(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項4又は5記載のNi−Zn−Cu系フェライト焼結体において、直流重畳磁場を印加しない状態で測定した透磁率μ0が20〜170、コア損失P0が500kW/m3以下であり、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態で測定した透磁率μ1000とμ0の比μ1000/μ0が0.4以上であり、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態で測定したコア損失P1000とP0の比P1000/P0が0.7〜2.0であり、温度に対する透磁率μ0の変化率が100℃において10%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前出特許文献1には、酸化ケイ素を添加したNi−Zn−Cu系フェライトは、磁束密度を25mTに設定したときの透磁率・コア損失の直流重畳特性が優れていることが記載されている。磁束密度を25mTとするには、数百A/m程度の大きな交流磁場、即ち大きな交流電流を印加する必要があり、このことは、該フェライトは大きな交流電流に対しても直流重畳特性が優れていることを示している。但し、温度特性については考慮されておらず、回路動作時に温度が上昇した場合、所定の特性を維持できるかは分からない。
【0006】
前出特許文献2には、酸化ビスマス、酸化錫、酸化クロムを添加したNi−Zn−Cu系フェライトは、直流重畳特性と温度特性に優れていることが示されている。但し、直流重畳特性を測定する際の印加磁界は約1A/m程度であり、大きな交流電流を流したときに優れた直流重畳特性を示すかは不明である。
【0007】
そこで、本発明は、酸化ケイ素、酸化ビスマス又は酸化クロムなどの化合物を添加することなく、優れた温度特性を有するとともに、大きな交流磁場を印加した場合でも優れた直流重畳特性を有するフェライト材料を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題は、次のとおりの本発明によって達成できる。
【0009】
即ち、本発明は、Ni−Zn−Cuフェライト、酸化ニッケル及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライト粉末であって、酸化物換算で35〜45mol%のFe
2O
3、10〜20mol%のNiO、30〜40mol%のZnO、6〜15mol%のCuOからなる組成のNi−Zn−Cuフェライトを70〜95wt%含有し、酸化ニッケルを1〜20wt%含有し、酸化銅を1〜10wt%含有することを特徴とするNi−Zn−Cu系フェライト粉末である(本発明1)。
【0010】
また、本発明は、Ni−Zn−Cuフェライト、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライト粉末であって、酸化物換算で35〜45mol%のFe
2O
3、10〜20mol%のNiO、30〜40mol%のZnO、6〜15mol%のCuOからなる組成のNi−Zn−Cuフェライトを70〜95wt%含有し、酸化ニッケルを1〜20wt%含有し、酸化亜鉛を20wt%以下含有し、酸化銅を1〜10wt%含有するNi−Zn−Cu系フェライト粉末である(本発明2)。
【0011】
また、本発明は、本発明1又は2記載のNi−Zn−Cu系フェライト粉末と結合材料とを用いてシート状に成膜してなるグリーンシートである(本発明3)。
【0012】
また、本発明は、Ni−Zn−Cuフェライト、酸化ニッケル及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体であって、酸化物換算で35〜45mol%のFe
2O
3、10〜20mol%のNiO、30〜40mol%のZnO、6〜15mol%のCuOからなる組成のNi−Zn−Cuフェライトを70〜95wt%含有し、酸化ニッケルを1〜20wt%含有し、酸化銅を1〜10wt%含有することを特徴とするNi−Zn−Cu系フェライト焼結体である(本発明4)。
【0013】
また、本発明は、Ni−Zn−Cuフェライト、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体であって、酸化物換算で35〜45mol%のFe
2O
3、10〜20mol%のNiO、30〜40mol%のZnO、6〜15mol%のCuOからなる組成のNi−Zn−Cuフェライトを70〜95wt%含有し、酸化ニッケルを1〜20wt%含有し、酸化亜鉛を20wt%以下含有し、酸化銅を1〜10wt%含有するNi−Zn−Cu系フェライト焼結体である(本発明5)。
【0014】
また、本発明は、本発明4又は5記載のNi−Zn−Cu系フェライト焼結体において、直流重畳磁場を印加しない状態で測定した透磁率μ
0が20〜170、コア損失P
0が500kW/m
3以下であり、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態で測定した透磁率μ
1000とμ
0の比μ
1000/μ
0が0.4以上であり、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態で測定したコア損失P
1000とP
0の比P
1000/P
0が0.7〜2.0であり、温度に対する透磁率μ
0の変化率が100℃において10%以下であるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体である(本発明6)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は、これを焼結して得られる焼結体の温度特性が優れており、更に、大きな交流磁場を印加した場合においても直流重畳特性が優れているので、インダクタンス素子用のフェライト粉末として好適である。
【0016】
本発明に係るグリーンシートは、これを焼結して得られる焼結体の温度特性が優れており、更に、大きな交流磁場を印加した場合においても直流重畳特性が優れているので、インダクタンス素子用のグリーンシートとして好適である。
【0017】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は、温度特性が優れており、更に、大きな交流磁場を印加した場合においても直流重畳特性が優れているので、インダクタンス素子用のフェライト焼結体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0019】
まず、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末について述べる。
【0020】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は、Ni−Zn−Cuフェライト、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライト粉末であって、酸化物換算で35〜45mol%のFe
2O
3、10〜20mol%のNiO、30〜40mol%のZnO、6〜15mol%のCuOからなる組成のNi−Zn−Cuフェライトを70〜95wt%含有し、酸化ニッケルを1〜20wt%含有し、酸化亜鉛を20wt%以下含有し、酸化銅を1〜10wt%含有するものである。
【0021】
一般的なNi−Zn−Cuフェライトは、原料として約50mol%のFe
2O
3粉末と残部NiO粉末、ZnO粉末及びCuO粉末を混合した後、焼成・粉砕することで得られる。その際、混合した原料は全て反応するので、単一相のスピネル型フェライトが得られ、原料のNiO、ZnO及びCuOは残存しない。これは、未反応のNiO、ZnO及びCuOによる透磁率の低下等を避けるためである。
【0022】
一方、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は、原料の配合量を化学量論組成としないで、35〜45mol%のFe
2O
3粉末と残部NiO粉末、ZnO粉末及びCuO粉末を混合した後、焼成・粉砕することによって得られる。この場合、Fe
2O
3の配合量が化学量論組成の50mol%より少ないため、相対的に酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅が余剰成分となり、生成物はNi−Zn−Cuフェライトと酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅の混合物となる。また、該Ni−Zn−Cu系フェライト粉末を焼結して得られる焼結体にも、この余剰の酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅が残存する。
【0023】
本発明は、Ni−Zn−Cu系フェライト粉末の組成及び各成分の含有量を制御することにより、優れた温度特性や直流重畳特性を有するNi−Zn−Cu系フェライト焼結体が得られることを見いだしたものである。
【0024】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末におけるNi−Zn−CuフェライトのFe
2O
3の組成が35mol%未満の場合は、該フェライト粉末の焼結性が悪く、焼結密度が低くなる。Fe
2O
3の組成が45mo%を越える場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときに温度特性と直流重畳特性が悪くなる。好ましいFe
2O
3の組成は37〜43mol%である。
【0025】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末におけるNi−Zn−CuフェライトのNiOの組成が10mol%未満の場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときに温度特性と直流重畳特性が悪くなる。NiOの組成が20mol%を越える場合には、該フェライト粉末を焼結体としたときにμ
0が小さくなるのでインダクタンス素子とした場合に大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましいNiOの組成は12〜18mol%である。
【0026】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末におけるNi−Zn−CuフェライトのZnOの組成が30mol%未満の場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときにμ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。ZnOの組成が40mol%を越える場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときに温度特性と直流重畳特性が悪くなる。好ましいZnOの組成は32〜38mol%である。
【0027】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末におけるNi−Zn−CuフェライトのCuOの組成が6mol%未満の場合は、該フェライト粉末の焼結性が悪く、焼結密度が低くなる。CuOの組成が15mol%を越える場合には、該フェライト粉末を焼結するときに焼結体に変形が生じやすくなる為、所望の形状の焼結体を得ることが困難になる。好ましいCuOの組成は7〜13mol%である。
【0028】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末におけるNi−Zn−Cuフェライトの含有量が70wt%未満の場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときにμ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。Ni−Zn−Cuフェライトの含有量が95wt%を越える場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときに温度特性と直流重畳特性が悪くなる。好ましいNi−Zn−Cuフェライトの含有量は75〜93wt%である。
【0029】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末における酸化ニッケルの含有量が1wt%未満の場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときに温度特性と直流重畳特性が悪くなる。酸化ニッケルの含有量が20wt%を越える場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときにμ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましい酸化ニッケルの含有量は、2〜15wt%である。
【0030】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末における酸化亜鉛の含有量が20wt%を越える場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときにμ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましい酸化亜鉛の含有量は18wt%以下であり、より好ましくは0.01〜15wt%である。本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は酸化亜鉛の含有量が0でも所望の効果を得られるものであるが、工業的生産性を考慮すると酸化亜鉛が存在することが好ましい。
【0031】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末における酸化銅の含有量が1wt%未満の場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときに温度特性と直流重畳特性が悪くなる。酸化銅の含有量が10wt%を越える場合は、該フェライト粉末を焼結体としたときにμ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましい酸化銅の含有量は、1〜8wt%である。
【0032】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は、950℃以下での焼結、所謂、低温焼結が可能であることから、Ag等との同時焼結により、焼結体内部に簡単に回路を形成することが出来る。
【0033】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末のBET比表面積は、2〜10m
2/gが好ましい。BET比表面積が2m
2/g未満の場合は、該フェライト粉末の焼結性が悪く、焼結密度が低くなる。BET比表面積が10m
2/gを越える場合には、後述するグリーンシート製造過程において溶剤に該フェライト粉末を均一に分散できない。好ましいBET比表面積は3〜8m
2/gである。
【0034】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は、常法により、フェライトを構成する各元素の酸化物、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩等の原料を所定の組成割合で混合して得られた原料混合物、又は、水溶液中で各元素を沈殿させて得られた共沈物を、大気中において650〜950℃の温度範囲で1〜20時間仮焼成した後、粉砕することにより得ることができる。
【0035】
次に、本発明に係るグリーンシートについて述べる。
【0036】
グリーンシートとは、上記Ni−Zn−Cu系フェライト粉末を結合材料、可塑剤及び溶剤等と混合することによって塗料とし、該塗料をドクターブレード式コーター等で数μmから数百μmの厚さに成膜した後、乾燥してなるシートである。このシートを重ねた後、加圧することで積層体とし、該積層体を所定の温度で焼結させることでインダクタンス素子を得ることができる。
【0037】
本発明に係るグリーンシートは、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末を100重量部に対して結合材料を2〜20重量部、可塑剤を0.5〜15重量部含有する。好ましくは、結合材料を4〜15重量部、可塑剤を1〜10重量部含有する。また、成膜後の乾燥が不十分なことにより溶剤が残留していても良い。更に、必要に応じて粘度調整剤等の公知の添加剤を添加しても良い。
【0038】
結合材料の種類は、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリメチルメタクリレート、塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステル、エチレンセルロース、アビエチン酸レジン等である。好ましい結合材料は、ポリビニルブチラールである。
【0039】
結合材料が2重量部未満の場合はグリーンシートが脆くなり、また、強度を持たす為には20重量部を越える含有量は必要ない。
【0040】
可塑剤の種類は、フタル酸ベンジル−n−ブチル、ブチルフタリルグリコール酸ブチル、ジブチルフタレート、ジメチルフタレート、ポリエチレングリコール、フタル酸エステル、ブチルステアレート、メチルアジテート等である。
【0041】
可塑剤が0.5重量部未満の場合はグリーンシートが固くなり、ひび割れが生じやすくなる。可塑剤が15重量部を越える場合はグリーンシートが軟らかくなり、扱いにくくなる。
【0042】
本発明に係るグリーンシートの製造においては、Ni−Zn−Cu系フェライト粉末100重量部に対して15〜150重量部の溶剤を使用する。溶剤が上記範囲外である場合は、均一なグリーンシートが得られないので、これを焼結して得られるインダクタンス素子は特性にバラツキのあるものとなりやすい。
【0043】
溶剤の種類は、アセトン、ベンゼン、ブタノール、エタノール、メチルエチルケトン、トルエン、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸n−ブチル、3メチル−3メトキシ−1ブタノール等である。
【0044】
積層圧力は、0.2×10
4〜0.6×10
4t/m
2が好ましい。
【0045】
次に、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体について述べる。
【0046】
本発明においては、焼結体の直流重畳特性の指標として、直流重畳磁場を印加しない状態で測定した透磁率μ
0と、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態で測定した透磁率μ
1000の比μ
1000/μ
0を用いた。この比μ
1000/μ
0は、直流重畳磁場が0A/mの場合の透磁率を基準として、直流重畳磁場を1000A/mとしたときの透磁率の低下の程度を示すものである。この値は通常1以下であるが、この値が1に近いほど直流重畳磁場を印加した場合に透磁率が低下しにくいことを意味し、その様な材料は、磁性材料自体が直流重畳特性に優れていることを表している。
【0047】
更に、本発明においては、焼結体の直流重畳特性の指標として、直流重畳磁場を印加しない状態で測定したコア損失P
0と、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態で測定したコア損失P
1000の比P
1000/P
0を用いた。この比P
1000/P
0は、直流重畳磁場が0A/mの場合のコア損失を基準として、直流重畳磁場を1000A/mとしたときのコア損失の変化の程度を示すものである。この値が1より大きくなると、直流重畳磁場を印加した場合にコア損失が大きくなることを示している。
【0048】
また、本発明においては、焼結体の温度特性は、25℃での透磁率と100℃での透磁率の差分を25℃での透磁率で除した変化率で評価した。
【0049】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は、Ni−Zn−Cuフェライトと酸化ニッケルと酸化亜鉛及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体であって、酸化物換算で35〜45mol%のFe
2O
3、10〜20mol%のNiO、30〜40mol%のZnO、6〜15mol%のCuOからなる組成のNi−Zn−Cuフェライトを70〜95wt%含有し、酸化ニッケルを1〜20wt%含有し、酸化亜鉛を0〜20wt%含有し及び酸化銅を1〜10wt%含有することを特徴とするNi−Zn−Cu系フェライト焼結体である。
【0050】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体におけるNi−Zn−CuフェライトのFe
2O
3の組成が35mol%未満の場合は、焼結密度が低くなる。Fe
2O
3の組成が45mo%を越える場合は、温度特性と直流重畳特性が悪くなる。好ましいFe
2O
3の組成は37〜43mol%である。
【0051】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体におけるNi−Zn−CuフェライトのNiOの組成が10mol%未満の場合は、温度特性と直流重畳特性が悪くなる。NiOの組成が20mol%を越える場合には、μ
0が小さくなるのでインダクタンス素子とした場合に大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましいNiOの組成は12〜18mol%である。
【0052】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体におけるNi−Zn−CuフェライトのZnOの組成が30mol%未満の場合は、μ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。ZnOの組成が40mol%を越える場合は、温度特性と直流重畳特性が悪くなる。好ましいZnOの組成は32〜38mol%である。
【0053】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体におけるNi−Zn−CuフェライトのCuOの組成が6mol%未満の場合は、焼結密度が低くなる。CuOの組成が15mol%を越える場合には、焼結するときに焼結体に変形が生じやすくなる為、所望の形状の焼結体を得ることが困難になる。好ましいCuOの組成は7〜13mol%である。
【0054】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体のNi−Zn−Cuフェライトの含有量が70wt%未満の場合は、μ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。Ni−Zn−Cuフェライトの含有量が95wt%を越える場合は、温度特性と直流重畳特性が悪くなる。好ましいNi−Zn−Cuフェライトの含有量は75〜93wt%である。
【0055】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の酸化ニッケルの含有量が1wt%未満の場合は、温度特性と直流重畳特性が悪くなる。酸化ニッケルの含有量が20wt%を越える場合は、μ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましい酸化ニッケルの含有量は、2〜15wt%である。
【0056】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の酸化亜鉛の含有量が20wt%を越える場合は、μ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましい酸化亜鉛の含有量は18wt%以下であり、より好ましくは0.01〜15wt%である。本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は酸化亜鉛の含有量が0でも所望の効果を得られるものであるが、工業的生産性を考慮すると酸化亜鉛が存在することが好ましい。
【0057】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の酸化銅の含有量が1wt%未満の場合は、温度特性と直流重畳特性が悪くなる。酸化銅の含有量が10wt%を越える場合は、μ
0が小さくなるのでインダクタンス素子としたときに大きなインダクタンス値を得にくくなる。好ましい酸化銅の含有量は、1〜8wt%である。
【0058】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の焼結密度は、4.9〜5.25g/cm
3が好ましい。焼結密度が4.9g/cm
3未満の場合は、焼結体の機械的強度が低い為、使用時に破損する可能性がある。焼結密度は高い方が良いが、本発明で得られる焼結密度の上限は5.25g/cm
3である。より好ましい焼結密度は4.95〜5.2g/cm
3である。
【0059】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の透磁率μ
0は、20〜170が好ましい。透磁率μ
0が20未満の場合は、インダクタンス素子とした場合に大きなインダクタンス値を得にくくなる。透磁率μ
0が150を超える場合には、直流重畳特性が劣化する。より好ましい透磁率μ
0は30〜160である。
【0060】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体のμ
1000/μ
0は0.4以上が好ましい。μ
1000′/μ
0′が0.4未満であると、直流重畳特性の劣るインダクタンス素子しか得られない。
【0061】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体のコア損失P
0は、500kW/m
3以下が好ましい。コア損失P
0が500kW/m
3を越える場合は、焼結体としての損失が大きくなることから、効率の悪いインダクタンス素子しか得られない。より好ましいコア損失P
0は400kW/m
3以下である。
【0062】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体のP
1000/P
0は、0.7〜2.0であることが好ましい。この範囲を外れる場合には、直流重畳特性が悪くなる。より好ましいP
1000/P
0は、0.8〜1.9である。
【0063】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の透磁率の温度に対する変化率は、100℃において10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下である。
【0064】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末を金型を用いて、0.3〜3.0×10
4t/m
2の圧力で加圧する、所謂、粉末加圧成型法により得られた成型体、又は、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末を含有するグリーンシートを積層する、所謂、グリーンシート法により得られた積層体を850〜1050℃で1〜20時間、好ましくは1〜10時間焼結することによって得ることができる。成型方法としては、公知の方法を使用できるが、上記粉末加圧成型法やグリーンシート法が好ましい。
【0065】
焼結温度が850℃未満であると、焼結密度が低下する為、焼結体の機械的強度が低くなる。焼結温度が1050℃を越える場合には、焼結体に変形が生じやすくなる為、所望の形状の焼結体を得ることが困難になる。より好ましい焼結温度は880〜1020℃である。
【0066】
本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は、所定の形状とすることによって、インダクタンス素子用の磁性材料として用いることができる。
【0067】
<作用>
本発明において最も重要な点は、特定の組成と含有量のNi−Zn−Cuフェライトと酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅からなるNi−Zn−Cu系フェライトを焼結して得られるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は、優れた温度特性と直流重畳特性を有するという事実である。これらの温度特性と直流重畳特性が向上する理由は、未だ明らかではないが、酸化ニッケル、酸化亜鉛及び酸化銅が特定の組成のNi−Zn−Cuフェライトの粒界に存在することにより、Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の磁化曲線が、緩やかな傾斜で直線的な変化をすることに起因するものであると本発明者は推定している。
【実施例】
【0068】
本発明の代表的な実施の形態は、次の通りである。
【0069】
Ni−Zn−Cu系フェライト粉末及び焼結体を構成する結晶相とその含有量は、X線回折装置D8 ADVANCE(Bruker AXS GmbH製)を用いて測定し、装置付属のソフトウエアTOPASを用いてリートベルト解析により評価した。
【0070】
Ni−Zn−Cu系フェライト粉末及びNi−Zn−Cu系フェライト焼結体中のNi−Zn−Cuフェライトの組成は、蛍光X線分析装置3530(理学電機工業(株)製)により得られた各元素の含有量と、前記リートベルト解析により得られた各結晶相の含有量から計算によって得た。
【0071】
Ni−Zn−Cu系フェライト粉末のBET比表面積は、4検体全自動比表面積測定及び8検体同時脱気装置4−ソーブU2(湯浅アイオニクス(株)製)を用いて測定した。
【0072】
Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の焼結密度は、試料の外径寸法から求めた体積と重量から算出した。
【0073】
Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の透磁率μ
0は、リング状焼結体に巻線を施し、周波数を1MHz、磁束密度を15mTとし、直流重畳磁場を印加しない状態でB−HアナライザSY−8232(岩通計測(株)製)を用いて25℃において測定した振幅比透磁率の値とした。
【0074】
Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の透磁率μ
1000は、リング状焼結体に巻線を施し、周波数を1MHz、磁束密度を15mT、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態でB−HアナライザSY−8232(岩通計測(株)製)を用いて25℃において測定した振幅比透磁率の値とした。μ
1000/μ
0は、μ
0とμ
1000から計算で求めた。
【0075】
Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体のコア損失P
0は、リング状焼結体に巻線を施し、周波数を1MHz、磁束密度を15mTとし、直流重畳磁場を印加しない状態でB−HアナライザSY−8232(岩通計測(株)製)を用いて25℃において測定したP
cvの値とした。
【0076】
Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体のコア損失P
1000は、リング状焼結体に巻線を施し、周波数を1MHz、磁束密度を15mT、直流重畳磁場を1000A/m印加した状態でB−HアナライザSY−8232(岩通計測(株)製)を用いて25℃において測定したP
cvの値とした。P
1000/P
0は、P
0とP
1000から計算で求めた。
【0077】
Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の透磁率の温度特性は、リング状焼結体に巻線を施し、周波数を1MHz、磁束密度を15mTとし、直流重畳磁場を印加しない状態でB−HアナライザSY−8232(岩通計測(株)製)を用いて、25℃と100℃で測定した振幅比透磁率の値から算出した。
【0078】
実施例1−1
<Ni−Zn−Cu系フェライト粉末の製造>
Ni−Zn−Cu系フェライトの組成が、所定の組成になるように各酸化物原料を秤量し、ボールミルを用いて20時間湿式混合を行った後、混合スラリーを濾別・乾燥して原料混合粉末を得た。該原料混合粉末を830℃で4時間焼成して得られた仮焼成物をボールミルで粉砕し、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末を得た。
【0079】
得られたNi−Zn−Cu系フェライト粉末中のNi−Zn−Cuフェライトの含有量は84.7wt%であり、その組成はFe
2O
3=40.9mol%、NiO=14.7mol%、ZnO=35.7mol%及びCuO=8.7mol%であった。酸化ニッケルの含有量は5.1wt%であり、酸化亜鉛の含有量は6.4wt%であり、酸化銅の含有量は3.8wt%であった。該Ni−Zn−Cu系フェライト粉末のBET比表面積は、4.9m
2/gであった。
【0080】
実施例2−1
<グリーンシートの製造>
実施例1−1で得られたNi−Zn−Cu系フェライト粉末100重量部に対して結合材料としてポリビニルブチラール8重量部、可塑剤としてフタル酸ベンジル−n−ブチル3重量部、溶剤として3メチル−3メトキシ−1ブタノール50重量部を加えた後、十分混合してスラリーを得た。このスラリーをドクターブレード式コーターによってPETフィルム上に塗布して塗膜を形成した後、乾燥することにより厚さ75μmのグリーンシートを得た。これを縦100mm×横100mmの大きさに切断して10枚を積層した後、0.35×10
4t/m
2の圧力で加圧して、厚さ0.74mmのグリーンシート積層体を得た。
【0081】
<Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の製造>
得られたグリーンシート積層体を900℃で2時間焼結し、厚さ0.62mmのNi−Zn−Cu系フェライト焼結体を得た。得られたNi−Zn−Cu系フェライト焼結体中のNi−Zn−Cuフェライトの含有量は84.1wt%であり、その組成はFe
2O
3=40.9mol%、NiO=15.0mol%、ZnO=35.4mol%及びCuO=8.7mol%であった。酸化ニッケルの含有量は3.7wt%であり、酸化亜鉛の含有量は8.7wt%であり、酸化銅の含有量は3.5wt%であった。該Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体の焼結密度は、5.1g/cm
3であった。更に、該Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体から超音波加工機により外径14mm、内径8mm、厚さ0.62mmのリング状焼結体を切り出し、磁気特性を評価した。この焼結体のμ
0は98、μ
1000/μ
0は0.70、コア損失P
0は140kW/m
3、P
1000/P
0は1.00であった。また透磁率の変化率は、2.1%であった。
【0082】
実施例1−2〜実施例1−6、比較例1−1〜1−5
組成比を種々変化させた以外は、実施例1−1と同様の方法で、Ni−Zn−Cu系フェライト粉末を得た。得られたNi−Zn−Cu系フェライト粉末の諸特性を表1に示す。
【0083】
実施例2−2〜実施例2−5
実施例2−1と同様の方法で、Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体を得た。このときの製造条件を表2に、得られたNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の諸特性を表3に示す。
【0084】
実施例2−6
実施例1−1と同様に製造したNi−Zn−Cu系フェライト粉末を用いて、該Ni−Zn−Cu系フェライト粉末100重量部に対してポリビニルアルコール6%水溶液10重量部を混合して得られた混合粉末7.0gを金型を用いて1.0×10
4t/m
2の成型圧力で外径30mm、厚さ2.9mmの円盤状に成型した。この成型体を焼結温度900℃、2時間で焼結し、Ni−Zn−Cu系フェライト焼結体を得た。
【0085】
得られたNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の組成、結晶相、焼結密度を測定した後、超音波加工機により外径14mm、内径8mm、厚さ2mmのリング状焼結体を切り出し、磁気特性を評価した。
このときの製造条件を表2に、得られたNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の諸特性を表3に示す。
【0086】
比較例2−1〜比較例2−5
実施例2−1又は実施例2−6と同様の方法で、Ni−Zn系−Cuフェライト焼結体を得た。このときの製造条件を表2に、得られたNi−Zn−Cu系フェライト焼結体の諸特性を表3に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
前記実施例から明らかなとおり、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト焼結体は、優れた温度特性と直流重畳特性を有することから、インダクタンス素子用の磁性材料として好適である。
【0091】
また、本発明に係るNi−Zn−Cu系フェライト粉末は、これを焼結して得られるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体が優れた温度特性と直流重畳特性を有することから、インダクタンス素子用の磁性材料として好適である。
【0092】
また、該Ni−Zn−Cu系フェライト粉末と結合材料とを用いてシート状に成膜してなるグリーンシートは、これを焼結して得られるNi−Zn−Cu系フェライト焼結体が優れた温度特性と直流重畳特性を有することから、インダクタンス素子用の磁性材料として好適である。