理体(864CMP)の状態を模式的に示す断面図である。
【0093】
図7に示すように、本研磨後の被研磨面内におけるシリコン窒化膜114の厚さは、ほぼ0nmであった。パターン密度50%の100μmピッチ内におけるディッシングの深さは、約20nmであり、素子分離性能を期待する上で好適であることが分かった。
【0094】
以上のことから、本実施の形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、シリコン酸化膜に対するシリコン窒化膜の研磨速度比が十分に大きいため、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜とが共存する半導体装置においてシリコン窒化膜を選択的に研磨できることが分かった。